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#navi(失われた世界から新世界へ)
「多分、ここだと思うけど……」
眼鏡をかけた少年が、ドアの前で立ち止まった。彼の後ろには、ギーシュを肩に担いだモヒカンの超戦士が居た。
「多分ってな、どう言うこった」
怪訝な表情で超戦士が聞き返す。
「水の塔は、3階から6階までが医務室だからね」
そう言いながら、ドアを開ける少年。
「あ、いたいた」
室内に並ぶベッドの一つに、人が数人集まっていた。
ベッドに寝かされたルイズ、ルイズに向けて杖をかざしている教師らしき年かさのいった女、
椅子に座ってルイズの手を握るシエスタ、そして、ベッド脇の壁に背をもたせ掛けて腕組みをする金髪の超戦士。
「んじゃ、俺はこれで」
「ああ、ありがとよ」
モヒカンの超戦士の脇をすり抜けて立ち去ろうとした少年が、思いついたように足を止めた。
「ああ、それと」
「うん?」
超戦士が振り返ると、少年は指で眼鏡を押し上げて、
「こいつの事なんだけど──」
と、ギーシュを顎で示す。
「こんなんでも友達でね。イヤなヤツだけど、悪いヤツじゃないから、ね」
そう言って、少年は苦笑いした。
超戦士は、笑いもせずに淡々と答える。
「俺たちがこれ以上どうこうする事ぁねえさ。ま、お嬢ちゃんがどうするかは、知らねえがな」
その言葉に、小首を傾げ肩を竦めて応え、少年は踵を返した。
立ち去る少年の背中から、まだ白目を剥いているギーシュの顔に視線を移し、一度肩を竦めた後、超戦士は医務室に入った。
ノシノシと彼がルイズのベッドに近づいていくと、金髪の超戦士が顔を向けた。
「よう。どうだった」
相方の問いかけに、モヒカンの超戦士はニヤリと笑った。
「プレゼントがことの外気に入ったみたいでな。はしゃぎ疲れて、お休みになってるぜ」
そう言いながら、ギーシュをルイズの横のベッドに放り出す。つぶされた蛙のようなうめき声が出た。
「そいつぁ何よりだ」
苦笑いを返す金髪の超戦士。
「お嬢ちゃんは?」
真顔に戻って、モヒカンの超戦士が尋ねる。
ベッドに横たわるルイズは、苦しそうな顔をするでもなく、ただ眠っているように見える。
「心配ねえ。秘薬を使った魔法で、今夜には動けるようになるとよ」
「首の骨がやられてたのにか? 魔法ってのはすげえもんだな」
驚いたように、モヒカンの超戦士は口を開けた。
相方のその反応に、金髪の超戦士は肩を竦めて同調する。
「まったくだ。シルフィーの治療だって、こうはいかねえだろうよ」
声を立てて笑いあう二人の超戦士。
その時、ルイズが小さなうめき声を上げた。途端に声をひそめ、彼女の様子を伺う一同。
しかし、目を覚ます様子は無く、一同からため息がもれる。
「ミス・ヴァリエール……」
シエスタが、ルイズの手を握った両手を胸元に引き寄せ、祈るように目を閉じた。
それを見たモヒカンの超戦士が、怪訝な顔をして声を掛ける。
「ところで、メイドさんよ。お前さん、仕事があるんじゃないのか?」
すると、金髪の超戦士が困ったような顔をして肩を竦めた。
「俺もそう言ったんだがな……」
「私のせいなんです! 私があの時、声を掛けたから……。声を掛けなければ、よけられたかもしれないのに……。
私、ミス・ヴァリエールが完治するまで看病します! ううん、一生、一生お仕えします!」
最後の方は涙混じりになって言うシエスタ。
「……という事らしい」
やや呆れた声で、ため息混じりに金髪の超戦士が言う。
モヒカンの超戦士は、言葉に迷うようにうなった後、肩を竦めて、「ま、好きにするさ」
そう言うと、ギーシュの寝ているベッドに腰を下ろして足を組んだ。
この時、ギーシュが薄目を開けていた事には誰も気づかなかった。
ルイズが目を覚ましたのは、学生寮の窓から漏れる明かりがまばらになった頃だった。
軽くうめき声を上げて目を開いた彼女は、傍らで自分の顔を覗き込む三人に気づいて目を瞬かせた。
「な……なに?」
「良かった、気づかれたんですね!」
感極まったように言い、シエスタがルイズの手を強く握った。
「え? えーと……?」
いまだ醒めきらない目で三人の顔を順繰りに見ていくルイズ。
そんな彼女に、超戦士たちが笑顔を向けた。
「よく眠れたか? お嬢ちゃん」
「首の具合はどうだ?」
「首? ……ああ、そっか」
きょとんと丸くなっていた彼女の目が、暗く沈んだ。眉間に皺を寄せて目を瞑り、首に手をやる。
「痛むか?」
金髪の超戦士の問いに、ルイズはゆっくりと、確かめるように首を横に振る。
「痛くは……ないわ……」
「そうか、そいつぁ何よりだ。だが、しばらくはあまり無理はしない方がいいぜ」
「ああ。特に、ケンカまがいの無茶はな」
そう言って、モヒカンの超戦士がにやりと笑う。
その言葉を聞き、ルイズは閉じていた目を開いた。
「……あいつ──ギーシュは?」
「ここで寝てるぜ」
モヒカンの超戦士が一歩横に動き、後ろのベッドに顎をしゃくって見せた。そこには、放り出された時の
格好のまま、ギーシュが横たわっていた。
それを見とめると、ルイズは驚いたような顔になった。
「どうして……?」
「遊び疲れちまったみてえだな」
ひょいと肩を竦めて、モヒカンの超戦士が言う。
「はあ?」
困惑を顔に出して、ルイズが呆けた声を出す。
「使い魔さんがやっつけてくれたんです!」
そう言うなり、シエスタはルイズの手を離し、弾かれたように立ち上がった。
「ミス・ヴァリエール! 私、その、申し訳ございませんでした!」
そして深々と頭を下げる。
「え? え?」
ルイズの顔の困惑の色がさらに濃くなる。
「私が不躾に声を掛けたばかりに、ミス・ヴァリエールに大怪我をさせてしまって……。庇って頂いた恩も
あるのに……」
ガバッと体を起こすと、今度は跪いて祈るように手を組む。
「どのような罰でもお受けします! どうか私を罰してください! そして、もしお許し頂けるのならば、
お仕えさせてください! ミス・ヴァリエールに生涯尽くします!」
そう涙ながらに訴えるのだった。
「ちょ、ちょっと待って……」
相変わらず困惑した顔のまま体を起こしたルイズは、制するように片手を挙げ、もう一方の手を額に
やって目を瞑った。時折小さく頷きながら黙考していた彼女だったが、ようやく目を開けると、まず
超戦士たちに厳しい視線を向けた。
「あんたたち、貴族に手を出したの?」
ひょいと肩を竦めて小首を傾げるモヒカンの超戦士。
ルイズの眉間に皺が寄り、口が開いた。
「あのねぇ──」
「私のせいなんです!」
「ちょ──」
超戦士たちに小言を言おうとしたルイズにかじり付くように、シエスタが身を乗り出した。思わず
のけぞるルイズ。
「使い魔さんたちは何も悪くありません! 罰するなら私を、どうか私を打ってください!」
「お、落ち着きなさいよ、あんた!」
涙を飛び散らせながら迫るシエスタに、顔を引きつらせながら押し返すルイズ。
二人がそんな押し問答をしていると、医務室の扉が開けられた。
「騒がしいですぞ。医務室では静かになさい」
そう言いながら、コルベールがルイズのベッドに歩み寄る。
それまで泣き喚いてベッドにのしかかっていたシエスタが、さっと身を引いて控えた。
「怪我の具合はどうですか、ミス・ヴァリエール」
ベッドサイドに立ってそう尋ねるコルベールに、ルイズは沈んだ声で応える。
「障りありません。ご心配をおかけしました」
うん、と一つ頷いて、中年の教諭は眼鏡を掛け直した。
「では、今回の件について処分が決まりましたので、申し渡します」
ルイズが唇を引き締める。
「ミス・ヴァリエール、ミスタ・グラモンの両名に、固く禁じられている決闘行為に及んだ罰則として、
三日間の謹慎処分を課します。それに加え、ミス・ヴァリエールについては、使い魔が貴族に対して
危害を与えた事による罰則として、七日間の謹慎処分を課します。今後、風紀を乱す行為を厳に慎み、
使い魔の管理を徹底すること。以上」
「寛大な処置に感謝すると共に、このような不祥事を起こした事を心から謝罪し、深く反省いたします」
目を瞑って胸元に手を当て、深く頭を下げるルイズ。
それを見てもう一度頷き、コルベールは踵を返した。
「ちょいと待ってくれ」
ドアに向かって歩き始めた教諭を呼び止めたのは、モヒカンの超戦士だった。その顔には、困惑の色が
あった。
「この坊やに手を出したのは俺だぜ? なんで俺はお咎め無しでお嬢ちゃんが罰を受けるんだ」
足を止め、振り返るコルベール。こほん、と咳払いをして、彼は話し始めた。
「使い魔の手柄は主人の手柄、使い魔の不始末は主人の不始末、という事です。このトリステイン、いえ、
ハルケギニアでは、使い魔の賞罰はそのまま主人の賞罰となります」
モヒカンの超戦士が盛大に舌打ちした。
「余計な事しちまったって事かよ」
「そう言う事よ。謹慎七日間なんて、軽いほうだわ。下手すればあんた、打ち首になってたかも
知れないのよ?」
刺々しくそう言って、ルイズが睨む。
「悪かった。謝るぜ」
「早いとこ、ここの水に慣れねえとな。お嬢ちゃんに迷惑を掛けちまう。荒事ばかりやって来た根無し
草にゃ、ここの澄んだ水は上等すぎて気後れしちまうが」
重くなった空気を変えるようにそう言い、金髪の超戦士はコルベールに声を掛けた。
「ところで、コルベールさんよ。俺たちの事を調べると言ってたが、何か分かったか?」
「ええ! それがですな──」
顔を輝かせてそこまで言ったコルベールだったが、そこではたと口をつぐみ、ばつの悪そうな顔に
なって咳払いした。
「ゴホン……えー、いえ、残念ですが、これと言って何も、と言いますか、えー……」
怪訝な顔をする超戦士たちの視線を避けるように泳ぐコルベールの目が、シエスタを捉えた。
「あ、ああ! 君、君はシエスタですな?」
突然声を掛けられ、目を丸くしながらも、シエスタが返事をする。
「は、はい」
「メイド長が君の事を探していましたぞ。早く戻った方がよろしい」
シエスタの顔から、音を立てて血の気が引いた。口元に手を当て、よろめく。
「おっと、どうした?」
金髪の超戦士が、そのまま倒れそうな彼女の肩を掴んで支えた。
コルベールがしかつめらしい顔つきで首を振る。
「いやぁ、あのメイド長は厳しいことで有名ですからな。君が無断で仕事を抜けた事に、相当お冠の
様子でしたよ」
そう言ってから、彼はわざとらしく笑顔を作った。
「ですが、話の分からない人ではない。君にも事情があるようですから、私からとりなしてあげましょう。
ささ、行きますぞ」
これで話は終わった、とばかりに踵を返し、コルベールは足早にドアに向かった。いまだに顔色の
戻らないシエスタも、慌てたように後を追う。しかし、あ、と小さく声を出して振り返ると、ルイズに向かって
深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした。失礼いたします」
部屋を出てドアを閉める際にもう一度深く頭を下げ、シエスタは去っていった。
「……変な子」
遠のいて行く足音を聞きながら、ルイズがポツリと呟いた。
「責任感があるんだろ。いい事さ」
「ま、ちょいと思い込みが激しすぎるがな」
ニヤリと笑ってモヒカンの超戦士が言うのへ、ルイズが睨みを飛ばす。たじろいだように、超戦士が
口をへの字にして肩を竦めた。
深く大きなため息をつき、ルイズは毛布を払ってベッドから降りた。
「部屋に戻るわ」
そう言いながら、靴を探すために下げていた視線を戻した彼女は、隣のベッドを見て動きを止めた。
ギーシュは、寝息すらほとんど立てずに横たわっている。
「……こいつの怪我は?」
ルイズの視線を追ってギーシュを振り返ったモヒカンの超戦士は、ルイズに向き直ると口元に笑みを
浮かべて言った。
「心配ねえ。ちょっとしたむち打ちだ。そいつは医者が治療して、今はただ寝てるだけさ」
「そう……」
答えを聞く間も、ルイズはギーシュから視線を外さない。口を引き結び、拳を握る。
「どうするんだ? 横槍が入っちまって、決着はまだついてねえだろう」
彼女の緊張した様子に、金髪の超戦士がそんな風に水を向けた。
ルイズは彼に目を向けたが、何も言わずに顔をそらし、窓を見た。
「決着はついたわよ。わたしの負け。あの時、あんたたちが来なかったとしても……」
「……そうかい。ま、お嬢ちゃんが納得してんなら、それでいいやな」
つづく
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