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「ルイズと無重力巫女さん-28」(2010/03/12 (金) 21:13:55) の最新版変更点
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#navi(ルイズと無重力巫女さん)
「やっぱり紫様の言う事は何でも当たるねぇ。すぐに紅白と【虚無】の少女を見つけちゃった」
ようやく捜していた二人を見つけ出した橙が嬉しそうに呟いた。
瞬間、霊夢は目の前にいる猫がいつぞやのマヨヒガで出会った八雲紫の式、八雲藍の式である橙だと気づいた。
それと同時に、ようやく迎えがやってきたのだと悟り、溜め息をついた。
「全く、いつかは来ると思ってたけど。まさか式の式をよこして来るなんてね」
聞き慣れない言葉を聞いたルイズは首を傾げた。
自分の横をかいくぐって部屋に入ってきた尻尾が二本もある黒猫に疑問の目を向ける。
「シキノシキ?…というよりその黒猫はなによ、知り合い?随分とアンタの事を知ってそうな感じだけど」
ルイズの声を聞いた橙はピクンと耳を動かすと彼女の方へと顔を向けた。
「どっちかというと、アタシの主人とその主人がこの紅白とはよく顔を合わせてるよ」
橙の説明を聞いたルイズは眉をしかめつつも霊夢に話し掛けた。
「ねぇレイム、私にはよくわからないから説明してよ。それも簡潔に」
ルイズにそう言われ、霊夢は面倒くさそうな顔をしつつもその質問に答えた。
「ん~…何でコイツが来たのかは私にも良くわからないけど…要するに、迎えかしらね」
「まぁそう言うことさ。後、コイツ呼ばわりはやめろよこの紅白」
霊夢の口から出たその言葉に、橙は文句を言いつつコクリと頷いた。
「ふ~ん、迎えねぇ…迎え…迎え…―――――って、えぇえぇえぇぇぇぇぇぇ!?」
数秒遅れて、ルイズは霊夢の口からあっさりと出たその言葉に、驚きの叫び声を上げた。
驚くのも無理は無い。何せいきなりの事である。
ロマリアの教皇聖下が突然「実践教義に鞍替えします」と全世界に発表する様なものだ。
突然の事に動揺を隠せないルイズは橙を指さしながら口を開いた。
「ちょっ…む、迎えって。まさかこんな黒猫が迎えだっていうの!?」
その時、今の今まで黙っていたデルフが突如話に割り込んできた。
『ただの黒猫だって?娘っ子、お前さんの目は節穴か?こいつは正真正銘の化け物だぜ』
橙が部屋に入ってきた所為でまだ途中だった話が中断されたことにより相当怒っていた。
勿論デルフをただの剣だと思っていた橙は苛立ちを露わにして喋る剣に驚いた。
しかし、すぐにデルフの言った事に反応し、ピンと両耳を尖らせた。
更に尻尾を大きく膨らませ、全身の毛を逆立てたら、剣を相手に威嚇している黒猫の完成である。
「私をただの化け物扱いするな!第一お前だってまともな剣じゃないだろう!」
その様子を見たデルフはまるで笑うかのようにぷるぷると刀身を奮わせながら言った。
『うっせぇ。第一、尻尾が二本あって、使い魔でもないのに人語を解す時点でまともな生物じゃねぇだろうが!
それに俺様はお前のような得体の知れない存在とは……』
「…そこまでにしときなさいよ。全く、こっちだって聞きたいことがあるんだから」
お互い一歩も退かないその様子に、霊夢は呆れつつも口を開いた。
喧嘩になる前に霊夢が割り込んできたためか橙は何かを思い出したかの様に耳をピンと尖らせると霊夢に話しかけた。
「あ、そうそう。一つだけ言っておくことがあったのを忘れてたわ」
「…?何を言い忘れたのよ」
首を傾げた霊夢に、橙は尻尾を振りながら自慢気にこう言った。
「紫様からの伝言。『橙と一緒にその場でジッとしているだけで良いから』だって」
橙の言葉を聞いたルイズはキョトンとした顔になったが、橙の言う『紫様』をある程度知っている霊夢は瞬時にその言葉の意味を理解した。
一方のデルフは自分の話を遮った霊夢と橙に怒りをぶつけようと再び喋り始めた。
『おいレイム!お前さんまでもがその化け物の味方をするの…か…よ……!』
喋ってる途中に何かを感じたのか、デルフの刀身がブルブルと震え始めた。
先程怒っている橙を笑うかのようなそれとは違い、まるで何かを警戒しているかのような震え方であった。
ルイズはそんなデルフを見て一体どうしたのかと思ったが、そんな彼女の身にも異変がおこった。
「ねぇ…ちょっと部屋の中寒くないかしら?」
ふと自分の手で身体をさすりながらもルイズはそう言った。
まるで冷たい水を全身に浴びたかのような冷気が彼女の身体を包み、体温を少しずつ奪っていくような気がした。
窓も閉まっており、暖炉にはちゃんと火がついているというのに。
そんなルイズの様子を見て、霊夢は溜め息をつくと天井を見上げ、呟いた。
「やれやれ…待たせた分演出に凝ってみました…って所かしらねぇ?」
◆
「ミス・ヴァリエール。夜食の方をお持ちしに来ましたが…」
学院のメイド服を見事に着こなしている金髪碧眼のおっとりとした目つきの少女がルイズの部屋のドアをノックしていた。
左手にはワインの入ったミニボトルと食パンに野菜やハムをはさんだ軽食を入れたバスケットを持っている。
生徒達の中には夕食だけで腹を満たせる者が少なく、時折こうして夜食を頼む生徒が後を絶たないのだ。
かくいうルイズも例外ではなく、時折こうして頼むことが何回かあるのだ。
その為、こうして一人のメイドが夜食とワインを持ってルイズの部屋の前に突っ立ってドアをノックし続けているのだ。
なぜ部屋の前で立ち往生しているのかというと。こうやって何回もノックしても部屋の主人が出てこないのだ。
普通この時間帯の生徒達は部屋を出ることを禁止されており。真面目な者ならば部屋から出ようとはしない。
「あのーすいませんミス・ヴァリエール。せめてお返事だけでもぉ…」
給士は困ったようにそう言うが、ドアの向こうからは一切の声が聞こえない。
相手の返事が無いことに給士は溜め息をつくと、スッと目つきを変え、廊下に誰もいないのを確認した。
おっとりとしたようなソレではなく、まるで獲物を捜す鷹の目のソレである。
廊下には誰もいないのを確認した後、バスケットをそっと地面に置くと懐から小さな杖を取り出した。
一見すればただの羽ペンに見えるソレを振るいながら『アンロック』の呪文を唱えた。
魔法学院の校則では『アンロック』の呪文は生徒達のプライベート上、禁止とされている。
しかし今目の前でその呪文を唱えたメイドはそんなの関係ないと言わんばかりに唱えていた。
メイドは杖を再び懐に戻すとゆっくりとドアノブを捻ってドアを開け、そして目を丸くした。
簡単に言えば『部屋の中には誰もいなかった』。そう、誰一人として。
この部屋の主人である少女、そして彼女が召喚した少女もこの部屋にやってきた黒猫もいなくなっていた。
壁に立てかけられていた御幣やインテリジェンスソードも無くなっていたがこのメイドにとってはそれはどうでも良いことである。
彼女にとって、『今この部屋に主人とその使い魔がいない』という事が一番の問題であった。
みるみると顔色が青ざめていくメイドは信じられないという風に首を横に振りつつドアを閉めた。
そして再びバスケットを手にもつと早足で食堂に戻っていった。
食堂を戻りつつも彼女は下唇をキュッと噛み締めながら首から下げた聖具をギュッと握りしめた。
◆
「―――…ん、うぅ…。」
耳の中に入ってくる風の音で、ルイズはゆっくりと目を開けた。体の上には少しふんわりとした布団が掛けられている。
どうやらいつの間にか気を失っていたようだが、それよりも先にルイズはある事に気がついた。
もしも仰向けに倒れているのであればいつもの見知った天井が真っ先に視界に入る筈である。
しかし、今彼女の鳶色の瞳に映っているその天井は、彼女の見知らぬ天井であった。
見知らぬ天井を見てルイズは眉を顰めると、自分の身体の下に柔らかい布のような物が敷かれているのに気がついた。
いつも自分が愛用しているベッドじゃないということにすぐに気がつき、そして次に辺りを見回してアッと驚いた。
「ここ、どこよ…?」
掛け布団を蹴飛ばし、上半身を起こしたルイズはポツリと呟いた。
そう、そこは…少なくともルイズが今まで見たことのない感じの部屋であった。
床は見知った板作りではなく、全く見たことのない奇妙な物が敷かれている。
寝ているルイズの右側には木製の枠組みの両面に紙または布を張ったもの――つまりは襖があった。
ついで左側には足が短いテーブルがあり、その上には使い慣れた自分の杖が置かれていた。
ルイズは立ち上がると、ゆっくり深呼吸し右手でギュ~…っと頬を抓った。
「イタタタタ…!」
途端、激しい痛みが抓った頬に襲いかかり、すぐさま手を放した。
涙目になりながらもルイズはコレが夢ではないということを実感する事となった。
「一体どういう事なの…?私は霊夢と一緒に自分の部屋に居て…それからそれから黒猫が―――あれ?」
自ら口に出して自分が覚えていることを呟いていたとき、ふと言葉が途切れてしまった。
尻尾が二本もある黒猫が部屋に入ってきたまでの事は覚えているが、それから後の事は全く覚えていなかった。
まるでその時の記憶だけ抜き取られたかのように思い出せない。
(こんな事…前にもあったような…――イヤそんな事よりもここは一体何処なの?)
この部屋といい、記憶が無いといい…一体どういう事なの…?とルイズは不安になり、テーブルに置かれた杖を手に取ろうとした時…。
襖の開く音がし、その後聞き慣れた声がルイズの耳に入ってきた。
「何キョロキョロしてんのよ?そんなにこの部屋が珍しいのかしら」
その声にルイズはハッとした顔をしつつも振り返ると、急須と湯飲みを載せたお盆を持った霊夢がそこにいた。
「れ、霊夢…。ここは一体何処なのよ?私、ついさっきまで魔法学院の自室にいた筈だけど…」
「…まぁ気を失ってたアンタからしてみればついさっきの事かもね。」
いつもの気怠そうな巫女の顔を見て、ルイズは不安そうな表情でそう言った。
一方の霊夢はその言葉にふぅ…と溜め息をつきつつもそう言い、手に持っていたお盆をテーブルの上に置いた。
霊夢は既にお茶が入っている湯飲みを手にするとそれをルイズの前に差し出した。
「ほら、とりあえず飲みなさいな。詳しいことはその後に話すから」
「え?あ、あぁどうも…って、これ取っ手が無いんだけど?」
「何言ってんのよ?取っ手がないのは当たり前じゃない。ティーカップじゃないんだから」
「…アンタ、口の悪さだけはキュルケより上なんじゃないの?」
馬鹿にするかのような霊夢の言葉に愚痴をこぼししつつも、ルイズは湯飲みを手に取った。
湯飲みは不思議と熱くはなく人肌に丁度良いくらいに暖かく、冷たくなっていたルイズの指を温めた。
そして若干湯気が立つ緑色のお茶をクイッと湯飲みを少し傾け、ゆっくりと口の中に入れた。
街で買ってあげたお茶とよく似た渋味と少し熱めの温度が舌を刺激し、喉を通っていく。
傾けていた湯飲みを再び傾ける前の角度にまで戻すとふぅっ…と息をついた。
「いつもコレを飲むたびに思うけど。渋味があってこれはこれで美味しいお茶ね。」
「よね~。私も好きよ、霊夢の出すお茶は」
「まぁ確かに、一度レイムの煎れてくれた紅茶を飲んだ事があったけど…―――
…――って、誰よアンタ!」
横から聞こえてきたその言葉に、ウンウンと頷きつつ一人呟きながらも声の聞こえた方向に顔を向けた瞬間、ルイズは驚いた。
驚くのは無理もない。何せ白い導師服を着た金髪の女性がいつの間にか自分の横にいたのであるから。
「まぁまぁ、年頃の美少女がそんな驚いた顔をしてたら婿が一人も来ないわよ。ウフフ♪」
金髪の女性は手に持っている扇子で口元を隠しつつ、驚いたルイズを見てカラカラと笑った。
いつの間にか横にいた謎の女性に驚きつつも自分が笑われている事に気づき、カッとなってしまう。
「アンタ、道化師か何かなの?人を驚かしてその様を見て笑うなんて失礼よ!」
出来る限り目を鋭くしてそう言い放ったルイズを見て、女性は更にニヤニヤとする。
「道化師…ねぇ。まぁ確かに、今まで歴史の中で行ってきた一大行事には多くの人間が驚いていたわねぇ。特に月面戦争の時には―――あら?」
楽しそうに喋る女性の言葉を遮ったのは、ルイズが素早く手に持った杖であった。
「ふざけてるのかしら?だったら相手を選びなさい!恐れ多くも、私は公爵家…ム」
静かな怒りを抱えた鳶色の瞳を女性に向けつつ、ルイズは自分が誰なのかを教えようとしたがそれは霊夢の右手によって止められた。
「ハイハイそこまでにしときなさい。コイツ相手にムキになっても意味ないわよ」
「あらあら霊夢、私の数少ない楽しみを取るなんて…育て方を間違えたのかしら?しくしく…」
「変な言い方しないでよ!下手に勘違いされたらどうするの!」
一方の女性は泣き真似泣きまねをしつつそう言うと、今度は霊夢が怒鳴った。
ルイズは憤りながらもそんな二人のやり取りを見つめつつも、霊夢に話しかけた。
「ねぇレイム、コイツは一体だれよ!?アンタよりタチが悪いじゃないの!」
「あら失礼な子ねぇ…まぁそれは置いておくとして、自己紹介がまだだったわね。」
そう言うと女性は立ち上がり、自らの名を名乗った。
「私の名前は八雲 紫。ここ、幻想郷を創りし者…ついでに趣味はその日その日で変わりますの。今日の趣味は…人攫いかしらねぇ」
紫は名乗った後。手に持っていた扇子で何もない空間をスッと撫でた。
瞬間、何もないはずの空間に線が現れ、一瞬にして大きな裂け目が生まれた。
「そして…境界を操る程度の能力を持っていますの。どうか以後お見知りおきを」
付け加えるかのように紫がそう言うと、裂け目の中から見える巨大な目がギロリとルイズを睨んだ。
その目に睨まれたルイズは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げると杖を取り落とし、その場で腰を抜かしてしまった。
ルイズの反応がお気に召したのか、元から笑顔だった紫は一層微笑んだ。
それは人を喜ばせるどころか…見た者を恐怖させる程の笑顔であった。
#navi(ルイズと無重力巫女さん)
#navi(ルイズと無重力巫女さん)
「やっぱり紫様の言う事は何でも当たるねぇ。すぐに紅白と【虚無】の少女を見つけちゃった」
ようやく捜していた二人を見つけ出した橙が嬉しそうに呟いた。
瞬間、霊夢は目の前にいる猫がいつぞやのマヨヒガで出会った八雲紫の式、八雲藍の式である橙だと気づいた。
それと同時に、ようやく迎えがやってきたのだと悟り、溜め息をついた。
「全く、いつかは来ると思ってたけど。まさか式の式をよこして来るなんてね」
聞き慣れない言葉を聞いたルイズは首を傾げた。
自分の横をかいくぐって部屋に入ってきた尻尾が二本もある黒猫に疑問の目を向ける。
「シキノシキ?…というよりその黒猫はなによ、知り合い?随分とアンタの事を知ってそうな感じだけど」
ルイズの声を聞いた橙はピクンと耳を動かすと彼女の方へと顔を向けた。
「どっちかというと、アタシの主人とその主人がこの紅白とはよく顔を合わせてるよ」
橙の説明を聞いたルイズは眉をしかめつつも霊夢に話し掛けた。
「ねぇレイム、私にはよくわからないから説明してよ。それも簡潔に」
ルイズにそう言われ、霊夢は面倒くさそうな顔をしつつもその質問に答えた。
「ん~…何でコイツが来たのかは私にも良くわからないけど…要するに、迎えかしらね」
「まぁそう言うことさ。後、コイツ呼ばわりはやめろよこの紅白」
霊夢の口から出たその言葉に、橙は文句を言いつつコクリと頷いた。
「ふ~ん、迎えねぇ…迎え…迎え…―――――って、えぇえぇえぇぇぇぇぇぇ!?」
数秒遅れて、ルイズは霊夢の口からあっさりと出たその言葉に、驚きの叫び声を上げた。
驚くのも無理は無い。何せいきなりの事である。
ロマリアの教皇聖下が突然「実践教義に鞍替えします」と全世界に発表する様なものだ。
突然の事に動揺を隠せないルイズは橙を指さしながら口を開いた。
「ちょっ…む、迎えって。まさかこんな黒猫が迎えだっていうの!?」
その時、今の今まで黙っていたデルフが突如話に割り込んできた。
『ただの黒猫だって?娘っ子、お前さんの目は節穴か?こいつは正真正銘の化け物だぜ』
橙が部屋に入ってきた所為でまだ途中だった話が中断されたことにより相当怒っていた。
勿論デルフをただの剣だと思っていた橙は苛立ちを露わにして喋る剣に驚いた。
しかし、すぐにデルフの言った事に反応し、ピンと両耳を尖らせた。
更に尻尾を大きく膨らませ、全身の毛を逆立てたら、剣を相手に威嚇している黒猫の完成である。
「私をただの化け物扱いするな!第一お前だってまともな剣じゃないだろう!」
その様子を見たデルフはまるで笑うかのようにぷるぷると刀身を奮わせながら言った。
『うっせぇ。第一、尻尾が二本あって、使い魔でもないのに人語を解す時点でまともな生物じゃねぇだろうが!
それに俺様はお前のような得体の知れない存在とは……』
「…そこまでにしときなさいよ。全く、こっちだって聞きたいことがあるんだから」
お互い一歩も退かないその様子に、霊夢は呆れつつも口を開いた。
喧嘩になる前に霊夢が割り込んできたためか橙は何かを思い出したかの様に耳をピンと尖らせると霊夢に話しかけた。
「あ、そうそう。一つだけ言っておくことがあったのを忘れてたわ」
「…?何を言い忘れたのよ」
首を傾げた霊夢に、橙は尻尾を振りながら自慢気にこう言った。
「紫様からの伝言。『橙と一緒にその場でジッとしているだけで良いから』だって」
橙の言葉を聞いたルイズはキョトンとした顔になったが、橙の言う『紫様』をある程度知っている霊夢は瞬時にその言葉の意味を理解した。
一方のデルフは自分の話を遮った霊夢と橙に怒りをぶつけようと再び喋り始めた。
『おいレイム!お前さんまでもがその化け物の味方をするの…か…よ……!』
喋ってる途中に何かを感じたのか、デルフの刀身がブルブルと震え始めた。
先程怒っている橙を笑うかのようなそれとは違い、まるで何かを警戒しているかのような震え方であった。
ルイズはそんなデルフを見て一体どうしたのかと思ったが、そんな彼女の身にも異変がおこった。
「ねぇ…ちょっと部屋の中寒くないかしら?」
ふと自分の手で身体をさすりながらもルイズはそう言った。
まるで冷たい水を全身に浴びたかのような冷気が彼女の身体を包み、体温を少しずつ奪っていくような気がした。
窓も閉まっており、暖炉にはちゃんと火がついているというのに。
そんなルイズの様子を見て、霊夢は溜め息をつくと天井を見上げ、呟いた。
「やれやれ…待たせた分演出に凝ってみました…って所かしらねぇ?」
◆
「ミス・ヴァリエール。夜食の方をお持ちしに来ましたが…」
学院のメイド服を見事に着こなしている金髪碧眼のおっとりとした目つきの少女がルイズの部屋のドアをノックしていた。
左手にはワインの入ったミニボトルと食パンに野菜やハムをはさんだ軽食を入れたバスケットを持っている。
生徒達の中には夕食だけで腹を満たせる者が少なく、時折こうして夜食を頼む生徒が後を絶たないのだ。
かくいうルイズも例外ではなく、時折こうして頼むことが何回かあるのだ。
その為、こうして一人のメイドが夜食とワインを持ってルイズの部屋の前に突っ立ってドアをノックし続けているのだ。
なぜ部屋の前で立ち往生しているのかというと。こうやって何回もノックしても部屋の主人が出てこないのだ。
普通この時間帯の生徒達は部屋を出ることを禁止されており。真面目な者ならば部屋から出ようとはしない。
「あのーすいませんミス・ヴァリエール。せめてお返事だけでもぉ…」
給士は困ったようにそう言うが、ドアの向こうからは一切の声が聞こえない。
相手の返事が無いことに給士は溜め息をつくと、スッと目つきを変え、廊下に誰もいないのを確認した。
おっとりとしたようなソレではなく、まるで獲物を捜す鷹の目のソレである。
廊下には誰もいないのを確認した後、バスケットをそっと地面に置くと懐から小さな杖を取り出した。
一見すればただの羽ペンに見えるソレを振るいながら『アンロック』の呪文を唱えた。
魔法学院の校則では『アンロック』の呪文は生徒達のプライベート上、禁止とされている。
しかし今目の前でその呪文を唱えたメイドはそんなの関係ないと言わんばかりに唱えていた。
メイドは杖を再び懐に戻すとゆっくりとドアノブを捻ってドアを開け、そして目を丸くした。
簡単に言えば『部屋の中には誰もいなかった』。そう、誰一人として。
この部屋の主人である少女、そして彼女が召喚した少女もこの部屋にやってきた黒猫もいなくなっていた。
壁に立てかけられていた御幣やインテリジェンスソードも無くなっていたがこのメイドにとってはそれはどうでも良いことである。
彼女にとって、『今この部屋に主人とその使い魔がいない』という事が一番の問題であった。
みるみると顔色が青ざめていくメイドは信じられないという風に首を横に振りつつドアを閉めた。
そして再びバスケットを手にもつと早足で食堂に戻っていった。
食堂を戻りつつも彼女は下唇をキュッと噛み締めながら首から下げた聖具をギュッと握りしめた。
◆
「―――…ん、うぅ…。」
耳の中に入ってくる風の音で、ルイズはゆっくりと目を開けた。体の上には少しふんわりとした布団が掛けられている。
どうやらいつの間にか気を失っていたようだが、それよりも先にルイズはある事に気がついた。
もしも仰向けに倒れているのであればいつもの見知った天井が真っ先に視界に入る筈である。
しかし、今彼女の鳶色の瞳に映っているその天井は、彼女の見知らぬ天井であった。
見知らぬ天井を見てルイズは眉を顰めると、自分の身体の下に柔らかい布のような物が敷かれているのに気がついた。
いつも自分が愛用しているベッドじゃないということにすぐに気がつき、そして次に辺りを見回してアッと驚いた。
「ここ、どこよ…?」
掛け布団を蹴飛ばし、上半身を起こしたルイズはポツリと呟いた。
そう、そこは…少なくともルイズが今まで見たことのない感じの部屋であった。
床は見知った板作りではなく、全く見たことのない奇妙な物が敷かれている。
寝ているルイズの右側には木製の枠組みの両面に紙または布を張ったもの――つまりは襖があった。
ついで左側には足が短いテーブルがあり、その上には使い慣れた自分の杖が置かれていた。
ルイズは立ち上がると、ゆっくり深呼吸し右手でギュ~…っと頬を抓った。
「イタタタタ…!」
途端、激しい痛みが抓った頬に襲いかかり、すぐさま手を放した。
涙目になりながらもルイズはコレが夢ではないということを実感する事となった。
「一体どういう事なの…?私は霊夢と一緒に自分の部屋に居て…それからそれから黒猫が―――あれ?」
自ら口に出して自分が覚えていることを呟いていたとき、ふと言葉が途切れてしまった。
尻尾が二本もある黒猫が部屋に入ってきたまでの事は覚えているが、それから後の事は全く覚えていなかった。
まるでその時の記憶だけ抜き取られたかのように思い出せない。
(こんな事…前にもあったような…――イヤそんな事よりもここは一体何処なの?)
この部屋といい、記憶が無いといい…一体どういう事なの…?とルイズは不安になり、テーブルに置かれた杖を手に取ろうとした時…。
襖の開く音がし、その後聞き慣れた声がルイズの耳に入ってきた。
「何キョロキョロしてんのよ?そんなにこの部屋が珍しいのかしら」
その声にルイズはハッとした顔をしつつも振り返ると、急須と湯飲みを載せたお盆を持った霊夢がそこにいた。
「れ、霊夢…。ここは一体何処なのよ?私、ついさっきまで魔法学院の自室にいた筈だけど…」
「…まぁ気を失ってたアンタからしてみればついさっきの事かもね。」
いつもの気怠そうな巫女の顔を見て、ルイズは不安そうな表情でそう言った。
一方の霊夢はその言葉にふぅ…と溜め息をつきつつもそう言い、手に持っていたお盆をテーブルの上に置いた。
霊夢は既にお茶が入っている湯飲みを手にするとそれをルイズの前に差し出した。
「ほら、とりあえず飲みなさいな。詳しいことはその後に話すから」
「え?あ、あぁどうも…って、これ取っ手が無いんだけど?」
「何言ってんのよ?取っ手がないのは当たり前じゃない。ティーカップじゃないんだから」
「…アンタ、口の悪さだけはキュルケより上なんじゃないの?」
馬鹿にするかのような霊夢の言葉に愚痴をこぼししつつも、ルイズは湯飲みを手に取った。
湯飲みは不思議と熱くはなく人肌に丁度良いくらいに暖かく、冷たくなっていたルイズの指を温めた。
そして若干湯気が立つ緑色のお茶をクイッと湯飲みを少し傾け、ゆっくりと口の中に入れた。
街で買ってあげたお茶とよく似た渋味と少し熱めの温度が舌を刺激し、喉を通っていく。
傾けていた湯飲みを再び傾ける前の角度にまで戻すとふぅっ…と息をついた。
「いつもコレを飲むたびに思うけど。渋味があってこれはこれで美味しいお茶ね。」
「よね~。私も好きよ、霊夢の出すお茶は」
「まぁ確かに、一度レイムの煎れてくれた紅茶を飲んだ事があったけど…―――
…――って、誰よアンタ!」
横から聞こえてきたその言葉に、ウンウンと頷きつつ一人呟きながらも声の聞こえた方向に顔を向けた瞬間、ルイズは驚いた。
驚くのは無理もない。何せ白い導師服を着た金髪の女性がいつの間にか自分の横にいたのであるから。
「まぁまぁ、年頃の美少女がそんな驚いた顔をしてたら婿が一人も来ないわよ。ウフフ♪」
金髪の女性は手に持っている扇子で口元を隠しつつ、驚いたルイズを見てカラカラと笑った。
いつの間にか横にいた謎の女性に驚きつつも自分が笑われている事に気づき、カッとなってしまう。
「アンタ、道化師か何かなの?人を驚かしてその様を見て笑うなんて失礼よ!」
出来る限り目を鋭くしてそう言い放ったルイズを見て、女性は更にニヤニヤとする。
「道化師…ねぇ。まぁ確かに、今まで歴史の中で行ってきた一大行事には多くの人間が驚いていたわねぇ。特に月面戦争の時には―――あら?」
楽しそうに喋る女性の言葉を遮ったのは、ルイズが素早く手に持った杖であった。
「ふざけてるのかしら?だったら相手を選びなさい!恐れ多くも、私は公爵家…ム」
静かな怒りを抱えた鳶色の瞳を女性に向けつつ、ルイズは自分が誰なのかを教えようとしたがそれは霊夢の右手によって止められた。
「ハイハイそこまでにしときなさい。コイツ相手にムキになっても意味ないわよ」
「あらあら霊夢、私の数少ない楽しみを取るなんて…育て方を間違えたのかしら?しくしく…」
「変な言い方しないでよ!下手に勘違いされたらどうするの!」
一方の女性は泣きマネをしつつそう言うと、今度は霊夢が怒鳴った。
ルイズは憤りながらもそんな二人のやり取りを見つめつつも、霊夢に話しかけた。
「ねぇレイム、コイツは一体だれよ!?アンタよりタチが悪いじゃないの!」
「あら失礼な子ねぇ…まぁそれは置いておくとして、自己紹介がまだだったわね。」
そう言うと女性は立ち上がり、自らの名を名乗った。
「私の名前は八雲 紫。ここ、幻想郷を創りし者…ついでに趣味はその日その日で変わりますの。今日の趣味は…人攫いかしらねぇ」
紫は名乗った後。手に持っていた扇子で何もない空間をスッと撫でた。
瞬間、何もないはずの空間に線が現れ、一瞬にして大きな裂け目が生まれた。
「そして…境界を操る程度の能力を持っていますの。どうか以後お見知りおきを」
付け加えるかのように紫がそう言うと、裂け目の中から見える巨大な目がギロリとルイズを睨んだ。
その目に睨まれたルイズは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げると杖を取り落とし、その場で腰を抜かしてしまった。
ルイズの反応がお気に召したのか、元から笑顔だった紫は一層微笑んだ。
それは人を喜ばせるどころか…見た者を恐怖させる程の笑顔であった。
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