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#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
西暦1945年2月16日――大日本帝国の東の要衝硫黄島に鋼の嵐が吹き荒れた。
敗色濃厚な大日本帝国に残された起死回生の秘密兵器、大日本帝国本土からアメリカ
合衆国本土への直接爆撃を可能とする超重爆撃機型鋼の乙女「フガク」の完成を阻止
するため、アメリカ合衆国は持てるすべての鋼の乙女を総動員して未だ目覚めぬ「フガク」が
いる硫黄島千鳥飛行場を制圧するべく兵を進めたのだ。
硫黄島東海岸数カ所から攻め上がるアメリカ軍に対して、大日本帝国もまた稼働可能な
すべての鋼の乙女を主力と思われる東海岸中央部からの上陸軍へと差し向ける。だが、
もはや戦術ですらない最後の抵抗も、千鳥飛行場をその戦場として終焉の時を迎えようと
していた――
「敵機はこれで最後だ。地上の掃討はエイミーに任せる。ネコ、ハイネ、オレたちは千鳥
飛行場へ向かうぞ!」
「わかったニャー」
「了解であります」
この場の指揮を執る戦闘機型鋼の乙女、P-40・クレアが守備隊最後の零戦を撃墜しながら
檄を飛ばす。翼を千鳥飛行場へ向けるクレアを、艦上戦闘機型のF4Fワイルドキャット・ネコと、
艦上偵察爆撃機型のSBDドーントレス・ハイネが追う。千鳥飛行場周辺に対空砲はなく、
「フガク」がいる千鳥飛行場への道を護る大量の戦車もすでにほとんどがアメリカ軍の
重戦車型鋼の乙女、M26パーシング・エイミーの左手に装備された主砲によってスクラップの
山と変わり果てていた。しかし、彼女たちの行く手を阻むかのように、正確な対空砲撃が
加えられる。正確故に回避は容易だったが、その砲撃を加えた張本人を前に、彼女たち
アメリカ軍の鋼の乙女たちは皆複雑な表情になった。
「ここから先へは行かせないです。フガクは絶対、壊させないですっ」
彼女たちの行く手を阻むのは、この防衛戦に参加した大日本帝国最後の鋼の乙女であり、
そして、かつて大日本帝国陸軍にフィリピンでさしたる損傷もないまま放棄された彼女を
鹵獲し、様々な経緯を経てアメリカ軍の一員として迎えてともに戦った鋼の乙女。大日本
帝国が保有する唯一の陸戦型である中戦車型鋼の乙女、九七式中戦車・チハだった。
水際防衛の最中に別ルートからの侵攻を悟った大日本帝国軍鋼の乙女のリーダー、戦艦型
鋼の乙女やまとの命令で、彼女は最後の妹を護るべく、たった一人でかつてともに戦った
歴戦の勇士たちの前に立ちはだかる。
「チハ!本気なの?フガクが完成してしまったらどうなるか、あんただってわかってるはず
でしょう?
結局、彼女たちは玉砕の道を選んだ……レイややまとは、あんたの思いには応えて
くれなかったんでしょう?あんたまで、それにつきあう理由はないはずよ」
エイミーが叫ぶ。チハがアメリカ軍を離れて再び日本へ戻ったのは、サイパンで繰り広げ
られたような民間人の犠牲をこれ以上出さないために、連合軍の大日本帝国本土徹底
空爆を防ぐべく、主戦力である鋼の乙女たちに率先して降伏するよう説得するためだった。
それでも歴戦の勇士たちを前にしたチハはかつての弱々しさもなく、右手に装備した主砲を
エイミーたちに向ける。
「それでも、わたしも日本生まれの鋼の乙女なんです。
確かにレイさんたちは私の説得を聞き入れてはくれませんでした。ですが、私を仲間と
して迎え入れてくれました。だから私は、最後に生まれてくる妹くらいは護ってあげたいです。
エイミーさんが、わたしを守ってくれたみたいに」
「……本当に、バカな子……」
自分たちの中ではどんなことをしても異邦人でしかなかったチハを、大日本帝国の
乙女たちは帰るべき場所として迎え入れていたのだと知ったエイミーも左手の主砲に
砲弾を装填してチハに向ける。対峙する二人の上を、クレアたちが飛び過ぎる。
「エイミー、チハの相手は任せた。オレたちはフガクの破壊に全力だ」
「やらせないです!」
「チハ!私がそんなことさせると思ってるの!」
チハがクレアたちに主砲を向けようとするのをエイミーが遮る。最後の鋼の乙女をかわした
クレアたちは、千鳥飛行場にある施設の中に、まだ覚醒前にもかかわらず周囲を圧倒する
威容を輝き放つ見知らぬ乙女がたたずんでいるのを確認する。その乙女の周りには
技術者らしい白衣の人物が数人、彼女を覚醒させるべく最終作業を行っていた。しかも
乙女と技術者たちを守るようにして、これまでを上回るすさまじい数の戦闘装甲車両や
野砲が飛行場を埋め尽くさんとばかりに取り囲んでいる。そこにいるのが鋼の乙女
「フガク」だと認識したクレアたちは、砲台や装甲車両をものともせずに突撃し、「フガク」
めがけて一斉に攻撃を開始した――
――猛烈な爆煙が過ぎ去った後、クレアたち以外に動くものもなく破壊された施設には、
「フガク」の姿はなかった。
「ニャー。ニャーたちの攻撃で跡形もなく消え去ったニャァ?」
猫の耳と尻尾を持つ異彩の鋼の乙女、ネコが意外な結果に驚く。最強の鋼の乙女と
噂された「フガク」が、いくら目覚めていないとはいえ、そして戦艦といえどもあっという間に
海の藻屑にしてしまう3人の攻撃を受けたとはいえ、残骸も残さず破壊できるとは、おバカで
知られるネコですら考えてもいなかった。
「確かにおかしいであります。ですが、逃げられるはずもないであります」
「その通りだ。オレたちはフガク破壊に成功した。エイミーのところに戻るぞ」
ハイネの疑問をクレアは否定した。破壊された千鳥飛行場を後にする3人。本格的な
占領は後続の部隊が行ってくれるだろう。だが、別働隊が擂鉢山で苦戦しているとも
聞いている。そちらの援護にも回らないといけないな、とクレアは考えていた。
――3人は知らなかった。施設が破壊される直前、突如として現れた金色の魔方陣に
「フガク」が吸い込まれたことを。公式の記録では、大日本帝国の超重爆撃機型鋼の
乙女「フガク」は、西暦1945年2月16日に硫黄島千鳥飛行場内施設にてフル装備状態での
最終調整中に連合軍によって破壊されたとされる。「フガク」のみ残骸のひとかけらも
発見されないなど不可解な点は残ったが、それは搭載していた20トンを超える大量の
弾薬によるもの(それ自体も爆発の規模から疑問点は残ったが)だとされ、以後追調査
されることもなかった――
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、トリステイン王国で三指に
入る大貴族ヴァリエール公爵の三女であると同時に、トリステイン王国の貴族の子女たちが
通うトリステイン魔法学院の生徒である。
魔法が使えるメイジであることが貴族の条件とされるこのトリステイン王国にて、その
屈指の家柄に対して魔法の才に恵まれない彼女は、多くの学院生徒のやっかみも
混じったそしりにも折れることのない不屈の精神力を持ち、また魔法実技以外の座学では
優秀な成績を修める人並み外れた努力家でもあった。
トリステイン魔法学院では、毎年春、2年生への進級時にメイジにとって一生のパートナーと
なる使い魔を召喚する儀式を執り行う。その儀式の最中、ルイズは自分が唱えた召喚呪文が
引き起こした爆発と、それと同時に聞こえた金属製のゴーレムが地面に崩れ落ちるような
音が煙と一緒に消えた後でも、杖を振った格好のまま言葉を失っていた。
それは一見自分とさして年かさも背丈も変わらない、右手に100サントはありそうな金属と
木で作られた杖を持った、知らない異国の服を着た女の子が力なく両膝をついているようにも
見えた。
けれど、普通の女の子には背中に片方3つずつ風車のようなものがついた、とても飛べそうには
見えない金属の翼など生えていないし、臑が背中の翼と同じ色のひれのようなものがついた
白い金属の鎧のようなもので覆われていて、するりと伸びた足の先、くるぶしから下の人間なら
つま先があるべきところに車輪のようなものがついているはずもない。
近づいてみると、自分のピンクブロンドとはまた異なる、きれいな白い髪はすそが広がった
ショートカットに切りそろえられ、金の額飾りで飾られた広めの額から両側に流された髪の房には
3つの直線を組み合わせた文字「Ζ」にも見えるデザインの金の髪飾りがついている。
よく見ると背中の金属の翼も外側が深緑、内側が白く塗られ、それにつながるように同じ色の
尻尾が伸びていた。着ている白い服も赤い布で裏打ちされた前あわせの見慣れないもので、
袖の先とスリットがたくさん入ったスカートが水色、スカートの先がちょうど上着と色が逆に
なるようなデザインで白くなっている。腕に金具で留められた片方6つの鈍く黒光りする
金属の物体もなんだかよくわからない。スカートをベルトのように留めている、首のチョーカーと
同じような形の金属製の星形のバックルと、ロープと白い紙で構成されたものも何かの
意味があるのだろうか。試しに頬に触れてみると人肌のぬくもりが感じられ、これまで
意識からそらしていた、「巨大な胸のようなもの」が規則正しく上下している……
「……ミ、ミスタ・コルベール!」
そこまで観察したルイズは「?」が渦巻く思考がまとまるまでの一瞬の間を置いて、
この儀式をとりまとめている中年教師――年齢以上に頭髪が寂しいことになっている――
コルベールに助けを求めた。コルベールは騒ぎ始めた周りの生徒たちに離れているように
指示すると、ルイズのそばにかがんで先ほどのルイズと同じように女の子の頬に触れる。
「……これは、亜人……いや、人間を素体としたゴーレムかガーゴイル……でしょうか?
亜人ではないとすればこれほどのものを制作できるとはいったいどんなメイジなのか……
とはいえ、呼び出した以上は彼女が君の使い魔です。儀式を続けなさい」
コルベールに促されるままに呪文を唱えつつ使い魔とするために口づけをするルイズ。「相手は亜人の女の子かゴーレムかガーゴイルなんだからノーカンよ、ノーカン」と自分を
慰めていたが、それは突然の甲高い叫び声によって中断された。
「……熱っ!いたいじゃないのよ!……て、ここ、どこ?」
ルイズが声に顔を上げると、先ほどまで力なく膝をついていた女の子が、左手を押さえた
まま怒るような混乱するような表情で立っていた。左手を押さえているため杖はこちらに
向けられていないが、見慣れない黒い瞳は明らかに混乱しながらも怒っている。ちなみに
立ち上がった背丈は足の車輪と背中の翼の分だけ相手に分があったのはちょっとだけ
悔しかった……
「――どれ」
ルイズの横で成り行きを見守りつつ不測の事態に備えていたコルベールが使い魔の
儀式が終了した左手を取る。「よくやった」と言われてルイズはやっと自分が初めて魔法に
成功したことを喜んだが、そのために続けて「――にしても、ずいぶんと珍しいルーン
だな……」という言葉を聞き逃していた。
「何勝手に人の手握ってるのよ!ちょっと、聞いてるの?」
コルベールの行動が火に油を注いでいるにもかかわらず、コルベール本人は生徒たちに
各自寮に戻るよう解散を指示していた。それがいっそう使い魔(契約が完了したのだから
そう呼ぶことにする)の怒りを招く。
「人の話を聞きなさいよ!……って、人間が空を飛んでる?航空機型の鋼の乙女でも
ないのに?」
メイジがフライの魔法を使って空を飛ぶのが珍しいのだろうか。一瞬呆気にとられたような
表情をする使い魔は真顔でルイズに向き直ると「アンタは飛ばないの?」と聞いてきた。
「……う、うっさいわね!わたしたちは歩いて帰るわよ」
恥ずかしさに頬を赤らめ使い魔の顔を見ないようにするルイズ。そのまま本当に歩いて
学院へ戻ろうとするルイズの背中から誰かに抱きしめられる。背中に感じるこのプレッシャー
……あのいけ好かない赤毛のゲルマニア女はもう先に行っている以上、この場にいるのは
自分の使い魔としか考えられなかった。
「……しょうがないわね。この私、ふがくが送ってあげるんだから、感謝しなさいよね」
トーンの高い声がそう告げるが早いか、バババババ……という風を切るような聞き覚えの
ない爆音のコーラスが背中越しに響き始める。経験したことのない事態にルイズが慌て
始めると、背中越しに抱きしめられたままの体がふわりと宙に浮いた。
「え?わたし、空を飛んでる?」
「何言ってるのよ。私は超重爆撃機型の鋼の乙女よ。空を飛べなくてどうするのよ。
……と・こ・ろ・で。あの向こうにある石造りの施設まで行けばいいのね?」
「え?あ……そ、そうよ!」
ルイズが肯定するが早いか。先に行くコルベールや同級生たちと同じ高度を緩やかに
飛んでいた、さっき「フガク」と名乗った使い魔が速度を上げてあっという間に全員を追い抜く。
この速度、あの会話もしたことのない小柄な青い髪の同級生が召喚した、高速を誇る
風竜(ウィンドドラゴン)の幼生より絶対に速い。爆音のコーラスは正直あんまりうれしくない
けれど、もしかすると自分は「当たり」を引いたのかも……真っ先に女子寮の入り口前に
降り立ったルイズは、先ほどまでの鬱屈とした気持ちはどこへやら、始祖ブリミルへ感謝の
祈りを捧げたくなっていた。
一方、追い抜かれたコルベールと少年少女たちは、今通り過ぎたものが何か理解できず
呆気にとられていた。例外は2名。今通り過ぎたものが何かを知って心底楽しくて仕方ないと
笑う赤い髪に褐色肌の長身の女生徒と、それとは対照的に無言のまま今通り過ぎたものの
行き先を見つめている青い髪に雪のように白い肌の小柄な女生徒。二人はルイズの後を
追うように学院に戻る速度を上げた。
こうしてルイズは生まれて初めて成功した魔法と、予想以上にすごそうな使い魔を得たと
いう余韻に浸りつつ、これからのこと想像して笑みが漏れるのを隠しきれずにいた。
もう「ゼロ」なんて呼ばせない。単に私は大器晩成型だっただけなんだからと、小さく拳を
握りしめた。
そしてふがくは……といえば、ここがどこなのかまだ理解できてはいなかったが、それほど
落ち込んでもいなかった。なにしろ自分は大日本帝国から無給油で太平洋を横断して
アメリカ本土を爆撃し、そのまま大西洋も横断して同盟国ドイツへ行くことができるのだ。
航続距離16000kmを誇る大日本帝国の秘密兵器なのだから、地球上のどこだろうと
帰ろうと思えばいつでも日本に帰れる――そう思っていた。
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
西暦1945年2月16日――大日本帝国の東の要衝硫黄島に鋼の嵐が吹き荒れた。
敗色濃厚な大日本帝国に残された起死回生の秘密兵器、大日本帝国本土からアメリカ
合衆国本土への直接爆撃を可能とする超重爆撃機型鋼の乙女「フガク」の完成を阻止
するため、アメリカ合衆国は持てるすべての鋼の乙女を総動員して未だ目覚めぬ「フガク」が
いる硫黄島千鳥飛行場を制圧するべく兵を進めたのだ。
硫黄島東海岸数カ所から攻め上がるアメリカ軍に対して、大日本帝国もまた稼働可能な
すべての鋼の乙女を主力と思われる東海岸中央部からの上陸軍へと差し向ける。だが、
もはや戦術ですらない最後の抵抗も、千鳥飛行場をその戦場として終焉の時を迎えようと
していた――
「敵機はこれで最後だ。地上の掃討はエイミーに任せる。ネコ、ハイネ、オレたちは千鳥
飛行場へ向かうぞ!」
「わかったニャー」
「了解であります」
この場の指揮を執る戦闘機型鋼の乙女、P-40・クレアが守備隊最後の零戦を撃墜しながら
檄を飛ばす。翼を千鳥飛行場へ向けるクレアを、艦上戦闘機型のF4Fワイルドキャット・ネコと、
艦上偵察爆撃機型のSBDドーントレス・ハイネが追う。千鳥飛行場周辺に対空砲はなく、
「フガク」がいる千鳥飛行場への道を護る大量の戦車もすでにほとんどがアメリカ軍の
重戦車型鋼の乙女、M26パーシング・エイミーの左手に装備された主砲によってスクラップの
山と変わり果てていた。しかし、彼女たちの行く手を阻むかのように、正確な対空砲撃が
加えられる。正確故に回避は容易だったが、その砲撃を加えた張本人を前に、彼女たち
アメリカ軍の鋼の乙女たちは皆複雑な表情になった。
「ここから先へは行かせないです。フガクは絶対、壊させないですっ」
彼女たちの行く手を阻むのは、この防衛戦に参加した大日本帝国最後の鋼の乙女であり、
そして、かつて大日本帝国陸軍にフィリピンでさしたる損傷もないまま放棄された彼女を
鹵獲し、様々な経緯を経てアメリカ軍の一員として迎えてともに戦った鋼の乙女。大日本
帝国が保有する唯一の陸戦型である中戦車型鋼の乙女、九七式中戦車・チハだった。
水際防衛の最中に別ルートからの侵攻を悟った大日本帝国軍鋼の乙女のリーダー、戦艦型
鋼の乙女やまとの命令で、彼女は最後の妹を護るべく、たった一人でかつてともに戦った
歴戦の勇士たちの前に立ちはだかる。
「チハ!本気なの?フガクが完成してしまったらどうなるか、あんただってわかってるはず
でしょう?
結局、彼女たちは玉砕の道を選んだ……レイややまとは、あんたの思いには応えて
くれなかったんでしょう?あんたまで、それにつきあう理由はないはずよ」
エイミーが叫ぶ。チハがアメリカ軍を離れて再び日本へ戻ったのは、サイパンで繰り広げ
られたような民間人の犠牲をこれ以上出さないために、連合軍の大日本帝国本土徹底
空爆を防ぐべく、主戦力である鋼の乙女たちに率先して降伏するよう説得するためだった。
それでも歴戦の勇士たちを前にしたチハはかつての弱々しさもなく、右手に装備した主砲を
エイミーたちに向ける。
「それでも、わたしも日本生まれの鋼の乙女なんです。
確かにレイさんたちは私の説得を聞き入れてはくれませんでした。ですが、私を仲間と
して迎え入れてくれました。だから私は、最後に生まれてくる妹くらいは護ってあげたいです。
エイミーさんが、わたしを守ってくれたみたいに」
「……本当に、バカな子……」
自分たちの中ではどんなことをしても異邦人でしかなかったチハを、大日本帝国の
乙女たちは帰るべき場所として迎え入れていたのだと知ったエイミーも左手の主砲に
砲弾を装填してチハに向ける。対峙する二人の上を、クレアたちが飛び過ぎる。
「エイミー、チハの相手は任せた。オレたちはフガクの破壊に全力だ」
「やらせないです!」
「チハ!私がそんなことさせると思ってるの!」
チハがクレアたちに主砲を向けようとするのをエイミーが遮る。最後の鋼の乙女をかわした
クレアたちは、千鳥飛行場にある施設の中に、まだ覚醒前にもかかわらず周囲を圧倒する
威容を輝き放つ見知らぬ乙女がたたずんでいるのを確認する。その乙女の周りには
技術者らしい白衣の人物が数人、彼女を覚醒させるべく最終作業を行っていた。しかも
乙女と技術者たちを守るようにして、これまでを上回るすさまじい数の戦闘装甲車両や
野砲が飛行場を埋め尽くさんとばかりに取り囲んでいる。そこにいるのが鋼の乙女
「フガク」だと認識したクレアたちは、砲台や装甲車両をものともせずに突撃し、「フガク」
めがけて一斉に攻撃を開始した――
――猛烈な爆煙が過ぎ去った後、クレアたち以外に動くものもなく破壊された施設には、
「フガク」の姿はなかった。
「ニャー。ニャーたちの攻撃で跡形もなく消え去ったニャァ?」
猫の耳と尻尾を持つ異彩の鋼の乙女、ネコが意外な結果に驚く。最強の鋼の乙女と
噂された「フガク」が、いくら目覚めていないとはいえ、そして戦艦といえどもあっという間に
海の藻屑にしてしまう3人の攻撃を受けたとはいえ、残骸も残さず破壊できるとは、おバカで
知られるネコですら考えてもいなかった。
「確かにおかしいであります。ですが、逃げられるはずもないであります」
「その通りだ。オレたちはフガク破壊に成功した。エイミーのところに戻るぞ」
ハイネの疑問をクレアは否定した。破壊された千鳥飛行場を後にする3人。本格的な
占領は後続の部隊が行ってくれるだろう。だが、別働隊が擂鉢山で苦戦しているとも
聞いている。そちらの援護にも回らないといけないな、とクレアは考えていた。
――3人は知らなかった。施設が破壊される直前、突如として現れた金色の魔方陣に
「フガク」が吸い込まれたことを。公式の記録では、大日本帝国の超重爆撃機型鋼の
乙女「フガク」は、西暦1945年2月16日に硫黄島千鳥飛行場内施設にてフル装備状態での
最終調整中に連合軍によって破壊されたとされる。「フガク」のみ残骸のひとかけらも
発見されないなど不可解な点は残ったが、それは搭載していた20トンを超える大量の
弾薬によるもの(それ自体も爆発の規模から疑問点は残ったが)だとされ、以後追調査
されることもなかった――
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、トリステイン王国で三指に
入る大貴族ヴァリエール公爵の三女であると同時に、トリステイン王国の貴族の子女たちが
通うトリステイン魔法学院の生徒である。
魔法が使えるメイジであることが貴族の条件とされるこのトリステイン王国にて、その
屈指の家柄に対して魔法の才に恵まれない彼女は、多くの学院生徒のやっかみも
混じったそしりにも折れることのない不屈の精神力を持ち、また魔法実技以外の座学では
優秀な成績を修める人並み外れた努力家でもあった。
トリステイン魔法学院では、毎年春、2年生への進級時にメイジにとって一生のパートナーと
なる使い魔を召喚する儀式を執り行う。その儀式の最中、ルイズは自分が唱えた召喚呪文が
引き起こした爆発と、それと同時に聞こえた金属製のゴーレムが地面に崩れ落ちるような
音が煙と一緒に消えた後でも、杖を振った格好のまま言葉を失っていた。
それは一見自分とさして年かさも背丈も変わらない、右手に100サントはありそうな金属と
木で作られた杖を持った、知らない異国の服を着た女の子が力なく両膝をついているようにも
見えた。
けれど、普通の女の子には背中に片方3つずつ風車のようなものがついた、とても飛べそうには
見えない金属の翼など生えていないし、臑が背中の翼と同じ色のひれのようなものがついた
白い金属の鎧のようなもので覆われていて、するりと伸びた足の先、くるぶしから下の人間なら
つま先があるべきところに車輪のようなものがついているはずもない。
近づいてみると、自分のピンクブロンドとはまた異なる、きれいな白い髪はすそが広がった
ショートカットに切りそろえられ、金の額飾りで飾られた広めの額から両側に流された髪の房には
3つの直線を組み合わせた文字「Ζ」にも見えるデザインの金の髪飾りがついている。
よく見ると背中の金属の翼も外側が深緑、内側が白く塗られ、それにつながるように同じ色の
尻尾が伸びていた。着ている白い服も赤い布で裏打ちされた前あわせの見慣れないもので、
袖の先とスリットがたくさん入ったスカートが水色、スカートの先がちょうど上着と色が逆に
なるようなデザインで白くなっている。腕に金具で留められた片方6つの鈍く黒光りする
金属の物体もなんだかよくわからない。スカートをベルトのように留めている、首のチョーカーと
同じような形の金属製の星形のバックルと、ロープと白い紙で構成されたものも何かの
意味があるのだろうか。試しに頬に触れてみると人肌のぬくもりが感じられ、これまで
意識からそらしていた、「巨大な胸のようなもの」が規則正しく上下している……
「……ミ、ミスタ・コルベール!」
そこまで観察したルイズは「?」が渦巻く思考がまとまるまでの一瞬の間を置いて、
この儀式をとりまとめている中年教師――年齢以上に頭髪が寂しいことになっている――
コルベールに助けを求めた。コルベールは騒ぎ始めた周りの生徒たちに離れているように
指示すると、ルイズのそばにかがんで先ほどのルイズと同じように女の子の頬に触れる。
「……これは、亜人……いや、人間を素体としたゴーレムかガーゴイル……でしょうか?
亜人ではないとすればこれほどのものを制作できるとはいったいどんなメイジなのか……
とはいえ、呼び出した以上は彼女が君の使い魔です。儀式を続けなさい」
コルベールに促されるままに呪文を唱えつつ使い魔とするために口づけをするルイズ。
「相手は亜人の女の子かゴーレムかガーゴイルなんだからノーカンよ、ノーカン」と自分を
慰めていたが、それは突然の甲高い叫び声によって中断された。
「……熱っ!いたいじゃないのよ!……て、ここ、どこ?」
ルイズが声に顔を上げると、先ほどまで力なく膝をついていた女の子が、左手を押さえた
まま怒るような混乱するような表情で立っていた。左手を押さえているため杖はこちらに
向けられていないが、見慣れない黒い瞳は明らかに混乱しながらも怒っている。ちなみに
立ち上がった背丈は足の車輪と背中の翼の分だけ相手に分があったのはちょっとだけ
悔しかった……
「――どれ」
ルイズの横で成り行きを見守りつつ不測の事態に備えていたコルベールが使い魔の
儀式が終了した左手を取る。「よくやった」と言われてルイズはやっと自分が初めて魔法に
成功したことを喜んだが、そのために続けて「――にしても、ずいぶんと珍しいルーン
だな……」という言葉を聞き逃していた。
「何勝手に人の手握ってるのよ!ちょっと、聞いてるの?」
コルベールの行動が火に油を注いでいるにもかかわらず、コルベール本人は生徒たちに
各自寮に戻るよう解散を指示していた。それがいっそう使い魔(契約が完了したのだから
そう呼ぶことにする)の怒りを招く。
「人の話を聞きなさいよ!……って、人間が空を飛んでる?航空機型の鋼の乙女でも
ないのに?」
メイジがフライの魔法を使って空を飛ぶのが珍しいのだろうか。一瞬呆気にとられたような
表情をする使い魔は真顔でルイズに向き直ると「アンタは飛ばないの?」と聞いてきた。
「……う、うっさいわね!わたしたちは歩いて帰るわよ」
恥ずかしさに頬を赤らめ使い魔の顔を見ないようにするルイズ。そのまま本当に歩いて
学院へ戻ろうとするルイズの背中から誰かに抱きしめられる。背中に感じるこのプレッシャー
……あのいけ好かない赤毛のゲルマニア女はもう先に行っている以上、この場にいるのは
自分の使い魔としか考えられなかった。
「……しょうがないわね。この私、ふがくが送ってあげるんだから、感謝しなさいよね」
トーンの高い声がそう告げるが早いか、バババババ……という風を切るような聞き覚えの
ない爆音のコーラスが背中越しに響き始める。経験したことのない事態にルイズが慌て
始めると、背中越しに抱きしめられたままの体がふわりと宙に浮いた。
「え?わたし、空を飛んでる?」
「何言ってるのよ。私は超重爆撃機型の鋼の乙女よ。空を飛べなくてどうするのよ。
……と・こ・ろ・で。あの向こうにある石造りの施設まで行けばいいのね?」
「え?あ……そ、そうよ!」
ルイズが肯定するが早いか。先に行くコルベールや同級生たちと同じ高度を緩やかに
飛んでいた、さっき「フガク」と名乗った使い魔が速度を上げてあっという間に全員を追い抜く。
この速度、あの会話もしたことのない小柄な青い髪の同級生が召喚した、高速を誇る
風竜(ウィンドドラゴン)の幼生より絶対に速い。爆音のコーラスは正直あんまりうれしくない
けれど、もしかすると自分は「当たり」を引いたのかも……真っ先に女子寮の入り口前に
降り立ったルイズは、先ほどまでの鬱屈とした気持ちはどこへやら、始祖ブリミルへ感謝の
祈りを捧げたくなっていた。
一方、追い抜かれたコルベールと少年少女たちは、今通り過ぎたものが何か理解できず
呆気にとられていた。例外は2名。今通り過ぎたものが何かを知って心底楽しくて仕方ないと
笑う赤い髪に褐色肌の長身の女生徒と、それとは対照的に無言のまま今通り過ぎたものの
行き先を見つめている青い髪に雪のように白い肌の小柄な女生徒。二人はルイズの後を
追うように学院に戻る速度を上げた。
こうしてルイズは生まれて初めて成功した魔法と、予想以上にすごそうな使い魔を得たと
いう余韻に浸りつつ、これからのこと想像して笑みが漏れるのを隠しきれずにいた。
もう「ゼロ」なんて呼ばせない。単に私は大器晩成型だっただけなんだからと、小さく拳を
握りしめた。
そしてふがくは……といえば、ここがどこなのかまだ理解できてはいなかったが、それほど
落ち込んでもいなかった。なにしろ自分は大日本帝国から無給油で太平洋を横断して
アメリカ本土を爆撃し、そのまま大西洋も横断して同盟国ドイツへ行くことができるのだ。
航続距離16000kmを誇る大日本帝国の秘密兵器なのだから、地球上のどこだろうと
帰ろうと思えばいつでも日本に帰れる――そう思っていた。
#navi(萌え萌えゼロ大戦(略))
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