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#navi(ゼロの戦闘妖精)
Misson 04「不可知決闘域」(後編)
ルイズとギーシュの『決闘』は、関係者によって秘密にされた…ハズだった。
駄菓子菓子、秘密は必ず漏れるもの。と言うより ダダ漏れだった。
「フーム やるもんじゃのう、ウチの女生徒達は。
それに比べて、グラモンの馬鹿息子は…」
トリステイン魔法学院 院長室。
マジックアイテム『遠見の鏡』で、決闘の一部始終を見ていたのは、学院長オールド・オスマンと教師のコルベール、学院長秘書 ミス・ロングヒルの三人。
雪風の管理をしているコルベールが ルイズ達の不穏な動きに気づいて学院長に報告、監視をしていたところ、たまたま残業していたロングヒルも面白がって加わってきた。
「よろしいのですか 学院長。
貴族同士の決闘、それも女生徒の側からの申し込みなぞ、前代未聞と思われますが?」
「かまわんじゃろ。誰が怪我した訳でも無し。
同級生の恋仲を修復してやろうなどと、実に微笑ましいと思わんかね、ミス・ロングヒル?」
「そう言ってしまうには、ちょっと と言うか、かなり打算的だったみたいですけど…
まぁ イマドキの娘は あんなものかもしれませんね。」(うちのティファは ああなって欲しくは無いけどねぇ)
「それでも、何もしないというのも…」学院長に目配せするコルベール。
「そうじゃな。
あー ミス・ロングヒル、これから先は、ちょっと込み入った話になるんで、すまんがそろそろ外してもらえるかの。」
「ええ、こんな夜更かしは 美容の大敵ですから。それでは、失礼します。」
秘書が退出すると、残った二人は話を続ける。
「あれが、ミス・ヴァリエールの使い魔『雪風』か。トンデモない代物じゃのう…
あの『銃』は、君の報告書にも無かった様じゃが?」
「はぁ、彼女から 雪風が『異世界の兵器』である事は聞いていましたが、その詳細については語ってくれませんでした。
私自身が調査した際に、火薬の匂いがしましたので、銃器の存在は予想していたのですが…
まさか あれ程とは。」
「コルベール君、もし、アレと敵対したとして 勝てるかね。」
「難しいですね。
向こうとこちらが 同時に相手に気付いたとしたら、私が呪文を詠唱し終わるまでに 確実に撃ち殺されますね。
その上 雪風は信じられない様な高速で飛翔します。私が先に発見したとしても、攻撃を当てられるかどうか。
倒すなら、策を講じて 地上にいるうちに何とかするしかないでしょう。」
「ウーム。君でも勝てんか。まさしく『メイジ殺し』じゃのう。」
「しかし ミス・ヴァリエールは、ああ見えても倫理観や貴族としての誇りが高い生徒ですから」
「いや、主の問題では無いんじゃよ。あの使い魔が『機械』だと言う事が問題なんじゃ。
幻獣ならば、その牙を奪うには殺さねばならんが、機械ならば、銃だけを取り外す事も容易じゃろう。
高度な技術の産物たる あの銃をそのまま複製する事は出来ずとも、連発速射のしくみを理解するだけで この世界の銃は恐るべき進化を遂げるじゃろうよ。」
「銃を手に入れるだけで、平民が『メイジ殺し』になると!」
「それだけではないわ。
王宮に棲まう魑魅魍魎共が、それだけの武器を手にして 大人しくしておる訳がなかろう。
とにかく この件は外部に漏らしてはならんぞ。」
「はい。」
「ミス・ロングヒルにも 口止めをせんとイカンな。」
「そう御思いなら、彼女に『すけべぇ』な事をなさるのは、おやめになったほうがヨイかと?」
「そう言うキミこそ!」
「・・・・・・」「・・・・・・」
「あ~ オホン。
で、もう一つの件じゃが。間違い無いのか?」
「私自身が一番信じられませんでしたので、何度も確認しております。
あの使い魔 雪風のルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のルーンです。」
イイ歳こいた大の男が、二人揃ってタメ息を吐く。
「どう解釈したもんかのう。
先ほどの力を見れば、伝説に言う『神の盾』に相応しいとも言える。
あれだけの弾丸を撃たれたら、誰も近寄れんわなぁ。
それに 主人を乗せて飛んでしまえば、誰も追いつけん。
始祖が呪文を唱える間 その身を護る役目、完璧に勤め上げるじゃろう。」
「ですが、『あらゆる武器を自在に扱う』という伝承からは、まるっきり外れています。」
「うむ。そもそも手が無いのでは、剣も槍も持てんわ。
ひょっとして 先住魔法『とらんすふぉ~む』とかで、手足が生えてきたり ヒトガタになったり
せんかの?」
「しません。雪風の世界には 元々魔法は存在しないんですから。
それに なんですか、そのインチキ臭い魔法名は!」
「ノリじゃよ、ノリ。
それより 君の報告書を読んで、ワシャ 雪風のルーンは ひょっとして『ミョズニトニルン』じゃないかと思っとったんじゃが?」
「私も そうでした。
雪風の真価、最大の価値は あれの持つ知識にあります。
『コンピューター』という物は、我が校の図書館の書物全ての内容を この机の引き出し一つ程の
空間に 全て納めることも可能だそうです。
そんなコンピューター同士が『ネットワーク』で結ばれる。互いの持つ情報を 相互に活用できる。
正に 知識の大洋とでも言うべきモノ。
そこに漕ぎ出せるのは、あの雪風と ミス・ヴァリエールだけなのです。
ああ、なんと羨ましい事か!」
「こらこら、教師が生徒に嫉妬してどうする。」
「・・・失礼しました。
ですが、このコンピューター・ネットワークの話を聞けば、『知恵の塊、神の本』と伝えられる
ミョズニトニルンを連想するのは むしろ当然だと思います。」
「しかし いかに巨大な図書館でも、蔵書がすべて白紙の本では意味が無い。
雪風が持っておるのは 全て『異世界』の知識。
ハルケギニアについては、幼子でも知っている様な事すら知らなかったらしいのぅ。」
「たしかに、軍師たる者が 戦場となる地を知らないなどというのは 有り得ませんね。」
「まぁ その辺りは すぐに何とかするじゃろ。
どうやら ミス・ヴァリエールのちっこい方の使い魔は、図書館に入り浸っておるようじゃからの。
先日 司書長が
『使い魔に 蔵書の閲覧を許可しても宜しいのでしょうか?』
と 問い合わせて来おったわ。」
「本当ですか!
う~ん、教師の立場としては それはちょっと問題ですね。」
「ほう どうして?」
「彼女と雪風は、『絆』以上のつながりを持っています。
つまり、試験の際に『カンニング し放題』という事です!」
「ブワッハッハ、考え過ぎじゃよコルベール君。
試験の最中に図書館に行けばカンニングじゃが、雪風に記憶させておけば いつでも聞き出せるじゃろ。
だいたい、ミス・ヴァリエールの筆記試験の成績からして、そんな不正が必要かね?」
「それもそうですね。」
「話を戻すが、『ガンダールヴ』、『ミョズニトニルン』とくれば、もう一つはどうじゃ?」
「『ヴィンダールヴ』ですか。
いくら雪風でも 流石に幻獣を操れるとは思えませんが?」
「幻獣を使役するのは、手段に過ぎん。
伝承に従うなら、ヴィンダールヴの使命は、『始祖を運ぶ』事じゃ。」
「なるほど、そうすると 雪風が乗り物である意味が生きてくるんですね!」
「じゃが さっき君が言ったとおり、ケダモノ使いには なれそうにない、と。」
「まったく、『伝説の使い魔を召喚した』 それだけでも前代未聞だと言うのに・・・」
「それが、『ミョズニトニルン』のようでもあり 『ヴィンダールヴ』のようでもあるのに、全然ガンダールヴらしくない『ガンダールヴ』とは・・・
無責任なようじゃが、しばらくは様子見じゃな。」
「・・・これが、サモン・サーバントで呼び出されたモノでなければ、学院長のお好きな『場違いな工芸品』の一つ という事になるんでしょうが。」
「おぉ そーいう見方も出来るな。それなら・・・」
「と 言うことで、君に所蔵品の鑑定を依頼したいのじゃが。」
「ファ、はい!」
決闘から数日して 学院長に呼び出されたルイズは、宝物庫の扉の前で 思いっきり緊張していた。
(よかった。『アレ』がバレたんじゃ無いみたい!)いや バレてますけど…
「この中にあるのは、ほとんどが ワシが若い頃に集めた『場違いな工芸品』じゃ。
非常に貴重なモノじゃが、その名の通り『何に使うのかワカラン』物も多い。
それは 君の使い魔同様『異世界からもたらされた物』だからではないかと思っておるのじゃが…
そこのトコロ 君と雪風の知識で 解き明かしてくれんか?」
ルイズは 入学して初めて 宝物庫の中に入った。
名前に反して そこはガラクタの山だった。
学院長とコルベール どこからか話を聞き付けて集まった教職員と生徒達を観客にして『お宝鑑定大会』は始まった。
これは『鬼女の鉄帯』じゃ。」
ルイズの目の前に提示された物を 雪風が検索する。
《該当アリ:WWⅡ ドイツ軍戦車のキャタピラの一部。》
「判りました。
これは『キャタピラ』、砂地や泥濘地で 車輪がハマってしまう様な事が無いようにする為の物です。」
収納品は どれもこんな調子で、壊れている物や部品の一部がほとんどだった。
確かにコレでは 使い方も判らないだろうし、何の役にも立ちはしない。
しかし、そうとばかり言えない物もあった。
「では この『巨人の風車』は?」
《回答:アメリカ軍 B-29のプロペラ》
「コルベール先生、これが、以前に話した『レシプロ機』のプロペラですよ。
先生の『愉快なヘビ君』で これを廻せば、推進力が生じます。
まあ これは、かなりの大型機用のサイズですが。」
「おお、そうですか!
学院長、しばらく これをお貸し頂く事は出来ませんか?」
このように、雪風という『解説者』がいれば、ガラクタの中から 技術革新の足掛かりとなる『宝』が発掘できるのだ。
ルイズが注目したのは、『ツノの伸びる箱』こと 旧式のトランジスタラジオだった。
光回路や陽電子回路、LSIやICは無理でも これに使われている程度のトランジスタやコンデンサ 乾電池なら、錬金でも複製可能だろう。
もし、無線機でも作れるようになれば・・・
「おぅ これはまた 懐かしいものが出てきおったわ。」
奥の方で 学院長が何か見つけたらしい。木箱を抱えて現れた。取り出したのは、緑色をした筒状の物。
「わしゃ 若い頃 この『破壊の杖』を使って、ワイバーンを倒したことがあるんじゃ。」
ギャラリーがどよめく。ワイバーンと言えば、飛竜の亜種で 非常に獰猛な幻獣である。
それを(若い頃とはいえ)このジーサマが倒したなどとは 信じがたいのだろう。
んっ、そうすると『破壊の杖』は、使用方法の判明している 普通のマジックアイテム?
「いや、実はな・・・」
昔 若きオスマン氏は とある洞窟の奥に『場違いな工芸品』があると聞き 地の底へと向かった。
その最深部で『破壊の杖』四本が入った木箱を発見、だが そこはワイバーンの棲家だった。
見つかってしまった。一匹の巨大な雄ワイバーンが迫ってくる。
逃げる!逃げる!逃げる!必死に逃げる。 余りに必死だったので、この後しばらくの記憶が無い。
気が付くと、洞窟の外 崖ッ縁のところに立っていた。目の前にはワイバーンの屍骸。頭部が消滅し、胸の辺りには爆発したような痕があった。
驚いて 持っていた『破壊の杖』を落としてしまった。それは深い谷底へ消えていった。
「そー言う訳で、残った三本がここにあるんじゃが、わし自身 これの使い方については一切覚えとらんのじゃよ。」
ギャラリーのどよめきが タメイキに変わる。一瞬でも「学院長スゴイ!」と思った私がバカでした と。
(で、雪風 あれは何なの? 使い方 解る?)
《形式番号 M72-A2、兵器カテゴリー 歩兵用ロケットランチャー。
使用方法については 以下の通り(略)》
(へぇ 意外と簡単だけど…)
「学院長、本当に ソレ撃てたんですか? 偶然に発射できるようなモノじゃないんですけど。」
「おお ミス・ヴァリエール、やはり君には判るのかね!」
「はい。
まずは、後部のピンをぬいて、」
「これか。」
「カバーを外して 砲身を伸ばし、」
「ふむふむ。」
「サイトを立てて 肩に担いで、」
「こうかね。」
「黒いボタンを押すと 発射します。」
「ポチッっとな!」(ボシュッ!)
『わぁぁぁぁ~、ホントに撃つなぁぁぁ~!』
幸い 学院長の後ろに立っていた者はおらず、宝物庫の扉も空きっぱなしだったので、バックファイヤの被害者はいないようだ。
だが さして広くも無い室内で 弾体が爆発すれば 室内にいる者は只ではすまない。
(間に合って!)ルイズは杖を握った。
雪風の召喚以来、ルイズは 自分の失敗魔法の有効利用法とその改良に努めてきた。
決闘について調べているときに見た『西部劇』を参考に、腰に付けた杖をクイックドロウ出来る様 ホルダーを改造。
また 剣術の『居合』を参考に 引き抜きの速度も向上させた。
更に 深井中尉達が使う『FAF語』を参考に 呪文の無駄を省き高速言語化。
結果として 今のルイズの失敗魔法は 無詠唱と見紛う速さで発動(爆発)出来る様になっていた。
先日の錬金授業のアレを応用して、宝物庫の壁をロケット弾の直径の倍ほどのサイズでプラズマ化し 屋外に排除、進路を確保する。
かろうじて間に合った。壁に穴が開いた瞬間 ロケット弾はそこを通過し、学院上空で爆発した。
あとは 破片が通行人に当たらないことを祈るだけだ。
(あっ 危なかった~)息を切らすルイズ。
学院長は「う~む。これならワイバーンもイチコロじゃわい!」と 非常に嬉しそう。
ギャラリーも「おおっ~」「凄いですねぇ」等と言いながら 拍手なんぞしてたり、まったく危機感が無い。
今の出来事の危険性を認識しているのは、コルベールぐらいだろう。
ルイズは 一言文句を言ってやろうかと思ったが、学院長が
「しかし、さすがは『破壊の杖』じゃ。
この壁にかかっとった『固定化』は、国内でも最高の強度を誇っておったんじゃが、それを易々と貫通するとはのぅ。」
と言うのを聞いて 黙っていることにした。
(私が穴を開けたなんて言ったら、修理費は私持ちだって事になりかねないわね。)
この件で鑑定会はお開きとなったが、ルイズが黙っていた為 皆 壁を壊したのは『破壊の杖』だと誤解したままだった。
そう、あの人物も。
ミス・ロングヒルは上機嫌だった。
いままで立ち入ることの出来なかった学院の宝物庫、そこに収納されたお宝を解説付きで拝むことが出来た上に、破壊不能だった壁に穴まで開けてくれたのだから。
オールド・オスマン付きの美人秘書は 表の顔。裏の通り名は 噂の盗賊『土くれのフーケ』!
学院のお宝に狙いをつけて潜入したものの 得意の『巨大ゴーレム』でも壊せそうにない強固な宝物庫にホトホト手を焼いていた。
しかし あの晩に見た『雪風の銃』。あれなら壊せる!さて どうやって誤射させようかと考えていたところに 今回のドタバタ劇だ。
まさか こんなタナボタな展開になるとは…
「泥棒にも 運命が味方するってことがあるのかねぇ。」
おっとフーケさん、ご用心。運命は賭博の胴元のようなもの。始めはそこそこ勝たせて最後にカッパぐのが手口。さて どうなりますか?
深夜のトリステイン魔法学院に重い振動が広がった。全高30メイルはあろうかというゴーレムが現れ 宝物庫の壁を殴っている。
狙いは一点 壁の穴。二発三発と繰り返す。通常なら耐えられた攻撃でも 欠損部分があれば そうはいかない。
ついに 人が通れる程に崩れ落ちる。それを見て、ゴーレムの肩から人影が飛び降りる。
目当ての品に向かって一直線。木箱の中から二本を取り出す。
ヴァリエールの話によると「一回しか使えない」らしいので 使用済みの一本は置いていく。
【 破壊の杖 確かに領収いたしました。「土くれのフーケ」】
お約束の書き置きを残し 脱出。
タルみきった警備員や教師達は まだ姿を見せない。それほどの早業だった。
「ちょろいもんね!」フーケは 仕事の成功を確信していた。
だが 裏社会の格言に曰く「アジトに帰り着いて 初めて成功」と。
そう まだ最悪の相手が残っていた。
燃料確保のメドが立って以来 ルイズは放課後毎日雪風で飛んでいた。オリジナルの地図を作るために。
学院図書館所蔵の地図は、雪風にとってあまりに精度が低すぎた。ハルケギニア全土を探しても 必要とするレベルの物があるかどうか。
ならば、自分で測量して電子地図を作成するしかない。
今夜はゲルマニア方面を飛行したので ガイドとしてキュルケも搭乗している。
ちょうど学院上空へと帰還したところで、事件に遭遇した。
「宝物庫に、ゴーレムゥ? なによアレ!」
「見れば判るでしょ ルイズ。泥棒よ 泥棒!
んっ、ゴーレムを使う泥棒と言えば…」
「「『土くれのフーケ』!!」」
(雪風 カメラを対人精密モードに切り替えて。)《RDY》
「でも フーケもすごいわねぇ。いくら巨大ゴーレムとは言え 宝物庫の壁を壊しちゃうなんて。」
(ゲッ ヤバい! ひょっとして私のせい?) 思い当たる節のあるルイズ あせる。
「キュルケ、あれ 捕まえるわよ!」雪風は進路をゴーレムに向け反転した。
フーケも雪風に気付いた。
「ちぃ、なんて間の悪い。」
現在の この学院における最強戦力とハチ合わせするとは…
「今までツキ過ぎだった分、これで帳消しって事かい!」
だが 彼女は力を手に入れた。あの怪物に匹敵するであろう 強力な武器『破壊の杖』を!
「残り一本になっちまうが、仕方ないね。」
あの日 ルイズが学院長に教えた手順を思い出しながら ゴーレムの足元でM72を構える。
ほぼ真っ直ぐに近付いて来る 雪風。フーケはそれを照準に捕らえた。
「サヨナラ、ヴァリエールのお嬢ちゃん!」(ボシュッ!)
ロケット弾が雪風へ向けて飛翔する。それは、旧式とはいえ 当たれば雪風を大破させる程の威力がある。
・・・・・・そう 当たれば。
M72は、戦車等の装甲車両を攻撃目標として想定した 無誘導のロケット砲であり、地対空ミサイルでは無い。
射程ギリギリまでヒョロヒョロと上がったソレを 雪風は難なく回避した。
「ウソっ?!」呆然とするフーケ。
一方 雪風のコクピットでは、
「ねぇキュルケ アレは人間じゃないわよね?」余裕のルイズ。
「ゴーレムの事? あたりまえじゃない。それが?」
「人間じゃないなら、撃っちゃっても いいわよね。」
「そう、そうよね。だったら!」
「「撃てぇ 雪風!!」」《RDY》 少女二人のユニゾンに応え、20mmバルカン砲が唸る!
ゴーレムに降り注ぐ 弾丸の雨。頭部が消滅し 肩が粉砕される。支えを失った腕が地面に落ちる。濛々と立ち上る土煙。
その衝撃で我に返るフーケ。まずい。逃げなきゃ。
残った破壊の杖を持って 森に隠れようとしたが、殺気を感じて進行方向を変えた。
ほんの一瞬遅れて フーケの立っていた場所を 風の塊が吹き抜けた。 エア・ハンマー。
いよいよマズい!目くらましの等身大ゴーレムを数体作成し、バラバラの方向に逃がすと共に フーケ本人も闇に消えた。
そして 崩れ去った巨大ゴーレムの残骸の元に タバサが現れた。
ルイズとキュルケを迎えに 召喚場にいたため 誰よりも早く現場に駆けつけることが出来た。先ほどの魔法攻撃も タバサだった。
雪風を近くの広場に強行着陸させると、キュルケがフライで先に行く。ルイズもそれを追う。
「あっ タバサ、フーケは?」
「逃がした。」
「貴女が逃げられるだなんて、そんなに手強かったの?」
「『逃げられた』じゃなく、『逃がした』。」
「へっ?」
「おそらくは 内部犯行。このまま逃亡すれば 犯人だと自白するようなもの。
逃がす時 あえて顔を見なかった。フーケも それは判っている。
だから 何食わぬ顔で また現れる。
でも ルイズは、…雪風には見えたはず。」追いついたルイズに話を振る。
「ええ、見たわ。正体も判ってる。
それにしても、どうしてわざわざ逃がしたりしたの?」
「フーケは 土のトライアングル。」
「な~るほど。使えるわね!」
また 悪巧みモードに入る三人組だった。
おっとり刀で駆けつけた警備員と教師達に ルイズ達は目撃した状況を説明した。
しかし、どうやってゴーレムを倒したかと聞かれても 銃の事は言葉を濁して 明確には語らなかった。
フーケの人相風体についても、「よく見えなかった」の一点張りだった。
始めは信用しなかった教師達も、破壊された宝物庫の壁や巨大ゴーレムの残骸を見て黙り込んだ。
手口と書き置きから、『土くれのフーケ』の犯行であることは間違いない。
盗まれたのは、先日 その威力を目の当たりにした強力な兵器『破壊の杖』。
一本は此処で使われたようだが、もう一本残っているハズ。
犯罪者の手に兵器、この組み合わせは危険だ。放置する訳には行かなかった。
翌日 教職員総出の対策会議が開かれた。
衛士隊に連絡して協力を求めるのは、学院の恥を晒す事であり 王宮から学院への介入を招く恐れもある為、出来ない。
そこで 学内から『フーケ捜索隊』を結成してこれに当たるものとしたが、ゴーレムと破壊の杖に恐れをなして 立候補する者は誰もいなかった。
手詰まりの学院長は、ルイズと雪風に この話を持ちかけた。
「生徒である君に こんな事を依頼するのは心苦しいんじゃが、他に頼める者がおらんのじゃよ。」
「分かりました。お受けします。
とはいえ、『絶対に捕まえる』と御約束は出来ません。
なにせ 本職の衛士隊でも捕らえられない盗賊ですから。」
「うむ。」
「それと いくつかお願いが。」
「何じゃね?」
「本格的にフーケの探索に掛かると、授業を休まなければならない事も出てくると思われます。
私と 友人のキュルケ タバサの両名も含め、出席日数等のご配慮を・・・」
「承知した。」
「もう一つ。
雪風の燃料は、現在 ミスタ・コルベールと級友の尽力により製造されていますが、探索により消費量が増えるものと思われます。
今後 無理をしてもらう事になるやも知れませんので、学院から報奨金を出していただければと…」
「何とかしよう。」
ちなみに 一つ目はルイズ本人の考えだが、二つ目はキュルケの入れ知恵である。
ちゃんと製作者の手に渡るんだろうか?
「それと、ミス・ロングヒルに協力を頼みたい事があるので、後で私の部屋まで来ていただけるよう伝えてください。」
「彼女に 何か?」
「いえ 大した事ではないんですが、女同士の秘密ということで。」
「まぁ 良かろう。
ともかく もうすぐ『フリックの舞踏会』じゃ。
そんな日に フーケが再び現れるなどという事態にだけは なってほしくないもんじゃ。」
「まぁ その辺りは大丈夫かと。」
「ほぅ どうして?」
「ただの勘です。根拠はありません。」
「ふぉふぉふぉ。
君の『勘』は、何故か 良く当りそうな気がするのぅ。では 宜しく頼むぞ。」
放課後 ミス・ロングヒルは書類を抱えて 学生寮のルイズの部屋へ向かっていた。
『フーケ捜索隊』に関する特例処置の書類だった。
盗賊を探そうとするメンバーの所に その盗賊自身が出向くと言うのも妙な話だが、正体を明かせない以上 学院長の指示には逆らえなかった。
「早いとこ 適当な理由をでっち上げて ここをオサラバしないとねぇ。」
ルイズの部屋には、本人の他にキュルケとタバサが待っていた。
「ミス・ヴァリエール、学院長から この書類について説明するよう申しつかってまいりました。
それと 何か私に手伝ってほしいとの事ですが?」
「はい。フーケ捜索の為、雪風の燃料を増産しますので、それをお願いしようかと。
他には 燃料備蓄用の地下タンク作成も。」
「申し訳ありませんが、私 あまり魔法の方は得意ではないのですが…」
「あれ? 噂じゃ、土のトライアングルだって聞いてるんですけど。
ねっ、『フーケ』さん?」
(バレてたのかいっ!)
ロングヒル いやフーケは、隠し持った杖を握ろうとしたが、掌の中で起こった小爆発で床に落としてしまった。
前を見ると、ルイズが一瞬速く杖を向けていた。
(ヴァリエールの失敗魔法?! にしても 速過ぎる!)
後ろの二人も既に杖を構えている。逃げられそうも無かった。
「いつ気が付いたんだい? 顔を見られるようなヘマは しなかったつもりなんだけどね。」
「雪風は 本来『偵察機』つまり物見の兵だから、凄く『目』がイイの。
雲の上の高さから 地上の人間が判るくらいに。
夜目も利くし、見たものを記録しておく事も出来るの。」
「ハン。泥棒にとっちゃ 天敵みたいなシロモノだね、まったく!
で、衛士隊は何処にいるんだい?」
「いないわよ。そんなの。」
「はぁ?アタシを捕まえて突き出そうってんじゃ なかったのかい?」
「言ったでしょ、お願いしたい事があるって。」
「一体 何をさせようっていうんだい!」
「だから まずは燃料と地下タンク。
その位余裕だって言うなら、地下格納庫に傾斜エレベーターもお願いしようかな~」
「それで あとは、『破壊の杖を学校に返せ!』ってところかい?」
「い~わよ、返さなくて。てゆーか、アレ 私が使う事にしたから。」
「何だって?」
「ちょっと、ルイズ!」
「・・・・・・」
「そうすれば、私達 共犯でしょ。
人の弱みを握って、一方的にコキ使うのって、何かイヤなの。
どうせなら、貴方にも、私達の『一味』に入ってもらおうかと思うの。 どう?」
「フフフ・・・ファハァハ・・・ハアハハハハハハハハハハハハァ~ハヒ~ヒィヒヒヒヒヒィ~」
笑った。 腹の底から笑った。 こんなに笑ったのは、いつ以来だろう。 そう思える位 笑った。
フーケは 王族を恨んでいた。貴族が嫌いだった。どちらにも、碌でもないヤツしか居なかった。
でも 目の前の三人は違うようだ。こいつらは、トンデモない馬鹿だ!(いい意味で)
ヴァリエール家といえば、この国有数の名家の筈。
ツェルプストー家も ゲルマニアの豪商として名を馳せている。
タバサとやらも 遠方のガリアから留学してくる位だから それ相応の家柄だろう。
それが 身元も分からない盗人を 自分達の仲間にしようってんだから、どうかしてる。
だが それが気に入った!
「いいよ。その『一味』とやらに 入ってやろうじゃないか。」
「それじゃ これからよろしくね。 ミス・フーケ じゃなかった、ミス・ロングヒル。」
ルイズが手を差し出す。握手する二人。キュルケも手を重ねる。タバサも おずおずと手を伸ばす。
「名前なんざ どっちだって構わないよ。両方とも 偽名さ。」
「でも フーケの名前は 今日限りにしてもらわないと・・・」
「ああ 脚を洗うにゃ、潮時だったのかねぇ。もう 盗みはヤメるよ。
で、どうせなら 仲間内だけの時は、こう呼んでくれないかぃ。
『マチルダ』 これがアタシの本名さ。」
「ええ (せ~の)『マチルダ』!」
「いいわよ (せ~の)『マチルダ』!」
「・・・判った(・・・・・ )『マチルダ』・・」
それにしても 成り行きとはいえ 変な具合になっちまったもんさ。
まったく 大したガキどもだよ、コイツら。
(ウチのティファも、この位逞しくなってくれないかねぇ。)
こうして 『土くれのフーケ 魔法学院宝物庫襲撃事件』は、ひっそりと幕を閉じた。
だが その顛末が学院長オールド・オスマンに報告される事は 無かった。
余談
フリックの舞踏会当日の晩、召喚場の『雪風 秘密基地』前には カップルの長蛇の列が出来ていた。
モンモランシーが あの夜の『浪漫飛行』について、友人達に吹聴したせいだった。
パーティ終了後 デートの〆として、雪風への登場希望者が殺到したのだった。
(ゴメン!ルイズ。でも『決闘』の事は話してないから 大丈夫よね?:モンモランシー談)
(え~い、バカップル共! こうなったら、全員から『フライト料』ボッタクってやるぅ~~!!
:ルイズ談)
〈続く〉
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