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「赤目の使い魔-04」(2009/10/03 (土) 01:51:39) の最新版変更点
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#navi(赤目の使い魔)
目が覚め、まずクリストファーの目に飛び込んできたのは無骨な板作りの天井だった。
起きて、周りを見回すとそこは相も変わらず見知らぬ、と言うより、昨晩知ったばかりの部屋。
――やっぱ、夢じゃないか。
彼の目に少しばかりの諦観が混じる。
目を少し動かせば、そこには知り合いになったばかりの少女。
先程とほぼ同じ格好で、可愛らしい寝顔を晒している。
「………」
暫しその様子を見つめていたが、彼はまたも少女の頬を摘んだ。
「……………ほへ?」
少女は、まだ覚醒しきっていない頭で周りを見渡す。
そして、彼と目が合った。
「「………」」
両者に流れる、若干のデジャヴ感を含んだ沈黙。
やがて、男が再び先に言葉を発する。
「ハーイ♪」
数秒後、昨晩と寸分違わぬ光景が繰り返される事となった。
● ● ●
「あったーらしーい、あっさがきーた♪きっぼーうの、あっさーだ♪」
「……その歌止めて。二重の意味で頭に来るから」
頭に寝不足と衝撃による頭痛、顔にこの世の終わりと言った様な暗い表情をたたえ、ルイズはクリストファーと供に部屋を出る。
クリストファーはと言えば、寝起きにも拘らず相変わらずのハイテンション。二人で綺麗に躁鬱のコントラストを造っていた。
「つれないなぁ。朝からそんな暗い顔してたら幸せとかその他諸々色んな物が飛んでっちゃうよ?」
「誰のせいよ…」
どれだけ文句を言ってもこの男には通じない。それが、昨日の晩に彼女が得た唯一の情報だった。
故に、言葉で罵倒することはしない。
その分のエネルギーを、自分の中にたぎる沸々とした怒りへと溜め込む事にした。
――見てなさいよ…。
――いつか、思い知らせてやる。
そんな彼女の内情など露知らず、クリストファーは楽しそうな笑顔を顔に浮かべたまま歩く。
しかし、彼を良く知るものが今の表情を見れば、その中に少しの蔭りを見つけられただろう。
その原因は、無論今の状況。
昨日今日でしか身辺の情報は得られていないが、此処が異世界であると言う事は最早確実だ。
出来るだけ多くの事を把握しておきたい。
…彼女の様子を見れば、聞いた所で答えてくれるかも分からないが。
からかい過ぎたか、と苦笑を交えながら彼は口を開く。
「ねぇ、ルイズ…」
「おはよう。ルイズ」
彼の言葉と重なるように、背後から投げかけられる声。
振り向くと、視界に入ったのは見事な赤毛に褐色の肌、そして横の少女とは大きく対照的な身体(主に胸元)をした少女。
収まりきらないのか、それとも単にわざとかは分からないが、ブラウスのボタンを2つ外しており胸元が覗いている。
呼ばれた少女はと言えば、一瞬嫌そうに顔を顰めた後、ゆっくりと後ろを向く。
「…おはよう。キュルケ」
不愉快を隠そうともしない彼女の返事にも、そのキュルケと呼ばれた少女は何処吹く風と言った様子で二人に近づいてくる。
「あらあら、やっと目覚めたのね。あなたの使い魔」
少しの嫌味が込められたその言葉に、ルイズの顔に浮かぶ不快が深まる。
「…へぇ。ちょっとその目には驚いたけど、こうして見るとなかなかどうしていい殿方じゃない」
キュルケはクリストファーの全身を舐める様に見回し、手を差し出した。
「私は『微熱』のキュルケ。ルイズの同級生よ。よろしく」
一拍置いて、自己紹介されたと分かった彼はその手をとろうとする。
しかし、
「どうも。僕はクリストファー――」
バシリ。
乾いた音が響き、ルイズがキュルケの手を払い除けた。
「何するのよ。ルイズ」
痛む手をさすりながら、キュルケが彼女を睨む。
対してルイズも負けてたまるかとばかりに睨み返す。
「うるさいこの尻軽女!あんたがどんな男とヨロシクやろうと知ったこっちゃ無いけど、あたしの使い魔に手を出すのは止めなさいよね!」
凄い剣幕で言葉を並び立てるルイズ。
期限が悪い分、暴言にも拍車がかかる。
そんな彼女を見て、キュルケは新しい玩具を見つけた子供の様ににんまりと笑った。
「あら、えらく必死ね。まぁ、年中浮いた話の無いあなたにとっちゃ、この方が最初で最初のチャンスかもしれないものね」
「な、な、な…」
怒りと驚きで絶句したルイズの顔が、たちまち怒り一色に染まり、
「何で私がこんな無礼で!身の程知らずで!化け物みたいな奴と付き合わなきゃいけないのよー!」
そのまま、全ての感情を込めた渾身のローキックを横のクリストファーに繰り出すが、彼は片足を上げて難なくそれを避ける。
勢いづいた彼女の身体はバランスを崩し、顔から床に倒れこんだ。
「へぶっ!」
情けない声を上げる彼女を見て、キュルケは声を上げて笑う。
クリストファーも顔に浮かぶ笑みをよりいっそう深くし、口元から歯を覗かせる。
「あーっはっは!あんたってほんと見てて飽きないわよねぇ。一家に一台欲しい位だわ」
「全く同感」
笑い声を全身に浴び、痛みから回復したルイズは顔を朱に染めながらも、人を殺せそうな視線で二人を睨む。
それを軽くいなしながら、キュルケは言葉を続けた。
「心配しなくても、あなたの使い魔を寝取るほど男には不自由してないわよ」
そこで、彼女は視線を自分の背後に向ける。
「それに、あたしにはずっと立派な使い魔がいるもの。ねー、フレイムー」
すると、呼びかけに応えるかのように、マントの裏からのそりと影が現れた。
「わお」
クリストファーは思わず驚きに声を上げる。
影の正体は、牛程の大きさもある巨大なトカゲであった。そこに居るだけで、大の大人も尻尾を巻いて逃げ出しそうな威圧感を醸し出す。
異常なのは大きさだけではない。尻尾は燃え盛る炎で形作られており、口からはチロチロと舌の様に火がほとばしっている。
それが一歩踏み出すだけで、体感温度が2,3度上がる様な感覚がした。
「それ、サラマンダー?」
ルイズの声は平静を装ってはいたものの、節々から悔しさが滲み出ている。
「そーよ。やっぱり使い魔ってのはこう言うのじゃないとねぇ」
そう言うと、彼女は愛おしそうにフレイムの喉を撫でた。
サラマンダーは気持ち良さそうにゴロゴロと猫の様な声を出す。どうやら、かなり懐いているらしい。
ひとしきり使い魔を愛でた後、キュルケは颯爽と自慢の赤い髪を払い、歩を進める。
「じゃ、ルイズ。朝食でまた会いましょ?」
通りすがりにクリストファーへウィンクを決めると、そのまま廊下を歩き去っていった。
ルイズはその後姿を苦虫を噛み潰したかのような顔で眺めていたが、やがて癇癪が爆発したかのように叫んだ。
「なんでよりによってツェルプストー家の女がサラマンダーで、私は只の変な平民なのよ!」
「失敬な」
クリストファーは、まるで子供の様にむくれる。
「それに、さっきの化け物ってのも結構グサリと来たよ?」
「知るか!」
ルイズは再び足を振りかぶる。今度の狙いは股座。所謂金的である。
しかし、またもその一撃を彼は難なくかわし、結果的にルイズはサッカーで言うオーバーヘッドシュートのような体勢で転び、通算三回目となる後頭部への衝撃を味わう事となった。
「っっっ………!」
最早声も出ない程の痛みに悶絶するルイズ。
その様子を見て、彼は控えめではあるが、声を出して笑う。
それには一切の侮蔑は込められておらず、ただ可笑しさによる純粋な笑いだったが、怒り心頭の彼女はそんな細かい感情の機微など気付かない。
起き上がった彼女は、涙を堪え、唇をきつく結ぶと、彼のほうを見ようともせず半ば小走りで廊下を掛けていった。
そんな彼女の姿を見ながら、彼の表情が笑顔は笑顔でも苦笑いのそれへと変わる。
思わず邪魔が入ったせいで、更に情報が得難くなってしまった。
しかし、今回の事で分かった事が一つ。
彼は、先の騒動を思い出しながら呟く。
「……退屈する事は、無さそうかな」
そして、小さくなったルイズの背中に向かって駆けていった。
#navi(赤目の使い魔)
#navi(赤目の使い魔)
目が覚め、まずクリストファーの目に飛び込んできたのは無骨な板作りの天井だった。
起きて、周りを見回すとそこは相も変わらず見知らぬ、と言うより、昨晩知ったばかりの部屋。
――やっぱ、夢じゃないか。
彼の目に少しばかりの諦観が混じる。
目を少し動かせば、そこには知り合いになったばかりの少女。
先程とほぼ同じ格好で、可愛らしい寝顔を晒している。
「………」
暫しその様子を見つめていたが、彼はまたも少女の頬を摘んだ。
「……………ほへ?」
少女は、まだ覚醒しきっていない頭で周りを見渡す。
そして、彼と目が合った。
「「………」」
両者に流れる、若干のデジャヴ感を含んだ沈黙。
やがて、男が再び先に言葉を発する。
「ハーイ♪」
数秒後、昨晩と寸分違わぬ光景が繰り返される事となった。
● ● ●
「あったーらしーい、あっさがきーた♪きっぼーうの、あっさーだ♪」
「……その歌止めて。二重の意味で頭に来るから」
頭に寝不足と衝撃による頭痛、顔にこの世の終わりと言った様な暗い表情をたたえ、ルイズはクリストファーと供に部屋を出る。
クリストファーはと言えば、寝起きにも拘らず相変わらずのハイテンション。二人で綺麗に躁鬱のコントラストを造っていた。
「つれないなぁ。朝からそんな暗い顔してたら幸せとかその他諸々色んな物が飛んでっちゃうよ?」
「誰のせいよ…」
どれだけ文句を言ってもこの男には通じない。それが、昨日の晩に彼女が得た唯一の情報だった。
故に、言葉で罵倒することはしない。
その分のエネルギーを、自分の中にたぎる沸々とした怒りへと溜め込む事にした。
――見てなさいよ…。
――いつか、思い知らせてやる。
そんな彼女の内情など露知らず、クリストファーは楽しそうな笑顔を顔に浮かべたまま歩く。
しかし、彼を良く知るものが今の表情を見れば、その中に少しの蔭りを見つけられただろう。
その原因は、無論今の状況。
昨日今日でしか身辺の情報は得られていないが、此処が異世界であると言う事は最早確実だ。
出来るだけ多くの事を把握しておきたい。
…彼女の様子を見れば、聞いた所で答えてくれるかも分からないが。
からかい過ぎたか、と苦笑を交えながら彼は口を開く。
「ねぇ、ルイズ…」
「おはよう。ルイズ」
彼の言葉と重なるように、背後から投げかけられる声。
振り向くと、視界に入ったのは見事な赤毛に褐色の肌、そして横の少女とは大きく対照的な身体(主に胸元)をした少女。
収まりきらないのか、それとも単にわざとかは分からないが、ブラウスのボタンを2つ外しており胸元が覗いている。
呼ばれた少女はと言えば、一瞬嫌そうに顔を顰めた後、ゆっくりと後ろを向く。
「…おはよう。キュルケ」
不愉快を隠そうともしない彼女の返事にも、そのキュルケと呼ばれた少女は何処吹く風と言った様子で二人に近づいてくる。
「あらあら、やっと目覚めたのね。あなたの使い魔」
少しの嫌味が込められたその言葉に、ルイズの顔に浮かぶ不快が深まる。
「…へぇ。ちょっとその目には驚いたけど、こうして見るとなかなかどうしていい殿方じゃない」
キュルケはクリストファーの全身を舐める様に見回し、手を差し出した。
「私は『微熱』のキュルケ。ルイズの同級生よ。よろしく」
一拍置いて、自己紹介されたと分かった彼はその手をとろうとする。
しかし、
「どうも。僕はクリストファー――」
バシリ。
乾いた音が響き、ルイズがキュルケの手を払い除けた。
「何するのよ。ルイズ」
痛む手をさすりながら、キュルケが彼女を睨む。
対してルイズも負けてたまるかとばかりに睨み返す。
「うるさいこの尻軽女!あんたがどんな男とヨロシクやろうと知ったこっちゃ無いけど、あたしの使い魔に手を出すのは止めなさいよね!」
凄い剣幕で言葉を並び立てるルイズ。
期限が悪い分、暴言にも拍車がかかる。
そんな彼女を見て、キュルケは新しい玩具を見つけた子供の様ににんまりと笑った。
「あら、えらく必死ね。まぁ、年中浮いた話の無いあなたにとっちゃ、この方が最初で最後のチャンスかもしれないものね」
「な、な、な…」
怒りと驚きで絶句したルイズの顔が、たちまち怒り一色に染まり、
「何で私がこんな無礼で!身の程知らずで!化け物みたいな奴と付き合わなきゃいけないのよー!」
そのまま、全ての感情を込めた渾身のローキックを横のクリストファーに繰り出すが、彼は片足を上げて難なくそれを避ける。
勢いづいた彼女の身体はバランスを崩し、顔から床に倒れこんだ。
「へぶっ!」
情けない声を上げる彼女を見て、キュルケは声を上げて笑う。
クリストファーも顔に浮かぶ笑みをよりいっそう深くし、口元から歯を覗かせる。
「あーっはっは!あんたってほんと見てて飽きないわよねぇ。一家に一台欲しい位だわ」
「全く同感」
笑い声を全身に浴び、痛みから回復したルイズは顔を朱に染めながらも、人を殺せそうな視線で二人を睨む。
それを軽くいなしながら、キュルケは言葉を続けた。
「心配しなくても、あなたの使い魔を寝取るほど男には不自由してないわよ」
そこで、彼女は視線を自分の背後に向ける。
「それに、あたしにはずっと立派な使い魔がいるもの。ねー、フレイムー」
すると、呼びかけに応えるかのように、マントの裏からのそりと影が現れた。
「わお」
クリストファーは思わず驚きに声を上げる。
影の正体は、牛程の大きさもある巨大なトカゲであった。そこに居るだけで、大の大人も尻尾を巻いて逃げ出しそうな威圧感を醸し出す。
異常なのは大きさだけではない。尻尾は燃え盛る炎で形作られており、口からはチロチロと舌の様に火がほとばしっている。
それが一歩踏み出すだけで、体感温度が2,3度上がる様な感覚がした。
「それ、サラマンダー?」
ルイズの声は平静を装ってはいたものの、節々から悔しさが滲み出ている。
「そーよ。やっぱり使い魔ってのはこう言うのじゃないとねぇ」
そう言うと、彼女は愛おしそうにフレイムの喉を撫でた。
サラマンダーは気持ち良さそうにゴロゴロと猫の様な声を出す。どうやら、かなり懐いているらしい。
ひとしきり使い魔を愛でた後、キュルケは颯爽と自慢の赤い髪を払い、歩を進める。
「じゃ、ルイズ。朝食でまた会いましょ?」
通りすがりにクリストファーへウィンクを決めると、そのまま廊下を歩き去っていった。
ルイズはその後姿を苦虫を噛み潰したかのような顔で眺めていたが、やがて癇癪が爆発したかのように叫んだ。
「なんでよりによってツェルプストー家の女がサラマンダーで、私は只の変な平民なのよ!」
「失敬な」
クリストファーは、まるで子供の様にむくれる。
「それに、さっきの化け物ってのも結構グサリと来たよ?」
「知るか!」
ルイズは再び足を振りかぶる。今度の狙いは股座。所謂金的である。
しかし、またもその一撃を彼は難なくかわし、結果的にルイズはサッカーで言うオーバーヘッドシュートのような体勢で転び、通算三回目となる後頭部への衝撃を味わう事となった。
「っっっ………!」
最早声も出ない程の痛みに悶絶するルイズ。
その様子を見て、彼は控えめではあるが、声を出して笑う。
それには一切の侮蔑は込められておらず、ただ可笑しさによる純粋な笑いだったが、怒り心頭の彼女はそんな細かい感情の機微など気付かない。
起き上がった彼女は、涙を堪え、唇をきつく結ぶと、彼のほうを見ようともせず半ば小走りで廊下を掛けていった。
そんな彼女の姿を見ながら、彼の表情が笑顔は笑顔でも苦笑いのそれへと変わる。
思わず邪魔が入ったせいで、更に情報が得難くなってしまった。
しかし、今回の事で分かった事が一つ。
彼は、先の騒動を思い出しながら呟く。
「……退屈する事は、無さそうかな」
そして、小さくなったルイズの背中に向かって駆けていった。
#navi(赤目の使い魔)
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