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夜刃の使い魔 第四夜『学長室の訪問者』
時は昨夜、ルイズがホークアイの手により、怪奇芋虫女へとクラスチェンジした直後まで遡る。
トリスティン魔法学院学長オールド・オスマンは、その日も学長室にて夜分遅くまで書類の束と格闘していた。
普段は秘書のミス・ロングビルへのセクハラをあの手この手で行使する只のエロジジイだが、その本分たる学長の責務を疎かにはしていないのだ。
丁度昼に行われた春の使い魔召喚の儀式の経過の報告書に目を通しながら、他の書類に認証のサインを入れてゆく。
(今年も豊作だったようじゃのう。召喚に失敗した者も居らんようじゃ・・・このヴァリエール家の三女が召喚した平民というのは良く判らんがのう)
いい加減手が疲れてきたのか、最後には魔法のペンでサインを自動筆記させながら報告書を読むオスマン。
その体勢のままで独り言であるかのように
「さて・・・今夜は急な来客の知らせは無かったはずじゃが?」
誰とも知れぬ相手に呼びかける。
その声に答えるように、揺れるランプの炎が照らす積み重なった本の影より立ち上がる影がある。ホークアイだ。
進入に気付かれた事に軽く驚いている。
「何時から気付いていたんだ?」
「お前さんがこの部屋に入ってきた時からじゃ。先刻ランプの炎が不自然に揺れたからの。普段は締め切って居るからの。窓か扉が開けばそうもなるじゃろうて」
未だ顔を上げず書類に目を通し続けるオスマン。
その様子にホークアイは幾分舌を巻く。
(学長ってのも伊達じゃないみたいだな。大した肝の据わり方だ。まぁ、それくらいじゃないとこっちも困るけどな)
同時にその実力もおぼろげながら推測する。
余裕のある態度も確たる魔力や己への自信によるからだろう。
だとすれば、此処まで足を運んだのも無駄ではない。
「・・・流石に学長ともなると気付くもんだな。こんな時間にすまないが、アンタに用があって来たんだ」
「ほう? ワシに何の用じゃ?」
興味を持ったのか、オスマンが書類に落としていた視線を上げる。
(ふむ、あの姿に此処まで忍び込んできた実力、かなりのものじゃのう。もしや今噂の土くれのフーケかの?いや、それにしては・・・)
未だホークアイの正体を掴みかねるオスマン。と、何か思い出したかのようにもう一度報告書に目を落とす。
「黒装束に赤黒い仮面・・・その姿はこの報告書にあるのう。ミス・ヴァリエールの呼び出した平民とは君の事かね?」
「まぁ、平民って言い方は気に食わないがその通りさ。俺はホークアイ。アンタの教え子の尻拭いをしてもらいたい」
「ほほう! 尻拭いとな!」
「何で喜ぶんだよ!? ・・・あ~はっきり言えば、あのルイズってお嬢ちゃんじゃ話にならないって判ったからな。アンタに聞きたいんだ」
言いながら足音も立てずにオスマンに近づくホークアイ。
何時の間にかその手は長い袖の中に隠れている。一切の光を反射しない漆黒のスティレット、デスストロークを忍ばせた袖へ。
そのままオスマンの隣へ、手を伸ばせば喉にさえ手が届くだろう距離まで間合いを詰める。
その間オスマンもサインを続ける魔法のペン・・・いや魔法の杖でもあるペンに手を伸ばす。
「で、聞きたいこととは何じゃ?」
「俺を元の場所に戻す方法を教えてもらう。魔法学院学長のアンタなら、ここで一番魔法に詳しいだろう?」
「元の場所、とははっきりせんのう。ただ遠いならヴァリエール家は裕福じゃ。帰りの旅費くらいは何とかできるじゃろ」
「普通に帰れる場所なら、な。ま、旅費は施しを受けるくらいなら自力で頂くけどな。そんな簡単な話じゃないのさ」
そう言うと、ホークアイは敵意が無いことを示すようにオスマンの机の上に愛用のデスストロークを置く。
同時に切り出した。自分はこの世界の人間じゃないらしい、と。
「マナの女神にマナの剣のう・・・」
「俺の居た世界は、ハルケギニアなんて呼び方じゃなかった。それに、メイジが貴族っていう考え方も無かったしな。どう考えても別の世界だ」
ルイズのときと違い、ホークアイはオスマンには洗いざらい自分の知る元の世界とこの世界の相違点を話していた。
それは多分に話す相手の格の違いによるものだ。
幾ら貴族とは言えルイズは年若く経験も少ない一学生に過ぎない。
判断力も知識も無い相手に不必要に情報を与えても混乱するだけで役には立たない。
逆にある程度の知識をもち経験豊富な相手・・・この場合はオスマンなどの相手には、ある程度の判断を期待でき、同時に情報自体が駆け引きの材料にもなる。
とはいえ、オスマンの反応は芳しくない。
無理も無いだろう。使い魔を送り戻す魔法など、オスマンの知識にも無いのだ。
「しかしのう、別の世界の事はわかっても一度呼び出した者を送り返す魔法などワシでもしらんぞい」
「・・・アンタもあの嬢ちゃんと同じ役立たずかよ」
「同じにするでない! そもそもそんな魔法ハルケギニア中探しても見つかるかどうかじゃ!」
「・・・つまり、全員あの嬢ちゃんと同じって事だな」
「うむぅ・・・」
唸るオスマンを尻目に、ホークアイも困っていた。
オスマンが言っているのは概ね信実であろう事は、今までのやり取りで察していた。
ルイズからの情報では、オールド・オスマンはトリスティン、いやハルケギニア全土見ても有数のメイジらしい。
その彼が知らないとなると、何処へ行こうともマナの女神に守られたあの世界へ戻る手段は見つからない可能性の方が高い。
「八方塞りか・・・くそっ」
「あせらん事じゃな。ワシもその件については調べてみるつもりじゃ。今は見つからずとも何か方法はあるかも知れぬからの」
「そうか。ま、期待せずに待ってるさ」
そう言うとホークアイはデスストロークを懐に入れ、立ち去ろうとする。
その背中へオスマンが呼びかけた。
「ふむ、見つかるまでしばらくこの学院で過ごすといいじゃろう。何かわかり次第直ぐに話が出来るからの」
「・・・あの嬢ちゃんの使い魔をやれって言うならお断りだけどな」
「そんなに嫌かのう? 年頃の娘と一心同体になれるのじゃぞ?」
「お貴族様の下っ端ってのが気に食わないのさ」
それはホークアイの決して譲れない一線だった。
従う相手は、育ての親のフレイムカーンただ一人。それ以外の相手には、決して従わない。例え相手が王族でも例外はない。
それがホークアイの終始貫く信念でもある。
そういう点ではホークアイは下手な貴族よりも誇り高いといえた。
「ま、寝床や食い物は勝手にこっちで見つけるさ。じゃ、また来るよ」
最後の一声と同時に、姿を消すホークアイ。
ランプの炎が揺れる事無く、再び学長室に静寂が戻る。
「・・・マナの剣にマナの女神、のう・・・20年ぶりに近いかの。その言葉を聞いたのは」
後に残されたオスマンは、誰とも無く呟きながら遠く虚空を見つめていた。
夜刃の使い魔 第四夜『学長室の訪問者』
時は昨夜、ルイズがホークアイの手により、怪奇芋虫女へとクラスチェンジした直後まで遡る。
トリステイン魔法学院学長オールド・オスマンは、その日も学長室にて夜分遅くまで書類の束と格闘していた。
普段は秘書のミス・ロングビルへのセクハラをあの手この手で行使する只のエロジジイだが、その本分たる学長の責務を疎かにはしていないのだ。
丁度昼に行われた春の使い魔召喚の儀式の経過の報告書に目を通しながら、他の書類に認証のサインを入れてゆく。
(今年も豊作だったようじゃのう。召喚に失敗した者も居らんようじゃ・・・このヴァリエール家の三女が召喚した平民というのは良く判らんがのう)
いい加減手が疲れてきたのか、最後には魔法のペンでサインを自動筆記させながら報告書を読むオスマン。
その体勢のままで独り言であるかのように
「さて・・・今夜は急な来客の知らせは無かったはずじゃが?」
誰とも知れぬ相手に呼びかける。
その声に答えるように、揺れるランプの炎が照らす積み重なった本の影より立ち上がる影がある。ホークアイだ。
進入に気付かれた事に軽く驚いている。
「何時から気付いていたんだ?」
「お前さんがこの部屋に入ってきた時からじゃ。先刻ランプの炎が不自然に揺れたからの。普段は締め切って居るからの。窓か扉が開けばそうもなるじゃろうて」
未だ顔を上げず書類に目を通し続けるオスマン。
その様子にホークアイは幾分舌を巻く。
(学長ってのも伊達じゃないみたいだな。大した肝の据わり方だ。まぁ、それくらいじゃないとこっちも困るけどな)
同時にその実力もおぼろげながら推測する。
余裕のある態度も確たる魔力や己への自信によるからだろう。
だとすれば、此処まで足を運んだのも無駄ではない。
「・・・流石に学長ともなると気付くもんだな。こんな時間にすまないが、アンタに用があって来たんだ」
「ほう? ワシに何の用じゃ?」
興味を持ったのか、オスマンが書類に落としていた視線を上げる。
(ふむ、あの姿に此処まで忍び込んできた実力、かなりのものじゃのう。もしや今噂の土くれのフーケかの?いや、それにしては・・・)
未だホークアイの正体を掴みかねるオスマン。と、何か思い出したかのようにもう一度報告書に目を落とす。
「黒装束に赤黒い仮面・・・その姿はこの報告書にあるのう。ミス・ヴァリエールの呼び出した平民とは君の事かね?」
「まぁ、平民って言い方は気に食わないがその通りさ。俺はホークアイ。アンタの教え子の尻拭いをしてもらいたい」
「ほほう! 尻拭いとな!」
「何で喜ぶんだよ!? ・・・あ~はっきり言えば、あのルイズってお嬢ちゃんじゃ話にならないって判ったからな。アンタに聞きたいんだ」
言いながら足音も立てずにオスマンに近づくホークアイ。
何時の間にかその手は長い袖の中に隠れている。一切の光を反射しない漆黒のスティレット、デスストロークを忍ばせた袖へ。
そのままオスマンの隣へ、手を伸ばせば喉にさえ手が届くだろう距離まで間合いを詰める。
その間オスマンもサインを続ける魔法のペン・・・いや魔法の杖でもあるペンに手を伸ばす。
「で、聞きたいこととは何じゃ?」
「俺を元の場所に戻す方法を教えてもらう。魔法学院学長のアンタなら、ここで一番魔法に詳しいだろう?」
「元の場所、とははっきりせんのう。ただ遠いならヴァリエール家は裕福じゃ。帰りの旅費くらいは何とかできるじゃろ」
「普通に帰れる場所なら、な。ま、旅費は施しを受けるくらいなら自力で頂くけどな。そんな簡単な話じゃないのさ」
そう言うと、ホークアイは敵意が無いことを示すようにオスマンの机の上に愛用のデスストロークを置く。
同時に切り出した。自分はこの世界の人間じゃないらしい、と。
「マナの女神にマナの剣のう・・・」
「俺の居た世界は、ハルケギニアなんて呼び方じゃなかった。それに、メイジが貴族っていう考え方も無かったしな。どう考えても別の世界だ」
ルイズのときと違い、ホークアイはオスマンには洗いざらい自分の知る元の世界とこの世界の相違点を話していた。
それは多分に話す相手の格の違いによるものだ。
幾ら貴族とは言えルイズは年若く経験も少ない一学生に過ぎない。
判断力も知識も無い相手に不必要に情報を与えても混乱するだけで役には立たない。
逆にある程度の知識をもち経験豊富な相手・・・この場合はオスマンなどの相手には、ある程度の判断を期待でき、同時に情報自体が駆け引きの材料にもなる。
とはいえ、オスマンの反応は芳しくない。
無理も無いだろう。使い魔を送り戻す魔法など、オスマンの知識にも無いのだ。
「しかしのう、別の世界の事はわかっても一度呼び出した者を送り返す魔法などワシでもしらんぞい」
「・・・アンタもあの嬢ちゃんと同じ役立たずかよ」
「同じにするでない! そもそもそんな魔法ハルケギニア中探しても見つかるかどうかじゃ!」
「・・・つまり、全員あの嬢ちゃんと同じって事だな」
「うむぅ・・・」
唸るオスマンを尻目に、ホークアイも困っていた。
オスマンが言っているのは概ね信実であろう事は、今までのやり取りで察していた。
ルイズからの情報では、オールド・オスマンはトリステイン、いやハルケギニア全土見ても有数のメイジらしい。
その彼が知らないとなると、何処へ行こうともマナの女神に守られたあの世界へ戻る手段は見つからない可能性の方が高い。
「八方塞りか・・・くそっ」
「あせらん事じゃな。ワシもその件については調べてみるつもりじゃ。今は見つからずとも何か方法はあるかも知れぬからの」
「そうか。ま、期待せずに待ってるさ」
そう言うとホークアイはデスストロークを懐に入れ、立ち去ろうとする。
その背中へオスマンが呼びかけた。
「ふむ、見つかるまでしばらくこの学院で過ごすといいじゃろう。何かわかり次第直ぐに話が出来るからの」
「・・・あの嬢ちゃんの使い魔をやれって言うならお断りだけどな」
「そんなに嫌かのう? 年頃の娘と一心同体になれるのじゃぞ?」
「お貴族様の下っ端ってのが気に食わないのさ」
それはホークアイの決して譲れない一線だった。
従う相手は、育ての親のフレイムカーンただ一人。それ以外の相手には、決して従わない。例え相手が王族でも例外はない。
それがホークアイの終始貫く信念でもある。
そういう点ではホークアイは下手な貴族よりも誇り高いといえた。
「ま、寝床や食い物は勝手にこっちで見つけるさ。じゃ、また来るよ」
最後の一声と同時に、姿を消すホークアイ。
ランプの炎が揺れる事無く、再び学長室に静寂が戻る。
「・・・マナの剣にマナの女神、のう・・・20年ぶりに近いかの。その言葉を聞いたのは」
後に残されたオスマンは、誰とも無く呟きながら遠く虚空を見つめていた。
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