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#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
53.護衛のアニエス
「えー、おほん。えへん。ごほん……」
何をすれば良いのか、そんなことは分かっている。でもできない。というよりしたくない。
エレオノールはルイズの使い魔によって回復した婚約者と、
両頬が赤くのびきっているルイズを前にして、わざとらしい咳払いを続ける。
ひとしきりその様を見たヴァレリーは、腹を抱えて笑いながら出て行った。
なんかあやまりたくない。自分が悪いとは分かっているが、
それであやまるのはどうなのだろうか。いや、
むしろあれはノックもせずに人の部屋を勝手に見たのが悪いのだから、
あやまる必要自体無いのではないか。
笑顔のカトレアがゆっくりと顔をエレオノールのそばによせる。
「姉さま。いいかげんにしないとやっぱりなしって言われるかもしれませんわ」
「……ごめんなさい」
やれやれと苦笑いするカトレアは、
マーティンにいつものことだと説明した。
場所が変わってもメイジがメイジであることに変わりはないらしい。
自分の非を認めたがらないのは、よくあるメイジの特徴だ。
「バ、バーガンディ。これからまたちょっと色々しないといけなくなったから、へ、返事は、えっと」
両手の指を絡ませて、顔を赤らめ視線を下へ向けるエレオノールに、
バーガンディは頷いた。
「休みに入ったら連絡をくれるかい?公爵様の所へ一緒に行こう」
「え、うん。そうね。そ、それじゃまた」
「ああ、それじゃ皆さん。ミスタ、さっきはどうも」
手を振りながら爽やかな青年は去っていく。
それを見て、女の子らしい感情がエレオノールの体を走る。
バーガンディと一緒にいたい。しかし今はやるべきことがある。
ぐっとこらえて仕事の顔に戻った。
「さて、ルイズ……さっきのことは水に流すとして、準備は良いかしら?」
気を取り直し、研究者の目でルイズに聞いた。
鋭い眼光は、ルイズを家族の一員としてではなく研究の対象として見ている。
「姉さま、私何をすれば良いの?」
「色々」
あいまい過ぎて意味が分からない。ルイズが首をひねると、
エレオノールはとりあえず一番やって欲しいことを言い始めた。
「『虚無』そのものについて研究する為の資料がまるで足りないわ。
当然よね?伝説や伝記にしか残っていないんだから。
あの時はちょっとはしゃいじゃったけど、あなたが『虚無』である証拠もあるわけじゃないし。
とてつもない力を持っているのは間違いないから、その時点で研究対象だけれど……」
ルイズは、アンリエッタからもらった祈祷書と水のルビーを荷物から取り出した。
「ああ、詩を詠みあげるのは聞いたわ。ちゃんとできたの?」
「これが証拠なの、姉さま」
水のルビーを指にはめて、何も書かれていない祈祷書を見るとブリミルの注意書きが見える。
エレオノールはそう聞いて、顔をしかめてちっと舌打ちする。
「前々から怪しいとは思っていたのよ。でもそういうのって調べられないのよね。
ブリミル教において重要な物だから、学術的に確かめたりとかできなかったのよ。ありがたいわね。
あなたがそれを持っているということは……」
エレオノールは研究者としての笑み、ルイズからしてみればちょっと怖いほほえみを浮かべている。
嫌な予感がした。姉関係では外れた試しが無い予感だった。
「あ、姉さま、ダメですからね?これ、お国の物ですから。私のじゃないですから」
「いいじゃない。減るものでもなし」
「いやいやいやいや、何かするんですよね?危ないことするんですよね?姉さま」
いつもなら頬をつねられているに違いない物言いだった。しかし少々機嫌が良いエレオノールは、
懐から一枚のカードを取り出してルイズに渡す。
「こ、これはトリスタニア一の菓子職人、サルモの店の年間無料パス!」
「報酬として用意しておいたの。クックベリーパイ、食べ放題よ?」
甘い物食べ放題。世の女の子にこれ以上の効果を持つ言葉はどれだけあるだろうか?
特に未だ色気より食い気のルイズにはなおさらだ。
ルイズの頭の中に天使と悪魔が現れた。誘惑を無視してお国に仕える立派な貴族になりましょうと働きかける天使ルイズ。
大丈夫、いくら姉さまでも丁寧に扱うからもらっちゃいなさいよと誘惑する悪魔ルイズ。結局のところ悪魔が勝った。
「……そうよね。ちょっとくらいなら大丈夫よね」
目にダメな光が輝き口元によだれがたれそうになっているルイズは、
ぼろぼろの祈祷書をエレオノールに渡した。
さすがお姉さんである。妹がどうすれば言うことを聞くのかよく理解している。
その割にこういった手段に出ないのは、もちろんルイズをつねるのが面白いからだ。
「それでこそ私の妹よ。それじゃついてきなさい。ああ、あなたもね。
ルイズから話は聞いているわ。その知識、ぜひ教えてくださいな」
エレオノールはマーティンを手招きして、軽い足取りで部屋から出て行った。
「さ、行きましょマーティン!」
「ん、ああ」
ルイズに押される形でマーティンも部屋からいなくなる。
残っているのはカトレアと、使用人の服を着ていたせいか視界にすら入れてもらえなかったシエスタだ。
「姉さまったらそそっかしいから。気にしないでね」
「はい……お掃除でもしましょうかね」
二人はエレオノールの部屋でのんびり過ごすのであった。
平和なトリステインとはうって変わって、アルビオンは首都ロンディニウムのハヴィランド宮殿では、
王政府から国を取り上げた革命者たちが会議を行っている。議題はトリステインをいつ攻めるか。
「やはり」
イスに座る将校の一人が口を開く。
「今すぐにでもトリステインを攻め落とすべきでは?ゲルマニアと同盟を組む直前である今を逃しては、
我々はあのゲルマニア艦隊を相手に戦わねばなりません」
国力を伸ばし続けるゲルマニアは、どこの国にとっても脅威になりうる存在だ。
歴史こそ浅いが、それ以外はほぼ揃っている。他国から色々な理由で逃げたランクの高いメイジ、
夢に騙され、ひどい環境で働く多くの労働力、そしてハルケギニア一の国土を持ち、
ブリミル教を国教としているのに、その教えを無視した魔法をあまり使わない工業力の高さ……
噂ではエルフたちやロバ・アルカリイエの人々とも貿易を交わしているらしく、
相手にするには骨の折れる国なのだ。
「そんな不作法なマネができるか!」
老いた老将軍が立ち上がって怒鳴りあげた。トリステインとは少し前に不可侵条約を締結したばかりである。
生粋のアルビオン貴族で軍人からしてみれば、そんな行いはアルビオンの品位を汚すことに他ならない。
「落ち着きたまえ、ホーキンス将軍」
議長兼初代皇帝であるクロムウェルが手をあげて、激したホーキンスをなだめる。
老将ははっとした様子でイスに座った。
「閣下はどのように考えられておられるのですか?」
でっぷり太った将軍がクロムウェルにたずねた。
クロムウェルは口元に手を当て考える素振りを見せる。
「ふむ……たしかに、今攻め落とさねばゲルマニアと同時に戦わねばならぬな。
しかしかの国といえど、どこからやってくるか分からぬ艦隊と、
それに満載された彼らには勝てぬのではないかな?」
衛兵代わりのスケルトンを指差した。
疲れず、食料を必要とせず、不平不満を言わない上に常に命令通りに動く。
クロムウェルの秘書が使う東方の魔法は倫理的には問題しかないが、
こと人材の消費が激しい戦争においては、とても便利なものだった。
当然真っ当な軍人たちは忌み嫌うがが、文句をいう者はどういうわけかすぐにいなくなってしまう。
「どこからやってくるか分からぬ……?アルビオンは常に移動していますが、
一定のコースでハルケギニアの上空を周回しているのですぞ」
「うむ、そうだとも。では、それを変えられたらどうするかね?」
太った将軍の顔色が青ざめた。
「な……今なんとおっしゃられましたか?」
「なに、余の秘書は優秀でね。古文書に書かれた言葉を解読したところ、おもしろいことが分かったのだよ」
当然、古文書なんて無い。嘘っぱちでも信じ込ませることができるから、彼は今この役職でいられるのだ。
秘書という名のご主人様であるマニマルコは、ロンディニウムの地下にいた。
王城にある秘密の抜け道から通じるそこは、もしもの時の避難通路として作られたものだ。
だが、それだけではない。マニマルコはそう考えた。
何故この大陸は浮かんでいる?あらゆる物は重力で常に星の中心に引っ張られているというのに、
これだけはそれを無視し、風石が内包されているわけでもないのに悠々と空に浮かんでいる。
マニマルコはその答えを魔法だと考えた。
大きな力がこの大陸を空に浮かばせている。しかし誰もその正確な理由を知らず、
そして毎月規則正しく移動することから考えて、おそらく自動的にそう動くように制御されているはず。
では、その制御装置はどこにあるのか?おそらくこの大陸のどこかにあり、人目につかず、そして最も安全な所。
「ふむ……」
そうしてこのロンディニウムの地下通路を探り当て、
スケルトンを用いて何かないかと探索した結果、面白い物が見つかった。
抜け道の奥深く、たいまつでもなければ真っ暗な、
石造りの通路にボンヤリと光る小さな魔法陣。
ハルケギニアでは全く見られないそれは、マニマルコが見知った術式で作られていた。
はるか昔からタムリエルで使われている魔法で構成されていたのだ。
もうほぼ使われていない古代のエルフ文字で。
「この地にエルフの祖先がいたというのか?まさかここが……まぁいい」
魔法の明かりを灯して壁に書かれた魔法陣の周りをよく見ると、ほんのわずかではあるが亀裂がある。
通路が封印されているらしい。ふさわしい者以外を通さない為だろう。
「さて、開けるか」
マニマルコは魔法陣の前で呪文を唱える。
長々と「古き法」を唱え終わると魔法陣は輝いたが、そのきらめきは一瞬だった。
失敗だ。マニマルコですら外せない強固な魔術防壁で守られているのだ。
「正攻法では不可能か」
壁をスケルトンたちに壊させる方法もあるが無理だろう。
地下通路全体に強力な「固定化」の呪文がかけられている。
「おそらくこれを守る為にそうしたのだろうが……」
俺が入れないじゃないか。マニマルコが壁に向かってどうしようか考えていると、
スケルトンの足音が聞こえてきた。騒がしい少女の声もする。
「マニマルコ!クロムウェルが呼んでるよ……なぁに、これ?」
イザベラが触れると、急に魔法陣は輝きだした。紫色の円がひとしきり輝くと、
魔法陣が書かれていた壁は音を立てながら割れていく。
音が止むと、魔法陣が書かれていた壁から全く違う造りの遺跡が顔を出していた。
「えーと……なんか悪いことした?」
「そうでもない。むしろありがたいよ」
解除の鍵は王家の血か。マニマルコが優しくイザベラの頭をなでる。イザベラは嬉しそうに笑った。
「さて、中はどうなっているのか……ああ、クロムウェルにはもう少しかかると伝えてくれるかな」
返事がない。マニマルコがイザベラを見ると、彼女は開いた壁を興味深そうにのぞき込んでいた。
中からは青白い光が漏れだしている。アイレイドの遺跡で見かける、ウェルキンド石が放つ魔法力の輝きだった。
「一緒に来たい?」
「うん!」
スケルトン一体を代わりに送り、マニマルコたちはさらに奥深くへと進んでいった。
一方、トリステインの王宮。アンリエッタの居室では、
式でアンリエッタがまとうドレスの仮縫いでおおわらわであった。
大后マリアンヌの姿も見えた。彼女は純白のドレスに身を包んだ娘を、
目を細めて見守っていた。
アンリエッタの表情はまるで太陽のよう。仮縫いのための縫い子たちが、
袖の具合や腰の位置を尋ねる度に、鏡で自分を見ながら楽しそうに答えている。
「あ、母さま」
鏡の端に映った大后を見て、ようやく気が付いたらしい。
アンリエッタは振り向いた。
「愛しい娘や。ずいぶんと楽しそうね」
「それはもう」
その笑顔は年頃の娘のものだ。何も悩んでいるようには見えない。
縫い子たちが空気を読んで下がると、アンリエッタは母后の膝に頬をうずめた。
「望まぬ結婚だと思っていたのだけれど」
「そんなことありませんわ!アルは優しいし、ハンサムだし。
とっても頼りになりそうですもの」
「そう」
マリアンヌはとても寂しそうに目を下に向ける。
アンリエッタは不思議そうに尋ねた。
「母さま。どうかなさいましたの?」
「いえ、あの人と会った時を思い出して」
「お父さまのこと?」
マリアンヌは頷いた。
「あの人は遊び人で、呆け者で、約束をやぶってばかりでした」
静かに、アンリエッタは聞いている。
父王がアンリエッタに残した言葉は「わがままであれ」。
アンリエッタはずっと忠実に守っている。
「いつでも一緒にいると言ったくせに、先にいってしまうのだもの。酷い人でしょう?」
「母さま……」
アンリエッタは、悲しそうなマリアンヌに抱きついた。
「わたしは大丈夫ですわ。幸せになりますもの」
「いいえ。今は幸せでも、後で必ず悲しいことが起こってしまうのです」
アンリエッタは笑顔で母后を見る。
「たとえそうだとしても、乗り越えてみせますわ。だって、わたしはゲルマニア皇妃になるのですもの。
それくらいしないと、アルのお嫁さんは務まりませんわ」
「そう……強いのですね。アンリエッタ」
もしかしたら、わたくしもこうなっていたのかしら。
アンリエッタは寂しそうに笑うマリアンヌを見てそう思う。
ウェールズさまが死んでいたら、果たして今のようにゲルマニアに嫁げただろうか。
母さまのように過去に生きて、ウェールズさまを殺した相手への復讐心に駆られていたかも。
とりあえず、わたくしとウェールズさまにひどいことしたワルドは、見つけたら死刑。
未だ見つからない標的に思いを馳せるアンリエッタは、
段々とよい子の顔が崩れ、その口元に悪魔の笑みを宿らせる。
「……どうかしましたか?アンリエッタ」
「へ、いえ、なんでもありませんわ!今後のことを少し考えていましたの」
「そう。あなたは先に生きなさい。あなたの母親は、その生き方を忘れてしまったから」
アンリエッタは清らかな笑顔で答えた。
「はい。わたしは明日を生きますわ」
母娘はしっかりと抱き合った。
アニエスという女剣士がいる。世にも珍しい魔法を使う剣士である。
魔法剣士とでも呼ぶべきだが、ハルケギニアには普通いない。
メイジは剣を平民の武器と考え、杖を使うことをよしとするからだ。
そんな珍しいアニエスは、どういうわけか宮殿近くの衛士隊の練習場にて、
烈風と戦っていた。放たれた風によって上空300メイルまで吹き飛ばされるが、意識を失わずにフライを唱える。
「このっ!」
下降しながら、地上にいる相手にありったけの氷のつぶてを放つ。
しかし、全てブレイドがかかった杖で切り払われた。
飛行しながらの呪文使用は難易度が高く、あまり使えるメイジはいない。
実戦を通して、死にものぐるいで覚えた技がまるで通用しない相手にどう攻めるべきか、
地面に降りて剣を構えて考えていた。
「な」
音も立てず、目前の相手が消え去る。ふと、背後に気配を感じた。
アニエスは振り向く間も無く、エア・カッターの衝撃を受けて気絶した。
「わたくしに仕える気はなくって?アニエス」
リッシュモンを殺した夜、汚い宿屋にて。
目前にいる変装したアンリエッタに、ひざまずくアニエスは自分の耳を疑った。
自分はトリステイン王家に仕える貴族を殺したのである。
たとえそれが復讐の為であったとしても、許されるはずが無い。
王家とは始祖と同一で、侵してはならない。そういう教えの元で育ったからだ。
実際、アニエスは終わったら首を持って行って処刑されるつもりだった。
復讐を成し遂げることが、アニエスにとっての命題だからである。
「聞こえたかしら?」
「その、おっしゃる意味が……」
「仲の良かった女官が、アルビオンのスパイに殺されてしまいましたの」
アニエスはどうにも話が見えない。アンリエッタはやれやれと言いたげに続ける。
「それで、どうにもね。信用の置ける者が近くにいなくなったものだから」
「私を、信用なさるのですか?」
アンリエッタは慈悲深い笑みを浮かべている。
「リッシュモンの件は、本当に感謝していますわ。あなたのおかげで国益は守られました。
わたくしは彼が裏切っていることすら知りませんでしたし、
もし知ったとしても、そうそう行動に移せるものではありませんから」
アンリエッタはアニエスに近づいて、スベスベした美しい手で彼女の手を取る。
「あなたは、勇敢にも国の為にあえて汚れ役になってくれたのです。信頼しないはずがありません」
「ですが、それは結果の話です。私は……」
遮るように、アンリエッタは続ける。
「たとえ復讐であったとしても、あなたは殺された人々の無念を晴らしました。
これを誇り高きおこないと言わずして、なんと言えばいいのかしら?」
アニエスは日の当たらない人生を過ごしてきた。
復讐の為に生きることは、決して報われないものだろうと考えていた。
「……アニエス。どうかしたの?」
気付かぬ内に、アニエスの頬に涙が伝っていた。殺し、殺されの冷たい世界で生きたアニエスにとって、
今目の前で自分の手を取るアンリエッタは、あまりにも暖かい存在だった。
「私は、汚れています。日の当たらぬ世界で生きてきました」
「だからこそ、わたくしの見えぬ物が見えることもあるでしょう?」
アンリエッタはアニエスを抱きしめる。胸元にアニエスの顔が埋まる。暖かい。
人に抱きしめられたのは何年ぶりだろうか。久しく忘れていた様々な思いが、
アニエスにあふれ出す。視界がぼやけ、何も見えなくなる。
「その手で、私を守ってくださいますね?」
声を上げて泣くアニエスは、アンリエッタを強く抱きしめた。
了承の証だった。
そんなこんなで、アニエスはアンリエッタに拾われた。
アニエスが生かした男はグレイ・フォックスが引き取ることとなった。
何故生かしたのか、アンリエッタが尋ねたところ、
「彼らは軍人です。命令に従うのがその役目でしょう。
命令を下す者が、彼らの分の責を負うのが筋というものかと」
と迷いの無い目で返答された。正論だったがそこまで割り切れるものだろうか、
フォックスは不思議に思った。
シエスタは学院に戻り、ルイズの手助けをすることとなった。
後にアンリエッタ直々に書状が送られ、ルイズ専属の使用人になる予定である。
アニエスの今の役職は雇われ護衛とか、名無しの自由騎士とか、そんな感じだ。
理由は「わたくしが気に入りましたから」である。
お姫さまのわがままは今に始まったことでもない。
とはいえ、少し前にもワルドが裏切ったばかりだから、
どこぞの馬の骨など護衛として雇えるはずがない。
マザリーニが当然のように反対したが、アンリエッタはそれを拒否。
マリアンヌの前でも、珍しくその姿勢を貫いた。
困ったマザリーニは、正式なグリフォン隊の隊長が決まり、
やることが無くなって帰ろうとしていた烈風さんを呼び止め、様子を見させることにした。
マンティコア隊の隊長として一時代を築き、
身を退いた後も暇があれば隊員達を指導したカリーヌ・デジレに、
彼女が本当に大丈夫かどうか確かめさせることにしたのだ。
「気に入りました」
「は、はぁ」
頭に水をぶっかけられて起きたアニエスに、カリーヌ・デジレは微笑んだ。
雲の上の人の考えや言動はよく分からない。アニエスはここ最近ずっとそう思っている。
「今の隊員より筋が良い。姑息な手を使う者を長らく見てきましたが、
それをするわけでもない。どうにかして衛士隊に入れたいくらいです」
カリーヌは誰であろうと得物が何であろうと実力があれば認める。
自分もそうして認められたからだ。それにアニエスは礼儀正しく規律を守り、慎ましやかだ。
つまり、カリーヌにとても良い感じに見えている。
「は、ははは」
どうやって、あの人は魔法も使わずこの化け物と引き分けたのだろうか。
独り立ちするまで自分に剣を教えてくれた、武器屋の親父を思い出す。
魔法の使い方は幼い頃村で基礎を学び、本を読んで勉強した。そのおかげで現在の魔法が持つ重要な意味も理解できた。
「ところで」
カリーヌはどこか遠くを見るような目でアニエスにたずねる。
「お前に剣を教えたのは一体誰ですか?」
「あなた様と一度戦い、今も生きておられる方です」
ふむ、とカリーヌは頷くと、再び構えた。
「なら、まだ大丈夫ですね」
「へ?」
「エッシャーが雇ったあの男なら、これくらいで準備運動が終わったと言うでしょう」
アニエスにはカリーヌが楽しそうに笑っているように見えた。
規律によって、がんじがらめに縛られている獣の片鱗を少しではあるが覗かせていたのかもしれない。
飲まれるな、飲み込んでやれ。アニエスは立ち上がり、深く息を吸って剣を構える。
「さぁ、続きをしましょう」
アニエスは勢いよく、空元気で返事をする。
「お手柔らかに!」
吹き荒れる嵐の中、アニエスはそれを切り裂くように突き進む。
こんな暴風相手に魔法を使っても無駄だからだ。どちらが切り裂かれたのかは言うまでもない。
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