「ゼロの癒し手」(2007/08/06 (月) 22:21:11) の最新版変更点
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「全宇宙の果てのどこかにいる、わたしの下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
結論から言おう。
かのヴァリエール嬢――ほかの平行世界においては、”虚無(ゼロ)のルイズ”と呼ばれ、比類無き武器の使い手”ガンダールヴ”をその護衛(兼奴隷兼愛人)として従えることになる少女の、召喚の儀に際してのその願いは、半分だけ叶えられた。
爆音とともに現われたその存在は、確かに強く、美しく、生命力に溢れ、おまけに賢こさと気高さまでも兼ね備えていたのだから。
ただし―――。
「あのぅ……ここはどこなのでしょうか?」
宝杖を携え、魔力に溢れた、どう見ても高位の術者にしか見えない”彼女”を使い魔とすることができるなら、の話ではあるが……。
『ゼロの癒し手』
トーティス村在住の新米主婦、ミント・アルベイン(旧姓:アドネード)さんは当惑していた。
苦しく困難で……けれど、同時に楽しくもあった戦いの旅が終わり、平和になった世界で、ようやく想い人との結婚にまで漕ぎ着けたのがおよそ半年前。
冒険行の途上で出会い、緩やかに想いを育んできた若い(じつは彼女の方がひとつ年上であり、夫に至ってはいまだ20歳にすらなっていない)ふたりだが、さすがにこれだけ経てば新婚とは言え多少は落ち着いてくる。
もっとも、夫の親友で、彼女たちの旅の仲間でもあった弓使いに言わせれば、いまだ”熱々のバカップル”らしいが。
その日、夫が森へ狩りに出かけている間に、彼女は新居(と言っても、元々夫の実家であった建物を改築したものだが)に残り、
季節の移り際であることもあってタンスの中の衣類の整理などをしているところだった。
「あら? これは……」
あまり多くない夫の衣類を整理し終わり、いざ自分の方にさしかかった彼女だったが、ふと懐かしい服を目にして思わず手にとって広げていた。
”ホーリィクローク”と呼ばれるその白い衣装は、魔王を倒す旅の途中で入手し、長らく彼女の身を守ってくれたものだ。
旅の終盤にはさらに強力な防具を入手したが、清楚で美しいデザインのこの服を彼女は気に入っていたため、売らずにとっておいたのだ。
「懐かしいですね。久しぶりに着てみようかしら」
ちょっとした悪戯心もあって、ミントはホーリィクロークを着てみることにした。
せっかくなので、アンクベレットとホワイトグローブ、プリンセスケープにイヤリングまで装備し、ホーリィスタッフを手にしたフル装備仕様で、彼女は鏡の前に立った。
「うん、平気。スタイルは変わってないみたいね……ちょっと胸がキツいけど」
あまり肌が露出しない服装を好んで着ることもあって、比較的着痩せして見える彼女だが、じつは一緒に風呂に入った旅の仲間の女性陣ふたりが本気でうらやましがるほど見事なプロポーションの持ち主だ。
まぁ、そのうちひとりはまだローティーンなので、将来は彼女以上のナイスバディになる可能性も残されている。もうひとりは……推して知るべし、といったところか。
もっとも、法術師としての正装をしてたたずむ彼女は、確かに非常に美しかったが、その美は色気というよりはむしろ神聖な雰囲気を感じさせる。
また、実際その外見に違わず、彼女は極めて清楚で奥ゆかしい性格の持ち主でもあった。何せ旅の途上では、気難しい一角獣に騎乗することさえ許されたのだから……。
とは言え、現在は彼女も人妻、と言うより新妻。夫が狩りから帰ってきたときに、この格好で出迎えて驚かそうと思うくらいの、可愛らしい茶目っけは持っていた。
夫の驚く顔を思い浮かべてニコニコ―あくまでニヤニヤではないのが、この女性の気立ての良さを物語っている―していたミントだが、
それ故、背にした姿見の鏡が銀色に発光していることに、一瞬気づくのが遅れる。
「こ、この光は……!?」
おっとりした外見に似合わぬ俊敏な身ごなしで、光から逃れようとした彼女だが、一瞬の差でかわしきれず、光に包まれる。
「ミント、ただいま……何っ!?」
折悪しく……それとも間一髪で、と言うべきか、帰宅した夫のクレスが、部屋のドアを開けたところで、ミントは謎の光に包まれたまま鏡の中に吸い込まれていった。
「み、ミントーーーーーーーッ!!」
そのあとの事態は、賢明な読者の皆さんのご想像のとおりであろう。
ルイズの”使い魔”としてハルケギニアに召喚されて戸惑うミント。
もっとも、コントラクトサーヴァントに関しては、彼女が高度な術の使い手であることを見抜いたコルベール自身の進言によって一時棚上げされ、彼女の立場は”ルイズの使い魔候補”であり、同時に”学園の客分”とされる。
ミントもここが異世界であろうことを納得しつつ、故郷から夫たちの救いの手が届くであろうことを信じ、しばしその身分に甘んじることとなった。
さて、やむを得ない事情とはいえ、使い魔召喚を一時棚上げされた形となったルイズ。
ルイズの気性を知る者たちはさぞかし荒れるだろうと思っていたのだが……あにはからんや、意外なほど上機嫌でミントとの同居生活を楽しんでいた。
ひとつには、ミントほどの高位の術士―ミント自身はこの世界の魔法は使えないものの、回復や援護に特化した”法術”と呼ばれる術の使い手であり、
仲間にアーチェとい優れた魔術の行使者がいたことから、魔術に関する知識もそれなりにあった―を呼び出せたという点から、自分が決して能無しではなかったのだ、という自信。
そしてもうひとつは、召喚したミント自身の存在。彼女は、ルイズの次姉、”ちぃねぇさま”ことカトレアを彷彿とさせる、母性と慈愛にあふれた性格の女性であり、
不慮の事態に巻き込んでしまったルイズを責めることなく、それこそやさしい姉のようなスタンスで、ルイズと接してくれた。
最初こそそんな態度に軽い反発心を覚えたものの、学友達にバカにされ、孤立し、ささくれだっていたルイズの心が、自分のことを本心から案じてくれる姉的存在によって癒されていくのも無理のない話だった。
そうやって偏見を取り除いてミントを見れば、清楚な美人で羨ましいほどスタイルもよく、淑やかで上品な振る舞いをごく自然にできる極上の淑女であることが理解できた。
加えて、ミントは故郷の地の都で”歌姫”と呼ばれるほどの美声と歌唱力の持ち主であり、グルメマスターの資格を持つ料理上手。派手ではないが、インテリアや服装のセンスも悪くない。平民であることを除けば、ルイズにとって理想とも言ってよいレディだった。
しかも――彼女は強かった。
本来後衛であり、決して前線に立つのが得意とは言えないミントだが、高位の法術師にのみ与えられる”カーディナル(枢機卿)”の称号を得て久しく、最高位である”ポープ”の称号すら目前にしているレベルの術者なのだ。
野生のクマくらいなら術を使うまでもなく、手にした杖で叩いて瞬殺することくらい平気でやって見せる歴戦の猛者だ。
皆さんご承知のギーシュとの決闘イベントも発生したが、ピコハン→アシッドレイン→杖による連撃のコンボで1体目のワルキューレを瞬殺。
それを見て女性に対する遠慮と侮りを捨てたギーシュだったが、残るワルキューレも、ピコピコハンマー→シャープネス→杖でフルボッコとやはり壊滅。慌てたところにサイレンスで魔法を封じられ、あえなく敗北となった。
(余談ながら、言葉を封じられていたため「降参」のひと言が言えず、ミントに笑顔で殴り倒されたことを付け加えておく。ただし、ボロボロになったのち、やはりミントのキュアの呪文で瞬時に癒され、彼女の熱心な信奉者となった)
戦闘はそれほど得意ではないと言っていたミントのその実力を見て、ますます彼女に傾倒し、依存していくルイズ。
恐る恐る法術を教えてほしいと願い出て、それを許されてからはミントを師と仰ぐようにもなった。ご承知のとおり”虚無”の特質を秘めたルイズだが、
通常の魔法を阻害するその特質も法術との相性はよかったのか、それとも優れた教師のおかげか、熱心な学習意欲の賜物か、あるいはそれらすべての要因からか、わずか一週間で”ファーストエイド”の術をマスターしていた。
この世界でも水のメイジなら同様の事が可能であろう初歩的な癒しの法術とはいえ、これまで”ゼロ”と―時には身内からすら―罵られ続けてきたルイズにとって、それは奇跡とも呼べる偉業だった。
「ミント先生、わたし、一生ついていきます!」
感激したルイズがミントに抱きついたのも無理のない話だろう。
いまやルイズにとって、ミントは大恩人にして人生の師と言ってもよかった。
実は学園内においても、ミントは非常に人気が高い。
平民でありながら、ドットとは言え相応の実力者のギーシュを、瞬時にして下す先住魔法の使い手(法術については、一般にそう理解されていた)。
それでいて気さくで礼儀正しく、思慮深い性格の美人。ごく一部の嫉妬深い同性を除き、大半の学園の人間―貴族、平民を問わず―に認められるようになるまで、さして時間はかからなかった。
もちろん、彼女のもっとも熱心なファン(と言うより愛弟子)の第1号はルイズだったが、意外なことに2号は学園付きのメイド、シエスタだった。
ルイズのために特製料理を作ってあげようとしたミントが、厨房への案内を頼んだのが縁で親しくなり、こちらはミントに様々な料理を教わるようになったのだ。
おにぎりや茶碗蒸し、にくじゃがといった、祖父に名前だけは聞いていた料理を、苦もなく作り上げる(しかも、その出来栄えも極上だった!)ミントの料理の腕前に感嘆し、シエスタもまたミントを師匠と仰ぐようになっていた。
そのことによって、ルイズとシエスタの接点も増え、紆余曲折はあったものの、いつしかふたりは身分を越えた友人とも呼べる関係になっていった。
ミント自身も、ふたりの妹分の出現には喜んでいた。
元来ひとりっ子であったし、元の世界で旅していたころの仲間の女性ふたりも、確かに年下ではあったが、むしろ対等な戦友であり、あまり妹という感じではなかったから。
元の世界へ帰れるのかという懸念を除けば、学園での生活もけっして悪くはない。
しかし、ルイズがさらにふたつの術を覚え、シエスタがミントにレシピ皆伝と認められたころ、かの事件――アンリエッタ王女の来訪と、それに連なる秘密のアルビオン行が発生する。
詳しい経緯ははしょるが、おおよそ原作と同じ展開――ギーシュとワルドの同行、盗賊襲撃とキュルケとタバサの加勢、宿屋での戦い、王子との邂逅など――が起こったが、ここでひとつワルドは思惑を外される。
ルイズが彼の求婚をキッパリ断わったのだ。
一人前の法術師となるべく現在修業中のルイズとしては、いま結婚して家庭に入るつもりはサラサラなかったし、ミントの薫陶を受けて一人前のレディとして成長しつつある彼女にとって、ワルドがどこか薄っぺらで胡散臭く見えたことも一因だった。
仕方なく、ウェールズ王子もろともルイズを抹殺としようと企むワルド。
当然、彼女たちを守るべく、立ちはだかるミント。
高位の術者同士の息詰まる戦いが繰り広げられる。
レベル的にはミントのほうが高いのだが、偏在を使って攻め手を増やせるワルドの方が優位に立っていた。
トライアングルのウェールズの加勢や、ルイズの覚えたてのチャージ(魔力補給)によるふたりへの援護(彼女の魔力量だけは、成長したミントにさえ比肩していた)があっても、決定力に欠けるミントたちは、徐々に劣勢に追いやられていた。
ついにテラスにまで追い詰められる3人。
ところが……。
「大丈夫かい、ミント!!」
時空を切り裂く剣の力を借りて、時空剣士ことクレスが、天馬に乗って登場。
愛の力で愛妻の居場所をつきとめた(本当はいったん過去に戻ってクラースに相談した)、魔王さえ滅ぼせる正真正銘の勇者の出現で、戦局は一気にひっくり返る。
片手を切られ、ほうほうの体でワルドが逃走したのは原作どおりだが、ミント&クレスの説得によって、ウェールズ王子はトリステインへの亡命を承諾する。
そして……。
「グスッ、せんせぇ~、どうしてもお別れなんですか?」
「ごめんなさい、ルイズ。でも、私達は本来、この世界にいるべき存在じゃないから……私にも故郷と言える場所があるから……」
と、ふたりの師弟が涙ながらに別れを惜しんでいるところに、剣士から爆弾発言が。
「うーん、でもミント。別に今生の別れってわけでもないと思うよ。この時空の”場所”は覚えたから、その気になれば来れるし……」
さすが、別世界の闘技場やら学校やらに出現していた、世界観ブッちぎりの時空剣士様。俺たちにできないことを平然とやってのける!…別にシビレたり憧れたりはしないけど。
師の夫の発言を聞いて俯き、しばし考え込むルイズ。
顔を上げると、そのままふたりについて行きたいと告げる。
「ハルケギニアへ帰って来れる方法があるのなら、先生の元でしばらく修行に励みたいと思うんです」
その言葉に驚くミントだが、ルイズの決意は堅く、また自分も彼女をもう少し育てて上げたいという想いがあったため、ついには1年間の期限をつけて同行を承知した。
さて、そこから先のことも簡単に述べておこう。
ルイズは恐れ多くもウェールズ王子に、アンリエッタ王女と学園への手紙を託し、このハルケギニアの地からいったん姿を消す。
そして……1年後に再びこの地に戻って来たときには、見違えるように成長していた。
師匠直伝の様々な法術を操り、師の友人から譲られた宝石の助けを借りてカメレオンと召喚契約を結び、別の師の友人から狩人としての基礎を仕込まれたことにより、いまやトライアングルクラスのメイジとも互角以上に戦えるであろう。
しかも、かつての癇の強い性格はすっかり影を潜め、あのミントや次姉のカトレアを思わせるおっとりとやさしい雰囲気を漂わせた大人っぽい淑女へと変貌していた。
おそらくは、貴族たれというプレッシャーのない異郷で、やさしい憧れの師匠と、素朴で男らしい彼女の夫によって、まるで妹のように愛されて健やかに育ったことがよかったのだろう。
同時に彼女たちの持つ技術を懸命に学ぼうと努めた結果、ルイズ本来が持つやさしさや魅力、才能が開花し、同時にそれが彼女の心にいい意味での余裕をもたらしたのかもしれない。
さらに、ある意味こちらのほうが特筆物かもしれないが……食べ物その他の環境のおかげか、わずか一年あまりでルイズの胸がいくらか育っていた。
さすがに師匠のように”ボインちやん”と呼ばれるほどではないが、大草原の小さな胸とバカにされ、ブラ要らずと陰口をたたかれたあのA-のペタンコ胸は、もはや存在しない!
全国の貧乳ファンよ、泣いて悔しがれ。ブラのサイズにして、およそB! ちょっと控えめではあるが十分女らしい曲線が誇らしげにルイズの着ている法衣の胸元を持ち上げているのだ。
(胸のことだけでも、アセリアに渡ってよかった……)
ルイズはしみじみそう思ったとか。
その後、実家の援助を受けつつルイズはおもに法術を教える私塾を開く。
私塾の門戸は貴族のみならず平民にも開かれ、彼女自身の人柄と実力もあって、数多の弟子を輩出し、大いに栄えた。
のちにルイズは、”偉大なる癒し手”と呼ばれ、ハルケギニアの歴史に名前を刻むこととなるのだった。
-とりあえずfin-
「全宇宙の果てのどこかにいる、わたしの下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
結論から言おう。
かのヴァリエール嬢――ほかの平行世界においては、”虚無(ゼロ)のルイズ”と呼ばれ、比類無き武器の使い手”ガンダールヴ”をその護衛(兼奴隷兼愛人)として従えることになる少女の、召喚の儀に際してのその願いは、半分だけ叶えられた。
爆音とともに現われたその存在は、確かに強く、美しく、生命力に溢れ、おまけに賢こさと気高さまでも兼ね備えていたのだから。
ただし―――。
「あのぅ……ここはどこなのでしょうか?」
宝杖を携え、魔力に溢れた、どう見ても高位の術者にしか見えない”彼女”を使い魔とすることができるなら、の話ではあるが……。
『ゼロの癒し手』
トーティス村在住の新米主婦、ミント・アルベイン(旧姓:アドネード)さんは当惑していた。
苦しく困難で……けれど、同時に楽しくもあった戦いの旅が終わり、平和になった世界で、ようやく想い人との結婚にまで漕ぎ着けたのがおよそ半年前。
冒険行の途上で出会い、緩やかに想いを育んできた若い(じつは彼女の方がひとつ年上であり、夫に至ってはいまだ20歳にすらなっていない)ふたりだが、さすがにこれだけ経てば新婚とは言え多少は落ち着いてくる。
もっとも、夫の親友で、彼女たちの旅の仲間でもあった弓使いに言わせれば、いまだ”熱々のバカップル”らしいが。
その日、夫が森へ狩りに出かけている間に、彼女は新居(と言っても、元々夫の実家であった建物を改築したものだが)に残り、
季節の移り際であることもあってタンスの中の衣類の整理などをしているところだった。
「あら? これは……」
あまり多くない夫の衣類を整理し終わり、いざ自分の方にさしかかった彼女だったが、ふと懐かしい服を目にして思わず手にとって広げていた。
”ホーリィクローク”と呼ばれるその白い衣装は、魔王を倒す旅の途中で入手し、長らく彼女の身を守ってくれたものだ。
旅の終盤にはさらに強力な防具を入手したが、清楚で美しいデザインのこの服を彼女は気に入っていたため、売らずにとっておいたのだ。
「懐かしいですね。久しぶりに着てみようかしら」
ちょっとした悪戯心もあって、ミントはホーリィクロークを着てみることにした。
せっかくなので、アンクベレットとホワイトグローブ、プリンセスケープにイヤリングまで装備し、ホーリィスタッフを手にしたフル装備仕様で、彼女は鏡の前に立った。
「うん、平気。スタイルは変わってないみたいね……ちょっと胸がキツいけど」
あまり肌が露出しない服装を好んで着ることもあって、比較的着痩せして見える彼女だが、じつは一緒に風呂に入った旅の仲間の女性陣ふたりが本気でうらやましがるほど見事なプロポーションの持ち主だ。
まぁ、そのうちひとりはまだローティーンなので、将来は彼女以上のナイスバディになる可能性も残されている。もうひとりは……推して知るべし、といったところか。
もっとも、法術師としての正装をしてたたずむ彼女は、確かに非常に美しかったが、その美は色気というよりはむしろ神聖な雰囲気を感じさせる。
また、実際その外見に違わず、彼女は極めて清楚で奥ゆかしい性格の持ち主でもあった。何せ旅の途上では、気難しい一角獣に騎乗することさえ許されたのだから……。
とは言え、現在は彼女も人妻、と言うより新妻。夫が狩りから帰ってきたときに、この格好で出迎えて驚かそうと思うくらいの、可愛らしい茶目っけは持っていた。
夫の驚く顔を思い浮かべてニコニコ―あくまでニヤニヤではないのが、この女性の気立ての良さを物語っている―していたミントだが、
それ故、背にした姿見の鏡が銀色に発光していることに、一瞬気づくのが遅れる。
「こ、この光は……!?」
おっとりした外見に似合わぬ俊敏な身ごなしで、光から逃れようとした彼女だが、一瞬の差でかわしきれず、光に包まれる。
「ミント、ただいま……何っ!?」
折悪しく……それとも間一髪で、と言うべきか、帰宅した夫のクレスが、部屋のドアを開けたところで、ミントは謎の光に包まれたまま鏡の中に吸い込まれていった。
「み、ミントーーーーーーーッ!!」
そのあとの事態は、賢明な読者の皆さんのご想像のとおりであろう。
ルイズの”使い魔”としてハルケギニアに召喚されて戸惑うミント。
もっとも、コントラクトサーヴァントに関しては、彼女が高度な術の使い手であることを見抜いたコルベール自身の進言によって一時棚上げされ、彼女の立場は”ルイズの使い魔候補”であり、同時に”学園の客分”とされる。
ミントもここが異世界であろうことを納得しつつ、故郷から夫たちの救いの手が届くであろうことを信じ、しばしその身分に甘んじることとなった。
さて、やむを得ない事情とはいえ、使い魔召喚を一時棚上げされた形となったルイズ。
ルイズの気性を知る者たちはさぞかし荒れるだろうと思っていたのだが……あにはからんや、意外なほど上機嫌でミントとの同居生活を楽しんでいた。
ひとつには、ミントほどの高位の術士―ミント自身はこの世界の魔法は使えないものの、回復や援護に特化した”法術”と呼ばれる術の使い手であり、
仲間にアーチェとい優れた魔術の行使者がいたことから、魔術に関する知識もそれなりにあった―を呼び出せたという点から、自分が決して能無しではなかったのだ、という自信。
そしてもうひとつは、召喚したミント自身の存在。彼女は、ルイズの次姉、”ちぃねぇさま”ことカトレアを彷彿とさせる、母性と慈愛にあふれた性格の女性であり、
不慮の事態に巻き込んでしまったルイズを責めることなく、それこそやさしい姉のようなスタンスで、ルイズと接してくれた。
最初こそそんな態度に軽い反発心を覚えたものの、学友達にバカにされ、孤立し、ささくれだっていたルイズの心が、自分のことを本心から案じてくれる姉的存在によって癒されていくのも無理のない話だった。
そうやって偏見を取り除いてミントを見れば、清楚な美人で羨ましいほどスタイルもよく、淑やかで上品な振る舞いをごく自然にできる極上の淑女であることが理解できた。
加えて、ミントは故郷の地の都で”歌姫”と呼ばれるほどの美声と歌唱力の持ち主であり、グルメマスターの資格を持つ料理上手。派手ではないが、インテリアや服装のセンスも悪くない。平民であることを除けば、ルイズにとって理想とも言ってよいレディだった。
しかも――彼女は強かった。
本来後衛であり、決して前線に立つのが得意とは言えないミントだが、高位の法術師にのみ与えられる”カーディナル(枢機卿)”の称号を得て久しく、最高位である”ポープ”の称号すら目前にしているレベルの術者なのだ。
野生のクマくらいなら術を使うまでもなく、手にした杖で叩いて瞬殺することくらい平気でやって見せる歴戦の猛者だ。
皆さんご承知のギーシュとの決闘イベントも発生したが、ピコハン→アシッドレイン→杖による連撃のコンボで1体目のワルキューレを瞬殺。
それを見て女性に対する遠慮と侮りを捨てたギーシュだったが、残るワルキューレも、ピコピコハンマー→シャープネス→杖でフルボッコとやはり壊滅。慌てたところにサイレンスで魔法を封じられ、あえなく敗北となった。
(余談ながら、言葉を封じられていたため「降参」のひと言が言えず、ミントに笑顔で殴り倒されたことを付け加えておく。ただし、ボロボロになったのち、やはりミントのキュアの呪文で瞬時に癒され、彼女の熱心な信奉者となった)
戦闘はそれほど得意ではないと言っていたミントのその実力を見て、ますます彼女に傾倒し、依存していくルイズ。
恐る恐る法術を教えてほしいと願い出て、それを許されてからはミントを師と仰ぐようにもなった。ご承知のとおり”虚無”の特質を秘めたルイズだが、
通常の魔法を阻害するその特質も法術との相性はよかったのか、それとも優れた教師のおかげか、熱心な学習意欲の賜物か、あるいはそれらすべての要因からか、わずか一週間で”ファーストエイド”の術をマスターしていた。
この世界でも水のメイジなら同様の事が可能であろう初歩的な癒しの法術とはいえ、これまで”ゼロ”と―時には身内からすら―罵られ続けてきたルイズにとって、それは奇跡とも呼べる偉業だった。
「ミント先生、わたし、一生ついていきます!」
感激したルイズがミントに抱きついたのも無理のない話だろう。
いまやルイズにとって、ミントは大恩人にして人生の師と言ってもよかった。
実は学園内においても、ミントは非常に人気が高い。
平民でありながら、ドットとは言え相応の実力者のギーシュを、瞬時にして下す先住魔法の使い手(法術については、一般にそう理解されていた)。
それでいて気さくで礼儀正しく、思慮深い性格の美人。ごく一部の嫉妬深い同性を除き、大半の学園の人間―貴族、平民を問わず―に認められるようになるまで、さして時間はかからなかった。
もちろん、彼女のもっとも熱心なファン(と言うより愛弟子)の第1号はルイズだったが、意外なことに2号は学園付きのメイド、シエスタだった。
ルイズのために特製料理を作ってあげようとしたミントが、厨房への案内を頼んだのが縁で親しくなり、こちらはミントに様々な料理を教わるようになったのだ。
おにぎりや茶碗蒸し、にくじゃがといった、祖父に名前だけは聞いていた料理を、苦もなく作り上げる(しかも、その出来栄えも極上だった!)ミントの料理の腕前に感嘆し、シエスタもまたミントを師匠と仰ぐようになっていた。
そのことによって、ルイズとシエスタの接点も増え、紆余曲折はあったものの、いつしかふたりは身分を越えた友人とも呼べる関係になっていった。
ミント自身も、ふたりの妹分の出現には喜んでいた。
元来ひとりっ子であったし、元の世界で旅していたころの仲間の女性ふたりも、確かに年下ではあったが、むしろ対等な戦友であり、あまり妹という感じではなかったから。
元の世界へ帰れるのかという懸念を除けば、学園での生活もけっして悪くはない。
しかし、ルイズがさらにふたつの術を覚え、シエスタがミントにレシピ皆伝と認められたころ、かの事件――アンリエッタ王女の来訪と、それに連なる秘密のアルビオン行が発生する。
詳しい経緯ははしょるが、おおよそ原作と同じ展開――ギーシュとワルドの同行、盗賊襲撃とキュルケとタバサの加勢、宿屋での戦い、王子との邂逅など――が起こったが、ここでひとつワルドは思惑を外される。
ルイズが彼の求婚をキッパリ断わったのだ。
一人前の法術師となるべく現在修業中のルイズとしては、いま結婚して家庭に入るつもりはサラサラなかったし、ミントの薫陶を受けて一人前のレディとして成長しつつある彼女にとって、ワルドがどこか薄っぺらで胡散臭く見えたことも一因だった。
仕方なく、ウェールズ王子もろともルイズを抹殺としようと企むワルド。
当然、彼女たちを守るべく、立ちはだかるミント。
高位の術者同士の息詰まる戦いが繰り広げられる。
レベル的にはミントのほうが高いのだが、遍在を使って攻め手を増やせるワルドの方が優位に立っていた。
トライアングルのウェールズの加勢や、ルイズの覚えたてのチャージ(魔力補給)によるふたりへの援護(彼女の魔力量だけは、成長したミントにさえ比肩していた)があっても、決定力に欠けるミントたちは、徐々に劣勢に追いやられていた。
ついにテラスにまで追い詰められる3人。
ところが……。
「大丈夫かい、ミント!!」
時空を切り裂く剣の力を借りて、時空剣士ことクレスが、天馬に乗って登場。
愛の力で愛妻の居場所をつきとめた(本当はいったん過去に戻ってクラースに相談した)、魔王さえ滅ぼせる正真正銘の勇者の出現で、戦局は一気にひっくり返る。
片手を切られ、ほうほうの体でワルドが逃走したのは原作どおりだが、ミント&クレスの説得によって、ウェールズ王子はトリステインへの亡命を承諾する。
そして……。
「グスッ、せんせぇ~、どうしてもお別れなんですか?」
「ごめんなさい、ルイズ。でも、私達は本来、この世界にいるべき存在じゃないから……私にも故郷と言える場所があるから……」
と、ふたりの師弟が涙ながらに別れを惜しんでいるところに、剣士から爆弾発言が。
「うーん、でもミント。別に今生の別れってわけでもないと思うよ。この時空の”場所”は覚えたから、その気になれば来れるし……」
さすが、別世界の闘技場やら学校やらに出現していた、世界観ブッちぎりの時空剣士様。俺たちにできないことを平然とやってのける!…別にシビレたり憧れたりはしないけど。
師の夫の発言を聞いて俯き、しばし考え込むルイズ。
顔を上げると、そのままふたりについて行きたいと告げる。
「ハルケギニアへ帰って来れる方法があるのなら、先生の元でしばらく修行に励みたいと思うんです」
その言葉に驚くミントだが、ルイズの決意は堅く、また自分も彼女をもう少し育てて上げたいという想いがあったため、ついには1年間の期限をつけて同行を承知した。
さて、そこから先のことも簡単に述べておこう。
ルイズは恐れ多くもウェールズ王子に、アンリエッタ王女と学園への手紙を託し、このハルケギニアの地からいったん姿を消す。
そして……1年後に再びこの地に戻って来たときには、見違えるように成長していた。
師匠直伝の様々な法術を操り、師の友人から譲られた宝石の助けを借りてカメレオンと召喚契約を結び、別の師の友人から狩人としての基礎を仕込まれたことにより、いまやトライアングルクラスのメイジとも互角以上に戦えるであろう。
しかも、かつての癇の強い性格はすっかり影を潜め、あのミントや次姉のカトレアを思わせるおっとりとやさしい雰囲気を漂わせた大人っぽい淑女へと変貌していた。
おそらくは、貴族たれというプレッシャーのない異郷で、やさしい憧れの師匠と、素朴で男らしい彼女の夫によって、まるで妹のように愛されて健やかに育ったことがよかったのだろう。
同時に彼女たちの持つ技術を懸命に学ぼうと努めた結果、ルイズ本来が持つやさしさや魅力、才能が開花し、同時にそれが彼女の心にいい意味での余裕をもたらしたのかもしれない。
さらに、ある意味こちらのほうが特筆物かもしれないが……食べ物その他の環境のおかげか、わずか一年あまりでルイズの胸がいくらか育っていた。
さすがに師匠のように”ボインちやん”と呼ばれるほどではないが、大草原の小さな胸とバカにされ、ブラ要らずと陰口をたたかれたあのA-のペタンコ胸は、もはや存在しない!
全国の貧乳ファンよ、泣いて悔しがれ。ブラのサイズにして、およそB! ちょっと控えめではあるが十分女らしい曲線が誇らしげにルイズの着ている法衣の胸元を持ち上げているのだ。
(胸のことだけでも、アセリアに渡ってよかった……)
ルイズはしみじみそう思ったとか。
その後、実家の援助を受けつつルイズはおもに法術を教える私塾を開く。
私塾の門戸は貴族のみならず平民にも開かれ、彼女自身の人柄と実力もあって、数多の弟子を輩出し、大いに栄えた。
のちにルイズは、”偉大なる癒し手”と呼ばれ、ハルケギニアの歴史に名前を刻むこととなるのだった。
-とりあえずfin-
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