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#navi(異世界BASARA)
ラ・ロシェールの街に立て籠もったトリステイン軍の前方五百メイル、タルブの草原に敵の軍勢が見えた。アルビオン軍だ。
三色の『レコン・キスタ』の旗を掲げ、悠々と行進してくる。
生まれて初めて見る敵に、ユニコーンに跨ったアンリエッタは震えた。
その震えをルイズや回りの兵に悟られないよう、アンリエッタは目を瞑って軽く祈りを捧げた。
だが、敵は草原を進んでくる上陸軍だけではない。
視線を上方に転じれば、巨艦『レキシントン』号を旗艦とする大艦隊が隊列を整え始めていた。
そしてその舷側が光る。艦砲射撃である。
何百発もの砲弾が、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍に襲い掛かる。
その度に周りで人が吹き飛び、岩が崩れ落ちてきた。
「落ち着きなさい!落ち着いて!!」
恐怖にかられたアンリエッタが叫ぶ。
その時、一発の砲弾が近くの岩盤を吹き飛ばした。
崩れた岩が降り注いで来る。アンリエッタは目を閉じた。
しかし、そこにさらに爆発音が響いた。
恐る恐る目を開くと、杖を構えたルイズがいた。降ってきた岩を、ルイズは失敗魔法で吹き飛ばしたのだ。
「姫殿下!お怪我はありませんか!?」
心配そうな顔をして尋ねるルイズを見て、アンリエッタは安堵の表情を浮かべる
するとそこへマザリーニが近寄り、アンリエッタに耳打ちした。
「まずは殿下が落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に潰走します」
マザリーニが伝令を発すると、トリステインの貴族たちが岩山の隙間の空にいくつもの空気の壁を作り上げた。
その壁によって砲弾は砕け、何とか被害を食い止めることが出来た。
「これでしばらくは持ちましょうぞ」
マザリーニはアンリエッタに告げる。少なくともこれで持ち堪える事が出来る。
しかし、それを許さない男が1人……
「彼等は出てこないか……ふむ、これでは少しつまらんな」
地上の様子を見て、松永は顎に手をかける。
と、口の端を吊り上げて笑うと、船内に入る扉を開く。
そこにいたのは……縛られ、猿轡をされた女や子供……
松永がアルビオンで捕らえた貴族達である。
「諸君」
松永が言葉を発すると、縛られた者達は体を震わせた。
「これからトリステインの兵士達に敬意を表し、余興を催そうと思う。なに、きっと楽しんでくれるよ」
「枢機卿!姫殿下!!」
敵艦隊の様子を見ていた兵の1人が2人を呼ぶ。
「どうしました」
「一隻の船からこちらに信号を送ってます」
兵はそう言うと、船から送られてくる信号を読み上げる。
「今カラ余興ヲ開始スル。トリステイン軍ノ諸君モ楽シミタマエ……ひ、姫殿下!」
信号を読み上げていた兵が慌てふためき、持っていた望遠鏡をアンリエッタに渡してきた。
「……あれは!!」
その船を望遠鏡で見たアンリエッタの顔が引き攣る。
彼女が見たのは、船の端にロープで吊り下げられた人間であった。
そして次に繰り広げられた光景に、アンリエッタは恐怖のあまり言葉を失った。
吊るされた内の1人のロープが切られ、船から落とされたのである。
異変を感じたマザリーニも望遠鏡を覗く。
「何と……何と惨い事を……!!」
アンリエッタは目を逸らして口を覆った。
「再び信号です!『コレヨリ、5分毎ニ1人、船カラ落トス。止メタクバ、真ッ向カラアルビオント戦エ』」
「アンリエッタ殿、卿からは“慈悲”を貰っていこう」
「ど、どういたします?」
兵が動揺しながらアンリエッタに問い掛ける。
アンリエッタは唇を噛み締める。
籠城を続ければ人質が殺されていく、しかし出て行けば空、地の両方から攻められる……
自軍の事を考えるならこのまま出て行かない方が良い。
だが……
「……出来ない。私には見捨てる事なんて……!」
アンリエッタはキッとアルビオン軍を睨み、全軍に指示を出す。
「全軍進撃!!人質になった者達を救います!!」
「「「オオオオオオオオォォォォーーーー!!!!」」」
怒号と共にトリステイン軍は駆け出し、進撃を開始した。
その様子は松永の乗る船からも見える。
松永の、笑みを浮かべた表情が一変する。
それは汚物を見るかのような冷たい目だった。
「……何だあれは?偽善か?偽善なのか?」
松永久秀は、欲望に忠実な男である。
それこそが人の……生物の本質であると彼は考えているからだ。
だから、松永は理想や、正義というものが気に入らない。
何故己を律してまで生きなければならないのか……
「偽善者共が……ならばその慈悲とやら、余す事なく奪ってやろう」
松永は苛立った様子で呟いた。
その松永の言葉を合図とするかのように、アルビオンの攻撃が始まった。
進撃してきたトリステイン軍に、アルビオンの容赦ない攻撃が開始された。
上空からはタルブの草原に出てきたトリステイン軍に砲弾の嵐が降り注ぎ、あちこちで人が吹き飛ぶ。
さらに、地上には艦隊の援護射撃を受け、士気の高いアルビオン軍である。
どう考えてもこちらに勝ち目はなかった。
それでも、アンリエッタやルイズは懸命に馬を走らせ、杖を振るう。
(ユキムラがいなくても、姫殿下は私が守ってみせる!)
(命令をだしたのは私……ならば私がやらねば!)
その時、艦隊の舷側が一斉に光った。アンリエッタとルイズは目を見開く。
艦砲射撃による砲弾が、こちらに来る……!
逃げなければ!
だが心で思っても、間に合いそうにない。
ルイズは迫りくる恐怖に目を瞑った。
(私、ここで死ぬのかな……)
ルイズの脳裏に、今までの出来事が浮かんでくる。
姉と比べられ、1人池の小舟で泣いていた事。
魔法学院に入学して、必死に勉強しても失敗ばかりだった事……
それらがまるで走馬灯のように浮かんでは消えていく。
そして最後に、幸村を召喚した時の事を思い出した。
(ユキムラ……)
フーケのゴーレムの時も、ワルドが裏切った時も、幸村は自分を守ってくれた。
だから幸村が戦えない今、自分が姫殿下を……大切なものを守ろうとしたのに……
結局、自分は何も出来なかった。
(ユキムラ。私やっぱり……ゼロのルイズだったよ)
「弱音を吐くのは、まだ早いですぞ」
ルイズは目を開いた。
赤い甲冑を身につけた……会いたくて仕方なかった人が目の前に立っていた。
「あ……ユ、ユキ……」
名前を呼ぼうとしたが、声が上手く出ない。
何か……何か言わないと……
ルイズは必死に口を動かして声を出そうとする。
「ルイズ殿」
「え……?」
「よく……よく頑張られましたな」
幸村が振り返り、ルイズに笑いかけた。
「……う、ふぇ……ふええぇぇぇ……」
ルイズの目から涙が溢れる。
心の片隅で、もう目が覚めないかもしれないと思っていたけど、幸村は来てくれた。
そしてまた、私を守ってくれる。
ルイズにはそれが嬉しくてたまらなかった。
「馬鹿ぁ……もっと早く来なさいよ……す、す、凄く怖かったんだから……」
「遅参の将、申し訳ありませぬ。ならば……!!」
ブンッと槍とデルフリンガーを交差させるように大きく振る。
「この幸村!修羅の如く戦い、敵を押し返して見せましょうぞ!!」
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