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「車輪の国、ゼロの少女-01」(2010/07/22 (木) 18:37:28) の最新版変更点
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#navi(車輪の国、ゼロの少女)
私は、いつ意識が無くなったのだろうか。
確か森田と応接間で話をしていたはずだ。
そして、そうだ。突然現れた謎の青白い扉へと手を伸ばしたのだ。
すると私は吸い込まれ……
意識を失った。
「あんた、誰?」
爆心地で横たわる法月を、ピンクの髪をたなびかせる、小柄な少女が見下していた。
法月はとっさに身を起こし、胸のポケットにある、拳銃と、予備の弾丸、軍用ナイフを確認し、辺りの状況を把握した。
どうやら、私に危害を加えるつもりはないらしい、そう法月は判断した。
ひとまず安心し、少女の質問に答える。
「私は法月将臣、特別高等人だ」
「特別高等人? 何それ」
特別高等人を知らない、だと? 法月は少女がつまらない冗談を言っているのかと思った。だが彼女の顔を見ると、冗談を言っているようには見えなかった。
特別高等人。それを聞くだけで多くの人は委縮し、いかに機嫌を損ねないかを考えて、発言するようになる。それがあたり前だと思っていた彼にとって、この少女と、少女と同じ反応をした周りのギャラリーは、普通では無かった。少なくとも彼の居た世界では。
「質問がある。まず第一にここはどこだ?」
法月が威圧感のある声で、少女に聞いた。
「ここはトリステイン王国よ」
「トリステイン王国?」
「トリステイン王国を知らないの? あんた相当の田舎者ね。じゃあ、ハルケギニア大陸位は知ってるでしょ?」
呆れたような口調で、少女は言った。
「Sharinという国は、知っているか? 私の居た国だ」
「あんた、本当に田舎者なのね。 聞いたことの無い国だわ」
これは、普通ではない。なんなのだこの状況は。落ち着いて考えると、何から何までおかしい。法月は、やっと自分の状況が異常である事に気付いた。
まず、時間。腕時計は午後5時20分を示しているが、太陽の位置を見ると、おおよそだが正午くらいだ。一日の間意識を失ったという可能性もあるが、それにしては体の変化が無さ過ぎる。
それに気候もおかしい、さっきまでは30度を超える猛暑の中に居たが、ここは20度位である。これらが意味すること、それは時空の超越。そう思う他無かった。
彼らは、共通した世界観を持つ精神病患者。
この惑星は私の居た惑星では無く、遠い他の惑星。
全く次元の違う、異世界。
考えうる、可能性を全て論理的に検証してみたが、一つも腑に落ちない。
唯一、最後の“この世界は次元の違う異世界である”という考えが、正しい気もしたが、最も現実的ではないため、信じたくなかった。
「ミス・ヴァリエール、早く儀式を済ませなさい」
声が聞こえたほうに振り向くとそこには髪の薄い、いや、ほぼ無いと言っていい位の、中年の男が立っていた。
「はぁ……、いい!? あんたみたいな平民が、こんなことされるなんて、ありえないんだから! 感謝しなさい」
「おいおい、初キスがおっさんで、しかも平民だなんて、ルイズはついてないなぁ!」
一人の少年がはやし立て、笑いが起きた。
「さぁさぁ、早く誓いのキスを済ませるんだルイズ!」
周りの事なぞ、気にも留めずに法月は男に質問する。
「そこのお前、儀式とはなんだ。私は何故ここに居る?」
「私は、この生徒たちを指導をしている、ジャン・コルベールです。あなたは使い魔として、サモン・サーヴァントで召喚されました。普通は、平民が召喚されるなんて事はあり得ないのですが……」
Servant、確か意味は召使いだったな。
そうか、私は拉致されたのか。恐らくだが、この先半永久的に奴隷のような扱いを受けるのだろう。
それは、まずい。私は一刻でも早く、元の世界へと戻らねばならん。
法月は、この不愉快極まりない状況から脱したかった。
「つまり拉致されたのだな、私は?」
「ら、拉致だなんて」
「拉致ではない、ならば元の世界へと戻してもらおう」
「それは出来ません」
「……そうか、それは残念だ」
その一言を言い終えると同時に、法月は胸ポケットから拳銃を引き抜き、コルベールが反応する前に額へと突き付けた。
「これでも出来ないと言うか? 出来ないならば、この拳銃が貴様の頭蓋骨を割って、脳組織を破壊し、貴様の思考を停止させてやろう」
嘲笑の声が失せ、空気が冷たいものへと変わっていく過程を、法月以外の者は感じ取り、杖を構えた。この法月を友好的だと判断する者は、誰ひとり居ない。
ルイズは自分の召喚した使い魔が、コルベールに危害を加えないことを祈り、心のなかで(拳銃ってなんなのよ!)と思った。もちろん声には出さない。
そして、額に何かを突き付けられているコルベールは、どうするべきかを、思案した。この法月とやらが持つ武器は、恐らく一瞬で私を死に至らせるだろう。とりあえずは、説得するしかないものか。
「出来ない、というのはあなたを元の場所へ戻す方法が無いという事です。
サモン・サーヴァントは一方通行の儀式であり、現時点であなたを元の場所へと返す手段はありません。
もし、あなたが私を殺したとしても、あなたは間もなく牢獄に入り、処刑されるだけです。今、私を殺しても一つも良い事が無い。ならば、私の話を最後まで聞いてはどうですか?」
コルベールは出来る限り、冷静に説得した。
「ほう、なかなか肝が据わっているではないか。良いだろう、聞こう」
そう言いつつも、法月は拳銃を構えたままだった。
「まずあなたはサモン・サーヴァントによって、あのヴァリエールという少女に、使い魔として召喚されました。もちろんあなたを故意に選らんだ訳で無く、全くの偶然かと思われます」
「一つ聞きたい、コルベールよ」
「なんでしょうか」
「私は恐らくだが、ここから遠く離れた地から、一瞬で召喚された訳だが、一体どのような技術を使い、召喚したのだ?」
法月は現実的な答えを待った。
「技術、と言いますと? ただの魔法ですが」
魔法、だと?
魔法。
もっとも恐れていた、非現実的な答えが、法月に返された。空想の世界でしかあり得ない事が、現実に起きている。その現実が法月の目の前に現れ、激しい眩暈に法月は襲われる。
そして、法月は気付いてしまう。さきほど思った、この世界は次元の違う異世界である。という考えが正しい事に。
「ミスタ・マサオミ? どうしたのです」
「いや……なんでもない。続けろ」
それから法月は使い魔についての説明を受け、受けている間に、なんとか冷静さを取り戻した。
「では、私には使い魔になるしかないというわけだな」
「えぇ、私たちはあなたの衣食住と、元に戻る方法を模索することを約束します。その代りにあなたはミス・ヴァリエールの使い魔になる。どうしょう、今のあなたには、一番良い選択かと思われますが」
仕方ない、今の私には何も出来ん。そう判断した法月は構えていた拳銃を下ろし、胸へとしまった。
コルベールは安堵のため息をつき、周りの者、特にルイズはそれに同調する。
「最後の質問だ。コルベール、この国の王がもし、遠い国のある者に無理やり拉致され、そこで雑用や、護衛などの、くだらないことをやらされていると知ったら、この国はどうするのだ?」
「どうするって、我が国の軍隊が総力をあげて、王女を取り戻すでしょ……」
コルベールは、法月が何を言わんとしているのか、気づいてしまった。法月はいやらしい笑みを受かべ、コルベールを見つめている。
「我が国の兵隊は、一人一人がこの武器を持っているぞ?」
コルベールの目は焦点を失い、顔はどんどんと青ざめていった。
もし、彼の国が、取り戻しにトリステインへとやってきたら……責任は私にあるのではないだろうか。
「ふ、ふはははははは! 冗談だ、ミスタ・コルベール。気にするんじゃない」
コルベールは、さっき以上の深いため息をついた。
「し、心臓が止まるかと思いましたよ。それでは条件をのみますか?」
コルベールのこの世の終わりのような顔を見た法月は、満足し、言った。
「いいだろう」
コンタクト・サーヴァントが成功する。本来は喜ぶべき所なのだが、ルイズは正直微妙な気持ちだった。そりゃ成功したのは嬉しい、だけど、平民だし、危険人物だし、この先のことを考えると不安で仕方がない。
「それでは、コンタクト・サーヴァントを」
「はい……」
今度は、はやし立てる者は誰ひとり居なかった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そう言い終えると、ルイズは顔を法月に近付け、唇を法月の唇に重ねた。法月は、表情を一切変えず、事務的にキスを受けた。
ちょっとは慌てたり、戸惑ったりしなさいよ! 法月の淡白な態度にルイズは少し腹を立てた。
「キスで契約か……やはりファンタジーの世界だな」
そう誰にも聞こえないほどの声で、つぶやくと法月は左手に、痛みともいえる、熱さを感じた。
だが、これほどの痛みは何度も感じたことがあり、法月にとっては声を出すほどでもない。
そして、痛みを感じる左手を見ると、法月の手の甲には、見たことの無い模様が浮かび上がっていた。
「珍しいルーンですね…… それでは皆さん、これにてサモン・サーヴァントの儀式を終了します」
そうコルベールが言うと、生徒たちは、法月に聞こえないよう細心の注意をはらって、法月を非難し、法月と絶対に目を合わせないようにして、寮へと戻っていった。
「ではヴァリエールよ、私を寝どこへ案内するんだ」
「様を付けなさい!」
ルイズは空を見上げ、嘆いた。
始祖ブリミルよ! この大きな試練を乗り越えるのに、お力をお貸しください。
ルイズは始祖ブリミルに、哀願した。
「神に祈ったって何も変わらんぞ、ヴァリエール」
……なんで人の心が読めるのよ。
こうして、法月将臣はルイズの使い魔として、過ごすことになったのだった。
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