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#navi(ウルトラ5番目の使い魔)
前半部からの続き。
タルブ村はトリスタニアから早馬で2日、馬車でなら3日ほどかかる距離にあり、一行は途中の宿場町で
3泊しながらのんびりと旅を続け、3日目の昼ごろにこれを越えたらタルブ村が見えてくる森の中までやってきた。
「もうすぐです。久しぶりだなあ、みんな元気にしてるかなあ」
「楽しそうだね、まあ故郷に帰るんだから当然か」
見るからにはずんだ表情のシエスタを見て、才人もうれしそうに言った。彼女はこれから向かう村の出身で、
出稼ぎのために魔法学院にメイドとして奉公している。今回は久しぶりの里帰りなのだった。
「いいところですよ。小さな村ですけど、みんないい人ですし、いろいろ名物がありますから」
「名物か、楽しみだな。そこで一泊して、明日の昼ごろにすぐ近くのラ・ロシュールって港町から船に乗る
んだったな、けど、せっかくの里帰り、そのままついてきてもらってよかったのか?」
「大丈夫です。お休みは長いですから、帰ってきてからゆっくりお休みをもらいます。それに、せっかくの
旅行に仲間はずれはいやですから」
「そうか、ま、シエスタがいないと寂しいしな。名物か、楽しみにさせてもらうよ」
馬車に揺られながら、才人は名物料理かなにかがあるのかなと、気楽に考えて森の風景に目をやった。
だが、いざ森を抜けてタルブ村の入り口に差し掛かったとき、村から炊事のものとは明らかに違う白煙が
あがっているのを見て、一行はどうもただ事ではないことを悟った。
「なんだ? 火事か!?」
「ともかく急ぐわよ、はっ!!」
ロングビルが馬に鞭をいれ、馬車は速度を増して村の中へと急ぐ。
そして、村の中央広場が見えたとき、一行はそこで人間ではない犬のような頭をした怪物の群れが
村人を襲っているのを発見した。
「コボルド!?」
それは、ハルケギニアに生息するいくつかの亜人の一種で、身長は1.5メイルほどとトロール鬼ほどの
大きさはないが、猿程度の知能を持ち、俊敏さと棍棒を武器にしての集団戦法を得意とする。オーク鬼や
ミノタウロスなどに比べれば、亜人の中では危険度は低いほうに入るが、翼人のように人間との共生が
望めるような平和思考はまったくなく、こいつの大群に襲われたせいで全滅させられた村もある。
要するに、この世界特有の害獣で、たまに人里に下りてきて人をさらったり略奪をおこなったりする。
ざっと見るところ、数はおよそ三十数匹。
「野郎!!」
嬉々として無抵抗な村人に襲い掛かるコボルドの群れを見て、才人は迷わず飛び出した。背中の
デルフリンガーを引き抜き、左手のガンダールヴのルーンを輝かせて疾風のように駆けていく。
「やるぞデルフ!!」
「おお!! やっと俺の出番か、待ってた、待ってたぜ!!」
歓喜に震えるデルフリンガーを振りかざし、渾身の力で一人の村人に棍棒を振り上げていたコボルドの
一匹に斬りかかり、犬の鳴き声とともに血飛沫が舞い上がる。
しかし、仲間を倒されたことを知った近くにいたコボルドたちは、犬特有の素早い動きで集まってきて
才人を取り囲んでくる。敵の武器は棍棒だけなのだが、意外と戦いなれているようで正面からでは
ガンダールヴで強化された才人でも簡単にはいかない。
「ちっ、しぶといな」
2、3匹を切り倒したものの、才人はさらに襲い掛かったくるコボルドの攻撃をかわし、仲間の危機を見て
取ってどんどん集まってくる他のコボルドにも意識を向けざるを得なくなった。30対1ではいくらなんでも分が悪い。
しかし、仲間の危機を見て取ったのはコボルドだけではなかった。
『フレイム・ボール!!』
『ウェンディ・アイシクル』
ようやく追いついてきたキュルケとタバサの援護攻撃が、才人に向かっていた5匹のコボルドを
焼き尽くし、串刺しにして撃破した。
けれども、コボルドたちのほうも長年の経験から、メイジがあまり強力な魔法を連射できないのは
知っており、今がチャンスと20匹ほどがいっせいに二人に襲い掛かっていく、才人は所詮人間の
剣士だからと5匹ほどが足止めに残されて、二人の援護には向かえない。だが、キュルケとタバサも勝算なく
正面から出てきたわけではない。そのとき、二人よりやや遅れて追いついてきたルイズがいつもの魔法を唱えた!!
『連金!!』
突然コボルドどもとキュルケたちの間の地面が爆発を起こして、巻き上げられた土煙と爆風が煙幕のように
周囲を闇に閉ざす。こうなっては、人間以上の俊敏さを持つコボルドも動きを止めざるを得ず、犬並みの
視覚と嗅覚も役に立たない。
そして、爆風が晴れたとき、コボルドたちは標的としていた3人のメイジがいなくなっているのに
気づいて、首を回して周囲を探し回ったが、その相手を自分たちの頭上に見つけた時にはすでに彼らの
黄泉路への門は開いていた。
「さようなら」
「タバサ、思いっきりやっちゃって!!」
「『ウェンディ・アイシクル』」
コボルドどもの頭の上からシルフィードに乗ったタバサの氷の魔法が、無数の氷の矢を雨と降らせ、
20匹のコボルドの群れは一瞬にして昆虫標本同然の姿となった。
「よっしゃあ、さすがタバサ! それにルイズ、ナイスアシスト!!」
「はっ、感謝しなさいよ。このあたしがあんたなんかに力を貸してやったんだからね!」
「……素直じゃない。でも、グ」
生き残っているものがいないのを確認して地上に下り、3人は作戦大成功と笑った。
やったことは単純だ。ルイズの爆発で煙幕を張った間にキュルケが二人を抱えて『フライ』でコボルドどもの
真上に飛んで上空で待機していたシルフィードと合流し、奴らがこっちを見失っているうちにタバサの詠唱を
完成させただけである。だが、それぞれの役割分担をする者が仲間のことを信頼していなければ、この連携は
成り立たない。その点、腐れ縁とはいえ付き合いの長い彼女たちは自然と自分が何をすべきなのかを心得ていた。
ただ、ルイズはこの戦いの中で、自分が武器として自然と『失敗魔法』を使っていたことに、あとから気づいて
少々複雑な思いを抱いていた。それは、自分が忌み嫌っているものが、すでに自分の一部となっていることを
知らされることとなったが、同時にならばあのとき飛び出さずにサイトたちを後ろから見ていたら、と思うとそれを
憎みきれないこともあった。
悪事に使うなら、力なんか無いほうがいい。だったら、いいことに使うのならこんな力でも意味があるのか?
サイトと話したことを、自分の中で自問自答しながら、ルイズは考えていた。
一方、才人の足止めに残った5匹のほうも、数が半減してはツルク星人、テロリスト星人などの戦いを
潜り抜けてきた才人の敵ではなかった。
「まったく、俺をなめるな!!」
圧倒的な瞬発力でコボルドたちの包囲陣を抜け出した才人は、囲まれないようにしながら一頭ずつ確実に
仕留めていった。そして数の優位を失えば、人間以上の力の持ち主のコボルドとてこの面子には歯が立たない。
残ったわずかなコボルドはやけくそで棍棒を振り回すが、キュルケとタバサによってあっという間に全滅させられた。
「サンキュー、ナイスみんな」
「んっとに、いつも人の無茶を止めるくせに、自分は真っ先に飛び出て行くんだから」
「まったく、急に飛び出していくから追いかけるのに苦労したじゃない。けど、かっこよかったわよ」
「……いい作戦だった」
「うーむ、俺っちも久しぶりに使ってもらえてうれしかったぜ。あーすっきりした」
叩き潰したコボルドどもの死骸を見下ろしながら、4人と一本は勝利を喜び合った。
だが、そのとき後を追ってきていた馬車からロングビルの声が響いた。
「皆さん!! まだ一匹残ってる、逃げるわよ!!」
「なに!?」
見ると、村の反対側から隠れていたのか一匹のやや大柄などす黒いローブをつけた獣人が森のほうへと
逃げていく。身なりから見て恐らくあれがボス格、コボルドの中でも高い知能を有するというコボルド・シャーマンだろう。
だがそんなことより、逃げていく奴の両手には子供が二人抱えられているではないか!!
「誰かーっ!! 助けてーっ!!」
「お姉ちゃーん!!」
その二人の顔を見て、シエスタの表情が凍りついた。
「スイ、ヒナ!!」
なんと、その子供達はシエスタの妹たちだった。このまま森に逃げ込まれてしまっては、もはやメイジでも
追いつくことはできない。そうしたら、あの二人は人間の肝を神への供物に好むというコボルドの餌食にされてしまう。
「誰か! あの二人を助けて!!」
シエスタの絶叫が響く。キュルケとタバサは飛び出し、威力を抑えてコントロールを重視した『ファイヤーボール』と
『エア・ハンマー』を撃つが、あのコボルド・シャーマンは恐ろしく足が早いうえに俊敏で、攻撃をことごとく
かわして森へと走る。二人は焦ったが、追いつこうにももうフライでも間に合わないし、広域破壊の魔法では
子供達まで確実に殺してしまう。
しかし、そのとき才人はデルフリンガーを背中の鞘にしまい。懐からにぶい輝きを持つ一丁の銃を取り出した。
距離はおよそ200メイル、フリントロック式のハルケギニアの銃では到底とどく距離ではない。だが、それは
この世界の貧弱な骨董品とは訳が違う。才人は両手でしっかりと狙いを定めて、迷わずその引き金を引いた。
刹那、青い一筋の閃光が走り、コボルドの頭部が一撃で撃ちぬかれ、その体が森を間近にして前のめりに
崩れ落ちた。才人の持つ切り札、異世界の光線銃、ガッツブラスターの一撃が決まったのだ。
「よっしゃ!」
見事に射撃がヒットしたのを確認した才人は、ガッツブラスターを指でクルクルと回して懐のホルスターに
戻した。この光景をエースが見ていたら、以前TACで二丁拳銃の名手と呼ばれていた仲間のことを思い出していた
だろう。ガンダールヴで強化されるのは射撃もで、その恩恵を才人は存分に活用していた。
「おーい、大丈夫か!」
「うん、ありがとー!」
叫ぶと、コボルド・シャーマンに捕まっていたシエスタの妹たちが元気そうに駆けてくる、どうやら無事なようだ。
やがて、村から追い立てられかけていた村人たちも、コボルドどもが突然やってきた見慣れない戦士たちに
全滅させられたと知るや、続々と広場のほうへと戻ってきた。
「お父さん、お母さん、無事でよかった!!」
「シエスタ、シエスタじゃないか!」
最初は警戒していた村人たちだったが、シエスタが真っ先に出てきて彼女の両親と抱き合うと、それで警戒心を
解いて一行を歓迎してくれた。
なんでも、いつもどおりに生活していたら突然コボルドの群れが現れて襲ってきたのだという。幸い気づくのが
早く、ほとんどの村人は退避できたが、家の中で遊んでいた幼いシエスタの姉妹は逃げ遅れてしまっていたが、
本当に偶然に最高のタイミングでやってきた一行のおかげで、誰一人犠牲者を出さずに解決することができた。
だがそれにしても、このタルブ村は交通の要衝であるラ・ロシュールにも近く、凶暴な亜人も警戒して滅多に
近づかないというのに、やはりヤプールのマイナスエネルギーが自然に影響を与え、ハルケギニアの生態系が
狂わされ始めているのだろうか。
そう思いかけたとき、村人が才人が倒したコボルド・シャーマンの死骸を広場のほうへ引きずってきた。
あのまま放っておけば血の臭いをかぎつけて別の猛獣が来るかもしれない。見れば、さっきは後姿しか
見れなかったが、そいつは鳥の羽や獣の骨でできた仮面をつけ、まるでインディアンの酋長のような姿を
していた。コボルド・シャーマンはその名の通りにコボルドの神官で、彼らの神と交信して群れを統率する
役割を持つ。
だが、よくよく観察してみれば、そのコボルド・シャーマンは他のコボルドと細部が違っていた。まず、
体格が通常のコボルドなら普通の人間より少し小さい程度だが、そいつは身長2メイル近くある巨体だった。
また、頭部を貫通したガッツブラスターで仮面も割れていたが、そこから見える顔つきも犬の丸みはなく、
その鋭さはまるで狼だ。なお、通常のコボルドとコボルド・シャーマンに知能以外の差異は特にない。
この不自然さを、タバサなどは突然変異種か歳を経た個体かと判断したようだったが、才人はそいつの牙の
一本が金属製の差し歯で、エースの透視能力を借りてそれが宇宙金属であると知り、このコボルドが
ハルケギニアの種族ではないと悟った。
「ウルフ星人、か」
これはその名のとおりに狼男そのものな星人で、人間の血、特に若い女性の血が大好物というまたやっかいな
趣向を持つ星人だ。ただし頭はそれなりにいいが戦闘力はそれほどでもなく、MACガンでダメージを負うくらいで、
狼男に銀の銃弾というわけではないが、ガッツブラスターを急所に食らっては耐えられなかったのだろう。
「おおかた、コボルドを利用して餌を集めようと考えたんだろうな。ヤプールとしては、それで人間社会が
混乱すればもうけもの、やれることは見境なくやってるようだが、宇宙人ひとりを連れてくるだけで効果が
あるんだから楽なもんか」
ウルフ星人は憑依能力があるから、コボルド・シャーマンに乗り移って群れを掌握したんだろう。元々の
姿もよく似ていることだし、知能の低い普通のコボルドは自分たちのボスがすりかわっていても気づかずに
利用されたあげくに、全滅させられたというわけか、まったくいやらしいことを考えてくれる。巨大化されては
面倒だったが、これでもうタルブ村が襲われることはなくなるはずだ。それにしても、この調子ではどれだけの
宇宙人がすでにハルケギニアに入り込んでいるのか……かつてはザラブ、ガッツ、ナックル、テンペラー星人を
も操ったヤプールのことだ、何を配下に治めていても不思議はない。それでなくても、地球はGUYSやひいては
ウルトラ兄弟がガッチリ守っているのだから、ヤプールの甘言に釣られてより侵略しやすいハルケギニアに
来ようとする宇宙人はそれこそいくらでもいるだろう。しかも、ヤプールにとっては使い捨ての駒だが、
こちらからしてみれば一体一体が油断ならない敵となる。つくづく、この戦いは不利だと言わざるを得ない。
とはいえ、一躍村を救った英雄となった一行を、タルブの人々は温かく迎え入れてくれた。特に、娘二人を
救ってくれたシエスタの両親の喜びようは尋常ではなく、才人を抱き寄せてキスまでしようとしてきたので
さすがに才人も遠慮した。また、シエスタが大勢の貴族といっしょに来たことで、最初は恐怖の色を見せた
村人たちも、キュルケの気さくさやロングビルの礼儀正しさに次第に安心してくれた。もっとも、助けてくれた
お礼でシエスタの妹二人に懐かれてじゃれつかれた才人は「へー、あんたってそんな小さい子が好きだったんだ」
と、ルイズに白い目で見られて困惑していたが、決して才人に幼女趣味があったわけではない。
その後は、村人たちに歓迎されて村のワイン倉で、昨年の極上品をいただけたり、アイやシエスタの姉妹たち
と山の傾斜を利用して作った自然の遊園地で遊び、日が傾きかける頃にようやく今夜やっかいになるシエスタの
実家にやってきた。
シエスタの家は、2階建ての平民のものにしてはそれなりに大きな家といってよかった。材木は古めかしいが
美しい輝きを持ち、土塀もきれいに塗られていてひび割れや欠損は見られない。
そんな家の、20人ほどが一度に食事のできる広間に通されたとき、一行の鼻孔をかぐわしいシチューの
匂いが迎え入れた。ルイズたちは腹を空かせて次々に椅子に座っていく、しかし、ただ一人、才人だけは
広間に足を踏み入れたときから、凍り付いてしまったかのように動かない。
「あの、サイトさん、何かお気に召しませんでしたか? この料理、ヨシェナヴェっていってタルブの名物なんですけど」
心配したシエスタが声をかけたとき、彼女は才人の視線が彼の正面の壁にかけられている一枚の絵に釘付けに
なっているのに気がついた。それは彼女の曽祖父が書いた、誰にもその意味が知られることなく、ただ形見として
だけ残されていた不可思議なシンボルが描かれた気にとめたこともほとんどない一枚だったのだが。
「シエスタ、その絵は……」
「え、うちのひいおじいちゃんが書いた絵なんですけど、誰も意味がわからなくって……もしかして、サイトさん
この絵の意味を知ってるんですか!?」
「ああ……」
知っているどころの話ではない。大きく描かれた白い羽根のシンボルに、大きく赤い四文字のアルファベットで
刻まれたそのチームの紋章を、彼は毎日のように見て育ってきたのだ。
「シエスタ! 君のそのひいおじいちゃんが残したものは他に何かないのか? 日記でも、持っていたものでもいい!!」
突然人が変ったようにシエスタに詰め寄る才人の態度に、彼女だけでなくルイズたちや彼女の父親も何事かと
彼を引き剥がそうとかかるが、才人は興奮したままで聞く耳を持たない。誰にもわからないだろうが、今才人は
ハルケギニアに来て最大の衝撃を受けていた。
けれど、暴れる才人の姿を見て、シエスタの母親は何かを悟ったかのように彼女にこう言った。
「シエスタ、竜の羽衣のところまで、彼を案内してあげなさい」
続く
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