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「赤目の使い魔-01」(2009/09/21 (月) 23:45:19) の最新版変更点
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雲ひとつ無い空、まさしく晴天の天気の下で、おおよそ似つかわしくない爆発音が響く
音源は、荘厳な造りの、西洋の王城を思わせる建築物。
しかし、それは城ではなくれっきとした『学校』であった。
名を、トリステイン魔法学院。その名の通り、魔術の教育を行う場である
今も、その建物の中では授業が行われている。それも、今後の成績、学校生活、ひいては人生さえも大きく左右する内容のものが。
そこに再び響く爆発音。
生徒が一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの、通算12回目の「サモン・サーヴァント」失敗であった。
#center{● ● ●}
「………ぅぅぅぅぅうううううううっ!」
もうもうと立ち込める煙の中、桃色の髪を振り乱し、童顔の美少女ルイズは、その容貌に不似合いな癇癪を起こし、人目もはばからず歯噛みし、地団太を踏む。
彼女の視線の先、いち早く煙が晴れた爆発の中心には、前後で変わらず何も無い。それは、「サモン・サーヴァント」の失敗を如実に表していた。
その様子を見て、担当教師であるジャン・コルベールはかぶりを振る。
「ミス・ヴァリエール。残念だが、今日はここまでとしよう」
口調は諭すように優しいものであったが、それを聞いたルイズはびくりと体を震わせて、必死に食い下がる。
「そんな!お、お願いですミスタ・コルベール!どうか、続けさせてください!」
その必死な様子に周りの生徒から失笑が漏れるが、気にしている余裕は無い。
ほかの生徒が皆使い魔を連れている中、たった一人でいる自分へ向けられるだろう嘲り、侮蔑を思えば、何倍もマシだった。
「時間も押している。それに、他の方達のことも考えるんだ」
彼の言うとおり、最初こそ生徒たちもルイズが失敗をするたびに、馬鹿にした笑い声を上げていたが、
五回目を超えたあたりからそれらも成りを潜め、顔に浮かんでいた嘲笑も、十回目を越える頃には単調な場景に対する辟易としたものへと変わっていた。
しかし、ルイズも引くわけにはいかない。
「お願いです……、どうか、後一回だけ…」
懇願するような彼女の様子を見て、コルベールは困ったように唸る。
彼とて、このまま彼女だけを未遂のまま終わらせるのは忍びない。
しかし、教師としての責務も軽々しく無視するわけにはいかない。
しばらく、彼は俯いて考えていたが、
「……これで最後だよ。必ず成功させなさい」
結局、天秤は生徒への情の方に傾いたらしい。
「は、はい!」
顔を輝かせて返事をするや否や、ルイズは直ぐに真剣な面持ちで魔方陣へと向き直る。
ワンチャンス。そう自分に言い聞かせ、彼女は大きく深呼吸をする。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」
唱えるというよりは、叫ぶに近い彼女の呪文。
その後、暫しの沈黙が流れた。
成功か、とルイズは顔を輝く。
しかし、そんな彼女の目前で通産13回目にして本日最大級の爆発が起きた。
爆風を身に受けながら、ルイズは膝をついた。
自分への情けなさ、恥ずかしさ。そのすべてがこみ上げてきて、その双眸に涙が浮かぶ。
「うぅ…」
思わず両手で顔を覆う。
おそらく、あと少しもすれば周りから貶され、罵倒され、蔑まれるのだろう。彼女は身をこわばらせた。
しかし、何時まで経っても周りから言葉らしい言葉はかけられない。
ざわ、ざわ、と聞こえるのはどよめきのみ。
流石におかしい、彼女はそう思って、恐る恐る顔を上げる。
そして見た。煙の中で揺らめく、確実に先程までなかったモノの姿を。
「あっ!」
ルイズの表情が歓喜にあふれた。
さっきまで浮かんでいた絶望の色は、最早顔面のどこにも見受けられない。
視界が晴れるのに比例して、彼女の期待も右肩上がりで上昇する。
知識の象徴であるグリフォンだろうか。はたまた力溢れるドラゴンだろうか。前置きの長さの分、上昇の比率も倍加する。
そして、煙が完全に消えた先にいたのは、
「…………………人間?」
それは、うつ伏せに倒れた人間であった。
体系から見るに男だろうか。茶色でセミロングの髪を紐でくくり、貴重となる上着、ズボンはどこと無く赤黒く、襟元は真紅となっている。見る人によると中世の貴族のような印象を与えるが、そう判断できる人物は少なくとも『この場』にはいなかった。
彼らにとって一番重要だったのは、それが魔獣でもなんでもなく、ただの人間であったこと。
そして二番目に重要だったのは、その者が貴族の象徴であるマントを身につけていなかったこと。
即ち、
「平民?」
遠めに見守っていた生徒の間で聞こえたこの一言。
まるで、それが起爆剤になったかのように、彼らの間で先程までの爆発にも劣らない大きさの笑い声が起こる。
「おいおい、何かと思ったら平民かよ!」
「少し期待しちゃったじゃない!」
……あんまりだ。
罵声を受けながら、ルイズは肩を落とした。
散々焦らしておいて、召還されたのは只の平民。これならば、延期してでも万全の調子で臨んだほうが良かった。
恨みますよ、始祖ブリミル。
「ミスタ・コルベール、儀式のやり直しを…」
「出来ない。残念だが」
最後まで言えずに否定された。
往生際が悪いと彼女自身も感じる。が、しかし、平民を使い魔にするなんてものも彼女にはありえない選択肢だ。
「お願いです!明日でも明後日でも幾らでも延期してかまいませんから!」
「伝統なんだ。ミス・ヴァリエール」
にべもなくコルベールは続ける。
「召喚された以上、平民だろうがなんだろうがあの人間には君の使い魔になってもらうしかない。これは絶対の掟だ。」
万事休す。八方塞。ルイズは方と共に頭も垂らした。
のろのろふらふらとした足取りで、魔方陣の中心へと向かう。
男は相変わらずうつ伏せのまま動いていなかった。
ルイズは溜息をつくと、男の体を揺り動かす。
「ほら、起きなさい」
それでも、男はピクリとも動かない。
しばらく手を止めなかったが、数分経ったところで我慢の限界が来た。
「いい加減に…」
しなさい、と言う言葉と共に、男の腹に手をまわして無理やり仰向けにしようとする。
しかし、
どろり。
手の広に不愉快なぬめりと暖かさを感じた。
「えっ?」
生理的な嫌悪からか、ルイズは素早く手を引っ込める。
見ると、手は袖口まで真っ赤に染まっていた。
「あ」
そこで、気付いた。
男の服の一部が切り裂かれており、服の赤黒さはそこから広がっているという事。
男の体の下から少しずつ赤い領域が広がっている事。
男が少しずつ、しかし確実に死へと向かっている事。
「あ、あ、あぁぁぁあああっ!」
取り乱したルイズを見て、コルベールが慌てて駆け寄る。
「どうした!ミス・ヴァ…!」
そして、目の前の惨状に気付いた。
驚愕して目を見開くが、年長者というだけあって状況の判断も早かった。直ぐに大声で周りの生徒に呼びかける。
「水系統のメイジを!他の者は救護室に向かえ!」
何事かと覗き込んでいた彼らも、状況に気付くと血相を変えた。ある物は魔方陣のもとに走り、またある物は校舎へと戻っていく。
「あ……あ…」
見ると、ルイズはまだ冷静を取り戻していなかった。
コルベールは落ち着かせんと彼女に駆け寄る。
「ミス・ヴァリエール、冷静になれ。出血は酷いが、まだ生きている」
彼の言うとおりその男の首筋はまだかすかに赤みが差している。
それを見て、ルイズもいくらか落ち着きを取り戻し、呼吸も落ち着いた。
そこに、
「う…ぁ………」
男の口元から、くぐもった呻き声が漏れた。
「だ、大丈夫!?」
いち早く反応したのはルイズだった。
男に顔を寄せ、大声で呼びかける。
男が顔を上げ、その目がゆっくりと開いていく。
そして、彼女と目が合った。
「…え……?」
当惑の声を発したのは、ルイズ。
男の顔は、どちらかと言えば端正なほうだ。まだ若く、青年と呼ぶのがちょうど良い。
服の調子と相まって、どこか高貴な雰囲気を感じさせる。
混乱の原因は、男の目にあった。
本来白いはずの部分は、すべてが真紅に染められており、瞳は逆に淀みのない純白。
色相を反転したような眼球の中心に、すべてを飲み込むような漆黒の瞳孔。
明らかに、異常。
しばらく視線を交わしていたが、やがて男が静かに口を開く。
そこに見えたものによって、ルイズの頭は強制的に驚愕から恐怖へと変換された。
男の歯は、その全てが鋭く研ぎ揃えられた八重歯であった。
普通ならば切歯や臼歯が存在する場所にも、等しく槍のような犬歯が生えている。
その青年がいた場所では、その外見からしばしば「吸血鬼のようだ」と言われていたが、『この場』の吸血鬼はまた違う外見をしているため、そのような言葉を発するものはいない。
しかし、それ故にその容貌は周囲の人間を理解不能な恐怖へと叩き落す。
口を開いた青年は暫しひゅうひゅうと呼吸をしていたが、
やがて、笑った。
笑うと、生えそろった八重歯がうまく噛み合わさり、その不気味さがさらに増す。
しかし、青年の顔に浮かんでいるそれは、まさしく微笑みといっていいほどに穏やか。
異常なコントラスト。周囲にいた人間はみなそう思った。
そして、青年は言葉を紡ぐ。
「やぁ…………」
あくまでも、優しく、朗らかに。
「友達に…ならないか?」
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#navi(赤目の使い魔)
雲ひとつ無い空、まさしく晴天の天気の下で、おおよそ似つかわしくない爆発音が響く
音源は、荘厳な造りの、西洋の王城を思わせる建築物。
しかし、それは城ではなくれっきとした『学校』であった。
名を、トリステイン魔法学院。その名の通り、魔術の教育を行う場である
今も、その建物の中では授業が行われている。それも、今後の成績、学校生活、ひいては人生さえも大きく左右する内容のものが。
そこに再び響く爆発音。
生徒が一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの、通算12回目の「サモン・サーヴァント」失敗であった。
#center{● ● ●}
「………ぅぅぅぅぅうううううううっ!」
もうもうと立ち込める煙の中、桃色の髪を振り乱し、童顔の美少女ルイズは、その容貌に不似合いな癇癪を起こし、人目もはばからず歯噛みし、地団太を踏む。
彼女の視線の先、いち早く煙が晴れた爆発の中心には、前後で変わらず何も無い。それは、「サモン・サーヴァント」の失敗を如実に表していた。
その様子を見て、担当教師であるジャン・コルベールはかぶりを振る。
「ミス・ヴァリエール。残念だが、今日はここまでとしよう」
口調は諭すように優しいものであったが、それを聞いたルイズはびくりと体を震わせて、必死に食い下がる。
「そんな!お、お願いですミスタ・コルベール!どうか、続けさせてください!」
その必死な様子に周りの生徒から失笑が漏れるが、気にしている余裕は無い。
ほかの生徒が皆使い魔を連れている中、たった一人でいる自分へ向けられるだろう嘲り、侮蔑を思えば、何倍もマシだった。
「時間も押している。それに、他の方達のことも考えるんだ」
彼の言うとおり、最初こそ生徒たちもルイズが失敗をするたびに、馬鹿にした笑い声を上げていたが、
五回目を超えたあたりからそれらも成りを潜め、顔に浮かんでいた嘲笑も、十回目を越える頃には単調な場景に対する辟易としたものへと変わっていた。
しかし、ルイズも引くわけにはいかない。
「お願いです……、どうか、後一回だけ…」
懇願するような彼女の様子を見て、コルベールは困ったように唸る。
彼とて、このまま彼女だけを未遂のまま終わらせるのは忍びない。
しかし、教師としての責務も軽々しく無視するわけにはいかない。
しばらく、彼は俯いて考えていたが、
「……これで最後だよ。必ず成功させなさい」
結局、天秤は生徒への情の方に傾いたらしい。
「は、はい!」
顔を輝かせて返事をするや否や、ルイズは直ぐに真剣な面持ちで魔方陣へと向き直る。
ワンチャンス。そう自分に言い聞かせ、彼女は大きく深呼吸をする。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」
唱えるというよりは、叫ぶに近い彼女の呪文。
その後、暫しの沈黙が流れた。
成功か、とルイズは顔を輝く。
しかし、そんな彼女の目前で通産13回目にして本日最大級の爆発が起きた。
爆風を身に受けながら、ルイズは膝をついた。
自分への情けなさ、恥ずかしさ。そのすべてがこみ上げてきて、その双眸に涙が浮かぶ。
「うぅ…」
思わず両手で顔を覆う。
おそらく、あと少しもすれば周りから貶され、罵倒され、蔑まれるのだろう。彼女は身をこわばらせた。
しかし、何時まで経っても周りから言葉らしい言葉はかけられない。
ざわ、ざわ、と聞こえるのはどよめきのみ。
流石におかしい、彼女はそう思って、恐る恐る顔を上げる。
そして見た。煙の中で揺らめく、確実に先程までなかったモノの姿を。
「あっ!」
ルイズの表情が歓喜にあふれた。
さっきまで浮かんでいた絶望の色は、最早顔面のどこにも見受けられない。
視界が晴れるのに比例して、彼女の期待も右肩上がりで上昇する。
知識の象徴であるグリフォンだろうか。はたまた力溢れるドラゴンだろうか。前置きの長さの分、上昇の比率も倍加する。
そして、煙が完全に消えた先にいたのは、
「…………………人間?」
それは、うつ伏せに倒れた人間であった。
体系から見るに男だろうか。茶色でセミロングの髪を紐でくくり、貴重となる上着、ズボンはどこと無く赤黒く、襟元は真紅となっている。見る人によると中世の貴族のような印象を与えるが、そう判断できる人物は少なくとも『この場』にはいなかった。
彼らにとって一番重要だったのは、それが魔獣でもなんでもなく、ただの人間であったこと。
そして二番目に重要だったのは、その者が貴族の象徴であるマントを身につけていなかったこと。
即ち、
「平民?」
遠めに見守っていた生徒の間で聞こえたこの一言。
まるで、それが起爆剤になったかのように、彼らの間で先程までの爆発にも劣らない大きさの笑い声が起こる。
「おいおい、何かと思ったら平民かよ!」
「少し期待しちゃったじゃない!」
……あんまりだ。
罵声を受けながら、ルイズは肩を落とした。
散々焦らしておいて、召還されたのは只の平民。これならば、延期してでも万全の調子で臨んだほうが良かった。
恨みますよ、始祖ブリミル。
「ミスタ・コルベール、儀式のやり直しを…」
「出来ない。残念だが」
最後まで言えずに否定された。
往生際が悪いと彼女自身も感じる。が、しかし、平民を使い魔にするなんてものも彼女にはありえない選択肢だ。
「お願いです!明日でも明後日でも幾らでも延期してかまいませんから!」
「伝統なんだ。ミス・ヴァリエール」
にべもなくコルベールは続ける。
「召喚された以上、平民だろうがなんだろうがあの人間には君の使い魔になってもらうしかない。これは絶対の掟だ。」
万事休す。八方塞。ルイズは方と共に頭も垂らした。
のろのろふらふらとした足取りで、魔方陣の中心へと向かう。
男は相変わらずうつ伏せのまま動いていなかった。
ルイズは溜息をつくと、男の体を揺り動かす。
「ほら、起きなさい」
それでも、男はピクリとも動かない。
しばらく手を止めなかったが、数分経ったところで我慢の限界が来た。
「いい加減に…」
しなさい、と言う言葉と共に、男の腹に手をまわして無理やり仰向けにしようとする。
しかし、
どろり。
手の広に不愉快なぬめりと暖かさを感じた。
「えっ?」
生理的な嫌悪からか、ルイズは素早く手を引っ込める。
見ると、手は袖口まで真っ赤に染まっていた。
「あ」
そこで、気付いた。
男の服の一部が切り裂かれており、服の赤黒さはそこから広がっているという事。
男の体の下から少しずつ赤い領域が広がっている事。
男が少しずつ、しかし確実に死へと向かっている事。
「あ、あ、あぁぁぁあああっ!」
取り乱したルイズを見て、コルベールが慌てて駆け寄る。
「どうした!ミス・ヴァ…!」
そして、目の前の惨状に気付いた。
驚愕して目を見開くが、年長者というだけあって状況の判断も早かった。直ぐに大声で周りの生徒に呼びかける。
「水系統のメイジを!他の者は救護室に向かえ!」
何事かと覗き込んでいた彼らも、状況に気付くと血相を変えた。ある物は魔方陣のもとに走り、またある物は校舎へと戻っていく。
「あ……あ…」
見ると、ルイズはまだ冷静を取り戻していなかった。
コルベールは落ち着かせんと彼女に駆け寄る。
「ミス・ヴァリエール、冷静になれ。出血は酷いが、まだ生きている」
彼の言うとおりその男の首筋はまだかすかに赤みが差している。
それを見て、ルイズもいくらか落ち着きを取り戻し、呼吸も落ち着いた。
そこに、
「う…ぁ………」
男の口元から、くぐもった呻き声が漏れた。
「だ、大丈夫!?」
いち早く反応したのはルイズだった。
男に顔を寄せ、大声で呼びかける。
男が顔を上げ、その目がゆっくりと開いていく。
そして、彼女と目が合った。
「…え……?」
当惑の声を発したのは、ルイズ。
男の顔は、どちらかと言えば端正なほうだ。まだ若く、青年と呼ぶのがちょうど良い。
服の調子と相まって、どこか高貴な雰囲気を感じさせる。
混乱の原因は、男の目にあった。
本来白いはずの部分は、すべてが真紅に染められており、瞳は逆に淀みのない純白。
色相を反転したような眼球の中心に、すべてを飲み込むような漆黒の瞳孔。
明らかに、異常。
しばらく視線を交わしていたが、やがて男が静かに口を開く。
そこに見えたものによって、ルイズの頭は強制的に驚愕から恐怖へと変換された。
男の歯は、その全てが鋭く研ぎ揃えられた八重歯であった。
普通ならば切歯や臼歯が存在する場所にも、等しく槍のような犬歯が生えている。
その青年がいた場所では、その外見からしばしば「吸血鬼のようだ」と言われていたが、『この場』の吸血鬼はまた違う外見をしているため、そのような言葉を発するものはいない。
しかし、それ故にその容貌は周囲の人間を理解不能な恐怖へと叩き落す。
口を開いた青年は暫しひゅうひゅうと呼吸をしていたが、
やがて、笑った。
笑うと、生えそろった八重歯がうまく噛み合わさり、その不気味さがさらに増す。
しかし、青年の顔に浮かんでいるそれは、まさしく微笑みといっていいほどに穏やか。
異常なコントラスト。周囲にいた人間はみなそう思った。
そして、青年は言葉を紡ぐ。
「やぁ…………」
あくまでも、優しく、朗らかに。
「友達に…ならないか?」
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