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&setpagename(第二話 ゼロのルイズ 後編)
ルイズに連れられ、クラースと才人はアルヴィーズの食堂へとやってきた
アルヴィーズとは小人の意味で、壁際にある人形達は夜になると此処で踊るらしい
ほう、それは興味深いな…と、クラースは人形達を眺める
「良い?トリステイン魔法学院で教わるのは、魔法だけじゃないのよ。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーの元…。」
「はぁ、はぁ…へぇ。」
隣ではルイズが二人に説明を行っていたが、クラースは人形に夢中で、才人は適当に相槌をうつだけだった
「…という訳で本当なら此処には貴族しか入れないけど、二人は私の使い魔だから特別に入れるのよ。」
解った?と、説明を終えたルイズは二人が理解できたかどうか確認をとる
「ん…ああ、解った。」
「俺も解ったから、早く飯食べに行こうぜ…腹減ったし。」
本当に解ったのかしら…二人の返事に納得いかないながらも、そのまま奥へと進む
二人もルイズの後に続く…三人が食事を取るのは真ん中の、二年生のテーブルだ
ある程度テーブルに近づくと、周囲の生徒の目が自分達にあつまっていくのが解った
「おい、見ろよ…あれがゼロのルイズが呼び出した使い魔だってさ。」
「あれが…冗談だろ、あれが使い魔だって?ただの平民じゃないのか?」
「いや、どうやらあの刺青をした使い魔って異国のメイジらしいぜ…昨日コルベール先生が…。」
同時にひそひそと、自分達の事で話し合う生徒達…ルイズは上機嫌でどんどん進んだ
クラースと才人もそれ程気にせず、彼女の後へと続く
そして、テーブルの前に立つと、朝食とは思えない食卓を見回した
「しかし、豪勢な食卓だな…朝からこれだけ食べて、大丈夫なのか?」
「貴族ならこの位当然でしょ?さあ、クラースは私の隣に座って…あんたは私達の椅子を引く。」
気が利かないわね、と早く椅子を引くよう才人を促す
仕方なしに椅子を引いてルイズを座らせる才人、クラースは自分で指定された席に座った
最後に才人も椅子に座ろうとするが、それはルイズに止められた
「此処に座れるのは貴族だけで、クラースは特別よ…あんたはそっち。」
そう言って指差した先は床だった…そこには一枚の皿がある
皿の上にはそれぞれ硬そうなパンが2切れと、質素なスープがあるだけだった
「床?しかもこれだけ?お前等貴族はそんだけ贅沢なもの食べられるのに?」
「オマケにはそれ位で十分でしょ、それとも食べない方が良い?」
そう言われると同時に、ぐぅと才人のお腹が鳴る
食わないよりはマシだ…もっと文句を言いたかったが、仕方なしに才人は床に座った
しばらくして、此処で行われる食事前の祈りの唱和が開始された
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今朝もささやかな糧を我に与えたもうた事を感謝いたします。」
全然ささやかじゃねぇ~~、祈りの声を聞いて才人は切実にそう思った
唱和が終わった後、賑やかな声と共に朝食が始まる
才人も取りあえず食べる事にした…パンは固く、しっかり噛まないと食べられない
スープも殆ど具が入っておらず、冷めていて美味いとは言えなかった
「ああ、美味い美味い…美味すぎて、涙が出そうだ。」
ルイズに聞こえるくらいの声で、言葉とは裏腹に彼女を批判する
だが、それを痛くも痒くも感じていないルイズは、食事を取り続けた
「……それだけだと腹が空くだろう、ほら。」
それを見かねたクラースは、空いている皿に食べ物をつぎ分けると、才人に差し出した
「えっ、良いんですか?」
「ちょっとクラース、勝手にオマケに餌なんか与えないでよ。」
才人は受け取ろうとするが、ルイズがそれを呼び止める
「建前的に、彼は私の使い魔だからな…私がどうしようが勝手だろ?」
「そ、それはそうだけど…もう良いわ、勝手に餌でもあげなさいよ。」
投げやりに答えると、それ以上は何も言う事無く、ルイズは自分の分を食べ始めた
その間に才人は皿を受け取り、感激のあまり手を震わせていた
「クラースさん…あ、ありがとうございます。」
「何、私は君の保護者だからな…責任がある以上、それを全うしなければ…。」
だが、既に才人はローストチキンに齧り付き、話など全く聞いていなかった
やれやれ、現金だな…と苦笑しつつ、クラースもまた自分の朝食を食べ始めた
朝食が終わった後、今度は朝の授業にルイズと共に出席する事となった
これは異世界の魔法を詳しく知りたいクラースにとって、待ち望んだ時間だった
「異世界の魔法か…ようやく、この時が来たか。」
まるで子どものように笑みを浮かべながら、早歩きで足を進める
「クラースさん、楽しそうですね。」
才人にとって、こんなに楽しそうなクラースの姿を見るのは初めてだった
何時も研究ばかりしていたので、こんな一面がある事が少し驚きだ
「ああ、もう待ちきれないのさ…ルイズは魔法を見せてくれなかったからな。」
そのルイズは、自分達より一足先を、二人より早く歩いていた
クラースの言葉にビクンとルイズが反応するが、二人はそれに気付いていない
「……さ、此処が教室よ。」
ルイズに案内されて到着した教室には、既に生徒達が席に座り、その使い魔達の姿もある
中にはクラース達を見て、食堂の時と同じようにヒソヒソと話をしている
「食堂の時もそうだったけど…何か俺達、有名人になった気分ですね。」
「私はあまり好かんな…ああもこそこそ話されるのは。」
能天気な才人に反し、クラースは軽い嫌悪感を抱いていた
クラースは帽子を深く被って、視線を避けようとしたが…
「はぁい、ミスタ・クラース♪」
そんな生徒達の中で、クラースに声を掛けたのは、今朝出会ったキュルケだった
此方に向かって手を振っており、クラースも軽く手を翳して応答する
ふと、視線を隣に座っている少女へと移した
「………。」
その少女は青髪に眼鏡をかけ、他の生徒達とは違う雰囲気を漂わせていた
少女は本を黙々と読んでいたが、クラースの視線に気づき、彼と目を合わせる
ほんの数秒間だけ…目を合わせた後、彼女の方が先に視線をクラースから本へ戻した
「クラース、何してるの…早くこっちに来なさいよ。」
「…ああ、解った。」
クラースもまた、それ程気にせずにルイズ達が向かった机へと向かう
「それにしても、授業か…アルヴァニスタ王立学院に通っていた頃を思い出すな。」
懐かしき学生時代…良くも悪くも、色々な思い出が残るあの頃
それを思い出しながら、クラースは席に座った
「此処はメイジが座る席なの、あんたは床に座りなさい。」
「あのなぁ、こんな窮屈な場所で床に座れるかよ!!」
隣では才人とルイズが席の事で一悶着起こしていた
しばらく口論が続いたが、結局才人もまた席に座る
「(この二人…まるで、アーチェとチェスターだな。)」
かつての旅の仲間二人の事を思い出すクラース…同じように喧嘩する姿も
二人が座ったと同時に、扉から先生と思われる中年の女性が入ってきた
「皆さん、おはようございます…春の使い魔召喚は大成功のようですわね。」
入ってきたのは、ミセス・シュヴルーズ…土系統を得意とする学院の教師だった
彼女は生徒達の使い魔を見回し、最後にルイズの使い魔であるクラースと才人に目を向ける
「ミス・ヴァリエール、一日遅れですが使い魔を召喚できたそうですね…何でも異国のメイジとその使い魔だとか。」
教員達にも、コルベールを通じて二人の事はそう伝わっていたらしい
全員の目が、ルイズとその使い魔達へと向けられる
「まさか、あのゼロのルイズがちゃんと使い魔を召喚できるとはなぁ…。」
「でも、人間を二人も呼び出す辺りは、流石ゼロのルイズだよな。」
「つーか、本当にあの二人使い魔なのか?金を払って雇っただけじゃないのか。」
だが、周囲の生徒達は素直にルイズの成功を誉める気はなかった
本来なら怒るはずであろうルイズだが、そのような素振りは全然見せない
「(ふふん、何とでも言いなさい…あんた達がクラースの力を知ったら、腰を抜かすんだから。)」
クラースを召還できた自分は、もうゼロのルイズなんかじゃない
きっと、魔法だって……
そう思っている間に、ミセス・シュヴルーズの授業は始まった
その後、二人にとって初めての魔法の授業は順調に進んだ
ミセス・シュヴルーズのこの世界の魔法についての講義を、才人はそれなりに聞いている
隣では、クラースが講義の内容をメモに取っている
「ふむ、この世界の魔法は5つの属性…火、水、土、風、伝説と言われる虚無の五つで成り立っているのか。」
「そして、属性を足せる数によってメイジのレベルが決まる…。」
「一つはドット、二つはライン、三つはトライアングル、四つはスクウェア…」
「此処では魔法をかなり生活面に反映している…これはエルフ達の生活に通じるものだな」
こんな具合にぶつぶつと呟きながら、メモを取り続けるクラース
隣ではルイズもまたノートを取っており、勉強する二人に挟まれた才人は少し居心地が悪かった
ちょっとこの空気を和らげるつもりで、才人はクラースにある質問をする事にした
「…ねぇ、クラースさん?」
「どうした、才人?」
才人に尋ねられ、クラースはペンを置いて振り向く
講壇では、ミセス・シュヴルーズが石ころを取り出している所だ
「クラースさんって、魔術に凄く興味を持っているんですよね。」
「ああ…魔術はエルフの英知の結晶、彼等とその血を引く者だけが使えるのは前に説明したな。」
その間に、ミセス・シュヴルーズは杖を振るって、石ころを輝くモノへと変える
ゴールドかとキュルケが騒ぐが、石ころは真鍮に変わっただけだった
これは土系統の魔法『錬金』であり、スクウェアクラスでないと金は作れないらしい
「限られた者だけが使える力、魔術…何時の頃からか、私はその魅力に引かれ、自分自身で使えないかと思った。」
その為に、魔術に関する知識を学び、それを行使する為の研究を続けてきたのだが…。
「結局魔術は使えずじまいで…今はこうして召喚術を習得するに至ったんだ。」
「ふーん…でも、あんな凄い召喚術を使えるのに、何で今更魔法なんか学ぶ必要があるんですか?」
正直、才人にとって召喚術の方が凄いと思っていた
アーチェの魔術は確かに凄かったが、クラースの召還術の方がより神聖で、偉大に感じられたからだ
「…君から見ればそう思うのだろう。だがな、召還術は……。」
「では、誰かに錬金の実践をやってもらいましょうか。」
ミセス・シュヴルーズの言葉が聞こえ、二人はそこで一時会話をストップした
その視線を生徒たちへと向け、やがてその一人に目を留める
「そうですね…ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう。」
選ばれたのは、ルイズだった…周囲の視線が一気にルイズへと集まる
同時に、周囲にどよめきが走る
「…え?私ですか?」
当てられた本人も、自分がやる事になるとは思っていなかったようだ
「そうです。此処にある石を貴方の望むものに変えてごらんなさい。」
自分が指定されてもルイズは戸惑い、中々立ち上がろうとしない
「どうしたんだよ、行かないのか?」
「折角の機会だ、君の魔法を是非見せてもらおうかな。」
そんな事を知らない二人は、ルイズに声を掛ける
ルイズは少し考え…やがてクラースを見つめた
「ねぇ、クラース…私、あんたみたいな凄いメイジを召還出来たのよね?」
「ん、どうしたんだいきなり?」
「……ううん、何でもない。」
クラースが『本当に』いる事を確認し、ルイズの中である決意が生まれる
「ミセス・シュヴルーズ、ルイズは……。」
その間に、キュルケが申し出ようとするが、それは最後まで言われる事はなかった
ガタン、と音を立てながらルイズが立ち上がり、彼女の申し出を遮ったからだ
「解りました…やってみます。」
ルイズは力強く言うと、前へ向かってゆっくり歩き出した
「ちょっと、ルイズあんた…。」
「黙ってて、キュルケ…私はもうゼロのルイズなんかじゃないわ。」
止めようとするキュルケだが、ルイズはそう反論して彼女を睨む
ルイズの自信を帯びた声にそれ以上何も言えず、その間にルイズは先へ進んだ
「(そうよ、私はゼロなんかじゃない…だって、クラースを召還出来たんだから。)」
今ルイズを支えている自信の根拠は、クラースの存在だった
彼は先住魔法を使える凄腕のメイジ…これは、ルイズが勝手に思い込んでいるだけだが
そんな彼を召還できた自分なら、もう以前のような失敗は繰り返さない筈だ
「(出来る、絶対出来る…だから、頑張れ、私!!)」
そして、遂にルイズは皆の前に立った
目の前には、既にミセス・シュヴルーズが錬金の為に用意した石がある
「さあ、ミス・ヴァリエール…錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです。」
「…はい。」
既にミセス・シュヴルーズの話は半分ほどしか聞こえず、錬金の方に集中していた
「さて、見せてもらうかな…彼女の実力を。」
「でも、何か様子が変じゃないですか…キュルケもそうだし、他の連中だって…。」
才人の言う通り、生徒達…特に一番前に座っている者は机の下に隠れてしまった
だが、クラースはルイズの魔法を見ようと夢中で、その事に気がつかない
「………」
そんな中、ルイズは小さな声で呪文を唱え…杖を石に向かって振り下ろした
呪文を受けた石は、眩い光に包まれる…クラースと才人が見守っていたその時……
石が大爆発を起こした
「うおっ!?」 「うわっ!?」
突然の大爆発、それによって起こった爆風でクラースと才人は椅子から転げ落ちた
だが、二人はまだ良い方である…下の方はより悲惨な事になっていた
教卓や一番前の机は吹き飛び、そこに座っていた生徒達はボロボロの姿になっている
「…………。」
爆心地にいた呪文の発動者であるルイズも、ボロボロの姿になっていた
彼女の後ろには、爆発をもろに受けて吹き飛んだミセス・シュヴルーズの姿もある
「な、何だ…一体何が起こったんだよ。」
頭を打った才人は打った箇所を押さえつつも、何とか立ち上がる
爆風で帽子がずれたクラースも立ち上がり、二人は目の前の悲惨な光景を目の当たりにする
「凄い爆発だったな…あれは、小規模ながらエクスプロードのようだったが、発生源はやはり…。」
そう言いながら、クラースは錬金を唱えたルイズを見る
彼女はハンカチを取り出すと、顔についた煤を吹きながらこう言った
「ちょっと…失敗だったみたいね。」
…と
ルイズの魔法に呆然としていた生徒達が、それを聞いて怒りを露にする
「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!!」
「いつだって成功確立、ほとんどゼロじゃないか!!」
「今回の爆発だって、過去最悪だろ!!!」
教室中から、ルイズに向かって放たれる言葉の数々
そんな中、クラースと才人は顔を見合わせる
「クラースさん、あいつの二つ名って……。」
「ああ…『ゼロのルイズ』とは、こういう事だったのか。」
魔法が上手くいかないルイズ…彼女はこの世界では落ちこぼれだったのだ
クラースの視線の先には、生徒達から暴言を受け続け、酷く落ち込む彼女の姿があった
………………
「才人、ゆっくりゆっくり…手を滑らせるなよ。」
「は、はい。」
その後、クラース達がいた教室で…ミセス・シュヴルーズや生徒達の姿は既になかった
そこには、窓ガラスを一緒に運んでいる才人とクラースの姿があった
二人は落とさないよう慎重に、最後の窓ガラスを枠にはめ込んだ
「…よし、これで片付けは全て完了だな。」
「やっと終わった…長かったなぁ。」
ようやく片付けの終わった教室を見回しながら、才人は疲れた腰を叩く
ルイズの魔法によってその後授業は中断、三人は後片付けを義務付けられた
やっと終わった頃には、もう昼食前となっていた
「ご苦労だったな、才人。」
「クラースさんもご苦労様でした。」
二人は互いに重労働を労い、少し休む為に椅子に座り込んだ
何せ壊れた教卓や机、椅子、窓ガラスの片付けから新しいものの取替え等やる事は沢山あった
だから終わるのがこんなに時間が掛かったし、体もくたくただった
「俺、あんだけ働いたの生まれて初めてでしたよ…お腹も空いたし。」
「そうだな、もう昼になったし…ルイズ、昼食に行かないか?」
体を少し捻らせて、クラースは奥の方に座っているルイズに声を掛けた
彼女は自分が起こした爆発の片付け作業に参加する事無く、二人に背を向けたままだった
「あいつは別に行かなくても良いじゃないですか、作業には全然参加しなかったし。」
「しかしだな…。」
そう言いながら、才人もルイズを見る…相変わらず背を向けたままだ
作業中も何度も声を掛けたのに、動くどころか返事も返さない
クラースに言われて、放っておいたが…
「…おい、飯食いに行かなくても良いのか、ゼロのルイズ。」
原因である彼女が何もしない苛立ちも募って、才人はそう呼んだ
一瞬だけ、ビクッと彼女の体が震える
「才人、そう言うのは止めろ…彼女は…。」
「おいおい、魔法がゼロなのは解ったけど、耳までゼロになったのか?」
クラースが諌めようとするが、才人のルイズへの暴言は止まらない
「それにしても、ゼロのルイズか…魔法の成功率ゼロ、それで貴族って言うんだから面白いもんだよな。」
昨日からの鬱憤を晴らすように、才人はルイズを馬鹿にし続けた
ルイズは何も言い返さないが、体だけがふるふると震えている
才人はそれに気付いていない
「確か、貴族は魔法をもってしてその精神となす…だっけ?だったらゼロのお前が貴族を名乗るのは筋違いだろ。」
「才人、いい加減にしろ。」
「でもクラースさん、あいつは…。」
クラースが才人を止めた時、座ったままだったルイズがいきなり立ち上がった
そして、二人に向かってずんずん進んでいく…表情は前髪に隠れて見えない
「な、何だよ、お前…」
「……な。」
「えっ?」
才人の前まで近づいたルイズが何か言ったが、小さくて聞こえない
何を言っているか聞こうと立ち上がると…次の瞬間に返ってきたのは、パチンという乾いた音だった
何があったのか最初解らなかった才人、しばらくしてルイズが何をしたのかが解った
左の頬がじんじんと痛む…先程の音は、彼女が自分の頬を叩いた音だった
「お前、何する……。」
ぶたれた痛みからルイズを睨みつけるが、彼女の顔を見て戸惑いがうまれる
ルイズは…その可愛い顔を悔しさから歪ませ、瞳から大粒の涙を流していた
「あんたが…魔法も使えない平民が、私を気安くゼロなんて呼ぶな!!」
そして、自分を侮辱した才人に向かって怒鳴りつける
その剣幕に、才人は何も言い返せなかった
「あんたには解らないでしょうね、私がゼロと言われる度にどんな思いをしたかなんて…私が…どんな……。」
そこまで言うと、ルイズは二人に背を向けた…これ以上自分の泣き顔を見せない為に
「出来ると思ったのよ、クラースを召還できたから…もう私はゼロのルイズじゃないって…でも、結局私は…ゼロのルイズのままだった。」
「ルイズ……。」
二人の様子を傍観していたクラースが、ルイズの肩に手を乗せようとする
だが、ルイズはその手を振り払い、今度はクラースを睨み付ける
「同情なんてしないで…どうせあんな凄い魔法が使えるあんただって、私の気持ちなんか解らないんだから!!」
「ルイズ、落ち着け…私は別にそんなつもりは…。」
「五月蝿い、五月蝿い…あんた達三日間ご飯抜き、それと今日一日私にその顔を見せないで!!!」
ルイズはそう言い残すと、そのまま教室から飛び出していった
残された二人…特に才人は、ルイズが去った後を見続ける
「あいつ……。」
「やれやれ、全く耳を貸さなかったな…大変な事をしてしまったな、才人?」
クラースの言葉に、才人は何も言わずに俯く
ルイズに打たれた頬を触った…まだジンジンと、痛みは残っている
「痛いか?それは今回の事に対するお灸だな…よく解っただろう、相手の傷を抉る事の酷さが。」
「でも…あいつは俺達をこんな世界に呼び出したし…俺に散々…。」
「だからと言って、ルイズを傷つける理由にはならんだろう…あの涙を見て、何も感じなかったのか?」
「それは………。」
そこまで言われて、才人は何も返せなかった…が、クラースの言いたい事はよく解っただろう
沈黙の時が流れる…しばらくして「はぁ」と溜息をつくと、クラースはその場から動き出した
「クラースさん、何処へ……。」
「とりあえず、此処を出よう…何時までも此処にいるわけにはいかんだろう。」
此処での片付けはもう終わった以上、長居する必要はない
「でも、あいつは顔を見せるなって……。」
「別にルイズの所に行かなくても、適当にこの辺を歩くのも良いだろう…まだ、全部を散策出来たわけじゃないからな。」
そう言って、教室の出入り口へと向かう…才人はそのまま動かない
「才人、行かないのか…此処にいたって、何も進展なんかしないぞ。」
クラースの呼びかけに、少しばかり戸惑った様子を見せたが、最後は黙って彼の後を追う
二人は教室から出ると、そのまま広場の方へと向かっていった
「さて…今はしばらく此処で時間を潰すか。」
誰もいない広場に到着した後、クラースは芝生に座り込んだ
才人も同じようにクラースの隣に座り、青空を眺めた
「………。」
しかし、才人に見えるのは青空ではなく、先程のルイズの泣き顔だった
頬の痛みも今は感じないが、未だにあの顔がくっきりと頭の中に残る
「…才人、ほら。」
そんな時、隣にいたクラースが何かを投げてよこした
反射的に受け取ってみると、それはブレッド…パンだった
「流石に三日も飯抜きだと堪えるからな…昼はこれでしのごう。」
「クラースさん…本当、何処からこんな物を…」
「何、私は他の人より便利な道具袋と不思議なポーチを持っているだけさ。」
疑問をはぐらかすと、自分の分を食べ始めるクラース…才人も同じようにパンを頬張る
ルイズが朝食の時に寄越したパン切れよりかは、何倍もマシな味だった
「……はぁ。」
だが、それでも美味しいとは思えなかった
半分も食べない内に、溜息と共にそれ以上は口に入りそうになかった
「おいおい、そんな溜息を出すな…こっちまで不味く感じるだろう。」
「す、すいません…。」
クラースの言葉に一応答えるが、才人の表情は相変わらずだった
やれやれ…と、先程までとは正反対の彼の様子に、溜息をつく
「…ルイズの事、悪いと思っているなら後で謝っておけ…少しは、罰の期間が短くなるかもしれんぞ。」
「えっ…いや、その…そうですね。」
クラースの言葉に最初は戸惑うが、最後は正直に答える
確かに、先程ルイズに対して言い過ぎた…まさか、あんな事になるとは思わなかった
「すいません、クラースさん…俺のせいでクラースさんまで巻き添えになっちゃって。」
「全くだ、私まで巻き添えにする事はないだろう…もう、帰る方法を考えるの止めにするかなぁ。」
「す、すいません…すいませんから、それだけは…。」
クラースの辛口な発言に、才人は必死に謝る
冗談だ、と笑みを浮かべながら答えると、クラースは芝生に仰向けになる
「ゼロのルイズ、か…通りでルイズが私達に魔法を見せてくれなかったわけか。」
魔法を見せたくても、出来ないから見せる事が出来なかったのだ
「あいつ、魔法が使えないからずっと馬鹿にされていたんですね。」
「ああ…この世界は、魔法を使える貴族や王族が上位にいる世界らしいからな。」
そんな社会の中だからこそ、色々と辛い想いをしてきたのだろう
それは、あの時の彼女の涙から想像出来る
「…ねぇ、クラースさん…あいつがどうしたら魔法を使えるようになるか解りませんか?」
魔法学者なんでしょ、と魔法に関して知識のあるクラースに尋ねてみる
「ルイズが?そうだな…う~む…。」
クラースは考えてみる…何故、彼女の魔法は爆発ばかりを起こすのか
そして、かつての旅の途中で起こったある出来事を思い出した
「以前…私が旅をしていた頃、アーチェが魔術を発動する際に、失敗して暴発するという事があったんだ。」
「あのアーチェさんが…意外ですね。」
自分の前では魔術を巧みに操っていた彼女が、そんな失敗をした事があるのに驚いた
「でも、それがルイズの魔法と何の関係が…。」
「それとルイズの魔法は非常に良く似ている…恐らく、彼女自身が力をコントロール出来ず、結果行き場を失った魔力が爆発という形で発動しているんじゃないだろうか?」
「じゃあ…ルイズが上手く力をコントロール出来れば、魔法が使えるようになるんですか?」
「だと私は思うが…流石に、そうなるまでの過程は解らんな。」
それに、この世界の魔法については詳しく知らないので、これは仮説にしか過ぎない
知れば、ルイズが魔法を使えるようになる方法が解るかもしれないが…
「もっと知らねばならないな…この世界の事、魔法の事…図書館があればいいんだが…。」
これだけ大規模な学院なら、多くの知識があると思うのだが…
「クラースさ~~~ん。」
その時、クラースの名を呼ぶ若い少女の声が聞こえてきた
二人が同時に振り向くと、向こうからメイドがやってくるのが見えた
「ん、シエスタじゃないか。」
「どうしたんですか、こんな所で…お昼寝ですか?」
やってきたのは、朝一緒に洗濯をしたシエスタだった
どうやら、此処にいるのを見つけてこっちに来たようだ
「クラースさん、この人は?」
「ああ、彼女はこの学院付属のメイドのシエスタだ、朝洗濯に行った時に世話になったんだ。」
「シエスタです、貴方がミス・ヴァリエールのもう一人の使い魔の…才人さん、ですよね?」
首を傾げながら、シエスタは才人に確認の為尋ねる
「あ、はい、そうです…俺平賀才人って言います。」
よろしく…そう言って才人は名を名乗り、手を差し出して握手を求める
普通で良いですよ、と答えながらシエスタはその手を握った
「それで…何でこんな所に?」
「何、このもう一人の使い魔君がご主人様を怒らせてな…今絶食中なんだ。」
「うっ…。」
クラースの少し突き刺さる言い方に、思わず苦悶の声を漏らす才人
「まあ、そうなんですか…それなら、お腹空いているんじゃありませんか?」
「パン一つ食べたから、少しは満たされてはいるな。」
正直に言えば、パン一つではあまりにも足りなかった
教室の片付けという肉体労働で、随分と腹が減っていたからだ
「それだけじゃ足りないでしょう…お二人とも、良かったら厨房まで来ませんか?賄い食ですけどご馳走しますよ。」
「ん、良いのか?」
「はい、折角ですから今朝の洗濯のお礼という事で。」
それなら、別に断る理由もないし、誘いに乗っても問題ないだろう
シエスタの申し出に、クラースは頷いて答える
「そうですか…では、ご案内しますね。」
此方です、とシエスタは二人を案内する為に先へ進む
クラースは後に続くが、才人は残ったままだった
「どうした、才人…こないのか?」
「いや、俺あの子に何にもしてないから…それに…。」
そこまで言って、才人は黙る…まだルイズの事を引きずっているようだ
クラースは黙って才人のそばに近寄ると、その胸を軽く叩く
「ルイズに謝ると決めたんだろ…言い過ぎたって。」
「えっ…は、はい…。」
「だったら、それで良いじゃないか…何時までもウジウジするんじゃない。」
君らしくないぞ、とその頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる
イタタ、と才人は顔を顰めるが、やがて笑みを浮かべる
「…そうですね、俺らしくないですよね、こんなの。」
「そうだ、それで良い…で、行くのか?」
「そりゃあ、勿論…。」
才人が返事をする前に、ぐぅと腹の虫がなる…気持ちの整理が出来た事で、体が正直になったようだ
「やれやれ、本当に君は現金な奴だな…ははは。」
「へへへ…。」
クラースは呆れ気味に、だがそれが良いとばかりに笑った
才人も釣られて、一緒に笑う
「お二人とも、早くこっちに来てください。」
既に本塔の出入り口までいっていたシエスタが、少し大きな声で二人に呼びかける
話はそこまでにすると、二人はシエスタの所へ駆けていった
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