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「ゼロのメイジと赤の女王‐02」(2009/09/14 (月) 19:23:05) の最新版変更点
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「・・・・・・非常識は大分見てきたと思ったけれど、人間が騎獣にも乗らず空を飛んでいるのを見たのは、流石に初めてだな・・・」
陽子はほとんど呆れたようにひとりごちた。数十の人間が身ひとつで宙を駆る姿は、なかなかどうして大したものだった。
あれからコルベールとふたりがかりで必死にルイズをなだめにかかったが、こんな細い少女のどこにこれほどの力があるのだろうと不思議に思うほど、彼女は怒り狂っていた。
やっと落ち着かせてみれば授業時間が過ぎているどころか、日が傾き始めていた。
コルベールが疲れたように解散を云い渡し、待ちくたびれた少年少女はルイズを口々に罵り、あるいは嘲笑って遠くに見える石造りの城のほうへ飛び去っていった。
「・・・私たちも行くわよ」
ルイズは頭上をゆく彼らを力いっぱい睨みつけながらさっさと同じ方向へと歩き出す。
「色々と聞きたいことがあるわ。歩きながら答えなさい」
陽子は溜め息を吐いてその後を追う。どうやら他に選択肢はなさそうである。
「わかった。・・・わたしもあなたに色々と聞きたい」
ルイズは振り向きもせずにすたすたとひたすら前を睨みつけて早足に歩く。とはいえ身長に大分差があるので陽子にその歩調はさほど速いというわけでもなかったが。
「・・・・・・あんた、なんで来たの?」
「なんで、って・・・」
低い声に本気で怒っていることを感じ取り、しかしこの少女がなぜそこまで怒っているのかわからずに陽子は困惑する。
ひとまずさっきの失敗から学んだ彼女は、質問に答えようと宙を睨み、ここに来る前のことを思い返す。
「・・・街を、歩いていたんだ。探検のつもりで、知らない道を歩いていたら、袋小路にあって。引き返そうとして、・・・そうしたら、鏡があったんだ」
毎日毎日目の回る忙しさの中、ひさびさにぽっかりと執務の手の空いた時間。
ここしばらく机に縛り付けられてうんざりとしていた陽子はその機を逃さず、隣国の王よろしく書置きを置いて金波宮を飛び出した。
簡素な袍を身に着けた陽子を王とわかるものはいない。
しばらくぶりに晴れやかな気持ちで活気のある首都の街の散策を楽しんでいたが、あんまり横道に入り込みすぎたらしく、行き止まりにかち合った。
苦笑いして引き返したとき、そこについ今までなかった姿見のようなものがあるのを見つけた。
少しだけ驚き、次いで訝り、冗祐の知識にもないこの鏡がなんであるのか、人に害をなすものであるならば始末しなければとそっと手を伸ばし、
「・・・ああそうだ、そうしたら突然すごい力で引っ張り込まれて、気がついたらあの草原にいたんだ。なんだったんだろう、あの鏡は?」
そうだったと陽子が手を打ちながらそう云えば、ルイズは深く、深く息を吐いた。
「・・・・・・・・・召喚のゲートよ」
「え?」
「私が召喚の魔法を使ったの。それでゲートがあんたのいたところとつながった。それをくぐって、あんたがきちゃったのよ」
「・・・あれが」
陽子の中で、ルイズに劣らず深い息を吐いた気配が伝わった。
(・・・ですから、危ないのでおやめくださいと申し上げましたのに)
(・・・うん、まあ、・・・ごめん)
そのままお説教に移りそうな気配だったので陽子は慌てて前を行くルイズに話しかける。
「えっと、召喚のゲートって云ったね?あなたは何を召喚する気だったの?」
「・・・少なくとも、あんたみたいなのじゃないことだけは確かよ!!」
ルイズは立ち止まり振り返ると、感情のままに絶叫した。しまったこちらも地雷だったか――――。少し後悔したがもう遅い。
「なんであんたがのこのこ召喚されたのよ!私はヴァリエール家の三女!旧く由緒正しい誇りやかな血筋の私が、なんであんたみたいなのを使い魔にしなくちゃなんないのよ!
私は確かに使い魔を呼んだけど、あんたを呼びたかった訳じゃないわ!あんたみたいな平民だったらネズミが召喚されたほうがずっとマシよ!
ううんマシどころじゃないわ、そのほうがずっと良かった!!」
大分酷いことを云われているはずだったが、陽子はルイズに対して腹を立てることができなかった。
きっと睨みつけるルイズの大きな瞳には涙が浮かんでいる。
声は怒りよりも悔しみよりも、哀しさがずっと勝っていた。両手は硬く握り締められ最早白くなっている。
ぶるぶると身体を怒りでふるわせ、肩で息をしながらもつよくつよく睨みつけるその姿は、泣き出す寸前のおさなごや、絶望し果てた人間の姿にとてもよく似ていた。
陽子は悟る。
――――そうして怒っていないと、この少女はひとりで立つこともできないのだ。
・・・しばらく、両者無言のまま時が流れる。
「・・・・・・・・・」
ルイズはしばらく陽子を睨みつけていたが、ふいと踵を返して城へと歩き出した。もう言葉はない。
陽子も口を開かぬまま、徒歩には少し遠い道のりをもくもくと歩いていった。
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#navi(ゼロのメイジと赤の女王)
「・・・・・・非常識は大分見てきたと思ったけれど、人間が騎獣にも乗らず空を飛んでいるのを見たのは、流石に初めてだな・・・」
陽子はほとんど呆れたようにひとりごちた。数十の人間が身ひとつで宙を駆る姿は、なかなかどうして大したものだった。
あれからコルベールとふたりがかりで必死にルイズをなだめにかかったが、こんな細い少女のどこにこれほどの力があるのだろうと不思議に思うほど、彼女は怒り狂っていた。
やっと落ち着かせてみれば授業時間が過ぎているどころか、日が傾き始めていた。
コルベールが疲れたように解散を云い渡し、待ちくたびれた少年少女はルイズを口々に罵り、あるいは嘲笑って遠くに見える石造りの城のほうへ飛び去っていった。
「・・・私たちも行くわよ」
ルイズは頭上をゆく彼らを力いっぱい睨みつけながらさっさと同じ方向へと歩き出す。
「色々と聞きたいことがあるわ。歩きながら答えなさい」
陽子は溜め息を吐いてその後を追う。どうやら他に選択肢はなさそうである。
「わかった。・・・わたしもあなたに色々と聞きたい」
ルイズは振り向きもせずにすたすたとひたすら前を睨みつけて早足に歩く。とはいえ身長に大分差があるので陽子にその歩調はさほど速いというわけでもなかったが。
「・・・・・・あんた、なんで来たの?」
「なんで、って・・・」
低い声に本気で怒っていることを感じ取り、しかしこの少女がなぜそこまで怒っているのかわからずに陽子は困惑する。
ひとまずさっきの失敗から学んだ彼女は、質問に答えようと宙を睨み、ここに来る前のことを思い返す。
「・・・街を、歩いていたんだ。探検のつもりで、知らない道を歩いていたら、袋小路にあって。引き返そうとして、・・・そうしたら、鏡があったんだ」
毎日毎日目の回る忙しさの中、ひさびさにぽっかりと執務の手の空いた時間。
ここしばらく机に縛り付けられてうんざりとしていた陽子はその機を逃さず、隣国の王よろしく書置きを置いて金波宮を飛び出した。
簡素な袍を身に着けた陽子を王とわかるものはいない。
しばらくぶりに晴れやかな気持ちで活気のある首都の街の散策を楽しんでいたが、あんまり横道に入り込みすぎたらしく、行き止まりにかち合った。
苦笑いして引き返したとき、そこについ今までなかった姿見のようなものがあるのを見つけた。
少しだけ驚き、次いで訝り、冗祐の知識にもないこの鏡がなんであるのか、人に害をなすものであるならば始末しなければとそっと手を伸ばし、
「・・・ああそうだ、そうしたら突然すごい力で引っ張り込まれて、気がついたらあの草原にいたんだ。なんだったんだろう、あの鏡は?」
そうだったと陽子が手を打ちながらそう云えば、ルイズは深く、深く息を吐いた。
「・・・・・・・・・召喚のゲートよ」
「え?」
「私が召喚の魔法を使ったの。それでゲートがあんたのいたところとつながった。それをくぐって、あんたがきちゃったのよ」
「・・・あれが」
陽子の中で、ルイズに劣らず深い息を吐いた気配が伝わった。
(・・・ですから、危ないのでおやめくださいと申し上げましたのに)
(・・・うん、まあ、・・・ごめん)
そのままお説教に移りそうな気配だったので陽子は慌てて前を行くルイズに話しかける。
「えっと、召喚のゲートって云ったね?あなたは何を召喚する気だったの?」
「・・・少なくとも、あんたみたいなのじゃないことだけは確かよ!!」
ルイズは立ち止まり振り返ると、感情のままに絶叫した。しまったこちらも地雷だったか――――。少し後悔したがもう遅い。
「なんであんたがのこのこ召喚されたのよ!私はヴァリエール家の三女!旧く由緒正しい誇りやかな血筋の私が、なんであんたみたいなのを使い魔にしなくちゃなんないのよ!
私は確かに使い魔を呼んだけど、あんたを呼びたかった訳じゃないわ!あんたみたいな平民だったらネズミが召喚されたほうがずっとマシよ!
ううんマシどころじゃないわ、そのほうがずっと良かった!!」
大分酷いことを云われているはずだったが、陽子はルイズに対して腹を立てることができなかった。
きっと睨みつけるルイズの大きな瞳には涙が浮かんでいる。
声は怒りよりも悔しみよりも、哀しさがずっと勝っていた。両手は硬く握り締められ最早白くなっている。
ぶるぶると身体を怒りでふるわせ、肩で息をしながらもつよくつよく睨みつけるその姿は、泣き出す寸前のおさなごや、絶望し果てた人間の姿にとてもよく似ていた。
陽子は悟る。
――――そうして怒っていないと、この少女はひとりで立つこともできないのだ。
・・・しばらく、両者無言のまま時が流れる。
「・・・・・・・・・」
ルイズはしばらく陽子を睨みつけていたが、ふいと踵を返して城へと歩き出した。もう言葉はない。
陽子も口を開かぬまま、徒歩には少し遠い道のりをもくもくと歩いていった。
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