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#navi(ゴーストステップ・ゼロ)
&setpagename(ゴーストステップ・ゼロ- エンディングフェイズ)
反乱軍レコン・キスタの圧倒的勝利に終わると予想されていたニューカッスル戦。
しかし、誰も予想をしえない経過を辿って、ウェールズ皇太子率いる王党派が、勝利をその手にする事となった。
後に『ニューカッスルの奇跡』と呼ばれるこの一戦の顛末は、吟遊詩人やその場に居た兵達によって、アルビオンはもとよりハルケギニアの津々浦々へと広がっていく。
この戦で起きた奇跡とも呼べる出来事によって、レコン・キスタは壊滅的な損害を受けてしまう。
王党派から寝返ったとされていた貴族達の突然の死、レコン・キスタの将兵達が使用していた装備の消失や、レキシントン号を始めとする空中艦隊の不時着。
そして何より、レコン・キスタの総司令官にして『虚無』の担い手を僭称していたオリヴァー・クロムウェルの死が、明らかな事実として戦場に知れ渡ると、戦前の予想を覆してニューカッスル戦は王党派の勝利に終わる事になる。
結果、ニューカッスル戦前の勢いを無くしたレコン・キスタはそう時を置かずに敗北者となり、年を越すことなく壊滅した。
時は遡り、そのニューカッスル戦終結から数日経ったある日、旧サウスゴータ伯領にあるウェストウッドの森の奥に一人の少女の姿があった。
春の光に煌く金糸の様な髪と、豊満な胸元を除いて全体的に細身なその身体、そして黄金の髪に包まれたその白い顔を見た事情を知らない者は、少女を森の妖精かと勘違いするかもしれない。事実、少女はそれほど浮世離れした雰囲気を纏っている。
だが、狩人ならともかく余程の事情でもない限り、普通の娘はこのような森の深部に来る事など無い。
そう、彼女にはその事情があったのだ、黄金の髪から飛び出す二つの笹葉の様な耳がその事情である。
人にはありえないそれこそが彼女が普通ではない証拠、彼女の中に人(ブリミル教徒)の敵であるエルフの血が流れている事を示していた。
しかし、何故、彼女がエルフの居留地であるサハラから遠く離れたこのアルビオンにいるのか。
その秘密は彼女の父親にあった。
彼女の身に流れる血の半分は始祖の血族のものだった。そう、数年前に処刑されたプリンス・オブ・モード。
彼こそが彼女の父なのだ。実の叔父の命によって両親を失った少女は、父に最後まで仕えていたサウスゴーダ伯の遺族と、未だ伯に忠誠を誓う遺臣達の手により、このウェストウッドの森の奥深くに匿われていた。
そうして彼女……ティファニアは外の世界の騒動を知る事も無く、拾ってきた孤児達と共に平穏に過ごす日々を送っていたのである。
森の中を進むティファニアの歩みには淀みが無い、恐らく森の中の生活に慣れているのだろう。左手に提げた籠に、森の恵みがふんだんに収められている事から、恐らく食料を採りに来たのだという事が分かる。
周囲を見回しながら歩くティファニアの足が唐突に止まった、目の前には森の中には珍しく開けた場所が広がっている。
そんな場所に見慣れないものが横たわっていた。奇妙な仕立ての外套を纏っている男だ、傍に剣が落ちている所を見て、先の戦に参加していた傭兵の一人だろうと想像する、男は眠っているのか、此方に気付いた様子はない。
気付かれていないのなら好都合と、ティファニアは男から離れるべくゆっくりと後退る。いや、後退ろうとしたその一歩目で小枝を踏み折って音を立ててしまう。
ティファニアは自分のドジさ加減に泣きそうになりながらも踵を返して走り出した。背後で何やら喚いている声が聞こえるが、それを無視してその場から逃げ出した。
そんなティファニアが足を止めたのは、走り始めて数分後の事だった、背後から追いかけて来る気配が全く無いのだ。訝しく思った彼女が背後を振り返っても誰も追って来ない、長い耳を澄ませると先ほど聞いた声が微かに聞こえてくる。
ティファニアは逡巡したが、もしかすると怪我をして動けなかったのかもしれない。そう思うと生来人が良い彼女の事、放って置く事ができるわけもなく、恐る恐る先程の広場へと戻るのだった。
近付いていくと微かだった声は、はっきりとしてくる。相手方から見えない所から広場を伺うと、先程見た男の姿勢はさっきとまるで変わらず、横たわったままだった。
やはり怪我をしているのかと思い、身を隠している茂みから声をかけてみる。
「あ、あのう。怪我をなさっているんですか?」
おっかなびっくりなティファニアの声に応えたのは、妙にしわがれた男の声だった。
【おう、戻ってきてくれたのか。助かったよ、誰も通りかからなかったからどうしようかと思っていた位だ。
こっちは動けねぇから安心して出て来てくれねえか?姿が見えねえと話がし辛え。】
話を聞いたティファニアは、やはり怪我をしているのかと思い、男の背後の茂みから、ゆっくりとその優美な姿を現した。
そんなティファニアにさっきから聞こえてきた声の主が、驚いた様子で再び話しかけてくる。
【こいつはおでれーた!何だってこんな所にエルフの娘っ子がいるんだ?】
その声と内容に驚いたティファニアは、その顔に怯えの色を滲ませながら慌てて周囲を見回すが、全くと言って良いほど人の気配は感じられなかった。
そんなティファニアの小動物めいた様子に声の主、デルフは笑い声を上げて言葉を続ける。
【安心しなエルフの娘っ子、ここには俺とお前さんしかいねぇよ】
「だ、だけど、こっちは見えていないのにどうして私がエルフだって」
【ん?ああ、そうか。話してるのは相棒じゃねぇよ。オレサマだよエルフの娘っ子】
そう言い放ったデルフは、これ見よがしに鍔元の金具をカチカチと鳴らして見せる。
そんなデルフを珍しそうに見ると、ティファニアはおずおずと話しかけた。
「ええと、剣さんが話していたんですか?」
【剣さん……。いや、オレサマにはちゃんとデルフリンガーって名前があるから、デルフとでも呼んでくれ】
「あ、はい。デルフさんですね?私はティファニアっていいます。それと、こちらの方は?」
【こいつかい?こいつの名は……】
ゴーストステップ・ゼロ エンディングフェイズ “ Every day from it / それからの日々 ”
シーンカード:バサラ( 意志 / まったく新しい情報や状況の判明。イマジネーション。)
あのアルビオン行から1年が経過したトリステイン魔法学院には、再び春が訪れていた。昨年までいた上級生は学院を去り、新しい下級生達が学院に入学して来た。
そしてルイズ達も年次を一つ上げ、今や最上級生として日々を過ごしている。
そんな小春日和のある日。ルイズが午後のお茶を楽しんでいると、学院の門から二年の生徒達が今日召喚したばかりの使い魔を連れて召喚場から戻って来ていた。
懐かしそうに下級生達を見ていたルイズに、近付いてきた友人達が話しかけてくる。
「ルイズ、今年の使い魔はどんな感じ?」
「ん?あらキュルケじゃない。そうねぇ去年の貴方達みたいな大当たりはいないみたい、ケティって娘が火喰い鳥の雛を連れていたから、そこら辺が良い所じゃない?」
「あら、あの娘なかなか凄いの召喚したじゃない、ギーシュと別れたのが良い方向に向いたんじゃない?」
「それはちょっと酷いんじゃないか?モンモランシー、いや僕の心は今や君一人のモノだけどさ。彼女がトライアングルになったのは彼女の頑張りの賜物だと思うんだよ」
「色恋に向けなくなった分、上達した」
「それは少し勿体無いかもねぇ……」
「まぁ、その内良い人と逢えるわよ。“ゼロ”の私と違って『魔法の』才能はあるんだし」
そう言ってルイズはカップに残っている紅茶を飲み干すと、友人達に向き直る。
3年生になった今、ルイズは『虚無』とコモンを使えるようになっていたが、“ゼロ”の二つ名を名乗っている。
呼ばれているのではなく自らそう名乗っていた、確かに『虚無』を使えるとは言っても系統は一つも足せないからと、事情を知る人々に説明しているのだが、事情を知らない人々からは未だにコモンしか使えないと、揶揄混じりに蔑称として使われていた。
そんな蔑称とも言える二つ名を平然と名乗るルイズに、モンモランシーは友人として諫めようと話しかける。
「ルイズ、いい加減その二つ名辞めなさいな」
「あら?どうしてよ、良いじゃない“ゼロ”って。
全ての基点になるのよ?私がいつも言っているじゃない。何だったらまた詳しく説明してあげるけど?」
「ちょっと止めてよ、前にそれ聞いて本当に脳味噌がスポンジになる寸前だったんだから」
「じゃあ、文句を言わないで頂戴な」
ルイズの反論にモンモランシーはうんざりした表情を浮かべる、昨年の春にキュルケ達と共に学院から離れていたルイズは帰った後、1週間近く篭っていた部屋から出てきた時にはもうこんな調子だった。
そんな豹変ともいえる変化を遂げたルイズに驚きつつも何とか付き合っているのは、自分の他にはキュルケにタバサ、それと(この間の春休みにめでたく婚約した!)自分の恋人であるギーシュ位だった。
彼女の使い魔だったヒューはもういない、旅先で病気に罹って死んでしまったらしい。その話を聞いた時、モンモランシーは彼にちゃんとお礼を言っていなかった事を悔やんだ、その内ラ・ヴァリエール領にあるという彼の墓に墓参りに行こうと思っている。
ルイズは旅から帰った後、使い魔を失ったのと引き換えにするようにコモンマジックが使えるようになっていた。口さがない者達は使い魔を生け贄に魔法を使える様になったのだと噂していたが、自分に言わせれば馬鹿馬鹿しいの一言につきる。
彼の強さは、婚約者であるギーシュや友人のキュルケ達から聞いて十分に知っていた。
その上、自分達には無い知識を豊富に持っていたのだ、そんな存在を生け贄にするなどありえない話だろう。
まぁ、何にしろ、自分は友人としてこれからもルイズの力になろうと、馴染みのメイドであるシエスタが淹れてくれた紅茶を飲みながら密かに思うモンモランシーだった。
さて、学院にいる人々の中で、ルイズが『虚無』の使い手だと知っているのは学院長であるオールド・オスマンだけである。
ルイズの友人達であるキュルケとタバサは何とはなしに察しているが何も言わない、言わないようにしている。必要があればルイズから言うだろうし、こちらから聞くような事だとも思っていないからだ。
ギーシュとモンモランシーは、いつかルイズが系統魔法が使えるようになると思っている。そう思っているから追い越されない様に日々頑張って、結果それぞれランクを一つずつ上げていた。
そうして、当のルイズはというと、無闇な練習は鳴りを潜めた(それでも日に数回は爆発させていた)が、その代わり別の事を始めた。
今まで精霊の力だ、神の御業だと誰もが思考を放棄していた様々な事象に対して探求の手を伸ばし始めたのだ。
何も無い所からのスタートではない、幸いルイズには頼りになる教師がいた、ヒューが遺していった新しい使い魔が。
それはルイズ達がアルビオンから帰ってどれ程経った頃だろうか、一人部屋で眠っていたルイズの髪を誰かが梳っていた。
その感触に目を覚ましたルイズは、またキュルケが勝手に入ってきたのかと思って、怒鳴ろうと顔を上げると、そこには見た事が無い、タバサ以上に人形じみた少女が佇んでいたのだ。
予想外の事態にパクパクと数回口を開閉させると、当の少女がルイズに対してペコリと頭を下げると、おもむろに聞き覚えのある声でこう言ったのだ。
「おはようございます、お加減はいかがでしょうか?マスター・ルイズ」
と。
話を聞くとディアーナが自意識を得たのは、ほんの数日前の事であるらしい。何故、今まで出て来なかったのかと聞くとルイズの精神状態を慮っての事だという。しかし、流石にそろそろ傍観できる状況ではなくなってきたので、思い切って出てきたらしい。
その後、ルイズはディアーナをマジックアイテムの精霊として紹介し、(何故か契約はしないまま)自分の使い魔として復学した。
それからの日々、ルイズは学院の授業が終わった後に、ディアーナからヒューがいた世界の様々な知識を学び始めた。
異界の知識には様々なものがあった。数学を始めとする基礎的な学問。ヒューが修得していた犯罪学。さらにはハルケギニアを凌駕する(ごく基礎的な)医学。それはルイズ、いやハルケギニアにとって宝の山だった。
砂漠に水を注ぐ様な勢いで、ルイズはそれらの知識を吸収していく。
ギーシュやモンモランシーに協力してもらって実験を行った結果、彼等はランクを上げる事になったのだ。
やがて夏期休暇になると、ルイズはラ・ヴァリエール領へと里帰りを果たす。
実家で懐かしい家族に再会したルイズは、自分が『虚無』に目覚めた事。召喚した使い魔を失った事等、様々な事を打ち明けた。
証明として家族の前で『イリュージョン(幻影)』を使った時には、父親であるヴァリエール公爵は漢泣きに泣いてしまったが。
しかし、残る家族も祝福し、ラ・ヴァリエール領を挙げて祝宴を催そうと言ったその時、ルイズはそれを必死で止めた。何故と問う家族に、ルイズは懐から一通の手紙を差し出した……ヒューから送られた最初で最後の手紙である。
それはもう何度も読まれたのだろう。幾度も畳み、広げられた様子がありありと分かった。
まず最初に公爵が読み始めた。最初は文字の汚さ、文法の稚拙さに眉を顰めてはいたが、そういった外面的なものとは裏腹な内容に、最後は唸りながらもしきりに頷いていた。
その後、ラ・ヴァリエール公爵夫人からエレオノールへ、そして最後にカトレアへと手紙は渡されていく。
家族しかいないその部屋は沈黙に覆われた、『ニューカッスルの奇跡』を起こしたのが誰か分かったから、そして、何より手紙の内容に真実を嗅ぎ当てたからである。
「なるほど、確かにこの手紙の通り。隠し通す事が最善ですね」
「しかし、カリーヌ。せっかくルイズの系統が分かったのだぞ?今まで苦労しただけ報われるべきだろう」
「貴方。そうして報いた挙句、レコン・キスタの黒幕やロマリアに目を付けられたらどうするのですか。良くて対ガリア戦、最悪、対エルフ戦に駆り出されるんですよ?」
「うっ。た、確かにそうだが……」
ヴァリエール公爵が妻の舌鋒に貫かれている時、意外な所から助け舟が出る、次女のカトレアだった。
「あら、でしたら内々で祝えば良いではないですか」
穏やかな次女の言い分はこうだった。
長らく魔法を使えなかったルイズがコモンとはいえ使う事が出来る様になった。生憎、系統魔法は未だに修得は出来ていないものの、これは慶賀である事として内々で祝う事とする。
幸いな事にルイズが魔法を使えない事は、屋敷内の人間と、これまで来ていた家庭教師位しか知らない。
(一応、トリステイン貴族には周知の事実ではあったが)
ならば、そういった人々の口封じも兼ねて、この度の事を限定的に報せる事で、ルイズを普通の公爵家令嬢として改めて認識させる。
そうすれば、能力が低いとはいえ普通にメイジとして扱われる事になるだろう。
現在まで使えなかったのは、自分と同じ様に原因不明の病気だった事にすればいい。何故、判明したのか。どうやって治癒したのか等という事は、死んでしまった使い魔に丸投げしてしまえば良い。
そうすれば誰も調べたりはできない、疑いは残るだろうが自分という原因不明の病を得ている病人がいる以上、頭から否定はできないはずだ。
いっその事、系統魔法が使えないのも、治療途中で使い魔が死んでしまったから……という事にすれば、これから先、系統魔法が使えなくても体質の所為にできるので、その方が良いだろう云々。
公爵夫妻は一晩考えた末、次女の言葉を採る事になる。
ルイズは、大好きなカトレアの意外な側面に何とも言いがたい感慨を覚えたが、自分では考えも及ばなかった解決方法だったので、感謝こそすれ反発など特に感じる事は無かった。
そうして、常に無く穏やかな夏期休暇を過ごしていたとある日、ルイズを尋ねてラ・ヴァリエール公爵家に一人の客人がやって来た。
その客人とは、夏期休暇を利用して実家に帰省していたはずの学園秘書ミス・ロングビルこと、マチルダ・オブ・サウスゴータその人だった。
休みの前にしていた話では、ぎりぎりまで妹達の元にいると言っていた、彼女の突然の訪問に疑問を覚えながらも、退屈していたルイズはマチルダを喜んで迎え入れた。
マチルダは貴族の名を剥奪されている為、メイジといえど平民用の客室に通されていた。
そんな客室に、サマードレスを纏ったルイズが令嬢らしい所作で入室してくる。
(学園におけるルイズを知っているマチルダは危うく吹き出しそうになったが、家人の手前もあった為、辛うじて留めることが出来た。)
「ミス・ロングビル、こんな時期に一体どうしたのですか?」
ルイズは家人の事もあった為、マチルダを学園秘書のミス・ロングビルとして扱うことにした。
尋ねてきたマチルダは、まず最初に急に訪ねてきた無礼を詫びると、二人だけで話したいと切り出してきた。
周囲に控える家人達は、いきなりとんでもない事を言い出す客人に不快感を覚えたが、ルイズから命じられると、しぶしぶながらも退出していく。(一応、部屋のすぐ外に待機しているが)
家人が退出した後、マチルダは壁に沿ってサイレンスをかけると、おもむろに事情を話し始めた。
「実はアンタに届け物があってね」
「私に?ミス・マチルダに何か貸していたかしら?」
ルイズの言葉に「いいや」と返しながら、マチルダは部屋の片隅に置いてあった荷物の中から、細長いケースを持って来る。
「ただ、これはアンタが持っているべきものなのさ」
そう言うと、マチルダはケースをテーブルの上に乗せて、ソファーに腰を落ち着ける。
マチルダが持ってきたケースは錬金で作った物なのか、奇妙なものだった。全体は金属で出来ており、中身も取り出せない様に蓋も付いていない。
訝しげにマチルダを見ると、彼女は杖を振って固定化、そして錬金と立て続けに唱える、するとそこにはケースと同じサイズの木箱があった。
さらに、ブレイドを使って木箱の蓋を取り除くと、そこにはルイズが見慣れたコートと鞄、それと一本の剣が収められていた。
「デルフっ?」
【よう、娘っ子。久しぶり】
そう、ケースに収められていたのは、アルビオンで別れたっきりになったヒューの相棒、デルフリンガーと彼の持ち物だった。
その後、マチルダはアルビオンの実家に帰った時の事を話し始めた。
「全く、妹の家にコイツが置かれていた時は驚いたよ。
アンタからはあの男が死んだって聞いていたからね、何だってこんな所にって思ったのさ」
「というと、やっぱりヒューは……」
「ああ、その件についてはソイツから聞きな」
そうして、二人から水を向けられたデルフは当時の事を話し始める。
ルイズ達と別れた後、レコン・キスタの本陣に潜んで、ルイズの『虚無』の発動を待ってクロムウェルと『虚無の使い魔』の一人を倒した事。森の中でヒューが死んだ後、ティファニアに運良く出会ってこうして此処にいる事。
そして、ヒューからの依頼を……。
「ヒューからの依頼?」
【おう、相棒からくれぐれもって頼まれていたからな、あのエルフの娘っ子に会わなかったらと思うとぞっとするぜ】
「それで?ヒューからの頼まれ事って何なのよ」
【相棒のコートの内ポケットを探ってみな】
デルフの言葉を受けたルイズがコートの内ポケットを探ると、そこには古ぼけた指輪があった。
訝しげにその指輪を見るルイズにデルフが話しかける。
【そいつを返すべき相手が見つかるまで保管して、相手が分かったら返してやってくれっていうのが相棒の依頼さ】
「これを?……っ!
デルフ、これってもしかして、アレなの?」
【お、流石に察しがイイね。
その通り、そいつが<アンドバリの指輪>だよ娘っ子】
思わず息を呑んだルイズの掌の中で、古の精霊の力を宿したその指輪は鈍い輝きを放っていた。
【相棒の依頼は「その指輪の隠匿と、可能ならば持ち主への返還」だそうだ。
報酬は相棒の荷物一式。全く、こんな使い古した道具で娘っ子を扱き使おうってんだ、相棒も大したヤツさ!】
笑いを含んだデルフの言葉を聞きながら考えるルイズに、デルフは重ねて話しかける。
【で、どうするんだい。
幸いここにいるのは俺とマチルダ姐さんだけだ、取り引き次第でその指輪を自分の物にする事もできるぜ?】
デルフのその言葉を聞いたルイズは、一度ぎゅうっと力を込めて指輪を握り締めた後、深々と溜め息をついて口の悪い魔剣に話しかける。
「それ、ヒューに頼まれたわね?」
【何の事だい?】
おどけて言うデルフにルイズは鋭い一瞥を向けると、自分の考えを……否、自らの進む道を宣言する。
「あの使い魔にはさんざん舐められっぱなしだったわ、死んでからも人の事試すような事をするなんてね。
ふん!どうせ私には系統魔法は使えないわよ。けどね、見てらっしゃい!魔法なんか無くったって私は凄いんだから!
デルフ依頼は受けてあげる、他でもないルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがね。
そして、この時をちゃんと覚えておきなさい、今日この時こそ、このハルケギニアで初めてのフェイト(探偵)が生まれた瞬間なんだから!」
その後、程なくして<アンドバリの指輪>はラグドリアン湖にいる水の精霊に返還される事となった。
(解決の切っ掛けは魔法学院で起きた、とある事件を解決する過程で起きた偶発的なものだったが)
又、その事件の直接の被害者であったキュルケとミスタ・コルベールは、この事件を切っ掛けに結婚する事になる。
それからというもの、ルイズと友人達は様々な事件に度々遭遇していく。
学院を卒業するまでに関わった事件で大きいものだけでも、モット伯による平民誘拐事件、トリステイン魔法学院襲撃事件、リッシュモン高等法院長の汚職事件及びダングルテールの真実、等々。
小は級友の痴話喧嘩から大は国際規模の大事件まで、解決に携わった事件は両手を使っても足りない程だった。
しかも、そのほとんどの事件で魔法らしいものは全く使わず、その機転と人脈のみで事件を解決へと導いていた。
しかし、それらの事件を解決に導いたルイズだったが、彼女の名前は驚くほど小さい扱いだった。基本は被害者の友人、もしくは被害者の一人という、その他大勢という扱いだ。
事件を解決したのは、女王陛下直属の銃士隊や魔法衛視隊といった公権力という事になっている。その為、ルイズは未だ“ゼロ”の2つ名を甘んじて受けていたが、全くと言って良いほど苦にしていなかった。
彼女にしてみれば、「魔法が使えるのに、自分よりも能力が低い連中」に言われる悪口など、ただの負け惜しみにしか聞こえなくなっていたのだ。そうした精神の変化が功を奏したのか、魔法学院を卒業しようという頃にはそれなりに成長を遂げる事になるが、それは余談というものだろう。
そして時は過ぎ、あの召喚の儀式から2度目の春がルイズ達に訪れていた。
ルイズの友人達はそれぞれの未来へと進んでいった。
ギーシュは父や兄達の後を追う様に軍へ、モンモランシーは次代のラグドリアン湖の水の精霊との交渉役として精進している。
この二人はギーシュが精霊の交渉役に釣り合う程度の出世をするまで待って、結婚する事になっているらしい。
タバサ……シャルロットは、ガリア王から取り戻した母親を伴ってキュルケの元に身を寄せる事になった。
彼女の母親の精神はエルフの毒によって侵されていたが、アルビオンからヴァリエール領にその身を移したテファの指輪の力で何とか治癒をする事ができた。これから少しずつ失われた時間を取り戻していくのだろう。
キュルケは前述した通り、ミスタ・コルベールと婚姻を遂げた後、タバサとその母親を伴ってゲルマニアに帰っていった。
どうもミスタ・コルベール(今ではミスタ・ツェルプストーだが)の発明を商売に利用しようと思っているらしい、商魂逞しい事である。
ミス・ロングビルはミスタ・コルベールの後任として魔法学院の講師となった。学院ではその美貌と、実践的な授業内容で人気教師の一人になっているらしい。
ミス・ロングビルの妹こと、白の国の秘められた姫君・ティファニアは、アルビオンからトリステイン……正確にはラ・フォンティーヌ領へ孤児達と共に移り住むことになった。
諸々の事象を鑑みると、トリステインでも最強クラスのメイジ“烈風”カリンがいるラ・ヴァリエール領か、その近隣の領地にに匿うのが最良だと、アンリエッタやヴァリエール公爵、そして枢機卿が判断したのだ。
テファがハーフエルフだという問題は、領主であるカトレアが全く問題視していなかった事に加え、外出時にフェイスチェンジを使えるマジックアイテムを使用する事でクリアできるようになった。両者の関係も問題無くラ・フォンティーヌ領では一年を通して小春日和のような穏やかな日々が続いている。
ルイズの姉達……長姉のエレオノールは何とかバーガンディ伯爵との婚姻が本決まりした、ルイズの魔法という大きな問題が片付いた事で肩の荷が下りたのか、以前程の気の強さが鳴りを潜めた(それでも十分にキツイが)のが功を奏したのだろう。
次姉のカトレアの身体は相変わらず病魔に侵されたままだった、テファからは指輪の力を使おうかと提案されたらしいのだが、そうした結果、ルイズに関する情報に信憑性がなくなると言って頑として受け入れなかった。
今はテファと共に孤児達や拾ってきた動物達の世話をしながら穏やかに暮している。
トリステイン王国の玉座には、アンリエッタ・ド・トリスティンという新しい主が座していた。
先王の一人娘として当然の如く諸侯に迎え入れられた彼女だったが、当初は必ずしも良い為政者とは言えなかった。いや、二十にもならない娘に良い為政者になれというのは些か酷な話ではあったが、半年も経つと官僚や直属の配下達から違った意見がちらほらと出てくるようになってきた。
歩みは遅くとも、少しずつ政を理解して己の判断で仕事を始めるようになってきたのだ。
少しずつ少しずつ歩みを進めていく、まるで耳を傾けなかったマザリーニ枢機卿の言葉に耳を傾け、疑問に思った事にはすぐに質問を返す。
そんな女王の姿勢に枢機卿も良い影響を受けたのか、ほんの少し顔色も良くなり健康状態も好転したと言う。
また、特筆すべき事として試験的に平民の登用を始める事となる。流石にいきなり官僚としては無理だが、一般の事務として平民を使う事になったのだ。
当然、反対意見も出たが、先の疑獄で大物・小物を問わず貴族が多数逮捕・投獄された所為で執務が滞る様になると、不足分を補う様にして登用せざるを得なくなった。
とにもかくにも、トリステインという国はゴタゴタは続いているものの、玉座に座しているうら若い女王と同じ様に、ゆっくりと変化を続けている。
そして、学院を卒業したルイズがどなったのかというと…………
事務所の扉に取り付けられているカウベルがカランコロンと軽快な音を奏でる。
その音は、ディアーナが淹れてくれた紅茶の香りが漂う穏やかな時間の終わりを告げるものだったが、私が待ち望んでいたものでもあった。
ディアーナが接客の為に玄関兼応接室へと向かって行く、この場所はごく一部の人間しか訪れない。
すなわち、厄介事を抱えた人々。
確かに女王陛下からの依頼もあるが、私にとってはどちらであろうと関係はない、問題は私にしか解決できない厄介事を抱えた人がいる、それだけだから。
ここにはそういった人々が訪れる、必要なのはささやかな報酬と心からの願い。それだけあれば私は動ける。
名声はいらない、そんなものは欲しい人にくれてやる、私が欲しいのはもっと価値あるものだ。
それは笑顔。
それは幸せ。
それは……
それらにカタチは無いだろう、だけど確かにそこにある。心が魂が暖かくなる。
それはかつて欲していた貴族の誇りに似ている、けれどどこか違うものだ。
私はそれに魅入られてしまった、貴族としての誇りは当然、今もこの胸に生きている。
けれど、私を魅了したものはもっと暖かい、人が人として生きる以上欲して止まないものなのだろう。
応接室への扉を開くとそこには、ボロを纏った幼い少女が怯えながら立ち尽くしていた。
入って来た私を見ると、大きく綺麗な瞳にみるみる涙が溜まっていく。
私はゆっくりと屈み込むと、少女と目線を合わせて、彼女の緊張を解す為に笑顔を浮かべて話しかける。
「ようこそお嬢さん、フェイト・ゼロの事務所へ。」
そうして、かつての彼がしたようにウインクを一つ、ついでに『イリュージョン』で光の花を一輪咲かせる。
さあ、お人好しのフェイトの出番だ!今は驚いているだけのこの女の子に笑顔を取り戻そうじゃないか!
ゴーストステップ・ゼロ
XYZ
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