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「使い魔は紅き薔薇‐03」(2009/09/26 (土) 16:15:15) の最新版変更点
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#navi(使い魔は紅き薔薇)
学院まで移動する時、真紅は歩きたがらなかった。
しかしルイズは抱く気にもならず放って行けば、真紅との距離は離れて行く。
一歩一歩の歩幅が違うのだ。
なので仕方なく抱く。
その抱き方も、単に人形を抱くものではなく上品に。
周囲からの妙な目線に耐えつつも自分の部屋に着き、一息を入れた後である。
「ルイズ」
椅子に座るルイズに真紅が声をかけた。
「何よ、言っておくけど寝床はそこよ」
そう言って指差すのは藁を敷いた場所。
本来ならばそこに、フクロウや猫や蛇、良ければグリフォンやサラマンダーなどの使い魔が眠るはずだった。
だが召喚したのは、大きさ以外は人間とほぼ同じと言っても過言ではない真紅である。
――だからって、『使い魔』である限りは変えないわ。
ルイズは思う。
藁の束を見て、真紅は言う。
「レディをあんな所で寝させるつもりなの、おまえは?
私が言いたいのはそんな事ではないわ」
そう言いながら真紅はルイズの向かいにある椅子に座る。
『座る』と一言で言っても、ルイズには簡単だが真紅には多少難しい話だ。
難儀そうに座る真紅を見て、ルイズは一瞬笑いかける。
だが、止めた。
直後に真紅が、『何か問題でもあったかしら』と言わん限りの目線を送ったからである。
「紅茶」
「紅茶が何よ」
怪訝そうに真紅を見る。
だがそんなルイズなどお構い無しに真紅は、
「紅茶を淹れなさい」
と、あっさりと言った。
「貴族である私に使い魔の分際で命令だなんて無礼ね。
でも私も紅茶が飲みたいわ。
こういうのはあんたみたいな使い魔の仕事よ、行ってきなさい」
ルイズに淹れるつもりは全く無い。
使用人を探す気すら無い。
「使い魔の仕事は、
主の目となり耳となり、主の望む秘薬を持って来、そして主を護る事とはっきり言ったわ。
それにおまえは、私のしもべでもあるのよ」
「あんたは私の使い魔じゃない!」
「おまえは私のしもべよ」
両者に譲るつもりは無い。
どちらにもプライドはあるのだ、他人から命令されるなど論外。
しかし、そこらを歩いている使用人に命令すれば良いだけの話。
だが『使用人に命令する』という命令をどちらが出すかの問題である。
ルイズにとっても、相手が平民ならば容易に命令をしていた。
真紅にとっても同じ。
そこらに居る様な、ただの少年ならば容易である。
だが相手は貴族然としている。
そして、他人に命令され使役されるのを是としない。
「あのね、貴族に命令出来るのは王族くらいなものなのよ。
愚かな平民は貴族に従う、これは絶対よ」
「なら平民にそうしなさい。
でも私は平民ではないわ、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール」
「でも、あんたは使い魔なのよ!」
「そしておまえは私のしもべ。
……この関係は対等なものよ。
私はおまえの使い魔でありおまえは私のしもべである。
どちらも主でどちらも使役される者、とても対等だわ」
「……っ!」
真実だ。
ルイズはそれを確かに受け入れている。
はっきりとは認められなかったが。
「そうね、言うなればこれは『主人』と『客人』の関係。
ルイズ、おまえは自分が呼んだ客人に『お前が紅茶を淹れろ』と命令するのかしら?」
「そんな事、するはずが無いわ!」
父や母、姉二人の客人にそんな無礼な真似は出来ない。
それは貴族としての品位と、教養を疑われてしまう行為だから。
「そう。
私は、その『客人』。 おまえは『主人』。
主人は、客人をもてなし客人は主人の手際を誉めて認めるもの。
どちらも対等でありながらお互いを高めあう関係こそが、私達の関係でなければならないわ」
「……」
ルイズは考える。
真紅の述べる『主人』と『客人』の関係。
お互いを高めあい、内心どうあれお互いを下に置く事は決して無い。
主人と使い魔という上下関係は築けずとも、対等の関係ならば無益に貶めあう事は無くなる。
理想ではないが、最低でもない。
プライドの高いルイズとしては、受け入れ難くもない話だった。
「…………分かったわ。
あんた……貴女がそう言うなら、そうするわ。 真紅。
私達は対等な関係よ」
ルイズは笑む。
同様に、真紅も笑む。
「ご理解いただけて嬉しいわ。 ルイズ」
二人の間に、一瞬だが火花は散った。
対等な関係は認めるが、それをいつまでも行うつもりはない。
二人の笑みによる交戦が終わった後、真紅が口を開いた。
「それで、ルイズ。
紅茶はまだかしら?」
「そうね、使用人に淹れさせるわ」
ルイズは椅子から立つ。
「九十五℃以上で抽出して、ミルクも付けてくださるかしら?」
「分かったわ」
そう言って、ルイズは部屋を出た。
使用人に命令する為に。
――……これは『命令』じゃないわ、招いた主人としての『義務』よ。
そう、自分を納得させながら。
ルイズが部屋を出た後、真紅は一人になった。
……否、正確には一人ではない。
椅子から降りると、部屋の中を歩く。
真紅が立ち止まったのは、ルイズのベッドに置かれた人形。
よく出来たものだ。
家族からのプレゼントだろうか。
少し豪華な飾りの付いた、ドレスを纏う人形。
大切に扱われているのが、一目で分かる。
――悪い子ではないみたいね。
人形が告げるルイズを聞いて真紅は思う。
ルイズは努力家だ。
人の何倍もの努力をし、座学ではトップ近くで居る。
その知識に敵う生徒は数少ないだろう。
家柄、教養、知識。
これらは完璧だ。
だが、ルイズにはたった一つ欠けているものがある。
ルイズは魔法を使う事が出来ない。
魔法を使えない貴族は貴族ではない。
それをバカにされ、愚弄され、影では本当は平民の子ではないかと嘲笑され。
夜に一人、ベッドの中で悔しさに泣いて枕と人形を濡らす。
誰も知らなくても、人形は知っている。
ルイズの事を、とても良く。
それを理解した真紅は、微笑む。
そして窓から見える二つの月を見る。
「……月が二つなんて、変わっているわ」
nのフィールドならば分かるが、此処は現実。
月が二つあるなど、真紅は知らない。
月の光を浴びながら、真紅は呟く。
「……どの姉妹が、目覚めているのかしら」
アリスゲーム。
それは七のドールが争うもの。
ローザミスティカを巡る、争い。
真紅の他に目覚めているドールは何処かに居るはずだった。
ルイズが真紅を召喚するより何年も前に、彼女は召喚され、ネジを巻かれていた。
「おぉ……お前が、神の左腕! ガンダールヴ!」
彼女を召喚した男、ガリア王ジョゼフが子供の様に興奮した声をあげる。
まるで、演劇であるかの様な大げさな手振りと共に。
彼女は思う。
変な人だと。
だが、それでも構わない。
彼が彼女のマスター。
彼女はマスターに従う。
「はは、ははははは!!」
狂うかの様な声。
「虚無! 虚無か!
始祖ブリミルより継ぎし力!」
一頻り哄笑。
そして笑い終わった、ジョゼフは思考を巡らせる。
水の精霊より奪ったアンドバリの指輪。
これを、あの坊主に与えてやろう。
そしてハルキゲニアに混乱をもたらそう。
まずは、あの国、アルビオンから。
アルビオン国王が、自らの弟である大公を処刑した為に貴族達は不安を抱いている。
そこを刺激してやろう。
無能な王達は対処出来まい、なにせメイジが裏切るのだから。
掲げる理想は『聖地奪還』。
国力が低下しているトリスティンに、常に浮遊しているアルビオンを助ける術は無く、いずれあの枢機卿がトリスティン王女とゲルマニア皇帝との婚姻を結ぼうとするだろう。
最初は小さな火種。
だがやがては、大きな大きな火災となる。
アルビオンがどうなった所で、ジョゼフにはどうでもいい。
あの坊主を皇帝にでもしよう。
「――そう、組織名は」
レコン・キスタ。
聖地奪還を掲げる者達。
「ガンダールヴよ、アルビオンに行ってもらうぞ。
あくまでも、あの坊主の補佐として」
「はい、マスター」
彼女は言う。
「騒ぎに誘き寄せられお前の姉妹だとかいう者も現れよう。
さすれば、『お父様』に会えるというお前の悲願も叶うのだろう? 我が、蒼き薔薇よ」
「マスター。
あなたが望むなら」
彼女は一礼をする。
肩より上に揃えた茶色の髪に、蒼い服。
その瞳は、赤と緑。
彼女、ローゼンメイデンが第四ドール。
左手に刻まれたるは、ガンダールヴのルーン。
その名を、蒼星石という。
これは、ルイズが真紅を召喚するより前の事。
そして、アルビオンが二つに分かれるより前の事。
#navi(使い魔は紅き薔薇)
#navi(使い魔は紅き薔薇)
学院まで移動する時、真紅は歩きたがらなかった。
しかしルイズは抱く気にもならず放って行けば、真紅との距離は離れて行く。
一歩一歩の歩幅が違うのだ。
なので仕方なく抱く。
その抱き方も、単に人形を抱くものではなく上品に。
周囲からの妙な目線に耐えつつも自分の部屋に着き、一息を入れた後である。
「ルイズ」
椅子に座るルイズに真紅が声をかけた。
「何よ、言っておくけど寝床はそこよ」
そう言って指差すのは藁を敷いた場所。
本来ならばそこに、フクロウや猫や蛇、良ければグリフォンやサラマンダーなどの使い魔が眠るはずだった。
だが召喚したのは、大きさ以外は人間とほぼ同じと言っても過言ではない真紅である。
――だからって、『使い魔』である限りは変えないわ。
ルイズは思う。
藁の束を見て、真紅は言う。
「レディをあんな所で寝させるつもりなの、おまえは?
私が言いたいのはそんな事ではないわ」
そう言いながら真紅はルイズの向かいにある椅子に座る。
『座る』と一言で言っても、ルイズには簡単だが真紅には多少難しい話だ。
難儀そうに座る真紅を見て、ルイズは一瞬笑いかける。
だが、止めた。
直後に真紅が、『何か問題でもあったかしら』と言わん限りの目線を送ったからである。
「紅茶」
「紅茶が何よ」
怪訝そうに真紅を見る。
だがそんなルイズなどお構い無しに真紅は、
「紅茶を淹れなさい」
と、あっさりと言った。
「貴族である私に使い魔の分際で命令だなんて無礼ね。
でも私も紅茶が飲みたいわ。
こういうのはあんたみたいな使い魔の仕事よ、行ってきなさい」
ルイズに淹れるつもりは全く無い。
使用人を探す気すら無い。
「使い魔の仕事は、
主の目となり耳となり、主の望む秘薬を持って来、そして主を護る事とはっきり言ったわ。
それにおまえは、私のしもべでもあるのよ」
「あんたは私の使い魔じゃない!」
「おまえは私のしもべよ」
両者に譲るつもりは無い。
どちらにもプライドはあるのだ、他人から命令されるなど論外。
しかし、そこらを歩いている使用人に命令すれば良いだけの話。
だが『使用人に命令する』という命令をどちらが出すかの問題である。
ルイズにとっても、相手が平民ならば容易に命令をしていた。
真紅にとっても同じ。
そこらに居る様な、ただの少年ならば容易である。
だが相手は貴族然としている。
そして、他人に命令され使役されるのを是としない。
「あのね、貴族に命令出来るのは王族くらいなものなのよ。
愚かな平民は貴族に従う、これは絶対よ」
「なら平民にそうしなさい。
でも私は平民ではないわ、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール」
「でも、あんたは使い魔なのよ!」
「そしておまえは私のしもべ。
……この関係は対等なものよ。
私はおまえの使い魔でありおまえは私のしもべである。
どちらも主でどちらも使役される者、とても対等だわ」
「……っ!」
真実だ。
ルイズはそれを確かに受け入れている。
はっきりとは認められなかったが。
「そうね、言うなればこれは『主人』と『客人』の関係。
ルイズ、おまえは自分が呼んだ客人に『お前が紅茶を淹れろ』と命令するのかしら?」
「そんな事、するはずが無いわ!」
父や母、姉二人の客人にそんな無礼な真似は出来ない。
それは貴族としての品位と、教養を疑われてしまう行為だから。
「そう。
私は、その『客人』。 おまえは『主人』。
主人は、客人をもてなし客人は主人の手際を誉めて認めるもの。
どちらも対等でありながらお互いを高めあう関係こそが、私達の関係でなければならないわ」
「……」
ルイズは考える。
真紅の述べる『主人』と『客人』の関係。
お互いを高めあい、内心どうあれお互いを下に置く事は決して無い。
主人と使い魔という上下関係は築けずとも、対等の関係ならば無益に貶めあう事は無くなる。
理想ではないが、最低でもない。
プライドの高いルイズとしては、受け入れ難くもない話だった。
「…………分かったわ。
あんた……貴女がそう言うなら、そうするわ。 真紅。
私達は対等な関係よ」
ルイズは笑む。
同様に、真紅も笑む。
「ご理解いただけて嬉しいわ。 ルイズ」
二人の間に、一瞬だが火花は散った。
対等な関係は認めるが、それをいつまでも行うつもりはない。
二人の笑みによる交戦が終わった後、真紅が口を開いた。
「それで、ルイズ。
紅茶はまだかしら?」
「そうね、使用人に淹れさせるわ」
ルイズは椅子から立つ。
「九十五℃以上で抽出して、ミルクも付けてくださるかしら?」
「分かったわ」
そう言って、ルイズは部屋を出た。
使用人に命令する為に。
――……これは『命令』じゃないわ、招いた主人としての『義務』よ。
そう、自分を納得させながら。
ルイズが部屋を出た後、真紅は一人になった。
……否、正確には一人ではない。
椅子から降りると、部屋の中を歩く。
真紅が立ち止まったのは、ルイズのベッドに置かれた人形。
よく出来たものだ。
家族からのプレゼントだろうか。
少し豪華な飾りの付いた、ドレスを纏う人形。
大切に扱われているのが、一目で分かる。
――悪い子ではないみたいね。
人形が告げるルイズを聞いて真紅は思う。
ルイズは努力家だ。
人の何倍もの努力をし、座学ではトップ近くで居る。
その知識に敵う生徒は数少ないだろう。
家柄、教養、知識。
これらは完璧だ。
だが、ルイズにはたった一つ欠けているものがある。
ルイズは魔法を使う事が出来ない。
魔法を使えない貴族は貴族ではない。
それをバカにされ、愚弄され、影では本当は平民の子ではないかと嘲笑され。
夜に一人、ベッドの中で悔しさに泣いて枕と人形を濡らす。
誰も知らなくても、人形は知っている。
ルイズの事を、とても良く。
それを理解した真紅は、微笑む。
そして窓から見える二つの月を見る。
「……月が二つなんて、変わっているわ」
nのフィールドならば分かるが、此処は現実。
月が二つあるなど、真紅は知らない。
月の光を浴びながら、真紅は呟く。
「……どの姉妹が、目覚めているのかしら」
アリスゲーム。
それは七のドールが争うもの。
ローザミスティカを巡る、争い。
真紅の他に目覚めているドールは何処かに居るはずだった。
ルイズが真紅を召喚するより何年も前に、彼女は召喚され、ネジを巻かれていた。
「おぉ……お前が、神の左腕! ガンダールヴ!」
彼女を召喚した男、ガリア王ジョゼフが子供の様に興奮した声をあげる。
まるで、演劇であるかの様な大げさな手振りと共に。
彼女は思う。
変な人だと。
だが、それでも構わない。
彼が彼女のマスター。
彼女はマスターに従う。
「はは、ははははは!!」
狂うかの様な声。
「虚無! 虚無か!
始祖ブリミルより継ぎし力!」
一頻り哄笑。
そして笑い終わった、ジョゼフは思考を巡らせる。
水の精霊より奪ったアンドバリの指輪。
これを、あの坊主に与えてやろう。
そしてハルキゲニアに混乱をもたらそう。
まずは、あの国、アルビオンから。
アルビオン国王が、自らの弟である大公を処刑した為に貴族達は不安を抱いている。
そこを刺激してやろう。
無能な王達は対処出来まい、なにせメイジが裏切るのだから。
掲げる理想は『聖地奪還』。
国力が低下しているトリスティンに、常に浮遊しているアルビオンを助ける術は無く、いずれあの枢機卿がトリスティン王女とゲルマニア皇帝との婚姻を結ぼうとするだろう。
最初は小さな火種。
だがやがては、大きな大きな火災となる。
アルビオンがどうなった所で、ジョゼフにはどうでもいい。
あの坊主を皇帝にでもしよう。
「――そう、組織名は」
レコン・キスタ。
聖地奪還を掲げる者達。
「ガンダールヴよ、アルビオンに行ってもらうぞ。
あくまでも、あの坊主の補佐として」
「はい、マスター」
彼女は言う。
「騒ぎに誘き寄せられお前の姉妹だとかいう者も現れよう。
さすれば、『お父様』に会えるというお前の悲願も叶うのだろう? 我が、蒼き薔薇よ」
「マスター。
あなたが望むなら」
彼女は一礼をする。
肩より上に揃えた茶色の髪に、蒼い服。
その瞳は、赤と緑。
彼女、ローゼンメイデンが第四ドール。
左手に刻まれたるは、ガンダールヴのルーン。
その名を、蒼星石という。
これは、ルイズが真紅を召喚するより前の事。
そして、アルビオンが二つに分かれるより前の事。
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