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#navi(ゼロの戦闘妖精)
Intermission 02「ざ・らいとすたっふ」
母親から提案された『実技試験』のために、ルイズはデルフリンガーを雪風に装備した。
「今度は、伝説の『烈風』殿と対決か。まったく 嬢ちゃんといると、退屈してるヒマが無ぇな!」
「デルフ 何を期待してるのか判らないけど、たぶん 貴方の出番は無いわ。あくまで『保険』よ。
むしろ 出番があったらマズイの。」
「そりゃまた どーして?」
「今回は 『逃げ』に徹するから、グリフォン隊の入隊試験の時と違って相手に突っ込んでいく事は無いわ。
だから 攻撃魔法は後方から私達を追いかけてくる型になるハズ。
仮に スクエアスペルのカッター・トルネードを使われたとしても、竜巻自体の移動速度は雪風よりも遅いから まず届かないと判断していい。
流石に雷撃は雪風よりも速いけど、ライトニング・クラウドは 前段階で雷雲を発生させなきゃならないから、高速飛行中に使うのは無理だし。」
「そりゃそーだ。雲なんざ 吹っ飛はされちまうからな。」
「怖いのは、魔法よりも剣ね。
お母様は 全速力で逃げる飛竜の騎士を 追いかけて斬った事があるっていうし、私もお母様の全力飛行って 見たことが無いの。
ねぇデルフ、貴方から見て お母様ってどうだった?雪風より速いなんて事が あると思う?」
「さーて、どうかねぇ。判るのは 両方とも『すんげぇ速ぇ!』って事までだ。どっちも 常識ってモンの範疇を越えちまってるからな。
俺っちに そんな事を聞くのは、十までしか数えらんねぇガキに 千や万単位の数字の大小を比べろってぇのと同じだぜ。」
「あ~あ。貴方の『六千年の記憶』でも、データ無しか!
もうイイわ。此処まで来たら 雪風を信じるしか無いんだから。」
ヴァリエール邸から 一騎の幻獣と一機の航空機が飛び立つ。
羽ばたき飛行のグリフォンは、垂直離陸も可能だが、カリーヌは騎獣を滑走させ 更に水平飛行で速度を稼いでから一気に上昇した。
雪風も、自重を上回る最大推力をもって 離陸直後から垂直上昇に移行、先行したグリフォンを追い抜き 十数秒で予定高度に到達した。わずかに遅れて グリフォン到着。
「では 始めましょう。」
ルイズから渡された フライトオフィサ用のインカムで カリーヌが宣言する。
同時に エアハンマーが雪風を襲う。通常の三倍速いといわれる、『烈風』アレンジ版のエアハンマーだ。
それを 爆発的な加速で回避する雪風。そのまま 設定空域の周回飛行に入る。
〔ひょえー。こないだより 一段と速ぇな!〕
(そうね。今回は 速度リミットをいつもより高めに設定したから。
それでもまだ 全開には程遠いけどね。ソニックブームとかも危ないし、せいぜい亜音速域までよ。
さて この後何も無ければいいんだけど。)
カリーヌは ルイズを信じていない訳ではなかった。
一般に言う『風竜よりも速く飛べるものは無い』、それは間違っている。自身 風竜よりも速く飛んだ事もある。
だから それを想定した速度で飛んでいるつもりだった。
甘かった。あれは、『風竜を追い抜く事ができる速度』等ではない。『風竜を置き去りにする速度』だ。
だが まだ追える。問題は アレが使い魔の全速ではないだろうという事だ。
「まさか、この呪文を使う事になろうとはな。」
それは 彼女のオリジナル、超高速飛行の呪文だった。
《マスター:警告》
コクピット内のルイズに、緊張が走る。
(何、雪風?)
《ターゲットα、後方50メイルまで接近。》
(来たわね。)
〔おいっ、ウソだろ?相棒!〕
デルフリンガーと違って、ルイズはこのくらいでは驚かない。予想範囲内だ
(ターゲットαとの距離は現状で固定、引き続き詳細な情報収集と解析を実施。)
《RDY
現在までに判明の事項
・ターゲットαは 何らかのフィールドを形成して空気抵抗を低減。
(タバサ・シルフィードのデータから類推)
・フィールドの一部に吸入口を作り、それを後方に噴射して推進力を増加。
(空間受動レーダーにより確認)》
(つまり 魔法式のジェットエンジンね。
でも、複数の魔法を同時に使うなんて、普通 出来ないわ。
確かに お母様は普通じゃないけど、それにしたってコモン・マジックと簡単な魔法程度が限度のハズよ!
なのに、特殊形状の結界と 大出力の風魔法だなんて…)
《マスター:推測
複数の効果をワンスペルで発動させる 自作魔法である可能性。》
(なによそれっ、やっぱりバケモノだわ!!)
上空で繰り広げられる 前代未聞の追いかけっこ。それを中庭から見物しているヴァリエール家の皆様+1。
デッキチェアに日傘付きテーブル、ティーセットに茶菓子も用意されている。
「お母様、相変わらずお元気ねぇ。」
「うむ。あれほど楽しそうなカリーヌを見るのは 久しぶりだな。」
「非常識よ、どっちも!」
「…同感です。」
誰も 慌てる様子はない。家族の奇行など もう慣れっこである。
「ときにワルド君、」
「何でしょう?」
「ちょっと 頼まれてくれないか…」
風の結界が 激しく震える。
重い。風が、深き水 いや水銀の如く重い。
精霊にすら許されぬ速さ この重さは禁を犯す者への戒めか?
否、断じて否! 新たなる世界への道は 常に厳しい。それを乗り越えられる者だけに 祝福は与えられる。
あの使い魔は 追えば追うほど速くなる。やがては『風が壁になる領域』に突入するだろう。
カリーヌ本人ですら、若き日に数回だけ感じる事の出来た世界に。
《マスター:要請
現在 時速750メイル。速度リミット上限。ターゲットα、なお加速中。リミット解除の要あり。》
(ソニックブームの ターゲットαに対する影響は?)
《確率80パーセントで、結界フィールドのため 身体に影響無しと推定。》
(分かったわ。リミッター再設定、上限値マッハ1.2、音速突破!)
《RDY》
ルイズの使い魔が また速度を上げた。
既に 風が壁となって立ち塞がる領域。そこから、ああも易々と加速する・・・素晴らしい!
カリーヌは魔力を振り絞って それを追う。
今こそ理解した。あの使い魔『雪風』は、この先の世界を飛ぶためのものだと。
前方で「ドーン」という音がした。雪風が『壁』を突き破ったのだろう。「ならば」と、カリーヌも掛け値なしに全力を魔法に注ぎ込む。
結界がバラバラに砕け散るような轟音と振動、それでも強引に加速、
「まだよ、まだっ! あと少しぃい!!」
そして、唐突に『音』が、消えた。
それは、大嵐を脱した船の前に現れる 凪の海。いや もっと神々しい世界。静寂と光の空。
ハルケギニア有史以来 此処にたどり着けたメイジは 何人いるのだろうか。
恐らく 十指を満たす事はないだろう。
それゆえ 語られる事も無く、音速の概念のない社会では 想像もされなかった『超音速の世界』。
「(あぁ 私は再び 此処まで来れた・・・)」
公爵夫人は そう思いながら意識を失った。
《ターゲットα、失速。急速降下。》
(えっ 大変。雪風 急いでお母様のところへ!)
雪風が引き返して来た時、カリーヌの元へは マンティコアに二人乗りしたヴァリエール公とワルドが到着していた。
まず ワルドが精根尽き果てたグリフォンをレヴィテーションで支え、公爵がそれに移乗。妻を抱えてマンティコアに戻る。
替わってワルドがグリフォンに騎乗すると、本来の主人が乗った事で 愛騎の気力も僅かに回復、自力で屋敷まで戻ることが出来た。
「さすがですね、ヴァリエール公。こうなる事を見通してらっしゃったとは。」
「カリーヌは若い頃から、物事に集中すると自分の限界を超えても気付かないタチだったからな。
それと、他の『伝説』に紛れて 余り知られていないが、トリステイン最速騎士の記録保持者も彼女なのだ。
むきになって張り合うだろう事は すぐに予想できたよ。」
「なるほど。自分の娘であっても トップを譲る気は無かったと言う事ですか!」
「そんな事はありませんよ!」起き上がるカリーヌ夫人。女性は、悪口と噂話に敏感である。
「私は、久しぶりに『あの世界』へ 行ってみたかっただけです。」
着陸した雪風からルイズが、屋敷の方からエレオノールとカトレアが駆け寄ってくる。
「お母様 凄い、凄すぎます! 生身で音速を突破するなんて!!」
ルイズが驚嘆の声を上げると、
『音速?』 ハモるカリーヌとエレオノール。
「はい。お母様には判っていただけると思いますが、あの直前まであった『壁』は、空気の壁と同時に『音』の壁だったんです。
音は一瞬で遠方まで伝わりますが、如何に速くとも ゼロ時間ではありません。
落雷の際 雷光よりも雷鳴が遅れる事をお考え下さい。それが 音の伝わる速度です。
音は 上下前後左右いずれの方向にも伝わりますが、物体が音速に迫ると、自ら出して前方に伝わる音は圧縮され 壁となります。
その壁を突き抜けた先に現れるのが、『超音速領域』なのです。」
「そうですか。それゆえに あの世界はあれ程 静かなのですか。
あれこそが、雪風という使い魔の 本来の領域なのですね。」
「そうです。でも、あれはほんの入り口。
雪風を召喚して間もない頃、一度 全速力で飛ぶように指示しましたが、身体への危険性を理由に拒否されました。
パイロット用抗Gスーツと言う 異世界のアンダーアーマーのような服を 私のサイズに仕立て直して着用しなければ 命にかかわるとの事です。
ですが、マッハ2.0ぐらいまでなら、高機動しなければ何とかなります。
お母様、今度は雪風の後部席にお乗りください。私と共に その先の世界を御覧下さい!」
「ええ、喜んで。」
そう言って立ち上がる母。さすがは『烈風』、魔力は使い果たしても 体力には余裕あり。昔とった杵柄か?
だが、
「待ちなさい おチビ!少しはお母様の御身体のことも考えなさい。
私が先に乗るわ!」
「大姉様!?」
エレオノールが 雪風に乗ると言い出した。
「『音速』ねぇ? 面白い考え方だわ。アカデミーで研究する価値は 充分にあるわね。
ならば、研究員として 実際に体験しておかなくては!」
「じゃあ その次は私ね。」
「ちい姉様まで!」
身体の弱いカトレアまでが、まさかの搭乗希望。
「だって、あんなに楽しそうに飛んでいるんですもの。
なにも さっきみたいな無茶な飛び方じゃなくて、ゆっくりでいいの。
できるでしょ、ね 雪風ちゃん。」
ついに『ちゃん』付けである。カトレアさん、肝の据わり具合も凄い!
ともあれ、末娘の風変わりな使い魔は、ヴァリエール家女性陣からは すっかり受け入れられたようだった。
どうやら、交代で乗る事になり 順番を決めるのにモメているらしい。
その様子を見ながら、ワルドが問う。
「ヴァリエール公、貴方は お乗りにならないのですか?」
「そうだな・・・いや やめておこう。
ワルド君、正直なところ 私はアレが怖いのだよ。
召喚したルイズをあれほどに変えてしまい、カトレアに一目で気に入られ、エレオノールの興味を強く引き付ける使い魔。
ついには、カリーヌすら凋落させた存在。
ひょっとしたら アレは、魅了か幻惑の魔法のかけられた 呪いのアイテムではないのか。
アレに乗ったりすれば、私もその術中に嵌ってしまうのではないか。そんな気がしてね。」
宮中での堂々たる態度からは想像できない 戸惑うヴァリエール公爵。
それは 家族を心配する、夫であり父である『男』の姿。
ワルドは、早世した自分の父の おぼろげな記憶を、公爵の姿に重ねていた。
「確かに雪風は 不明な部分が多いのですが、あれは 魔法無き世界で造られしもの。
呪い云々があるとは思えませんし、もしそうであれば、先程エレオノール様が気付いていた事でしょう。
ルイズも言っておりました。『雪風は武器』と。
邪なるモノが用いれば悪魔となり、心正しく使うなら 救国の英雄とも成り得る。
『伝説の武器』の逸話としては、まぁ ありがちなところでしょう。」
とりあえず納得した ヴァリエール公。が、ある事を思い出す。
「そういえば君は、『伝説のルーン』がどうかしたと言っておったな。」
「ええ。実は、雪風の翼に刻まれたルーンなんですが、これが 始祖の使い魔が一つ、『ガンダールヴ』のルーンらしいのです。」
「なん だと!」
「トリステインが未曾有の国難を迎えようとする この時期に、伝説のルーンを持つ使い魔が召喚される。これは果たして偶然でしょうか?」
「子爵、君も 開戦は避けられぬ、と。」
「はい。主流派の唱える『アルビオン封じ込め策』は、確実に失敗します。我々だけでも 準備はしておくべきでしょう。」
「だが、残された時間は あまりに少ない。」
「そして もう一つ。
唯の可能性 私の考え違いという事ならよいのですが…
始祖の使い魔を召喚する事が出来るメイジ、さて その系統は一体何なのか。
どう思われますかな?」
「まさか!」
「確証はございません。しかし 状況証拠は揃いつつあります。
公爵様、もしもの際は どうかお覚悟を。」
公爵から 返事は無かった。
結局 雪風への搭乗順は、カトレア、エレオノール、カリーヌと決まったらしい。
次女と三女を乗せて 雪風が離陸する。
「娘達は あの使い魔の上で、どのような話をするのであろうか。」
「さぁ。我々の様な内容でないことは 確かでしょう。」
そして ヴァリエール公は、ワルドに深々と頭を下げた。
「ワルド子爵、娘を ルイズを宜しく頼む。
私は運命論者ではないつもりだ。だが この先ルイズは『運命』とやらに翻弄されるだろう。
頼む・・・ルイズを、助けてやってくれ。」
「ルイズは 僕の部隊の一員です。いかなる運命が待ち構えていようと、既に一蓮托生ですよ。
ですから これだけはお約束します。
『僕より先に ルイズは死なせません』。」
「判った。
では、無理を承知で もう一つ我儘を言わせてもらう。
『君も 死ぬな!』 たぶんルイズも、そう願うだろうから。」
そこまで言って ヴァリエール公は歩き出した。
「公爵様、どちらへ?」
「いや、『娘を頼む』というなら、あの使い魔殿にも話を通しておくべきであろう。
お~い エレオノール。次の順番 私と替わってくれんかー!」
(余談)
この後 延々と『雪風試乗会』は続き、ガス欠となった雪風の為に、ワルドは 燃料タンクを抱えて学院まで往復するハメになった。
#navi(ゼロの戦闘妖精)
#navi(ゼロの戦闘妖精)
Intermission 02「ざ・らいとすたっふ」
母親から提案された『実技試験』のために、ルイズはデルフリンガーを雪風に装備した。
「今度は、伝説の『烈風』殿と対決か。まったく 嬢ちゃんといると、退屈してるヒマが無ぇな!」
「デルフ 何を期待してるのか判らないけど、たぶん 貴方の出番は無いわ。あくまで『保険』よ。
むしろ 出番があったらマズイの。」
「そりゃまた どーして?」
「今回は 『逃げ』に徹するから、グリフォン隊の入隊試験の時と違って相手に突っ込んでいく事は無いわ。
だから 攻撃魔法は後方から私達を追いかけてくる型になるハズ。
仮に スクエアスペルのカッター・トルネードを使われたとしても、竜巻自体の移動速度は雪風よりも遅いから まず届かないと判断していい。
流石に雷撃は雪風よりも速いけど、ライトニング・クラウドは 前段階で雷雲を発生させなきゃならないから、高速飛行中に使うのは無理だし。」
「そりゃそーだ。雲なんざ 吹っ飛はされちまうからな。」
「怖いのは、魔法よりも剣ね。
お母様は 全速力で逃げる飛竜の騎士を 追いかけて斬った事があるっていうし、私もお母様の全力飛行って 見たことが無いの。
ねぇデルフ、貴方から見て お母様ってどうだった?雪風より速いなんて事が あると思う?」
「さーて、どうかねぇ。判るのは 両方とも『すんげぇ速ぇ!』って事までだ。どっちも 常識ってモンの範疇を越えちまってるからな。
俺っちに そんな事を聞くのは、十までしか数えらんねぇガキに 千や万単位の数字の大小を比べろってぇのと同じだぜ。」
「あ~あ。貴方の『六千年の記憶』でも、データ無しか!
もうイイわ。此処まで来たら 雪風を信じるしか無いんだから。」
ヴァリエール邸から 一騎の幻獣と一機の航空機が飛び立つ。
羽ばたき飛行のグリフォンは、垂直離陸も可能だが、カリーヌは騎獣を滑走させ 更に水平飛行で速度を稼いでから一気に上昇した。
雪風も、自重を上回る最大推力をもって 離陸直後から垂直上昇に移行、先行したグリフォンを追い抜き 十数秒で予定高度に到達した。わずかに遅れて グリフォン到着。
「では 始めましょう。」
ルイズから渡された フライトオフィサ用のインカムで カリーヌが宣言する。
同時に エアハンマーが雪風を襲う。通常の三倍速いといわれる、『烈風』アレンジ版のエアハンマーだ。
それを 爆発的な加速で回避する雪風。そのまま 設定空域の周回飛行に入る。
〔ひょえー。こないだより 一段と速ぇな!〕
(そうね。今回は 速度リミットをいつもより高めに設定したから。
それでもまだ 全開には程遠いけどね。ソニックブームとかも危ないし、せいぜい亜音速域までよ。
さて この後何も無ければいいんだけど。)
カリーヌは ルイズを信じていない訳ではなかった。
一般に言う『風竜よりも速く飛べるものは無い』、それは間違っている。自身 風竜よりも速く飛んだ事もある。
だから それを想定した速度で飛んでいるつもりだった。
甘かった。あれは、『風竜を追い抜く事ができる速度』等ではない。『風竜を置き去りにする速度』だ。
だが まだ追える。問題は アレが使い魔の全速ではないだろうという事だ。
「まさか、この呪文を使う事になろうとはな。」
それは 彼女のオリジナル、超高速飛行の呪文だった。
《マスター:警告》
コクピット内のルイズに、緊張が走る。
(何、雪風?)
《ターゲットα、後方50メイルまで接近。》
(来たわね。)
〔おいっ、ウソだろ?相棒!〕
デルフリンガーと違って、ルイズはこのくらいでは驚かない。予想範囲内だ
(ターゲットαとの距離は現状で固定、引き続き詳細な情報収集と解析を実施。)
《RDY
現在までに判明の事項
・ターゲットαは 何らかのフィールドを形成して空気抵抗を低減。
(タバサ・シルフィードのデータから類推)
・フィールドの一部に吸入口を作り、それを後方に噴射して推進力を増加。
(空間受動レーダーにより確認)》
(つまり 魔法式のジェットエンジンね。
でも、複数の魔法を同時に使うなんて、普通 出来ないわ。
確かに お母様は普通じゃないけど、それにしたってコモン・マジックと簡単な魔法程度が限度のハズよ!
なのに、特殊形状の結界と 大出力の風魔法だなんて…)
《マスター:推測
複数の効果をワンスペルで発動させる 自作魔法である可能性。》
(なによそれっ、やっぱりバケモノだわ!!)
上空で繰り広げられる 前代未聞の追いかけっこ。それを中庭から見物しているヴァリエール家の皆様+1。
デッキチェアに日傘付きテーブル、ティーセットに茶菓子も用意されている。
「お母様、相変わらずお元気ねぇ。」
「うむ。あれほど楽しそうなカリーヌを見るのは 久しぶりだな。」
「非常識よ、どっちも!」
「…同感です。」
誰も 慌てる様子はない。家族の奇行など もう慣れっこである。
「ときにワルド君、」
「何でしょう?」
「ちょっと 頼まれてくれないか…」
風の結界が 激しく震える。
重い。風が、深き水 いや水銀の如く重い。
精霊にすら許されぬ速さ この重さは禁を犯す者への戒めか?
否、断じて否! 新たなる世界への道は 常に厳しい。それを乗り越えられる者だけに 祝福は与えられる。
あの使い魔は 追えば追うほど速くなる。やがては『風が壁になる領域』に突入するだろう。
カリーヌ本人ですら、若き日に数回だけ感じる事の出来た世界に。
《マスター:要請
現在 時速750メイル。速度リミット上限。ターゲットα、なお加速中。リミット解除の要あり。》
(ソニックブームの ターゲットαに対する影響は?)
《確率80パーセントで、結界フィールドのため 身体に影響無しと推定。》
(分かったわ。リミッター再設定、上限値マッハ1.2、音速突破!)
《RDY》
ルイズの使い魔が また速度を上げた。
既に 風が壁となって立ち塞がる領域。そこから、ああも易々と加速する・・・素晴らしい!
カリーヌは魔力を振り絞って それを追う。
今こそ理解した。あの使い魔『雪風』は、この先の世界を飛ぶためのものだと。
前方で「ドーン」という音がした。雪風が『壁』を突き破ったのだろう。「ならば」と、カリーヌも掛け値なしに全力を魔法に注ぎ込む。
結界がバラバラに砕け散るような轟音と振動、それでも強引に加速、
「まだよ、まだっ! あと少しぃい!!」
そして、唐突に『音』が、消えた。
それは、大嵐を脱した船の前に現れる 凪の海。いや もっと神々しい世界。静寂と光の空。
ハルケギニア有史以来 此処にたどり着けたメイジは 何人いるのだろうか。
恐らく 十指を満たす事はないだろう。
それゆえ 語られる事も無く、音速の概念のない社会では 想像もされなかった『超音速の世界』。
「(あぁ 私は再び 此処まで来れた・・・)」
公爵夫人は そう思いながら意識を失った。
《ターゲットα、失速。急速降下。》
(えっ 大変。雪風 急いでお母様のところへ!)
雪風が引き返して来た時、カリーヌの元へは マンティコアに二人乗りしたヴァリエール公とワルドが到着していた。
まず ワルドが精根尽き果てたグリフォンをレヴィテーションで支え、公爵がそれに移乗。妻を抱えてマンティコアに戻る。
替わってワルドがグリフォンに騎乗すると、本来の主人が乗った事で 愛騎の気力も僅かに回復、自力で屋敷まで戻ることが出来た。
「さすがですね、ヴァリエール公。こうなる事を見通してらっしゃったとは。」
「カリーヌは若い頃から、物事に集中すると自分の限界を超えても気付かないタチだったからな。
それと、他の『伝説』に紛れて 余り知られていないが、トリステイン最速騎士の記録保持者も彼女なのだ。
むきになって張り合うだろう事は すぐに予想できたよ。」
「なるほど。自分の娘であっても トップを譲る気は無かったと言う事ですか!」
「そんな事はありませんよ!」起き上がるカリーヌ夫人。女性は、悪口と噂話に敏感である。
「私は、久しぶりに『あの世界』へ 行ってみたかっただけです。」
着陸した雪風からルイズが、屋敷の方からエレオノールとカトレアが駆け寄ってくる。
「お母様 凄い、凄すぎます! 生身で音速を突破するなんて!!」
ルイズが驚嘆の声を上げると、
『音速?』 ハモるカリーヌとエレオノール。
「はい。お母様には判っていただけると思いますが、あの直前まであった『壁』は、空気の壁と同時に『音』の壁だったんです。
音は一瞬で遠方まで伝わりますが、如何に速くとも ゼロ時間ではありません。
落雷の際 雷光よりも雷鳴が遅れる事をお考え下さい。それが 音の伝わる速度です。
音は 上下前後左右いずれの方向にも伝わりますが、物体が音速に迫ると、自ら出して前方に伝わる音は圧縮され 壁となります。
その壁を突き抜けた先に現れるのが、『超音速領域』なのです。」
「そうですか。それゆえに あの世界はあれ程 静かなのですか。
あれこそが、雪風という使い魔の 本来の領域なのですね。」
「そうです。でも、あれはほんの入り口。
雪風を召喚して間もない頃、一度 全速力で飛ぶように指示しましたが、身体への危険性を理由に拒否されました。
パイロット用抗Gスーツと言う 異世界のアンダーアーマーのような服を 私のサイズに仕立て直して着用しなければ 命にかかわるとの事です。
ですが、マッハ2.0ぐらいまでなら、高機動しなければ何とかなります。
お母様、今度は雪風の後部席にお乗りください。私と共に その先の世界を御覧下さい!」
「ええ、喜んで。」
そう言って立ち上がる母。さすがは『烈風』、魔力は使い果たしても 体力には余裕あり。昔とった杵柄か?
だが、
「待ちなさい おチビ!少しはお母様の御身体のことも考えなさい。
私が先に乗るわ!」
「大姉様!?」
エレオノールが 雪風に乗ると言い出した。
「『音速』ねぇ? 面白い考え方だわ。アカデミーで研究する価値は 充分にあるわね。
ならば、研究員として 実際に体験しておかなくては!」
「じゃあ その次は私ね。」
「ちい姉様まで!」
身体の弱いカトレアまでが、まさかの搭乗希望。
「だって、あんなに楽しそうに飛んでいるんですもの。
なにも さっきみたいな無茶な飛び方じゃなくて、ゆっくりでいいの。
できるでしょ、ね 雪風ちゃん。」
ついに『ちゃん』付けである。カトレアさん、肝の据わり具合も凄い!
ともあれ、末娘の風変わりな使い魔は、ヴァリエール家女性陣からは すっかり受け入れられたようだった。
どうやら、交代で乗る事になり 順番を決めるのにモメているらしい。
その様子を見ながら、ワルドが問う。
「ヴァリエール公、貴方は お乗りにならないのですか?」
「そうだな・・・いや やめておこう。
ワルド君、正直なところ 私はアレが怖いのだよ。
召喚したルイズをあれほどに変えてしまい、カトレアに一目で気に入られ、エレオノールの興味を強く引き付ける使い魔。
ついには、カリーヌすら凋落させた存在。
ひょっとしたら アレは、魅了か幻惑の魔法のかけられた 呪いのアイテムではないのか。
アレに乗ったりすれば、私もその術中に嵌ってしまうのではないか。そんな気がしてね。」
宮中での堂々たる態度からは想像できない 戸惑うヴァリエール公爵。
それは 家族を心配する、夫であり父である『男』の姿。
ワルドは、早世した自分の父の おぼろげな記憶を、公爵の姿に重ねていた。
「確かに雪風は 不明な部分が多いのですが、あれは 魔法無き世界で造られしもの。
呪い云々があるとは思えませんし、もしそうであれば、先程エレオノール様が気付いていた事でしょう。
ルイズも言っておりました。『雪風は武器』と。
邪なるモノが用いれば悪魔となり、心正しく使うなら 救国の英雄とも成り得る。
『伝説の武器』の逸話としては、まぁ ありがちなところでしょう。」
とりあえず納得した ヴァリエール公。が、ある事を思い出す。
「そういえば君は、『伝説のルーン』がどうかしたと言っておったな。」
「ええ。実は、雪風の翼に刻まれたルーンなんですが、これが 始祖の使い魔が一つ、『ガンダールヴ』のルーンらしいのです。」
「なん だと!」
「トリステインが未曾有の国難を迎えようとする この時期に、伝説のルーンを持つ使い魔が召喚される。これは果たして偶然でしょうか?」
「子爵、君も 開戦は避けられぬ、と。」
「はい。主流派の唱える『アルビオン封じ込め策』は、確実に失敗します。我々だけでも 準備はしておくべきでしょう。」
「だが、残された時間は あまりに少ない。」
「そして もう一つ。
唯の可能性 私の考え違いという事ならよいのですが…
始祖の使い魔を召喚する事が出来るメイジ、さて その系統は一体何なのか。
どう思われますかな?」
「まさか!」
「確証はございません。しかし 状況証拠は揃いつつあります。
公爵様、もしもの際は どうかお覚悟を。」
公爵から 返事は無かった。
結局 雪風への搭乗順は、カトレア、エレオノール、カリーヌと決まったらしい。
次女と三女を乗せて 雪風が離陸する。
「娘達は あの使い魔の上で、どのような話をするのであろうか。」
「さぁ。我々の様な内容でないことは 確かでしょう。」
そして ヴァリエール公は、ワルドに深々と頭を下げた。
「ワルド子爵、娘を ルイズを宜しく頼む。
私は運命論者ではないつもりだ。だが この先ルイズは『運命』とやらに翻弄されるだろう。
頼む・・・ルイズを、助けてやってくれ。」
「ルイズは 僕の部隊の一員です。いかなる運命が待ち構えていようと、既に一蓮托生ですよ。
ですから これだけはお約束します。
『僕より先に ルイズは死なせません』。」
「判った。
では、無理を承知で もう一つ我儘を言わせてもらう。
『君も 死ぬな!』 たぶんルイズも、そう願うだろうから。」
そこまで言って ヴァリエール公は歩き出した。
「公爵様、どちらへ?」
「いや、『娘を頼む』というなら、あの使い魔殿にも話を通しておくべきであろう。
お~い エレオノール。次の順番 私と替わってくれんかー!」
(余談)
この後 延々と『雪風試乗会』は続き、ガス欠となった雪風の為に、ワルドは 燃料タンクを抱えて学院まで往復するハメになった。
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