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「ゼロニスター-06」(2010/07/17 (土) 10:56:03) の最新版変更点
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#navi(ゼロニスター)
――ドタドタドタ……
学校の廊下と思しき場所を数人の少年達が駆け抜けていく。
「『ポロチン』が逃げたぞーっ、捕まえろーっ!!」
「待てよ、ポロチンーっ」
「うわあああ!」
そのうち1人はズボンの腰の部分を抑えて必死で逃げ回り、残りの少年達は笑みを浮かべつつ彼を追いかけ回している。
「ズボン脱げー、ポロチンー」
「やめろーっ、下等なクズどもーっ!!」
「パンツも脱がせろーっ、靴下はそのままで!!」
逃げ回っていた少年を取り押さえた少年達は、寄ってたかって少年のズボンを下ろし始める。
「ぎゃはははは、見ろよ!! こいつちり紙が付いてるぜ!!」
「ポロチン、だせーっ!!」
(こ……、殺す!! こいつら全員ぶっ殺してやる!!)
……といった過去をサタニスターに語っているのは、2本の曲刀を持つ禿頭の男だった。
「ふふふ……、あれから10年が経った……。私は自分の体と技を磨きあげ、本当に連中をぶっ殺してやった。私の殺人鬼人生の始まりだ。私にとって封印したい記憶ではあるが、あえて話すのは正当な理由があっての事だ!! この話を聞いた奴を生かしておけば私の噂が広まってしまう。だから自分を追い込むために、これから殺す相手には必ずこの話を聞かせる事にしているのだ……!! 格闘家が試合前に大口を叩いてみせるだろう? あれもやはり自分を追い詰める作業の1つで……」
「ほわ~」
しかしサタニスターは禿頭の男の話などまるで聞いていない風で、大欠伸を1つしたのみだった。
「あくびすんじゃない~っ!!」
「!!」
「今……、シエスタの悲鳴が聞こえたような……」
苛立った男の声など最初から聞いていないという態度で、ルイズ・サタニスターは共に何かを感じ取って後方を振り返った。
「シエスタ!!」
叫びと共に2人はその方向に向かって全力疾走していく。
「!! ち……、ちょっと待てえ~っ!!」
(あたしがシエスタのために作った『ダブルヘッド・クロス』!! 殺人鬼の怨霊が宿ったあの十字架は、所持者を急速にパワーアップさせる。でも今確かにどこかからシエスタの叫び声が聞こえた!! 何かあったな!?)
(とにかく合流しないと!!)
「ま……、待て……。うう……」
去っていく2人の遥か後方では、木の根に躓いて転倒した禿頭の男が2人に向かって懸命に手を伸ばしていた。
さて、参加者達が予選のルール説明を受けた広場では、メダルに刻まれている物と同じ「虚無壺の会」の紋章が刻まれた金属製の大筒が設置されており、革製ホルダーを配布していた女性達にクロムウェルが指示を出していた。
「打ち上げ花火の用意を」
「了解です、ミスタ・クロムウェル」
花火玉を装填する女性に背を向け、クロムウェルはかすかに怒声や悲鳴が聞こえてくる森に視線を移す。
「『ハルケギニア最強殺人鬼決定戦』予選のタイムリミットまで1時間毎に上げる花火は……あと3発。つまりあと2時間……。そろそろメダルを集め終えた者が森から生還してもいい頃なのだが」
「!! 帰還者です、ミスタ・クロムウェル」
そこで1人の女性が森の中から歩み出てくる大柄な人影を発見、クロムウェルに報告した。
「ほう……、これはこれは……。サタニスターにボコられて出遅れた君が1番に帰ってくるとはねえ……。まさかリタイアしたいわけじゃあるまいね?」
「なめんじゃねえよ、この野郎……。メダルはちゃんと10枚揃えたぜ!!」
最初の帰還者・才人は、そう言ってクロムウェルにホルダーを手渡す。
「それよりも聞きたい事がある。1人だけ変なやつを見かけた……。そいつは吸血鬼みたいな格好の女と戦ってた。女が回し蹴りで体勢を崩した隙にそいつは……、驚異的な瞬発力で女の懐に飛び込み……」
――女の腕をつかんだっ!!
「うっ……」
何かが溶けているような音を立てて白煙を上げる自分の左手に、ブラッドロリータは呻き声を上げた。
左手の組織が崩壊し、彼女の指が数本まとめて落ちる。
「うわっ!? あ……あ……、か……、乾燥し……、あんたいったい……」
そう言っている間にも、ブラッドロリータの肉体はひび割れ砕けていく。
奇妙な女が放り出すように手を離すと、ブラッドロリータの衣服と塵は風に舞った。
(………!!)
――染みだらけの汚いぼろを身に纏った奴だった。女が「消滅」した後、そいつは女が持っていたメダルを拾って去っていった。
「お前なら知ってるんじゃないのか。奴は何者だ?」
才人の質問にクロムウェルは笑みを浮かべ、
「ふふふ……、答えるわけにはいかないな。主催者側がそれを教えてしまっては公平性を欠くのでね……と言いたいところだが、ある程度のわがままはメダル10枚をコンプリートした人間には許される取り決めだ。教えてやろう。君が会った女の名は『カトレア』。カトレアは病人だ……、全身をカビに似た菌類に侵されている。子供の頃からそうだったらしい。自分へのダメージは投薬で抑えているが、奴が触った人間は……肉も骨も瞬時に角質化し水虫の皮のようにぼろぼろになる。カトレアに触られた人間は死ぬのだ。恋人や友人もいないだろう。そして奴自身そう長くは生きられまい」
「……俺はそんな話聞いてもぞっとはしないぜ」
才人は腕を組みつつ、自分の金属製の体を見せつけるように指先で二の腕を叩く。
「ここに集まっている連中は全員が殺人鬼だ。それぞれが心に闇を抱えている。だがカトレアの闇は他の奴とは別格だ。奴はこの世の全ての生きとし生ける者に嫉妬しているし、恨んでいる……。強敵だぞ」
丁度その時、女性の1人がまたしてもこちらに向かってくる人物の姿を発見した。
「もう1名帰還者です!」
2人目の帰還者……ビダーシャルは、悠々と女性に接近していき声をかける。
「メダルは誰に渡せばいいのかしら?」
「お預かりいたしま……!!」
ビダーシャルに渡されたホルダーの数に、思わず女性は絶句した。
「何枚だね?」
「あ……、えっと……、68枚……です。はは……」
「何だと……!!」
「………!!」
才人は思わず驚愕の声を上げ、クロムウェルもメダルの枚数に硬直した。
驚愕する2人をよそにビダーシャルは地面に座り込み、
「タイムリミットぎりぎりまでメダルを集めてやるつもりだったけど、やめたわ。少しはメダルを残しておかないと、本選に出られないやつが続出するのに気がついた。それじゃあ後々の楽しみが減る……。私はクッキーの缶を1度で食い尽くすタイプではないわ」
「はあっ、はあっ……」
息を切らしているシエスタにメンヌヴィルの鉤爪が襲いかかる。
「くっ!!」
とっさに飛び退いたものの、その鉤爪はかすめただけで腕から出血させるのに十分な威力を持っていた。
「はあっ、はあっ……」
「グルルルル……」
唸り声を上げるメンヌヴィルを前に、シエスタは必死で対抗策を検討していた。
(子供の頃、『怖い本』を読んだ事があります。『エルフ』、『吸血鬼』、……『人狼』。倒すには銀の武器が有効なんでしたっけ!? でも今の私に使えるのは、ミス・ナックルスター仕込みの格闘術だけです……!! そしてその攻撃が当たりません!! 奴が素早すぎて……、一瞬でも隙を見せてくれれば……!!)
「諦めるんだね、小娘……。メンヌヴィルの野獣化は『怒り』によって発動する!! 私らの仲間を殺(や)ってくれたお前が招いた最悪の事態さ」
その時、シエスタは飴姫の背後に光の筋が空に向かって走るのを見逃さなかった。
そして次の瞬間、
――ドオオン!
突然背後から聞こえた花火の音に、一瞬飴姫・メンヌヴィルの注意がシエスタから外れた。
その一瞬の隙を見逃さず、シエスタはメンヌヴィルに駆け寄る。
「メンヌヴィル!!」
「!!」
――ズガスッ!!
飴姫の警告も間に合わず、メンヌヴィルは棒立ちのままシエスタのハイキックを側頭部に受けた。
「こっ、小娘がっ……!!」
盛大に転がっていくメンヌヴィルを見つつ液状の刃をシエスタめがけて放とうとした飴姫だったが、シエスタは即座に液体にまみれた左手をつかみ動作を封じる。
「あなたの負けです。あなたの手から放たれる液状の刃は、手を大きく振りかぶらないと飛ばせないのはわかっていました。どうして液体が刃に変化するのかはわかりませんけれど」
「教えてほしいかい? 液体はあたしが調合した『特殊な水飴』さ。体温よりも冷えると一瞬で鉄のように硬くなる」
そう言いながら飴姫は服に仕込まれた水飴をそっと自由な右手に纏わせる。
「手の動きひとつで様々な形状の武器を瞬間的に作り出せるのさ……」
「!!」
シエスタは目を大きく見開いた。
(一瞬私の頭は混乱しました。飴姫が自由になっている右手でトロール鬼みたいな鉤爪を作った事じゃありません。飴姫なんてどうでもいいです。私が驚いたのは向こうにある光景です。順序立てて状況を把握しましょう。まずメンヌヴィルが立ち上がろうとしていました。蹴りの1発で倒せるとは思ってませんでしたから、それは別にいいんです。でも……、もう1人いました)
シエスタがメンヌヴィルの向こうにぼんやりした人影を発見した時、飴姫が鉤爪で切りかかってきた。
「死ねえ小むす……」
(邪魔です!!)
鉤爪を受け止めたシエスタがもう1度視線を向けた時、メンヌヴィルは消えていた。いなくなっていた。……服だけを残して。
「!?」
飴姫が振り向いた時には、人影……全身に包帯を巻いた女性……はメンヌヴィルの衣服を投げ捨てて2人に接近しつつあった。
「メンヌヴィル……?」
「……あの人は危険です。逃げましょう……!!」
「何だって!?」
「争ってる場合じゃありません。『生存』する事を第一に考えるべきです。あの女性……、何かに『感染』していますよ。戦ってはいけない相手だっていると思います。逃げましょう……!!」
駆け寄ってくる包帯女の姿に、すかさず逃走の態勢に入る2人。
「来ましたっ!!」
――ドンッ!
シエスタの脚部めがけて放たれた液状の刃は、跳躍したシエスタの下で虚しく地面をえぐった。
「………!!」
「私の脚に怪我をさせて足止めして、自分だけ逃げ延びようって考えたわけですね!! ミス・ナックルスター達があなた達殺人鬼をボコボコにする気持ちがわかります……!!」
お返しとばかりシエスタは着地点を飴姫の足の甲に定めて、見事に踏みつけた。
「あいい~っ!! くそっ、小娘……」
包帯女が両手を広げて飴姫に襲いかかろうとした時、
「う……、うおおおおお!!」
――ドゴッ!
「!!」
包帯女の頭部を拳よりも大きな石が直撃、その動きを止めさせた。
そしてその石を投げつけた者と合わせて2つの人影が、そっと3人に歩み寄る。
「あっ!」
「!!」
「シエスタ……、あなたは見てなさい」
「その女はあたし達がやるわ」
石を投げつけた者……ルイズが、ナックルスターと共に現れたのだった。
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