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#navi(カオスヒーローが使い魔)
「言葉が通じるんだから文字も読めると思ってたんだけどよ。妙な所でリアリティがでてムカつくぜ」
と愚痴りながらカオスはハルケギニアの文字を勉強し始めた。通訳を頼めばよかったのだが、教師達はそんな暇ではない。
学生共に頭を下げるのはプライドが許さないし、ルイズなんかに言ったら
「私の使い魔になりなさい。そうすれば教えてあげない事もないわ」
と勝ち誇った顔で言うに違いない。
ルイズたちが教室で勉強している間、彼は図書館で黙々と文字を覚えていた。思えば彼の人生で初めての勉強かもしれない。
人間の学生だったころ、成績は優秀な方ではなかったし、途中から悪魔の戦いに巻き込まれそれどころではなかったのも
理由の一つだ。
昨日会ったシエスタ。自分の勘が外れてなければアイツは日本人だ。ってことは、以前にも向こうからこっちに呼ばれた奴が
いるはずだ。もしかしたら何らかの形で記録、伝承されているかもしれない。あとで直接本人から話も聞かないといけないな。
「なんだなんだ、思ったより早く帰れそうじゃねーか」
「どこへ帰る?」
後から声をかけられた。振り向かなくても正体はわかった。
「自分の居場所だ。そんなことよりどうしてここにいるんだよ、タバサだっけか?」
まだ授業は終わっていないはずである。
「ルイズが失敗したから自習になった」
「それで教室抜け出してサボりか。お前はもっと優等生だと思っていたぜ」
自分の本を開き隣に座るタバサ。だが本を読む気配はない。
「どこから来たの?」
「あぁ?そういえば他の連中はしらねーのか。俺はこの世界のモンじゃねえからな。元の世界に帰るんだよ」
「そう」
と素っ気無く返事をする。そうするとまた次の質問が来た。
「どうやったら、悪魔に魂を売れる?」
「ああぁ?何言ってんだてめー?」
「前に言った。強くなるには悪魔に魂売ればいいって」
そういえばそんな事も言った気がするが。普通本気にするか?カオスは呆れていた。
「こっちに悪魔がいればそいつと交渉すればいいだろ。いなかったら黒魔術でもやって魔界から召喚するんだな」
タバサはコクコクと頷き、いい事を聞いた子供のようにしている。
そこで授業終了の鐘が鳴り響いた。
「やれやれ、邪魔が入ったせいで区切りが悪いぜ」
「ごめんなさい」
カオスは立ち上がり食堂へ向かった。その後をタバサがひょこひょこついている。
「あ、タバサ。どこ行ってたのよ」
キュルケが寄ってくるが「図書館」とだけ答え、タバサはカオスの後をついていった。その後をさらにキュルケがついていく。
「何だおめーら?金魚のフンじゃねーんだからついてくんな」
うっとおしそうに追い払おうとするカオス。
「あら、いい女二人も捕まえてフン呼ばわりは無いんじゃない?」
まぁいいけどよ、と言ってカオスはそれ以上何も言わなかった。キュルケは、やっぱりこの男は敵対するものには容赦しない
けど、身内には結構優しいのではないかと思い始めていた。
そんな3人をルイズが見つける。仲魔のルイズとしては勝手にいなくなったカオスに対して怒り心頭である。仲魔なんだから
一言くらい言ってくれてもいいじゃない。がルイズの言い分だ。
さらにキュルケとタバサがくっついているのだから、面白いもんじゃない。
「ちょっと、仲魔ほったらかしにして何やってんのよ!」
「勉強だ。それよりまたメギドぶっ放したのか?」
「うるさーい!そんな変な魔法じゃないわよ!」
プンプン怒るルイズを軽くあしらうカオス。キュルケも加わりより一層やかましくなる。タバサは相変わらずだが・・・。
この光景を見た他の生徒達は、「あの魔人、意外といいやつなの?」とキュルケと同じ事を思い初めていた。
食堂につくとイスに座っただけで勝手に料理が運ばれてくる。贅沢な事この上ない。テーブルマナー何か欠片も知らない
カオスは普通にむしゃむしゃ食べ始めるが、他の3人は見事なもので物音一つたてやしない。
「やっぱりここの飯はうめぇぜ!こっちに来て良かったと思うのはこの時だけだ」
「カオス、向こうで何食べてたのよ」
「あぁ?食えるものは何でも食ってたな。食える物にありつける奴はまだマシだ。逆に食われちまう奴もいるくらいだった
からな」
それを聞いて流石に3人ともナイフがとまる。向こうの世界って一体・・・。想像しただけで恐ろしい。
「私、貴族に生まれてよかった」
「珍しいわね、アンタと意見が合うとは思って無かったわ」
ルイズとキュルケの意見が一致した数少ない例である。
「見事な食べっぷりですね。コック長のマルトーさんも惚れ惚れしてましたよ」
メイドのシエスタがやってきてお茶のおかわりを注いでくれた。それをゴキュゴキュと一気に飲み干すと、料理を食べつくす
作業に戻った。
「まるで子供ね・・・」
ルイズは呆れている。こいつ本当にメイジをボコボコにした奴と同一人物なのか・・・。この姿を見ると信じられなくなる。
「あ、そうだ。おいシエスタ。お前の先祖か遠い親戚でちょっと変わった奴はいないか?」
聞こうと思っていた事をついでに質問しておくカオス。だが
「え、いや、変わってると申されても」
聞かれたシエスタはやはり困惑している。
「何でもいいんだよ。訳のわからないことを話していたとか、何だかよくわからない物を持ってたとか」
「ん~。すいません。ちょっとわからないです」
その返事を聞くとそうかと答え、目の前の料理に目を戻した。
今度はタバサが口を開いた。
「あなたが使える魔法について聞きたい」
ルイズは一瞬顔が引きつった。自分は魔法が使えないのにカオスは使えるんだ。あんな強力な炎の魔法を。どんどん
自分が惨めになっていくのでこの話題は極力触れないようにしていたのだ。
「わりぃが自分の手の内を簡単に明かすほどバカじゃねぇ」
カオスはタバサにこう答えてこの話題を終わらせた。タバサは残念そうにしていたが、すぐにいつもと変わらぬ様子に戻った。
食べ終わったカオスはごっそさん、といって立ち上がるとまた図書館に戻っていった。
「ずいぶん熱心ねぇ。何を勉強してるのかしら?」
「文字。あと帰る手がかり」
「え!!」
ルイズ的には非常に不味い。使い魔の契約もしてないのにホイホイ帰られたら面目丸つぶれである。何よりあんな強い奴、
もう一度召喚できるとは限らないのだ。
「帰る前に一度お相手してもらいたいわぁ」
「さかってんじゃないわよ、この色情魔」
「ふふふ、アンタも色気で繋ぎ止めようとしてみたら?あ、お子様には無理だったわね~」
そしてまた二人の果てしなく続くいい争いが続くのであった。
他のテーブルで生徒達にデザートを配膳していたシエスタ。クックベリーパイを楽しみにしている生徒は多い。人気メニューの
一つだ。そこに珍しくマルトーがやってきた。
「シエスタ、ちょっといいか?」
「マルトーさん?厨房から出るなんて何かあったんですか?」
マルトーの表情は暗い。いつもは豪気な人で、この人がいるから厨房は活気に溢れている。そんなマルトーが暗い顔をしている
なんて、シエスタは初めて見た。
「ちょっと奥で話がある」
そういってマルトーは戻っていった。シエスタも配膳を他のメイドに任せてマルトーの後についていった。
「シエスタ、実は――」
そう切り出したマルトーの横から一人の貴族が割り込んできた。
「貴女が、シエスタですね?」
その貴族は中年の男性。悪名高きモット伯だった。異常なまでの女好きで貴族の権力を言いように利用して、逆らう事の
出来ない平民の「美しい女性」を自分の屋敷に連れて行くのだ。まさに外道ってやつである。だが聞いていた評判とは
全然違う感じの見るからに紳士な印象を受ける。
「初めまして。私はモット伯。突然の訪問ですまないね。だがとても大事な話が君にあるのだよ」
穏やかな口調だが、とても強い意思が込められている。
「私なんかにですか?」
「そうだ。信じてもらえないかもしれないが、君は狙われている」
シエスタの表情が不安に曇る。
「ど、どうして!?誰に狙われてるんですか!?」
オット伯は真剣な表情になり、息をのんでからこう言った。
「落ち着いてよく聞いて。いいかね、私もついこの間までこんな話馬鹿げていると思ったし、信じる根拠なんか何にも
なかった。だがそんな私の目の前で奇跡が起きたのだ。それ以来私はこの事実を真摯に受け止め、行動する事にした」
「何をおっしゃってるのかわかりません。一体私は誰に狙われているのですか!?」
「悪魔だよ、シエスタ。とても邪悪な悪魔が君を狙っている。私は悪魔から君を守るように頼まれたのだ。大丈夫、心配
する事はない。どんなに恐ろしい悪魔でも、我々の前では無力な存在だ」
自分が悪魔に狙われていると聞いてシエスタは顔が真っ青になってしまった。だがマルトー達はそれを信じていなかった。
そういって気に入った女を屋敷に連れて行くのがこいつのやり口なのだと思っているからだ。
「さぁ、ここは危険だ。学院長にも話はついてある。荷物をまとめてすぐにここから離れるのだ」
午後の授業が始まり生徒達は教室で勉強。カオスは図書館で文字と歴史関係の本をあさっていた。とっていも殆んど文字の
読み書きしかしていないのだが。
そこへオールド・オスマンが一人でやってきた。
「何のようだじじい。帰る手段が見つかったか?」
「いや、まだじゃ。今日は君に聞きたい事があってきた」
ただならぬ雰囲気だ。その気配を感じてもカオスはあえて本に目を通しながら答えた。
「何だよ?言ってみろ」
「さっき一人の貴族がやってきた。その貴族は開口一番、わしにこう言ったよ。『この学院に、悪魔がいる』とな。さらに
その悪魔は一人の女性の命を狙っている。危険だから悪魔を討て。それが無理なら女性を私達が保護するとな」
「それは、俺のことを言っているのか?」
「心当たりがあるのかね?女性の命を狙うとはどういうことじゃ?」
「確かに俺は悪魔みたいな存在だ。こっちの世界から見たら悪魔そのものだろう。だがよ、女性の命を狙うってのはしらねぇな。
そもそも、俺が狙ったらとっくに奪ってると思うぜ」
「そうじゃろうな。君の実力なら問題なかろう」
「で、その貴族にはなんて答えてやったんだ?」
「ここには悪魔などおらん。女性の保護も必要ないからとっとと帰れ、と言ってやったわい。じゃが・・・」
オールド・オスマンはそこでいったん区切った。
「その貴族は手をかざした。その時奴はこう言った。『悪魔に手をかす愚か者め。神の怒りを思い知れ』とな
そこでわしは意識を失ってしもうた・・・。気がついたときには、女性が貴族の下に行くような手続きが完了しておった。」
神という言葉を聞いた途端、カオスは椅子から立ち上がった。勢いあまって椅子がひっくり返った。
「神だと!?こっちの世界には神らしいものはブリミルだけと言ったよな!?」
「そうじゃ。奴の言った神はどうもブリミルの事を指しているとは思えん。違う存在の事を指しているとわしは
思う。何より貴族は神という言葉ではなく『始祖』という言葉を使うからの」
カオスはオールド・オスマンに詰め寄って胸倉を掴む。
「そいつはどこに行った!?今すぐ教えろ!」
「お、恐らく自分の館に。シエスタもそこに・・・いる」
「クソがッ!」
乱暴に手を離し、開放されたオスマンは咳き込みながら息を吸う。顔が真っ赤になっていた。
「やれやれ、死ぬかと思ったわ。教えてくれんか。なぜ奴は、モット伯はシエスタを連れて行ったんじゃ?奴は女好きで有名じゃが
以前会った時と別人のようじゃった。妾にする気ではなさそうだしの」
「前に言ったろ。手がかりを掴んだって。それを持っていかれちまった」
「なんと!?あの娘が手がかりと申すか!?」
「自分じゃわかってないみたいだが、アイツから俺のいた世界の人間の血筋を感じる。以前にも向こうからこっちに来た奴が
いるみたいだ」
最後に勘だけどな、と付け足した。目を大きく開いて、オールド・オスマンは信じられないようだった。
「ならば君の同胞、という事になるな。モット伯が何のつもりで連れて行ったのかはわからんが、迎えにいってやってくれん
かの?」
「がらじゃねぇが、俺としても手がかりを失いたくねぇ。何より・・・」
カオスは、にたぁと静かに笑い出した。
「まさか神の手先に会えるとはなぁ、ククク・・・。ぶっ潰してやるよ」
その顔は、オールド・オスマンが今まで生きて見てきた中で、どんな人間よりも楽しそうで、嬉しそうで、
邪悪で不気味なものだった。
馬車にのってモット伯の言う「安全な家」にシエスタがついたのは日が暮れてからだった。馬車の中でモット伯は多くを
語らず、「全ては神の導き」だの「神のご加護」といった言葉で煙に巻かれてしまった。
どうにも神と云う者に憑りつかれてるような感じだった。
「さぁ。着きましたよ。ここが私の家です」
貴族の屋敷を見るのは初めてではないが、その広さ、装飾品の数と質、家具や絨毯どれをとっても超一級品なのはシエスタに
もよくわかる。しかも全てに掃除と手入れが施されていて塵一つ、傷一つもない。一体何人いればここまでできるのか。
色んな事を考えているシエスタは言葉がでない。そんな様子を見てモット伯は微笑を絶やさない。
「気に入ってもらえたようだね。少し狭いが我慢して頂きたい。なに、悪魔を討つまでの辛抱だ」
悪魔と聞いてシエスタが思い出したように質問する。
「貴族様、教えてください。なぜ私が狙われるのでしょう。私は見ての通りの平民ですし、魔法もお金もありません」
その言葉を聞いてモット伯はふむ、と頷く。
「君は気づいていないようだが、悪魔は君の秘密を知っているようだ。その秘密が悪魔にとって重要らしい」
「秘密?私、何にも秘密なんかありません」
シエスタには全くわからない話だった。一体自分にどんな秘密があるというのだ。
「大丈夫、我々が守っているからね。今はわからなくてもその内わかる」
そこまで話したところで一室に通され「今日はここから出てはいけないよ」とモット伯に言われるとシエスタは椅子に
座り込んでため息をついた。
「私どうなっちゃうんだろ・・・」
抑えていた不安が噴出してくる。悪魔って何?秘密って何?何で私を狙うの?誰か、誰か助けて。
モット伯が自室に戻ると跪き、両手を合わせ大きな声で喋りだす。
「ご指示通り、娘を連れてまいりました」
そういうと部屋中がまぶしい光に包まれる。その輝きは優しくも尊大。見ただけで心が洗われるような感覚だ。
そしてどこからともなく声が聞こえてきた。
「ご苦労でした。しかし油断してはなりません。悪魔は強力です。いずれ此処にやってくるでしょう」
この声が聞こえてきたのは1週間ほど前だった。いつもの様に女達を可愛がっていると急にこの声が聞こえてきたのだ。
この声に自分のことを戒められた時は怒り心頭で聞く耳持たずだった。しかし何度も聞いているうちに一つの奇跡が起こった。
声が「今日は外出するな」と言って来たのだ。その日は王室から大切な任務を受けるので、王都に出向かなければならない日だ。
当然無視して馬車に乗って出発する。しかし馬がいつまでたっても動こうとしない。鞭で叩いても、大声で怒鳴りつけても
石像のように動かない。仕方なく他の馬に跨って行こうとしたら、今度はその馬が動かなくなる。
どうしたものかと悩んでいる時に、伝書鳩からモット伯に知らせが入った。
手紙に目を通すとそこには驚くべき内容が書かれていた。
――反逆者が貴公暗殺を企てている。その実行日は本日也。馬車を狙うため街道沿いに賊を放った模様。急ぎ警戒し、これを
捕らえよ。
すぐさま指示を飛ばし、賊を討ち取ったが馬がすんなり動いていたら自分はただでは済まなかったろう。
それがきっかけとなり、モット伯はこの光の声をすっかり崇める様になってしまった。妾にしていた女達も光に戒められたら
すぐに全員解放した。なので屋敷には男の執事と男の警備兵しか残っていない。
「さぁ。それでは悪魔を打ち倒す準備をしなければなりません」
「ははっ。何なりと申し付けください」
「感謝します。ではあなたの肉体を神にささげなさい。それは悪魔を打ち倒す力となるでしょう」
「えっ、肉体・・・?そ、それはどういう事です?」
「我々はこの世界に不完全なまま来てしまいました。ですから悪魔と戦うためには肉体が必要なのです。あなたの身体に
私が入り込むと言えばわかりやすいでしょう」
「そんな事をしたら私はどうなるのですかっ!?」
「ご安心を。安らかに神のもとに召されるだけです」
「ふざけるな!生贄になって死ねというのか!」
「非力なあなただけの力で悪魔に打ち勝つ事は出来ないでしょう。この方法が最善なのですよ」
「冗談じゃないぞ!お前達の方がよっぽど悪魔じゃないか!!」
しばしの静寂。モット伯はその提案を絶対にのむ気は無い。
「この私の言う事が・・・聞けぬというのかっ!」
そしてモット伯はまぶしすぎる光に包まれ意識を失った。部屋の真ん中に倒れたモット伯はピクリとも動かなくなった。
オールド・オスマンからモット伯の屋敷の場所を聞き出したカオスは、途中まで走っていた。車があれば乗っていたが、
こっちの世界には馬しかいない。しかし乗馬なんてやったこともないので、走っていたのだ。ただ走るといっても常人の
速度とは比べ物にならない。それでもオット伯の屋敷に着くころにはやはり夜になってしまった。
屋敷を見回すと至る所に警備兵がいるのがすぐわかった。だがなんら問題はない。
「さてと、まず最優先なのはシエスタの確保か。それから――奴らを掃除する事だな」
カオスは笑いが堪えられない。憎き奴らをこちらの世界で叩きのめす事ができるとは思っても見なかったことだ。
正面から門に近づき硬く閉ざされているのをものともせずに、蹴り飛ばしただけで門は吹っ飛んでしまった。
そのまま真っ直ぐ屋敷の玄関から屋敷の内部に侵入した。玄関ホールには一人の紳士が立っていた。身なりからするに
恐らく貴族だ。となるとモット伯の可能性が高い。
「てめぇがモットか?」
「黙れ、忌々しい悪魔め。ここで息の根を止めてやろう」
カオスの質問には答えす戦闘体制を取るモット。バチバチと電撃がモットの身体から走り出す。やがて白い光の珠に身体が
包まれると、そこにはモット伯はいなかった。かわりに背中から翼がはえた天使がそこにいた。手には槍と盾を持ち、
身体は鎧で武装している。美しい顔立ちだがその表情は険しい。
「てめぇらに会えるとは思っても見なかったぜ。どうやってこっちに来た?」
「答える必要はない。滅びよ悪魔!地獄の業火に焼かれるがいい!」
「ふん、雑魚一匹で俺を倒せると思ってんのかよ!」
天使と魔人の戦いがはじまった。天使が持っていた槍で魔人を薙ぎ払う。それを鞘から抜かずに剣で受け止める。
今度は魔人が右足で蹴りを放つ。天使は盾で受け止めるが盾は足跡の形に凹んでしまった。追撃する魔人。抜刀して
頭から剣を振り下ろす。それを今度は槍で受け止めるが、身体がくの字に折れそうになっていた。さらに力を込めて
剣を振り下ろそうとする。このままでは押しつぶされてしまう。その時天使がニヤッと笑った。
周りから音も立てずに剣がカオス目掛けて振り下ろされる。同時に四本。それを察したカオスは正面の天使の頭上を飛び越え
て回避した。着地した所でまたも剣に襲われる。それを剣で受け止めると同時に、周りを見た。
いつの間に現れたのであろう。玄関ロビーは武装した天使たちですっかり埋め尽くされている。
「ククク、ゴキブリは一匹見たら三十匹いるって言うけどよ。正にその通りだな」
「ほざけ悪魔!神の怒りを思い知れ!」
「上等だ!てめーらまとめてあの世行きだ!」
次々と襲い掛かってくる天使をものともせずに、切り伏せるカオス。真っ二つにされた天使、首がない天使、魔法で燃やされた天使、
2体が槍で串刺しにされているものもある。もはや血の海どころではない。
赤く染まっていない場所などもはや見つからず、最初からこの色だったの
ではないかと思うほどだ。それでも天使は次々と現れてくる。カオスもそれに余裕で立ち向かう。持っていた剣がボロボロ
になってしまったので今度は素手だったり敵の武器を奪って戦った。魔法がくれば天使を盾に、そしてそのまま敵に投げつける。
超高速で繰り広げられる戦いは最早人間の眼で追うことは出来ないだろう。ひと筋の影が走るごとに血しぶきが舞い、天使
達が地に落ちる。圧倒的に有利と思われた天使の軍団は、カオスに一方的に蹴散らされていくのだった。
そしてついに、長い戦いは最後の天使にカオスが止めを刺して決着がついた。
辺りを見回すと死体が文字通り山になっている。何体いるのか数えるのが無理なくらいだ。
「さすがにちょっと疲れたぜ」
と言いつつ深呼吸をする。服のいたるところが切れ、浅い切り傷が見える。だがそれも直ぐに塞がってしまった。
順番が変わってしまったが、シエスタを探さなければならない。餌のつもりで連れ出したのだろうが、無駄だった。天使達も
ここまで力の差があるとは思っていなかったのだろう。
ロビーのドアを開けると外の廊下まで血がつたわっていた。廊下はどす黒く変色し始めている。
「おい、シエスタ。どこにいる。返事をしろ!」
廊下を歩き、部屋を一つずつ探す。しかし見つからない。一人で探すにはこの屋敷は広い。部屋の数も多いのに、その部屋の
広さもバカみたいに広いのだ。
「ったく、めんどくせぇな。おーい!さっさとでて来い!」
テーブルやベットを片っ端からひっくり返し、邪魔なものは放り投げ、窓の向こうに投げ捨てた。
カオスがシエスタのいる部屋に近づくにつれ、物騒な音が大音量になるのだからただの人間であるシエスタにとって、恐怖
以外の何者でもない。部屋の隅で膝を抱えて小さくうずくまる。ガタガタ震えが止まらなかった。
そしてついにカオスがシエスタの部屋にやってきた。
「おーい、シエスタどこにいる?迎えに来てやったぞ」
この声は・・・ミス・ヴァリエールが召喚したカオスヒーローさんだ。
自分の知っている人物が現れた事で安心したシエスタは、クローゼットに隠れているところからのそのそとでて来た。
「カオスヒーローさん!どうしてここ・・・へ」
「やれやれ、呼んでるんだからさっさと出て来いよって、おい!」
シエスタがドサッと倒れる。天使の返り血で染まっているカオスをみて、気を失ってしまったのだ。
「おいおい、何で気絶するんだよ。おい起きろ!目を覚ませ!」
ぺしぺしと頬を叩くがシエスタが目を覚ます事はなかった。不本意ながらカオスはシエスタを背中におぶって学院まで帰る
事になった。
「何で俺がこんな事を・・・」
深いため息をつく。
こうなったのも天使がこいつを連れ出すからだ。天使に対する憎しみが増していく。何故かこっちの世界に
来てからガラでもない事をするはめになっている気がする。そんな事を考えつつ、学院に向かって走るカオスであった。
モット伯の屋敷はカオスが火を放ち全焼した。使用人や警備兵の生き残りはいなかった。全員天使に身体を乗っ取られたのだ。
後日、貴族の屋敷が全焼し生存者ゼロというニュースは国中に広がったが、真相が明らかになることはついになかった。
「しかし奴らはどうやってこっちに来た?俺を追いかけてきたのか?」
この疑問もこの時点ではカオスには解けないままだった。
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