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#navi(ゼロと世界の破壊者)
第8話「王都トリスタニア・中編」
「凄い…凄すぎるわ!ダーリンも!ユウスケも!!」
あっという間にグロンギを打ち倒したディケイドとクウガ。
その勇姿を目の当たりにした、キュルケは二人に熱っぽい視線を交互に送って歓喜の声を上げた。キュルケを知る者達は、惚れっぽいキュルケがまた新しい男に惚れたのだと理解した。
「…アンタ、もしかしてユウスケにも惚れたの?」
「えぇ!あたし、彼に恋したみたい!痺れたわ…心の底から…!」
顔を紅潮させて満悦な表情のキュルケ。脳内で士とユウスケに挟まれて、さながら逆ハーレム状態でも想像してるのだろうか。
本当に色ボケの脳を持つ一族、節操無しも良い所だとルイズは呆れ果てた。
だが炎を背にしたディケイドの姿を見ていたら、ルイズの顔も自然と綻んでいた。ルイズ自身は決して認めないだろうが、ルイズもキュルケの事を言える立場でもない。
街を襲ったグロンギは打ち倒され、それによる安堵感が一同を包み込んでいた緊張を解きほぐしつつあった。
戦いを終えたディケイドとクウガもこちらに歩いてきたが、その途中、二人は突然足を止めた。
そしてその場で踵を返し、自分達が打ち倒したグロンギの炎の、その向こう側を見詰めた。
「…まだいる」
その気配をいち早く感じ取ったタバサが呟いた。一同に再び緊張が走った。
二人のライダーがそれぞれ見詰める炎の向こうから、二つの影が現れた。計四体の、新たなグロンギがその姿を露にした。
「よ、4体!?まだあれだけいたのか!?」
1体でも恐ろしかった敵が更に4体も。いや、全部で6体ものグロンギがこの王都に侵入していた事に、ワルドは驚愕した。
4体のグロンギは炎を乗り越えて、ディケイド、そしてクウガの前に並び立った。
『グムンド ガドラグ ダゴガセダド ビデリセダ、ラガバ クウガグ ギダドパバ』
『ゴセビ クウガド ビダジャヅグ ログパパンジビ、ジョブパバサバギグ ジャヅロ リントン ゲンギザバ』
クウガの前に現れた、鼻に大きな角を生やしたサイのグロンギ、ズ・ザイン・ダと、頭から2本の触角を生やし、首に大きなスカーフを巻いているバッタのグロンギ、ズ・バヅー・バが言い放つ。
『ザセゼ ガソグド パセサン ゲゲルゾ ジャラグスジャヅパ ザギジョグスボリ』
『ズン、ボセロラダ ゲゲルン ダボギリン パパンボザ!』
ディケイドの前に並び立つ、巨大な大鎌を携えたカマキリのグロンギ、メ・ガリマ・バと、黒髪のドレッドヘアのヒョウのグロンギ、ズ・メビオ・ダが叫ぶ。
「…追加オーダーを頼んだ覚えは無いんだがな」
2体のグロンギを前にしても尚、士は余裕の態度を崩さない。
「んな事言ってる場合かよ!…ったく、次から次へと!まるで俺の世界に戻ってきたみたいだ!」
「そんなの、襲ってくる連中を片っ端から倒して行けば問題無い。あの時よりも遥かにマシだろ?」
あの時、と言われ、ユウスケが思い出したのはディケイドと共に戦ったクウガの世界での最後の戦い。
目覚めたグロンギの王『究極の闇』、ン・ガミオ・ゼダと、奴が人間から生み出した無数のグロンギ。それを相手にたった二人だけで立ち向かい、そして勝利した時の事。
それと比べれば、相手はたかが4体、全然楽勝だ。
「…あぁ、お前の言う通りだな!片っ端からここでぶっ倒す!」
クウガが右拳を左掌に打ち付けて言った。
「そう言う事だ」
するとディケイドはライドブッカーから一枚のカードを引き抜き、ディケイドライバーにセットした。
『KAMEN RIDE!AGITO!』
ディケイドライバーから音声と共に目映い光が放たれディケイドを包み込むと、その姿を黄金の鎧を纏った姿、『仮面ライダーアギト』へと変化させた。
仮面ライダークウガ、仮面ライダーアギト、二大ライダーが背中合わせに並び立った。
「そっちの2体は任せたぞ、ユウスケ!」
両手をぱんぱんと叩き合わせて、ディケイド・アギトがガリマとメビオを見据える。
「あぁ!お前も頼んだぞ!士!」
拳と掌を打ち付けた状態から構えを取り、クウガがザイン、バヅーへと駆け出した。
それとほぼ同時に、アギトも飛び出した。
クウガはいきなり飛んで来たザインのパンチを受け止めると、そのままザインの胸にパンチを打ち返す。
その隙に背後からバヅーが襲いかかるが、それを察知したクウガはキックを打ち込んでバヅーを弾く。
バヅーに一瞬気を取られた隙にザインはクウガの手を払い除け、お返しにとクウガにフックを2発打ち込んだ。
蹌踉けるクウガをバヅーが背後から羽交い締めにしようとするが、それを強引に振りほどくと、振り向き様にバヅーの顔を殴りつける。
すぐさま背後から迫るザインに向き直ったが、一瞬遅れたため両腕を掴まれてしまう。
しかしすぐにザインの腹に蹴りを打ち込んで両腕を解放させると、クウガは2体のグロンギに挟まれた状態で再び構え直す。
向かってくるアギトにガリマは大鎌で斬りつけるが、アギトはそれを受け流すとそのままその背後に控えていたメビオを殴りつける。
ガリマは背後から再びアギトを襲うが、察知していたアギトはひらりと回避し、そのまま右のフックを打ち込む。更に一瞬蹌踉けたガリマの顔へ更に左フックを打ち込んで弾き飛ばした。
その背後からメビオが襲いかかるが、アギトは上段回し蹴りでその顎を蹴り飛ばし、更にそのままもう一発、回し蹴りを食らわせてメビオを蹴り飛ばした。
地面を転げたガリマとメビオは怒りの唸り声を上げながら立ち上がり、再びアギトへと向かう。
「いいぞ、どんどん来い!」
対するアギトも余裕っぽく両手をぱんぱんと叩き合わせ、向かってくる2体のグロンギに応戦する。
1対2と言う数で不利な条件にも関わらず、まるで臆さずに拮抗した戦いを繰り広げる二人の仮面ライダー。
ルイズ達は、その戦いぶりからまったく目が離せないでいた。
クウガがパワーで押し切り、アギトが見事な体裁きで敵を翻弄する。
魔法の力で戦うハルケギニアの人間から見れば些か原始的な、単純な殴り合いによる戦いだが、そこには何か目を釘付けにされるある種の美しさのようなものがあった。
「凄い…やっぱり凄すぎるわ!あの二人!二人掛かりの敵に負けてない!」
興奮してキュルケが声を上げた。キュルケもうずっとクウガの勇姿に酔いしれていた。
「うん、あれなら二人相手にでも勝てるわね!」
珍しくルイズがキュルケに同意する。ルイズはディケイド・アギトの方を見ていたが、気持ち的にはキュルケとほぼシンクロしていた。
だがはしゃぐ二人とは裏腹に、タバサとワルドの二人の表情は硬かった。
「…少し、旗色が怪しくなってきたな」
水を差すようにワルドが呟いた。
「…どう言う意味?」
「押されてきている」
今度はタバサがそう静かに言う。
一同は、改めてライダー達の戦いを注視した。
アギトはガリマにパンチを繰り出すがそれらは虚しく空を切った。
ガリマは大鎌を振り下ろして反撃する。アギトは一撃目を何とか回避するが、二撃目は間に合わず、仕方無く腕で受け止めた。だがそこにメビオが襲いかかる。メビオの爪がアギトの背中を切り付けた。
「がっ!」
蹌踉けるアギトに、空かさずガリマの大鎌が襲いかかるが、それは何とか地面を転がって回した。
ガリマは自身の大鎌とアギトのリーチ差を利用して巧みに攻撃を仕掛けて来ていた。
また足の早いメビオの錯乱もあって、アギトの攻撃はなかなか決まらず、徐々に追いつめられつつあった。
『ゴン ガバゼパ ゴセビパ ヅギデボセラギ!』
バヅーは軽いフットワークで右へ左へと動き回り、クウガを翻弄する。
クウガはバヅーの動きを捉え切れず、見失った一瞬の隙を突かれてパンチやキックを打ち込まれてしまう。
「ぐっ!」
腹にバヅーの蹴りが打ち込まれてクウガは身を悶えさせた。
そこを背後からザインに締め上げられ、振り向かされてその顔に左、右とフックを打ち込まれる。
フラフラになった所をバヅーに蹴り飛ばされ、民家の玄関先にあった樽を破壊して中身の水を頭から被ってしまった。
それでも尚立ち上がろうとするクウガだったが、更に追い打ちにザインが得意とする突進攻撃を受けてしまう。
「ぐあぁっ!」
まともに食らったクウガは吹っ飛ばされて道沿いの商店の中へ突っ込んでしまった。
「ユウスケ!」
思わずキュルケが叫んだ。
「2体から繰り出される絶妙なコンビネーション。あれを一人で攻略するのは非常に困難」
タバサは淡々とした口調でクウガの戦況を分析する。
「それにツカサくんの方はどうやら間合いを見切られているな。リーチのある分、敵の方が有利だ」
続けてワルドもディケイド・アギトの戦いを解説した。
「ツカサ…」
ルイズが心配そうに声を漏らした。無意識に手がぎゅっと強く握られた。
「大丈夫です!」
すると重くなっていた空気を払拭するように、夏海が声を上げた。
「士くんもユウスケも、今よりもっと辛い戦いをくぐり抜けてきたんです!こんな所で負けたりしません!」
「ナツミ…」
夏海の目は、二人の敗北など微塵も考えていないようだった。
そして夏海の言葉にルイズも自分を奮い立たせる。
そうだ、自分の使い魔を信じてやらなくてどうする。ルイズは目を瞑って呼吸を整えると、強い視線で自分の使い魔の姿を見た。
(ツカサは、こんな所で負けたりしない!)
「ちっ!」
背後のクウガの劣勢を感じ取って士は舌打ちをした。
その目の前にはガリマとメビオが薄ら笑いを浮かべて立っている。今の状況は相手方の優勢、早くも勝ち誇っているようだ。
『ログ ゴパシザ パ クウガ。ゴラゲロ ググビ ガドゾ ゴパゲデジャス』
「…フッ」
だがメビオの言葉に、士は思わず吹き出した。
「面白い冗談だが、あまり見くびらない方が良いぜ。あいつも……この俺もな!」
アギトはカードを1枚、目の前に引き抜くと、ディケイドライバーへとセットする。
『FORM RIDE!AGITO!STORM!』
ディケイドライバーから青い光が放たれ、アギトの身体に波紋が走ると、黄金の鎧の胸部と左腕が青色に変化した。左腕に至っては、形状も変化している。
左手に双刃の槍『ストームハルバード』が握られ、アギトは『ストームフォーム』へとフォームチェンジを果たした。
ストームハルバードを頭上で回転させると、その切っ先を2体のグロンギへと向けた。
『バパダダザド!?』
『ラスゼ ガゴン クウガン ジョグバ ゼンバザ!』
アギトのフォームチェンジに動揺する2体のグロンギ。ストームハルバードを手にした事により、これまでのリーチ差が逆転した。
「いてててて…」
吹っ飛ばされた商店の中でクウガがむくりと起き上がった。ザインの直撃を受けたとは言え、致命傷に至る程では無い。
外にはザインとバヅーが待ち構えている。奴らもあれだけでクウガがくたばったとは思っていないようだ。
敵は強烈なパワーと突進力を持つ奴と、素早い動きで翻弄する奴。あのコンビネーションはそう簡単には破れそうにない。
と、ユウスケは自分の足下に転がっているものに気付いた。
それは剣だった。どうやらこの店は武器屋で、さっきクウガが店の中に突っ込んだ時に積んであったものをひっくり返してしまったようだ。
「よし!これなら!」
クウガは、散らばっていた剣の中から適当に一本拾い上げた。その剣は刀身に錆が浮いてとても剣としての役目を果たせるものでは無かった。
だが、それでも良かった。要は『イメージ出来れば』それで良いのだ。
「借ります!」
店主はとっくに逃げたのか、店内には誰もいなかったが、一応断りを入れる。
「超変身!」
ユウスケが叫び、念じると、アークルに埋め込まれていた霊石"アマダム"の色が赤から紫へと変化する。それと同時に赤の鎧は銀と紫の、より重厚なものへと変化し、複眼の色も紫に変わった。
クウガは『タイタンフォーム』へと超変身を果たし、その手に握られていた錆剣も専用武器『タイタンソード』へと変化する。
『グガダゾ バゲダバ クウガ!ボンゾパ ルサガビバ!』
商店の外へと出たクウガは、悠然と歩き出した。
そこへ先程と同様にバヅーが素早い動きでその周囲を動き回って翻弄し、パンチを打ち込んだ。
だが、クウガはまるでびくともせず、バヅーを無視して歩を進めた。
ムキになったバヅーは更にパンチやキックを連続で次々と打ち込んだが、バヅーの攻撃ではクウガを揺らす事すら敵わなかった。
パワーと耐久力に優れた『タイタンフォーム』の前では、ただ素早いだけのバヅーの攻撃はまったくの無力だった。
『ゾギデソ バヅー!ゴセガジャス!』
そこにザインが突撃してくる。さっきクウガを吹っ飛ばしたあの突進攻撃である。
だがクウガは臆する事無くザインの突進攻撃を真正面から受け止め、足で地面を1メートル程擦っただけでザインを完全に静止させた。
『ダババ!!?』
「はぁぁっ!!」
そこにすかさず、タイタンソードで斬り付けた。上段から一撃、更に下段から連続で斬り上げる。
蹌踉けるザインを悠然とした歩調で追うと、体勢を立て直す余地を与えず更もう一撃斬り付けた。
『ゴセグ ギスボドゾ パグセスバ!』
その死角から果敢にもバヅーがクウガに襲いかかる。背中に何発もパンチを繰り出すが、やはりまるで効いていない。
「はぁっ!!」
クウガは振り向き様にバヅーにパンチを打ち込む。
バヅーの軽い身体はパンチ一発で吹っ飛び、さっきのクウガと同じように武器屋の中に吹っ飛ばされた。
ストームフォームとなったアギトが、メビオ、ガリマ、2体のグロンギを相手に大立ち回りを演じていた。
ガリマの大鎌とストームハルバードが交錯し、火花を散らして両者は互いの武器を弾き飛ばす。
互いに武器を構え直し、再び武器をぶつけ合う二人。今度は弾き合わず、鍔迫り合いに持ち込まれる。
そこへ別の方向からメビオがアギトに襲いかかる。アギトは大鎌と絡み合っていたハルバードの角度を寝かせてガリマごと大鎌を受け流すと、メビオの爪をハルバードで受け止める。
そしてすぐさま刃を返し、攻撃を受け止められ一瞬硬直したメビオを斬り付け、続け様に手首を返してもう一方の刃で更に斬り付ける。
『バビゾ ジャデデス!メビオ!』
不甲斐無いメビオに苛立ちつつガリマも襲いかかるが、アギトは振り向き様に振り下ろされた大鎌をハルバードで受け止める。
一瞬の鍔迫り合いの末、両者は互いの武器を弾き飛ばすが、引きを利用してアギトはガリマに一撃。
ダメージで蹌踉けるガリマよりも早く体勢を立て直し、アギトは続け様に上段からの斬り降ろし、更にその勢いを利用してハルバードを一回転させもう一方の刃でもう一撃斬り降ろす。続いて真横に持ったハルバードから横一閃、更に刃を返してもう一撃横一閃を加え、
仕上げに回し蹴りを喰らわせる。
スピードを重視した『ストームフォーム』だから出来る鮮やかな連続攻撃だ。
『ザ、ザジャギ…!』
ハルバードを振り斬った所でメビオが再度襲いかかるが、ストームフォームの風のような速さに翻弄され、メビオの攻撃はアギトを捉える事は出来ない。
『ダババ!?リバベザベゼバブ ボグリョブロ クウガド ゴバジザドギグボバ!!?』
「ふっ!」
メビオの爪を回避し、がら空きになった上半身をハルバードで斬り付ける。
更に休む間もなく横一閃、上段から一閃、刃を返して下段から斬り上げ、頭上でハルバードを回転させてから更にもう一閃斬り降ろす。
『パダギゾ パグセデバギバ!?』
メビオにラッシュを掛けるアギトの背後からガリマが大鎌を振り上げて迫る。
「誰が忘れるか!」
アギトはメビオを斬り付けるとそれとは逆の刃で背後のガリマを突きで迎撃する。
虚を突かれて体勢を崩した所を振り向き様に更に斬り付けられ、ガリマは地面をゴロゴロと転がる。
だがその背後からメビオが襲いかかる。すぐに振り向いたアギトだが、一瞬反応が遅く、メビオに組み付かれてしまう。
パワー勝負に持ち込まれるとストームフォームは分が悪く、アギトは強引にストームハルバードを奪い取られてしまい、逆に斬り付けられてしまう。
『ヅビパ ボヂサン ロボザ!』
地面を転がってメビオと距離を取ったアギト。だが既にライドブッカーから新たなカードを取り出していた。
「悪いな。こっちの弾はまだあるんでね」
カードの縁をトントンと指で叩いてから、立ち上がりながらディケイドライバーにセットする。
『FORM RIDE!AGITO!FLAME!』
ディケイドライバーから赤い光が放たれ、アギトの身体に波紋が走ると、今度は赤を基調とした姿に変化した。右腕の形状も変化し、逆に左腕はグランドフォームと同じものに戻っている。
そして右手に燃えるような炎の剣、『フレイムセイバー』が握られた。パワーと知覚を向上させた『フレイムフォーム』だ。
同時にメビオの手からストームハルバードが消える。
『!?ラダ バパダダ!?』
驚きの表情を見せるメビオに、フレイムフォームとなったアギトが斬り掛かる。
フレイムセイバーをまずは下段から斬り上げ、刃を返して更に斬り降ろす。間髪入れず横一閃、もう一度刃を返して戻しで横一閃。
『ストームフォーム』と比べてスピードで劣るが、それを強化された知覚で補っている。更にダメージが蓄積したメビオ自身の動きも鈍っていた。
アギトの絶え間無い斬撃を受けて最早立っているだけがやっとのメビオ。
そして最期の一撃を加えるべく、アギトはフレイムセイバーの柄を両手で握り、メビオに向けて疾走する。
「はあぁぁっ!!」
そしてすれ違い様にメビオを斬り裂く。
立ち止まり、アギトがフレイムセイバーの刃をスッと手で拭うと、その背後でメビオは断末魔の声を上げて崩れ落ち、爆散した。
「はぁっ!たぁっ!」
クウガの猛ラッシュが続いていた。
タイタンソードから次々と繰り出される斬撃はザインにまるで反撃を許さなかった。
「はぁぁっ!」
渾身の一撃がザインの頭部に打ち込まれた。
その一撃で、ザインの自慢の角が切り落とされた。
『ア、アァァァァ!ゴ、ゴセン ヅボゾォォォッ!!』
「たぁぁぁっ!!」
クウガは空かさず、怒り狂うザインの腹にタイタンソードを突き刺した。
『ア…アア…ア……』
タイタンソードが突き立てられた傷口に、封印の刻印が刻まれる。
クウガはタイタンソードを引き抜き、ザインに背を向けた。
封印の刻印から光の亀裂が身体中に走り、ザインは断末魔の声と共に爆散した。
クウガは続いてもう一匹のグロンギ、バヅーを追って武器屋の前に駆け込む。だがその中にはバヅーの姿は何処にも無かった。慌てて周囲を見回してみても、その存在が確認出来ない。
「何処だ!?」
「あそこよ!」
キュルケが指差す方をクウガが向くと、逃走を図っていたバヅーの後ろ姿を確認した。
クウガがザインと戦っている隙に、街の建物の屋根を飛び移りながら、もうかなり遠くまで逃げていた。
「いつの間にあんなに遠くに!?」
とてもじゃないが追いつける距離では無かった。スピードを犠牲にした『タイタンフォーム』は元より、スピードに特化した『ドラゴンフォーム』でもここまで離されては追いつく前に逃げられてしまう。
トライチェイサーであれば追いつけるだろうが、あれは今街の駅に預けたまま、バヅーが逃走しているのは駅とは逆方向である。
倒すとなると、超感覚で敵の位置を察知し、射抜く事のできる『ペガサスフォーム』だけしかない。
だが、ペガサスフォームに超変身した所で肝心の武器が無い。
ペガサスフォームの専用武器『ペガサスボウガン』は、銃など"射抜くもの"をイメージさせる物から作り出すのだ。
だが今手に持っているタイタンソードは錆びた長剣から作り出したもの。長さもあるので『ドラゴンロッド』に作り替える事はできても、『ペガサスボウガン』には無理だ。
さっきの武器屋を探せば銃とは言わずも弓矢くらいはあるかもしれないが、そうしている内にバヅーは何処かへか逃げてしまうだろう。
逃げ去ったバヅーは、また何処か知らない土地でゲームと称して罪も無い人間を虐殺する。そして誰かが傷つき、苦しみ、悲しみ、笑顔を失ってしまう。
(そんな事…させてたまるか!)
ユウスケの心が激しく震えた。
その時。
「おい!おめえ何ぼさっとしてやがる!さっさとイメージしやがれ!」
「えぇっ!!?」
突然、タイタンソードが声を発した。
いや、正確には"タイタンソードの元になった剣"が喋り出したのである。
「け、剣が喋った!?」
突然の事に戸惑うユウスケ。しかし剣の方はそんな事意に介さずに捲し立てる。
「俺の事は今はどうでも良い!さっさとしないとあの化け物に逃げられっちまうんだろ!?いいからとっととイメージしろ!」
「イメージしろって、いきなり言われても…」
「おめえはただおめえが望むものをイメージすりゃいいんだ!俺がそれに合わせる!」
「あ、合わせるって……〜〜えぇぇぃ!一か八かだ!」
剣の異様な剣幕に気圧されて、ユウスケはいよいよ腹をくくった。
「超変身!」
アマダムが緑色の光を放ち、鎧と複眼が緑色のものに変化した。クウガの『ペガサスフォーム』である。
そして言われた通りその手に持った剣に『射抜くもの』をイメージする。すると本当に『タイタンソード』から『ペガサスボウガン』に変わったのだ。
「ほ、ホントに変わった!」
「馬鹿やろう!驚いてる場合か!逃げられっちまうぞ!」
「そ、そうだった」
クウガは民家の屋根に飛び乗った。
強化された視力によって逃げて行くバヅーの後ろ姿がはっきりと確認出来る。
クウガは感覚を集中させながらボウガンの矢を引いた。ペガサスフォームの超感覚でバヅーを取り巻く環境が手に取るように判る。バヅーの現在位置、進む方向、空気の流れ、周囲の状況、バヅーの息づかい、バヅーの間接の音。
そして、それらの状況からバヅーが次に取るであろう行動を即座に予測した。
「見えた!!」
クウガがボウガンの矢を放った。高密度に圧縮された空気の弾丸が超高速で放たれた。
別の民家の屋根に飛び移ろうと、バヅーが高く飛び上がったその時、背後から何かの接近を感じ取り、振り返ろうとした。
しかしバヅーは"それ"がクウガの放った一撃だと理解する事無く"それ"に撃ち抜かれ、断末魔を上げる間もなく空中で爆散した。
フレイムセイバーと大鎌が交錯し、アギトとガリマが鍔迫り合いに入る。
「ゾグジャサ ゴラゲガンン ババラパ リンバ ジャサセヂラダダリダギザザ」
二人は互いに武器を弾いて、一旦距離を取る。
「…ゴセドロ、ゾバビロ ゴババラグ ギダシ グスンジャバギザソグバ?」
『………』
ガリマは押し黙ってしまった。だが士にはそれで十分だった。
「ゾグジャサ ゴラゲゼ ガギゴ、リダギザバ」
『ギィ〜…ッ!』
ガリマが怒りの声を上げる。
『ダドゲ パダギ パパンビンド バデデロ、ゴラゲダヂゾ ダゴギ、ゲゲルゾ ゲギボグガゲデリゲス!』
「ゴラゲサン ガジャラヂパ、ボンゲバギビ ジャデデビデロ ゲゲルゾ ドシゴボバゴグドギダボドザ!」
アギトは一気に間合いを詰めると、真上からフレイムセイバーで斬り掛かった。
ガリマももちろん大鎌で受け止めようとするが、力一杯の『面』、フレイムフォームのパワーはそのまま大鎌ごとガリマを斬り裂いた。
自慢の大鎌を真っ二つにされ、胸から腹にかけて大きく斬り裂かれたダメージで地面を転がるガリマ。
そんなガリマにアギトは背を向ける。
「地獄で反省してろ!」
ライドブッカーから最後のカードを取り出し、ディケイドライバーにセットする。
『FINAL ATTACK RIDE!A,A,A,AGITO!』
振り向いたアギトの姿が深紅のフレイムフォームから黄金のグランドフォームに変わる。
頭部のクロスホーンが展開され、足下にアギトの紋章が浮かび上がり、それが両の足へ集束する。
「はっ!」
アギトが宙に飛び上がった。
『!?』
フラフラの状態で何とか立ち上がったガリマだったが、飛び上がったアギトの姿を前にして、一瞬動きを止めてしまった。
「たあぁぁぁぁぁっ!!」
アギト必殺『ライダーキック』がガリマに炸裂する。
ガリマは後方へと吹っ飛び、大地に叩き付けられ、断末魔の咆哮と共に爆散した。
燃え盛る炎を横目に、アギトはクロスホーンを納めた。
こうして、トリスタニアを襲った全てのグロンギは、二人のライダーによって討ち滅ぼされた。
「…倒した」
クウガ、ディケイド・アギト。二人の仮面ライダーの勝利である。
以前のギーシュとの決闘などとは比べ物にならない、濃密な戦いを目の当たりにし、またそれが終わりを迎えた事で一気に緊張の糸が抜け、一同にどっと疲れが押し寄せた。
「あぁ…素敵…!最っっ高…!」
キュルケが満ち足りた表情で精神をトリップさせている。ルイズはもう突っ込む余力も残ってなかった。
「皆、まだ気を抜くんじゃない。まだ連中の仲間が現れるかもしれない」
気が抜けている一同の中でワルドとタバサだけは気を張ったまま、未だに周囲の警戒を解いていなかった。
「その心配はない」
するとそこへ士が変身を解除してこちらにやって来た。
「連中はあれで全部だ」
「…何故そう言い切れる?」
ワルドは訝しげに士の顔を睨みつけた。
「奴らに直接聞いた。ここに来たのはあの6体だけだ。もういない」
「直接聞いた?君はあの化け物の言葉が判ると言うのかい?」
「あぁ」
士はあっさりと肯定する。
ワルドは顔を顰めた。
「…君は見た所平民のようだが、あのマジックアイテムは何処で手に入れた?あの力はマジックアイテムによるものなのか?何故あの化け物の言葉を解せる?」
「一度に幾つも質問を並べるな、鬱陶しい」
「何…?」
ギリッと、奥歯を噛んでワルドが士に迫る。慌ててルイズが二人の間に入った。
「ちょっ…ワルド様、押さえてください。…ツカサも!貴族を相手にしてるんだから最低限の礼儀ぐらい正しなさい!」
ルイズに仲裁に入られ、ワルドは仕方無くその場は押さえる。士の方は不機嫌そうに「フンっ」と鼻を鳴らしているが。
「だが、これだけは答えてほしい。…キミは一体何者だ?」
ルイズは息を呑んだ。
質問をしながらワルドの手は杖の柄を握っている。もしここで士が下手な返答をすればワルドは即座に杖を抜くだろう。せっかくグロンギ騒動も収まったのに、その結末は無い。
「あの——っ!?」
何とかルイズが仲裁しようと口を開きかけたが、士に手で制される。
そして士はワルドを真正面から見据えて、口を開いた。
「俺はこいつの使い魔だ」
士はそう、真顔で答えた。
「使い魔…?」
それを聞いて、ワルドは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「ああ、そうだ。お前はこいつの使い魔を…こいつの事をそんなに信用出来ないのか?」
「む…」
ワルドは閉口した。
ただの平民であるなら何だかんだと理由をつけて強引にこの男の持つマジックアイテムを接収する事も出来るが、ルイズの使い魔と言うなら話は変わってくる。
何より、ワルドとしてはルイズの心象を損なう事はしたくなかった。せっかく見つけた可能性を、むざむざと失うわけにはいかなかった。
と、そんなワルドの心境など露とも知らないルイズは、思いっきり士の足を踏み付けた。
「…ってぇ〜っ!!!な、何しやがる!いきなり!!」
「何じゃないわよ!ワルド様をお前呼ばわりなんかして!礼儀知らずもいい加減にしなさい!!」
「だからって、蹴るこた無いだろ!」
「アンタ口で言っても判んないでしょ!だったら身体に教え込ませるしか無いでしょうが!」
「人を獣扱いするな」
「アンタは私の使い魔なんでしょ!なら獣よ獣!ケダモノよ!」
「いえ、流石にケダモノは言い過ぎだと思いますが…」
見兼ねた夏海がツッコミを入れる。
そんな三人の漫才を見て、ワルドは苦笑いを浮かべた。
「…いや、礼儀の事はもう良い。次会う時までに改善していてもらえればな」
「で、ですが…」
「思えば、僕の方も礼儀と言う点では彼と大差ない。窮地を救ってくれた相手に対する態度ではなかったな。非礼を詫びよう」
そう言ってワルドは羽帽子を取ると、士に一礼した。
「そ、そんな、ワルド様…、平民なんかに頭を下げるなんて…」
「ルイズ、たとえ平民であっても恩義を感じているなら礼節を尽くすのが貴族というものではないのかな?」
「うぅ…」
ワルドに説き伏せられ、ルイズは唸る事しか出来なかった。
「どうやら礼儀云々に関してはこいつの方が一枚上手みたいだな」
「アンタまたワルド様を…っていうかアンタに言われたくない!」
ワルドは苦笑いを浮かべながら更に続けた。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名はワルド子爵。トリステイン王宮の魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長。そちらのルイズの婚約者だ」
ワルドの口から出た最後の単語を聴いて、その場にいた士、タバサ以外の全員がブハッと吹き出した。
「こ、婚約者!!?ルイズちゃんの!!?」
「ワ、ワルド様!?そ、それは子供の頃の…!親同士が決めた事ですわ…!」
顔を真っ赤にしてルイズが抗議するが、ワルドは冗談などでなく至って真面目だ。
「確かにそうだが、僕はずっとキミの事を忘れずにいたんだよ。いつか立派な貴族になって、キミを迎えにいこうってね」
そんな真面目な顔でそんな甘い言葉を囁かれてはルイズは何も言えなくなる。耳まで真っ赤になって頭から蒸気が吹き出した。
「…まったく、あんないい男を使い魔にした挙げ句、こんないい男の婚約者までいるなんて、どこまで幸せを独り占めするつもりかしら?」
横からキュルケが恨み節のようなからかいの言葉を浴びせたが、脳みそが茹蛸状態のルイズは自慢げになるわけでもなく反論するわけでもなく、真っ赤になって指先をちょんちょんと合わせていた。
「…士くんはそんなに驚いてないみたいですね」
「ま、こんなんでも貴族のお嬢様だからな。婚約者の一人や二人、いてもおかしくないだろ」
「こんなんで悪かったわね!それに、婚約者はいても一人よ!」
そんな状態でも士へのツッコミは忘れない。それを見てワルドは微かに目を細めた。
「そう言えば、もう一人の彼はどうしたんだい?彼にもお礼を言いたいのだけれど…」
「…ユウスケ?そう言やあいつ何処行った?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ユウスケはすっかりボロボロになった武器屋の中から出て、こっちに走って来た。
「ユウスケ、お前何やってたんだ?」
「いや、ちょっと名残惜しいけど、お別れを、ね」
「…お別れ?誰と?」
ワケの判らない事を口走るユウスケに士は首を傾げた。
「おぉ、君!…と、ユウスケくんで良かったかな?君にも礼をと思ってね!この度は危機を救ってくれて感謝する」
するとワルドは先程士にしたようにユウスケにも一礼した。
「いや、そんな、当然の事をしたまでですよ〜」
とか口で言いながらも、頭を掻いて得意げな様子だ。
「もしかして君もルイズの使い魔なのかい?」
「いえいえ、俺は違います。俺は、こいつ。こいつと二人で世界を救うチームなんです!」
と、ユウスケは士の肩を抱いて引き寄せる。
「世界を、救う…?」
またも不可解な単語が出て来てワルドは首を傾げた。
「こいつの言う事をいちいち真に受けてちゃ身が持たないぜ」
「なんだよ、ホントの事だろ!」
「はいはい」
と、士はユウスケを軽くあしらってその手を振りほどいた。
「ところででどうだろう、これから僕は王宮へ報告に戻るのだが、キミ達も共に来てくれないか?」
「…私達を王宮に?」
ワルドが頷く。
「報告するならあんた一人で行けばいいだろ。俺達が行ってどうなる?」
ユウスケの額を指で小突きながら士が相変わらずの態度で言った。
「報告は嘘偽り無く行うつもりだ。無論、キミ達の事も報告させてもらう。君達は我がトリスタニアの危機を救ってくれた英雄だ。姫殿下もきっとお会いしたがるだろう」
「アンリエッタ姫殿下に…!」
ルイズの顔がぱあっと輝く。
「少し時間を取らせてしまうが、どうかな?出来れば来てほしいのだが…」
「行きます!」
ルイズが即答した。
「おぉ!来てくれるか!ルイズ!」
「勿論です!姫様がお会いしたがると言うなら、是非とも!ツカサ!アンタも来るのよ!」
予想していた通りの命令が下り、士はやれやれと肩を竦めた。
するとそんな中、タバサが一人くるりと踵を返し、一同から離れ始めた。
「タバサ?」
キュルケが気付いて呼び止める。
「行かない」
タバサは一瞬立ち止まって短くそれだけ言うと、再び歩いて行ってしまった。
「何?せっかく姫殿下にお目通り出来るって言うのに…」
タバサの行動の意味が理解出来ずルイズは毒づいた。
と、今度はキュルケがくるりと身を翻してワルドに向き直った。
「せっかくのご招待ですが、相方があの様子ですから、わたくしも辞退させていただきますわ」
「キミもか?」
「えぇ、わたくし出身はゲルマニアですので、それを快く思わない人もいますでしょうし」
そう言ってキュルケはルイズに目線を送った。ルイズは少しだけムッとする。
たとえゲルマニアでツェルプストーでも、姫殿下がお会いしたいと言うならばそれをルイズは咎めるつもりは無い。
「それに、わたくしも彼女も、先程の化け物相手に何も出来ませんでしたわ。そんなわたくし達が英雄と呼ばれるのは、分不相応だと思いますので」
ふと、キュルケの言葉がルイズの心を微かに揺さぶった。
キュルケはそれだけ言うと優雅に一礼して、タバサの後を追って路地の向こうに消えて行った。
ワルドは肩を落としつつも、行きたくないと言う者を無理に引っ張って行くわけにも行かず、仕方無く二人を諦めた。
ワルドが手を挙げて合図をすると、上空で事態を見守っていたグリフォン隊の一人がワルドの目の前に降り立った。
「これから僕は王宮へと報告に戻る。事後処理はお前に一任する。貴族と平民の遺体の区別だけはしっかりと頼むぞ」
「はっ!」
部下が先程のワルドと同じように手を挙げて合図をすると、上空にいた騎士達が次々と降りて来、彼らに指示を伝えていた。
そんな騎士達を尻目に、ワルドに伴われて士達は王宮へと歩き出した。
「…死んだ奴ですら、貴族平民分けるのか」
ふと士は後方の騎士達を見ながら呟いた。
「仕方あるまい、貴族と平民を平等に弔えば、貴族側から不満の声が漏れるからな」
この国を取り仕切り、実質的に動かしているのは貴族である。その貴族の機嫌を損なえば国の運用にも支障を来し兼ねないのだ。
「あまり好かないな、この国のそう言う所」
「…正直だな、キミは」
ワルドは思わず苦笑いを浮かべた。
そんな二人のすぐ後ろを歩いていたルイズは、悶々としていた。
原因は、キュルケが別れ際に放った言葉。
『わたくしも、彼女も、先程の化け物相手に何も出来ませんでしたわ。そんなわたくし達が英雄と呼ばれるのは、分不相応だと思いますので』
それを言うなら、ルイズも同じだ。
自分も、グロンギ相手に何も出来なかった。そんな自分が英雄と称えられ、姫殿下から謝恩の言葉を貰って良いものだろうか。
…よくない。
例え姫殿下がそれで良いと仰ってくれても、ルイズ自身はまったく納得がいかない。
次にルイズは士の横顔を見た。
士はあの決闘があった日、魔法が使えない代わりにルイズの力になると言ってくれた。士の力、ディケイドの力はルイズの力。そしてその力は見事トリスタニアを襲ったグロンギを討ち滅ぼした。
…それでも、やっぱり納得出来ない。
ディケイドの力はあくまで士の力。士がルイズの使い魔であっても、ルイズ自身が無力なのに変わりはない。
そしてルイズは、今更ながら自分と士の間に歴然とした差がある事を思い知り、そして余りに分不相応な使い魔を召喚してしまった自分を呪った。
片や、魔法も使えない劣等生『ゼロ』のルイズ。
片や、平民とは言え、魔法衛士隊でも敵わなかった敵を倒す力を持つ『仮面ライダーディケイド』。
何故自分はこれほどまでの使い魔を呼び出してしまったのだろうか?
キュルケのサラマンダーや、タバサの風竜のように、メイジの実力に相応する使い魔を召喚するなら判る。ならばルイズは…?
ルイズが余りに魔法を失敗させるから、哀れに思った始祖が本当に強い使い魔を選んでくれたのだろうか?だとしたら何て余計なお世話を焼いてくれる始祖なのだろう。
そんな事をすれば使い魔とメイジのあまりの落差に余計に惨めに見えるのは明白だと言うのに。
なんで…どうして、こんな事になってしまったのだろう…。
「ルイズ?」
そんな悶々としていると、前を歩いていたワルドが声をかけてきた。
「どうしたんだい?さっきから難しい顔をして、何か思い詰めているようだが…?」
「いえ、その…さっきキュルケの言ってた事が、その、気になって…」
「キュルケとは、あのゲルマニアの彼女の事かい?もしかして、『何も出来なかった』と言う事を自分にも当て嵌めているのかい?だとしたらそれは間違いだ。何故ならあの化け物を倒したのはキミの使い魔である彼だ。つまりその主人であるキミが倒したも同然じゃないか」
「…そ、そうですね。はは、ははははは…」
ルイズはそう言って無理に笑顔を作って見せると、ワルドはそれで満足したのか、にこりと笑って再び前を向いた。
無論、ルイズがそれで満足出来る筈もなく、ワルドの視線が外れると、はぁと小さく溜息を付いた。
と、ルイズは士が横目でこちらを見ている事に気が付いた。
「何?」
ルイズが尋ねると、士は「別に」とルイズから視線を外した。
そうこうしている内に、ルイズ達はトリステインの王宮の前まで辿り着いた。
これからアンリエッタ王女殿下にお会いする。そして殿下から謝辞の言葉を述べられる。
そう思うと、ルイズの心にずんと重圧がのしかかった。
※[[グロンギ語訳>http://roofcity.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/upload/src/up0115.txt]]
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#navi(ゼロと世界の破壊者)
#navi(ゼロと世界の破壊者)
第8話「王都トリスタニア・中編」
「凄い…凄すぎるわ!ダーリンも!ユウスケも!!」
あっという間にグロンギを打ち倒したディケイドとクウガ。
その勇姿を目の当たりにした、キュルケは二人に熱っぽい視線を交互に送って歓喜の声を上げた。キュルケを知る者達は、惚れっぽいキュルケがまた新しい男に惚れたのだと理解した。
「…アンタ、もしかしてユウスケにも惚れたの?」
「えぇ!あたし、彼に恋したみたい!痺れたわ…心の底から…!」
顔を紅潮させて満悦な表情のキュルケ。脳内で士とユウスケに挟まれて、さながら逆ハーレム状態でも想像してるのだろうか。
本当に色ボケの脳を持つ一族、節操無しも良い所だとルイズは呆れ果てた。
だが炎を背にしたディケイドの姿を見ていたら、ルイズの顔も自然と綻んでいた。ルイズ自身は決して認めないだろうが、ルイズもキュルケの事を言える立場でもない。
街を襲ったグロンギは打ち倒され、それによる安堵感が一同を包み込んでいた緊張を解きほぐしつつあった。
戦いを終えたディケイドとクウガもこちらに歩いてきたが、その途中、二人は突然足を止めた。
そしてその場で踵を返し、自分達が打ち倒したグロンギの炎の、その向こう側を見詰めた。
「…まだいる」
その気配をいち早く感じ取ったタバサが呟いた。一同に再び緊張が走った。
二人のライダーがそれぞれ見詰める炎の向こうから、二つの影が現れた。計四体の、新たなグロンギがその姿を露にした。
「よ、4体!?まだあれだけいたのか!?」
1体でも恐ろしかった敵が更に4体も。いや、全部で6体ものグロンギがこの王都に侵入していた事に、ワルドは驚愕した。
4体のグロンギは炎を乗り越えて、ディケイド、そしてクウガの前に並び立った。
『グムンド ガドラグ ダゴガセダド ビデリセダ、ラガバ クウガグ ギダドパバ』
(グムンとガドラが倒されたと来てみれば、まさかクウガがいたとはな)
『ゴセビ クウガド ビダジャヅグ ログパパンジビ、ジョブパバサバギグ ジャヅロ リントン ゲンギザバ』
(それにクウガと似たヤツがもう1匹、よく判らないがヤツもリントの戦士だな)
クウガの前に現れた、鼻に大きな角を生やしたサイのグロンギ、ズ・ザイン・ダと、頭から2本の触角を生やし、首に大きなスカーフを巻いているバッタのグロンギ、ズ・バヅー・バが言い放つ。
『ザセゼ ガソグド パセサン ゲゲルゾ ジャラグスジャヅパ ザギジョグスボリ』
(誰であろうと我等のゲゲルを邪魔するヤツは排除するのみ)
『ズン、ボセロラダ ゲゲルン ダボギリン パパンボザ!』
(フン、これもまた、ゲゲルの楽しみの一つだ)
ディケイドの前に並び立つ、巨大な大鎌を携えたカマキリのグロンギ、メ・ガリマ・バと、黒髪のドレッドヘアのヒョウのグロンギ、ズ・メビオ・ダが叫ぶ。
「…追加オーダーを頼んだ覚えは無いんだがな」
2体のグロンギを前にしても尚、士は余裕の態度を崩さない。
「んな事言ってる場合かよ!…ったく、次から次へと!まるで俺の世界に戻ってきたみたいだ!」
「そんなの、襲ってくる連中を片っ端から倒して行けば問題無い。あの時よりも遥かにマシだろ?」
あの時、と言われ、ユウスケが思い出したのはディケイドと共に戦ったクウガの世界での最後の戦い。
目覚めたグロンギの王『究極の闇』、ン・ガミオ・ゼダと、奴が人間から生み出した無数のグロンギ。それを相手にたった二人だけで立ち向かい、そして勝利した時の事。
それと比べれば、相手はたかが4体、全然楽勝だ。
「…あぁ、お前の言う通りだな!片っ端からここでぶっ倒す!」
クウガが右拳を左掌に打ち付けて言った。
「そう言う事だ」
するとディケイドはライドブッカーから一枚のカードを引き抜き、ディケイドライバーにセットした。
『KAMEN RIDE!AGITO!』
ディケイドライバーから音声と共に目映い光が放たれディケイドを包み込むと、その姿を黄金の鎧を纏った姿、『仮面ライダーアギト』へと変化させた。
仮面ライダークウガ、仮面ライダーアギト、二大ライダーが背中合わせに並び立った。
「そっちの2体は任せたぞ、ユウスケ!」
両手をぱんぱんと叩き合わせて、ディケイド・アギトがガリマとメビオを見据える。
「あぁ!お前も頼んだぞ!士!」
拳と掌を打ち付けた状態から構えを取り、クウガがザイン、バヅーへと駆け出した。
それとほぼ同時に、アギトも飛び出した。
クウガはいきなり飛んで来たザインのパンチを受け止めると、そのままザインの胸にパンチを打ち返す。
その隙に背後からバヅーが襲いかかるが、それを察知したクウガはキックを打ち込んでバヅーを弾く。
バヅーに一瞬気を取られた隙にザインはクウガの手を払い除け、お返しにとクウガにフックを2発打ち込んだ。
蹌踉けるクウガをバヅーが背後から羽交い締めにしようとするが、それを強引に振りほどくと、振り向き様にバヅーの顔を殴りつける。
すぐさま背後から迫るザインに向き直ったが、一瞬遅れたため両腕を掴まれてしまう。
しかしすぐにザインの腹に蹴りを打ち込んで両腕を解放させると、クウガは2体のグロンギに挟まれた状態で再び構え直す。
向かってくるアギトにガリマは大鎌で斬りつけるが、アギトはそれを受け流すとそのままその背後に控えていたメビオを殴りつける。
ガリマは背後から再びアギトを襲うが、察知していたアギトはひらりと回避し、そのまま右のフックを打ち込む。更に一瞬蹌踉けたガリマの顔へ更に左フックを打ち込んで弾き飛ばした。
その背後からメビオが襲いかかるが、アギトは上段回し蹴りでその顎を蹴り飛ばし、更にそのままもう一発、回し蹴りを食らわせてメビオを蹴り飛ばした。
地面を転げたガリマとメビオは怒りの唸り声を上げながら立ち上がり、再びアギトへと向かう。
「いいぞ、どんどん来い!」
対するアギトも余裕っぽく両手をぱんぱんと叩き合わせ、向かってくる2体のグロンギに応戦する。
1対2と言う数で不利な条件にも関わらず、まるで臆さずに拮抗した戦いを繰り広げる二人の仮面ライダー。
ルイズ達は、その戦いぶりからまったく目が離せないでいた。
クウガがパワーで押し切り、アギトが見事な体裁きで敵を翻弄する。
魔法の力で戦うハルケギニアの人間から見れば些か原始的な、単純な殴り合いによる戦いだが、そこには何か目を釘付けにされるある種の美しさのようなものがあった。
「凄い…やっぱり凄すぎるわ!あの二人!二人掛かりの敵に負けてない!」
興奮してキュルケが声を上げた。キュルケもうずっとクウガの勇姿に酔いしれていた。
「うん、あれなら二人相手にでも勝てるわね!」
珍しくルイズがキュルケに同意する。ルイズはディケイド・アギトの方を見ていたが、気持ち的にはキュルケとほぼシンクロしていた。
だがはしゃぐ二人とは裏腹に、タバサとワルドの二人の表情は硬かった。
「…少し、旗色が怪しくなってきたな」
水を差すようにワルドが呟いた。
「…どう言う意味?」
「押されてきている」
今度はタバサがそう静かに言う。
一同は、改めてライダー達の戦いを注視した。
アギトはガリマにパンチを繰り出すがそれらは虚しく空を切った。
ガリマは大鎌を振り下ろして反撃する。アギトは一撃目を何とか回避するが、二撃目は間に合わず、仕方無く腕で受け止めた。だがそこにメビオが襲いかかる。メビオの爪がアギトの背中を切り付けた。
「がっ!」
蹌踉けるアギトに、空かさずガリマの大鎌が襲いかかるが、それは何とか地面を転がって回した。
ガリマは自身の大鎌とアギトのリーチ差を利用して巧みに攻撃を仕掛けて来ていた。
また足の早いメビオの錯乱もあって、アギトの攻撃はなかなか決まらず、徐々に追いつめられつつあった。
『ゴン ガバゼパ ゴセビパ ヅギデボセラギ!』(その赤では俺にはついて来れまい!)
バヅーは軽いフットワークで右へ左へと動き回り、クウガを翻弄する。
クウガはバヅーの動きを捉え切れず、見失った一瞬の隙を突かれてパンチやキックを打ち込まれてしまう。
「ぐっ!」
腹にバヅーの蹴りが打ち込まれてクウガは身を悶えさせた。
そこを背後からザインに締め上げられ、振り向かされてその顔に左、右とフックを打ち込まれる。
フラフラになった所をバヅーに蹴り飛ばされ、民家の玄関先にあった樽を破壊して中身の水を頭から被ってしまった。
それでも尚立ち上がろうとするクウガだったが、更に追い打ちにザインが得意とする突進攻撃を受けてしまう。
「ぐあぁっ!」
まともに食らったクウガは吹っ飛ばされて道沿いの商店の中へ突っ込んでしまった。
「ユウスケ!」
思わずキュルケが叫んだ。
「2体から繰り出される絶妙なコンビネーション。あれを一人で攻略するのは非常に困難」
タバサは淡々とした口調でクウガの戦況を分析する。
「それにツカサくんの方はどうやら間合いを見切られているな。リーチのある分、敵の方が有利だ」
続けてワルドもディケイド・アギトの戦いを解説した。
「ツカサ…」
ルイズが心配そうに声を漏らした。無意識に手がぎゅっと強く握られた。
「大丈夫です!」
すると重くなっていた空気を払拭するように、夏海が声を上げた。
「士くんもユウスケも、今よりもっと辛い戦いをくぐり抜けてきたんです!こんな所で負けたりしません!」
「ナツミ…」
夏海の目は、二人の敗北など微塵も考えていないようだった。
そして夏海の言葉にルイズも自分を奮い立たせる。
そうだ、自分の使い魔を信じてやらなくてどうする。ルイズは目を瞑って呼吸を整えると、強い視線で自分の使い魔の姿を見た。
(ツカサは、こんな所で負けたりしない!)
「ちっ!」
背後のクウガの劣勢を感じ取って士は舌打ちをした。
その目の前にはガリマとメビオが薄ら笑いを浮かべて立っている。今の状況は相手方の優勢、早くも勝ち誇っているようだ。
『ログ ゴパシザ パ クウガ。ゴラゲロ ググビ ガドゾ ゴパゲデジャス』
(もうクウガは終わりだ。お前もすぐに後を追わせてやる)
「…フッ」
だがメビオの言葉に、士は思わず吹き出した。
「面白い冗談だが、あまり見くびらない方が良いぜ。あいつも……この俺もな!」
アギトはカードを1枚、目の前に引き抜くと、ディケイドライバーへとセットする。
『FORM RIDE!AGITO!STORM!』
ディケイドライバーから青い光が放たれ、アギトの身体に波紋が走ると、黄金の鎧の胸部と左腕が青色に変化した。左腕に至っては、形状も変化している。
左手に双刃の槍『ストームハルバード』が握られ、アギトは『ストームフォーム』へとフォームチェンジを果たした。
ストームハルバードを頭上で回転させると、その切っ先を2体のグロンギへと向けた。
『バパダダザド!?』(変わっただと!?)
『ラスゼ ガゴン クウガン ジョグバ ゼンバザ!』(まるで青のクウガのような変化だ!)
アギトのフォームチェンジに動揺する2体のグロンギ。ストームハルバードを手にした事により、これまでのリーチ差が逆転した。
「いてててて…」
吹っ飛ばされた商店の中でクウガがむくりと起き上がった。ザインの直撃を受けたとは言え、致命傷に至る程では無い。
外にはザインとバヅーが待ち構えている。奴らもあれだけでクウガがくたばったとは思っていないようだ。
敵は強烈なパワーと突進力を持つ奴と、素早い動きで翻弄する奴。あのコンビネーションはそう簡単には破れそうにない。
と、ユウスケは自分の足下に転がっているものに気付いた。
それは剣だった。どうやらこの店は武器屋で、さっきクウガが店の中に突っ込んだ時に積んであったものをひっくり返してしまったようだ。
「よし!これなら!」
クウガは、散らばっていた剣の中から適当に一本拾い上げた。その剣は刀身に錆が浮いてとても剣としての役目を果たせるものでは無かった。
だが、それでも良かった。要は『イメージ出来れば』それで良いのだ。
「借ります!」
店主はとっくに逃げたのか、店内には誰もいなかったが、一応断りを入れる。
「超変身!」
ユウスケが叫び、念じると、アークルに埋め込まれていた霊石"アマダム"の色が赤から紫へと変化する。それと同時に赤の鎧は銀と紫の、より重厚なものへと変化し、複眼の色も紫に変わった。
クウガは『タイタンフォーム』へと超変身を果たし、その手に握られていた錆剣も専用武器『タイタンソード』へと変化する。
『グガダゾ バゲダバ クウガ!ボンゾパ ルサガビバ!』(姿を変えたなクウガ!今度は紫か!)
商店の外へと出たクウガは、悠然と歩き出した。
そこへ先程と同様にバヅーが素早い動きでその周囲を動き回って翻弄し、パンチを打ち込んだ。
だが、クウガはまるでびくともせず、バヅーを無視して歩を進めた。
ムキになったバヅーは更にパンチやキックを連続で次々と打ち込んだが、バヅーの攻撃ではクウガを揺らす事すら敵わなかった。
パワーと耐久力に優れた『タイタンフォーム』の前では、ただ素早いだけのバヅーの攻撃はまったくの無力だった。
『ゾギデソ バヅー!ゴセガジャス!』(退いてろバヅー!俺がやる!)
そこにザインが突撃してくる。さっきクウガを吹っ飛ばしたあの突進攻撃である。
だがクウガは臆する事無くザインの突進攻撃を真正面から受け止め、足で地面を1メートル程擦っただけでザインを完全に静止させた。
『ダババ!!?』(バカな!!?)
「はぁぁっ!!」
そこにすかさず、タイタンソードで斬り付けた。上段から一撃、更に下段から連続で斬り上げる。
蹌踉けるザインを悠然とした歩調で追うと、体勢を立て直す余地を与えず更もう一撃斬り付けた。
『ゴセグ ギスボドゾ パグセスバ!』(俺がいる事を忘れるな!)
その死角から果敢にもバヅーがクウガに襲いかかる。背中に何発もパンチを繰り出すが、やはりまるで効いていない。
「はぁっ!!」
クウガは振り向き様にバヅーにパンチを打ち込む。
バヅーの軽い身体はパンチ一発で吹っ飛び、さっきのクウガと同じように武器屋の中に吹っ飛ばされた。
ストームフォームとなったアギトが、メビオ、ガリマ、2体のグロンギを相手に大立ち回りを演じていた。
ガリマの大鎌とストームハルバードが交錯し、火花を散らして両者は互いの武器を弾き飛ばす。
互いに武器を構え直し、再び武器をぶつけ合う二人。今度は弾き合わず、鍔迫り合いに持ち込まれる。
そこへ別の方向からメビオがアギトに襲いかかる。アギトは大鎌と絡み合っていたハルバードの角度を寝かせてガリマごと大鎌を受け流すと、メビオの爪をハルバードで受け止める。
そしてすぐさま刃を返し、攻撃を受け止められ一瞬硬直したメビオを斬り付け、続け様に手首を返してもう一方の刃で更に斬り付ける。
『バビゾ ジャデデス!メビオ!』(何をやってる!メビオ!)
不甲斐無いメビオに苛立ちつつガリマも襲いかかるが、アギトは振り向き様に振り下ろされた大鎌をハルバードで受け止める。
一瞬の鍔迫り合いの末、両者は互いの武器を弾き飛ばすが、引きを利用してアギトはガリマに一撃。
ダメージで蹌踉けるガリマよりも早く体勢を立て直し、アギトは続け様に上段からの斬り降ろし、更にその勢いを利用してハルバードを一回転させもう一方の刃でもう一撃斬り降ろす。続いて真横に持ったハルバードから横一閃、更に刃を返してもう一撃横一閃を加え、
仕上げに回し蹴りを喰らわせる。
スピードを重視した『ストームフォーム』だから出来る鮮やかな連続攻撃だ。
『ザ、ザジャギ…!』(は、速い…!)
ハルバードを振り斬った所でメビオが再度襲いかかるが、ストームフォームの風のような速さに翻弄され、メビオの攻撃はアギトを捉える事は出来ない。
『ダババ!?リバベザベゼバブ ボグリョブロ クウガド ゴバジザドギグボバ!!?』
(バカな!?見かけだけでなく能力もクウガと同じだと言うのか!!?)
「ふっ!」
メビオの爪を回避し、がら空きになった上半身をハルバードで斬り付ける。
更に休む間もなく横一閃、上段から一閃、刃を返して下段から斬り上げ、頭上でハルバードを回転させてから更にもう一閃斬り降ろす。
『パダギゾ パグセデバギバ!?』(私を忘れてないか!?)
メビオにラッシュを掛けるアギトの背後からガリマが大鎌を振り上げて迫る。
「誰が忘れるか!」
アギトはメビオを斬り付けるとそれとは逆の刃で背後のガリマを突きで迎撃する。
虚を突かれて体勢を崩した所を振り向き様に更に斬り付けられ、ガリマは地面をゴロゴロと転がる。
だがその背後からメビオが襲いかかる。すぐに振り向いたアギトだが、一瞬反応が遅く、メビオに組み付かれてしまう。
パワー勝負に持ち込まれるとストームフォームは分が悪く、アギトは強引にストームハルバードを奪い取られてしまい、逆に斬り付けられてしまう。
『ヅビパ ボヂサン ロボザ!』(武器はこちらのものだ!)
地面を転がってメビオと距離を取ったアギト。だが既にライドブッカーから新たなカードを取り出していた。
「悪いな。こっちの弾はまだあるんでね」
カードの縁をトントンと指で叩いてから、立ち上がりながらディケイドライバーにセットする。
『FORM RIDE!AGITO!FLAME!』
ディケイドライバーから赤い光が放たれ、アギトの身体に波紋が走ると、今度は赤を基調とした姿に変化した。右腕の形状も変化し、逆に左腕はグランドフォームと同じものに戻っている。
そして右手に燃えるような炎の剣、『フレイムセイバー』が握られた。パワーと知覚を向上させた『フレイムフォーム』だ。
同時にメビオの手からストームハルバードが消える。
『!?ラダ バパダダ!?』(!?また変わった!?)
驚きの表情を見せるメビオに、フレイムフォームとなったアギトが斬り掛かる。
フレイムセイバーをまずは下段から斬り上げ、刃を返して更に斬り降ろす。間髪入れず横一閃、もう一度刃を返して戻しで横一閃。
『ストームフォーム』と比べてスピードで劣るが、それを強化された知覚で補っている。更にダメージが蓄積したメビオ自身の動きも鈍っていた。
アギトの絶え間無い斬撃を受けて最早立っているだけがやっとのメビオ。
そして最期の一撃を加えるべく、アギトはフレイムセイバーの柄を両手で握り、メビオに向けて疾走する。
「はあぁぁっ!!」
そしてすれ違い様にメビオを斬り裂く。
立ち止まり、アギトがフレイムセイバーの刃をスッと手で拭うと、その背後でメビオは断末魔の声を上げて崩れ落ち、爆散した。
「はぁっ!たぁっ!」
クウガの猛ラッシュが続いていた。
タイタンソードから次々と繰り出される斬撃はザインにまるで反撃を許さなかった。
「はぁぁっ!」
渾身の一撃がザインの頭部に打ち込まれた。
その一撃で、ザインの自慢の角が切り落とされた。
『ア、アァァァァ!ゴ、ゴセン ヅボゾォォォッ!!』(お、俺の角をぉぉぉっ!!)
「たぁぁぁっ!!」
クウガは空かさず、怒り狂うザインの腹にタイタンソードを突き刺した。
『ア…アア…ア……』
タイタンソードが突き立てられた傷口に、封印の刻印が刻まれる。
クウガはタイタンソードを引き抜き、ザインに背を向けた。
封印の刻印から光の亀裂が身体中に走り、ザインは断末魔の声と共に爆散した。
クウガは続いてもう一匹のグロンギ、バヅーを追って武器屋の前に駆け込む。だがその中にはバヅーの姿は何処にも無かった。慌てて周囲を見回してみても、その存在が確認出来ない。
「何処だ!?」
「あそこよ!」
キュルケが指差す方をクウガが向くと、逃走を図っていたバヅーの後ろ姿を確認した。
クウガがザインと戦っている隙に、街の建物の屋根を飛び移りながら、もうかなり遠くまで逃げていた。
「いつの間にあんなに遠くに!?」
とてもじゃないが追いつける距離では無かった。スピードを犠牲にした『タイタンフォーム』は元より、スピードに特化した『ドラゴンフォーム』でもここまで離されては追いつく前に逃げられてしまう。
トライチェイサーであれば追いつけるだろうが、あれは今街の駅に預けたまま、バヅーが逃走しているのは駅とは逆方向である。
倒すとなると、超感覚で敵の位置を察知し、射抜く事のできる『ペガサスフォーム』だけしかない。
だが、ペガサスフォームに超変身した所で肝心の武器が無い。
ペガサスフォームの専用武器『ペガサスボウガン』は、銃など"射抜くもの"をイメージさせる物から作り出すのだ。
だが今手に持っているタイタンソードは錆びた長剣から作り出したもの。長さもあるので『ドラゴンロッド』に作り替える事はできても、『ペガサスボウガン』には無理だ。
さっきの武器屋を探せば銃とは言わずも弓矢くらいはあるかもしれないが、そうしている内にバヅーは何処かへか逃げてしまうだろう。
逃げ去ったバヅーは、また何処か知らない土地でゲームと称して罪も無い人間を虐殺する。そして誰かが傷つき、苦しみ、悲しみ、笑顔を失ってしまう。
(そんな事…させてたまるか!)
ユウスケの心が激しく震えた。
その時。
「おい!おめえ何ぼさっとしてやがる!さっさとイメージしやがれ!」
「えぇっ!!?」
突然、タイタンソードが声を発した。
いや、正確には"タイタンソードの元になった剣"が喋り出したのである。
「け、剣が喋った!?」
突然の事に戸惑うユウスケ。しかし剣の方はそんな事意に介さずに捲し立てる。
「俺の事は今はどうでも良い!さっさとしないとあの化け物に逃げられっちまうんだろ!?いいからとっととイメージしろ!」
「イメージしろって、いきなり言われても…」
「おめえはただおめえが望むものをイメージすりゃいいんだ!俺がそれに合わせる!」
「あ、合わせるって……〜〜えぇぇぃ!一か八かだ!」
剣の異様な剣幕に気圧されて、ユウスケはいよいよ腹をくくった。
「超変身!」
アマダムが緑色の光を放ち、鎧と複眼が緑色のものに変化した。クウガの『ペガサスフォーム』である。
そして言われた通りその手に持った剣に『射抜くもの』をイメージする。すると本当に『タイタンソード』から『ペガサスボウガン』に変わったのだ。
「ほ、ホントに変わった!」
「馬鹿やろう!驚いてる場合か!逃げられっちまうぞ!」
「そ、そうだった」
クウガは民家の屋根に飛び乗った。
強化された視力によって逃げて行くバヅーの後ろ姿がはっきりと確認出来る。
クウガは感覚を集中させながらボウガンの矢を引いた。ペガサスフォームの超感覚でバヅーを取り巻く環境が手に取るように判る。バヅーの現在位置、進む方向、空気の流れ、周囲の状況、バヅーの息づかい、バヅーの間接の音。
そして、それらの状況からバヅーが次に取るであろう行動を即座に予測した。
「見えた!!」
クウガがボウガンの矢を放った。高密度に圧縮された空気の弾丸が超高速で放たれた。
別の民家の屋根に飛び移ろうと、バヅーが高く飛び上がったその時、背後から何かの接近を感じ取り、振り返ろうとした。
しかしバヅーは"それ"がクウガの放った一撃だと理解する事無く"それ"に撃ち抜かれ、断末魔を上げる間もなく空中で爆散した。
フレイムセイバーと大鎌が交錯し、アギトとガリマが鍔迫り合いに入る。
「ゾグジャサ ゴラゲガンン ババラパ リンバ ジャサセヂラダダリダギザザ」
(どうやらお前さんの仲間はみんなやられちまったみたいだぜ)
二人は互いに武器を弾いて、一旦距離を取る。
「…ゴセドロ、ゾバビロ ゴババラグ ギダシ グスンジャバギザソグバ?」
(…それとも、他にお仲間がいたりするんじゃないだろうな?)
『………』
ガリマは押し黙ってしまった。だが士にはそれで十分だった。
「ゾグジャサ ゴラゲゼ ガギゴ、リダギザバ」(どうやら、お前で最後、みたいだな)
『ギィ〜…ッ!』
ガリマが怒りの声を上げる。
『ダドゲ パダギ パパンビンド バデデロ、ゴラゲダヂゾ ダゴギ、ゲゲルゾ ゲギボグガゲデリゲス!』
(たとえ私一人となっても、お前達を倒し、ゲゲルを成功させてみせる!)
「ゴラゲサン ガジャラヂパ、ボンゲバギビ ジャデデビデロ ゲゲルゾ ドシゴボバゴグドギダボドザ!」
(お前らの過ちは、この世界にやってきてもゲゲルを執り行おうとした事だ!)
アギトは一気に間合いを詰めると、真上からフレイムセイバーで斬り掛かった。
ガリマももちろん大鎌で受け止めようとするが、力一杯の『面』、フレイムフォームのパワーはそのまま大鎌ごとガリマを斬り裂いた。
自慢の大鎌を真っ二つにされ、胸から腹にかけて大きく斬り裂かれたダメージで地面を転がるガリマ。
そんなガリマにアギトは背を向ける。
「地獄で反省してろ!」
ライドブッカーから最後のカードを取り出し、ディケイドライバーにセットする。
『FINAL ATTACK RIDE!A,A,A,AGITO!』
振り向いたアギトの姿が深紅のフレイムフォームから黄金のグランドフォームに変わる。
頭部のクロスホーンが展開され、足下にアギトの紋章が浮かび上がり、それが両の足へ集束する。
「はっ!」
アギトが宙に飛び上がった。
『!?』
フラフラの状態で何とか立ち上がったガリマだったが、飛び上がったアギトの姿を前にして、一瞬動きを止めてしまった。
「たあぁぁぁぁぁっ!!」
アギト必殺『ライダーキック』がガリマに炸裂する。
ガリマは後方へと吹っ飛び、大地に叩き付けられ、断末魔の咆哮と共に爆散した。
燃え盛る炎を横目に、アギトはクロスホーンを納めた。
こうして、トリスタニアを襲った全てのグロンギは、二人のライダーによって討ち滅ぼされた。
「…倒した」
クウガ、ディケイド・アギト。二人の仮面ライダーの勝利である。
以前のギーシュとの決闘などとは比べ物にならない、濃密な戦いを目の当たりにし、またそれが終わりを迎えた事で一気に緊張の糸が抜け、一同にどっと疲れが押し寄せた。
「あぁ…素敵…!最っっ高…!」
キュルケが満ち足りた表情で精神をトリップさせている。ルイズはもう突っ込む余力も残ってなかった。
「皆、まだ気を抜くんじゃない。まだ連中の仲間が現れるかもしれない」
気が抜けている一同の中でワルドとタバサだけは気を張ったまま、未だに周囲の警戒を解いていなかった。
「その心配はない」
するとそこへ士が変身を解除してこちらにやって来た。
「連中はあれで全部だ」
「…何故そう言い切れる?」
ワルドは訝しげに士の顔を睨みつけた。
「奴らに直接聞いた。ここに来たのはあの6体だけだ。もういない」
「直接聞いた?君はあの化け物の言葉が判ると言うのかい?」
「あぁ」
士はあっさりと肯定する。
ワルドは顔を顰めた。
「…君は見た所平民のようだが、あのマジックアイテムは何処で手に入れた?あの力はマジックアイテムによるものなのか?何故あの化け物の言葉を解せる?」
「一度に幾つも質問を並べるな、鬱陶しい」
「何…?」
ギリッと、奥歯を噛んでワルドが士に迫る。慌ててルイズが二人の間に入った。
「ちょっ…ワルド様、押さえてください。…ツカサも!貴族を相手にしてるんだから最低限の礼儀ぐらい正しなさい!」
ルイズに仲裁に入られ、ワルドは仕方無くその場は押さえる。士の方は不機嫌そうに「フンっ」と鼻を鳴らしているが。
「だが、これだけは答えてほしい。…キミは一体何者だ?」
ルイズは息を呑んだ。
質問をしながらワルドの手は杖の柄を握っている。もしここで士が下手な返答をすればワルドは即座に杖を抜くだろう。せっかくグロンギ騒動も収まったのに、その結末は無い。
「あの——っ!?」
何とかルイズが仲裁しようと口を開きかけたが、士に手で制される。
そして士はワルドを真正面から見据えて、口を開いた。
「俺はこいつの使い魔だ」
士はそう、真顔で答えた。
「使い魔…?」
それを聞いて、ワルドは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
「ああ、そうだ。お前はこいつの使い魔を…こいつの事をそんなに信用出来ないのか?」
「む…」
ワルドは閉口した。
ただの平民であるなら何だかんだと理由をつけて強引にこの男の持つマジックアイテムを接収する事も出来るが、ルイズの使い魔と言うなら話は変わってくる。
何より、ワルドとしてはルイズの心象を損なう事はしたくなかった。せっかく見つけた可能性を、むざむざと失うわけにはいかなかった。
と、そんなワルドの心境など露とも知らないルイズは、思いっきり士の足を踏み付けた。
「…ってぇ〜っ!!!な、何しやがる!いきなり!!」
「何じゃないわよ!ワルド様をお前呼ばわりなんかして!礼儀知らずもいい加減にしなさい!!」
「だからって、蹴るこた無いだろ!」
「アンタ口で言っても判んないでしょ!だったら身体に教え込ませるしか無いでしょうが!」
「人を獣扱いするな」
「アンタは私の使い魔なんでしょ!なら獣よ獣!ケダモノよ!」
「いえ、流石にケダモノは言い過ぎだと思いますが…」
見兼ねた夏海がツッコミを入れる。
そんな三人の漫才を見て、ワルドは苦笑いを浮かべた。
「…いや、礼儀の事はもう良い。次会う時までに改善していてもらえればな」
「で、ですが…」
「思えば、僕の方も礼儀と言う点では彼と大差ない。窮地を救ってくれた相手に対する態度ではなかったな。非礼を詫びよう」
そう言ってワルドは羽帽子を取ると、士に一礼した。
「そ、そんな、ワルド様…、平民なんかに頭を下げるなんて…」
「ルイズ、たとえ平民であっても恩義を感じているなら礼節を尽くすのが貴族というものではないのかな?」
「うぅ…」
ワルドに説き伏せられ、ルイズは唸る事しか出来なかった。
「どうやら礼儀云々に関してはこいつの方が一枚上手みたいだな」
「アンタまたワルド様を…っていうかアンタに言われたくない!」
ワルドは苦笑いを浮かべながら更に続けた。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。私の名はワルド子爵。トリステイン王宮の魔法衛士隊、グリフォン隊の隊長。そちらのルイズの婚約者だ」
ワルドの口から出た最後の単語を聴いて、その場にいた士、タバサ以外の全員がブハッと吹き出した。
「こ、婚約者!!?ルイズちゃんの!!?」
「ワ、ワルド様!?そ、それは子供の頃の…!親同士が決めた事ですわ…!」
顔を真っ赤にしてルイズが抗議するが、ワルドは冗談などでなく至って真面目だ。
「確かにそうだが、僕はずっとキミの事を忘れずにいたんだよ。いつか立派な貴族になって、キミを迎えにいこうってね」
そんな真面目な顔でそんな甘い言葉を囁かれてはルイズは何も言えなくなる。耳まで真っ赤になって頭から蒸気が吹き出した。
「…まったく、あんないい男を使い魔にした挙げ句、こんないい男の婚約者までいるなんて、どこまで幸せを独り占めするつもりかしら?」
横からキュルケが恨み節のようなからかいの言葉を浴びせたが、脳みそが茹蛸状態のルイズは自慢げになるわけでもなく反論するわけでもなく、真っ赤になって指先をちょんちょんと合わせていた。
「…士くんはそんなに驚いてないみたいですね」
「ま、こんなんでも貴族のお嬢様だからな。婚約者の一人や二人、いてもおかしくないだろ」
「こんなんで悪かったわね!それに、婚約者はいても一人よ!」
そんな状態でも士へのツッコミは忘れない。それを見てワルドは微かに目を細めた。
「そう言えば、もう一人の彼はどうしたんだい?彼にもお礼を言いたいのだけれど…」
「…ユウスケ?そう言やあいつ何処行った?」
キョロキョロと辺りを見渡していると、ユウスケはすっかりボロボロになった武器屋の中から出て、こっちに走って来た。
「ユウスケ、お前何やってたんだ?」
「いや、ちょっと名残惜しいけど、お別れを、ね」
「…お別れ?誰と?」
ワケの判らない事を口走るユウスケに士は首を傾げた。
「おぉ、君!…と、ユウスケくんで良かったかな?君にも礼をと思ってね!この度は危機を救ってくれて感謝する」
するとワルドは先程士にしたようにユウスケにも一礼した。
「いや、そんな、当然の事をしたまでですよ〜」
とか口で言いながらも、頭を掻いて得意げな様子だ。
「もしかして君もルイズの使い魔なのかい?」
「いえいえ、俺は違います。俺は、こいつ。こいつと二人で世界を救うチームなんです!」
と、ユウスケは士の肩を抱いて引き寄せる。
「世界を、救う…?」
またも不可解な単語が出て来てワルドは首を傾げた。
「こいつの言う事をいちいち真に受けてちゃ身が持たないぜ」
「なんだよ、ホントの事だろ!」
「はいはい」
と、士はユウスケを軽くあしらってその手を振りほどいた。
「ところででどうだろう、これから僕は王宮へ報告に戻るのだが、キミ達も共に来てくれないか?」
「…私達を王宮に?」
ワルドが頷く。
「報告するならあんた一人で行けばいいだろ。俺達が行ってどうなる?」
ユウスケの額を指で小突きながら士が相変わらずの態度で言った。
「報告は嘘偽り無く行うつもりだ。無論、キミ達の事も報告させてもらう。君達は我がトリスタニアの危機を救ってくれた英雄だ。姫殿下もきっとお会いしたがるだろう」
「アンリエッタ姫殿下に…!」
ルイズの顔がぱあっと輝く。
「少し時間を取らせてしまうが、どうかな?出来れば来てほしいのだが…」
「行きます!」
ルイズが即答した。
「おぉ!来てくれるか!ルイズ!」
「勿論です!姫様がお会いしたがると言うなら、是非とも!ツカサ!アンタも来るのよ!」
予想していた通りの命令が下り、士はやれやれと肩を竦めた。
するとそんな中、タバサが一人くるりと踵を返し、一同から離れ始めた。
「タバサ?」
キュルケが気付いて呼び止める。
「行かない」
タバサは一瞬立ち止まって短くそれだけ言うと、再び歩いて行ってしまった。
「何?せっかく姫殿下にお目通り出来るって言うのに…」
タバサの行動の意味が理解出来ずルイズは毒づいた。
と、今度はキュルケがくるりと身を翻してワルドに向き直った。
「せっかくのご招待ですが、相方があの様子ですから、わたくしも辞退させていただきますわ」
「キミもか?」
「えぇ、わたくし出身はゲルマニアですので、それを快く思わない人もいますでしょうし」
そう言ってキュルケはルイズに目線を送った。ルイズは少しだけムッとする。
たとえゲルマニアでツェルプストーでも、姫殿下がお会いしたいと言うならばそれをルイズは咎めるつもりは無い。
「それに、わたくしも彼女も、先程の化け物相手に何も出来ませんでしたわ。そんなわたくし達が英雄と呼ばれるのは、分不相応だと思いますので」
ふと、キュルケの言葉がルイズの心を微かに揺さぶった。
キュルケはそれだけ言うと優雅に一礼して、タバサの後を追って路地の向こうに消えて行った。
ワルドは肩を落としつつも、行きたくないと言う者を無理に引っ張って行くわけにも行かず、仕方無く二人を諦めた。
ワルドが手を挙げて合図をすると、上空で事態を見守っていたグリフォン隊の一人がワルドの目の前に降り立った。
「これから僕は王宮へと報告に戻る。事後処理はお前に一任する。貴族と平民の遺体の区別だけはしっかりと頼むぞ」
「はっ!」
部下が先程のワルドと同じように手を挙げて合図をすると、上空にいた騎士達が次々と降りて来、彼らに指示を伝えていた。
そんな騎士達を尻目に、ワルドに伴われて士達は王宮へと歩き出した。
「…死んだ奴ですら、貴族平民分けるのか」
ふと士は後方の騎士達を見ながら呟いた。
「仕方あるまい、貴族と平民を平等に弔えば、貴族側から不満の声が漏れるからな」
この国を取り仕切り、実質的に動かしているのは貴族である。その貴族の機嫌を損なえば国の運用にも支障を来し兼ねないのだ。
「あまり好かないな、この国のそう言う所」
「…正直だな、キミは」
ワルドは思わず苦笑いを浮かべた。
そんな二人のすぐ後ろを歩いていたルイズは、悶々としていた。
原因は、キュルケが別れ際に放った言葉。
『わたくしも、彼女も、先程の化け物相手に何も出来ませんでしたわ。そんなわたくし達が英雄と呼ばれるのは、分不相応だと思いますので』
それを言うなら、ルイズも同じだ。
自分も、グロンギ相手に何も出来なかった。そんな自分が英雄と称えられ、姫殿下から謝恩の言葉を貰って良いものだろうか。
…よくない。
例え姫殿下がそれで良いと仰ってくれても、ルイズ自身はまったく納得がいかない。
次にルイズは士の横顔を見た。
士はあの決闘があった日、魔法が使えない代わりにルイズの力になると言ってくれた。士の力、ディケイドの力はルイズの力。そしてその力は見事トリスタニアを襲ったグロンギを討ち滅ぼした。
…それでも、やっぱり納得出来ない。
ディケイドの力はあくまで士の力。士がルイズの使い魔であっても、ルイズ自身が無力なのに変わりはない。
そしてルイズは、今更ながら自分と士の間に歴然とした差がある事を思い知り、そして余りに分不相応な使い魔を召喚してしまった自分を呪った。
片や、魔法も使えない劣等生『ゼロ』のルイズ。
片や、平民とは言え、魔法衛士隊でも敵わなかった敵を倒す力を持つ『仮面ライダーディケイド』。
何故自分はこれほどまでの使い魔を呼び出してしまったのだろうか?
キュルケのサラマンダーや、タバサの風竜のように、メイジの実力に相応する使い魔を召喚するなら判る。ならばルイズは…?
ルイズが余りに魔法を失敗させるから、哀れに思った始祖が本当に強い使い魔を選んでくれたのだろうか?だとしたら何て余計なお世話を焼いてくれる始祖なのだろう。
そんな事をすれば使い魔とメイジのあまりの落差に余計に惨めに見えるのは明白だと言うのに。
なんで…どうして、こんな事になってしまったのだろう…。
「ルイズ?」
そんな悶々としていると、前を歩いていたワルドが声をかけてきた。
「どうしたんだい?さっきから難しい顔をして、何か思い詰めているようだが…?」
「いえ、その…さっきキュルケの言ってた事が、その、気になって…」
「キュルケとは、あのゲルマニアの彼女の事かい?もしかして、『何も出来なかった』と言う事を自分にも当て嵌めているのかい?だとしたらそれは間違いだ。何故ならあの化け物を倒したのはキミの使い魔である彼だ。つまりその主人であるキミが倒したも同然じゃないか」
「…そ、そうですね。はは、ははははは…」
ルイズはそう言って無理に笑顔を作って見せると、ワルドはそれで満足したのか、にこりと笑って再び前を向いた。
無論、ルイズがそれで満足出来る筈もなく、ワルドの視線が外れると、はぁと小さく溜息を付いた。
と、ルイズは士が横目でこちらを見ている事に気が付いた。
「何?」
ルイズが尋ねると、士は「別に」とルイズから視線を外した。
そうこうしている内に、ルイズ達はトリステインの王宮の前まで辿り着いた。
これからアンリエッタ王女殿下にお会いする。そして殿下から謝辞の言葉を述べられる。
そう思うと、ルイズの心にずんと重圧がのしかかった。
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