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#navi(アノンの法則)
十分な資金を手に入れたアノンは、裏通りに剣を模った看板を見つけ、入ってみた。
案の定、そこは武器屋。
薄暗い店内に、剣や槍が所狭しと並べられている。
「坊っちゃん、ここは子供の遊び場じゃないんだぜ」
カウンターの親父は、パイプをふかしていた手を止めて、低い声でそう言った。
「えーと、剣? 見にきたんだけど」
そう答える少年を、親父は胡散臭げに見つめる。
制服らしいものを着ているが、マントをしていない。大方、どこかの使用人だろう。
最近耳にする貴族の屋敷を狙う盗賊の噂のせいで、剣でも持とうと考えたか。
ふんだくるのは無理と判断した親父は、勝手に見ろとばかりに、視線を手元に戻した。
無愛想な親父も気にせず、アノンは壁にかけられているものを中心に、商品を眺めていく。
「わ、コレすごい」
そう言って手を伸ばしたのが、一番目立つ位置に飾られていた金ピカの大剣だった。
鏡の様な刀身、ちりばめられた宝石。
見るからに切れそうな、そして高そうな品だ。
「こら、クソガキ! 気安く触るんじゃねえ!」
接客もせずに座っていた親父が、急に怒鳴り声を上げた。
「いいか。そいつはかの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が鍛えた品で、魔法がかかってるから鉄だって一刀両断って代物だ。キズでも付けたらお前なんかが弁償できるもんじゃないんだよ!」
「鉄が斬れる剣に、そんな簡単に傷がつくのかい?」
「…ッ」
ドスの聞いた声にも全く怯まず、至極真っ当に返すアノンに、親父は言葉を詰まらせた。
不意に、げらげらと笑う声が店内に響く。
「親父、こいつは一本取られたな! まあ、そんなナマクラで鉄が切れるわけねーがな」
「? 誰?」
アノンは店内を見回したが、自分と店の親父以外には誰もいない。
「おう、ここだここ」
声は店の隅、乱雑に詰まれた剣の山から聞こえてくる。
その山の中、一本だけかちゃかちゃとつばが動いている物があった。
「コレがしゃべってる?」
近づいてみると、喋っているのは、錆びの浮いたなんともみすぼらしい剣だった。
「おうよ、俺はインテリジェンスソードのデルフリンガー様だ」
「インテリ…?」
「まあ、意志を持つ魔剣ってとこだな」
魔剣、と言うからには、魔法で生み出された剣なのだろう。
“無生物”を“生物”に変える魔法というのがあるらしい。
「小僧、あの剣はやめとけ。あんな剣で鉄が斬れるんなら、ペーパーナイフで鋼が斬れらあ。この店には、ああいった見かけだけのナマクラが多いのさ」
言いたい放題のインテリジェンスソードに、親父が怒りの声を上げた。
「やい! デル公! それ以上余計なこと言ってみやがれ! 貴族に頼んで、てめえを溶かしちまうからな!」
「おもしれえ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」
威勢よく怒鳴り返すデルフリンガー。
「やってやらあ!」
親父のほうが腹に据えかねたらしく、カウンターを乗り越え、デルフリンガーに詰め寄った。
それをアノンが遮る。
「しゃべる剣なんて、面白いじゃないか」
そう言って、アノンはまじまじと剣を見つめた。
残念ながら、可愛らしい顔はついていないが、喋るたびにかちゃかちゃ動くつばが口に当たるらしい。
アノンは、デルフリンガーと名乗る剣を山の中から引っ張り出す。
と、その時、柄を握ったアノンの左手のルーンが光りだした。
「ん? なんだこれ」
なんだか体が軽くなったような気がする。
体の異変に、アノンが左手を確認しようと剣を離すと、光は消え、体もいつもの調子に戻った。
しばらく剣を握ったり離したりしていると、デルフリンガーが小さな声でしゃべり始めた。
「おでれーた。てめ、『使い手』か」
「『使い手』?」
「しかも…てめ、人間じゃねえな? まあいい。俺を買え」
その言葉に、アノンは驚いた。
この世界に来てから、自分を見た者の評価は等しく、『平民』だった。
それを、この剣は触れただけで見抜いたのだ。
この剣は、何かを知っている様だ。
ひやかしのつもりで入った店だったが、これは手元に置いておきたい。
「……買うよ。いくら?」
わざわざやかましく喋る剣を買うと決めたアノンに、親父は、物好きな奴だな、と言って、
「そいつなら、百でいいぜ。こっちとしてもやっかい払いだ」
アノンは代金を支払いおうと、懐から財布を取り出したが、そこで動きを止めた。
「おいおい、そんな立派な財布持ってて百も出せねえのか?」
デルフリンガーがあきれたような声を出す。
「いや、えーと……」
その時、勢いよく店の扉が開かれた。
「その代金、私がお支払いするわ」
青髪の小柄な少女を伴った、グラマラスな赤髪の美女、キュルケ・フォン・ツェルプスト―だった。
鞘に入れたデルフリンガーを背負い、アノンは二人の少女と、風竜の背中に乗って学院へと飛んでいた。
この風竜は、キュルケが連れてきた青髪の少女の使い魔で、シルフィードと言うらしい。
アノンたちを乗せる際、なぜか激しくごねて主に杖で叩かれていた。
「竜に乗って飛ぶのは初めてだなぁ」
空を飛ぶ経験が無いわけではないが、竜の背中に乗るのはまた違った楽しみだ。
アノンは気持ちよさそうに風を浴びながら、地上を見下ろす。
「ふふ、気に入ってくれたかしら?」
「キミは…ツェルプストーくん、でよかったかな?」
「ああん、そんな他人行儀な呼び方はやめて。私のことはキュルケって呼んで頂戴、ダーリン」
「ダーリン?」
彼女とはそんなに親しかっただろうか。
アノンは首をかしげた。
「それにしてもルイズったら、使い魔に剣を買うお金も持たせないなんて、公爵家の名がなくわよ」
「彼女は彼が召喚された際の治療に、水の秘薬を使っている。それも大量に」
ポツリと青髪の少女が呟く。
「キミは?」
「タバサ」
アノンの問いに、少女はそれだけ答えると、開いていた本に視線を落とした。
「ごめんなさいね、こういう娘なのよ」
無愛想なタバサに、キュルケがフォローを入れる。
容姿からして正反対な二人だが、仲はいいらしい。
「実は、お金はあるんだ。ただ、こっちで買い物なんて初めてでね」
「へ? 買い物をしたこと無いの?」
アノンの言葉に、キュルケは間の抜けた声を出した。
「まだこっちに来たばっかりで、よくわからないんだよ」
「ああ、確かにダーリンってこの辺じゃ見ない感じよね。どこの出身なの?」
「地獄界」
「地獄?」
「ああ、だいぶ遠くから召喚されたみたいでね。この辺りの国とか習慣とか、全然知らないんだ」
「国も知らないって……ひょっとして、東方のロバ・アル・カリイエから来たとか?」
キュルケの問いに、タバサも興味を持ったのか、本から顔を上げた。
アノンは考える。
ルイズの時の反応からして、こちらの人間に異世界の話を信じてもらうのは難しいだろう。
それに、先日の決闘騒ぎでは、あっさり守人の一族の能力を公開しそうになったが、ここは異世界。
自分の知らない世界だ。もう少し慎重になったほうがいいかもしれない。
ならば、
「ああ、そうかもしれないね。ボクたちは自分たちの土地を、そんな風には呼んでなかったけど」
これがベターだ。
そんな具合に、次々とキュルケに浴びせられる質問を、適当にごまかしながら答えていると、学院が見えてきた。
「行きは三時間もかかったのに、すごく早く着いたね」
「あなた達、行きは馬だったものね……そういえばルイズは?」
「あ」
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