「ゼロの修羅-4」(2007/08/02 (木) 09:41:17) の最新版変更点
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魔法学院での生活を何日か経験していれば自然、魔法という物に触れる回数も一度や二度では無くなっている。
まるで御伽噺の中にでも紛れ込んだ様な感覚に、アズマは驚愕を感じつつも、自身でも意外な程すんなりとあるがままを受け入れる事が出来ていた。
自身の名を、驚きにまみれた生活の中であれば、心の底に埋没させる事が出来そうだと、そう思ったからだ。
だが、アズマの身体に流れる血は、彼自身が思わぬ所で昂ぶりを始めていた。
どうすれば素手であの魔法と闘えるか? どうすればあの術理を打倒し得るか?
アズマは頭を支配するその考えに、必死になって抵抗した。思っていたより、己の血は濃いのだと再確認しながら。
「嫌になるよなぁ、ほんと」
誘いに乗ってホイホイとヴェストリの広場を訪れたアズマは、がりがりと頭を掻きながら呟いた。
辺り一面、人影で埋め尽くされている。決闘と聞き付けて現れた者達だ。こんな物は、決闘の名を借りた見世物としか言い様がない。それでも心のどこかで、未知の闘いへの期待があるのは否めなかった。
「逃げずに来たのは誉めてあげよう」
バラを咥え、役者の様なポーズを決めるギーシュに、アズマはあくまで自然体を崩さずに返す。
「能書きはいいよ。やるならさっさと始めよう」
「口の減らない平民だ……!」
アズマの言葉はどこまでもギーシュの怒りに触れるらしい。
忌々しげに呟いた後、ギーシュはすっと咥えていたバラを手にとって、小さくそれを振った。花びらが一枚ふわっと舞ったかと思うと、それは人の身長と同じくらいの甲冑へと形を為した。
「言い忘れていたが、僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ。君はその腰に差している武器でも使いたまえ」
女性を象った甲冑がアズマを前にして槍を構えた。
ごくり、とアズマはそれを前に息を呑む。初めて見るタイプの魔法だ。あれがどの様な動きを見せてくれるのか……だが、彼は今にも飛び出してしまいそうな自身の身体を必死で抑えた。
一体自分は何の為に名を捨てたのか、それを思い返したからだ。
「行け! 僕のワルキューレ! ……って、あれ?」
そう号令を出した時、肝心のワルキューレが動かない事にギーシュは気付いた。そして、自身が手にしていたバラの杖が、いつの間にか無くなっている事にも。
「「…………」」
しぃんと場が静まり返る。ギャラリーの目には、腰元から手を振り上げてそのまま動かないアズマの姿と、杖を失い呆然としているギーシュの姿が映っている。
程なくしてアズマは、「ありゃりゃ」等と言って、取り繕った笑みを見せた。
そのアズマの視線の先を、皆が追う。そこには、校舎の壁面に突き立った一本のフォークと、それに絡め取られたであろう一本のバラがあった。
それから視線を戻す間に、ワルキューレの甲冑がバラバラと崩れていく。
「え、な、何が……」
「あー、過程はどうあれ、杖を無くしたら魔法は使えないんだろ? 勝負ありじゃないか? あは、あははは」
未だ事態を把握し切れていないギーシュに、アズマは苦笑いで言う。
確かに、貴族の決闘の流儀で言えば、杖を失った時点で負けが確定する。
あまりに一瞬の出来事だったので、誰も自分のした事を理解していないだろう、アズマは内心で呟くと、ほっと胸を撫で下ろした。
「う、嘘だろ? こんなので決着かよ」
「一体何をしたの? あの平民」
「速過ぎて訳分かんないって」
騒ぎ始めるギャラリーを他所に、アズマはへたり込んだギーシュに背を向け、一部始終を見守っていたルイズとシエスタの元へと向かった。
「終わりだよ。……ああ、ちょっと動いたら、腹減っちまった」
驚き固まる二人を前に、アズマはいつも通りの笑い顔でそう言った。
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