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#navi(使い魔はじめました)
使い魔はじめました──第20話──
仮面の男以外の追っ手が来ることもなく、サララ達はフネに乗り込んでいた。
フネを動かす風石が足りない分は、ワルドが魔法で助力することで、
どうにか貨物船を一隻、出航させることが出来た。
「サララ、えっと、怪我とかない?」
心配そうに問いかけるルイズに、大丈夫です、と笑みを返す。
「……サララは強いわね。私、人質にとられても、何も出来なかった」
しょんぼりとした顔を見せるルイズ。
自分は何も出来ない、サララの邪魔かもしれない、その事実が辛かった。
サララは、そんな彼女の表情に見覚えがあった。
時々、本当に極稀にだが、彼女だってまともに魔法が使いたかった。
箒にまたがって空を飛ぶ友人達を見ては、羨ましいと思っていたことがあって、
そんな時、自分はきっとこんな顔をしていたのだろう、と。
だから、彼女は笑って見せることにした。
大丈夫です、いつかきっと、ルイズさんも魔法が使えるようになりますよ、と。
「……ありがとう、サララ」
いつも、この笑みに救われているわね、とルイズは思う。
サララの笑顔は何だか彼女をホッとさせるのだ。
自分より背も低いし、同じように魔法が使えないのに、
大体いつも笑っていて、オマケに下手な相手じゃ到底太刀打ち出来ない。
そんな彼女を召喚したのだから、もう少し自信を持ってもいいのかな、と。
「ねー、そういえば、ルイズって、魔力がないわけじゃないよね」
ひょいと、チョコがそんなことを言い出した。
「魔力?」
「あ、えーっと、魔法を使うための力。こっちでいうと、
精神力、ってのに近い、のかな?」
ふむふむと主従二人は首を縦に振った。
「んーと、ルイズには魔力はあるんだけど、使う魔法が、
どれもこれも全部、ルイズには合ってない気がするんだよね」
「何よそれ。結局ダメってことじゃない。あんたそんなことが言いたいわけ?」
口を尖らせたルイズを、まあまあ、とサララは宥める。
それから、あ、と小さく呟いて彼女は袋をがさごそと漁る。
一本の杖を取り出して、それをルイズに手渡す。
「杖? これが何だっていうのよ」
それを受け取って、ルイズはくるくると手の中で回してみる。
何処にでもありそうな、普通の杖だ。
それに、魔法の力を通すようなイメージをしてみてください、と
サララにそう言われても、首を傾げるばかりだ。
「そんなこと言われたって、イメージなんか出来やしないわよ。
大体、こんな杖一本でどうなるものでもないでしょうに」
そう告げるルイズに、サララは説明する。
その杖は、杖自体が魔法の道具、こちらでいうマジックアイテムなのだ、と。
故に、上手く魔力を通せればその先から雷が出せると。
ほら、こんな風に、とサララがひょいと杖を取ると、
部屋の片隅あった空樽へ向ける。
バチリ、と音を立てて、杖の先端から雷が飛んだ。
「嘘……」
ルイズは目を瞬かせて、焦げた樽と杖とサララの顔を交互に見やる。
はい、と手渡された杖。ルイズはそれをしっかと握る。
「魔法を込めるイメージ、魔法を込めるイメージ……」
目を閉じ、ぶつぶつと呟きながら、自分の中にある魔法の力を、
杖へと移動させるよう意識してみる。
意識してみると、確かに杖に魔力が溜まっていくような感覚があった。
「……えい!」
「二人とも、そろそろアルビオンが見えて」
ルイズが、勢いよく杖を振り下ろすのと、ワルド子爵が
部屋に入ってくるのは、ほぼ同時だった。
杖の先端は、サララが振った時よりも激しく火花を発しており、
マズい、と思った彼女が止めるより早く爆発した。
暴れるエネルギーの奔流は空樽を破壊し、その破片をワルドの顔にぶち当てる。
「おごふ」
「きゃああああ! し、子爵様、ごめんなさあああいい!!」
杖を放り投げて、ルイズは慌ててワルドに駆け寄り、
赤く腫れ上がった頬を必死でさすった。
「……今の、魔力量……」
チョコはサララを見上げる。サララも、今のはおかしい、と思った。
上手くイメージできなかったからと言って、
あんな量の魔力は、おいそれと出せるものではない。
ましてや、あれだけ出してピンピンしているというのも、
常人程の魔力量では考えられないことである。
「……ルイズって、ひょっとしたら物凄い、のかも」
チョコの言葉に、サララはじっとルイズを見つめた。
彼女は、目に涙を浮かべながら謝っている。
その背中に、何かとてつもないものを背負っているような予感がした。
もうすぐアルビオンが見える、というワルドの言葉を聞いて、甲板に出た。
「うわあああああ! すっごい、何あれ、何あれ!」
見上げたチョコが、歓声を上げる。
雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか視界の続く限り伸びている。
地表には山がそびえ、川が流れていた。
大河から溢れた水は空へ落ち込み、白い霧となって大陸の下半分を包んでいた。
これが、『白の国』と呼ばれる由来か、と思いながら、
余りの美しさにサララはほぉ、と息を吐いた。
やはり、冒険はいい。通い慣れたダンジョンも悪くないが、
こうやって見たこともないものに触れるのもまた格別だ。
……竜使いの一族と共に空を翔けたという遠い先祖でも、
こんな光景を見たことはなかったに違いない。
「ねえねえ、あれ、どうやって飛んでるの?!」
「ええっと、確か地下に大量の風石……、フネを飛ばすのと同じ、
風の力がこもった石が埋まってるとかなんとか。
うっかり掘り返して落ちたら大変だから、詳しくは分かってないけど」
チョコの質問に、ルイズはそう答えた。
その答えにサララはふと、じゃあ地上の何処かに風石がたくさん埋まってたら、
そこもあんな風に浮かびあがるのかな? と想像してみた。
空に浮かぶたくさんの島々。楽しそうだな、と笑った。
突然背中に悪寒が走る。ぶるりと身震いすれば、ワルドがそれに気づいた。
「おや、空の上は寒かったかな?」
そうじゃないです、とだけ答えて、サララは空を見上げた。
白い雲の中に一点、他とは全く違う色がある。
「船長! あのフネ、旗を揚げてません! 空賊だぁ!!」
見張りの男が叫んで、たちまちフネは慌しくなった。
さて、どうやら冒険というのは何かしら邪魔が入るものだ。
ため息を吐きながらも、ワクワクしている自分をサララは認めざるを得ない。
フネに乗り込んできたのは、いかにも『賊ですよ』という格好の男達だった。
下卑たニヤニヤ笑いを貼り付けて、派手な服をまとって、船長を何やらおどしている。
ワルドのグリフォンが眠らされたことから、メイジも居るに違いなく、
迂闊に手を出すことも出来ずにじっと様子を見守っていた。
「よし! 今からこのフネは積荷ごと俺らのもんだ!
そちらの貴族のお客さんも、丁寧に運んで差し上げろ!」
頭らしい男が叫ぶ。その声にしたがって、空賊はサララ達に近寄ってきた。
「戦うにも、彼らが人質にとられているのではな……」
ワルドが苦い声を出したので、ルイズは構えていた杖を下ろした。
少なくとも、今すぐ殺されることはあるまい、と。
「うーん、確かにちょっと厳しいかな。ね、どうする、サララ?」
チョコがサララを見上げる。サララは、笑っていた。
あ、またなんかアレなこと考えてるな、と長い付き合いのパートナーは理解した。
「お嬢ちゃん、何をニヤニヤ笑ってるんだ?」
いひひ、と笑いながら近寄ってきた賊の手を、サララはがっしりと掴む。
「お……?」
そのまま、勢いをつけて、ぶん投げた。
投げられた賊に、他の男達が慌てて治癒魔法をかける。
「さ、サララ?! 何やってるの、子爵様の話、聞いてなかったの?!」
うろたえたルイズが、がくんがくんと揺さぶるが、彼女は笑ったままだ。
素敵なお芝居ですね、とその笑顔のままに告げる。
「芝居、だぁ? ははは、嬢ちゃん、あんた冗談が上手いな」
頭の言葉は笑っていたが、顔は笑っていない。
賊達が何名か杖を構えてこちらを睨みつける。
それでも、サララは動じない。賊に動じるようでは、あの町一番の商人などやれないのだ。
大丈夫ですよ、とルイズに笑いかけてから、頭に向き直る。
私の知ってる悪い賊は、とサララは臆することなく語りだす。
もし、仲間がやられたら、頭に血が上って突っ込んでくるような人ばっかりです。
それなのに、あなた達はまず仲間の怪我を治しました。
それに、投げた時、咄嗟に魔法を使って、ダメージを軽減しようとしましたよね?
こういうのって、訓練された兵士じゃなきゃ出来ないんじゃないですか?
スラスラと語るサララの姿に、一同はしん、と黙り込む。
なおかつ、貴族派に荷物を運ぶフネを襲ったんですから、
王党派の兵士なんじゃないですか?
サララがそう言葉をしめて、頭を見据える。
「はは……いやはや、否定しようと思ったのだが、何故だろうね。
君が相手では、どんなことを言っても看破されそうな気がするよ」
頭は、今度こそ本当に笑い出した。周りの賊、否、兵士達も釣られて笑う。
どうやら、サララの読みは当たっていたようだった。
「さ、サララ、あんたいつの間にそんなことに気づいたのよ」
成り行きを見守りながら、震えていたルイズは、
とりあえず軽くサララの頭を叩いた。
「サララ、盗賊とやり合ったこともあるからねー、
何となく気づいて、はったりかましたんじゃないのー?」
チョコに言われて、ぺろり、とサララは舌を出す。
確証など無くても、分かったような顔をしていると、
相手が勝手に勘違いしてくれる、という現象が彼女にはよく起こる。
それに加えて適当な言葉を紡いでみたら、見事に向こうがバラしてくれたわけだ。
「……まあいいわ」
突っ込む気力もなく、ルイズは肩をすくめた。
それから、サララの後ろから歩み出て、頭と向かい合う。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
王党派の、ウェールズ皇太子への大使として、アンリエッタ王女から任ぜられました。
皇太子陛下への、お目通りを望みます」
スカートの裾を持ち、恭しく一礼をする。
頭は、目を丸くしていた。
「アンリエッタから……それに、ヴァリエールといえば、公爵家だね。
ふむ、分かった。城で詳しく話を聞かせてもらおう」
「え?」
べりり、と付け髭と鬘をはいでいく。
そこに現れたのは、黄金色の髪をした凛々しい若者だった。
「私が、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
おや、予想以上の結果になった、とサララは目を丸くした。
その隣で、ワルドがニヤリと笑みを浮かべたことに気づいたものは、誰も居なかった。
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