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&setpagename(第五話 人と翼人と異邦人とハーフエルフ 前編)
第五話 人と翼人と異邦人とハーフエルフ
翌日の早朝…ガリア王国アルデラ地方エギンハイム村
まだ鶏も鳴かないこの朝早くから、ぞろぞろと森へ入っていく男達の集団があった
彼等が向かう先は…
「おい、皆…準備は良いか!!」
男達のリーダー格である、体格の良い男が皆に掛け声をあげる
彼の名はサム…この村の村長の息子で、村一番の力の持ち主だ
「おお、今日という今日はもう我慢ならねぇ!!」
「俺達は待った…領主様が王宮に騎士を派遣するよう頼むってのを!!」
「だけど、肝心の騎士は全然来ない…領主様も騎士もあてになんねぇ!!」
「このままじゃ、俺達は飢え死にだ…やるしかねぇんだ!!」
そうだそうだ、と屈強な男達は口々に叫ぶ
何ヶ月も待たされ続けた彼等は、自分達だけで翼人退治をしようとしていたのだ
「よーし、その粋だ…いいか、今日こそ翼人共を皆殺しにするんだ!!」
おお~~~、とサムの声に対して男達は雄叫びを上げる
しかし、その中の数人は、少し怯えた様子を見せていた
「け、けどよサム…もし、魔法を使われたり…あいつ等が出てきたらどうするんだ?」
「なーに、寝込みを一気に襲っちまえばこっちのもんよ、魔法を使われねぇうちに倒しちまうんだ。」
じゃあ、行くぞ…と、サムは声をかけて男達と共に森の中へ入ろうとした
だが、その矢先に一人の男が彼等の行く手を遮った
「待ってよ、皆待って…サム兄さんも。」
「ヨシア、お前…。」
彼等を遮ったのは、サムの弟であるヨシアという青年だった
弟を睨み付けるサムだが、彼は一歩も引かない
「何で同じ森の仲間同士で争うんだよ、もっと話し合えば…。」
「仲間だぁ!?何馬鹿な事を言ってやがる!!」
サムはヨシアに近づくと、その襟首を掴んで黙らせようとする
「良いか、奴等は鳥だ…鳥を殺って何が悪い。それに、問答無用で魔法をぶっぱなすあいつ等とどう話せってんだ?」
「そ、それは…僕達が最初に彼等に矢を射掛けたから…。」
チッ、と舌打ちをすると、サムはヨシアを横へ突き飛ばした
兄に比べて体の細い弟は、そのまま地面に尻餅をついてしまう
「ヨシア、仲間ってのは柵の内側にいる人間の事だ…お前も親父の息子なら、もっと仲間の事を考えろ!!」
弟にそう言い放つと、サムは男達を率いて翼人達の所へ向かった
誰もがヨシアに振り返る事無く、森の奥へと進んでいき、やがて見えなくなった
彼等が去っていくのを見る事しかできず、ヨシアは拳を地面に打ち付けた
………………
「よーし、ついたぞ…奴等はまだ寝ているようだな。」
村から三十分程離れたライカ欅の森…その中で一際大きい欅の前でサム達は止まる
その欅こそが、翼人たちが住処として使っているものだった
「良いか、俺がこいつを投げつける…んで、落ちてきた所を一気に仕留めるんだ。」
作戦の最終確認を行うサム…彼の横には大岩があった
全員が理解しているのを確認すると、ボキボキと手を鳴らした
「じゃあ、行くぞ…奴等に人間様の力を思い知らせてやる。」
そう言って、サムは大岩を持ち上げて…ライカ欅に向かって投げつけた
勢いよく投げられた大岩は、本来ならそのまま幹にぶつかる筈だったが、それを一つの影が遮った
それは持っている物を一閃し、大岩を真っ二つに切断する
「な、何!?」
サムは驚いた…自分が投げた大岩が切断された事に
そして、その間から見えた巨大な斧を見て、彼は自分の斧を構えた
「畜生、出やがったな…この野郎!!」
「野郎というのは不適格です…私は女ですから。」
サムの言葉に対し、巨大な斧を持った人物は冷静な声で答える
彼等の目の前にいる人物は、ピンクのツインテールをした女の子だった
一方、その頃…黒い森の上空にイルククゥの姿があった
もうそろそろ日が昇るこの時間帯に、ようやくタバサ達は目的地に到着した
「此処が黒い森なのね、もうすぐ目的地に到着するのね♪」
目的地が目と鼻の先である事に、イルククゥはウキウキしながら喋る
何せ朝早い時間に起こされ、朝ごはんも食べずに出発したのだ
村についたら、腹一杯食べるつもりである
「静かに…彼が眠っている。」
はしゃいでいるイルククゥをタバサは宥めると、後ろを振り返る
彼女の後ろには、突起したイルククゥの背骨にもたれているクラースの姿があった
「………………。」
クラースは落ちないように体を固定した状態で、眠っている
一晩中火の番をしていたので、到着までの間仮眠を取っていた
「そうなのね…でも、もう着いたから起こすのね。」
「まだ駄目…村に到着するまで…。」
「う、うーん……。」
二人が話していると、クラースから唸り声が聞こえてくる
起こしてしまったか…もう一度後ろを振り返るが、クラースはまだ眠っていた
「絶対…帰る方法見つけてやるからな…才人…待ってろよ…ミラルド…。」
今度はぶつぶつと、寝言を呟く…最後の方で呟いた名前は女性のようだ
この人は夢の中でも、帰る方法を探しているのだろう
使い魔の少年の為に…待っている人の為に
「………頑張って。」
そんなクラースに向けてぽつりと、タバサは励ましの言葉を送った
偶然か、それを聞いたクラースの寝顔が若干和らいだ
「ちびすけ、大変なのね!!」
その時、自分を呼ぶイルククゥの声が聞こえ、反射的にタバサは下を見る、s
すると、眼下の森で煙が上がっており、大きな木が一本倒れるのが見えた
「あれは……人間が戦っているのね。」
目が良いイルククゥは、眼下の森で何が起こっている
どうやら、村人が自分達の到着を待てずに翼人に戦いを挑んだようだ
「どうするのね、ちびすけ?」
「放ってはおけない…私は先に降りる。」
そう言うと、タバサはイルククゥから飛び降りて地上へと降下を始めた
勿論、地面と接触する寸前に『フライ』を唱えるつもりだ
「え、えっと…私はどうすれば良いのね!?」
残されたイルククゥは叫ぶが、もうタバサは下の方まで降りている
おろおろしていると、騒動を聞いたクラースがゆっくりと覚醒する
「ん…ん~~~、眠ってしまったなぁ。」
目を覚ましたクラースは首を回し、肩も回す…その度に、ポキポキと音がなった
「初めて竜の背中で眠ったが…眠り心地はあまりよくなかったな。」
「余計なお世話なのね…それより大変なのね!!」
「おお、イルククゥか…タバサは何処だ?もう目的地についたのか?」
「もうとっくに着いてるのね、ちびすけは先に下に降りてるのね。」
イルククゥが質問に答えると、クラースは体を固定していたロープを外し、下を見る
眼下の森では、既に戦いが始まっている事を確認する
「もう始まっているのか、早まった事を…これは、急がないと不味いな。」
「そうなのね、それで私達はどうすれば良い?」
「そうだな…私も下に降りる、君は此処で待機だ。」
「わ…解ったのね。」
イルククゥに指示を与え、クラースもまた下へと飛び降りる
勿論、地面にぶつかる前にシルフを呼び出すつもりだ
風をその身で感じながら、クラースの体は大地へと落ちていった
「畜生、こんな…こんな筈が……。」
地面に片膝をつくサムは、目の前の光景に愕然とする
戦いが始まってからしばらく経って…仲間達は全員地面に倒れ、呻き声をあげていた
全員が軽い傷を負っただけで、死人や重傷者は出ていない
「何で、負けるんだよ…こんなガキ共に!!」
そう叫んで、サムは目の前にいる二人組を睨み付ける
片方は先程サムの投げた岩を斬った少女で、もう片方は少年だった
髪は銀髪で、手には見た事もない武器のようなものを持っている
「もう、これで十分だよね…お願いだから、引き上げてくれないかな?」
銀髪の少年がサムに向けて、引き上げるよう勧める
少女の後に現れたこの少年は、メイジと同じように魔法を使ってきた
仲間達は少年の魔法と少女の斧に抗う事が出来ず、皆やられてしまった
「くそ、ガキのくせに…俺達の邪魔すんじゃねぇ!!」
持っている斧を杖代わりに立ち上がると、サムはそれを二人に向ける
どうしても、やる気らしい
「無駄です…今のこの状況で貴方が勝てる確立は皆無です。」
「うおおおおおっ!!!!!!」
少女の言葉を無視して、サムは斧を持って突っ込んでいく
斧が振り下ろされる直前、少女は持っている自分の斧を振るった
彼女の斧はサムの斧を砕き、彼を後ろへと吹き飛ばす
「うっ、げほげほ……くそ…ま、まだだ…。」
力の差を見せ付けられても、サムはまだ立ち上がる
傍に落ちていた仲間の斧を拾い、ふらふらと二人に向かって歩き出す
「もう、分からず屋だなぁ…プレセア、どうする?」
「ジーニアス…仕方ありません、解らせるまで戦いましょう。」
だね、と答えると二人は自分の持っている武器を構える
二人がサムに攻撃を仕掛けようとしたその時、上の方から声が聞こえてきた
幼い少女のような声が二人の耳に届き…その直後、雪風が二人を襲う
「うわっ!?」
激しい雪風が二人に向かって襲い掛かるが、間一髪で二人は雪風から逃れる
そして、片方の少女…プレセアが即座に上を見上げた
「ジーニアス、上です。」
彼女の言葉に、銀髪の少年…ジーニアスも上を見上げる
上空から、杖を構えた少女…タバサが降りてくるのが見えた
彼女は『フライ』の呪文を使って、ゆっくりと二人の前に降り立つ
「君は…まさか、今のは君がやったの?」
ジーニアスが尋ねるが、タバサは答えずに杖を構えて詠唱を始める
杖の先端から突風が起こり、二人に襲い掛かる
「あっ…え、エアスラスト!!!」
即座にジーニアスは呪文を唱え、自分達の前に風の刃を発生させる
タバサの突風とジーニアスの風の刃はぶつかりあい、互いに相殺する
「あ、危なかった…いきなり魔術を使ってくるなんて、あの子は一体…。」
「お、おお…騎士様だ、領主様がお城に頼んでいた騎士様が来てくださったんだ!!」
ジーニアスの疑問に答えるように、倒れていた男がそう言った
それを聞いた他の男達もサムも、活気を取り戻す
「あんな子どもが…でも、さっきの雪風は確かに魔法だった。」
「やったぜ、騎士様が来てくれれば怖いものなしだ!!」
「騎士様、そんなガキ共やっつけてください!!」
騎士なんか当てにならないと言っていた男達は口々にタバサを賞賛し、応援する
子どもとはいえ、メイジである彼女の魔法を目の当たりにして、考えが変わったのだろう
「騎士って…もしかしてあの子、メイジって事?」
「そのようです…ジーニアス、気を引き締めて戦いましょう。」
「う、うん…相手が誰であれ、僕達は負けるわけにはいかないもんね。」
話し合った後、二人はタバサに向かって構えをとった
対峙するタバサも、杖を向けながら状況を分析する
「(あれが、衛兵が言っていた…正体は二人組の子どもだった…。)」
自分と同い年くらいの少年少女…だが、そんな二人が後ろにいる男達を倒したのだ
油断してはいけない、詮索は後で…タバサは杖を握り締め、二人を見据える
彼等が対峙して少し経った後…最初に動いたのはタバサだった
素早く魔法の詠唱を行い、突風を起こして二人を襲う
だが、二人はそれを散開して難なく避ける
「中々の魔法だね、だけど僕だって負けないよ…ファイアボール!!!」
ジーニアスが持っている武器を構えると、無数の火の玉が出現する
火の玉…ファイアボールは目標であるタバサ目掛けて飛んでいく
それをタバサは氷の刃を飛ばし、相殺する
「爆砕斬!!」
その間に間合いに入り込んだプレセアが、斧を振り下ろした
タバサはバックステップで避けるが、振り下ろされた斧は地面を砕く
砕かれた土は周囲に飛び散り、タバサの頬を掠める…血が流れた
「(此方は一人、相手は二人…力量から考えて、此方が不利…。)」
シュヴァリエとして幾多の経験をつんだタバサは今の手合わせから、長引けば此方が負ける事を悟った
少女は自分の体格程の斧を軽々と扱い、少年は魔法を見事に操っている
それに、彼等は巧みな連携によって、戦力を上げている
「(まずは後衛を倒さなければ…。)」
流れる血を拭うと、ターゲットをジーニアスに絞り、タバサは詠唱を開始した
杖の先から竜巻が発生し、ジーニアスへ向かっていく
「エアブレイド!!!」
対するジーニアスは即座に詠唱を唱え、圧縮された空気の塊を放った
その刃はタバサの竜巻を切り裂いて彼女を狙うが、当たる直前に避ける…
「そこです。」
が、そこへ斧を振りかぶったプレセアが攻撃してくる
一撃、二撃、三撃と見た目よりも素早い攻撃を紙一重で避ける
「続けていくよ、フレイムランス!!」
ようやくプレセアの追撃を逃れた所に、今度は炎の槍が襲い掛かってきた
タバサは風で障壁をつくり、炎の槍を直前で受け止める
「前からが駄目なら、下からだ…グレイブ!!」
間髪入れずにジーニアスが素早い詠唱を終えると、タバサの足元から鋭い岩石の槍が襲ってくる
幸いすぐに回避行動に出た為軽い傷を受けただけだったが、これによって風の障壁は消えた
遮られていた炎の槍はまだ消えておらず、壁が無くなった事でタバサへと飛んでいく
「!!」
タバサがそれに気づいた時…槍は彼女の傍の地面に着弾した
同時に爆発が起こり、激しい土煙が舞う
「き、騎士様が…。」
次元の違う戦いに見守る事しか出来ないサム達は、この時タバサが負けたと思った
ジーニアスとプレセアは、土煙で見えなくなったタバサの動向を探っている
「やったかな…威力は弱めてるけど、あれを喰らったら立てない筈だよ。」
「………。」
ジーニアスの言葉に対して何も答えず、プレセアはじっと土煙を見つめる
何も起こらない…かと思われたその時、目の前の土煙が不自然に揺らいだように見えた
「!!」
それを察知したプレセアが斧を構えると、煙の中から巨大な氷の槍が現れた
ライン・スペルの一つ、ジャベリン…その氷の槍は、プレセアを狙っている
「はっ!!」
プレセアは構えていた斧を振り払い、氷の槍を打ち砕いた
もう少し構えるのが遅ければ、串刺しになった所である
「プレセア……ええい!!」
ジーニアスは土煙を睨むと、風を操ってそれを吹き飛ばす
あっという間に土煙は消え、隠れていたものが明らかになり…
「…………。」
そこには未だに立っているタバサの姿があった
だが、無傷であるとは言えず、先程の攻撃で所々ボロボロになっている
彼女はそれを気にせず杖を構え、スペルを唱える
「危ない!!」
再び雪風が舞い、二人目掛けて襲ってくる
それを避けながら、プレセアもジーニアスも次の攻め手を考えた
「(思ったよりダメージが大きい…これ以上続ければ、確実に負ける…。)」
タバサもまた、この二人に勝つ方法を考えていた
無表情であるが、先程のフレイムランスの一撃がかなり効いており、痛みを感じている
ロアから貰った薬を使いたい所だが、この二人相手に隙は見せられない
「孤月閃!!」
そこにプレセアが攻撃を仕掛け、タバサは一度思考を中断する
後ろに下がると、プレセアに向けて杖を構える
「ラナ・デル・ウィンデ…。」
そしてスペルを唱えてエア・ハンマーを発動し、彼女を攻撃する
放たれた魔法は、真っ直ぐ彼女目掛けて飛んでいくが…
「獅吼滅龍閃!!!」
プレセアは斧を振り回し、迫りくる空気の塊に向かって闘気を放った
闘気は獅子の形となって、タバサのエア・ハンマーを打ち砕く
「……っ!?」
流石のタバサも、これには驚きを隠せなかった…自分の魔法が獅子によって打ち砕かれたのだ
あれは一体…そう考えている間にもプレセアは斧を構え、此方に向かって再度攻撃を仕掛けてくる
これ以上ダメージを負うのは危険だ…タバサは攻撃を避け続ける
「プレセア、下がって……燃えちゃえー、イラプション!!!」
ジーニアスの声でプレセアが一度退くと、タバサは足元が熱くなるのを感じた
危険を察知して即座にフライを唱えて飛び上がると、自分のいた地面が噴火を始める
その様子を見ながら、タバサは木の枝に乗り移った
「(此処まで来れば、攻撃は出来ない筈…。)」
そして、タバサは冷静に現在の状況を分析する…あの二人は、自分の想像以上だった
どうやって、あの二人を倒せば良いのか…タバサは思考を巡らせる
「(………やはり、彼の力を借りる必要がある。)」
考えた結果、彼等に勝つにはクラースの助力が必要であるという結論に至った
彼が来るまで、何とか持ちこたえないと…
「ああ、あんな高い所に…プレセア、どうしようか?」
「少し乱暴ですが…無理やり降りてもらいます。」
その間にも、下にいる二人は次の行動へと移ろうとしていた
プレセアが目で合図を送ると、それを理解したジーニアスが詠唱を始める
彼女は斧を構え、その時が来るのを待つ
「………よし、プレセア、行くよ!!!」
「はい…全てを屠る、この一撃…」
互いに準備を整え、ジーニアスが魔法を唱えた…その力は、プレセアの斧に宿る
彼女は斧を振り上げると、タバサがいる木に向かって…
「「クリティカル・ブレード!!!」」
斧を振り払った…その一撃は、目の前の大木を屠る
タバサは自分が乗っている木が倒れるのを感じ、枝から飛び降りた
二人から離れた所に降り立ち、杖をかまえようとするが…
「ジーニアス、動きを。」
「解った…アイシクル!!」
ジーニアスが先に呪文を唱え、それによってタバサの足元が凍ってしまう
それでも呪文を唱えようと、杖を向けるが…
「アイスニードル!!!」
それを許さないジーニアスの氷の刃が、杖を弾き飛ばす
自由を奪われ、杖も手から離れ…タバサは完全に無力化された
「や、やっと終わった…確か、メイジは杖がないと魔法が使えないんだよね?」
「その筈です…これで私達の勝ちです。」
プレセアの言葉を受け、ジーニアスが良かったと胸を撫で下ろす
「騎士様が…騎士様が負けちまった…。」
最後の希望であったタバサが敗れ、サム達は絶望に打ちひしがれていた
それは、タバサ自身も同じであった
「(負けた…私が…。)」
幾多の任務をこなし、生還してきたのに…負けてしまった
此処で私は終わるのか…タバサはこの時、死を覚悟した
「さて…僕達が勝ったわけだけど…。」
戦いが終わり、プレセアとジーニアスはゆっくりとタバサの元へと歩いていく
タバサの杖をプレセアが拾い、ジーニアスがタバサと顔を合わせた
「あのさ…もう一度言うけど、お願いだから翼人達の住処を荒らすのは止めてくれないかな?」
「貴方達がこのまま帰れば、私達も彼等も危害を加えません…杖もお返しします。」
このまま命を奪われるかと思ったが、二人の申し出にタバサは驚いた
改めて二人を見つめ…やがて、疑問の言葉を口にする
「…貴方達は何者?何故翼人達の味方をする?」
「それ…普通最初に聞くものじゃないの?」
ジーニアスが呆れた口調で尋ねるが、タバサはジッと此方を見つめてくる
「まあ、村の人達のお願いで着たんだから仕方ないよね…僕達は…。」
「ジーニアス、プレセア!!」
ジーニアスが質問に答えようとすると、二人の名を呼ぶ声がした
その場にいる全員が声の方を見ると、向こうから走ってくる男の姿があった
「えっ、まさか…嘘、クラースさん!?」
現れたのはタバサの後を追って飛び降りたクラースだった
彼の登場にジーニアスとプレセアは驚いた表情を見せる
「間違いない、ジーニアス・セイジにプレセア・コンバティール…何故君達が此処に?」
「それはこっちの台詞だよ、何でクラースさんが…」
此方まで走ってくると、タバサそっちのけで彼等は話し合う
此処は君達の世界なのか、貴方の世界じゃないのですか、それとも…
目の前で交わされる会話に、タバサは混乱する
「(君達の世界、貴方の世界…一体何を言っている?)」
そんな時、ようやくクラースがタバサの方を向き、彼女がどんな状態であるかに気付いた
「タバサ、これは……まさか君達、彼女と戦ったのか?」
「う、うん…だって、いきなり攻撃を仕掛けてきたから…この子、クラースさんの仲間なの?」
「ああ、そうだ…二人とも、彼女を解放してくれないか?それから杖も返してやってくれ…頼む。」
「えっ、それは………うーん、まあクラースさんの仲間なら…プレセアは良いかな?」
クラースの申し出に困った表情でプレセアに尋ねると、彼女は頷いて答える
そして、ごめんねと謝りながらジーニアスはタバサの枷とした氷を溶かした
プレセアが杖を差し出すと、彼女は何も答えずに黙って受け取る
「すまなかったな、タバサ…まさか、知り合いがいるとは思わなかったんだ。」
大丈夫か…と心配して近寄るクラースから、タバサは一歩後ろに下がる
その表情には、疑いの眼差しが込められていた
「タバサ…?」
「貴方は…貴方は一体何者?何処から来た?」
「それは……何者かと聞かれても、私は遠い東の地から来た…。」
解っている、彼女の言いたい事は…彼女は頭も良いし、感も鋭い
それでも、クラースは誤魔化そうとするが、彼女の眼差しは解けない
「私は貴方なら母を元に戻せると思った…だから貴方に協力しようと思ったし、私の事を話した。」
でも…と言って、タバサはジーニアスとプレセアに視線を向ける
「彼等の仲間だというのなら、私は貴方に杖を向けなければならない。」
「それは………まいったな。」
どう答えれば良いか解らず、クラースは困った顔をしながら頭を掻くしかなかった
「騎士様…これは一体どういう事です?」
その時、見かねたサムがタバサに声を掛けてきた
後ろには、動けるようになった男達が二人ほど、同じように此方を疑るように見る
「その男はあんたの知り合いらしいが…その知り合いが、そのガキ共を知ってるってのはな…。」
「唯の偶然とも思えねぇなぁ…返答しだいじゃ、俺達も黙っちゃいねえですぜ?」
先ほどとは一転、責める口調で問いただしてくる
後ろの男達は、持っている武器を強く握り締め…一触即発の状況となった
「それは……。」
「うわあああああああ!!!!!!」
タバサが答えようとすると、後ろから男の悲鳴が聞こえてきた
声の主である男は上を見て驚いており、タバサ達もその視線の先を見る
すると、上空には翼を生やした男女が数人、此方を見ていた
「あれが翼人か…羽が生えている以外は人間そのままだな。」
翼人達を見ながらぽつり、とクラースは感想を漏らす
彼等は騒ぎが起こってからずっと此方の様子を見ており、今になって姿を現したのだ
やがて、彼等の中から一人、亜麻色の髪をした女性の翼人が此方に降りてきた
「あっ、アイーシャさん。」
ジーニアスとプレセアが彼女の傍へと駆け寄り、反対にサム達は恐れて後ろに引き下がる
アイーシャと呼ばれた翼人は、心配そうに二人を見つめる
「ジーニアス、プレセア…二人とも怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ…ちょっと予想外の事は起こったけどね。」
チラッとクラースとタバサ、両者を見ながらジーニアスは答える
クラースはその様子を見ながら、今の状況を整理する
「(そうか、昨日タバサが言っていたのはこの二人の事だったか…あの男じゃなくて良かったが…。)」
とはいえ、今の状況がとてもややこしい事であるのには変わりはない
どうしたものかと考えを纏めていき…ある一つの方法に至った
「………おい、この中で代表者は誰なんだ?」
クラースの問いに、戸惑いながらサムが前に出る…クラースはサムの方を向く
「…自己紹介が遅れたが、私はクラース・F・レスター…このガリア王国騎士のタバサ殿の友人だ。」
まずは自分達の素性を明らかにする…チラッと横目でタバサを見る
彼女はクラースの出方を見るようで、何も言わなかった…なので、そのまま話を続ける
「私は彼女の協力者として今回の君達の依頼に参加した…そして、あの二人は私の知り合いだ。」
その言葉に、サム達の間にどよめきが走るが、構わずクラースは更に話を続ける
「もし、良ければ…私達と彼等をエギンハイム村まで案内してくれないだろうか?」
「な、何だって!?」
サムが驚き、後ろからも批判の声が上がる…その為、クラースはもう少し大きい声で続きを喋る
「まだ私達は詳しい事情を把握できてはいない…だから、両者から話を聞きたい。そして…」
「貴方は…話し合いでこの件を解決するつもり?」
クラースの意図が解ったタバサが尋ねると、クラースはそうだ、と答えた
「ふざけんな、そんな事出来るわけが…。」
自分達に怪我させた相手と話なんか…感情的にサムは却下を言おうとした
が、クラースは引き下がらずにずいっと彼の前へ出る
「君達もその身をもって知っただろう、あの二人の力を…その上翼人まで相手にするつもりか?」
「そ、それは……。」
「このまま続ければ無駄死にだ…しかし、話し合いで決着がつけば、双方ともに死人は出ない。」
どうだ、と言われてサムはうーんと唸りながら考える
仲間達が見守る中、しばらく考えてようやくサムは口を開いた
「…解った、悔しいがあんたの言う通りだ…仕方ねぇけど、話し合いには応じてやるぜ。」
良いか、お前ら…とサムが声を掛け、男達は顔を見合わせる
しかし、この状況で戦っても勝ち目がない事は理解していたのでしぶしぶ了承した
彼等は傷ついた体を互いに支えあいながら、この場からの撤収を始める
「すまんな、こんな複雑な状況の中で私の意見を採用して貰って…。」
「全くだ、次から次へと…後でちゃんとした説明をしてもらうからな!!」
未だ納得しない様子を見せつつ、サムは倒れている仲間を担いでその場を後にする
彼等が先に行ってしまったのを見て溜息をつくと、クラースはジーニアスの方を振り向いた
「というわけで、君達は翼人達の代表というわけで来てもらう事になるが…構わないかな?」
「そう言われても、それで話が進んじゃったから断れないよ…アイーシャさんはこれで良い?」
「彼等が話し合いに応じてくれたのなら構わないわ…本当なら、貴方達にあの事を伝えて欲しかったのだけど…。」
アイーシャが落ち込んだ様子を見せると、その手をプレセアが優しく握った
「折角クラースさんが作ってくれた機会です…最後まで諦めてはいけません。」
「プレセア…ありがとう、その通りね。話し合いは貴方達に任せるわ。」
だから、お願いね…とアイーシャは優しく微笑み、プレセアは頷いて答える
これでこっちは大丈夫だ…後は、とクラースはタバサの方を振り向く
「タバサ…勝手に話を進めたが、これで良かったかな?」
「……交換条件。」
そう言って、タバサはクラースの瞳を覗き込む…透き通った瞳にクラースの顔が映る
「本当の事を話して欲しい。貴方が本当は何者で、何処から来たのかを…。」
「それは…まあ、君は私に全て話してくれたからな。私が話さないのはフェアではないか。」
少し困った表情を見せながら…クラースは真実を話す事にした
「別の世界から来た?」
エギンハイム村への道のりを歩きながら、クラースはタバサに自らの秘密を明かした
此処とは違う、別の世界からルイズに召喚された事を…少し驚いた様子を見せる
「ああ、そうだ…こんな事を言っても信じて貰えないだろうが、これが事実だ。」
「つまり、平行宇宙…色んな可能性によって成り立った世界が幾つも存在していて、その一つから僕等はやってきたんだ。」
クラースに続き、ジーニアスが説明を付け加える…こんな事を言っても信じてもらえないと思ったが
「この世界とは違う、別の世界から…そう。」
タバサは納得した様子で呟く…あっさり納得された事に、クラースとジーニアスは拍子抜けする
「えっと、その…今ので納得して貰えたのかな?」
「貴方達が別世界の人間なら決闘の事や先程の事も少しは納得出来る…それに、貴方達の瞳は嘘を言っていない。」
取り合えず納得したようだ…普通なら、頭が可笑しいとか嘘だと思われるだろうが
良かった、と安心するジーニアス…しかし、まだタバサは腑に落ちないといった顔をしていた
「でも…何故別世界同士の貴方達が交流を持っている?」
「ああ、それは…説明すると長くなるから簡単に言うと、もう一つ別の世界の人間に呼ばれたんだ。」
「滅茶苦茶になる世界を救って欲しいってね…その時にクラースさんや色んな人達と出会ったんだ。」
そう、自分達の旅が物語となって語り継がれる世界に
物語を歪める者達と戦い、その戦いの裏にあった真実…
そして、かつてその世界を震撼させた魔王との戦い…
「まあ、それは今度ゆっくり話そう…それでジーニアス、プレセア、君達も誰かに召喚されてこの世界に来たのか?」
この世界に来る方法がサモン・サーヴァントによるものだと思ったクラースは、二人もこの世界のメイジに呼ばれたのだと思った
しかし、クラースの質問にジーニアスは首を横に振る
「ううん、違うよ。僕達はエミ…えっと、ある人に頼まれて魔族の動向を探っていたんだ。」
「魔族?」
ジーニアスは頷くと、今度はこれまでの自分達の出来事を話し始めた
世界を巡る戦いの後、二人は仲間達と共に元の世界での旅を終わらせ、新たな旅路へと進んでいた
その旅路の中でも様々な問題が起こり、その一つが魔界にいる魔族達の侵攻だった
一度は食い止める事が出来たのだが、それでも諦めない魔族達は侵攻を画策していた
それを察知したある人物に依頼され、魔族の侵攻を防ごうと動いていた矢先…
「僕とプレセアが指定された場所に調査に行ったら、突然光に包まれたんだ…そして、気付いたら…。」
「この世界にやってきた…というわけだな。」
代わりに答えたクラースの言葉に頷くジーニアス…続いてプレセアが口を開いた
「途方に暮れていた私達を助けてくれたのが、アイーシャさんでした…彼女は此処に来た時に負った傷を癒し、食べ物も分けてくれました。」
「あの人は命の恩人だから、翼人達の手助けをしようと思ったんだ…それで、何度か村の人達と対立したりして…。」
「私とも…戦った。」
今度はタバサが答えると、ジーニアスは申し訳なさそうに彼女を見る
「ごめんね、手加減はしてたんだけど…随分君に酷い事しちゃったね。」
「構わない、貴方達は貴方達が正しいと思った事をしただけだから。」
そう言いつつも、タバサは内心悔しかった
あれだけの力量を見せながらも、彼等はまだ本気ではなかったというのだ
今回は運が良かったが、次もこうなるとは限らない
「(世界は広い…もっと強くなりたい…。)」
心の中でそう誓うタバサ…自然と、持っている杖を強く握った
「まあ、でも話し合いにもっていけたんだから良かったよ…成功しない可能性もあるけど。」
「ジーニアス、あまり後ろ向きに考えるのは止めましょう…これが失敗したら、アイーシャさん達は…。」
「う、うん…そうだね、何とかしなくちゃいけないよね。」
プレセアの言葉にそう答え、ジーニアスはしっかりと前を向く
「そうです、その調子です…それに、村には翼人達の事を理解してくれる人もいます。」
「ほぅ、そうなのか…それなら、話し合いも上手くいくかもしれないな。」
とはいえ、先程あんな事があったばかりだ…確実とはいえないだろう
今後の展開に不安を覚えつつも、クラースもまた村へ向かって歩き出した
『戦友との再会』
クラース「しかし、まさか此処で君達と再会できるとはな…何年ぶりだろうか。」
ジーニアス「時間の進みが同じか解らないけど…あれから3年くらいは経ってるかな。」
クラース「3年か、私と同じだな…通りで、二人とも背が伸びているわけだ。」
ジーニアス「へへっ、これでもあの頃より10センチくらい背が伸びたんだよ。」
クラース「それに、プレセアも…あの頃より雰囲気が変わったな。」
プレセア「はい…皆さんからは明るくなったと言われています。」
クラース「そうか…こんな私だが、家庭を持った…変わっていくのだな、皆…。」
ジーニアス「クラースさん、結婚したんだ…おめでとう。」
プレセア「おめでとうございます…もし、よろしければ何かお祝いの品を作りますが。」
クラース「いや、気持ちだけ受け取っておくよ…それよりもまず、目先の問題を解決しないとな。」
プレセア「そうですね、アイーシャさん達の為にも…頑張りましょう。」
『この世界のエルフとハーフエルフ』
ジーニアス「ねぇ、クラースさん…この世界にもエルフがいるんだよね?」
クラース「ああ、東の砂漠…聖地と呼ばれる場所を巡って、ハルケギニアの人々と対立しているらしい。」
ジーニアス「そうらしいよね…今回の事といい、異種族同士が対立するのは何処の世界も同じだね。」
クラース「自分達とは違う存在に恐れを抱くのは、ヒトの潜在意識なのかもしれないな。」
クラース「それよりジーニアス、君は大丈夫なのか?君は…。」
ジーニアス「うん、大丈夫…こんな容姿だから、僕の素性がばれるって事はないと思うよ。」
ジーニアス「それよりも…この世界にも、ハーフエルフっているのかなぁ?」
クラース「どうだろうな、対立しているわけだから…いたとしても、どうしているか…。」
ジーニアス「もし、この世界にもハーフエルフがいて、困っていたら…手助けしてあげたいな。」
プレセア「ジーニアス、私達は私達の世界があります…だから、何時かは帰らないと…。」
ジーニアス「解ってるよ…けど、この世界も僕達の世界みたいに…ミトスのような子が生まれる世界にはなって欲しくないんだ。」
プレセア「ジーニアス……。」
『レッツ・コミュニケーション』
ジーニアス「えっと、タバサ…だよね、僕達は…。」
タバサ「ジーニアス・セイジとプレセア・コンバティール…さっき彼が言っていた。」
ジーニアス「う、うん、そう…さっきは本当にごめんね、怪我させちゃって…。」
タバサ「それはもう気にしてない…貴方達は貴方達の最善をつくしたのだから…早く村に行く。」
ジーニアス「う、うん………うーん、中々会話が続かないなぁ。」
プレセア「ジーニアス…大丈夫です、貴方の言いたい事は彼女に伝わっている筈です。」
ジーニアス「プレセア…ありがとう、僕達も急がないとね。」
プレセア「はい………それにしても、あの子は…自分の心に鍵を掛けている。」
プレセア「それは、悲しい事なのに…どうして?」
『一応、世界認定の武器です』
タバサ「貴方の杖…変った形をしている。」
ジーニアス「これ?違うよ、これは杖じゃなくて剣玉っていって、僕達の世界の玩具なんだ。」
タバサ「…玩具?」
ジーニアス「そう、こうやってカン、カン、カンって…こんな具合に遊ぶんだ。」
タバサ「何故…玩具を武器に?」
ジーニアス「これだと、精神集中しやすいからかな…後、この玉で敵を攻撃したりするし。」
タバサ「玩具…私は玩具に負けた……。」
ジーニアス「え、えっと…大丈夫、タバサ?」
プレセア「精神的ダメージを受けたようです…やはりその武器で戦うジーニアスは凄いですね。」
ジーニアス「…ごめん、褒められても嬉しくないよ、この場合。」
『遅れて登場がヒーローのお約束?』
クラース「しかし、すまなかったな皆…私がもう少し早く来ていれば、戦わずにすんだのだが。」
タバサ「すんでしまった事をとやかく言っても仕方ない…だけど、何故遅くなった?」
クラース「いやぁ、それが…風が思ったより強くてな、遠くの方に吹き飛ばされたんだ。」
クラース「何とか着地は出来たんだが、場所が悪くてな…鳥達の巣だった。」
クラース「卵泥棒と勘違いされて、散々追い回されて…やっと逃げきれた時にあの場所へ到着したというわけだ。」
タバサ・ジーニアス・プレセア「………。」
クラース「な、何だ君達その目は…あの鳥達の嘴から逃げるのは大変だったんだぞ。」
ジーニアス「…いこうか。」
プレセア「そうですね。」
タバサ「………。」
クラース「お、おい、ちょっと待て。この歳でそんな反応されると辛いんだぞ…おーい。」
#navi(TALES OF ZERO)
#navi(TALES OF ZERO)
&setpagename(第五話 人と翼人と異邦人とハーフエルフ 前編1)
第五話 人と翼人と異邦人とハーフエルフ
翌日の早朝…ガリア王国アルデラ地方エギンハイム村
まだ鶏も鳴かないこの朝早くから、ぞろぞろと森へ入っていく男達の集団があった
彼等が向かう先は…
「おい、皆…準備は良いか!!」
男達のリーダー格である、体格の良い男が皆に掛け声をあげる
彼の名はサム…この村の村長の息子で、村一番の力の持ち主だ
「おお、今日という今日はもう我慢ならねぇ!!」
「俺達は待った…領主様が王宮に騎士を派遣するよう頼むってのを!!」
「だけど、肝心の騎士は全然来ない…領主様も騎士もあてになんねぇ!!」
「このままじゃ、俺達は飢え死にだ…やるしかねぇんだ!!」
そうだそうだ、と屈強な男達は口々に叫ぶ
何ヶ月も待たされ続けた彼等は、自分達だけで翼人退治をしようとしていたのだ
「よーし、その粋だ…いいか、今日こそ翼人共を皆殺しにするんだ!!」
おお~~~、とサムの声に対して男達は雄叫びを上げる
しかし、その中の数人は、少し怯えた様子を見せていた
「け、けどよサム…もし、魔法を使われたり…あいつ等が出てきたらどうするんだ?」
「なーに、寝込みを一気に襲っちまえばこっちのもんよ、魔法を使われねぇうちに倒しちまうんだ。」
じゃあ、行くぞ…と、サムは声をかけて男達と共に森の中へ入ろうとした
だが、その矢先に一人の男が彼等の行く手を遮った
「待ってよ、皆待って…サム兄さんも。」
「ヨシア、お前…。」
彼等を遮ったのは、サムの弟であるヨシアという青年だった
弟を睨み付けるサムだが、彼は一歩も引かない
「何で同じ森の仲間同士で争うんだよ、もっと話し合えば…。」
「仲間だぁ!?何馬鹿な事を言ってやがる!!」
サムはヨシアに近づくと、その襟首を掴んで黙らせようとする
「良いか、奴等は鳥だ…鳥を殺って何が悪い。それに、問答無用で魔法をぶっぱなすあいつ等とどう話せってんだ?」
「そ、それは…僕達が最初に彼等に矢を射掛けたから…。」
チッ、と舌打ちをすると、サムはヨシアを横へ突き飛ばした
兄に比べて体の細い弟は、そのまま地面に尻餅をついてしまう
「ヨシア、仲間ってのは柵の内側にいる人間の事だ…お前も親父の息子なら、もっと仲間の事を考えろ!!」
弟にそう言い放つと、サムは男達を率いて翼人達の所へ向かった
誰もがヨシアに振り返る事無く、森の奥へと進んでいき、やがて見えなくなった
彼等が去っていくのを見る事しかできず、ヨシアは拳を地面に打ち付けた
………………
「よーし、ついたぞ…奴等はまだ寝ているようだな。」
村から三十分程離れたライカ欅の森…その中で一際大きい欅の前でサム達は止まる
その欅こそが、翼人たちが住処として使っているものだった
「良いか、俺がこいつを投げつける…んで、落ちてきた所を一気に仕留めるんだ。」
作戦の最終確認を行うサム…彼の横には大岩があった
全員が理解しているのを確認すると、ボキボキと手を鳴らした
「じゃあ、行くぞ…奴等に人間様の力を思い知らせてやる。」
そう言って、サムは大岩を持ち上げて…ライカ欅に向かって投げつけた
勢いよく投げられた大岩は、本来ならそのまま幹にぶつかる筈だったが、それを一つの影が遮った
それは持っている物を一閃し、大岩を真っ二つに切断する
「な、何!?」
サムは驚いた…自分が投げた大岩が切断された事に
そして、その間から見えた巨大な斧を見て、彼は自分の斧を構えた
「畜生、出やがったな…この野郎!!」
「野郎というのは不適格です…私は女ですから。」
サムの言葉に対し、巨大な斧を持った人物は冷静な声で答える
彼等の目の前にいる人物は、ピンクのツインテールをした女の子だった
一方、その頃…黒い森の上空にイルククゥの姿があった
もうそろそろ日が昇るこの時間帯に、ようやくタバサ達は目的地に到着した
「此処が黒い森なのね、もうすぐ目的地に到着するのね♪」
目的地が目と鼻の先である事に、イルククゥはウキウキしながら喋る
何せ朝早い時間に起こされ、朝ごはんも食べずに出発したのだ
村についたら、腹一杯食べるつもりである
「静かに…彼が眠っている。」
はしゃいでいるイルククゥをタバサは宥めると、後ろを振り返る
彼女の後ろには、突起したイルククゥの背骨にもたれているクラースの姿があった
「………………。」
クラースは落ちないように体を固定した状態で、眠っている
一晩中火の番をしていたので、到着までの間仮眠を取っていた
「そうなのね…でも、もう着いたから起こすのね。」
「まだ駄目…村に到着するまで…。」
「う、うーん……。」
二人が話していると、クラースから唸り声が聞こえてくる
起こしてしまったか…もう一度後ろを振り返るが、クラースはまだ眠っていた
「絶対…帰る方法見つけてやるからな…才人…待ってろよ…ミラルド…。」
今度はぶつぶつと、寝言を呟く…最後の方で呟いた名前は女性のようだ
この人は夢の中でも、帰る方法を探しているのだろう
使い魔の少年の為に…待っている人の為に
「………頑張って。」
そんなクラースに向けてぽつりと、タバサは励ましの言葉を送った
偶然か、それを聞いたクラースの寝顔が若干和らいだ
「ちびすけ、大変なのね!!」
その時、自分を呼ぶイルククゥの声が聞こえ、反射的にタバサは下を見る、s
すると、眼下の森で煙が上がっており、大きな木が一本倒れるのが見えた
「あれは……人間が戦っているのね。」
目が良いイルククゥは、眼下の森で何が起こっている
どうやら、村人が自分達の到着を待てずに翼人に戦いを挑んだようだ
「どうするのね、ちびすけ?」
「放ってはおけない…私は先に降りる。」
そう言うと、タバサはイルククゥから飛び降りて地上へと降下を始めた
勿論、地面と接触する寸前に『フライ』を唱えるつもりだ
「え、えっと…私はどうすれば良いのね!?」
残されたイルククゥは叫ぶが、もうタバサは下の方まで降りている
おろおろしていると、騒動を聞いたクラースがゆっくりと覚醒する
「ん…ん~~~、眠ってしまったなぁ。」
目を覚ましたクラースは首を回し、肩も回す…その度に、ポキポキと音がなった
「初めて竜の背中で眠ったが…眠り心地はあまりよくなかったな。」
「余計なお世話なのね…それより大変なのね!!」
「おお、イルククゥか…タバサは何処だ?もう目的地についたのか?」
「もうとっくに着いてるのね、ちびすけは先に下に降りてるのね。」
イルククゥが質問に答えると、クラースは体を固定していたロープを外し、下を見る
眼下の森では、既に戦いが始まっている事を確認する
「もう始まっているのか、早まった事を…これは、急がないと不味いな。」
「そうなのね、それで私達はどうすれば良い?」
「そうだな…私も下に降りる、君は此処で待機だ。」
「わ…解ったのね。」
イルククゥに指示を与え、クラースもまた下へと飛び降りる
勿論、地面にぶつかる前にシルフを呼び出すつもりだ
風をその身で感じながら、クラースの体は大地へと落ちていった
「畜生、こんな…こんな筈が……。」
地面に片膝をつくサムは、目の前の光景に愕然とする
戦いが始まってからしばらく経って…仲間達は全員地面に倒れ、呻き声をあげていた
全員が軽い傷を負っただけで、死人や重傷者は出ていない
「何で、負けるんだよ…こんなガキ共に!!」
そう叫んで、サムは目の前にいる二人組を睨み付ける
片方は先程サムの投げた岩を斬った少女で、もう片方は少年だった
髪は銀髪で、手には見た事もない武器のようなものを持っている
「もう、これで十分だよね…お願いだから、引き上げてくれないかな?」
銀髪の少年がサムに向けて、引き上げるよう勧める
少女の後に現れたこの少年は、メイジと同じように魔法を使ってきた
仲間達は少年の魔法と少女の斧に抗う事が出来ず、皆やられてしまった
「くそ、ガキのくせに…俺達の邪魔すんじゃねぇ!!」
持っている斧を杖代わりに立ち上がると、サムはそれを二人に向ける
どうしても、やる気らしい
「無駄です…今のこの状況で貴方が勝てる確立は皆無です。」
「うおおおおおっ!!!!!!」
少女の言葉を無視して、サムは斧を持って突っ込んでいく
斧が振り下ろされる直前、少女は持っている自分の斧を振るった
彼女の斧はサムの斧を砕き、彼を後ろへと吹き飛ばす
「うっ、げほげほ……くそ…ま、まだだ…。」
力の差を見せ付けられても、サムはまだ立ち上がる
傍に落ちていた仲間の斧を拾い、ふらふらと二人に向かって歩き出す
「もう、分からず屋だなぁ…プレセア、どうする?」
「ジーニアス…仕方ありません、解らせるまで戦いましょう。」
だね、と答えると二人は自分の持っている武器を構える
二人がサムに攻撃を仕掛けようとしたその時、上の方から声が聞こえてきた
幼い少女のような声が二人の耳に届き…その直後、雪風が二人を襲う
「うわっ!?」
激しい雪風が二人に向かって襲い掛かるが、間一髪で二人は雪風から逃れる
そして、片方の少女…プレセアが即座に上を見上げた
「ジーニアス、上です。」
彼女の言葉に、銀髪の少年…ジーニアスも上を見上げる
上空から、杖を構えた少女…タバサが降りてくるのが見えた
彼女は『フライ』の呪文を使って、ゆっくりと二人の前に降り立つ
「君は…まさか、今のは君がやったの?」
ジーニアスが尋ねるが、タバサは答えずに杖を構えて詠唱を始める
杖の先端から突風が起こり、二人に襲い掛かる
「あっ…え、エアスラスト!!!」
即座にジーニアスは呪文を唱え、自分達の前に風の刃を発生させる
タバサの突風とジーニアスの風の刃はぶつかりあい、互いに相殺する
「あ、危なかった…いきなり魔術を使ってくるなんて、あの子は一体…。」
「お、おお…騎士様だ、領主様がお城に頼んでいた騎士様が来てくださったんだ!!」
ジーニアスの疑問に答えるように、倒れていた男がそう言った
それを聞いた他の男達もサムも、活気を取り戻す
「あんな子どもが…でも、さっきの雪風は確かに魔法だった。」
「やったぜ、騎士様が来てくれれば怖いものなしだ!!」
「騎士様、そんなガキ共やっつけてください!!」
騎士なんか当てにならないと言っていた男達は口々にタバサを賞賛し、応援する
子どもとはいえ、メイジである彼女の魔法を目の当たりにして、考えが変わったのだろう
「騎士って…もしかしてあの子、メイジって事?」
「そのようです…ジーニアス、気を引き締めて戦いましょう。」
「う、うん…相手が誰であれ、僕達は負けるわけにはいかないもんね。」
話し合った後、二人はタバサに向かって構えをとった
対峙するタバサも、杖を向けながら状況を分析する
「(あれが、衛兵が言っていた…正体は二人組の子どもだった…。)」
自分と同い年くらいの少年少女…だが、そんな二人が後ろにいる男達を倒したのだ
油断してはいけない、詮索は後で…タバサは杖を握り締め、二人を見据える
彼等が対峙して少し経った後…最初に動いたのはタバサだった
素早く魔法の詠唱を行い、突風を起こして二人を襲う
だが、二人はそれを散開して難なく避ける
「中々の魔法だね、だけど僕だって負けないよ…ファイアボール!!!」
ジーニアスが持っている武器を構えると、無数の火の玉が出現する
火の玉…ファイアボールは目標であるタバサ目掛けて飛んでいく
それをタバサは氷の刃を飛ばし、相殺する
「爆砕斬!!」
その間に間合いに入り込んだプレセアが、斧を振り下ろした
タバサはバックステップで避けるが、振り下ろされた斧は地面を砕く
砕かれた土は周囲に飛び散り、タバサの頬を掠める…血が流れた
「(此方は一人、相手は二人…力量から考えて、此方が不利…。)」
シュヴァリエとして幾多の経験をつんだタバサは今の手合わせから、長引けば此方が負ける事を悟った
少女は自分の体格程の斧を軽々と扱い、少年は魔法を見事に操っている
それに、彼等は巧みな連携によって、戦力を上げている
「(まずは後衛を倒さなければ…。)」
流れる血を拭うと、ターゲットをジーニアスに絞り、タバサは詠唱を開始した
杖の先から竜巻が発生し、ジーニアスへ向かっていく
「エアブレイド!!!」
対するジーニアスは即座に詠唱を唱え、圧縮された空気の塊を放った
その刃はタバサの竜巻を切り裂いて彼女を狙うが、当たる直前に避ける…
「そこです。」
が、そこへ斧を振りかぶったプレセアが攻撃してくる
一撃、二撃、三撃と見た目よりも素早い攻撃を紙一重で避ける
「続けていくよ、フレイムランス!!」
ようやくプレセアの追撃を逃れた所に、今度は炎の槍が襲い掛かってきた
タバサは風で障壁をつくり、炎の槍を直前で受け止める
「前からが駄目なら、下からだ…グレイブ!!」
間髪入れずにジーニアスが素早い詠唱を終えると、タバサの足元から鋭い岩石の槍が襲ってくる
幸いすぐに回避行動に出た為軽い傷を受けただけだったが、これによって風の障壁は消えた
遮られていた炎の槍はまだ消えておらず、壁が無くなった事でタバサへと飛んでいく
「!!」
タバサがそれに気づいた時…槍は彼女の傍の地面に着弾した
同時に爆発が起こり、激しい土煙が舞う
「き、騎士様が…。」
次元の違う戦いに見守る事しか出来ないサム達は、この時タバサが負けたと思った
ジーニアスとプレセアは、土煙で見えなくなったタバサの動向を探っている
「やったかな…威力は弱めてるけど、あれを喰らったら立てない筈だよ。」
「………。」
ジーニアスの言葉に対して何も答えず、プレセアはじっと土煙を見つめる
何も起こらない…かと思われたその時、目の前の土煙が不自然に揺らいだように見えた
「!!」
それを察知したプレセアが斧を構えると、煙の中から巨大な氷の槍が現れた
ライン・スペルの一つ、ジャベリン…その氷の槍は、プレセアを狙っている
「はっ!!」
プレセアは構えていた斧を振り払い、氷の槍を打ち砕いた
もう少し構えるのが遅ければ、串刺しになった所である
「プレセア……ええい!!」
ジーニアスは土煙を睨むと、風を操ってそれを吹き飛ばす
あっという間に土煙は消え、隠れていたものが明らかになり…
「…………。」
そこには未だに立っているタバサの姿があった
だが、無傷であるとは言えず、先程の攻撃で所々ボロボロになっている
彼女はそれを気にせず杖を構え、スペルを唱える
「危ない!!」
再び雪風が舞い、二人目掛けて襲ってくる
それを避けながら、プレセアもジーニアスも次の攻め手を考えた
「(思ったよりダメージが大きい…これ以上続ければ、確実に負ける…。)」
タバサもまた、この二人に勝つ方法を考えていた
無表情であるが、先程のフレイムランスの一撃がかなり効いており、痛みを感じている
ロアから貰った薬を使いたい所だが、この二人相手に隙は見せられない
「孤月閃!!」
そこにプレセアが攻撃を仕掛け、タバサは一度思考を中断する
後ろに下がると、プレセアに向けて杖を構える
「ラナ・デル・ウィンデ…。」
そしてスペルを唱えてエア・ハンマーを発動し、彼女を攻撃する
放たれた魔法は、真っ直ぐ彼女目掛けて飛んでいくが…
「獅吼滅龍閃!!!」
プレセアは斧を振り回し、迫りくる空気の塊に向かって闘気を放った
闘気は獅子の形となって、タバサのエア・ハンマーを打ち砕く
「……っ!?」
流石のタバサも、これには驚きを隠せなかった…自分の魔法が獅子によって打ち砕かれたのだ
あれは一体…そう考えている間にもプレセアは斧を構え、此方に向かって再度攻撃を仕掛けてくる
これ以上ダメージを負うのは危険だ…タバサは攻撃を避け続ける
「プレセア、下がって……燃えちゃえー、イラプション!!!」
ジーニアスの声でプレセアが一度退くと、タバサは足元が熱くなるのを感じた
危険を察知して即座にフライを唱えて飛び上がると、自分のいた地面が噴火を始める
その様子を見ながら、タバサは木の枝に乗り移った
「(此処まで来れば、攻撃は出来ない筈…。)」
そして、タバサは冷静に現在の状況を分析する…あの二人は、自分の想像以上だった
どうやって、あの二人を倒せば良いのか…タバサは思考を巡らせる
「(………やはり、彼の力を借りる必要がある。)」
考えた結果、彼等に勝つにはクラースの助力が必要であるという結論に至った
彼が来るまで、何とか持ちこたえないと…
「ああ、あんな高い所に…プレセア、どうしようか?」
「少し乱暴ですが…無理やり降りてもらいます。」
その間にも、下にいる二人は次の行動へと移ろうとしていた
プレセアが目で合図を送ると、それを理解したジーニアスが詠唱を始める
彼女は斧を構え、その時が来るのを待つ
「………よし、プレセア、行くよ!!!」
「はい…全てを屠る、この一撃…」
互いに準備を整え、ジーニアスが魔法を唱えた…その力は、プレセアの斧に宿る
彼女は斧を振り上げると、タバサがいる木に向かって…
「「クリティカル・ブレード!!!」」
斧を振り払った…その一撃は、目の前の大木を屠る
タバサは自分が乗っている木が倒れるのを感じ、枝から飛び降りた
二人から離れた所に降り立ち、杖をかまえようとするが…
「ジーニアス、動きを。」
「解った…アイシクル!!」
ジーニアスが先に呪文を唱え、それによってタバサの足元が凍ってしまう
それでも呪文を唱えようと、杖を向けるが…
「アイスニードル!!!」
それを許さないジーニアスの氷の刃が、杖を弾き飛ばす
自由を奪われ、杖も手から離れ…タバサは完全に無力化された
「や、やっと終わった…確か、メイジは杖がないと魔法が使えないんだよね?」
「その筈です…これで私達の勝ちです。」
プレセアの言葉を受け、ジーニアスが良かったと胸を撫で下ろす
「騎士様が…騎士様が負けちまった…。」
最後の希望であったタバサが敗れ、サム達は絶望に打ちひしがれていた
それは、タバサ自身も同じであった
「(負けた…私が…。)」
幾多の任務をこなし、生還してきたのに…負けてしまった
此処で私は終わるのか…タバサはこの時、死を覚悟した
「さて…僕達が勝ったわけだけど…。」
戦いが終わり、プレセアとジーニアスはゆっくりとタバサの元へと歩いていく
タバサの杖をプレセアが拾い、ジーニアスがタバサと顔を合わせた
「あのさ…もう一度言うけど、お願いだから翼人達の住処を荒らすのは止めてくれないかな?」
「貴方達がこのまま帰れば、私達も彼等も危害を加えません…杖もお返しします。」
このまま命を奪われるかと思ったが、二人の申し出にタバサは驚いた
改めて二人を見つめ…やがて、疑問の言葉を口にする
「…貴方達は何者?何故翼人達の味方をする?」
「それ…普通最初に聞くものじゃないの?」
ジーニアスが呆れた口調で尋ねるが、タバサはジッと此方を見つめてくる
「まあ、村の人達のお願いで着たんだから仕方ないよね…僕達は…。」
「ジーニアス、プレセア!!」
ジーニアスが質問に答えようとすると、二人の名を呼ぶ声がした
その場にいる全員が声の方を見ると、向こうから走ってくる男の姿があった
「えっ、まさか…嘘、クラースさん!?」
現れたのはタバサの後を追って飛び降りたクラースだった
彼の登場にジーニアスとプレセアは驚いた表情を見せる
「間違いない、ジーニアス・セイジにプレセア・コンバティール…何故君達が此処に?」
「それはこっちの台詞だよ、何でクラースさんが…」
此方まで走ってくると、タバサそっちのけで彼等は話し合う
此処は君達の世界なのか、貴方の世界じゃないのですか、それとも…
目の前で交わされる会話に、タバサは混乱する
「(君達の世界、貴方の世界…一体何を言っている?)」
そんな時、ようやくクラースがタバサの方を向き、彼女がどんな状態であるかに気付いた
「タバサ、これは……まさか君達、彼女と戦ったのか?」
「う、うん…だって、いきなり攻撃を仕掛けてきたから…この子、クラースさんの仲間なの?」
「ああ、そうだ…二人とも、彼女を解放してくれないか?それから杖も返してやってくれ…頼む。」
「えっ、それは………うーん、まあクラースさんの仲間なら…プレセアは良いかな?」
クラースの申し出に困った表情でプレセアに尋ねると、彼女は頷いて答える
そして、ごめんねと謝りながらジーニアスはタバサの枷とした氷を溶かした
プレセアが杖を差し出すと、彼女は何も答えずに黙って受け取る
「すまなかったな、タバサ…まさか、知り合いがいるとは思わなかったんだ。」
大丈夫か…と心配して近寄るクラースから、タバサは一歩後ろに下がる
その表情には、疑いの眼差しが込められていた
「タバサ…?」
「貴方は…貴方は一体何者?何処から来た?」
「それは……何者かと聞かれても、私は遠い東の地から来た…。」
解っている、彼女の言いたい事は…彼女は頭も良いし、感も鋭い
それでも、クラースは誤魔化そうとするが、彼女の眼差しは解けない
「私は貴方なら母を元に戻せると思った…だから貴方に協力しようと思ったし、私の事を話した。」
でも…と言って、タバサはジーニアスとプレセアに視線を向ける
「彼等の仲間だというのなら、私は貴方に杖を向けなければならない。」
「それは………まいったな。」
どう答えれば良いか解らず、クラースは困った顔をしながら頭を掻くしかなかった
「騎士様…これは一体どういう事です?」
その時、見かねたサムがタバサに声を掛けてきた
後ろには、動けるようになった男達が二人ほど、同じように此方を疑るように見る
「その男はあんたの知り合いらしいが…その知り合いが、そのガキ共を知ってるってのはな…。」
「唯の偶然とも思えねぇなぁ…返答しだいじゃ、俺達も黙っちゃいねえですぜ?」
先ほどとは一転、責める口調で問いただしてくる
後ろの男達は、持っている武器を強く握り締め…一触即発の状況となった
「それは……。」
「うわあああああああ!!!!!!」
タバサが答えようとすると、後ろから男の悲鳴が聞こえてきた
声の主である男は上を見て驚いており、タバサ達もその視線の先を見る
すると、上空には翼を生やした男女が数人、此方を見ていた
「あれが翼人か…羽が生えている以外は人間そのままだな。」
翼人達を見ながらぽつり、とクラースは感想を漏らす
彼等は騒ぎが起こってからずっと此方の様子を見ており、今になって姿を現したのだ
やがて、彼等の中から一人、亜麻色の髪をした女性の翼人が此方に降りてきた
「あっ、アイーシャさん。」
ジーニアスとプレセアが彼女の傍へと駆け寄り、反対にサム達は恐れて後ろに引き下がる
アイーシャと呼ばれた翼人は、心配そうに二人を見つめる
「ジーニアス、プレセア…二人とも怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ…ちょっと予想外の事は起こったけどね。」
チラッとクラースとタバサ、両者を見ながらジーニアスは答える
クラースはその様子を見ながら、今の状況を整理する
「(そうか、昨日タバサが言っていたのはこの二人の事だったか…あの男じゃなくて良かったが…。)」
とはいえ、今の状況がとてもややこしい事であるのには変わりはない
どうしたものかと考えを纏めていき…ある一つの方法に至った
「………おい、この中で代表者は誰なんだ?」
クラースの問いに、戸惑いながらサムが前に出る…クラースはサムの方を向く
「…自己紹介が遅れたが、私はクラース・F・レスター…このガリア王国騎士のタバサ殿の友人だ。」
まずは自分達の素性を明らかにする…チラッと横目でタバサを見る
彼女はクラースの出方を見るようで、何も言わなかった…なので、そのまま話を続ける
「私は彼女の協力者として今回の君達の依頼に参加した…そして、あの二人は私の知り合いだ。」
その言葉に、サム達の間にどよめきが走るが、構わずクラースは更に話を続ける
「もし、良ければ…私達と彼等をエギンハイム村まで案内してくれないだろうか?」
「な、何だって!?」
サムが驚き、後ろからも批判の声が上がる…その為、クラースはもう少し大きい声で続きを喋る
「まだ私達は詳しい事情を把握できてはいない…だから、両者から話を聞きたい。そして…」
「貴方は…話し合いでこの件を解決するつもり?」
クラースの意図が解ったタバサが尋ねると、クラースはそうだ、と答えた
「ふざけんな、そんな事出来るわけが…。」
自分達に怪我させた相手と話なんか…感情的にサムは却下を言おうとした
が、クラースは引き下がらずにずいっと彼の前へ出る
「君達もその身をもって知っただろう、あの二人の力を…その上翼人まで相手にするつもりか?」
「そ、それは……。」
「このまま続ければ無駄死にだ…しかし、話し合いで決着がつけば、双方ともに死人は出ない。」
どうだ、と言われてサムはうーんと唸りながら考える
仲間達が見守る中、しばらく考えてようやくサムは口を開いた
「…解った、悔しいがあんたの言う通りだ…仕方ねぇけど、話し合いには応じてやるぜ。」
良いか、お前ら…とサムが声を掛け、男達は顔を見合わせる
しかし、この状況で戦っても勝ち目がない事は理解していたのでしぶしぶ了承した
彼等は傷ついた体を互いに支えあいながら、この場からの撤収を始める
「すまんな、こんな複雑な状況の中で私の意見を採用して貰って…。」
「全くだ、次から次へと…後でちゃんとした説明をしてもらうからな!!」
未だ納得しない様子を見せつつ、サムは倒れている仲間を担いでその場を後にする
彼等が先に行ってしまったのを見て溜息をつくと、クラースはジーニアスの方を振り向いた
「というわけで、君達は翼人達の代表というわけで来てもらう事になるが…構わないかな?」
「そう言われても、それで話が進んじゃったから断れないよ…アイーシャさんはこれで良い?」
「彼等が話し合いに応じてくれたのなら構わないわ…本当なら、貴方達にあの事を伝えて欲しかったのだけど…。」
アイーシャが落ち込んだ様子を見せると、その手をプレセアが優しく握った
「折角クラースさんが作ってくれた機会です…最後まで諦めてはいけません。」
「プレセア…ありがとう、その通りね。話し合いは貴方達に任せるわ。」
だから、お願いね…とアイーシャは優しく微笑み、プレセアは頷いて答える
これでこっちは大丈夫だ…後は、とクラースはタバサの方を振り向く
「タバサ…勝手に話を進めたが、これで良かったかな?」
「……交換条件。」
そう言って、タバサはクラースの瞳を覗き込む…透き通った瞳にクラースの顔が映る
「本当の事を話して欲しい。貴方が本当は何者で、何処から来たのかを…。」
「それは…まあ、君は私に全て話してくれたからな。私が話さないのはフェアではないか。」
少し困った表情を見せながら…クラースは真実を話す事にした
「別の世界から来た?」
エギンハイム村への道のりを歩きながら、クラースはタバサに自らの秘密を明かした
此処とは違う、別の世界からルイズに召喚された事を…少し驚いた様子を見せる
「ああ、そうだ…こんな事を言っても信じて貰えないだろうが、これが事実だ。」
「つまり、平行宇宙…色んな可能性によって成り立った世界が幾つも存在していて、その一つから僕等はやってきたんだ。」
クラースに続き、ジーニアスが説明を付け加える…こんな事を言っても信じてもらえないと思ったが
「この世界とは違う、別の世界から…そう。」
タバサは納得した様子で呟く…あっさり納得された事に、クラースとジーニアスは拍子抜けする
「えっと、その…今ので納得して貰えたのかな?」
「貴方達が別世界の人間なら決闘の事や先程の事も少しは納得出来る…それに、貴方達の瞳は嘘を言っていない。」
取り合えず納得したようだ…普通なら、頭が可笑しいとか嘘だと思われるだろうが
良かった、と安心するジーニアス…しかし、まだタバサは腑に落ちないといった顔をしていた
「でも…何故別世界同士の貴方達が交流を持っている?」
「ああ、それは…説明すると長くなるから簡単に言うと、もう一つ別の世界の人間に呼ばれたんだ。」
「滅茶苦茶になる世界を救って欲しいってね…その時にクラースさんや色んな人達と出会ったんだ。」
そう、自分達の旅が物語となって語り継がれる世界に
物語を歪める者達と戦い、その戦いの裏にあった真実…
そして、かつてその世界を震撼させた魔王との戦い…
「まあ、それは今度ゆっくり話そう…それでジーニアス、プレセア、君達も誰かに召喚されてこの世界に来たのか?」
この世界に来る方法がサモン・サーヴァントによるものだと思ったクラースは、二人もこの世界のメイジに呼ばれたのだと思った
しかし、クラースの質問にジーニアスは首を横に振る
「ううん、違うよ。僕達はエミ…えっと、ある人に頼まれて魔族の動向を探っていたんだ。」
「魔族?」
ジーニアスは頷くと、今度はこれまでの自分達の出来事を話し始めた
世界を巡る戦いの後、二人は仲間達と共に元の世界での旅を終わらせ、新たな旅路へと進んでいた
その旅路の中でも様々な問題が起こり、その一つが魔界にいる魔族達の侵攻だった
一度は食い止める事が出来たのだが、それでも諦めない魔族達は侵攻を画策していた
それを察知したある人物に依頼され、魔族の侵攻を防ごうと動いていた矢先…
「僕とプレセアが指定された場所に調査に行ったら、突然光に包まれたんだ…そして、気付いたら…。」
「この世界にやってきた…というわけだな。」
代わりに答えたクラースの言葉に頷くジーニアス…続いてプレセアが口を開いた
「途方に暮れていた私達を助けてくれたのが、アイーシャさんでした…彼女は此処に来た時に負った傷を癒し、食べ物も分けてくれました。」
「あの人は命の恩人だから、翼人達の手助けをしようと思ったんだ…それで、何度か村の人達と対立したりして…。」
「私とも…戦った。」
今度はタバサが答えると、ジーニアスは申し訳なさそうに彼女を見る
「ごめんね、手加減はしてたんだけど…随分君に酷い事しちゃったね。」
「構わない、貴方達は貴方達が正しいと思った事をしただけだから。」
そう言いつつも、タバサは内心悔しかった
あれだけの力量を見せながらも、彼等はまだ本気ではなかったというのだ
今回は運が良かったが、次もこうなるとは限らない
「(世界は広い…もっと強くなりたい…。)」
心の中でそう誓うタバサ…自然と、持っている杖を強く握った
「まあ、でも話し合いにもっていけたんだから良かったよ…成功しない可能性もあるけど。」
「ジーニアス、あまり後ろ向きに考えるのは止めましょう…これが失敗したら、アイーシャさん達は…。」
「う、うん…そうだね、何とかしなくちゃいけないよね。」
プレセアの言葉にそう答え、ジーニアスはしっかりと前を向く
「そうです、その調子です…それに、村には翼人達の事を理解してくれる人もいます。」
「ほぅ、そうなのか…それなら、話し合いも上手くいくかもしれないな。」
とはいえ、先程あんな事があったばかりだ…確実とはいえないだろう
今後の展開に不安を覚えつつも、クラースもまた村へ向かって歩き出した
『戦友との再会』
クラース「しかし、まさか此処で君達と再会できるとはな…何年ぶりだろうか。」
ジーニアス「時間の進みが同じか解らないけど…あれから3年くらいは経ってるかな。」
クラース「3年か、私と同じだな…通りで、二人とも背が伸びているわけだ。」
ジーニアス「へへっ、これでもあの頃より10センチくらい背が伸びたんだよ。」
クラース「それに、プレセアも…あの頃より雰囲気が変わったな。」
プレセア「はい…皆さんからは明るくなったと言われています。」
クラース「そうか…こんな私だが、家庭を持った…変わっていくのだな、皆…。」
ジーニアス「クラースさん、結婚したんだ…おめでとう。」
プレセア「おめでとうございます…もし、よろしければ何かお祝いの品を作りますが。」
クラース「いや、気持ちだけ受け取っておくよ…それよりもまず、目先の問題を解決しないとな。」
プレセア「そうですね、アイーシャさん達の為にも…頑張りましょう。」
『この世界のエルフとハーフエルフ』
ジーニアス「ねぇ、クラースさん…この世界にもエルフがいるんだよね?」
クラース「ああ、東の砂漠…聖地と呼ばれる場所を巡って、ハルケギニアの人々と対立しているらしい。」
ジーニアス「そうらしいよね…今回の事といい、異種族同士が対立するのは何処の世界も同じだね。」
クラース「自分達とは違う存在に恐れを抱くのは、ヒトの潜在意識なのかもしれないな。」
クラース「それよりジーニアス、君は大丈夫なのか?君は…。」
ジーニアス「うん、大丈夫…こんな容姿だから、僕の素性がばれるって事はないと思うよ。」
ジーニアス「それよりも…この世界にも、ハーフエルフっているのかなぁ?」
クラース「どうだろうな、対立しているわけだから…いたとしても、どうしているか…。」
ジーニアス「もし、この世界にもハーフエルフがいて、困っていたら…手助けしてあげたいな。」
プレセア「ジーニアス、私達は私達の世界があります…だから、何時かは帰らないと…。」
ジーニアス「解ってるよ…けど、この世界も僕達の世界みたいに…ミトスのような子が生まれる世界にはなって欲しくないんだ。」
プレセア「ジーニアス……。」
『レッツ・コミュニケーション』
ジーニアス「えっと、タバサ…だよね、僕達は…。」
タバサ「ジーニアス・セイジとプレセア・コンバティール…さっき彼が言っていた。」
ジーニアス「う、うん、そう…さっきは本当にごめんね、怪我させちゃって…。」
タバサ「それはもう気にしてない…貴方達は貴方達の最善をつくしたのだから…早く村に行く。」
ジーニアス「う、うん………うーん、中々会話が続かないなぁ。」
プレセア「ジーニアス…大丈夫です、貴方の言いたい事は彼女に伝わっている筈です。」
ジーニアス「プレセア…ありがとう、僕達も急がないとね。」
プレセア「はい………それにしても、あの子は…自分の心に鍵を掛けている。」
プレセア「それは、悲しい事なのに…どうして?」
『一応、世界認定の武器です』
タバサ「貴方の杖…変った形をしている。」
ジーニアス「これ?違うよ、これは杖じゃなくて剣玉っていって、僕達の世界の玩具なんだ。」
タバサ「…玩具?」
ジーニアス「そう、こうやってカン、カン、カンって…こんな具合に遊ぶんだ。」
タバサ「何故…玩具を武器に?」
ジーニアス「これだと、精神集中しやすいからかな…後、この玉で敵を攻撃したりするし。」
タバサ「玩具…私は玩具に負けた……。」
ジーニアス「え、えっと…大丈夫、タバサ?」
プレセア「精神的ダメージを受けたようです…やはりその武器で戦うジーニアスは凄いですね。」
ジーニアス「…ごめん、褒められても嬉しくないよ、この場合。」
『遅れて登場がヒーローのお約束?』
クラース「しかし、すまなかったな皆…私がもう少し早く来ていれば、戦わずにすんだのだが。」
タバサ「すんでしまった事をとやかく言っても仕方ない…だけど、何故遅くなった?」
クラース「いやぁ、それが…風が思ったより強くてな、遠くの方に吹き飛ばされたんだ。」
クラース「何とか着地は出来たんだが、場所が悪くてな…鳥達の巣だった。」
クラース「卵泥棒と勘違いされて、散々追い回されて…やっと逃げきれた時にあの場所へ到着したというわけだ。」
タバサ・ジーニアス・プレセア「………。」
クラース「な、何だ君達その目は…あの鳥達の嘴から逃げるのは大変だったんだぞ。」
ジーニアス「…いこうか。」
プレセア「そうですね。」
タバサ「………。」
クラース「お、おい、ちょっと待て。この歳でそんな反応されると辛いんだぞ…おーい。」
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