「萌え萌えゼロ大戦(略)-05」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「萌え萌えゼロ大戦(略)-05」(2009/08/20 (木) 18:44:47) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
トリステイン魔法学院の中央本塔の中に、とりわけ厳重に施錠された扉がある。学院の
秘宝を納めた宝物庫の扉――その扉の前に、指揮棒のような杖を手にした翠の髪の女が
立っていた。
「……扉にかけられし戒めを――……解き放て」
何も起こらない。女は小さくため息をつく。
「やっぱりこっちは駄目か。鍵穴は飾りだし鍵自体に相当強力な『固定化』の呪文が
かけられているわね。
私の得意な『錬金』の呪文でも開かないとは……厄介だわ」
全く手間ばかりかかる――女は独りごちる。
「やっぱり……あの子たちに協力してもらうしかないかしら?」
「そこで何をしているのですか!」
女の後ろ姿がランプの明かりに照らされる。そして誰何の声。女が振り向くと、そこには
眼鏡をかけた頭のやや寂しい中年のメイジ、コルベールが立っていた。
「ミス・ロングビル?何故こんなところに?」
女――ロングビルは柔和な仮面をコルベールに向ける。
「ミスタ・コルベール。……実は宝物庫の目録を作ろうと思って来たのですが、オールド・
オスマンに鍵を借りるのを忘れてしまいまして」
「それは大変ですなー」
コルベールはまるで自分が困っているかのような顔をする。
「私ったらうっかりしていましたわ。失礼します」
「あ、待ってください!」
会釈してその場を去ろうとするロングビルをコルベールが呼び止める。
「な、何か?」
「……もし、よろしかったら……昼食をご一緒にいかがですかな?」
真っ赤な顔をしたコルベール。ロングビルは内心吹き出しそうになっているのを完璧に
仮面の奥に隠した笑顔で答える。
「――よろこんで」
「本当ですか?」
「ええ。――ところで、ミスタ・コルベール。『破壊の杖』をごぞんじ?」
ロングビルの質問にコルベールは喜色満面で答える。
「あぁ。見たことありますぞ。何というか……説明のしようがない奇妙な形をしていましたな。
『杖』といわれればそうなのかもしれませんが、見ただけではあれが何故『破壊』の名を
冠しているのか理解しがたいですな」
「――そうですか」
ロングビルの眼鏡の奥に妖しい光が宿る。だが、コルベールはそれに全く気づかなかった。
「それより!料理長が東方の珍しい食材を手に入れたとのことで、オールド・オスマンと
あと二人しか食することができないという特別料理をお召し上がりになりませんか?」
「お気遣いなく!『本日のメニュー』で結構ですわ」
「そ……そうですか……」
あからさまに落胆するコルベール。ロングビルは笑みを向けながら、すでにコルベールへの
興味は失っていた――
ロングビルとコルベールがそのような会話をしていたときから時系列を少しさかのぼる。
ヴェストリの広場での決闘の後、ギーシュとふがく、そしてルイズの3人は学院長室に
呼び出されていた。
室内には3人以外にはオスマンとロングビルがいる。ロングビルは書類をこなしながら、
それとなくオスマンたちの会話に耳をそばだてる。
「……双方の言い分は分かった。怪我人がおらん以上は謹慎まではする必要もあるまい。
ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールはそれぞれ反省文を書いて提出しなさい。
ミスタ・グラモンはもうええぞ。退出しなさい」
ルイズとギーシュからことのあらまし、そしてふがくのことを聞いたオスマンは、学院長室の
机からルイズとギーシュを見る。その姿は伝説のメイジにふさわしい威厳にあふれていた。
「どうしてルイズが罰を受けるのよ!私が悪いっていうなら……」
「ふがく!あんたはわたしの使い魔なの!使い魔の不始末は主人の責任よ」
ギーシュが学院長室を辞した後、ふがくが憤りをあらわにするが、ルイズがそれを封じた。
「……フガクというたかの?少し話を聞きたいが」
「失礼ですが、私は『ふがく』です。訂正いただきたいですね。オールド・オスマン」
「ふがく!」
オスマンの言葉にふがくが普段よりは丁寧な言葉で訂正を求める。ルイズがそれを
制しようとしたが、逆にオスマンに制された。
「気にしとらんよ、ミス・ヴァリエール。いつもながら東方の発音はハルケギニアの人間には
少し癖があるように聞こえての。
では、ふがく。おまえさん、ミス・ヴァリエールが釘を刺していなかったら本当にヴェストリの
広場ごと吹き飛ばすなどというマネをするつもりだったのかの?」
「できるか、と聞かれたらできると答えるわ。私はもともと敵国を爆撃で破壊するために
造られた鋼の乙女だから。でも、今回そうするつもりだったか、と聞かれたら答えはいいえよ」
「国を破壊するとは大きく出たの。じゃが、まぁそうじゃろう。でなければあんな塗料の樽を
ゴーレムに落とすだけでお茶を濁すこともあるまい。それでも、今のおまえさんはワシらには
十分すぎる驚異となる――」
「オ、オールド・オスマン!ふがくは、わたしがしっかりと手綱を握りますから!」
オスマンの言葉にルイズが割って入る。オスマンは椅子から立ち上がると、陽が傾き始めた
空を見る。
「――ワシらは無益な争いは好まん」
「解ったわ。自衛以外で生徒は傷つけないと約束する」
「そうしてもらえると助かるの。
それから、おまえさんのことはさっきミス・ヴァリエールから聞いたとおり教師や生徒に
伝えるぞ。極東――東方の東の果てにある帝国から召喚されたガーゴイル、とな。
とにかくおまえさんの正体が分からんで妙な気を起こしかねんのがおるからの。
向こうで将校扱いされとることまで流せば自制が効くじゃろ」
実はルイズはふがくが『別世界から召喚された』ことは話していない。自分自身が信じて
いないためだ。そのため、そのままを聞いたオスマンはそう言って水たばこに火をつける
――が、それはオスマンの手を離れ、指揮棒のような杖を手にしたロングビルの手に落ちた。
「……オールド・オスマン。生徒の前ですよ」
「つれないのう。まぁ、ええわい。
ミス・ヴァリエール。アルヴィーズの食堂の件も事後承諾で認める。ふがくは国交もない
他国とはいえ将校待遇の者を使い魔にしたということで准貴族として扱おう……この学院の
中に限り、じゃがの」
「あ、ありがとうございます。オールド・オスマン」
ルイズが深々と頭を下げる。ふがくもそれに倣った。
「うむ。先ほどの言葉、忘れるでないぞ――」
学院長室を辞したルイズとふがくを、ギーシュ、キュルケ、タバサ、モンモランシーが
待っていた。ギーシュの頬が赤く腫れていたのは気のせいだと思いたい。今まであまり
接点のなかった組み合わせに、ルイズが思わず尋ねる。
「……どういう風の吹きまわし?」
「僕はちゃんとした用件があったさ。そうしたらモンモランシーたちが上がってきたのさ」
そう答えたのはギーシュ。ギーシュはそう言うと、ルイズに向かって深々と頭を下げた。
「……君を侮辱したことを謝罪する。今後君のことをあのような言葉で侮辱することはないと誓うよ」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったよう――そう表現するしかないような表情をルイズが見せる。
そこにギーシュが言葉を継ぐ。
「モンモランシーにはさっき謝った。ケティには、後で謝りに行くつもりだよ」
「許してあげたら?ルイズ。さっきのギーシュは見物だったけどね」
そう言うキュルケは笑っていた。ルイズもそう言われては拒否する理由は全くない。
「そ、そうね。でもギーシュ。これに懲りたら、もうつまらないことはしない方が身のためよ?」
「ああ、解ってる。僕が一番愛しているのはモンモランシーだからね」
「……だ・か・ら、そこでどうして私だけって言えないのよ貴方は!」
「おぐぉ!?」
モンモランシーの肘鉄がギーシュの脇腹にもろに入る。悶絶するギーシュを横目に、
タバサがふがくに話しかける。
「……どうしてあんな警告をしたの?」
「どういうこと?」
「……決闘のとき。最初に見物人に離れるように警告した。それもかなり遠くに。
最初から『ワルキューレ』だけを狙うつもりなら必要がないはず」
まっすぐ見つめてくるタバサの視線をふがくは真っ正面から受け止めて答える。
「決まってるでしょ?実弾を使うつもりだったからよ。『ワルキューレ』の脅威が判らなかったから、
演習弾がなかったら、そうするしかなかったし」
「あの銃だけでは不足?」
タバサはふがくが使った機関短銃を非常に脅威ととらえていた。先込めのマスケット銃が
最新鋭のハルケギニア諸国には、ふがくの持っているような高速連射が可能な連発銃は
出所が不明な『場違いな工芸品』に類されるもの以外ほぼ存在しない。
ふがくたちは知るよしもないが、今回の決闘の後、学院長室に呼び出された彼女たちと
入れ替わりに退出したコルベールがヴェストリの広場に残された空薬莢を回収している。
タバサはふがくの高度からなら最初から『ワルキューレ』どころかギーシュを狙い撃つことも
できたと考えていた。
「だから、『ワルキューレ』がどんな材質でどういう構造か判んないし、私の知ってる
『青銅』とこっちのそれが同じかどうかも判んないんじゃ、最初からある程度の攻撃力を
持たせないとどうしようもないじゃない。
今回は爆撃演習弾で何とかなったからよかったけど、もし効かなくて銃撃でもどうにも
ならなかったら、もう一回警告してから高度上げて爆弾で精密爆撃やって吹っ飛ばすか
拡散式爆弾で焼き尽くすしかないって思ってたし」
「……ごめんなさい。よく分からない……」
タバサが困った顔をする。いつの間にかルイズたちも二人の会話に聞き入っていた。
特に当事者だったせいか、ギーシュの顔色は良くない。
「……参考までに聞いておきたいのだけど……その『バクダン』と、『カクサンシキバクダン』と
いうのを使っていた場合、僕はどうなっていたのかな?」
ギーシュの声には怯えが混じっているが、ふがくは気にすることもなくあっさりと答える。
「爆弾は軍艦や戦車、施設を破壊するためのものだから、まぁギーシュと『ワルキューレ』の
距離だったらあの位置でも見物人を巻き込むことはなかったわね。ぎりぎりだけど。
拡散式爆弾だったら……あれは着弾地点からおおよそ半径450メイルの範囲を焼き尽くすから……」
「も、もういいよ!分かったから!」
どちらにしても自分は助からなかったことを理解したギーシュが、それ以上ふがくが
説明するのを止める。そのギーシュの上着の袖をモンモランシーが握りしめていた。
「だから警告してからって言ったじゃない!ルイズと約束したし無警告で爆撃しようなんて
考えてなかったわよ!」
「まぁ、ギーシュが助かったことには変わりないじゃない。
でも、火のメイジでもそれだけの範囲を焼き尽くすのって結構無茶よ。本当にできるの?」
『火』の話題だけあって、キュルケが前に出てくる。
「できるわよ。弾薬の補充できないから今すぐやって見せるわけにはいかないけど……」
そう言ってふがくが懐に手を入れて何かを出す――それはヴェストリの広場で見せたような
形をしていたがそれよりも大きく、サイズはふがくの腕についているものとほぼ同じ。
先端に黄色の線がぐるりと回されて、後ろの羽がねじれた形で四角い枠に固定されていた。
「これが拡散式爆弾」
「……ということは、フガクの腕についてるのも、もしかして……全部、爆弾?」
キュルケが言う。その顔はやや青ざめて、言葉には若干の怯えが混じっていた。
「そうよ?それがどうかした?……って、わたしは『ふがく』!『フガク』なんて呼ばないで!」
怒るふがくにルイズが呆れるように言う。
「どうでもいいわよ、そんなこと」
「よくない!」
「……いいの!
まったく。さっきも思ったけど、いったいあんたのどこにそんなのが収まってるのよ?
ちょっと見せなさい!」
「ちょ、ちょっと!どこさわって!」
キュルケが何を心配しているのか気づきもせず、ルイズがふがくの懐に手を入れようとする。
「ル……ルイズ?止めなさいって!」
キュルケがルイズの腕をつかむ。ルイズがふがくの懐から引っ張り出した手には、
自分の手のひらには余るような大きさの金属の筒が握られていた。
「……なにこれ?」
ルイズがその手につかんだものを見る。それは銀色に輝く鉄の筒のようで、完全に密封されていた。
筒の側面には見たこともないささくれだったフルーツのような絵と、多分それの皮をむいて
芯を取った黄色いリングのようなものを盛りつけたような絵が描かれた紙が巻かれている。
文字も書かれているのだが、それはルイズたちの誰も見たこともない文字だった。
「パイン缶よ。それ。
……まったく。なんでこんなのがここに入ってるのよ……あるんだったらさっさと食べてたら
こんなことにならなくて済んだのに」
気づかなかった自分を恥じるかのようにふがくが渋面を作る。改めてふがくが自分の懐を
探ると、同じものが2つ出てきた。
「パイン……カン?」
ルイズは手に持った金属の筒――パイン缶をしげしげと眺める。それは鉄のようだが
銀色の光沢があり、完全に密閉されていてふたもなかったため、どういうものなのか
想像もできない。
「そこに絵が描いてあるパイナップルっていう果物のシロップ漬け缶詰よ。密閉してあるから
長期間保存できるし空挺補給作戦で武器や食料と一緒に地面に投げ落としても
まぁ大丈夫、ってものね」
「……つまり、これは食べ物?」
タバサが聞く。その目はどことなく輝いているようにも見えた。
「これが食べ物って言われても想像つかないわね。こんなのどうやって中身を食べるのよ?」
ルイズが缶をいじるが、ふたが圧着された缶にはどこにも開けられるようなところが
見つからない。
そうやっているうちに、ふがくは袖口から見慣れない器具を取り出した。
「昔は銃剣とかノミと金槌とかを使ってたらしいけど、今はこれを使うのよ」
そう言ってふがくが全員に見せたのは、持ち手が妙に太い折りたたみ式のナイフ。
そこから小さなかぎ爪状ナイフ――缶切り――を引き出してみせるが、一見してどう使うのは
誰にも理解できなかった。
「ここじゃなんだし、食堂へ行きましょ。そこで詳しく説明してあげる」
そう言ってふがくが階下への階段を下り始める。その後ろ姿を見るキュルケたちには
先ほどの恐怖もどこへやら、未知の食べ物への興味が勝った今は、もう怯えの表情など
かけらも見られなかった。
「……まったく。何を話しておるのかと思えば……物騒なことを」
そう言ってオスマンは『遠見の鏡』に映るふがくたちの姿を消す。
『センシャ』はよく分からないが、半径450メイルを焼き尽くすものとは、尋常ではない。
これはもう少し念を押す必要がある、とオスマンは考えていた。
一方――
(これは……時間かけてちまちま外壁や鍵を『錬金』し続けるよりずっと何とかなるかもしれないねぇ……)
ロングビルがその柔らかな仮面の裏でオスマンにも気取られぬよう、ほくそ笑んでいた――
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
トリステイン魔法学院の中央本塔の中に、とりわけ厳重に施錠された扉がある。学院の
秘宝を納めた宝物庫の扉――その扉の前に、指揮棒のような杖を手にした翠の髪の女が
立っていた。
「……扉にかけられし戒めを――……解き放て」
何も起こらない。女は小さくため息をつく。
「やっぱりこっちは駄目か。鍵穴は飾りだし鍵自体に相当強力な『固定化』の呪文が
かけられているわね。
私の得意な『錬金』の呪文でも開かないとは……厄介だわ」
全く手間ばかりかかる――女は独りごちる。
「やっぱり……あの子たちに協力してもらうしかないかしら?」
「そこで何をしているのですか!」
女の後ろ姿がランプの明かりに照らされる。そして誰何の声。女が振り向くと、そこには
眼鏡をかけた頭のやや寂しい中年のメイジ、コルベールが立っていた。
「ミス・ロングビル?何故こんなところに?」
女――ロングビルは柔和な仮面をコルベールに向ける。
「ミスタ・コルベール。……実は宝物庫の目録を作ろうと思って来たのですが、オールド・
オスマンに鍵を借りるのを忘れてしまいまして」
「それは大変ですなー」
コルベールはまるで自分が困っているかのような顔をする。
「私ったらうっかりしていましたわ。失礼します」
「あ、待ってください!」
会釈してその場を去ろうとするロングビルをコルベールが呼び止める。
「な、何か?」
「……もし、よろしかったら……昼食をご一緒にいかがですかな?」
真っ赤な顔をしたコルベール。ロングビルは内心吹き出しそうになっているのを完璧に
仮面の奥に隠した笑顔で答える。
「――よろこんで」
「本当ですか?」
「ええ。――ところで、ミスタ・コルベール。『破壊の杖』をごぞんじ?」
ロングビルの質問にコルベールは喜色満面で答える。
「あぁ。見たことありますぞ。何というか……説明のしようがない奇妙な形をしていましたな。
『杖』といわれればそうなのかもしれませんが、見ただけではあれが何故『破壊』の名を
冠しているのか理解しがたいですな」
「――そうですか」
ロングビルの眼鏡の奥に妖しい光が宿る。だが、コルベールはそれに全く気づかなかった。
「それより!料理長が東方の珍しい食材を手に入れたとのことで、オールド・オスマンと
あと二人しか食することができないという特別料理をお召し上がりになりませんか?」
「お気遣いなく!『本日のメニュー』で結構ですわ」
「そ……そうですか……」
あからさまに落胆するコルベール。ロングビルは笑みを向けながら、すでにコルベールへの
興味は失っていた――
ロングビルとコルベールがそのような会話をしていたときから時系列を少しさかのぼる。
ヴェストリの広場での決闘の後、ギーシュとふがく、そしてルイズの3人は学院長室に
呼び出されていた。
室内には3人以外にはオスマンとロングビルがいる。ロングビルは書類をこなしながら、
それとなくオスマンたちの会話に耳をそばだてる。
「……双方の言い分は分かった。怪我人がおらん以上は謹慎まではする必要もあるまい。
ミスタ・グラモンとミス・ヴァリエールはそれぞれ反省文を書いて提出しなさい。
ミスタ・グラモンはもうええぞ。退出しなさい」
ルイズとギーシュからことのあらまし、そしてふがくのことを聞いたオスマンは、学院長室の
机からルイズとギーシュを見る。その姿は伝説のメイジにふさわしい威厳にあふれていた。
「どうしてルイズが罰を受けるのよ!私が悪いっていうなら……」
「ふがく!あんたはわたしの使い魔なの!使い魔の不始末は主人の責任よ」
ギーシュが学院長室を辞した後、ふがくが憤りをあらわにするが、ルイズがそれを封じた。
「……フガクというたかの?少し話を聞きたいが」
「失礼ですが、私は『ふがく』です。訂正いただきたいですね。オールド・オスマン」
「ふがく!」
オスマンの言葉にふがくが普段よりは丁寧な言葉で訂正を求める。ルイズがそれを
制しようとしたが、逆にオスマンに制された。
「気にしとらんよ、ミス・ヴァリエール。いつもながら東方の発音はハルケギニアの人間には
少し癖があるように聞こえての。
では、ふがく。おまえさん、ミス・ヴァリエールが釘を刺していなかったら本当にヴェストリの
広場ごと吹き飛ばすなどというマネをするつもりだったのかの?」
「できるか、と聞かれたらできると答えるわ。私はもともと敵国を爆撃で破壊するために
造られた鋼の乙女だから。でも、今回そうするつもりだったか、と聞かれたら答えはいいえよ」
「国を破壊するとは大きく出たの。じゃが、まぁそうじゃろう。でなければあんな塗料の樽を
ゴーレムに落とすだけでお茶を濁すこともあるまい。それでも、今のおまえさんはワシらには
十分すぎる驚異となる――」
「オ、オールド・オスマン!ふがくは、わたしがしっかりと手綱を握りますから!」
オスマンの言葉にルイズが割って入る。オスマンは椅子から立ち上がると、陽が傾き始めた
空を見る。
「――ワシらは無益な争いは好まん」
「解ったわ。自衛以外で生徒は傷つけないと約束する」
「そうしてもらえると助かるの。
それから、おまえさんのことはさっきミス・ヴァリエールから聞いたとおり教師や生徒に
伝えるぞ。極東――東方の東の果てにある帝国から召喚されたガーゴイル、とな。
とにかくおまえさんの正体が分からんで妙な気を起こしかねんのがおるからの。
向こうで将校扱いされとることまで流せば自制が効くじゃろ」
実はルイズはふがくが『別世界から召喚された』ことは話していない。自分自身が信じて
いないためだ。そのため、そのままを聞いたオスマンはそう言って水たばこに火をつける
――が、それはオスマンの手を離れ、指揮棒のような杖を手にしたロングビルの手に落ちた。
「……オールド・オスマン。生徒の前ですよ」
「つれないのう。まぁ、ええわい。
ミス・ヴァリエール。アルヴィーズの食堂の件も事後承諾で認める。ふがくは国交もない
他国とはいえ将校待遇の者を使い魔にしたということで准貴族として扱おう……この学院の
中に限り、じゃがの」
「あ、ありがとうございます。オールド・オスマン」
ルイズが深々と頭を下げる。ふがくもそれに倣った。
「うむ。先ほどの言葉、忘れるでないぞ――」
学院長室を辞したルイズとふがくを、ギーシュ、キュルケ、タバサ、モンモランシーが
待っていた。ギーシュの頬が赤く腫れていたのは気のせいだと思いたい。今まであまり
接点のなかった組み合わせに、ルイズが思わず尋ねる。
「……どういう風の吹きまわし?」
「僕はちゃんとした用件があったさ。そうしたらモンモランシーたちが上がってきたのさ」
そう答えたのはギーシュ。ギーシュはそう言うと、ルイズに向かって深々と頭を下げた。
「……君を侮辱したことを謝罪する。今後君のことをあのような言葉で侮辱することはないと誓うよ」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったよう――そう表現するしかないような表情をルイズが見せる。
そこにギーシュが言葉を継ぐ。
「モンモランシーにはさっき謝った。ケティには、後で謝りに行くつもりだよ」
「許してあげたら?ルイズ。さっきのギーシュは見物だったけどね」
そう言うキュルケは笑っていた。ルイズもそう言われては拒否する理由は全くない。
「そ、そうね。でもギーシュ。これに懲りたら、もうつまらないことはしない方が身のためよ?」
「ああ、解ってる。僕が一番愛しているのはモンモランシーだからね」
「……だ・か・ら、そこでどうして私だけって言えないのよ貴方は!」
「おぐぉ!?」
モンモランシーの肘鉄がギーシュの脇腹にもろに入る。悶絶するギーシュを横目に、
タバサがふがくに話しかける。
「……どうしてあんな警告をしたの?」
「どういうこと?」
「……決闘のとき。最初に見物人に離れるように警告した。それもかなり遠くに。
最初から『ワルキューレ』だけを狙うつもりなら必要がないはず」
まっすぐ見つめてくるタバサの視線をふがくは真っ正面から受け止めて答える。
「決まってるでしょ?実弾を使うつもりだったからよ。『ワルキューレ』の脅威が判らなかったから、
演習弾がなかったら、そうするしかなかったし」
「あの銃だけでは不足?」
タバサはふがくが使った短機関銃を非常に脅威ととらえていた。先込めのマスケット銃が
最新鋭のハルケギニア諸国には、ふがくの持っているような高速連射が可能な連発銃は
出所が不明な『場違いな工芸品』に類されるもの以外ほぼ存在しない。
ふがくたちは知るよしもないが、今回の決闘の後、学院長室に呼び出された彼女たちと
入れ替わりに退出したコルベールがヴェストリの広場に残された空薬莢を回収している。
タバサはふがくの高度からなら最初から『ワルキューレ』どころかギーシュを狙い撃つことも
できたと考えていた。
「だから、『ワルキューレ』がどんな材質でどういう構造か判んないし、私の知ってる
『青銅』とこっちのそれが同じかどうかも判んないんじゃ、最初からある程度の攻撃力を
持たせないとどうしようもないじゃない。
今回は爆撃演習弾で何とかなったからよかったけど、もし効かなくて銃撃でもどうにも
ならなかったら、もう一回警告してから高度上げて爆弾で精密爆撃やって吹っ飛ばすか
拡散式爆弾で焼き尽くすしかないって思ってたし」
「……ごめんなさい。よく分からない……」
タバサが困った顔をする。いつの間にかルイズたちも二人の会話に聞き入っていた。
特に当事者だったせいか、ギーシュの顔色は良くない。
「……参考までに聞いておきたいのだけど……その『バクダン』と、『カクサンシキバクダン』と
いうのを使っていた場合、僕はどうなっていたのかな?」
ギーシュの声には怯えが混じっているが、ふがくは気にすることもなくあっさりと答える。
「爆弾は軍艦や戦車、施設を破壊するためのものだから、まぁギーシュと『ワルキューレ』の
距離だったらあの位置でも見物人を巻き込むことはなかったわね。ぎりぎりだけど。
拡散式爆弾だったら……あれは着弾地点からおおよそ半径450メイルの範囲を焼き尽くすから……」
「も、もういいよ!分かったから!」
どちらにしても自分は助からなかったことを理解したギーシュが、それ以上ふがくが
説明するのを止める。そのギーシュの上着の袖をモンモランシーが握りしめていた。
「だから警告してからって言ったじゃない!ルイズと約束したし無警告で爆撃しようなんて
考えてなかったわよ!」
「まぁ、ギーシュが助かったことには変わりないじゃない。
でも、火のメイジでもそれだけの範囲を焼き尽くすのって結構無茶よ。本当にできるの?」
『火』の話題だけあって、キュルケが前に出てくる。
「できるわよ。弾薬の補充できないから今すぐやって見せるわけにはいかないけど……」
そう言ってふがくが懐に手を入れて何かを出す――それはヴェストリの広場で見せたような
形をしていたがそれよりも大きく、サイズはふがくの腕についているものとほぼ同じ。
先端に黄色の線がぐるりと回されて、後ろの羽がねじれた形で四角い枠に固定されていた。
「これが拡散式爆弾」
「……ということは、フガクの腕についてるのも、もしかして……全部、爆弾?」
キュルケが言う。その顔はやや青ざめて、言葉には若干の怯えが混じっていた。
「そうよ?それがどうかした?……って、わたしは『ふがく』!『フガク』なんて呼ばないで!」
怒るふがくにルイズが呆れるように言う。
「どうでもいいわよ、そんなこと」
「よくない!」
「……いいの!
まったく。さっきも思ったけど、いったいあんたのどこにそんなのが収まってるのよ?
ちょっと見せなさい!」
「ちょ、ちょっと!どこさわって!」
キュルケが何を心配しているのか気づきもせず、ルイズがふがくの懐に手を入れようとする。
「ル……ルイズ?止めなさいって!」
キュルケがルイズの腕をつかむ。ルイズがふがくの懐から引っ張り出した手には、
自分の手のひらには余るような大きさの金属の筒が握られていた。
「……なにこれ?」
ルイズがその手につかんだものを見る。それは銀色に輝く鉄の筒のようで、完全に密封されていた。
筒の側面には見たこともないささくれだったフルーツのような絵と、多分それの皮をむいて
芯を取った黄色いリングのようなものを盛りつけたような絵が描かれた紙が巻かれている。
文字も書かれているのだが、それはルイズたちの誰も見たこともない文字だった。
「パイン缶よ。それ。
……まったく。なんでこんなのがここに入ってるのよ……あるんだったらさっさと食べてたら
こんなことにならなくて済んだのに」
気づかなかった自分を恥じるかのようにふがくが渋面を作る。改めてふがくが自分の懐を
探ると、同じものが2つ出てきた。
「パイン……カン?」
ルイズは手に持った金属の筒――パイン缶をしげしげと眺める。それは鉄のようだが
銀色の光沢があり、完全に密閉されていてふたもなかったため、どういうものなのか
想像もできない。
「そこに絵が描いてあるパイナップルっていう果物のシロップ漬け缶詰よ。密閉してあるから
長期間保存できるし空挺補給作戦で武器や食料と一緒に地面に投げ落としても
まぁ大丈夫、ってものね」
「……つまり、これは食べ物?」
タバサが聞く。その目はどことなく輝いているようにも見えた。
「これが食べ物って言われても想像つかないわね。こんなのどうやって中身を食べるのよ?」
ルイズが缶をいじるが、ふたが圧着された缶にはどこにも開けられるようなところが
見つからない。
そうやっているうちに、ふがくは袖口から見慣れない器具を取り出した。
「昔は銃剣とかノミと金槌とかを使ってたらしいけど、今はこれを使うのよ」
そう言ってふがくが全員に見せたのは、持ち手が妙に太い折りたたみ式のナイフ。
そこから小さなかぎ爪状ナイフ――缶切り――を引き出してみせるが、一見してどう使うのは
誰にも理解できなかった。
「ここじゃなんだし、食堂へ行きましょ。そこで詳しく説明してあげる」
そう言ってふがくが階下への階段を下り始める。その後ろ姿を見るキュルケたちには
先ほどの恐怖もどこへやら、未知の食べ物への興味が勝った今は、もう怯えの表情など
かけらも見られなかった。
「……まったく。何を話しておるのかと思えば……物騒なことを」
そう言ってオスマンは『遠見の鏡』に映るふがくたちの姿を消す。
『センシャ』はよく分からないが、半径450メイルを焼き尽くすものとは、尋常ではない。
これはもう少し念を押す必要がある、とオスマンは考えていた。
一方――
(これは……時間かけてちまちま外壁や鍵を『錬金』し続けるよりずっと何とかなるかもしれないねぇ……)
ロングビルがその柔らかな仮面の裏でオスマンにも気取られぬよう、ほくそ笑んでいた――
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: