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「攻撃力0の使い魔-05」(2009/08/29 (土) 01:42:20) の最新版変更点
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#navi(攻撃力0の使い魔)
ルイズと連れ立って教室へ向かうあいだ、ユベルは 自分の体に少しずつ力が戻りつつあるのを感じていた。
タバサの「心の闇」が、さっきユベルが彼女との間に作った「繋がり」を通して、ユベルの中に染み込んでくる。
実に心地良い 憎しみと悲しみ……哀れな娘だ。その短い人生で、いったい どれほどの苦痛と屈辱を味わってきたのだろう。
ユベルがタバサの心の闇から読み取った情報によると、タバサの母は エルフの薬によって心を壊され、人形を自分の娘だと思いこんでいるらしい。
そして、あろうことか 自分のことを誰よりも想ってくれているハズの実の娘をも敵だと思いこみ、激しく拒絶するのだそうだ。
そんな母を人質にとられている タバサこと シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、現ガリア王朝に逆らうことができず、
「北花壇騎士・七号」として、服役中の死を目的とした危険な任務を強制されている。とのことだ。
……あー、くだらない。
つまり、タバサの母の 娘への愛情など、所詮 その程度……薬で壊せるレベルのものだったということだ。
薬の毒に負けて 愛する者のことすら正しく認識できなくなるとは、失望を通り越して興醒めすら感じる。
それに対して、娘のほうは なかなか立派なものだ。愛する者のために、どれだけ自分の手を汚してきたか。
だが どのみち、叔父への復讐を果たし 母を救ったところで、タバサが元のシャルロットに戻ることは叶わないだろう。
まあ、それも悪くない。彼女が今以上の闇に堕ちれば、自分の力も さらに高まることになる。
いっそ、彼女の心の闇を作った元凶であるジョゼフとやらにも力を与え、お互いに憎しみを思う存分ぶつけ合える舞台を用意してあげようか。
それに「無能王」と呼ばれる者の「心の闇」にも興味がある。
彼らを争わせ…傷つけ合わせ……彼らの ちっぽけな世界を 苦しみと悲しみで満たすというのもステキな考えだ。
だって、それこそが「愛」なのだから。十代が この身に刻みこんでくれた「愛」の表現なのだから。
じわじわとタバサの心の闇を取り込み、ユベルの「力」と「狂気」が再生していく……
ユベルの中で、次元移動の際に消費した力が回復するにつれ、その力と共に失っていたハズの狂気までもが取り戻されようとしていた。
■■■■■■
ユベルと連れ立って教室へ向かうあいだ、ルイズは 今朝の「心の闇」談義について ユベルに質問しようかどうか迷っていた。
歩きながら、時々 ユベルのほうをチラっと見ては、そのまま何も言わずに 足元に視線を落とす……という動作を繰り返す。
ルイズが 今朝の「心の闇」談義について質問したいことは 2つ。
まず1つめは、自分の同級生に「心に深い闇を抱えた」らしい優秀なメイジがいるということについて。
これは…まあいい。そのメイジというのが 誰を指しているのかはともかく、貴族の世界の「闇」であれば、ルイズにも ある程度 見当がつく。
今さら深く考察するまでもないし、他人の家の都合にまで首を突っ込むような お節介な真似をするつもりは無い。
そして 2つめ。さっきから ルイズが 最も気になっていること……ユベルが見たという ルイズの心の闇について。
(やっぱり…まず間違い無く『あのこと』よね……)
自覚はある。貴族のくせに魔法が使えないメイジ:ゼロのルイズ。落ちこぼれ、ヴァリエールの面汚し、出来損ない。
努力が足りないと母親に叱られ、平民の使用人に陰で蔑まれ、デカ乳女に嫌味を言われ、クラスメイトに罵倒と嘲笑を浴びせられ……
ネガティブマインドが込み上げてきて、無意識に顔を伏せ 俯いてしまう。
(……って! だから使い魔の召喚と契約は成功してるでしょうが!)
そう思い直して 背筋を伸ばす。
自分の召喚した使い魔のほうを見る。
翼があるのに それらを動かすこともなく、立ったままの姿勢で低空飛行…いや 低空浮遊している。
……左右非対称の亜人の姿は、なんというか禍々しい。このナリで 攻撃力0とか言われても、にわかに信じがたい。
だが まあ 本当に攻撃力と守備力が「ゼロ」なのだとしても、それが使い魔の価値を決めるわけではない。
事実 ユベルは、人間に憑依するという 極めて厄介な先住魔法…らしきものを扱う。
「使い魔を見ればメイジの実力がわかる」というのが本当なら、魔法成功率が「ゼロ」の自分にだって 何らかの特殊能力がある…かもしれないのだ。
ルイズは 頭の中から劣等感を追い払うと、自分の顔と思考に前を向かせ、普段以上に胸を張って教室へ乗り込んだ。
■■■■■■
魔法学院の教室は、半円形…というか半すりばち形のホール的な作りになっている。大学の講堂に近い。
いちばん低い高度にある教壇と黒板を中心として、それを取り囲むように 座席が階段状に並んで広がっている。
使い魔の召喚後 最初の授業ということもあって、それぞれの使い魔を披露するため、教室の内外には多数の使い魔たちがいた。
教室に入ると、ルイズは 普段よりも ほかの生徒たちからの軽侮の視線が少ないことに気がついた。
そのことに 多少 気を良くする ルイズだったが、いつもと同じように いちばん後ろの席に着いた。
なぜか ユベルが ほかの使い魔たちに やたらと警戒されていることにも気づいたからだ。
ユベルは…と言うと、身長の問題なのか そもそも座る気が無いのか、ルイズの座席の背後で 腕組みをして立っている。
ほかの使い魔たちに警戒されてることについては、興味も無いようだ。
「ほう……」
何か思うところがあるのか、ユベルは さっきから教室の中を観察している。
「デュエルアカデミアの教室に似ているな……」
教室内を しばらく観察した後、ユベルが呟いた。
「でゅえるアカデミー?」
「あぁ、十代の通っていた学校のことだよ」
「え……? ジュウダイって、メイジなの……!? てっきり あんたと同じ種類の生き物だと思ってたんだけど……」
ルイズにとって「学校」とは、いわゆる魔法の学校のことだ。そこに通っている者といえば、当然ながら メイジである。
そもそも、ルイズは未だに自身の使い魔の素性を ほとんど知らない。昨日 ユベルが説明を省きまくったせいだ。
そのため ルイズは、ユベルが友達だと言う「ジュウダイ」という者について、ユベルと同種族の亜人だと 勝手に脳内補完していた。
「何を勘違いしているんだ。十代は人間だよ。それに彼は魔法使いじゃない……デュエリストだ」
「でゅえりすと?」
「そう……デュエリストとは、文字どおりデュエルをする者。デュエルアカデミアとは、デュエルを学ぶ場所。
そして デュエルとは、モンスター・魔法(マジック)・罠(トラップ)を使って行う決闘のことだよ」
「モンスターと、マジックと、トラップで…決闘……」
ルイズは想像してみようとする。モンスター…幻獣や亜人を使役し、魔法を操り、戦場に罠を張る、戦士の姿を。
罠については ともかく、幻獣と魔法で戦うということは、魔法衛士隊のようなものだろうか。
マンティコア隊の隊長だった偉大な母と グリフォン隊の隊長である憧れの人の姿が、頭に浮かぶ。
自分の使い魔が慕う「ジュウダイ」という男について、だんだんとイメージが固まってきた。
学校に通っている以上、まだ若く発展途上ではあるのだろうが、おそらく魔法衛士隊を目指せるようなエリートに違い無い。
(それに比べて わたしは……)
また少し 思考がネガティブな方向に傾き、会ったことも無い人物に対して 軽い嫉妬を覚える。
そんな自分が、また ちょっと嫌になった。
そうこうしてるうちに 扉が開き、教師らしき ふくよかな女性が入室してきた。
もちろん 彼女は教師なので 教壇に立つ。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって 春の新学期に 様々な使い魔たちを見るのが とても楽しみなのですよ」
そう言いつつ教室を見渡していた シュヴルーズは、微妙に使い魔たちに落ち着きが無いことに気づく。
が、召喚されたばかりで まだ馴染んでいないだけだろう、と 気にせず 授業を始めることにする。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します」
そうして、授業が始まった。
新学期1発目の授業だからか、情報収集目的で授業に参加しているユベルにとっては ありがたいことに、昨年度の復習のような内容の話だった。
もっとも、昨日 ルイズから受けた説明とも たいして変わらなかったのだが。
まとめると、この世界の魔法には「四大系統」と呼ばれる「火」「水」「風」「土」の4つの基本的な属性のようなものがあるらしい。
さらに「虚無」という系統もあるにはあるが、今は 使える者のいない 失われた伝説の系統なのだそうだ。
これに対して、ユベルの知る デュエルモンスターズの属性は、全部で7つ。
「炎」「水」「風」「地」「光」「闇」の基本属性6つに、この世に3種類1枚ずつしかカードが存在しない「神」という属性。
四大系統については、そのまま「炎」「水」「風」「地」に当て嵌めて考えても差し支え無いだろう。
問題は「虚無」の系統だ。残った「光」「闇」「神」のどれかに当たるのか、それとも複合的なものなのか、はたまた第八の属性なのか。
とにかく、これだけ共通点があるのだから、この世界でもデュエルモンスターズの精霊の力は有効だろう。と、ユベルは仮説を立てる。
事実、昨日 ルイズの魔法によって ユベルの額にルーンが刻まれる際、ルイズも額に痛みを感じている様子があった。
それこそが「表側攻撃表示のユベルが相手に攻撃された場合、その攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」というユベルの能力が発動した証拠だ。
ふと、ユベルはルイズを見る。
シュヴルーズの話は いつのまにか 自身の専門である土系統の自慢話のような内容にシフトしていたが、ルイズは生真面目にメモを取り続けている。
「……キミは真面目だねぇ。十代とは大違いだよ」
その言葉に反応して、ルイズが手を止める。
「ジュウダイって…不真面目だったの?」
意外だった。ルイズは ジュウダイという男に対して 魔法衛士隊のようなエリート的イメージを抱いていたからだ。
「あぁ……授業は すべて居眠りして、いつも落第ギリギリだったみたいだね」
「そ、そうなんだ……」
ルイズの中で、ジュウダイのエリート像が崩れ去る。
だが……
「でも、十代は……アカデミアで いちばん強いデュエリストだった」
「え……!?」
ルイズは耳を疑った。不真面目で落第ギリギリの人物が、学校で いちばん強いなんて。
「そのことを不満に思い、彼にデュエルを挑んだ教師もいたけど……十代は、どの生徒や先生よりも強かったからねぇ……」
さらに耳を疑う。
片や、まともに授業すら受けず 落第ギリギリのくせに、教師すら凌ぐ 学院トップの実力の持ち主である ジュウダイ。
片や、どれだけ勉強しても どれだけ練習しても どれだけ努力しても、魔法が使えない ゼロのルイズ。
……まさに正反対だ。
悔しかった。腹立たしかった。妬ましかった。
使い魔が、自分よりもジュウダイという友達のほうを慕っていることが。
そのジュウダイという人物が、圧倒的な天賦の才を持っていることが。
そして 何より、不甲斐無い自分自身が許せなかった。
ルイズは、無意識に 歯を食いしばり 拳を握り締めながら、教壇のシュヴルーズが『錬金』の実演として 小石を真鍮に変えるのを 眺めていた。
「ん……?」
すぐ傍の少女の 後ろ暗い心の機微を、ユベルは目ざとく嗅ぎつける。
この少女の心の闇は、自身や周囲の人間に対してだけではなく 会ったことも無い十代のほうにまで向こうとしている。
もしかしたら、十代を苦しませて 喜ばせるために 一役買ってくれるかもしれない。
「それでは……ミス・ヴァリエール」
「……!? は、はいっ!」
シュヴルーズがルイズを指名する。基礎的な『錬金』を生徒にも実演させてみるつもりらしい。
教室が ざわつき、キュルケが 魔法の実演をやめさせようと ルイズとシュヴルーズの両者に懇願する。
だが、ルイズは気にせず教壇へと向かう。シュヴルーズのほうも、やめさせるつもりは無いようだ。
その様子を見て、あきらめた生徒たちは机の下に避難を始める。
(なるほど……ルイズの起こす爆発から身を守ろうとしているのか)
ユベルがルイズの心の闇から読み取った情報によると、ルイズの使った魔法は成功せず 爆発を引き起こすらしい。
どんな魔法を試しても 正しい効果を発揮させられず 爆発させてしまうことから、彼女は「ゼロ」のルイズと呼ばれている。
(彼女の心の闇の原因……1度、この目で確認しておかないとね……)
ルイズが教壇に到達したときには、すべての生徒と使い魔たちが避難を完了していた。
今 この教室の中で 身を守る準備をしていないのは、ルイズとシュヴルーズ…そしてユベルだけだ。
ルイズは、意識を集中させて呪文を唱え、教壇の上の小石に杖を向ける。
顔も知らないジュウダイという男への対抗意識が、普段以上の集中力を生み出していた。
「……? あれは……!?」
ユベルが それに気づいたときには、もう遅かった。ルイズの魔法を受けた小石が爆発したのだ。
小石の乗っていた教壇は 跡形も無く吹き飛び、凄まじい爆風が教室中を襲う。
「っ!」
ユベルは とっさに背中の翼を盾にして 身を守った。
だが 次の瞬間、どこか馴染みのある感覚が、ユベルの体を翼ごと貫いた。
直接 命を削られるような……存在そのものを壊されるような……そんな感覚だった。
(なに……!?)
今回、ルイズが発生させた「爆発」は、過去最大級の威力だった。
当然ながら、被害も過去最大級で、爆心地に近いほど被害は大きい。
最も爆心地に近い列の机は、コナゴナの一歩手前までボロボロになり、そこに隠れていた生徒たちを守ることができなかった。
2番目に近い列の机は、かろうじて生徒を守ることはできたが、机・生徒ともに それなりのダメージを受けていた。
爆心地にいた ルイズとシュヴルーズは、さらに悲惨な有り様だった。
両者とも、爆風によって吹き飛ばされて 壁もしくは床に叩きつけられ、身体・衣服ともにボロボロになり、気を失っている。
普段なら教室中から聞こえてくるハズの ゼロのルイズに対する罵倒や嘲笑も、今回ばかりは 悲鳴に掻き消されてしまっている。
凄まじい爆音と衝撃を聞きつけて、数人の教師たちが教室へ駆け込んでくる。
(このボクが…ダメージを……)
ルイズ、シュヴルーズ、そして最前列にいた生徒たちが、応急処置を受けて医務室に運ばれていく中、ユベルは戦慄していた。
ユベルは「戦闘では破壊されない」「戦闘を行う場合、受けるダメージを0にする」という能力を持っている。
このハルケギニアでも デュエルモンスターズの精霊の力が有効だとするならば、ユベルがダメージを受けることはありえない。
だが、ルイズの発生させた「爆発」は、確かに ユベルに「ダメージ」を与えたのだ。しかも、爆心地から最も遠い位置にいた ユベルに。
(バカな……どういうことだ……!?)
ユベルは、ルイズの爆風を受けたときの感覚を思い出す。
直接 命を削られるような、存在そのものを壊されるような、そんな感覚。
それは、デュエルにおいて「ライフにダメージを与える効果」や「モンスターを破壊する効果」を受けたときの感覚に よく似ていた。
(それが彼女の『効果』だと言うのか……)
ルイズの「爆発」が、ただの魔法の失敗による偶然の産物なのか、それとも 彼女 本来の能力なのかは わからない。
また、この世界で いったい どれだけのメイジが あの「爆発」を扱えるのかも わからない。
だが、相当な実力者であるハズのタバサでさえ、授業前に出会ったとき 頭に流れ込んできた情報によれば、そんな能力は持っていなかった。
ただ1つ ハッキリしているのは、ルイズの「爆発」を使えば、デュエルを介さずに ユベルを倒すことができるかもしれないということだ。
(いずれにせよ……厄介だな……)
しばし熟考。そして、ユベルは1つの策を得る。
「爆発」への対抗手段が判明するまで、ルイズに魔法を使わせるわけにはいかない。
もちろん、ルイズと敵対するなど もってのほかだ。
だが、彼女が そう簡単に魔法を手放すとは思えない。
ならば、魔法以上に強く魅力的な「力」を示してやればいい。
魔法を忘れるくらい、その「力」に夢中にさせればいい。
ルイズが 十代のことをライバルとして意識し始めているのも、好都合だ。
何より、その「力」による戦いなら、あんな小娘に後れは取らない。
自分を倒せるデュエリストがいるとすれば、それは ほかでもない十代だけだ。
(ルイズ……キミには デュエリストになってもらうよ……)
#navi(攻撃力0の使い魔)
#navi(攻撃力0の使い魔)
ルイズと連れ立って教室へ向かうあいだ、ユベルは 自分の体に少しずつ力が戻りつつあるのを感じていた。
タバサの「心の闇」が、さっきユベルが彼女との間に作った「繋がり」を通して、ユベルの中に染み込んでくる。
実に心地良い 憎しみと悲しみ……哀れな娘だ。その短い人生で、いったい どれほどの苦痛と屈辱を味わってきたのだろう。
ユベルがタバサの心の闇から読み取った情報によると、タバサの母は エルフの薬によって心を壊され、人形を自分の娘だと思いこんでいるらしい。
そして、あろうことか 自分のことを誰よりも想ってくれているハズの実の娘をも敵だと思いこみ、激しく拒絶するのだそうだ。
そんな母を人質にとられている タバサこと シャルロット・エレーヌ・オルレアンは、現ガリア王朝に逆らうことができず、
「北花壇騎士・七号」として、服役中の死を目的とした危険な任務を強制されている。とのことだ。
……あー、くだらない。
つまり、タバサの母の 娘への愛情など、所詮 その程度……薬で壊せるレベルのものだったということだ。
薬の毒に負けて 愛する者のことすら正しく認識できなくなるとは、失望を通り越して興醒めすら感じる。
それに対して、娘のほうは なかなか立派なものだ。愛する者のために、どれだけ自分の手を汚してきたか。
だが どのみち、叔父への復讐を果たし 母を救ったところで、タバサが元のシャルロットに戻ることは叶わないだろう。
まあ、それも悪くない。彼女が今以上の闇に堕ちれば、自分の力も さらに高まることになる。
いっそ、彼女の心の闇を作った元凶であるジョゼフとやらにも力を与え、お互いに憎しみを思う存分ぶつけ合える舞台を用意してあげようか。
それに「無能王」と呼ばれる者の「心の闇」にも興味がある。
彼らを争わせ…傷つけ合わせ……彼らの ちっぽけな世界を 苦しみと悲しみで満たすというのもステキな考えだ。
だって、それこそが「愛」なのだから。十代が この身に刻みこんでくれた「愛」の表現なのだから。
じわじわとタバサの心の闇を取り込み、ユベルの「力」と「狂気」が再生していく……
ユベルの中で、次元移動の際に消費した力が回復するにつれ、その力と共に失っていたハズの狂気までもが取り戻されようとしていた。
■■■■■■
ユベルと連れ立って教室へ向かうあいだ、ルイズは 今朝の「心の闇」談義について ユベルに質問しようかどうか迷っていた。
歩きながら、時々 ユベルのほうをチラっと見ては、そのまま何も言わずに 足元に視線を落とす……という動作を繰り返す。
ルイズが 今朝の「心の闇」談義について質問したいことは 2つ。
まず1つめは、自分の同級生に「心に深い闇を抱えた」らしい優秀なメイジがいるということについて。
これは…まあいい。そのメイジというのが 誰を指しているのかはともかく、貴族の世界の「闇」であれば、ルイズにも ある程度 見当がつく。
今さら深く考察するまでもないし、他人の家の都合にまで首を突っ込むような お節介な真似をするつもりは無い。
そして 2つめ。さっきから ルイズが 最も気になっていること……ユベルが見たという ルイズの心の闇について。
(やっぱり…まず間違い無く『あのこと』よね……)
自覚はある。貴族のくせに魔法が使えないメイジ:ゼロのルイズ。落ちこぼれ、ヴァリエールの面汚し、出来損ない。
努力が足りないと母親に叱られ、平民の使用人に陰で蔑まれ、デカ乳女に嫌味を言われ、クラスメイトに罵倒と嘲笑を浴びせられ……
ネガティブマインドが込み上げてきて、無意識に顔を伏せ 俯いてしまう。
(……って! だから使い魔の召喚と契約は成功してるでしょうが!)
そう思い直して 背筋を伸ばす。
自分の召喚した使い魔のほうを見る。
翼があるのに それらを動かすこともなく、立ったままの姿勢で低空飛行…いや 低空浮遊している。
……左右非対称の亜人の姿は、なんというか禍々しい。このナリで 攻撃力0とか言われても、にわかに信じがたい。
だが まあ 本当に攻撃力と守備力が「ゼロ」なのだとしても、それが使い魔の価値を決めるわけではない。
事実 ユベルは、人間に憑依するという 極めて厄介な先住魔法…らしきものを扱う。
「使い魔を見ればメイジの実力がわかる」というのが本当なら、魔法成功率が「ゼロ」の自分にだって 何らかの特殊能力がある…かもしれないのだ。
ルイズは 頭の中から劣等感を追い払うと、自分の顔と思考に前を向かせ、普段以上に胸を張って教室へ乗り込んだ。
■■■■■■
魔法学院の教室は、半円形…というか半すりばち形のホール的な作りになっている。大学の講堂に近い。
いちばん低い高度にある教壇と黒板を中心として、それを取り囲むように 座席が階段状に並んで広がっている。
使い魔の召喚後 最初の授業ということもあって、それぞれの使い魔を披露するため、教室の内外には多数の使い魔たちがいた。
教室に入ると、ルイズは 普段よりも ほかの生徒たちからの軽侮の視線が少ないことに気がついた。
そのことに 多少 気を良くする ルイズだったが、いつもと同じように いちばん後ろの席に着いた。
なぜか ユベルが ほかの使い魔たちに やたらと警戒されていることにも気づいたからだ。
ユベルは…と言うと、身長の問題なのか そもそも座る気が無いのか、ルイズの座席の背後で 腕組みをして立っている。
ほかの使い魔たちに警戒されてることについては、興味も無いようだ。
「ほう……」
何か思うところがあるのか、ユベルは さっきから教室の中を観察している。
「デュエルアカデミアの教室に似ているな……」
教室内を しばらく観察した後、ユベルが呟いた。
「でゅえるアカデミー?」
「あぁ、十代の通っていた学校のことだよ」
「え……? ジュウダイって、メイジなの……!? てっきり あんたと同じ種類の生き物だと思ってたんだけど……」
ルイズにとって「学校」とは、いわゆる魔法の学校のことだ。そこに通っている者といえば、当然ながら メイジである。
そもそも、ルイズは未だに自身の使い魔の素性を ほとんど知らない。昨日 ユベルが説明を省きまくったせいだ。
そのため ルイズは、ユベルが友達だと言う「ジュウダイ」という者について、ユベルと同種族の亜人だと 勝手に脳内補完していた。
「何を勘違いしているんだ。十代は人間だよ。それに彼は魔法使いじゃない……デュエリストだ」
「でゅえりすと?」
「そう……デュエリストとは、文字どおりデュエルをする者。デュエルアカデミアとは、デュエルを学ぶ場所。
そして デュエルとは、モンスター・魔法(マジック)・罠(トラップ)を使って行う決闘のことだよ」
「モンスターと、マジックと、トラップで…決闘……」
ルイズは想像してみようとする。モンスター…幻獣や亜人を使役し、魔法を操り、戦場に罠を張る、戦士の姿を。
罠については ともかく、幻獣と魔法で戦うということは、魔法衛士隊のようなものだろうか。
マンティコア隊の隊長だった偉大な母と グリフォン隊の隊長である憧れの人の姿が、頭に浮かぶ。
自分の使い魔が慕う「ジュウダイ」という男について、だんだんとイメージが固まってきた。
学校に通っている以上、まだ若く発展途上ではあるのだろうが、おそらく魔法衛士隊を目指せるようなエリートに違い無い。
(それに比べて わたしは……)
また少し 思考がネガティブな方向に傾き、会ったことも無い人物に対して 軽い嫉妬を覚える。
そんな自分が、また ちょっと嫌になった。
そうこうしてるうちに 扉が開き、教師らしき ふくよかな女性が入室してきた。
もちろん 彼女は教師なので 教壇に立つ。
「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって 春の新学期に 様々な使い魔たちを見るのが とても楽しみなのですよ」
そう言いつつ教室を見渡していた シュヴルーズは、微妙に使い魔たちに落ち着きが無いことに気づく。
が、召喚されたばかりで まだ馴染んでいないだけだろう、と 気にせず 授業を始めることにする。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します」
そうして、授業が始まった。
新学期1発目の授業だからか、情報収集目的で授業に参加しているユベルにとっては ありがたいことに、昨年度の復習のような内容の話だった。
もっとも、昨日 ルイズから受けた説明とも たいして変わらなかったのだが。
まとめると、この世界の魔法には「四大系統」と呼ばれる「火」「水」「風」「土」の4つの基本的な属性のようなものがあるらしい。
さらに「虚無」という系統もあるにはあるが、今は 使える者のいない 失われた伝説の系統なのだそうだ。
これに対して、ユベルの知る デュエルモンスターズの属性は、全部で7つ。
「炎」「水」「風」「地」「光」「闇」の基本属性6つに、この世に3種類1枚ずつしかカードが存在しない「神」という属性。
四大系統については、そのまま「炎」「水」「風」「地」に当て嵌めて考えても差し支え無いだろう。
問題は「虚無」の系統だ。残った「光」「闇」「神」のどれかに当たるのか、それとも複合的なものなのか、はたまた第八の属性なのか。
とにかく、これだけ共通点があるのだから、この世界でもデュエルモンスターズの精霊の力は有効だろう。と、ユベルは仮説を立てる。
事実、昨日 ルイズの魔法によって ユベルの額にルーンが刻まれる際、ルイズも額に痛みを感じている様子があった。
それこそが「表側攻撃表示のユベルが相手に攻撃された場合、その攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」というユベルの能力が発動した証拠だ。
ふと、ユベルはルイズを見る。
シュヴルーズの話は いつのまにか 自身の専門である土系統の自慢話のような内容にシフトしていたが、ルイズは生真面目にメモを取り続けている。
「……キミは真面目だねぇ。十代とは大違いだよ」
その言葉に反応して、ルイズが手を止める。
「ジュウダイって…不真面目だったの?」
意外だった。ルイズは ジュウダイという男に対して 魔法衛士隊のようなエリート的イメージを抱いていたからだ。
「あぁ……授業は すべて居眠りして、いつも落第ギリギリだったみたいだね」
「そ、そうなんだ……」
ルイズの中で、ジュウダイのエリート像が崩れ去る。
だが……
「でも、十代は……アカデミアで いちばん強いデュエリストだった」
「え……!?」
ルイズは耳を疑った。不真面目で落第ギリギリの人物が、学校で いちばん強いなんて。
「そのことを不満に思い、彼にデュエルを挑んだ教師もいたけど……十代は、どの生徒や先生よりも強かったからねぇ……」
さらに耳を疑う。
片や、まともに授業すら受けず 落第ギリギリのくせに、教師すら凌ぐ 学院トップの実力の持ち主である ジュウダイ。
片や、どれだけ勉強しても どれだけ練習しても どれだけ努力しても、魔法が使えない ゼロのルイズ。
……まさに正反対だ。
悔しかった。腹立たしかった。妬ましかった。
使い魔が、自分よりもジュウダイという友達のほうを慕っていることが。
そのジュウダイという人物が、圧倒的な天賦の才を持っていることが。
そして 何より、不甲斐無い自分自身が許せなかった。
ルイズは、無意識に 歯を食いしばり 拳を握り締めながら、教壇のシュヴルーズが『錬金』の実演として 小石を真鍮に変えるのを 眺めていた。
「ん……?」
すぐ傍の少女の 後ろ暗い心の機微を、ユベルは目ざとく嗅ぎつける。
この少女の心の闇は、自身や周囲の人間に対してだけではなく 会ったことも無い十代のほうにまで向こうとしている。
もしかしたら、十代を苦しませて 喜ばせるために 一役買ってくれるかもしれない。
「それでは……ミス・ヴァリエール」
「……!? は、はいっ!」
シュヴルーズがルイズを指名する。基礎的な『錬金』を生徒にも実演させてみるつもりらしい。
教室が ざわつき、キュルケが 魔法の実演をやめさせようと ルイズとシュヴルーズの両者に懇願する。
だが、ルイズは気にせず教壇へと向かう。シュヴルーズのほうも、やめさせるつもりは無いようだ。
その様子を見て、あきらめた生徒たちは机の下に避難を始める。
(なるほど……ルイズの起こす爆発から身を守ろうとしているのか)
ユベルがルイズの心の闇から読み取った情報によると、ルイズの使った魔法は成功せず 爆発を引き起こすらしい。
どんな魔法を試しても 正しい効果を発揮させられず 爆発させてしまうことから、彼女は「ゼロ」のルイズと呼ばれている。
(彼女の心の闇の原因……1度、この目で確認しておかないとね……)
ルイズが教壇に到達したときには、すべての生徒と使い魔たちが避難を完了していた。
今 この教室の中で 身を守る準備をしていないのは、ルイズとシュヴルーズ…そしてユベルだけだ。
ルイズは、意識を集中させて呪文を唱え、教壇の上の小石に杖を向ける。
顔も知らないジュウダイという男への対抗意識が、普段以上の集中力を生み出していた。
「……? あれは……!?」
ユベルが それに気づいたときには、もう遅かった。ルイズの魔法を受けた小石が爆発したのだ。
小石の乗っていた教壇は 跡形も無く吹き飛び、凄まじい爆風が教室中を襲う。
「っ!」
ユベルは とっさに背中の翼を盾にして 身を守った。
だが 次の瞬間、どこか馴染みのある感覚が、ユベルの体を翼ごと貫いた。
直接 命を削られるような……存在そのものを壊されるような……そんな感覚だった。
(なに……!?)
今回、ルイズが発生させた「爆発」は、過去最大級の威力だった。
当然ながら、被害も過去最大級で、爆心地に近いほど被害は大きい。
最も爆心地に近い列の机は、コナゴナの一歩手前までボロボロになり、そこに隠れていた生徒たちを守ることができなかった。
2番目に近い列の机は、かろうじて生徒を守ることはできたが、机・生徒ともに それなりのダメージを受けていた。
爆心地にいた ルイズとシュヴルーズは、さらに悲惨な有り様だった。
両者とも、爆風によって吹き飛ばされて 壁もしくは床に叩きつけられ、身体・衣服ともにボロボロになり、気を失っている。
普段なら教室中から聞こえてくるハズの ゼロのルイズに対する罵倒や嘲笑も、今回ばかりは 悲鳴に掻き消されてしまっている。
凄まじい爆音と衝撃を聞きつけて、数人の教師たちが教室へ駆け込んでくる。
(このボクが…ダメージを……)
ルイズ、シュヴルーズ、そして最前列にいた生徒たちが、応急処置を受けて医務室に運ばれていく中、ユベルは戦慄していた。
ユベルは「戦闘では破壊されない」「戦闘を行う場合、受けるダメージを0にする」という能力を持っている。
このハルケギニアでも デュエルモンスターズの精霊の力が有効だとするならば、ユベルがダメージを受けることはありえない。
だが、ルイズの発生させた「爆発」は、たしかに ユベルに「ダメージ」を与えたのだ。しかも、爆心地から最も遠い位置にいた ユベルに。
(バカな……どういうことだ……!?)
ユベルは、ルイズの爆風を受けたときの感覚を思い出す。
直接 命を削られるような、存在そのものを壊されるような、そんな感覚。
それは、デュエルにおいて「ライフにダメージを与える効果」や「モンスターを破壊する効果」を受けたときの感覚に よく似ていた。
(それが彼女の『効果』だと言うのか……)
ルイズの「爆発」が、ただの魔法の失敗による偶然の産物なのか、それとも 彼女 本来の能力なのかは わからない。
また、この世界で いったい どれだけのメイジが あの「爆発」を扱えるのかも わからない。
だが、相当な実力者であるハズのタバサでさえ、授業前に出会ったとき 頭に流れ込んできた情報によれば、そんな能力は持っていなかった。
ただ1つ ハッキリしているのは、ルイズの「爆発」を使えば、デュエルを介さずに ユベルを倒すことができるかもしれないということだ。
(いずれにせよ……厄介だな……)
しばし熟考。そして、ユベルは1つの策を得る。
「爆発」への対抗手段が判明するまで、ルイズに魔法を使わせるわけにはいかない。
もちろん、ルイズと敵対するなど もってのほかだ。
だが、彼女が そう簡単に魔法を手放すとは思えない。
ならば、魔法以上に強く魅力的な「力」を示してやればいい。
魔法を忘れるくらい、その「力」に夢中にさせればいい。
ルイズが 十代のことをライバルとして意識し始めているのも、好都合だ。
何より、その「力」による戦いなら、あんな小娘に後れは取らない。
自分を倒せるデュエリストがいるとすれば、それは ほかでもない十代だけだ。
(ルイズ……キミには デュエリストになってもらうよ……)
#navi(攻撃力0の使い魔)
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