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「ゼロのロリカード-59」(2010/04/27 (火) 00:30:17) の最新版変更点
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#navi(ゼロのロリカード)
――――――ルイズ達の眼前を包み込んだ炎熱が掻き消える。
否、より強い何かに吹き飛ばされた。
それは火のブレスのみならず、火竜騎兵もろともであった。
熱気の残滓だけが・・・・・・ついさっきまで、確かに迫っていた死の匂いを感じさせた。
ルイズは目をぱちくりさせる。
タバサは中途半端に唱えたジャベリンの詠唱を霧散させる。
「まだまだですね、ルイズ」
自分の名を呼ぶその人は誰だろう・・・・・・?
頭ではすぐにわかったが、「こんなところにいる筈がない」と思考がおっつかない。
魔法衛士隊の服に、隊長職を示す羽飾りのついた帽子。
マンティコアが刺繍された黒いマントに、本物の幻獣マンティコアに乗り立つその人物。
顔下半分を鉄のマスクで覆い、左手に杖を持ち、風をその身に纏うメイジ。
現存するメイジの中でも、間違いなく最強の一人に数えられる退役騎士。
トリステイン史上指折りの英雄。トリステインの生ける伝説。
鋼鉄の規律を今もその心根に置き続ける、先代マンティコア隊隊長。
その風魔法は荒れ狂う暴嵐の如く。その速度は疾風の如く。
さらにはあの吸血鬼アーカードと闘い、引き分けた『烈風』。
「か・・・母さま・・・・・・?どうして・・・・・・?」
ルイズの呟くように問い掛けた言葉にタバサは驚く。目の前の男装の麗人がルイズの母親なのかと。
タバサもなりたてとはいえ、一応は風のスクウェアである。だがその実力差は分析するのも馬鹿らしかった。
同じ風のスクウェアであろうルイズの母は、自分なんかとは比べ物にならないほど。
たった一人で戦局を引っくり返し、小手先の戦術など無駄だと思い知らせる圧倒的な強さを肌で感じる。
「それはですねルイズ、あなたの成長ぶりを見に来たのですよ」
『烈風』カリンことカリーヌ・デジレ。
ルイズと同じ桃色の髪に鋭い瞳。老いて尚、美しさと強さを保つその姿。
カリンの纏うオーラはそのまま渦巻く風になる。
カリンが使ったであろう魔法は、風の結界と化してガリア竜騎兵を近付けさせない。
そのおかげで、今も悠長に話すだけの時間が作られていた。
「もう二つほど言うなら、我が娘が心配なのと・・・・・・」
カリンは鉄のマスクをはずして微笑む。
「少し昔の血が騒いだといったところですね」
それは娘を慈しむような笑みと、これから暴れられるという歓喜の笑み。
それら二つが絶妙に絡み合った不思議な表情。
アーカードと戦ってから、心に僅かにともった火種。
それが日々を重ねるごとに大きく燃え上がり、これ幸いと戦場へと赴いた。
風を一身に味方につけたカリンと、カリンの駆るマンティコアは竜騎兵の速度すら歯牙にかけない。
「でも・・・・・・どうやってここを?」
「一度王宮へ寄ったのですよ」
そう言うと、カリンは回想を始めた。
◆
王宮中庭の直上。マンティコアの背からカリンは見下ろす。
気付けばなにやら戦闘が行われており、女王と騎士、そしてそれに相対する者が見えた。
王宮周辺の不自然なほどの無警戒さ、相当の負傷をした様子である女騎士と満ちる殺気。
長年の経験が・・・・・・第六感のようなものが告げている。
否、そうでなくとも自明の理だった。
ここまでやって来たのも、王宮勤めの兵が一人もいなかったからに他ならない。
明らかな異常事態、恐らくは敵の襲撃。それもかなり強力な術者。
目を鋭くし、カリンは詠唱する。
極々単純。風を吹かせて思い切り叩き付ける。ただそれだけの魔法。
しかして烈風を体現したその一撃。敵と見られる二人の男女を、その不意を打った一発のみで完全沈黙に追い込んだ。
そしてマンティコアを中庭に降下させ、地へと飛び降りると、すぐに恭しく片膝をつく。
「何者だ」
満身創痍に見えるが、それでも目の光を失っていない女騎士アニエスが恫喝するように言う。
「お久し振りでございます、陛下」
そんな騎士の問いも、カリンはどこ吹く風と跪いて礼をする。
「えっ・・・・・・と・・・・・・」
逡巡する女王アンリエッタの声音から感じる迷いに、カリンは顔をあげずにそのまま言葉を続けた。
「覚えておられないのも仕方ありません。私は先代マンティコア隊隊長カリーヌ・デジレでございます」
「カリーヌ?まさか・・・・・・あの『烈風』カリン殿!?」
「・・・・・・それで、魔法衛士隊の服を・・・・・・」
アンリエッタは驚愕の叫びをあげ、アニエスは警戒を解かぬまま納得する。
「はい、その通りです陛下。王家に変わらぬ忠誠を。本日こうして馳せ参じたのは理由がありますが――――――」
カリンは己が打ちのめし、失神する二人へと向ける。
「――――――その前に、この者達は"敵"でよろしかったのでしょうか?」
万が一違っていたら申し訳ないと、一応確認をする。
「えっ・・・・・・?あっ、はいその通り"敵"です。ありがとうございます、助かりました」
「いえ、それは何より。もし味方であったなら、面目がありませんでした」
「・・・・・・ご助力、感謝します」
アニエスが素直に感謝の意を述べる。
実際窮地に立たされていたと言っても過言ではなかった。
もしも助けがなければ、陛下の御身が危なかったのは間違いない。
「では、改めまして。私がここに来た理由は戦争への参加の許可と、娘の居場所をお教え頂きたく・・・・・・」
「・・・・・・娘・・ですか・・・?」
アンリエッタは首を傾げる。
その疑問に答えるように、カリンは鉄仮面をはずして地面に置き、顔をあげた。
「公爵夫人?ラ・ヴァリエール公爵夫人ではありませんか!!ということは娘と言うのは・・・・・・」
「はい、我が不肖の娘ルイズでございます」
「公爵夫人があの『烈風』カリンその人でしたなんて・・・・・・」
アンリエッタは驚きを隠し切れなかった。
幼き頃から聞かされてきた、武勇伝を作ってきた人物が、まさか己の見知った者だったとは。
「現役を退いて長い私ですが、娘の成長を確認すると同時に出撃しようと思った次第です」
「なるほど、そうですか・・・・・・その・・・・・・わたくしは、謝らねばなりません。
わたくしはルイズを・・・・・・戦に参加するよう、前線へ赴くよう命令しました。
無二の親友を・・・・・・戦場へと誘ったのです。謝って済む問題でないことはわかっています。
が、わたくしにはこうすることしか・・・・・・本当に、申し訳ありません」
アンリエッタはカリンに対して深々と頭を下げる。
「陛下!!おやめください!!」
仮にも一国の女王が頭を下げるということが、どれほどの意味を持つのか。
アニエスはアンリエッタを制止する。だがそれでもアンリエッタは頭を上げない。
正直に話して謝罪する、それがせめてもの誠意。
「そうですね、確かに可愛い我が娘です。母の感情としても、謝られても済む話ではありません」
「カリン殿ッ!!」
アニエスはカリンを睨む。不敬な振る舞いに激昂する。
アンリエッタは頭を下げたまま、アニエスを無言で宥めた。
「・・・・・・しかし、かつて王家に仕えた一人の騎士として、その心情と覚悟はしかと承りました。
理由なくそのような命令を下す筈もありますまい。国を守る為に取った選択なのでしょう・・・・・・。
ルイズの使い魔である彼女の力が必要であろうことは、私も戦った手前よく存じ上げております」
(マスターと戦った・・・・・・!?)
その上で五体満足で生きていることにアニエスは心中で声をあげた。
只者でないことは感じ取れていたが、まさかそこまでとは。
アンリエッタは目を静かに瞑る。女王として強く生きる。
それがウェールズとの誓いであり、アーカードにも諭されたこと。
国の・・・・・・人々の上に立つ者の責務。その重さを認識し、その道を進む。
そしてアンリエッタはカリンに説明する。
ルイズの虚無のこと。吸血鬼アーカードのこと。
現在の戦局。政治事情。この戦争の意味。己の覚悟。
「――――――・・・・・・以上と、なります」
「なるほど、了解しました」
カリンは自嘲気味に笑う。まだまだ自分は娘のことをわかっていなかったと。
虚無の担い手ルイズ。
目覚めたのは火の系統?とんでもない。始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統。
通常の魔法とは比べるべくもなく、多大な戦果をもたらした強力さにも驚く。
何よりも、娘ルイズの立派過ぎる成長に胸が熱くなる思いであった。
さらにその使い魔である吸血鬼アーカード。
魔法も使えないのに生粋の風メイジである自分と対等以上に渡り合った、あの者の強さに納得する。
ただの人間にしては不自然だと思っていたが、まさかそんな裏の面があったとは。
事実上トリステインが、今もこうして国として在るのは二人のおかげ。
これまで自分が積み上げた武功に、勝るとも劣らない英雄ではないか。
しかもそれを公にすることもなく、人知れず王家の為に今も粉骨砕身働き続けている。
使い魔を信頼し、女王を信頼し、そしてなにより自分自身をも信頼しているのだろう。
「では陛下。時間も惜しいので、私は出撃いたします」
引退したとはいえ、自分も負けてはいられないではないか。
カリンの心が躍動する。ルイズの成長をこの目で見て確認し、国の為に娘と肩を並べて戦う。
これ以上ないほど素晴らしいこと。
「はい、ルイズを・・・・・・よろしくお願いします」
アンリエッタの心配する表情に、カリンは「お任せ下さい」と頼もしく頷き、鉄マスクを装着する。
若かりしかつての『烈風』カリンの風格をそのままに、フワリと浮き上がってマンティコアに乗った。
カリンと共に風の恩恵を受けたマンティコアは、目覚ましい速度で空へと飛び去った。
「母親譲り・・・・・・なのですな」
アニエスがしみじみと呟く。アンリエッタも首を縦に振って同意した。
美しさも、血統も、芯の強さも。あの母にしてあの子ありと言った感じであった。
◆
かいつまんで話し終えたカリンは、噛みしめるように目を閉じ、一拍置いてから微笑む。
「本当に立派に成長したようですねルイズ、まだまだ荒削りのようですが」
「母さま・・・・・・、ありがとうございます」
ルイズも笑みで返す。自信と尊厳を秘め、確固たる意志を込めた鳶色の瞳。
それ以上、母と娘の間に言葉は不要であった。
「征きなさいルイズ、周辺の掃除は私がしましょう」
「はいっ!!母さま!!」
シルフィードが飛ぶと同時に、カリンは鉄マスクを着け直し、眼光を鋭く飛んでいる敵騎兵を睥睨する。
ルイズ達が飛ぶ道を、風の呪文で切り拓く。未だ衰えぬ『烈風』。風の加護を受ける風の申し子。
「さぁ・・・・・・始めましょうか・・・・・・」
誰にともなく呟く。
それを契機にカリンの纏うオーラが一層強くなり、風がすぐに開放しろと言わんばかりに暴れ始めた。
悪魔と死神が踊る戦場に、舞い降りた一陣の烈風。
その参戦は、既に敗色濃厚であったガリア軍へと駄目押しする、
そしてその敗北を、より確定的なものへと変えた。
◇
降下、加速、上昇。
ジョゼフらの乗るフリゲート艦を目指し、シルフィードはもう一度飛ぶ。
母と会ったことで、ルイズのモチベーションは最高潮に達した。
感情が昂ぶり、魔力が律動し、心は無想へと相成る。
ルイズは始祖の祈祷書を開く。指輪がキーとなり、新たなページと文字の光が目に入る。
「・・・・・・新しい呪文?」
ルイズの嵌めた風のルビーの発光に気付いたタバサが言った。
「えぇ、これなら・・・・・・」
ルイズは作戦の説明をする。
虚無と先住。エクスプロージョンとカウンターの二段構えを突破する方法。
シルフィードはフリゲート艦の上空で旋回を繰り返す。
留まって飛行していても、烈風カリンが根こそぎぶっ飛ばしてくれたおかげで、竜騎兵の追撃は無い。
「大丈夫、信じて」
説明を終えたルイズの一言。タバサは力強く頷いた。
ルイズは機を見て飛び降りた。重力に逆らわずに落下する。
新たに覚えた呪文のルーンを唱え、準備は完了した。
落ちる時間は短い。
ルイズはサーベルを見えない反射の壁へと突き立てるように、ルイズは体勢を整える。
悠々と笑うジョゼフが放つエクスプロージョン。それがルイズを包み込む瞬間――――――。
――――――ルイズは虚無を開放した。
初めて使う魔法であったが、憂いはなかった。
思惑通りにルイズは、フリゲート艦の甲板に到達していた。
そして放つ――――エクスプロージョン。
フリゲート艦の上方に膨れ上がった光の球は、反射を消し飛ばす。
同時にルイズから少し遅れて飛び降りたタバサが、フライで機動制御しながら光球へと突っ込んだ。
先住の反射のみを吹き飛ばすよう標的指定をされたエクスプロージョンは、タバサをフリゲート艦へと無事着地させた。
『雪風』を周囲に纏い、タバサはルイズと背中合わせに立って、それぞれ宿敵の姿を改めた。
タバサは口をつぐみ、ただ怜悧な眼光でジョゼフを見据える。
ルイズは不敵な笑みを浮かべた表情で、ビダーシャルを見据える。
ジョゼフとビダーシャルには、一体何が起こったのかすら、未だ認識出来ていない。
ジョゼフが上空にエクスプロージョンを放ち、ルイズを仕留めたかと思えば・・・・・・。
すぐ近くでいきなり光球が膨れ上がり、消える頃には見知った少女二人が何事も無く立っていたのだった。
ルイズの新たに覚えた虚無魔法『テレポート』。
術者を『瞬間移動』させるその魔法は、ジョゼフの『爆発』より一瞬早く発動。
ルイズは『解除』を掛けたサーベルを『反射』へと向け、艦の上に転移。
仮に『テレポート』が完全な転移ではなく、『加速』のような超高速の移動術であっても『反射』を切り裂くという算段。
音もなく甲板へと降り立ったルイズは、タバサから教わった静音詠唱で、二人に悟られぬよう『爆発』を唱える。
そして『飛行』で軌道修正し、次いで『氷嵐』を唱えたタバサは、『反射』を無効化したルイズの『爆発』を活路に艦へ乗り込む。
結果、ジョゼフのエクスプロージョンを空転させ、尚且つビダーシャルのカウンターを破ることに成功した。
美事なまでにジョゼフとビダーシャルの意識の間隙を突き、二人がフリゲート艦に立つことを許した。
二人を守るように展開された『氷嵐』の雪風は、ジョゼフの加速による奇襲を許さず。
今ここにようやく、タバサとルイズはそれぞれジョゼフとビダーシャルへと相対した。
「クッ・・・・・・フフッ・・・ふはッ・・フハッハッハハハハハハッハ!!」
ジョゼフは狂喜に打ち震えて笑った。ただただ笑いたくなった。
この感情を与えてくれた・・・・・・目の前の二人の少女に感謝したいと思うほどに。
戦争を起こした甲斐があった。悉く己が予想を裏切ってくれる。
この戦場という舞台で、踊り楽しませてくれる粒揃いの役者達。
なるほど、これはただの観客ではつまらないではないか。自分も是非、共に踊りたい。
まずは瀕死の重傷から立ち直ったシャルロットを殺し、次に同じ虚無の担い手であるルイズを殺す。
「・・・・・・」
ビダーシャルはただ目を見開き、そしてルイズと視線を交わす。
先住と虚無を破った少女を。宿敵たる虚無の担い手の姿を。
戦うつもりは無い・・・・・・が、虚無の少女の瞳はそうは言っていなかった。
(闘いもやむなしか・・・・・・)
虚無の力は侮り難し。
ジョゼフの力を近くで見てきて素直にそう思う。
反射を掛けたヨルムンガントも、魔法学院襲撃時に虚無を基点に敗れ去ったと言う。
そして今、実際に精霊の力たる反射を越えてここに立っているという事実。
もとより己は油断や慢心をする性格ではないし、加減をする余裕もないだろう。
フリゲート艦の上という制限下でもあるし、闘うのであれば全力で掛からねばならぬ。
(場合によっては・・・・・・殺してしまうやも知れぬな・・・・・・)
殺すことそのものの忌避。そして新たな虚無の担い手の目覚めへの危惧。
主人を殺された場合に於ける、その使い魔アーカードの行動。憂慮すべき点は多い。
(逃げるのも・・・・・・手か)
むしろそれが利口な選択というものだろう。
ジョゼフとの約束があるし、見届けようとも思った。
だがしかし、個人のことだけではなくエルフ種族全体にも関わることである。
もしもルイズを殺し、あの真正の化物であるアーカードに敵意を向けられれば重大な問題に発展する。
ビダーシャルは退くことを心に決めた。
右手で左手を握りしめると、指輪に込めた風石の力を作動させる。
そして闘争の火蓋は切られ、最後の演目がいよいよ幕をあける――――――。
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