「ソーサリー・ゼロ第四部-05」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ソーサリー・ゼロ第四部-05」(2012/06/19 (火) 19:49:42) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#center{&color(green){[[前ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-04]] / [[表紙へ戻る>ソーサリー・ゼロ]] / [[次ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-06]]}}
----
二四四
ホーキンスは眉根を寄せる。
怪訝そうな目つきで君を見るが、やがて
「奇妙なことに、クロムウェルも、カルトゥームらカーカバードから来た指揮官たちも、その者の名を口にはしなかった。
もちろん姿を見た事もない。もっとも、カーカバードの王がアルビオンに来ているという話は聞いていないのだが」と言う。
君はがっくりと肩を落とす。
敵の首領の名を聞けば、カーカバードから来たと自称する、謎めいた連中の正体を推察する助けになるのではと考えたが、
そううまくはいかぬようだ。
「そういえば、クロムウェルは同盟者のことを単にカーカバードの王と呼んでいたが、あの蛮族どもは別の呼び方をしていた。
一度だけ聞いた事がある」
ホーキンスは言う。
「『大魔王様』。奴らは自分たちの主君の事を、そう呼んでいた」と。
「ふざけた称号だと思うかもしれないが、当を得た呼び名だとわたしは考える。カーカバードの奴らの所業を見れば、
その頂点に立つのは人ならざる存在――地獄の悪魔の王か何かなのではないかと、思わせられるからだ」
君はホーキンスに礼を述べ、話の腰を折ってすまなかった、本題に戻ってくれと言う。
結局のところ、謎は深まるばかりだ。
カーカバードはもちろん≪旧世界≫全域の歴史をひもといたところで、『大魔王』を名乗る悪党など見つかりはせぬだろう。
マンパンには『大魔法使い』が君臨しているが、かの者は王を名乗れるほどの権力は持っておらぬ――少なくとも、当面のところは。
魔の都カレーを統治する貴人たちにしても、王を気どるには力不足だ。
『大魔王』とはいったい何者なのだろう?
君が考えに没頭している間にもホーキンスの話は進む。二九へ。
二九
「≪門≫を消し去り、クロムウェルとカーカバードの脅威からハルケギニアを守る方法は、ただ一つだけ……」
ホーキンスは重い口調で言う。
「……少人数の決死隊をロンディニウム塔に潜入させ、装置を破壊するのです」
テーブルを囲んだ一同の間に、沈黙が訪れる。
重苦しい静けさを破って最初に口を開いたのは、カステルモールだ。
「失礼ですが、将軍。本当に他に方法はないのですか? たとえば、艦隊で砲撃を加えて、その装置を塔もろとも粉砕してしまえば……」
「ロンディニウム塔は、おそろしく堅固な造りと聞いておる。砲弾ごときではびくともするまい」
オスマンが口を挟む。
「おまけに、≪門≫を使った奇襲でアルビオン遠征軍は大混乱との話じゃが、空軍も例には漏れぬじゃろう。まともな艦隊が組めるかどうか」
オスマンの言葉に、ホーキンスもうなずく。
「仮に艦隊を編成できたところで、塔に近づくことは難しいでしょう。なぜなら、アルビオン空軍のほぼ全戦力が、
ダートマスやスカパフローといったロンディニウム以西の港に集められ、王都とロンディニウム塔に近づく敵に睨みをきかせているのですから」
「精強を謳われたアルビオン空軍が連合軍の上陸を迎え撃とうともせず、何の動きも見せなかったのは、そういうことだったのですか!
何より大事な拠点である塔を守るため、戦力を温存していたとは」
カステルモールがうなる。
「クロムウェルは最初から、まともに戦をするつもりなどなかったのですね。≪門≫さえあれば、負けることはないのですから」
「なればこそ、≪門≫は消し去らねばならん」
マザリーニが口を開く。
「それも、ごく少数の者たちの、速やかで隠密な行動によってだ。彼らはアルビオンにおもむき、せめぎ合う敵味方数万の軍勢の間をすり抜け、
ロンディニウム塔に忍び込み、装置を破壊する――たやすい事ではないが、なし遂げねばならぬのだ」
「して、その『彼ら』の人選はいかがなさるおつもりで? 戦い慣れた勇敢なメイジのほとんどは今や雲の上
――アルビオンに出征しておりますぞ。よもや、現地で志願者を募るつもりではありますまいな?」
オスマンの言葉に答える者は誰もいない。
君はテーブルを囲んだ人々の顔をちらちらと見やる。
彼らは全員、目を下に落としたまま押し黙っており、その表情からは深い苦悩がうかがえる。
エレオノールはいらだたしげに眉をひそめ、パリーは物思いに沈んでいるかのようにまぶたを閉じている。
カステルモールとホーキンスの眼には、恐れが見える――このふたりは、敵の暴虐と脅威をまのあたりにしているのだ。
彼ら以上に恐れおののき、絶望の色を隠せずにいるのはアンリエッタ王女だ。
祖国と自身の前途が絶たれたも同然となった今、その胸中はいかばかりだろう。
最後に、隣に座るルイズを見る。
拳の形に握った両手を膝の上に置き、口をぎゅっと引き結んで、アンリエッタの方をじっと見つめている。
大きく息を吸い込み吐き出す動作を、何度か繰り返す。
気になった君が声をかけようとしたとたん、彼女は勢いよく立ち上がり、声を上げる。
「わたしが行きます」と。二〇九へ。
二〇九
君を含め、その場に居る全員が驚きの表情でルイズを見る。
「いや、ラ・ヴァリエール嬢。祖国を思うその気持ちは嬉しいが、この任務は……」
戸惑い顔のマザリーニが言い終わらぬうちに、エレオノールが声を張り上げる。
「何を考えているの、ルイズ! これは遊びじゃないのよ? トリステインの、いいえ、世界の命運が懸かった、とてつもなく危険な任務なのよ!
王国の危急の時に何かをしたいという気持ちはわかるけど、あなたにいったい何ができるというの!」
エレオノールの剣幕にひるんだルイズは、もごもごと口ごもる。
「でも、ねえさま。わたしは……」
「早く座りなさい、ルイズ。誰かをロンディニウム塔へ向かわせねばならないのは確かだけど、それは少なくとも、あなたじゃないわ」
「わたしは……今のわたしは……」
ふたりのやりとりを見るに、この姉妹の上下関係は明らかだ。
ルイズは昔から、母親に似て厳格で妥協を許さぬ性格の姉に、頭が上がらなかったに違いない。
アンリエッタ王女やマザリーニをはじめとした重臣たちの目を気にした様子もなく、エレオノールは非難の声を高めていく。
「まったく、この子ったら戦場をなんだと思っているの。魔法の使えない≪ゼロのルイズ≫が行ったところで、むざむざ死にに行くようなものよ」
≪ゼロ≫の一言に、ルイズはびくりと体を震わせる。
きっと顔を上げエレオノールを睨むと
「わたしはもう、≪ゼロ≫じゃない!」と叫ぶ。
妹からの思わぬ反撃を受けたエレオノールは、驚きに言葉を失う。四三五へ。
四三五
「わたしは……わたしは、自分の系統に目覚めたわ」
ルイズは懸命に声をしぼり出す。
「わたしには力がある――他の誰にも使えない、わたしだけの力が。これさえあれば、≪門≫を作り出す装置だってきっと……!」
「ルイズ、あなた何を言っているの?」
エレオノールが眉をひそめる。
「ねえさま、実はわたし……」
「いけません、ルイズ・フランソワーズ!」
ルイズの言葉をさえぎり、ぱっと立ち上がったのはアンリエッタだ。
「あのことは忘れると、二度と使いはしないと、わたくしに誓ったではありませんか!」
悲痛な声で訴える王女に向かって、ルイズは
「誓いを破ったことをお許しください、姫さま」と言って頭を下げる。
「でも、わたしは祖国と姫さまのお役に立ちたいのです。長いあいだ≪ゼロ≫だったわたしが今になって力をさずかったのは、
これをもって祖国を救えという神のおぼしめしなのではないでしょうか。トリステイン存亡の時である今、持てる力を隠し続けることは、
裏切りも同然の行いだと思うのです」
熱心に語るルイズに気おされたアンリエッタは、弱々しい口調で言う。
「でも、ルイズ。≪担い手≫であることを明らかにしてしまったら、この先、あなたの人生は平穏とはほど遠いものになってしまうのですよ?」と。
「どうも話が見えんのじゃが」
オスマンがひそひそ声で話しかけてくる。
「≪担い手≫とはいったい? ミス・ヴァリエールは何の系統に目覚めたのかね? もしや、君の故郷の魔法を会得したのではあるまいな?」
君は何も答えないが、心の中では頭を抱えている――『ご主人様』のうかつな言動に。
会ったばかりで信用できるかどうかわからぬ、重臣たちや外国の者たちを前にして、≪虚無≫の秘密を明かそうとしているのだから!
「≪門≫を消し去らないままではどのみち、平穏な暮らしなどありえません。クロムウェルの奴隷としての、
恥辱に満ちた一生が待っているだけです」
ルイズはそう言い切る。
「しかし、ルイズ。なにもあなたが、アルビオンの戦場に向かうことは……」
「いいえ、姫さま。わたしがやるのが、いちばん確実なのです。その装置を壊すためには、警戒厳重な塔に潜入しなければならないのでしょう?
でも、わたしなら塔に踏み入ることなく、任務を果たせるはずです――わたしの≪虚無≫の力をもってすれば!」
ルイズはあっさりと秘密を明かした。
君は強情で後先を考えぬ彼女の行動にあきれるが、同時に喜びも感じている。
ルイズは誰よりも責任感が強い。
自分にしかできない事があると思ったなら、危険をかえりみず無鉄砲に動き出すのだ。
彼女が任務に名乗りを上げたのは、自分のことを≪ゼロ≫と呼ぶ者たちを見返してやろうという、名誉への渇望ゆえか
――いや、それだけではない。
両親から受け継いだ貴族としての義務感と高潔さ、そして、姉のカトレアと同じようにすべての生けるものを慈しむ心が、
ルイズを突き動かしているのだ。
彼女は、祖国アナランドを救う任務を買って出た自分とどこか似ている、と君は思う。
どこへ行くのであろうと、この誇り高き『ご主人様』を守ってやらねばと決意する。三五四へ。
三五四
「なんと、≪虚無≫とな!?」
「そんな、まさか! 嘘でしょう?」
ルイズの口から出た≪虚無≫のひとことに真っ先に反応したのは、オスマンとエレオノールだ。
他の者たちは言葉の意味をすぐには理解できず、ただ呆然とするばかりだ。
「本当に≪虚無≫なのかね? いったいいつから……」
「ルイズ、どういうことなの!? 説明しなさい!」
オスマンとエレオノールは口々に質問を浴びせるが、ルイズが答えるより早く
「ふたりとも、静粛に!」と声が響く。
我に返ったマザリーニが、場を収めるべく叫んだのだ。
マザリーニは威厳を正し、ルイズにゆっくりと呼びかける。
「さて、ラ・ヴァリエール嬢。事情を説明してもらえるかね?」と。
ルイズはうなずくと、語りだす。
≪水のルビー≫を指に嵌めて≪始祖の祈祷書≫に目を通すと、黄変した頁に古代語が浮かび上がったこと。
≪始祖の祈祷書≫に記された呪文を読み上げると、周囲が光に包まれ、タルブの村を襲った怪物が消し飛んだこと。
そして、ルイズとアンリエッタ王女のあいだで、≪虚無≫に関する事柄を秘密とする約束が取り交わされたこと。
ルイズがこれらの説明を終えると、マザリーニは礼を述べ、着席をうながす。
「アルビオンの軍艦から投下された正体不明の怪物がタルブの村を襲撃し、最後には謎めいた光を発して消滅した、という事件の報告は受けていた」
マザリーニは言う。
「まさかラ・ヴァリエール嬢がその現場に居合わせ、伝説の≪虚無≫の魔法を操って、怪物を倒していたとは……にわかには信じがたい話だが、
どうやら本当のようだな。虚栄心から出た作り話にしてはあまりに途方もないし、従者である君も、その様子を目撃しているのだろう?」
最後の言葉は、君に向けられたものだ。
君がうなずき、女神リブラに誓って真実だと答えると、枢機卿はわずかに眉をひそめる――相手はブリミルを信奉する聖職者なのだから、
『始祖に誓って』と言うべきだった。
マザリーニは君のうかつな言葉を追求しようとはせず、白い髭をなでながらつぶやく。
「始祖が操ったという伝説の魔法の力を得たとなれば……勝てるやもしれん」と。一七四へ。
一七四
「装置を破壊するために、ロンディニウム塔へと潜入する必要はなくなった。離れた場所から≪虚無≫の魔法で吹き飛ばせばよいのだから」
そう語るマザリーニの目には、希望の光が輝いている。
テーブルを囲んだ者たちは一様に半信半疑の表情を浮かべ、ちらちらとルイズのほうを見ているが、
それでも先刻までの重苦しさはいくらかやわらいでいる。
「しかし、ロンディニウム塔へと向かうだけでも、その道のりは困難なものとなりましょう」
ホーキンスが言う。
「カーカバードのけだものどもはアルビオンを席巻し、見つけたものは何であれ奪い、殺そうとします。
≪門≫による奇襲を受けた連合軍は混乱のきわみにあり、頼りにはなりますまい。誰か優秀な護衛を、
ラ・ヴァリエール嬢につけなければなりません。それも、できるだけ少人数で」
マザリーニはうなずく。
「人数を多くすればそれだけ、敵に見つかるおそれが増すからな。せいぜい四・五人といったところか。しかし、
先ほどオールド・オスマンのお言葉にあった通り、戦いに馴れたメイジのほとんどは戦場にいる。遠方から呼び寄せる時間はない。
そうなると、宮殿の衛士から選ぶか……」
そこまで言ったところで、マザリーニは何かを思いついたような顔つきになる。
「オールド・オスマン。学院の教師には≪トライアングル≫のメイジが揃っていると聞き及んでおりますが、いかがですかな?」
オスマンは困ったような表情を浮かべ
「恥ずかしながら、学院の教師の大半は荒事に不慣れでしてな。何千人もの軍団のうちのひとりとして戦場へ赴くならともかく、
ほんの数人で敵中まっただ中に乗り込めるほど、肝の据わった者はおりませんのじゃ――この私を含めて」と言う。
温和で争いごとを好まぬコルベールはともかく、いつも自分が得意とする≪風≫の系統こそ最強と吹聴していたギトーも、
あまり頼りにはならぬらしい。
「君ももちろん、ラ・ヴァリエール嬢とともにアルビオンへ向かうのだろうな?」
マザリーニの問いに、君はそのつもりだと答える。
「お待ちください、猊下。人数が限られているというのに、この平民を加えるのですか?」
そう言って傲然と君を見つめるのは、ホーキンス将軍だ。
彼は、君が魔法使いだとは知らぬのだ。
カステルモールも将軍に同調し、
「この任務に必要なのは、優れたメイジです。平民など連れていったところで、足手まといになるだけでしょう。
起死回生の計画を失敗させるおつもりですか」と言う。
君はどうする?
君が魔法使いであることを知っている者が説明してくれるのを待つか(四四一へ)?
ホーキンスとカステルモールに挑戦的な言葉を浴びせるか(三五〇へ)?
それとも術を使うか?
GAK・七四六へ
SUS・七七二へ
FAL・六八五へ
TOG・七六〇へ
GOD・六二〇へ
#center{&color(green){[[前ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-04]] / [[表紙へ戻る>ソーサリー・ゼロ]] / [[次ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-06]]}}
----
二四四
ホーキンスは眉根を寄せる。
怪訝そうな目つきで君を見るが、やがて
「奇妙なことに、クロムウェルも、カルトゥームらカーカバードから来た指揮官たちも、その者の名を口にはしなかった。
もちろん姿を見た事もない。もっとも、カーカバードの王がアルビオンに来ているという話は聞いていないのだが」と言う。
君はがっくりと肩を落とす。
敵の首領の名を聞けば、カーカバードから来たと自称する、謎めいた連中の正体を推察する助けになるのではと考えたが、
そううまくはいかぬようだ。
「そういえば、クロムウェルは同盟者のことを単にカーカバードの王と呼んでいたが、あの蛮族どもは別の呼び方をしていた。
一度だけ聞いた事がある」
ホーキンスは言う。
「『大魔王様』。奴らは自分たちの主君の事を、そう呼んでいた」と。
「ふざけた称号だと思うかもしれないが、当を得た呼び名だとわたしは考える。カーカバードの奴らの所業を見れば、
その頂点に立つのは人ならざる存在――地獄の悪魔の王か何かなのではないかと、思わせられるからだ」
君はホーキンスに礼を述べ、話の腰を折ってすまなかった、本題に戻ってくれと言う。
結局のところ、謎は深まるばかりだ。
カーカバードはもちろん≪旧世界≫全域の歴史をひもといたところで、『大魔王』を名乗る悪党など見つかりはせぬだろう。
マンパンには『大魔法使い』が君臨しているが、かの者は王を名乗れるほどの権力は持っておらぬ――少なくとも、当面のところは。
魔の都カレーを統治する貴人たちにしても、王を気どるには力不足だ。
『大魔王』とはいったい何者なのだろう?
君が考えに没頭している間にもホーキンスの話は進む。二九へ。
二九
「≪門≫を消し去り、クロムウェルとカーカバードの脅威からハルケギニアを守る方法は、ただ一つだけ……」
ホーキンスは重い口調で言う。
「……少人数の決死隊をロンディニウム塔に潜入させ、装置を破壊するのです」
テーブルを囲んだ一同の間に、沈黙が訪れる。
重苦しい静けさを破って最初に口を開いたのは、カステルモールだ。
「失礼ですが、将軍。本当に他に方法はないのですか? たとえば、艦隊で砲撃を加えて、その装置を塔もろとも粉砕してしまえば……」
「ロンディニウム塔は、おそろしく堅固な造りと聞いておる。砲弾ごときではびくともするまい」
オスマンが口を挟む。
「おまけに、≪門≫を使った奇襲でアルビオン遠征軍は大混乱との話じゃが、空軍も例には漏れぬじゃろう。まともな艦隊が組めるかどうか」
オスマンの言葉に、ホーキンスもうなずく。
「仮に艦隊を編成できたところで、塔に近づくことは難しいでしょう。なぜなら、アルビオン空軍のほぼ全戦力が、
ダートマスやスカパフローといったロンディニウム以西の港に集められ、王都とロンディニウム塔に近づく敵に睨みをきかせているのですから」
「精強を謳われたアルビオン空軍が連合軍の上陸を迎え撃とうともせず、何の動きも見せなかったのは、そういうことだったのですか!
何より大事な拠点である塔を守るため、戦力を温存していたとは」
カステルモールがうなる。
「クロムウェルは最初から、まともに戦をするつもりなどなかったのですね。≪門≫さえあれば、負けることはないのですから」
「なればこそ、≪門≫は消し去らねばならん」
マザリーニが口を開く。
「それも、ごく少数の者たちの、速やかで隠密な行動によってだ。彼らはアルビオンにおもむき、せめぎ合う敵味方数万の軍勢の間をすり抜け、
ロンディニウム塔に忍び込み、装置を破壊する――たやすい事ではないが、なし遂げねばならぬのだ」
「して、その『彼ら』の人選はいかがなさるおつもりで? 戦い慣れた勇敢なメイジのほとんどは今や雲の上
――アルビオンに出征しておりますぞ。よもや、現地で志願者を募るつもりではありますまいな?」
オスマンの言葉に答える者は誰もいない。
君はテーブルを囲んだ人々の顔をちらちらと見やる。
彼らは全員、目を下に落としたまま押し黙っており、その表情からは深い苦悩がうかがえる。
エレオノールはいらだたしげに眉をひそめ、パリーは物思いに沈んでいるかのようにまぶたを閉じている。
カステルモールとホーキンスの眼には、恐れが見える――このふたりは、敵の暴虐と脅威をまのあたりにしているのだ。
彼ら以上に恐れおののき、絶望の色を隠せずにいるのはアンリエッタ王女だ。
祖国と自身の前途が絶たれたも同然となった今、その胸中はいかばかりだろう。
最後に、隣に座るルイズを見る。
拳の形に握った両手を膝の上に置き、口をぎゅっと引き結んで、アンリエッタの方をじっと見つめている。
大きく息を吸い込み吐き出す動作を、何度か繰り返す。
気になった君が声をかけようとしたとたん、彼女は勢いよく立ち上がり、声を上げる。
「わたしが行きます」と。二〇九へ。
二〇九
君を含め、その場に居る全員が驚きの表情でルイズを見る。
「いや、ラ・ヴァリエール嬢。祖国を思うその気持ちは嬉しいが、この任務は……」
戸惑い顔のマザリーニが言い終わらぬうちに、エレオノールが声を張り上げる。
「何を考えているの、ルイズ! これは遊びじゃないのよ? トリステインの、いいえ、世界の命運が懸かった、とてつもなく危険な任務なのよ!
王国の危急の時に何かをしたいという気持ちはわかるけど、あなたにいったい何ができるというの!」
エレオノールの剣幕にひるんだルイズは、もごもごと口ごもる。
「でも、ねえさま。わたしは……」
「早く座りなさい、ルイズ。誰かをロンディニウム塔へ向かわせねばならないのは確かだけど、それは少なくとも、あなたじゃないわ」
「わたしは……今のわたしは……」
ふたりのやりとりを見るに、この姉妹の上下関係は明らかだ。
ルイズは昔から、母親に似て厳格で妥協を許さぬ性格の姉に、頭が上がらなかったに違いない。
アンリエッタ王女やマザリーニをはじめとした重臣たちの目を気にした様子もなく、エレオノールは非難の声を高めていく。
「まったく、この子ったら戦場をなんだと思っているの。魔法の使えない≪ゼロのルイズ≫が行ったところで、むざむざ死にに行くようなものよ」
≪ゼロ≫の一言に、ルイズはびくりと体を震わせる。
きっと顔を上げエレオノールを睨むと
「わたしはもう、≪ゼロ≫じゃない!」と叫ぶ。
妹からの思わぬ反撃を受けたエレオノールは、驚きに言葉を失う。四三五へ。
四三五
「わたしは……わたしは、自分の系統に目覚めたわ」
ルイズは懸命に声をしぼり出す。
「わたしには力がある――他の誰にも使えない、わたしだけの力が。これさえあれば、≪門≫を作り出す装置だってきっと……!」
「ルイズ、あなた何を言っているの?」
エレオノールが眉をひそめる。
「ねえさま、実はわたし……」
「いけません、ルイズ・フランソワーズ!」
ルイズの言葉をさえぎり、ぱっと立ち上がったのはアンリエッタだ。
「あのことは忘れると、二度と使いはしないと、わたくしに誓ったではありませんか!」
悲痛な声で訴える王女に向かって、ルイズは
「誓いを破ったことをお許しください、姫さま」と言って頭を下げる。
「でも、わたしは祖国と姫さまのお役に立ちたいのです。長いあいだ≪ゼロ≫だったわたしが今になって力をさずかったのは、
これをもって祖国を救えという神のおぼしめしなのではないでしょうか。トリステイン存亡の時である今、持てる力を隠し続けることは、
裏切りも同然の行いだと思うのです」
熱心に語るルイズに気おされたアンリエッタは、弱々しい口調で言う。
「でも、ルイズ。≪担い手≫であることを明らかにしてしまったら、この先、あなたの人生は平穏とはほど遠いものになってしまうのですよ?」と。
「どうも話が見えんのじゃが」
オスマンがひそひそ声で話しかけてくる。
「≪担い手≫とはいったい? ミス・ヴァリエールは何の系統に目覚めたのかね? もしや、君の故郷の魔法を会得したのではあるまいな?」
君は何も答えないが、心の中では頭を抱えている――『ご主人様』のうかつな言動に。
会ったばかりで信用できるかどうかわからぬ、重臣たちや外国の者たちを前にして、≪虚無≫の秘密を明かそうとしているのだから!
「≪門≫を消し去らないままではどのみち、平穏な暮らしなどありえません。クロムウェルの奴隷としての、
恥辱に満ちた一生が待っているだけです」
ルイズはそう言い切る。
「しかし、ルイズ。なにもあなたが、アルビオンの戦場に向かうことは……」
「いいえ、姫さま。わたしがやるのが、いちばん確実なのです。その装置を壊すためには、警戒厳重な塔に潜入しなければならないのでしょう?
でも、わたしなら塔に踏み入ることなく、任務を果たせるはずです――わたしの≪虚無≫の力をもってすれば!」
ルイズはあっさりと秘密を明かした。
君は強情で後先を考えぬ彼女の行動にあきれるが、同時に喜びも感じている。
ルイズは誰よりも責任感が強い。
自分にしかできない事があると思ったなら、危険をかえりみず無鉄砲に動き出すのだ。
彼女が任務に名乗りを上げたのは、自分のことを≪ゼロ≫と呼ぶ者たちを見返してやろうという、名誉への渇望ゆえか
――いや、それだけではない。
両親から受け継いだ貴族としての義務感と高潔さ、そして、姉のカトレアと同じようにすべての生けるものを慈しむ心が、
ルイズを突き動かしているのだ。
彼女は、祖国アナランドを救う任務を買って出た自分とどこか似ている、と君は思う。
どこへ行くのであろうと、この誇り高き『ご主人様』を守ってやらねばと決意する。三五四へ。
三五四
「なんと、≪虚無≫とな!?」
「そんな、まさか! 嘘でしょう?」
ルイズの口から出た≪虚無≫のひとことに真っ先に反応したのは、オスマンとエレオノールだ。
他の者たちは言葉の意味をすぐには理解できず、ただ呆然とするばかりだ。
「本当に≪虚無≫なのかね? いったいいつから……」
「ルイズ、どういうことなの!? 説明しなさい!」
オスマンとエレオノールは口々に質問を浴びせるが、ルイズが答えるより早く
「ふたりとも、静粛に!」と声が響く。
我に返ったマザリーニが、場を収めるべく叫んだのだ。
マザリーニは威厳を正し、ルイズにゆっくりと呼びかける。
「さて、ラ・ヴァリエール嬢。事情を説明してもらえるかね?」と。
ルイズはうなずくと、語りだす。
≪水のルビー≫を指に嵌めて≪始祖の祈祷書≫に目を通すと、黄変した頁に古代語が浮かび上がったこと。
≪始祖の祈祷書≫に記された呪文を読み上げると、周囲が光に包まれ、タルブの村を襲った怪物が消し飛んだこと。
そして、ルイズとアンリエッタ王女のあいだで、≪虚無≫に関する事柄を秘密とする約束が取り交わされたこと。
ルイズがこれらの説明を終えると、マザリーニは礼を述べ、着席をうながす。
「アルビオンの軍艦から投下された正体不明の怪物がタルブの村を襲撃し、最後には謎めいた光を発して消滅した、という事件の報告は受けていた」
マザリーニは言う。
「まさかラ・ヴァリエール嬢がその現場に居合わせ、伝説の≪虚無≫の魔法を操って、怪物を倒していたとは……にわかには信じがたい話だが、
どうやら本当のようだな。虚栄心から出た作り話にしてはあまりに途方もないし、従者である君も、その様子を目撃しているのだろう?」
最後の言葉は、君に向けられたものだ。
君がうなずき、女神リブラに誓って真実だと答えると、枢機卿はわずかに眉をひそめる――相手はブリミルを信奉する聖職者なのだから、
『始祖に誓って』と言うべきだった。
マザリーニは君のうかつな言葉を追求しようとはせず、白い髭をなでながらつぶやく。
「始祖が操ったという伝説の魔法の力を得たとなれば……勝てるやもしれん」と。一七四へ。
一七四
「装置を破壊するために、ロンディニウム塔へと潜入する必要はなくなった。離れた場所から≪虚無≫の魔法で吹き飛ばせばよいのだから」
そう語るマザリーニの目には、希望の光が輝いている。
テーブルを囲んだ者たちは一様に半信半疑の表情を浮かべ、ちらちらとルイズのほうを見ているが、
それでも先刻までの重苦しさはいくらかやわらいでいる。
「しかし、ロンディニウム塔へと向かうだけでも、その道のりは困難なものとなりましょう」
ホーキンスが言う。
「カーカバードのけだものどもはアルビオンを席巻し、見つけたものは何であれ奪い、殺そうとします。
≪門≫による奇襲を受けた連合軍は混乱のきわみにあり、頼りにはなりますまい。誰か優秀な護衛を、
ラ・ヴァリエール嬢につけなければなりません。それも、できるだけ少人数で」
マザリーニはうなずく。
「人数を多くすればそれだけ、敵に見つかるおそれが増すからな。せいぜい四・五人といったところか。しかし、
先ほどオールド・オスマンのお言葉にあった通り、戦いに馴れたメイジのほとんどは戦場にいる。遠方から呼び寄せる時間はない。
そうなると、宮殿の衛士から選ぶか……」
そこまで言ったところで、マザリーニは何かを思いついたような顔つきになる。
「オールド・オスマン。学院の教師には≪トライアングル≫のメイジが揃っていると聞き及んでおりますが、いかがですかな?」
オスマンは困ったような表情を浮かべ
「恥ずかしながら、学院の教師の大半は荒事に不慣れでしてな。何千人もの軍団のうちのひとりとして戦場へ赴くならともかく、
ほんの数人で敵中まっただ中に乗り込めるほど、肝の据わった者はおりませんのじゃ――この私を含めて」と言う。
温和で争いごとを好まぬコルベールはともかく、いつも自分が得意とする≪風≫の系統こそ最強と吹聴していたギトーも、
あまり頼りにはならぬらしい。
「君ももちろん、ラ・ヴァリエール嬢とともにアルビオンへ向かうのだろうな?」
マザリーニの問いに、君はそのつもりだと答える。
「お待ちください、猊下。人数が限られているというのに、この平民を加えるのですか?」
そう言って傲然と君を見つめるのは、ホーキンス将軍だ。
彼は、君が魔法使いだとは知らぬのだ。
カステルモールも将軍に同調し、
「この任務に必要なのは、優れたメイジです。平民など連れていったところで、足手まといになるだけでしょう。
起死回生の計画を失敗させるおつもりですか」と言う。
君はどうする?
君が魔法使いであることを知っている者が説明してくれるのを待つか(四四一へ)?
ホーキンスとカステルモールに挑戦的な言葉を浴びせるか(三五〇へ)?
それとも術を使うか?
GAK・七四六へ
SUS・七七二へ
FAL・六八五へ
TOG・七六〇へ
GOD・六二〇へ
----
#center{&color(green){[[前ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-04]] / [[表紙へ戻る>ソーサリー・ゼロ]] / [[次ページ>ソーサリー・ゼロ第四部-06]]}}
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: