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『いい知らせだぜ相棒』
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仮面の男の魔法を受け、崩れ落ちたダネットに向かって、必死に呼びかける声が一つ。
「しっかりしろ嬢ちゃん!」
「…………かはっ! あぐぅ……」
ダネットは、雷を背に受けながらも生きていた。
だが、強烈な電気と熱による痺れと傷で、立ち上がることも出来ずにいた。
「おいワルドとかいう貴族の兄ちゃん! 嬢ちゃんまだ生きてるぞ! 助けてやってくれ!」
ダネットが生きていることにほっとしながらも、脅威はまだ去っていないとばかりに叫ぶデルフリンガーの声が響く中、ダネットを冷ややかに見つめる瞳が二つ。否、四つ。
デルフリンガーの言葉に、ワルドの眉がぴくりと動き、気絶させたルイズを傍らに寝かせた後、ゆっくりとダネットへと歩み寄ってくる。
「なにチンタラやってんだ! 早くしねえとあの仮面付けたメイジが!!」
しかし、ワルドの歩調は変わらない。そして、ダネットの背に雷の魔法を浴びせた仮面の男は動かない。
「おい……おめ、何するつもりだ?」
ワルドの様子に違和感を感じたデルフリンガーが、いぶかしむ様に尋ねる。
「何をするというと……例えばこんな事かな?」
「お、おい! おめ何を!?」
夜明け前の船着場の下で、一際大きな破裂音が響いた。
「お別れだ、ガンダールヴ」
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『そろそろ時間切れだ』
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頭がぼんやりする。
景色は見えるけれど、どこか現実感が無い。
「起きたかいルイズ?」
誰かがわたしに話しかけてる。
「実は……彼女は……」
誰かがわたしに話しかけて、返事もしていないのに勝手に話を続ける。
「そうか……強いなきみは」
そうだ。わたしは強くなった。
前みたいにゼロだと思い悩んだり、苛立ったりする事が少なくなった。
「じゃあ僕は行くよ。もう少しだけ手伝ってこないといけないんだ」
前みたいに一人で泣かなくなった。心細くなくなった。
貴族足れと入れていた力が抜けた。学院で笑っている時間が増えた。
何故? 何故わたしは強くなれたの?
「さぁな。いいから寝てな」
……あんた誰?
「俺か? 俺は――」
私はどうしたのでしょう?
頭の中に霞がかかったような感じです。
目を開けると、何かが私の周りをドタバタと走り回っていました。
「……! …………!!」
誰ですか耳元で騒ぐのは? うるさくて寝てられやしません。
「……そいで! 早……!! …………!!」
ちょっと注意してやります。私は眠いんです。
「…………ひゅー……」
あれ? 声が出ません。おかしいですね?
「喋ら……で!! あぁも……! 急……!!」
眠いです、うるさいです、声が出ないです。
「駄……よ! 目……開け……!!」
知ったこっちゃないです。もう寝ます。だから騒がないで下さい。
「ダネ……! ……ネット!! しっか……!! 目を開……!!」
ああもう、騒がしいです。
ほっといて下さい。私が寝たら誰かに迷惑でもかかるんですか?
起きたら聞いてやりますから、今だけは寝させて下さ――
「あんたが死んだら誰がルイズを守んのよダネット!!」
ルイズ……? 守る……?
そうでした。私はルイズを守らなきゃいけないんです。
こんなとこで寝てる暇なんて無いんです。何故ならルイズは……。
「る……い…………ず」
「そうよダネット! あんたが守るの! だから……だから目を開けなさい!!」
朦朧とした意識の中、ぼやけた景色がわたしの目の中に飛び込む。
どこよこれ? パーティー会場?
誰かがわたしに話しかけている。誰だろうこの人?
「気分でも悪いのかな?」
「いえ。お気になさらずに」
わたしに話しかけた誰かの質問に誰かが答える。
はて? どこかで聞いたことがある声だけど誰の声だっけ?
誰かと誰かの話は続き、目の前の誰かががこう言った。
「ただ、こう伝えてくれたまえ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。それで十分だ」
ウェールズ? 誰だったかしら。どこかで聞いたことが……駄目だ、思いだせない。
話が終わったのか、ウェールズという人が離れていった後、彼と話をしていた誰かがボソリと呟いた。
「ゴミむしの考えってのはアホらしいぜ全く。相棒もそう思うだろ?」
思い出した。この声は……わたしの――
ようやく容態の落ち着いたダネットを見て、あたしは自慢の赤い髪をかき上げほっとした。
そんなあたしを気遣うように、タバサが声をかけてくる。
「お疲れ様キュルケ」
無表情だが、流石のタバサの表情にも疲労の色が見える。
傭兵と土くれのフーケを撃退しただけでなく、あんなことまであったのだから疲れもするだろう。
「ほんと疲れたわ。治療費やら何やら含めて、後でルイズに請求しなきゃね」
最初、ダネットを見つけたときは流石に血の気が引いたのを思い出す。
全身に火傷を負い、虫の息だった。
もしあたし達が見つけるのが少しでも遅れたら確実に死んでいただろう。
急いでダネットを連れて戻り、街中の水のメイジを呼び集め、必死に治療を行った結果、どうにかダネットは息を吹き返した。
そう、『どうにか』なのだ。恐らくは彼女はもう戦えないだろう。生きているのが奇跡のようなものなのだ。
だからこの先の戦いには連れて行けない。
「じゃあ行きましょうか」
「頼む。早くしねえと娘っ子の命があぶねえ」
桟橋で何があったのか教えてくれたデルフに声をかけ、タバサと顔を合わせ頷くと、横で変なポーズを取っていたギーシュがこける様な仕草をした後に慌てて横やりを入れる。
「ぼ、僕を忘れないでくれたまえ! 全く、誰がそのインテリジェンスソードを見つけたと思っているんだ」
確かにお手柄といえばお手柄だ。
ただし、お手柄なのはギーシュではなく
「ヴェルダンデでしょ? ほんっといい子よねー。隠されてたデルフを見つけてくれたもの。後でお礼をあげるからよろしくいっててね」
「ちょっと待ちたまえ! 確かに見つけたのはヴェルダンデだが、僕の使い魔だぞ!?」
慌てるギーシュを見てくすりと笑ったあたしは、ギーシュの額をツンと突いて微笑んだ後、表情を正してタバサとギーシュに向かって言った。
「冗談よ。じゃあいきましょ。時間は無いわ」
こくんと頷くタバサと、勢いよく頷くギーシュ。
目指すは、浮遊大陸アルビ――
「待ってください」
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私は見覚えのある湖の上の小船に乗っていました。
「ここは……」
確かこの船の上には、彼女がいるはずです。
しかし、船の上にいるのは私だけ。
「はて? 散歩にでも行ったんでしょうか?」
でも、散歩と言っても周りは水ですし、泳いで岸にでも向かったのでしょうか?
そう考えた私が岸辺を見ると、見覚えのある桃色の髪が見えました。
「そんなとこにいたんですか。おーい! お前ー!」
しかしルイズは振り向きません。もしかして聞こえていないんでしょうか?
「お! ま! えー!!」
かなり大きな声で呼びましたが、相変わらず反応がありません。
むぅ、無視でしょうか。もしそうなら、後で首根っこを……
「こんなとこにいたのかい。僕のかわいいルイズ」
どこからか、聞き覚えのある嫌な声がしました。
確かこの声はあいつです。
術を受けて倒れる私を見て、私以外の誰からも見えないように笑っていたあいつです。
「エロヒゲ! どこですか!? 姿を現しなさい!! 私が首根っこへし折ってやります!!」
ですがエロヒゲの姿は見えず、変わりに、岸辺にいたルイズがふらふらとした足取りでどこかへ行こうとしています。一大事です。
「お前! 行っちゃ駄目です! エロヒゲは悪い奴です!!」
ようやく私の声が聞こえたのか、ルイズはくるりとこちらに振り返りました。
「良かった……。さぁ、こっちへ――」
ルイズの髪はいつの間にか真っ赤に染まっていました。
いえ、髪だけじゃありません。服も、手も、足も、顔も真っ赤でした。
近くまでいかなくてもわかります。錆びた鉄のような臭いがここまで漂ってきます。
「お前……」
私が声を失っていると、血にぬれたルイズはニヤリと笑い、顔をそむけようとしました。
何となく、ここで見送っちゃいけない気がしました。
「駄目です! 行かせません!!」
船から飛び降りた私は、必死になって泳ぎました。
泳ぐなんて初めてでしたが、この時はそんなこと考えてもいませんでした。
だってルイズは……。
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「冗談よ。じゃあいきましょ。時間は無いわ」
目を開いた私の耳に、最初に飛び込んできたのは乳でかの声。
続いて、身体中に走る痛みと痺れ。
思わず声を上げて泣きそうになりましたが、ここはぐっと我慢です。
「待ってください」
自然に口が動いてそう言っていました。
私の声に驚いた乳でか達がこっちを見ました。
「あんた目が覚めたの!? 驚いた……どんな生命力して――」
「そんな……事は……どうでもいいです。……乳でか、ルイズを……助けに行くのなら……私を連れて行きなさい。」
乳でかの声を遮って言いました。
口を動かすたびに痛みが全身に走りますが、今はそんなもん無視です。
「はぁ!? あんた何言ってんの!? 自分がどんな状態かわかってんの!?」
「……わかっています。骨は……折れていません。息もして……います。だから……連れて行きなさい」
少しでも身体を動かすと痛みが走ります。身体に巻かれた包帯が擦れるたびに飛び上がりそうです。
でも生きています。だったら私がやる事は一つです。
「ふざけないで! 死ぬわよあんた!」
「ふざけてなんかいません。……連れて……行きなさい。もし乳でかが……断るなら……タバサに頼みます」
私の言葉を聞いた乳でかは、頭をガシガシと掻いた後、タバサを見ました。
「だってさ。あんたからも言ってやってよタバサ」
「連れて行く」
「はぁ!?」
てっきり断られると思っていましたが、タバサはあっさりと承諾してくれました。
ちょっとびっくりです。
「ちょっと本気タバサ!? 下手したら向こうに付く前に死んじゃうわよ!?」
「断ったら他の誰かに無理矢理頼みにいこうとする。だったら私たちが連れて行ったほうがいい」
またびっくりです。タバサは私の頭の中が読める術でも使ったんでしょうか?
そしてタバサは言葉を続けました
「それに、時間が無い」
乳でかは難しい顔をしていましたが、諦めたのかまた頭を乱暴に掻いた後、少し眉を上げながらいいました。
「全く。死んでも知らないわよ」
乳でかの言葉に私は力強く頷きました。
「おーい、僕は無視かーい? ……うう、ヴェルダンデ……お前だけだよ僕を慰めてくれるのは……」
目指すは、浮遊大陸アルビオン。
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