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「SeeD戦記・ハルケギニア if situation」(2009/05/12 (火) 23:12:03) の最新版変更点
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ワルドの振り下ろした杖の先、ウェールズの胸に刺さる軌道だったそれは、硬質の音を立てて不思議な光沢を放つ刃に阻まれた。
その刃の向こう側に刺すような視線を見つけ、ワルドは反射的に身を引く。直後、爆発の轟音と共に青い刃が振り抜かれた。
「……式の間、敵の足止めをするのではなかったかね?使い魔くん」
「何度も言わせるな。俺は使い魔じゃない。傭兵だ」
ガンブレードを振り抜いた体勢から、再び正眼に構え直すのは、スコール・レオンハート。
「ス、スコール!?」
「……素早い動き、助かったよ。ミスタ・レオンハート」
「皇太子、クライアント共々下がっていてください。子爵は俺が相手をします」
「ああ」
後ろへ軽く目配せして、未だ惚けたままのルイズを連れて後退するよう頼む。
『婚約者だとか好きだとか、散々女の子の心を弄んで!許せない!』
ざわざわとスコールの頭の中でジャンクションされた誰かが喋っている気がする。多分、この騒がしさはリノアだろう。
「どうやら待ちかまえていたようだが……いつから気づいていた」
「疑っていたのは、最初からだ」
じりじりとルイズへ近づこうとするワルドへ距離を詰め、牽制をかける。
「どの最初かな?」
「あんたがあの日の朝、馬小屋前に現れたときからだ」
「……参考までに教えて欲しいな。何故僕を?」
「まともな判断力を持つ者ならば、アンリエッタ姫の任務がどれだけバカなことかはすぐに気づく。
元より政略結婚なのは両者とも承知の上。手紙一つで揺らいだとしても、婚儀による同盟の大勢にまで影響は薄いだろうからな」
視界の端で、ウェールズが十分な距離を開けてルイズと共に待機したのを見て取る。
「にもかかわらず武官がそれをいさめもせずに唯々諾々と従っているのは、それに気づかないほど愚鈍な者か、あるいは政治に関心を持たずただ命令をこなせばよしとしている兵士か、さもなければそれを利用しようとする者のいずれかだ」
右足を一歩引きつつ、ライオンハートを振りかぶる。
「話してみれば、愚鈍な者でないというのはすぐに判った。それにあんたはただ命令に従うだけの兵士じゃない。以前の俺がそうだったから、よくわかる……。
そしてあんたは、俺の知り合いによく似ている。自身と傲慢さを兼ね備えた態度が、野心家だな」
「成る程……良い洞察力だ。
ユビキタス・デル・ウィンデ……」
ワルドの姿が、五つに分かれる。
「これが風の偏在だが……」
「驚いた様子はないな」
「それが、あんたを疑う決定打だ。ワルド子爵」
ちら、と皇太子を視界に入れる。
「二日前の夜、あそこで現れた仮面の男……能力を測るとどうも違和感がぬぐえなかった。あの日の朝、俺に手合わせを申しいれてきた男と……体力、素早さ、魔力、全く同一の能力だったからだ」
「あの、ライブラというコモン・マジックか……?」
コモン・マジックではなく、疑似魔法なのだが、いちいち訂正はしない。
「昨日の夜のうちに皇太子に確認はしていた。自分の分身を作り出すことは可能かどうかな」
「そして風の偏在を知り、確信を持って、足止めをしてくると称して隠れていたか……」
「あの表情……ルイズには知らせていなかったのかな?」
ワルドの一体が、ルイズへ視線を向ける。先程からのスコールとワルドの会話に、全くついて行けていないという風情だ。
「彼女はあんたの婚約者だ。あんたのことを疑えと言っても通じないだろうし、何よりもあの性格だ。
疑う要素として今言った事実を突きつけると、直接問いただしにかかりかねない。こちらがあんたを疑っていることを知ると、そっちがその場でクライアントを人質にとる可能性もある」
「成る程……的確な判断だと言えるね」
ゆったりと正面にいるワルドが頷く。
「その頭脳、剣技」
「それに、方法は判らないが僕の風の魔法を無効化してしまう不思議な技」
「どうだろう?使い魔……いや、傭兵くん。僕たちに、レコン・キスタの側に着かないかね?彼女よりも数段上の待遇、報酬を約束しようじゃないか」
大仰に腕を広げて受け入れる動作をしてみせる。
「なっ」
サッとルイズは血の気が引いた。スコールは、どこまでも傭兵としての態度を崩さなかった。ならば、雇い主を鞍替えすることも、有るのではないか?
「そんなの……!」
ダメよ、というよりも先に、スコールが即答していた。
「断る」
「……何故かな?見る限り、決してキミは良い境遇とは思えないが」
「四日前、一ヶ月間契約を更新したばかりだ。それを早々に破棄したのでは、傭兵としての信頼に関わる」
「スコール……」
ほっと安堵のため息を着くが、やはり傭兵としての態度を変えていない彼の言動に、一抹の寂しさも感じる。
「それに何より、あんたが信頼できない。ラ・ロシェール道中の森や、当のラ・ロシェールで使い捨てられた傭兵のようになるのはゴメンだ」
スコールの持つ切れ長の瞳が、ワルドを睨み付ける。
「ふ……それでは仕方ない!」
「ルイズやウェールズ諸共、始末してやる!」
「出来るかな、あんたに……!」
ライオンハートを振りかぶりながら、そう尋ねる。
「出来るとも!忘れたのかい?」
杖が一斉にスコールに向けられる。
「ラ・ロシェールで一度、キミは僕に痛手を負わされて居るんだよ、このライトニング・クラウドでね!」
「!避けて、スコール!」
五筋の閃光が走り、全てがスコールに直撃した。
「スコール!」
「ミスタ・レオンハート!」
「はははははははは!どうだ!これが……」
皆まで言うより先に、ワルドの偏在の内一つがライオンハートによって切り伏せられた。
『ざーんねんでした!ワルド子爵?』
「確かに、あの時には驚いた……ハルケギニアの魔法は四系統だけだと思っていたところに雷が来たんだからな。だが、何が来るか判っているのならば対処の使用はある。
もうあんたの魔法は通じないぞ、子爵」
「な、に……!?」
慌てて残りの4体がスコールと距離を置く。
その一人一人の位置を確認しながら、ライオンハートのマガジンを途中まで引き抜く。
「イフリート、弾薬精製」
ガンガンガンガンガンガンガンガン、と金属のぶつかり合う音がして、マガジン内に弾が供給される。
そしてマガジンを戻すとジャキッとスライドを引く。
「行くぞ」
再度ライオンハートを振りかぶり、ワルドの一人に斬りかかる。
「ぐ、ブレイド!」
反射的に杖で受け止めたのは流石と言っていい。
だが、アルテマをジャンクションしているスコール相手には文字通りの力不足であり、完全に押されている。
助太刀に入らんと他のワルドがブレイドをかけつつ接近してくるのを察知し、早期に押し切るべくスコールは続けざまにトリガーを引く。
ガァンガァンガァン
3度目の炸裂音と共に、杖は無事だったがワルドの腕の方が押し切られ、頭部から右脇腹に向けて切り口を晒し、空に露と消えた。
すぐさま、一番接近してきているワルドの一人に対応しようとスコールは身体を向き直し、間一髪ブレイドのかけられた杖が頬をかすめるだけで済んだ。
距離的に再度ライオンハートを振りかぶるのが難しいと判断し、スコールは即座に切っ先の角度を変える。
「ラフディバイド……!」
下段からライオンハートが切り上げられ、スコールのジャンプのスピードも加味されて股から左肩へ刀身が抜ける。
3メイルほど後方に着地するスコールの前で左右に分断されたワルドの身体は、倒れる前に消えていった。
そこへ閃光が趨り、スコールの身体を雷が打つ。更にもう一撃。
「何故だ……何故だ!」
「ラ・ロシェールでは確かに痛手を与えられていたはず!」
残り二人となったワルドが半ば恐慌状態で杖を向けていた。
スコールが頬に伝う血をぬぐうと、その下に有るべき傷口は既に塞がっていた。
『ふふふ、わざわざ傷を治してくれてありがとう』
にんまりとリノアは呟く。
「……ガーディアン・フォースと疑似魔法マニュアルを応用したジャンクションシステムは、使用者に最大4種類までの属性によるダメージを軽減、無効化、あるいは吸収する力を与える。
ラ・ロシェールで俺が警戒していたのは火、水、冷気、風の4種類だった。だから、あの時あんたの雷は防げなかった。
だが今回は、元よりあんた用に調整させてもらっている。雷と風は、今の俺には力になる」
「なんと」
スコールの説明にウェールズは息を飲む。
「それではメイジでは、彼を相手にするのは死ねと言うようなものだな……」
「雷と風……だと?」
訳がわからないという顔でワルドが呻く。
「疑似魔法においては、系統魔法より属性の区分が細かい。風と雷、水と冷気は関わりが深いが別の属性だ」
故に、属性の防御に置いてはウェールズの言うほどメイジにとって絶望的な状況とはなりえない。
仮に別々の系統を持つ4人のメイジが火、水、氷、土、風、雷の6属性でもって攻め上げれば、アルテマなど強力な魔法を同時に複数ジャンクションしていない限り属性防御では対処しきれなくなる。
しかしこの場に限って言えば、ワルドにはもはや勝ち目はない。
ジャンクションによる身体強化の影響は圧倒的であり、頼むべき数もスコールの素早い各個撃破によって“たかが倍”にまで減らされ、自身の得意とする系統の魔法は打つ手を持たない。
どうすべきか、とワルドが思案している最中にも、スコールは既に手を打っている。
(この状況で最も可能性が高いのは、偏在体の方を用いての囮と逃亡……隙を捜している今の内にG.F.を召喚……二人まとめて吹き飛ばす)
『うわー、スコールってばわざわざその子使うなんて悪趣味……』
よしんば二人まとめてブレイドで襲いかかってくるとしても、召喚まで凌げば問題はない。
そして召喚のため、スッとスコールが目を閉じたその時を好機と見てワルドの一人がスコールに向かい、もう一人が出口へ向かって走り出すが、時既に遅い。ぱぁっとスコールの足下から光がわき上がり、
「ケツァクウァトル、サンダーストーム」
「うおおおおおおおお!?」
中空に出現した緑色をした鳥?のような不思議な生き物がその口?から雷を放ち二人のワルドを電撃の檻の中で悶えさせる。雷を攻撃手段に選んだのはラ・ロシェールで痺れさせられた意趣返しだろうか。
程なく手前の、こちらに迫ってきていたワルドは消えて、スコールもケツァクウァトルを引っ込める。
残り一人となったワルドは見るからに酷い有様だった。高圧電流に晒された身体のあちこちは焼けこげており、水分が膨張したためか丸太のように醜く膨らんで、皮膚からしみ出てきたらしい血痕が服の上にいくつも見られる。
「……あ……う……あ……」
呻くワルドの手の中、それでも握り続けられている杖を踏み折る。
「……ウェールズ皇太子、この男どうしましょう」
指示を仰ぐように、ルイズと共に下がっていた皇太子へ向く。
「どう……とは?」
正直、今目の前で起きた状況が未だに理解し切れていなかった皇太子は茫然自失のまま尋ね返す。
今の生物は、一体何なのだ?これも、あの傭兵の力なのだろうか。
ふっと気づき隣を見ると、ルイズは元婚約者の悲惨な状況に顔面を青く染めていた。
「わ……るど……」
「俺の任務は、使い魔の代わりとしてルイズの危機を処理することです。子爵は今や戦闘能力も奪い、瀕死の重傷です。こうなった以上、後は公的機関に身を任せるのがセオリーで……今この地を統括しているのはあなたです。
このまま放置するか、楽にしてやるか、何かしらの尋問をするために生きながらえらせるか」
スコールが選択肢を提示したことで、ようやくウェールズも頭が回り始める。
「……もはや滅び行く我が国が、情報を得たところで意味はない。が……私の愛しい従姉妹の治める国にとっては、その情報は有益な物となるであろう。よって、生きながらえらせた上で、トリステインにその身柄を引き渡したい」
それに、と再びルイズを見る。瞳孔は収縮して焦点も合っていない。
「裏切っていたとはいえ、婚約者の死を目の前にさせるのは忍びない。彼には、彼の国で刑に服してもらうのが一番だ」
一つ頷き了解の意図を告げると、ワルドに向く。
「アビリティ かいふく」
右手をワルドの方へ突き出すと、ぱぁっと光が走ってどんどんワルドの傷が治っていく。
「ワルド!」
だっとドレス姿のルイズが駆け寄る先で、よろよろと身体を起きあがらせる。
「う……僕……は……」
「ストップ」
間髪容れず時空間魔法で凍結させる。
「ワルド?どうしたのワルド!?」
「落ち着け。動きを止めただけだ。命に別状はない」
銅像のように動きを止めたワルドを揺さぶるルイズに告げる。
「つくづく君の力は恐ろしいな……」
「俺個人の力という訳ではありません。疑似魔法マニュアルは誰でも使いこなせます」
「ほう……では私も使えるのかい」
興味深そうに尋ねかける。
「はい……俺はハルケギニアの人間にやり方を教えるつもりはほとんど有りませんが」
「何故だ?」
「『誰でも』使えるからです。それこそ、俺のようにメイジ以外の者でも」
スコールの言葉にハッと目を見開くと、ウェールズは一つ頷く。
「そうか……アンリエッタの為にも、今後ともそのスタンスは変えないで欲しいな」
冷や汗を流しつつ、この地へこの力を持って訪れた彼が冷静な者で良かったと、心底に安堵した。
「ワルド……何で……」
しゃがみ込んで涙を流すルイズの前で倒れたままだったワルドを肩に担ぎ上げる。
「ミスタ・レオンハート、此度の身柄運搬の依頼料だ」
スッと差し出された手に、慌ててこちらも手を出すと、その手の上に風のルビーが転がった。
「……良いんですか?」
「構わない。どのみち、滅び行く王家にあっても反逆者共の私腹を肥やすだけだ。それよりは、余程建設的な使い道だろう」
ぎゅっと指輪を握りしめると、スコールは指輪をポケットに入れた。
「さて、では君たちが脱出するための血路を開かなくてはな」
「いえ、お手数はかけません。試したことはありませんが、俺にもハルケギニアへ帰るための足はありますから」
「……やはり君の力は恐ろしいよ」
直立して右掌を開いて甲の側を向けるSeeD式の敬礼をウェールズに向ける。
「では。……ルイズ、行くぞ」
ぺたんと座ったままのクライアントに城からの脱出を促すが、立ち上がるなり彼女はスコールに詰め寄った。
「待ちなさいスコール!ウェールズ様を置いていくつもり!?」
「……置いて行くも何も、皇太子はここに残るつもりだろう」
「ミス・ヴァリエール、ミスタ・レオンハート、急ぎたまえ。敵が近づいているようだ」
「でしたらウェールズ様も……!」
昨日からの続きで話が進まないな、と軽くため息を着き、自身の額付近に一度手をかざしてすぐにルイズに向ける。
「スリプル」
ぱぁっと足下から光が上がると共に、ぱたりとルイズが倒れて寝息を立て始めた。
「……御武運を」
ワルドを担ぎ上げている反対の腕でルイズを抱えると、一礼してその場を走り去る。
一つ満足げに頷き、ウェールズは乱入してきた敵兵を見据えた。
「来い、レコン・キスタ。アルビオン王家、最後の一人……!ウェールズ・テューダーの戦いを見せてやる!」
ジャンクションで力が強化されているとはいえ、バランス的な問題で走りづらいが言ってられない。
下りの階段を駆けながら思案する。
(目撃例などからすると飛べるとは思うんだが……問題なのは、魔列車グラシャラボラスに俺たちの乗るスペースが有るかだな)
『あれに乗るの!?』
ワルドの振り下ろした杖の先、ウェールズの胸に刺さる軌道だったそれは、硬質の音を立てて不思議な光沢を放つ刃に阻まれた。
その刃の向こう側に刺すような視線を見つけ、ワルドは反射的に身を引く。直後、爆発の轟音と共に青い刃が振り抜かれた。
「……式の間、敵の足止めをするのではなかったかね?使い魔くん」
「何度も言わせるな。俺は使い魔じゃない。傭兵だ」
ガンブレードを振り抜いた体勢から、再び正眼に構え直すのは、スコール・レオンハート。
「ス、スコール!?」
「……素早い動き、助かったよ。ミスタ・レオンハート」
「皇太子、クライアント共々下がっていてください。子爵は俺が相手をします」
「ああ」
後ろへ軽く目配せして、未だ惚けたままのルイズを連れて後退するよう頼む。
『婚約者だとか好きだとか、散々女の子の心を弄んで!許せない!』
ざわざわとスコールの頭の中でジャンクションされた誰かが喋っている気がする。多分、この騒がしさはリノアだろう。
「どうやら待ちかまえていたようだが……いつから気づいていた」
「疑っていたのは、最初からだ」
じりじりとルイズへ近づこうとするワルドへ距離を詰め、牽制をかける。
「どの最初かな?」
「あんたがあの日の朝、馬小屋前に現れたときからだ」
「……参考までに教えて欲しいな。何故僕を?」
「まともな判断力を持つ者ならば、アンリエッタ姫の任務がどれだけバカなことかはすぐに気づく。
元より政略結婚なのは両者とも承知の上。手紙一つで揺らいだとしても、婚儀による同盟の大勢にまで影響は薄いだろうからな」
視界の端で、ウェールズが十分な距離を開けてルイズと共に待機したのを見て取る。
「にもかかわらず武官がそれをいさめもせずに唯々諾々と従っているのは、それに気づかないほど愚鈍な者か、あるいは政治に関心を持たずただ命令をこなせばよしとしている兵士か、さもなければそれを利用しようとする者のいずれかだ」
右足を一歩引きつつ、ライオンハートを振りかぶる。
「話してみれば、愚鈍な者でないというのはすぐに判った。それにあんたはただ命令に従うだけの兵士じゃない。以前の俺がそうだったから、よくわかる……。
そしてあんたは、俺の知り合いによく似ている。自身と傲慢さを兼ね備えた態度が、野心家だな」
「成る程……良い洞察力だ。
ユビキタス・デル・ウィンデ……」
ワルドの姿が、五つに分かれる。
「これが風の偏在だが……」
「驚いた様子はないな」
「それが、あんたを疑う決定打だ。ワルド子爵」
ちら、と皇太子を視界に入れる。
「二日前の夜、あそこで現れた仮面の男……能力を測るとどうも違和感がぬぐえなかった。あの日の朝、俺に手合わせを申しいれてきた男と……体力、素早さ、魔力、全く同一の能力だったからだ」
「あの、ライブラというコモン・マジックか……?」
コモン・マジックではなく、疑似魔法なのだが、いちいち訂正はしない。
「昨日の夜のうちに皇太子に確認はしていた。自分の分身を作り出すことは可能かどうかな」
「そして風の偏在を知り、確信を持って、足止めをしてくると称して隠れていたか……」
「あの表情……ルイズには知らせていなかったのかな?」
ワルドの一体が、ルイズへ視線を向ける。先程からのスコールとワルドの会話に、全くついて行けていないという風情だ。
「彼女はあんたの婚約者だ。あんたのことを疑えと言っても通じないだろうし、何よりもあの性格だ。
疑う要素として今言った事実を突きつけると、直接問いただしにかかりかねない。こちらがあんたを疑っていることを知ると、そっちがその場でクライアントを人質にとる可能性もある」
「成る程……的確な判断だと言えるね」
ゆったりと正面にいるワルドが頷く。
「その頭脳、剣技」
「それに、方法は判らないが僕の風の魔法を無効化してしまう不思議な技」
「どうだろう?使い魔……いや、傭兵くん。僕たちに、レコン・キスタの側に着かないかね?彼女よりも数段上の待遇、報酬を約束しようじゃないか」
大仰に腕を広げて受け入れる動作をしてみせる。
「なっ」
サッとルイズは血の気が引いた。スコールは、どこまでも傭兵としての態度を崩さなかった。ならば、雇い主を鞍替えすることも、有るのではないか?
「そんなの……!」
ダメよ、というよりも先に、スコールが即答していた。
「断る」
「……何故かな?見る限り、決してキミは良い境遇とは思えないが」
「四日前、一ヶ月間契約を更新したばかりだ。それを早々に破棄したのでは、傭兵としての信頼に関わる」
「スコール……」
ほっと安堵のため息を着くが、やはり傭兵としての態度を変えていない彼の言動に、一抹の寂しさも感じる。
「それに何より、あんたが信頼できない。ラ・ロシェール道中の森や、当のラ・ロシェールで使い捨てられた傭兵のようになるのはゴメンだ」
スコールの持つ切れ長の瞳が、ワルドを睨み付ける。
「ふ……それでは仕方ない!」
「ルイズやウェールズ諸共、始末してやる!」
「出来るかな、あんたに……!」
ライオンハートを振りかぶりながら、そう尋ねる。
「出来るとも!忘れたのかい?」
杖が一斉にスコールに向けられる。
「ラ・ロシェールで一度、キミは僕に痛手を負わされて居るんだよ、このライトニング・クラウドでね!」
「!避けて、スコール!」
五筋の閃光が走り、全てがスコールに直撃した。
「スコール!」
「ミスタ・レオンハート!」
「はははははははは!どうだ!これが……」
皆まで言うより先に、ワルドの偏在の内一つがライオンハートによって切り伏せられた。
『ざーんねんでした!ワルド子爵?』
「確かに、あの時には驚いた……ハルケギニアの魔法は四系統だけだと思っていたところに雷が来たんだからな。だが、何が来るか判っているのならば対処の使用はある。
もうあんたの魔法は通じないぞ、子爵」
「な、に……!?」
慌てて残りの4体がスコールと距離を置く。
その一人一人の位置を確認しながら、ライオンハートのマガジンを途中まで引き抜く。
「イフリート、弾薬精製」
ガンガンガンガンガンガンガンガン、と金属のぶつかり合う音がして、マガジン内に弾が供給される。
そしてマガジンを戻すとジャキッとスライドを引く。
「行くぞ」
再度ライオンハートを振りかぶり、ワルドの一人に斬りかかる。
「ぐ、ブレイド!」
反射的に杖で受け止めたのは流石と言っていい。
だが、アルテマをジャンクションしているスコール相手には文字通りの力不足であり、完全に押されている。
助太刀に入らんと他のワルドがブレイドをかけつつ接近してくるのを察知し、早期に押し切るべくスコールは続けざまにトリガーを引く。
ガァンガァンガァン
3度目の炸裂音と共に、杖は無事だったがワルドの腕の方が押し切られ、頭部から右脇腹に向けて切り口を晒し、空に露と消えた。
すぐさま、一番接近してきているワルドの一人に対応しようとスコールは身体を向き直し、間一髪ブレイドのかけられた杖が頬をかすめるだけで済んだ。
距離的に再度ライオンハートを振りかぶるのが難しいと判断し、スコールは即座に切っ先の角度を変える。
「ラフディバイド……!」
下段からライオンハートが切り上げられ、スコールのジャンプのスピードも加味されて股から左肩へ刀身が抜ける。
3メイルほど後方に着地するスコールの前で左右に分断されたワルドの身体は、倒れる前に消えていった。
そこへ閃光が趨り、スコールの身体を雷が打つ。更にもう一撃。
「何故だ……何故だ!」
「ラ・ロシェールでは確かに痛手を与えられていたはず!」
残り二人となったワルドが半ば恐慌状態で杖を向けていた。
スコールが頬に伝う血をぬぐうと、その下に有るべき傷口は既に塞がっていた。
『ふふふ、わざわざ傷を治してくれてありがとう』
にんまりとリノアは呟く。
「……ガーディアン・フォースと疑似魔法マニュアルを応用したジャンクションシステムは、使用者に最大4種類までの属性によるダメージを軽減、無効化、あるいは吸収する力を与える。
ラ・ロシェールで俺が警戒していたのは火、水、冷気、風の4種類だった。だから、あの時あんたの雷は防げなかった。
だが今回は、元よりあんた用に調整させてもらっている。雷と風は、今の俺には力になる」
「なんと」
スコールの説明にウェールズは息を飲む。
「それではメイジでは、彼を相手にするのは死ねと言うようなものだな……」
「雷と風……だと?」
訳がわからないという顔でワルドが呻く。
「疑似魔法においては、系統魔法より属性の区分が細かい。風と雷、水と冷気は関わりが深いが別の属性だ」
故に、属性の防御に置いてはウェールズの言うほどメイジにとって絶望的な状況とはなりえない。
仮に別々の系統を持つ4人のメイジが火、水、氷、土、風、雷の6属性でもって攻め上げれば、アルテマなど強力な魔法を同時に複数ジャンクションしていない限り属性防御では対処しきれなくなる。
しかしこの場に限って言えば、ワルドにはもはや勝ち目はない。
ジャンクションによる身体強化の影響は圧倒的であり、頼むべき数もスコールの素早い各個撃破によって“たかが倍”にまで減らされ、自身の得意とする系統の魔法は打つ手を持たない。
どうすべきか、とワルドが思案している最中にも、スコールは既に手を打っている。
(この状況で最も可能性が高いのは、偏在体の方を用いての囮と逃亡……隙を捜している今の内にG.F.を召喚……二人まとめて吹き飛ばす)
『うわー、スコールってばわざわざその子使うなんて悪趣味……』
よしんば二人まとめてブレイドで襲いかかってくるとしても、召喚まで凌げば問題はない。
そして召喚のため、スッとスコールが目を閉じたその時を好機と見てワルドの一人がスコールに向かい、もう一人が出口へ向かって走り出すが、時既に遅い。ぱぁっとスコールの足下から光がわき上がり、
「ケツァクウァトル、サンダーストーム」
「うおおおおおおおお!?」
中空に出現した緑色をした鳥?のような不思議な生き物がその口?から雷を放ち二人のワルドを電撃の檻の中で悶えさせる。雷を攻撃手段に選んだのはラ・ロシェールで痺れさせられた意趣返しだろうか。
程なく手前の、こちらに迫ってきていたワルドは消えて、スコールもケツァクウァトルを引っ込める。
残り一人となったワルドは見るからに酷い有様だった。高圧電流に晒された身体のあちこちは焼けこげており、水分が膨張したためか丸太のように醜く膨らんで、皮膚からしみ出てきたらしい血痕が服の上にいくつも見られる。
「……あ……う……あ……」
呻くワルドの手の中、それでも握り続けられている杖を踏み折る。
「……ウェールズ皇太子、この男どうしましょう」
指示を仰ぐように、ルイズと共に下がっていた皇太子へ向く。
「どう……とは?」
正直、今目の前で起きた状況が未だに理解し切れていなかった皇太子は茫然自失のまま尋ね返す。
今の生物は、一体何なのだ?これも、あの傭兵の力なのだろうか。
ふっと気づき隣を見ると、ルイズは元婚約者の悲惨な状況に顔面を青く染めていた。
「わ……るど……」
「俺の任務は、使い魔の代わりとしてルイズの危機を処理することです。子爵は今や戦闘能力も奪い、瀕死の重傷です。こうなった以上、後は公的機関に身を任せるのがセオリーで……今この地を統括しているのはあなたです。
このまま放置するか、楽にしてやるか、何かしらの尋問をするために生きながらえらせるか」
スコールが選択肢を提示したことで、ようやくウェールズも頭が回り始める。
「……もはや滅び行く我が国が、情報を得たところで意味はない。が……私の愛しい従姉妹の治める国にとっては、その情報は有益な物となるであろう。よって、生きながらえらせた上で、トリステインにその身柄を引き渡したい」
それに、と再びルイズを見る。瞳孔は収縮して焦点も合っていない。
「裏切っていたとはいえ、婚約者の死を目の前にさせるのは忍びない。彼には、彼の国で刑に服してもらうのが一番だ」
一つ頷き了解の意図を告げると、ワルドに向く。
「アビリティ かいふく」
右手をワルドの方へ突き出すと、ぱぁっと光が走ってどんどんワルドの傷が治っていく。
「ワルド!」
だっとドレス姿のルイズが駆け寄る先で、よろよろと身体を起きあがらせる。
「う……僕……は……」
「ストップ」
間髪容れず時空間魔法で凍結させる。
「ワルド?どうしたのワルド!?」
「落ち着け。動きを止めただけだ。命に別状はない」
銅像のように動きを止めたワルドを揺さぶるルイズに告げる。
「つくづく君の力は恐ろしいな……」
「俺個人の力という訳ではありません。疑似魔法マニュアルは誰でも使いこなせます」
「ほう……では私も使えるのかい」
興味深そうに尋ねかける。
「はい……俺はハルケギニアの人間にやり方を教えるつもりはほとんど有りませんが」
「何故だ?」
「『誰でも』使えるからです。それこそ、俺のようにメイジ以外の者でも」
スコールの言葉にハッと目を見開くと、ウェールズは一つ頷く。
「そうか……アンリエッタの為にも、今後ともそのスタンスは変えないで欲しいな」
冷や汗を流しつつ、この地へこの力を持って訪れた彼が冷静な者で良かったと、心底に安堵した。
「ワルド……何で……」
しゃがみ込んで涙を流すルイズの前で倒れたままだったワルドを肩に担ぎ上げる。
「ミスタ・レオンハート、此度の身柄運搬の依頼料だ」
スッと差し出された手に、慌ててこちらも手を出すと、その手の上に風のルビーが転がった。
「……良いんですか?」
「構わない。どのみち、滅び行く王家にあっても反逆者共の私腹を肥やすだけだ。それよりは、余程建設的な使い道だろう」
ぎゅっと指輪を握りしめると、スコールは指輪をポケットに入れた。
「さて、では君たちが脱出するための血路を開かなくてはな」
「いえ、お手数はかけません。試したことはありませんが、俺にもハルケギニアへ帰るための足はありますから」
「……やはり君の力は恐ろしいよ」
直立して右掌を開いて甲の側を向けるSeeD式の敬礼をウェールズに向ける。
「では。……ルイズ、行くぞ」
ぺたんと座ったままのクライアントに城からの脱出を促すが、立ち上がるなり彼女はスコールに詰め寄った。
「待ちなさいスコール!ウェールズ様を置いていくつもり!?」
「……置いて行くも何も、皇太子はここに残るつもりだろう」
「ミス・ヴァリエール、ミスタ・レオンハート、急ぎたまえ。敵が近づいているようだ」
「でしたらウェールズ様も……!」
昨日からの続きで話が進まないな、と軽くため息を着き、自身の額付近に一度手をかざしてすぐにルイズに向ける。
「スリプル」
ぱぁっと足下から光が上がると共に、ぱたりとルイズが倒れて寝息を立て始めた。
「……御武運を」
ワルドを担ぎ上げている反対の腕でルイズを抱えると、一礼してその場を走り去る。
一つ満足げに頷き、ウェールズは乱入してきた敵兵を見据えた。
「来い、レコン・キスタ。アルビオン王家、最後の一人……!ウェールズ・テューダーの戦いを見せてやる!」
ジャンクションで力が強化されているとはいえ、バランス的な問題で走りづらいが言ってられない。
下りの階段を駆けながら思案する。
(目撃例などからすると飛べるとは思うんだが……問題なのは、魔列車グラシャラボラスに俺たちの乗るスペースが有るかだな)
『あれに乗るの!?』
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