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「どこをどう見ても胡散臭い地図だね」
わたしが、先に席に座ってたタバサとキュルケとギーシュに軽く挨拶し、キュルケの見せる羊皮紙をざっと眺めていると、呆れ顔のギーシュが身もふたもないことを呟いた。
「そりゃあ、魔法屋、情報屋、雑貨屋、露天商……、いろいろ回ってかき集めてきたんだもの」
それを聞いたわたしは、喉元まで「まがい物に決まってるわ」と出かけたが、ぐっとこらえた。大方、キュルケはわたしに気を使って集めたんだろう。
はぁと一つ溜め息を付いて、再度羊皮紙の束を眺める。
廃墟に森に遺跡に洞窟。これでもか! というほどに定番すぎる上、どうにも地図は真新しく、どれもこれもチグハグな感じがする。
「宝を隠してるにしては、良くも悪くも目立ちすぎよこれ」
「馬鹿ねルイズ。だから『そこ』に隠すのよ。だって、目印も何も無いところに宝なんて隠さないわ」
はあさいですか。
確かに、隠したはいいけど、どこにやったかわかりませんなんて間が抜けてるにもほどがある。
「でも、これだけあるんじゃ、どれから手を付けたらいいか……」
わたしが適当に一枚掴んだ時、ほのかな光に気がついた。
光の出所は、わたしの懐の中。つまり……。
「……ダネット?」
懐から取り出したダネットは、淡い光を放っていた。
みんなが無言になる中、わたしはそっとダネットを机の上に置く。
「これ……?」
先ほど、わたしが適当に掴んだ地図をよく見ると、どうやら『竜の羽衣』という宝について書かれているらしい。
「場所は、タルブ村の近くね。タルブってどこら辺なの?」
横から顔を出して地図を見ていたキュルケがそう言うと、突然、後ろからガチャンと食器の割れる音がした。
驚いて音の方を見ると、見覚えのある黒髪のメイドが、青い顔をしてこちらを見ていた。
「あんた確か……シエスタだっけ?」
「し、失礼しました! 申し訳有りません!!」
慌てて謝罪の言葉を口にするシエスタの目は、一点を見つめている。
「あんた、これに見覚えがあるの?」
わたしはダネットを手に取り、最早、顔色が青から蒼白に変わっていくシエスタに見せながら、有無を言わせぬ口調で尋ねる。
「ひっ! も、申し訳ありません! 申し訳ありません!!」
「わたしが聞きたいのは謝罪の言葉じゃないわよ! 知ってるの? 知らないの? 答えなさい!!」
思わず、叫ぶように言ってしまったわたしを、キュルケがそっと手で制した。
「落ち着きなさいルイズ。怯えてるわよこの子」
キュルケの言葉で少し冷静さを取り戻し、シエスタを見てみると、目に涙を溜めながらガタガタと震えていた。
それほどわたしが怖かったのだろうか。周りを見てみると、同席のギーシュや他の生徒も怯えた目でわたしを見ていた。
「…………」
無言で席に座りなおしたわたしを見た後、キュルケがシエスタに尋ねる。
「大丈夫よ。何もしないわ。ただ、もしもあなたがこの石について何かを知っているなら教えて欲しいだけ」
優しい口調にシエスタの緊張は目に見えてほぐれ、ゆっくりと話し始めた。
「最初は……自分の村の名前を聞いたので、こちらの席を見たのです」
「へえ、きみはタルブ村の出身なのかい?」
ギーシュの言葉に、シエスタはこくんと頷く。
「それで、机の上にあった『ソレ』に気付いて……」
「『ソレ』って……これ?」
キュルケがわたしの持つダネットを指差すと、シエスタは再度こくんと頷いた。
「じゃ、じゃあ、あなたはこの石を見たことがあるの?」
キュルケの言葉に、シエスタは首を縦に振った後、言葉を続けた。
「幼少の頃に一度だけ。ですが、少し前に盗まれたと、家族からの手紙に書いてありまして……」
「盗まれた?」
それから、詳しい話を聞いてみたが、シエスタも家族からの手紙に少しだけ書いてあっただけだと話し、詳しい事情はわからないと言った。
どうやら、古くから村の近くの洞窟にあったものらしいのだが、特に言い伝えがあった訳でも、特別な信仰心があるわけでもないとのことだ。
「どうやら、行き先は決まったみたいね。あなた……シエスタだったかしら? 案内を頼んでいい?」
「え? え? え? え?」
キュルケから肩に手をポンと置かれ、状況が掴めずにおろおろするシエスタを尻目に、わたし達の表情は硬いものになっていた。
タバサの風竜のお陰で、タルブ村へはその日の内に到着し、シエスタの家族へ事情を聞いてみると、春先ぐらいに奇妙な出来事があり、その時にはもう石は無くなっていたとのことだ。
先ほども少し触れた通り、特に言い伝えも何も無かったので、いつも石を目にしていた訳ではない為、本当にその時に無くなったとは限らないらしいのだが、何となく、わたしはその奇妙な出来事というのが発端な気がしていた。
その奇妙な出来事とは、大きな爆発音と、赤い光なのだという。そして、春先という時間。この二つを頭の中で巡らせる。
「……まさかね」
「え? 何か言ったルイズ?」
わたしの独り言に反応したキュルケに「何でもない」とだけ返し、わたしは目の前に黒々と口を開ける洞窟の中をじっと見つめていた。
シエスタの家族へ事情を聞いたわたし、タバサ、キュルケ、そしてシエスタの四人(距離が長く、人数が多かった為、ギーシュには辞退してもらった)は、シエスタの案内で、石があったという洞窟の前にいた。
「この中なのね?」
「は、はい」
わたしの言葉に、慌てて頷くシエスタ。
一日でここまで来て、休む間もなく案内させられた為か、シエスタの顔には疲労の色が見える。
「ありがと。ここまででいいわ。ねえタバサ、彼女を村まで送ってもらえるかしら?」
タバサは頷いて、「すぐ戻る」と言ってシエスタを風竜に乗せて村へと向かって行った。
タバサを待つ間、キュルケと二人だけという事もあり、何となくお互いに無言になり、しばらく経った後、唐突にキュルケが口を開いた。
「……ねえ」
無言で顔だけ向けると、そこには複雑な表情をしたキュルケがこちらを見ていた。
違う、彼女の視線は、わたしの胸の辺り……ダネットを入れている懐の辺りに向いていた。
「もしかして、ダネットってタルブの出身だったりするんじゃないかしら?」
「違うわ」
わたしは、キュルケの言葉を即座に否定する。
キュルケは、断言したわたしを不思議そうな顔で見た後、言葉を続けた。
「言い切るってことは、あんたにはわかってるの? ダネットの故郷のこと?」
返事に困ったわたしは、懐からダネットを取り出して、しばらく思案した後、思い切って言う。
「もしも……もしもよ? もし、ダネットがこことは違う世界の住人だったって言ったら、あんた信じる?」
わたしの言葉に、少しだけ眉をしかめたキュルケは、何かを考えるような仕草をした後に、自分の考えを否定するように頭を振った後、確かめるように口を開いた。
「……前に、あんたが言ったこと、ずっと引っかかってたの。以前あんたは、三体の巨人がダネットの『世界』を破壊したって言ったわよね?」
思ったよりも勘の鋭いキュルケに少し驚いた後、わたしはこくりと頷いた。
「『故郷』じゃなくて『世界』……じゃあ、ダネットの『故郷』って……でも、そんなことって……」
キュルケが言いよどんでいると、シエスタを村に送り届けたタバサが戻ってきた。
「行きましょうキュルケ。多分、答えはこの中にあるわ」
何を話していたのかと頭を傾げるタバサと、「ちょっとルイズ! 待ちなさい!」と慌てるキュルケを余所目に、わたしは洞窟の中へと入っていった。
洞窟の中は細い道が続いた後、突如拓けた場所へ通じていた。
どうやら、山の大きさをそのまま利用したらしく、高い天井は魔法がかけられているのか、うっすらと光り、内部をぼんやりと照らしていた。
そして、部屋の中心部に、小さな台座が見える。台座の近くまで歩いたわたしは、思わず息を呑んだ。
「これ……」
台座の中心には、手の平大の窪みがあり、その窪みは見覚えのある形をしていた。
「ねえ、これって……」
キュルケの言葉に頷いて、わたしは懐からダネットを取り出し、見覚えのある窪み、すなわち緋涙晶であるダネットと同じ形の窪みへそっと置くと、薄っすらとダネットが赤い光を放ち始めた。
息を呑むわたし達を余所目に、赤い光は強くなり、洞窟の中を煌々と照らした後、萎むように収束していった。
「な……何だったの今の?」
不思議な光がどんなものかわからず、自分の身に何か起こったんではないかと手や足に触れたり動かしたりしてるキュルケに、わたしが何かを言おうとした時、周りの異変に気が付いた。
強い光が収まった後も、まるでわたしを心配するかのように淡く輝くダネットを見つめた後、呟く。
「ダネット、あんたはこれをわたしに見せたかったっていうの?」
まるで、台座を囲むように薄い光を放つ赤い文字が壁の隅々に浮かび上がっていた。
警戒するような顔でタバサが近付いていき、安全を確かめた後で顔を近づける。
どうやら、文字を読んでいるようだったが、振り返った後、わたしとキュルケに一言呟いた。
「読めない」
わたしとキュルケも近付いてみると、そこには今まで見たこともない文字が躍っていた。
「何これ? ルーン文字ですらないじゃない。どこの言葉かしら」
「わからない」
首を傾げるキュルケに、短く答えるタバサ。
そんな二人に聞こえるように、わたしは口を動かした。
「プロスト……違うわね。プロデスト大陸……覇王メディスン……」
驚いた顔でわたしを見る二人。
「ルイズ、あんた読めるの!?」
「なぜ?」
疑問を投げる二人に、わたしは曖昧な表情を返す。
自分でも奇妙な感覚だ。何せ、見たことのない文字が理解できるのだから。
「知らないけれど知ってるのよ」
わたしの返答に、ますます意味がわからないといった表情になる二人。
仕方なくわたしは言葉を続ける。
「これはダネットの世界の言葉よ。わたしは知らない。でも、わたしの中の誰かさんは知ってるみたいね」
それを聞いて、表情を硬くする二人とは別に、反応するものがあった。カタカタと刀身を揺らすデルフだ。
「そこまで進んでんのか娘っ子?」
「……」
デルフの言葉を無言で返した後、わたしは続きを読み始める。
壁面に書いてある物語は、以前ダネットが話し、わたしが見てきたものとほぼ同じものだった。そう、『ほぼ』である。
この物語は、最後だけが違っていた。
封印されたはずの、黒い剣を持つ青年の最後が。
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