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「ゼロニスター-01」(2009/07/23 (木) 00:14:27) の最新版変更点
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トリステイン魔法学院を南門から入ってまっすぐ1リーグ歩くと、最近建てられた小さな教会がある。
十字架について知っていてなおかつ観察眼の鋭い者が見れば、教会の十字架が一般的なラテン十字とは少し違う事に気付く。
そしてこの教会はただ1人のシスターによって営まれていた。
「うう……、ううう……」
教会の片隅を簡単に仕切っただけの告悔室の中から、少女の押し殺した鳴き声が漏れる。
「なるほど……、あなたの心の苦しみはよくわかりました……」
格子と曇りガラスでおぼろげな影しか見えないものの、窓の向こうにいるシスターは少女・シエスタの言葉に真摯に耳を傾けていた。
「『奉公に行った娘が次々失踪すると噂されるモット伯に奉公するよう命じられた』……、『家族の事を持ち出されて断れない』と。それはさぞ悔しい事でしょう」
「モット伯に先制攻撃を考えた事もありました……。でも……、始祖の教えに背く行いはできませんし……」
涙を拭いつつ自身の真情を吐露したシエスタにシスターがかけた言葉は……、
「『くそくらえ』ですわ」
「!?」
意外な言葉と共にシスターは窓を半分程開け、4つの輪が連なり板状の部分には棘が生えている物騒な鉄塊をシエスタ側のテーブルに置いた。
「私が中学生の頃に愛用していたメリケンサックを貸してあげる。使い終わったら血を拭いて返してちょうだい。官憲沙汰になってもこの教会の名は出さないこと」
あまりの発言にシエスタはしばらく呆気に取られ、ようやくの事でただ一言口にする。
「あ……、あの……」
「何?」
「あの……、えーと……、同じマークを聖印にしていた祖父の話では……、こういう場合『汝の敵を許せ』とかお答えになるのが普通だと……」
シスターは開いている窓から穏やかな微笑みをシエスタに向けている。
しかし彼女が続けた言葉は到底シスターらしからぬものだった。
「もちろん許すべきよ。ただし、相手を地獄に落としてから」
「ふざけないでください!! あなたそれでもクリスチャ……げっ!!」
怒りに任せた言葉と共に窓を全開にしたシエスタは言葉を失った。
窓の向こう側にいたシスターは、革張りの椅子に深く腰掛けて指に挟んだ葉巻の煙を吐き出し、さらにテーブル上にはウイスキーの瓶とその中身が入ったグラスが置かれていたのだ。
「サタニスター。悪魔寄りのシスターさね。この胸の十字架がその証」
そう言ってシスター……サタニスターは、修道服の上からでもはっきりわかる豊かな胸を張ってその上に乗ったロザリオを見せつけた。そのロザリオの十字架は教会の十字架と同じく、上辺・下辺の長さが同じという奇妙なものだった。
「『ダブルヘッド・クロス』。上下の辺の長さは同じ。これは『十字架(クロス)』と悪魔の象徴『逆さ十字架(アンチクロス)』、両方の意味を合わせ持つ……!!」
「ば……、馬鹿げています……!!」
「あたしには使命がある。そのためには悪魔のように振る舞う必要だってあるのよ」
サタニスターは葉巻をくわえたままシエスタに笑いかけた。
「か……、帰ります!! ここに来たのが間違いでした!!」
シエスタはそのまま席を立って告悔室から出ようとする。
「あら、忘れ物よ。メリケンサック」
「要りません、そんなのっ!!」
日が暮れて、空には2つの満月が浮かんでいる。
「♪First kissから始まる~2人の恋のHistory~」
「♪この運命に魔法かけた~君が突然現れた~……」
教会内でルイズ・サタニスターが鼻歌混じりにモップで教会の床を拭き掃除していると、
「……お取り込み中失礼……ルイズ……ミス・『サタニスター』……」
食料の入ったバスケットを片手にタバサが教会を訪れた。
「……頼みがあって来た……聞いてほしい……」
「タバサ……」
タバサに気付いたサタニスターは、モップをバケツに突っ込んでタバサの方に振り向いた。
「あたしをナックルスターと呼ばず『サタニスター』と呼んだという事は、悪魔寄りのあたし達に期待してるという事ね……」
「ふふふ……。もっとも、それはこちらも望むところよ」
祭壇の上に置かれている、タロットカードの正義・隠者・吊られた男・死神をモチーフにした4本のロウソクに火を点け、サタニスター・ルイズはタバサが座っているテーブルの対面に着席する。
「見せてください」
タバサが手渡した封筒を開き、中に入っていた男の似顔絵を広げる。
「……その男の名は……『ジュール・ド・モット』……強盗団の黒幕……」
タバサ持参のクックベリーパイを食べつつ、ルイズ・サタニスターはタバサの話に耳を傾けていた。
「……狙うのは主にトリスタニアに集めた税金を運ぶ輸送馬車……手口は実にえげつない……手下を馬車にわざと轢かせて停車させる……馬車が止まったところを残りのメンバーが一斉に襲う……さらに問題なのは……手下達が犯行の数日前まではごく平凡な一般人だったという事……金と権力で弱みを握られて『モット』の手下にされてしまう……奪った金を使ってモットは伯爵位まで上った……金と権力に物を言わせて少女を奉公と称して屋敷に呼び……餌食にしている……」
話し終えたタバサはそっと立ち上がり、ルイズ達に背を向けた。
ルイズは杖を2~3度振り、サタニスターはどこからともなく取り出したナックルを両腕に装着する。
「タバサ! あんたって変わった子ね。自分で報告すれば自分の手柄になるのに、私達に情報を流してる」
ルイズの言葉に、タバサの無表情な顔にどこか悲しげな色が浮かぶ。
「……今となっては手柄なんて意味が無い……大事な両親を殺された今となっては……」
「殺人鬼『ビダーシャル』! 奴の仕業という話でしたね。いずれは見つけださなくてはなりません」
サタニスターの出した憎むべき仇敵の名に、タバサの顔に浮かんでいた悲しみは怒りに変わった。
「しかしその前に……、目の前の悪を……!!」
ベッドに押し倒されたシエスタに抵抗する手段は無く、モットの握るナイフの刀身が体を撫で回るのに身を任せていた。
シエスタは息を飲み込んだ。まるで金属の虫が這っているかのような不気味な感触が体を硬直させる。
何も言わぬシエスタに気をよくしてかまさぐる手つきはより大胆になり、ナイフで軽く傷つけるようになっていった。
レースをあしらったメイド服の胸部を切開し、奥に隠された柔らかな双丘を撫でる。
慣れた手付きでナイフが動かされて、そのメイド服は呆気無く解体された。
その時、部屋にいた全員の耳にかすかに奇妙な音が聞こえてきた。
――ドッドッドッドッドッ……
それは馬の蹄の立てるような音だった。しかも気のせいかこちらに接近してきている。
「何だ? 馬が廊下を走っておるのか? ここは屋敷の中だぞ! 何を考えておるのだ。お前、行って叱り飛ばしてこい」
部下の1人が廊下に出ようと扉に手を掛けたその時、
――ドッガアン!
轟音と共に馬が扉を吹き飛ばし、接近していた(部下)を跳ね飛ばした挙句下敷きにした。
「ウギャアアアアア!!」
扉があった場所から侵入してきた修道服姿のルイズ・サタニスターは、室内にシエスタの姿を認めて意外そうな表情になる。
「あら、何でシエスタここにいるの?」
「ミ……、ミス・ヴァリエールにミス・ナックルスター!?」
「何でって聞いてんのよ」
「さらわれたんです!! ここにいる連中に!!」
「そう……」
懐を探っていたルイズの背後から部下が迫る! ……が、
「それは大変だったわね!!」
振り向き様に部下に杖を向けて呪文を詠唱する。
――バガン!!
派手な爆音と共に部下の頭部は爆発四散した。
「………!!」
部下の頭部が爆散するという事態が目の前で発生し、モットは硬直して他の部下に命令する事も自身の魔法を使用する事も不可能だった。
「ギャアアアアッ!!」
今度はルイズに気を取られていたサタニスターを部下が奇襲するものの、
「ゲッ!!」
サタニスターの後ろ蹴りで体勢を崩したところに、
――ドゴム!!
再度ルイズの魔法が炸裂、こちらも頭部が吹き飛んだ。
「安らかに眠りなさい。外道の一味としてではなく、私に殺された哀れな子羊として」
「な、何だあ~、こいつは……。あの修道服……、噂には聞いた事があるが……。まさか……、あの女は……!!」
「あ……、あ……」
目の前で発生した惨劇に狼狽するシエスタにルイズは扉があった開口部を指差し、
「出ていきなさい。今から起こる事は見ない方がいいわ」
「ひいいっ」
シエスタが部屋から出ていった事を確認したルイズ・サタニスターが、モットに最終通告を突きつける。
「1分間だけ懺悔の時間をあげるわ」
「さあ己の罪を悔いるのよ、ジュール・ド・モット!!」
2人の言葉と服装が、モットに恐るべき彼女達のふたつ名を導き出させた。
「貴様ら『サタニスター』かあ~っ!! 『特殊殺人鬼』を狩るために悪魔に魂を売ったシスター!!」
怒りに任せて呪文を詠唱するモット。
しかし2人はそれによって放たれた水撃を軽々回避する。
「悪魔に魂を売った? 勘違いしないでちょうだい」
「売りなどしない、貸すのよ」
『悪に罰を与えるわずかな間だけね!!』
「おのれ~っ!! 殺してやる!! 殺してやるぞおお~っ!! くらえ、アイスバインド!!」
杖から噴出した水の回避がわずかに遅れて2人の胴体が濡れる。
「うぐっ!!」
モットの放った水は、先程と違って物体をえぐり削るような威力こそ持たなかったものの、瞬時に信じられないほど分厚く凍結して2人の体を拘束する氷の枷と化した。
「か……、体が!!」
「動けない……!!」
「水のトライアングルをなめるな……。その氷は鋼鉄並みに硬いぞ。このまま貴様らの脳天をかち割って……っ!!」
次の瞬間、2人は炎に包まれていた。正確には2人の着ている修道服が炎上しているのだ。サタニスターの手には火種と思しき金属製のライターが。
「こ……、こいつら、修道服に火をっ!!」
「ふんっ!」
炎によって氷の枷から解放された2人は、気合と共に燃えさかる修道服をモットめがけて投げつけた。
燃える修道服を床に突っ伏して回避して顔を上げたモットの目の前には、ベビードール姿のルイズと胸・股間だけを隠す星柄の下着を纏ったサタニスター。
「1分経ったわよ……」
「地獄の釜で茹でられながら己の罪を悔いよ」
『アーメン』
「待っ……ギャアアアッ!!」
――ドガア!!
モットの言葉を途中で遮り、ルイズの爆発魔法が頭部を爆散させサタニスターのナックルが腹部を貫通する。
「ひいっ!!」
モットの最期、その一部始終を目の当たりにしたシエスタは思わず叫び声を上げた。
「………!!」
頭部が存在していた場所から鮮血が吹き上がり、腹部に大きな風穴が開いたモット。その前でナックルから返り血を滴らせたサタニスターが一言。
「見ない方がいいと言ったのに」
それがシエスタと「サタニスター」達との出会いだった。
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#navi(ゼロニスター)
トリステイン魔法学院を南門から入ってまっすぐ1リーグ歩くと、最近建てられた小さな教会がある。
十字架について知っていてなおかつ観察眼の鋭い者が見れば、教会の十字架が一般的なラテン十字とは少し違う事に気付く。
そしてこの教会はただ1人のシスターによって営まれていた。
「うう……、ううう……」
教会の片隅を簡単に仕切っただけの告悔室の中から、少女の押し殺した鳴き声が漏れる。
「なるほど……、あなたの心の苦しみはよくわかりました……」
格子と曇りガラスでおぼろげな影しか見えないものの、窓の向こうにいるシスターは少女・シエスタの言葉に真摯に耳を傾けていた。
「『奉公に行った娘が次々失踪すると噂されるモット伯に奉公するよう命じられた』……、『家族の事を持ち出されて断れない』と。それはさぞ悔しい事でしょう」
「モット伯に先制攻撃を考えた事もありました……。でも……、始祖の教えに背く行いはできませんし……」
涙を拭いつつ自身の真情を吐露したシエスタにシスターがかけた言葉は……、
「『くそくらえ』ですわ」
「!?」
意外な言葉と共にシスターは窓を半分程開け、4つの輪が連なり板状の部分には棘が生えている物騒な鉄塊をシエスタ側のテーブルに置いた。
「私が中学生の頃に愛用していたメリケンサックを貸してあげる。使い終わったら血を拭いて返してちょうだい。官憲沙汰になってもこの教会の名は出さないこと」
あまりの発言にシエスタはしばらく呆気に取られ、ようやくの事でただ一言口にする。
「あ……、あの……」
「何?」
「あの……、えーと……、同じマークを聖印にしていた祖父の話では……、こういう場合『汝の敵を許せ』とかお答えになるのが普通だと……」
シスターは開いている窓から穏やかな微笑みをシエスタに向けている。
しかし彼女が続けた言葉は到底シスターらしからぬものだった。
「もちろん許すべきよ。ただし、相手を地獄に落としてから」
「ふざけないでください!! あなたそれでもクリスチャ……げっ!!」
怒りに任せた言葉と共に窓を全開にしたシエスタは言葉を失った。
窓の向こう側にいたシスターは、革張りの椅子に深く腰掛けて指に挟んだ葉巻の煙を吐き出し、さらにテーブル上にはウイスキーの瓶とその中身が入ったグラスが置かれていたのだ。
「サタニスター。悪魔寄りのシスターさね。この胸の十字架がその証」
そう言ってシスター……サタニスターは、修道服の上からでもはっきりわかる豊かな胸を張ってその上に乗ったロザリオを見せつけた。そのロザリオの十字架は教会の十字架と同じく、上辺・下辺の長さが同じという奇妙なものだった。
「『ダブルヘッド・クロス』。上下の辺の長さは同じ。これは『十字架(クロス)』と悪魔の象徴『逆さ十字架(アンチクロス)』、両方の意味を合わせ持つ……!!」
「ば……、馬鹿げています……!!」
「あたしには使命がある。そのためには悪魔のように振る舞う必要だってあるのよ」
サタニスターは葉巻をくわえたままシエスタに笑いかけた。
「か……、帰ります!! ここに来たのが間違いでした!!」
シエスタはそのまま席を立って告悔室から出ようとする。
「あら、忘れ物よ。メリケンサック」
「要りません、そんなのっ!!」
日が暮れて、空には2つの満月が浮かんでいる。
「♪First kissから始まる~2人の恋のHistory~」
「♪この運命に魔法かけた~君が突然現れた~……」
教会内でルイズ・サタニスターが鼻歌混じりにモップで教会の床を拭き掃除していると、
「……お取り込み中失礼……ルイズ……ミス・『サタニスター』……」
食料の入ったバスケットを片手にタバサが教会を訪れた。
「……頼みがあって来た……聞いてほしい……」
「タバサ……」
タバサに気付いたサタニスターは、モップをバケツに突っ込んでタバサの方に振り向いた。
「あたしをナックルスターと呼ばず『サタニスター』と呼んだという事は、悪魔寄りのあたし達に期待してるという事ね……」
「ふふふ……。もっとも、それはこちらも望むところよ」
祭壇の上に置かれている、タロットカードの正義・隠者・吊られた男・死神をモチーフにした4本のロウソクに火を点け、サタニスター・ルイズはタバサが座っているテーブルの対面に着席する。
「見せてください」
タバサが手渡した封筒を開き、中に入っていた男の似顔絵を広げる。
「……その男の名は……『ジュール・ド・モット』……強盗団の黒幕……」
タバサ持参のクックベリーパイを食べつつ、ルイズ・サタニスターはタバサの話に耳を傾けていた。
「……狙うのは主にトリスタニアに集めた税金を運ぶ輸送馬車……手口は実にえげつない……手下を馬車にわざと轢かせて停車させる……馬車が止まったところを残りのメンバーが一斉に襲う……さらに問題なのは……手下達が犯行の数日前まではごく平凡な一般人だったという事……金と権力で弱みを握られて『モット』の手下にされてしまう……奪った金を使ってモットは伯爵位まで上った……金と権力に物を言わせて少女を奉公と称して屋敷に呼び……餌食にしている……」
話し終えたタバサはそっと立ち上がり、ルイズ達に背を向けた。
ルイズは杖を2~3度振り、サタニスターはどこからともなく取り出したナックルを両腕に装着する。
「タバサ! あんたって変わった子ね。自分で報告すれば自分の手柄になるのに、私達に情報を流してる」
ルイズの言葉に、タバサの無表情な顔にどこか悲しげな色が浮かぶ。
「……今となっては手柄なんて意味が無い……大事な両親を殺された今となっては……」
「殺人鬼『ビダーシャル』! 奴の仕業という話でしたね。いずれは見つけださなくてはなりません」
サタニスターの出した憎むべき仇敵の名に、タバサの顔に浮かんでいた悲しみは怒りに変わった。
「しかしその前に……、目の前の悪を……!!」
ベッドに押し倒されたシエスタに抵抗する手段は無く、モットの握るナイフの刀身が体を撫で回るのに身を任せていた。
シエスタは息を飲み込んだ。まるで金属の虫が這っているかのような不気味な感触が体を硬直させる。
何も言わぬシエスタに気をよくしてかまさぐる手つきはより大胆になり、ナイフで軽く傷つけるようになっていった。
レースをあしらったメイド服の胸部を切開し、奥に隠された柔らかな双丘を撫でる。
慣れた手付きでナイフが動かされて、そのメイド服は呆気無く解体された。
その時、部屋にいた全員の耳にかすかに奇妙な音が聞こえてきた。
――ドッドッドッドッドッ……
それは馬の蹄の立てるような音だった。しかも気のせいかこちらに接近してきている。
「何だ? 馬が廊下を走っておるのか? ここは屋敷の中だぞ! 何を考えておるのだ。お前、行って叱り飛ばしてこい」
部下の1人が廊下に出ようと扉に手を掛けたその時、
――ドッガアン!
轟音と共に馬が扉を吹き飛ばし、接近していた(部下)を跳ね飛ばした挙句下敷きにした。
「ウギャアアアアア!!」
扉があった場所から侵入してきた修道服姿のルイズ・サタニスターは、室内にシエスタの姿を認めて意外そうな表情になる。
「あら、何でシエスタここにいるの?」
「ミ……、ミス・ヴァリエールにミス・ナックルスター!?」
「何でって聞いてんのよ」
「さらわれたんです!! ここにいる連中に!!」
「そう……」
懐を探っていたルイズの背後から部下が迫る! ……が、
「それは大変だったわね!!」
振り向き様に部下に杖を向けて呪文を詠唱する。
――バガン!!
派手な爆音と共に部下の頭部は爆発四散した。
「………!!」
部下の頭部が爆散するという事態が目の前で発生し、モットは硬直して他の部下に命令する事も自身の魔法を使用する事も不可能だった。
「ギャアアアアッ!!」
今度はルイズに気を取られていたサタニスターを部下が奇襲するものの、
「ゲッ!!」
サタニスターの後ろ蹴りで体勢を崩したところに、
――ドゴム!!
再度ルイズの魔法が炸裂、こちらも頭部が吹き飛んだ。
「安らかに眠りなさい。外道の一味としてではなく、私に殺された哀れな子羊として」
「な、何だあ~、こいつは……。あの修道服……、噂には聞いた事があるが……。まさか……、あの女は……!!」
「あ……、あ……」
目の前で発生した惨劇に狼狽するシエスタにルイズは扉があった開口部を指差し、
「出ていきなさい。今から起こる事は見ない方がいいわ」
「ひいいっ」
シエスタが部屋から出ていった事を確認したルイズ・サタニスターが、モットに最終通告を突きつける。
「1分間だけ懺悔の時間をあげるわ」
「さあ己の罪を悔いるのよ、ジュール・ド・モット!!」
2人の言葉と服装が、モットに恐るべき彼女達のふたつ名を導き出させた。
「貴様ら『サタニスター』かあ~っ!! 『特殊殺人鬼』を狩るために悪魔に魂を売ったシスター!!」
怒りに任せて呪文を詠唱するモット。
しかし2人はそれによって放たれた水撃を軽々回避する。
「悪魔に魂を売った? 勘違いしないでちょうだい」
「売りなどしない、貸すのよ」
『悪に罰を与えるわずかな間だけね!!』
「おのれ~っ!! 殺してやる!! 殺してやるぞおお~っ!! くらえ、アイスバインド!!」
杖から噴出した水の回避がわずかに遅れて2人の胴体が濡れる。
「うぐっ!!」
モットの放った水は、先程と違って物体をえぐり削るような威力こそ持たなかったものの、瞬時に信じられないほど分厚く凍結して2人の体を拘束する氷の枷と化した。
「か……、体が!!」
「動けない……!!」
「水のトライアングルをなめるな……。その氷は鋼鉄並みに硬いぞ。このまま貴様らの脳天をかち割って……っ!!」
次の瞬間、2人は炎に包まれていた。正確には2人の着ている修道服が炎上しているのだ。サタニスターの手には火種と思しき金属製のライターが。
「こ……、こいつら、修道服に火をっ!!」
「ふんっ!」
炎によって氷の枷から解放された2人は、気合と共に燃えさかる修道服をモットめがけて投げつけた。
燃える修道服を床に突っ伏して回避して顔を上げたモットの目の前には、ベビードール姿のルイズと胸・股間だけを隠す星柄の下着を纏ったサタニスター。
「1分経ったわよ……」
「地獄の釜で茹でられながら己の罪を悔いよ」
『アーメン』
「待っ……ギャアアアッ!!」
――ドガア!!
モットの言葉を途中で遮り、ルイズの爆発魔法が頭部を爆散させサタニスターのナックルが腹部を貫通する。
「ひいっ!!」
モットの最期、その一部始終を目の当たりにしたシエスタは思わず叫び声を上げた。
「………!!」
頭部が存在していた場所から鮮血が吹き上がり、腹部に大きな風穴が開いたモット。その前でナックルから返り血を滴らせたサタニスターが一言。
「見ない方がいいと言ったのに」
それがシエスタと「サタニスター」達との出会いだった。
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