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#navi(ゼロのロリカード)
――――――夜中の訪問者。
いつだったか、使い魔品評会の折の時のように・・・・・・人目を忍ぶようにその人物はやってきた。
学院の者達から身を隠すように、ルイズの部屋へと現れたのはアンリエッタ女王陛下。
「ルイズ・・・・・・」
「姫さま・・・・・・」
二人は恒例のように抱き合う、親友たる彼女達の挨拶であった。
「今更言うのは遅いかも知れないけれど、本当に無事で良かったわ」
「ありがとうございます、それにしても何故ここに?呼んで下さればすぐにでも王宮に――――――」
「なかなか忙しく、暇がなくて・・・・・・ごめんなさい。あなたも学生の身分がありますからね」
「そのようなこと、お気になさらないでいいのに・・・・・・」
アンリエッタは半ば予想していたルイズの言葉に軽く微笑む。
とすぐに、神妙そうな面持ちで申告するかのように・・・・・・呟くように告げる。
「・・・・・・今日こうして来たのは他でもありません、重大な話があるのです」
ルイズは真剣な顔でアンリエッタの言葉を待つ。
「本日、私はロマリア教皇聖下とお会いし話しました」
「教皇聖下と・・・・・・?」
あまりに突然過ぎる話に、ルイズはやや呆然とする。
なんでもロマリア教皇が王宮にやってきて、話をしたらしい。
「はい、教皇聖下の話では近い内に戦争が起こります、そして・・・・・・避けられないでしょう」
その内容に驚きは無かった。ルイズにも、当然アーカードにも。
確信していた、戦の匂いを。あの狂王が取るであろう選択の最たるものを。
「ガリアの穏健派・・・・・・戦に反対する者は、その悉くが暗殺されているようです。
その結果、他の諸侯達もガリア王ジョゼフに迎合せざるを得ない状況なのだと」
アンリエッタは未だに信じられないといった口調で告げる。
ついこの前には、王権同盟を結んだばかりだというのにも拘わらず。
名目は単純な侵略戦争。先の同盟なんて知ったことではないと。
外交面から見れば、まさに狂気の沙汰としか思えなかった。
トリステインは、先だってのアルビオンでの戦争の傷は未だ癒えていない。
戦力は大幅に減り、仮に万全であったとしてもガリア軍とは比較するのも馬鹿らしいほどの差がある。
アーカードが飲み込んだトリステイン軍人、その家族らへの処置もまだまだ残っている。
アルビオンの方とて終わっていない。
「そして・・・・・・勿論内々の話ですが、ガリアはロマリアも同時に攻め入るようなのです」
「ロマリアを!?」
そこでルイズはようやく驚嘆の声を上げる。
「はい、そこでロマリア教皇から同盟の申し入れがあり、・・・・・・これを受諾しました」
トリステインは想定の範囲内だったが・・・・・・何故ロマリアまで?
ルイズは考え、そしてすぐに思いあたる。
そういえば――――――ジョゼフは虚無の担い手と戦いたがっていた。
トリステインは自分、ガリアはジョゼフ、アルビオンはティファニア。
そしてロマリアは・・・・・・ヴィットーリオ教皇聖下だ。
アルビオンでシュレディンガーが言っていた。大尉の主人が教皇聖下なのだと。
同時に虚無の担い手であることを。
(くっ・・・・・・)
ルイズは歯噛みする。要するにこれは虚無の担い手同士のいざこざとも言える。
そしてアーハンブラの時はウォルターが誤魔化してくれていたが、今度こそジョゼフは知っている。
ルイズ・フランソワーズ、自分が虚無のメイジとして戦えるということが。
狂王ジョゼフが、同じ虚無の担い手と戦いたいから起こす戦争。
その理由はきっと、ジョゼフの中でかなりのウェイトを占めるに違いない。
直接の原因ではないし、当然自分に非はない。
しかしそれでも自分がいるから起きる戦争なのかと思うと、自己嫌悪に陥りそうになる。
もし仮に自分が死ねば・・・・・・、ジョゼフはトリステインを攻めるのをやめるのだろうか。
そんなことまで考えてしまう。
いや・・・・・・仮に私が死んでトリステイン攻めが中止されたとしてもだ。
既にロマリアとトリステインの、同盟の申し入れと受諾は済んでいる。
であれば、ロマリアとの戦争でもトリステインは協力せなばならない。
ロマリア教皇やテファにまで、死を強要することなど出来るわけもなし。
そして何よりも、持て余したジョゼフが戦争をやめるなどという確約が得られるわけもない。
結局のところ、自分の虚無を使って被害を最小限に勝つしかない。
「そして私は・・・・・・」
アンリエッタの顔が一層険しくなり、言葉が詰まった。
それを見て取ったルイズは真摯な瞳で見つめる。
そして次に紡ぐだろう言葉に対して返事をする。その思いも慮った上で。
「・・・・・・姫さま、私をお使いください」
「戦って、くれますか・・・・・・?」
本当ならば戦の道具にはしたくない。そのような命令を下したくはない。
しかしルイズの虚無は強力な戦力であり、使い魔のアーカードも同様である。
勝つ為にも、犠牲を抑える為にも、背に腹は変えられない。
それが王の責務。
z e r o
「勿論です、国を守る戦いです。我ら王立虚無騎士団、身命を賭して此度の戦に勝ちます」
◇
「鎧装に焼入れを施し、関節部も強化した。恐らく虚無であっても易々と破れぬ筈だ」
ビダーシャルが事も無げに報告する。
「はっは、素晴らしい仕事振りだ」
「それが10体・・・・・・ね。うん、上等だ」
ヨルムンガントが作られている工房。そこでジョゼフ、ウォルター、ビダーシャルが話していた。
周囲には25メイルのヨルムンガントが整然と並び、動かずとも凄絶な威圧感を放っている。
「ただ・・・・・・ダメージ許容量を超える攻撃は関知するところではない。
この前のアーハンブラ城の時の、彼の者達のようなケースでは――――」
「あぁ、それは大丈夫。アーカードとアンデルセン、あの二人が協力する理由はもう無いし」
元々暫定的な協力関係の筈だ。犬猿で宿敵同士な二人が手を組むことは、もうありえない。
そして単独では通常の反射も破れない。それは襲撃時に実証済みである。
(しっかし、つくづく恐ろしい能力だな)
額に刻まれたミョズニトニルン。
本来であれば、一体を動かすのにすら膨大な魔力が必要であろうものである。
しかしこれほど凶悪な兵器を、己の手足の如くに苦も無く自由に操れる。
アーカードの321号開放の攻撃力は未知数だが、これが10体もあるのならば問題ない。
「フフ・・・・・・地獄はもう間近か」
ジョゼフが悪魔のそれのような笑顔を浮かべ歓喜する。
――――――その時だった。
「いやぁ~、少佐とは別ベクトルで狂ってるねェ~」
突如響いた声の方向に三者が一様に目を向け、唯一ウォルターの眼光が鋭くなった。
その者は両手を上げ、害意が無いことを主張する。
「おっと、僕は特使だ。やりあうつもりはないよ」
「シュレディンガー・・・・・・」
ウォルターがその名を呟く。猫耳を生やし、軍服をまとった少年。
アーカードを殺した毒。
・
「お久し振り・・・・・・かな?ウォルター老」
わざわざ『老』とつけたあたり、無邪気の中の悪意を感じる。
「特使だと?」
ジョゼフは眉を顰め、怪訝な顔になる。一体どこの特使だと言うのか。
「あっごめん。ちょっと既知感を感じたからつい口走っただけで、別に僕は特使じゃないや」
「では何者だ?」
シュレディンガーとウォルターが顔見知りのようだと見て、二人に問うようにジョゼフは言った。
「何者かと言われれば・・・・・・猫です」
シュレディンガーの耳がピクピクと動く。
ウォルターに視線を向けると、ただ溜息を吐いている。
ジョゼフは数拍考え「そうか」と、特に何事もなく納得した。
場が沈黙する。ビダーシャルは思わず突っ込みそうになった。
が、色々と自分の中の何かが崩壊してしまうのではという危惧から、何とか踏みとどまる。
「して、その猫が何用だ?」
ジョゼフが沈黙を破る。
マイペースに10体のヨルムンガントを眺めていたシュレディンガーはザックリと答える。
「猫が迷い込んで来るのに理由はないです」
ジョゼフは顎鬚を右手でさすりながら考えた。
「ふむ・・・・・・なるほど、道理だ」
「納得するな!」
ビダーシャルが遂には耐え切れなくなりツッコミを入れる。
突っ込んだら負けだとわかっていた。狂おしいほど理解していた。
だがそれでも、この中で唯一正常な思考を持つビダーシャルには我慢できなかった。
工房は厳重な警備が敷かれ、無闇に忍び込める場所ではないのだ。
それなのに騒ぎの一つなく、しかも強者である自分達が、奴が声を出すまで気付けなかった。
「・・・・・・ッ、一体警備はどうなっているのだ」
「無論万全。破られた様子はないね」
ウォルターは、さも当然と言った声調で言い放った。
「そうそう、無駄無駄無駄無駄ァーッ!だよ。僕はどこにでもいるし、どこにもいない」
まるで意味がわからない様子のビダーシャルとジョゼフに、ウォルターが言を補う。
「そういう存在なんだ、アーカードのような化物だと思えばいい」
「ほう・・・・・・」
「・・・・・・」
ジョゼフは感嘆の声を上げ、ビダーシャルは半眼になる。
するといつの間にかシュレディンガーは前屈みになって、ビダーシャルを下から見上げ覗き込む。
「ふんふん」
耳が動き、背筋を伸ばすと、ニッと笑う。
「あっさり任務を達成しちゃったなあ」
シュレディンガーは、ビダーシャルの帽子から僅かに覗いた耳に注目していた。
「任務だと?」
と、ジョゼフ。
「うん、ヴィットーリオが調べて来いって言うからさ。エルフが本当にいるのかどうかをね。
全く僕はアイツの使い魔でも部下でもないのに・・・・・・人使いが荒くて困るねホント、うんうん」
ヴィットーリオと言えば、ロマリアの教皇の名である。
「狡い真似をする連中だ、それで・・・・・・エルフを確認してなんとする?」
「聖戦発動させたいから、エルフがいるという確証が欲しいんだって」
「な・・・・・・ッ!!聖戦だと!?」
ビダーシャルが思わず叫ぶ。
シュレディンガーは、何をそんなに驚いているのかという顔をして「うん」と肯定した。
聖戦――――――エルフの治める聖地を奪回する為の戦争。
つまりはエルフがガリアにいることを大義名分に、聖戦を発動させようと言うのだ。
聖戦発動によって士気は大いに上がる。戦争で勝利する為には非常に有効な策だ。
そしてさらには、そのままの勢いで悲願である聖地の奪回まで一直線ということ。
実際的に聖戦は民に無理を強いる。不満は溜まり、それが亀裂にもなる。
故にこそ聖戦は、余程の事情がなければ発動させづらい。
それでなくとも、度重なるエルフとの戦争に於いて、人間側は敗北し続けている。
その都度エルフの強さと恐ろしさというものが、人々の間に刻まれているのだ。
だからこそ大義名分というのは、非常に重要な要素となる。
エルフとガリアが協力関係にあるという事実は、ロマリアにとってこれ以上ない情報だろう。
そしてジョゼフは、なるほどそれも面白そうだと笑った。
ガリアの戦力を以てすれば、ロマリアとトリステインを同時に相手取っても何ら問題ないほど。
よって、よりし甲斐のある戦に発展させる為にも、敵国の士気高揚は大いに結構なことであった。
「何故ロマリアに?」
と、ウォルター。
シュレディンガーがロマリアの手先として動いている理由。
アーカードに飲み込まれ、そしてアーカードが召喚された時に弾かれたとか何とか。
実際のところは定かではないものの、そんなようなことではないのかとアーカードが言っていた。
それにシュレディンガー自身、自分は使い魔ではないと言った。
北花壇騎士団の調べでもロマリアの被召喚者は大尉であり、シュレディンガーは特に付き従う理由はない。
「大尉がいるからね~、こういうことするのは面倒で嫌なんだけど・・・・・・」
あっさりと、答えが返ってきた。
つまるところ単に馴染みがいるから、そこにいるということ。
であれば、引き込むのは難しい。即物的な報酬で動いているのなら勧誘も可能であったが。
実際に使うつもりは無いが、対アーカードに於いて牽制札として使えるだろう。
そういった貴重なカードは持っていて損はない。
だが酷く個人的な理由で、ウォルターはシュレディンガーは好きではなかった。
なにせアーカードを消滅させた存在。その存在がアーカードを殺した。
夜明けのみという代償を払い、急造吸血鬼となった以上は。
アーカードが命を吸い始めた時点で、打倒する機会は永久に近く失われてしまった以上は。
少佐がシュレディンガーを使ってアーカードを殺さずとも。
あの命が一つの時点で、アーカードを打倒出来なかった自分が悪い。
それはわかっている。ただの八つ当たりだということも理解している。
が、それでも割り切れず相容れない、嫉妬にも似た感情があった。
「ロマリアは・・・・・・聖戦を、発動させようと言うのか?」
と、ビダーシャル。
「だからそう言ってるじゃん」
ビダーシャルは血が出そうなほどに歯噛みした。
聖戦となれば、最終的には自分達エルフ種族と戦い、蛮族の言う聖地を奪回すること。
聖地とはエルフ種族の住む土地であり、住む場所を守る為にも戦闘は不可避。
四の悪魔が揃わずとも、人間達と正面からぶつかれば相応の被害が出る。
単独でも虚無の力は侮り難く、あのアーカードといった恐るべき化物もいる。
過去の歴史では大勝し続けてきた。が、当然被害はあるし、何より殺生を好まない。
そういった人間達との衝突を・・・・・・争いを防ぐ為に、自分は動いていたというのに。
「くっ・・・・・・」
「はっはっ、それは困ったなぁ。さらに大きな戦が起きてしまう」
それも吝かでないとばかりにジョゼフは笑う。
ジョゼフのその態度は、ビダーシャルの神経を逆撫でするような言い方であった。
「貴様・・・・・・」
ビダーシャルがジョゼフを睨め付ける。
そういう輩だということは重々承知しているが、どうにも感情を抑え切れない。
「こっちが勝てばいいんだろうけどねぇ。両用艦隊は120余隻、トリステインと半分に分けてもお釣りが来る。
実際にトリステインに差し向けるのは1/6程度と地上軍、それにヨルムンガントがあれば十分だろう。
死の河のおかげもあって、トリステイン軍の戦力は相当数を減らしているし。
アルビオンに残った艦隊を収用しようにも、それを操舵し戦える者がいないんじゃハリボテだ。
だからトリステイン相手にせよロマリア相手にせよ、艦隊戦で遅れをとることはないだろうね。
懸念事項があるとすれば、向こうの虚無の存在と・・・・・・、こっちは一枚岩とはとても言い難いこと。
そしてアチラさんが聖戦発動するならば、強固な結束と士気高揚で戦局は大きく揺れるだろうね」
ウォルターが淡々と戦力分析を述べる。
死の河を発動させたアーカードは自分が打ち倒すと決めている。よって懸念事項にはならない。
いずれにせよ、ウォルターにとって戦の勝敗などは酷くどうでもよかった。
アーカードとサシで闘り合えるならそれでいい。
聖戦だかなんだか知らないが、そんなものは好きにすればいいし、関知するところではない。
「我らとの約定をお忘れか?・・・・・・反故にするつもりか」
ビダーシャルは糾弾する目つきでジョゼフを一層睨み続ける。
「俺が直接望んだわけではない」
ジョゼフはたくわえた顎鬚を撫で付けながら笑う。
それは確かにその通り。故に――――――。
「では・・・・・・我は別の手段に出なければならぬ」
スッとジョゼフへ体ごと向き直り、明らかな敵意を見せる。
「我はこの場を去る。さすれば一時とはいえ聖戦の意義を失うだろう。
その間に早急に国に戻って今後を話し合い、防備などを整える必要もあろう。
それだけでは足りぬ。四の悪魔を揃わせぬ為に・・・・・・誰か一人以上、軟禁せねばなるまい」
虚無の担い手を殺しても、それはまた新たな担い手が目覚めるだけのことで解決にはならない。
それ故に、揃わせないという前提で考えるのであれば、生け捕りにしておくのが安易な方法である。
真の悪魔の力を目覚めさせないことは、何よりも優先されるべき事項。
ビダーシャルが放つ圧力に対してウォルターは静かに、しかしてすぐに対応できるように気を張る。
王たるジョゼフがいなくなれば、己の目的も成り立たなくなる。
一方でジョゼフは涼しい顔のまま答える。
「う~む、それは困るなあ。まだまだお前には働いてもらわないとならん。
それに軟禁されるなど、つまらんしな。であるならば、選択肢は・・・・・・――――」
ジョゼフはシュレディンガーの方を見る。
間諜を消してしまえば、ロマリア側は確証を得られなくなる。
だがそんなジョゼフの当然の思惑を察し、ウォルターが告げる。
「それは無理だ。そいつは殺せない、いや・・・・・・殺しても蘇生するから無意味だ」
「そう、僕は『シュレディンガーの猫』。僕が僕を観測出来る限り、僕は自由なのさ」
えへんっと胸を張る。
次いでシュレディンガーは、殺伐とした空気を破る言葉を呆気なく言った。
「・・・・・・そんなにアレなら、報告しないであげようか?」
それは流石に三人も予想外の言葉であった。
「なんだと?」
「エルフなんて見つけられなかった。いなかったと、報告すればいいだけだしさ。
別にヴィットーリオに義理立てする必要はないしね~。
まっ、そこらへんは僕を信用してもらわないといけないわけだけど」
シュレディンガーはさらに続ける。
「やたら小理屈臭いヴィットーリオはつまんない。アナタの方がずっと見ていて面白いよ、ジョゼフの狂王」
突然敬語になり、ニヤリと裏のあるような笑みを浮かべる。そして付け加えた。
「まぁでも、大尉がいる以上は向こうにいるけどね」
全面的に信じて良いものかと三者は訝しむ。
「・・・・・・零号開放、楽しみだしね」
あれほど人間が死んでいく様は、とても痛快愉快。
「あっ、どうせならアーカードを殺してあげようか?」
シュレディンガーは冗談交じりに言うが、ウォルターは本気の殺意で睨み付ける。
「冗談だってば、そんなに睨まないでよ。僕としてもあんな思いはもう懲り懲りだしね~」
ウォルターは嘆息をつく。なんとなくだが裏が見えない。
嘘を吐いているようには見えないし、そもそも嘘を吐く理由が無い。
シュレディンガー自身は、何一つ追い詰められた状況にはなっていないのだ。
拘禁も殺害も意味を為さないシュレディンガーの猫。
嘘を吐くことを提案する必要性が皆無な存在。
であれば親切心・・・・・・いや、ジョゼフの狂気を気に入ったから。
この戦争を引っ掻き回し、面白くしてやろうと思っているからに他ならないのだろう。
「嘘の報告をするのは良い、だがあからさま過ぎる」
「うん?」
ウォルターが一言する。単純に浅薄としか言いようがない。
ロマリアの情報収集能力だって、節穴ではないだろう。事実、エルフの存在を俄かながら察知していた。
その確証を得んとしたが為に、シュレディンガーをこうしてよこしてきたのだ。
エルフの存在が匂っていたのに「実はいなかった」なんて報告を、素直に信じるわけがない。
それに何よりアーカード達がエルフの存在を知っている。
裏を取られれば、そんな嘘は簡単にバレるだろう。
「上手な嘘を吐く時は、適度に真実も混ぜるのが良いと言われる」
「お~う」
「だからシュレディンガー、お前はつい先刻までのやり取りとそこから先を報告しろ」
「具体的に?」
ウォルターは説明を始める。
先までのやり取り。シュレディンガーの出現と、聖戦発動の為にエルフの存在を確認する任を受けてきたこと。
それを聞いてジョゼフとエルフの協定が崩れ、エルフがジョゼフを攫うのも辞さないという事態になったこと。
「ここまでは事実、そしてここからが捏造だ」
エルフは非常に強力な術者ではあったし、恐ろしいほどの力を見せつけ苦しめた。
が、流石にジョゼフとウォルターの二人を相手にして勝つことはなく、返り討ちに遭った。
「そう顔を顰めるなよ、ビダーシャル。実際にはお前が勝つかも知れない」
ウォルターは少し不満そうな顔をしたビダーシャルにフォローを入れる。
尤も、アーカードを含めて誰に対しても負ける気などサラサラ無かったが。
「そしてジョゼフはこう言った。『やはりエルフなぞは信用ならない。少し危なかったが、体よく利用出来た』と」
エルフの残した各種技術は残り、簡単に裏切るような厄介者も排除出来た。
やはりエルフとは相容れられない、という旨を付け加えること。
そして何より当のエルフ本人が殺されてしまったこと。
「これで向こうは聖戦発動の大義名分を失う、というか得られない。そうだろ?」
「んむ、その通りだ。それでいこう」
「・・・・・・致し方あるまい」
ジョゼフとビダーシャルも納得する。
もし聖戦が発動しようものなら、その時はジョゼフを攫えばいい。
ビダーシャル自身にとっても、精霊と本格的に契約していないこの場で二人を相手にするのはリスクが高い。
それに・・・・・・多少前後したところで、そこまで事態が変わるものでもない。
ロマリアをどうにかしなければ、遅かれ早かれ人間達との戦は避けられない。
そしてガリアが勝てば、ロマリアは滅びる。これは考えようによってはチャンスでもある。
エルフ種族が手を下さない人間同士の争い。愚かな蛮族が同士討ちをしているだけ。
ロマリアが滅亡すれば、再興でもしない限り半永久的に聖戦発動はなくなるだろう。
故に今はシュレディンガーとやらを暫定的に信用し、虚偽報告が通ることに賭ける。
「オッケー、じゃそういう感じで報告しておく」
「さて・・・・・・こうなった以上は、エルフが死んだことを暗に流布しておこう。
そしてビダーシャルには、さらに徹底的に姿を隠して存在を隠蔽する。
当然今以上に不自由な思いをさせるが、そこは我慢してもらう」
ウォルターはサクサクとすべきことを考え、それを言っていく。
「異論はない、既に不自由過ぎるこの身だ」
ビダーシャルは皮肉を込めるが、ジョゼフには通じない。
「本当に、万能で優秀な執事だな」
ククッとジョゼフは笑った。
海千山千の強者たるウォルター、ある種エルフ以上に役立ち、頼りになる。
「そんじゃさ、手ぶらで帰るのもバツが悪いから、色々と見学させてよ。
というか、戦力を調べて来いってのも任務の内なんだよね、何度も愚痴るけどホントに面倒臭い」
「ついでに観光名所にも案内して欲しいな」と、シュレディンガーはニコニコ笑う。
ジョゼフとビダーシャルの視線が集中し、「これも執事の仕事か・・・・・・」とウォルターは大きな溜息を吐いた。
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