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第一章~旅立ち~
その2 月下の魔法学院
「こいつはすごいや、本当に違う世界なんだな」
初めてヤクイニックに召喚されたときのことを思い出しつつ、ムサシは独り言ちた。
空にぽっかり浮かぶ双月は、らせんの塔へ向かう途中に見た明け方の満月を呼び起こさせる。
自分の胸が疼くのを、僅かに感じた。
「二つのお月様が綺麗だぜ」
「何やってるのムサシ、こっちが私の部屋よ」
「ああ、広いなーここは。お城みてえだぜ」
「お城?あんた……まさか……」
「ん?」
「王宮に盗みにでも入ったことあるの?」
「なっ……誰がドロボーだって!?とんだ濡れ衣だぜっ!」
いつぞやの鐘ドロボーのような扱いをされるのはゴメンだった。
ムサシは遺跡のお宝や英雄として使う権利のある伝説の武具しか頂戴した覚えは無い。
「ウソおっしゃい、あんたみたいなナリの子供がお城に縁があるわけないでしょうよ」
「人を見た目で判断してもらっちゃ困るぜっ!おいらは城住まいだいっ!」
「はぁ!?」
いよいよもってルイズはこの使い魔がわからなくなってきた。
無礼な物言い、粗末な身なり。
かと思えば城に住んでたと言い出す始末。
子供のことだ、嘘をつくのは不思議ではない。
しかし決定的にムサシについての情報が足りない今、信憑性はともあれ詳しく話を聞く必要があった。
「……ともかく、あんたにはいろいろと聞きたいことがあるわ、ほら入って」
一日の終わり、部屋に入る瞬間は多少なりとも開放感に包まれるものだが、今日はここからが本番だ。
そういえば男性を部屋に入れるのは初めてかもしれない、ルイズはふとそう思った。
「ムサシ、あんたは何者なの?」
「何者……って言われてもなあ」
「あんた、『また召喚』って……あのとき言ってたわよね。それが気になってるのよ」
「ああ、そのことか」
ムサシは己の長いというべきか、短いというべきか、おかしな経緯の半生を語った。
ヤクイニックなる王国の姫が行った英雄召喚の儀式によって、自分の生まれた世界から召喚されたこと。
その召喚のショックで、自分の過去に関する記憶はほとんど消えてしまったこと。
過去の英雄、武蔵が魔人を封印するために使ったという光の剣を手に、王国の危機を救ったこと。
「おいらは役目を終わらして帰る途中に、ここに喚ばれたんだ」
「……子供の好きそうなお伽話ね」
「疑ってんのかっ?」
ルイズが頭を抱える。
今の話が作り話だと言われればまあ、納得できないこともない。
10歳そこらの子供だ、夢いっぱいの年頃だろう。
作ろうと思えばいくらでも作れる。
だが、今は判断材料が無い。
「あんたが別の世界から来たって言うなら、証拠とか無いの?」
「なんだよ、疑り深いなあ……ほら、これ見てみろよ」
「……このラクガキがどうしたってのよ」
「あ!おいっ!」
ルイズが手渡された紙切れをぞんざいに放ろうとしたので慌てて制す。
他人には無価値に見える化かもしれないが、これは大切な友達から託されたメモなのだ。
「な、なによ」
「……こいつはおいらの友達が命がけで手に入れた、大事なもんなんだ!乱暴にすんな」
なによ、そんならそうと言いなさいとぶつくさ漏らしながらルイズがもう一度覗き込む。
が、やっぱり妙ちくりんな図形の集合体にしか見えない。
「……やっぱりラクガキじゃない」
「読めないだろ?こいつは、おいらが前にいた世界の文字だ」
「適当言ってんじゃないわよ、あんたがデタラメ書いてるかもしれないじゃない」
「なら、こいつでどうだい」
もう一つ、こちらも古びた紙を見せられる。
今度は図のように文字が規則正しく並んでいる。
文字自体は先程同様さっぱりわからなかったが、ルイズはこの並び方にどこか近視感を抱いた。
「……暦?」
「おお、カンがいいな。こいつはカレンダーって言う日にちと曜日を図にした表だ」
「……今度もラクガキ……にしちゃ綺麗ね」
日数はほぼ同じといったところだが、曜日が一つ少ない。
むろん曜日を一つ数え損ねた子供の贋作とも思われた。
しかし、製紙技術、印刷技術共にここハルケギニアでは類を見ないほどに整っている。
子供のラクガキで片付けるには、できすぎだった。
「うーん。ま、わかったわよ、あんたは違う世界の……」
「やっとわかってくれたか」
「……お城に住み込みの小間使い」
「おい!」
「だってあんた子供じゃないの。国の危機を救うとか、伝説の剣豪だとか。誇張も甚だしいわよ」
「ほんっとーに疑り深いなお前……」
「口を慎みなさい。どっちみち私はご主人様、あんたは使い魔。
異世界だろうが伝説の剣豪?英雄?だろうが、これは変えられない現実なのよ」
一度引き受けると言ってしまったムサシはぐうの音も出ない。
思えば英雄召喚のときも、こんなふうに理不尽きわまりない冒険のはじまりだったことを思い出す。
いきなりおかしな世界に召喚され、いきなりモミアゲと身長にケチをつけられた。
加えて自分にとって縁もゆかりもまるで無いお国のために、単身命を張ってル・コアール帝国と戦うハメになってしまう。
その上使命を果たさねば帰還は許されない、断ることは許されない言わばこれは脅迫じみた懇願だった。
今回の状況もまた、それに近い。
やっと自分が元いた世界に帰れる、と思った直後に半永久的奴隷として身柄を拘束されるという始末。
今回はもとより帰れない、そしてなにより逃げることもできたのに引き受けてしまった。
ムサシは自嘲めいた笑いを浮かべて思う、自分はとことん安請け合いだなと。
だが、ムサシは英雄召喚同様、腹が立たなかった。実のところ、この状況ですら楽しんでいる。
自分がどうしようもなく愛する「決闘」が、また待っていると体全体が感じている。
新天地には敵がいる。まだ見ぬ強者が待っていると、武者震いがムサシをワクワクでいっぱいにする。
帰れる帰れないは、後回しだ。
もともと、帰れないと言われてハイそうですかという気は毛頭ない。
気ままな冒険はきっと帰還への旅路も兼ねていると、ムサシのカンがそう告げるのだった。
使い魔、という肩書きは少々うっとおしいものの、じき慣れるだろう。
重荷なら何度も背負ってきた。
それにこの世界の最初の知り合いであるルイズという人間は、幼さを感じさせてならない。
アミヤクイ村のテムとミントにも穏やかに接する、ムサシは世話焼きなのであった。
「ったく、しょーがねーなあ。使い魔ってのは何したらいいんだ」
やる気になったと見えてルイズはやっとムサシが自分の立場を理解したかと大いに薄っぺたな胸を張った。
実際はムサシが『面倒見てやってやるか』という思いであるのだが。
記憶が無いとは言え、その実年齢は一回り二回り上なムサシに偉ぶる少女というのは少々面白い光景である。
「えっとね、まず第一に使い魔は主人の目、耳となること。感覚を共有するってやつね」
「へえ、そんなことができるのかルイズは」
「ううん、何も見えない」
「ダメじゃねえか」
「うるさい!次に主人の望む……秘薬の材料、植物とか、苔とか……集めてこれる?」
「ああ、そんならいっぺんやったことがあるぜ」
ムサシが思い出したのは、ヴァンビになってしまうテムくんを救うためにまぼろしの花を回収したこと。
いやしの水もふたご山から汲んできたなあ、と遠き地の情景に思いを馳せた。
「でもおいらこっちの植物とかなんてまるきり知らないなあ」
「ああもう使えないわねえ……これが大事なんだけど、使い魔は主人を守るものなの」
「なんだ、それならムサシさまの得意技だぜっ!」
ルイズは自分より頭一つ分低いムサシの顔を見下ろして、首を横にふった。
そして溜息。
「はいはい頼もしいですこと伝説の剣豪様……」
「あっ!信じてねえなっ?」
「はぁ~ぁ……あんたみたいなチビには最初から期待なんかしてないわよ」
「ちくしょー、バカにしやがる……」
「いいから、とりあえずあんたの仕事は洗濯、掃除、身の回りの世話。そんくらいできるでしょ」
ムサシもまた溜息をついて後ろを向き、座り込む。情けないことこの上無かった。
まあ子供の姿で信用されないのは仕方ない、英雄召喚のときも最初はそうだった。
前の城暮らしよりは厳しいとは言え、寝床があるだけでもよしとしよう。
しかしながらこの状況、冒険とは程遠く感じられた。
ムサシの行動理念の8割以上を占める『決闘』が見いだせない生活が続きそうである。
それはひどく退屈なものだった。
抵抗としてジト目でルイズを見るもむこうはあくびをするだけである。
「ふぁあ……眠くなっちゃった、他にもあるけど、細かいことは明日話すわ」
「ああ、そんじゃおやすみ」
「ん」
ルイズがムサシの目も気にせずに薄いネグリジェにさっさと着替える。
少年に退行したムサシにそう羞恥や情欲といった感情は湧かないのだが。
日本男児として、はしたねえなあ、と思ってしまう。
「そういやおいらもこの部屋で寝ていいのか」
「まあね、それで寝床なら……」
「よし、おいらもさっさと寝るぜっ」
使い魔用にと用意していた藁束を指差そうとするルイズ。
しかしムサシは自分の荷物からごそごそと何か取り出すと広げた。
「なによそれ」
「こいつは『伝説のねぶくろ』だぜ!
「伝説?ねぶくろにどんな伝説があんのよ」
「ああ、肌触りといいあったかさといい最高だぜ」
「そ、そんなに?」
「そこいらのベッドより、ぐっすり眠れるぜ!」
ルイズはなんだか羨ましくなってきた。
自分のふかふかのベッドも、肌触りのいいシーツも、少し霞んで見えてしまう。
そんな魅力が伝説という響きに詰まっている。
「つ、使い魔がそんなに上等なモノに寝るなんて生意気よ!ちょーっとご主人様にそれを貸しなさ」
「そんじゃ、おやすみっ!」
「あ、待っ」
とたんに高いびきをかきだすムサシ。早すぎる。
使われること無い藁束が無性に邪魔に思えて、もそもそ起きて片付け始めるルイズ。
終わってからなんで自分がやってるのかと、眠るムサシの頭を腹いせにすぱーんと叩くのであった。
起きなかったけど。
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