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「ゼロのロリカード-34」(2009/04/28 (火) 21:04:24) の最新版変更点
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#navi(ゼロのロリカード)
トリステイン・ゲルマニア連合軍は、驚くべきスピードでシティオブサウスゴータを制圧した。
勢いも士気も十分な上に、ルイズの虚無魔法『イリュージョン』の効果も相まって、被害も軽微。
しかしこのまま進撃を続けるかと思いきや、約二週間の足止めを食うこととなる。
理由の一つ目が、アルビオン軍がシティオブサウスゴータの備蓄食料を奪ったこと。
当然サウスゴータの人々を無視するわけにはいかず、軍の兵糧を分けることになる。
よって、早急な補給を必要とした。
理由の二つ目が、アルビオン軍側から降臨祭の期間と前一週間に限る休戦の申し出である。
補給の為の時間と慣例からこれを受け、降臨祭が終わるまでの約二週間を休戦することになったのである。
亜人相手に大暴れしたアーカードであったが、未だに血が滾っているようで、戦争が再開されるのを今か今かと待っている。
テファの使い魔、アンデルセン神父と会ってから、少しだけ纏う空気が変わった。
戦闘戦斗を望む悪鬼の様相を呈しているように見える。
と言っても、今は椅子に座って寝息を立てていた。
「何か」を感じて寝ているのか、・・・・・・闘いのにおいか何かを。
ルイズはそーっと顔を覗き込む。こうして見ると、見た目相応で可愛いものだ。
本当は男でも、今は自分よりも年下の少女がスヤスヤとお昼寝をしているような印象。
すると、ふっとアーカードの口の端が上がり、白い牙が見えた。
「あ、笑った」
寝顔は可愛いかなとも思ったが、前言撤回。やっぱりちょっと邪悪さが出ている。
(まるで明日何して遊ぼうか考えて、眠る子供・・・みたい・・・・・・)
二週間後が待ちきれず、今から寝てチャージしておくような、そんな感じ。
笑ったということは、夢でも見ているのだろうか。
(どんな夢を見てるんだろう・・・・・・)
ふふっと笑って外へ出て行くルイズを尻目に、アーカードはうなされ始めた。
◇
「ロリカード、起きなさい。ロリカードや」
誰かに呼ばれた気がして、アーカードは目を開ける。
「お久し振りウィリス」
言葉では形容し難い光景が目の前に広がっていた。
「また会いましたね、ジャッカルの精ですウィリス」
アーカードは咄嗟に銃を撃とうとしたが、生憎と手元にない。
「無駄ウィリス。今お前は私を持ってないウィリス」
「・・・・・・」
アーカードは無言で歩き出す。どつく為に。
「あっちょっと待って、それは反則ウィリス」
そのことにいち早く気付き、アーカードに静止を求めるが当然聞くはずもない。
アーカードの右ストレートが躊躇無く顔面に炸裂し、ジャッカルの精は吹き飛ぶ。
「あぁ・・・・・・ハァ・・ハァ・・・ょぅι゙ょの鉄拳ハァハァ・・・もっとご褒美!
・・・・・・じゃなかった、やめるウィリス。ロリカード」
悶えるジャッカルの精を、半眼で見つめながらアーカードは止まる。
「ロリ・・・・・・カード?」
「ロリっ娘+アーカードでロリカードウィリス」
アーカードは腕を組む。前にも見た夢の続き・・・・・・か?
「おっと、無駄話はやめて本題に入るウィリス。お前は近い内、私と会うことになるウィリス」
「・・・・・・生憎と、弾がない。貴様を使う日は二度と来んだろう」
「大丈夫ウィリス。それもいずれわかるウィリス、もうすぐおまえは私に会いにくるのだウィリス」
アーカードは嘆息をつく。まともに相手をしてもしょうがない。
「今日はそれを伝えにきただけウィリス。必ず迎えに来るのだウィリス」
「・・・・・・」
「あの眼鏡神父を相手にする為にも、私が絶対に確定的に間違いなく必要不可欠ウィリス」
「・・・・・・」
「ハァ・・ハァ・・・ょぅι゙ょの冷たい視線ハァハァ・・・・・・放置プレイも乙でウィリス・・・・・・」
「あ゛~・・・・・・」
アーカードは溜息を吐く。
今の少女姿だと割かしフリーダムで、何にでも対応出来ると思っていた。
・・・・・・が、例外もあるということを認識させられた。
「ふぅ・・・・・・。それじゃ、失礼するでウィリス」
ジャッカルの精は親指を立て、ウインクしつつ爽やかな笑顔を浮かべた。
「I'll be back!!!」
――――――そしてアーカードは目を覚ました。
「うわ!?びっくりした。いきなり目を開けないでよ」
アーカードは目を見開いたまま、呆けている。
「何か悪い夢でも見たの?アーカード」
ルイズの問いに、暫く間を置いてから答える。
「いや、なんでもない」
ルイズは首を傾げながら、自分を見ている。
アーカードは「フン」と一息、立ち上がる。
「・・・・・・全く、一体なんだというのだ」
◇
「あ゛~さむ・・・・・・、まだ着かないの?」
「・・・・・・もう着いたよ」
シティオブサウスゴータから約30リーグほどの地点。
白に染まる山の中を、二人の人物が歩いていた。
二人ともフードを目深に被り、顔に吹きかかる冷たい風を凌いでいる。
その内の一人は『土くれ』のフーケもとい、マチルダ・オブ・サウスゴータ。
かつてこの一帯の領地を支配していた貴族であり、王室に逆らった所為で没落した。
「ここが?」
「あぁ、この水源がシティオブサウスゴータのおよそ1/3を占めている筈さ」
「オッケィ、ごくろうさま」
もう一人のその男はフードを脱いで、しゃがんで目の前の清水を覗き込む。
「へぇ。いけすかない野郎かと思ってたら、案外可愛い顔してるじゃないか」
やや中性的で整った顔立ち。
全体的には少年のような雰囲気だが、大人のような精悍さも同時に併せ持っていた。
シェフィールドと名乗る、その青年の額には古代のルーンが刻み込まれている。
そしてその佇まいは、時に自分よりも年上なのでは?と、感じさせるものがあった。
「生憎だけど、僕は趣味じゃない」
シェフィールドの歯に衣着せぬ物言いに、フーケは青筋を立てるものの、ガキ相手に熱くなってはいけないと平静を装う。
「わたしだってアンタはタイプじゃないさ」
シェフィールドは右手を水源に向かって突き出す。その指に嵌まっているのは指輪。
「それは確か、クロムウェルの・・・・・・」
「アンドバリの指輪。先住の水の力が凝縮されて出来た結晶さ」
そう言うとシェフィールドの額のルーンが輝き、指輪の先についた結晶から一滴、二滴と、水の力が広がる。
「この強力な"水"の力は、身体の組成はおろか心すら容易に操る。
この水を飲んだ者はさしずめマリオネット。生きた傀儡として動くのさ」
フーケは「ふ~ん」と興味を示さない風で言う。
事を終えてシェフィールドは立ち上がり、フードを被る。
「これで戦局は引っくり返る」
「・・・・・・あちらさんには虚無があるけど?」
タルブでの戦でトリステインに勝利をもたらした奇跡の光。
ロサイス上陸の際にも、サウスゴータ攻略の時も、幻影で以って多大な功績をあげている。
虚無があったからこそ、トリステイン・ゲルマニア連合軍は、侵攻作戦を成功させることが出来たと言っても過言ではない。
「虚無か、確かに懸念すべき事項だ。けれど最早そんなものじゃ止められない流れになるさ」
「はぁ・・・・・・」と、フーケはいまいち納得のいっていない声を出す。
(エクスプロージョンは燃費が悪い、ってジョゼフが言ってたし・・・・・・)
万に及ぶ兵を止めるエクスプロージョンはまず放てないと言っていい。
タルブで撃っているならば、尚の事である。
そして・・・・・・幻影じゃマリオネットは止まらない。
「まったく、新しい主人は人使いが荒い」
シェフィールドは、帰り路をゆくフーケには聞こえない声で呟く。
「・・・・・・まっアーサーに比べればまだマシ、かな」
「何か言った?」
「い~や、なんにも」
フーケはやや怪訝な顔をしていたが、すぐに顔を前に戻す。
青年は空を仰ぎながら、白く吐き出される息を見つめた。
◇
降臨祭が明けるまであと一日。アーカードは棺桶の上で、銃を分解して点検していた。
ドラムマガジンの付いた、トンプソンM1短機関銃。
白銀に輝く銃身の、.454カスール改造銃。
そして光すら飲み込むように深く黒光りする、『破壊の杖』もとい、『対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル』。
何故ジャッカルがここにあるのかと言うと、当然持ってきたからに他ならない。
何故取ってきたのかと言うと、――――――少し前へと遡る。
"ガンダールヴの槍"として送られてきた物の中に、弾丸があった。
カスール改造銃に使う為の13mm炸裂徹鋼弾。ジャッカルに使う為の専用弾。
そのそれぞれの弾倉を、「ロマリアに戻って取ってきた」とシュレディンガーが持ってきたのだ。
シュレディンガーはアーカードにマガジンを渡すと、すぐに去っていき、その真意はわからない。
ジャッカルはアンデルセンを殺し切るという、カスール改造銃に輪をかけて凶悪な代物。
件のアンデルセン神父がこちらにいるということもあり、「折角だし」ということでありがたく頂くことにした。
その時、アーカードがなにやら苦い顔をしていたような気もしたが・・・・・・。
二週間もの間、とてもすごく暇であるので、棺桶もついでに持ってきて寝よう。
と、いうこともあり、一度アーカードは学院にまで戻って、またやってきた。というわけである。
元々の持ち主であるという事と、アーカードのこれまでの功績相まって、引き渡しはあっさりと終わったそうな。
そして今現在、戦争がもうすぐ再開されるので、点検をしているということに相成る。
この二週間の休戦期間。自分はとりあえず鍛錬だけは欠かさず、またアーカードは惰眠を貪っていた。
しかしそれでも、自ずと話す機会は多かった。
記憶が戻ったと言うアーカードから、前の世界のことを聞いた。
アーカードの、もう一人の主人。インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングのこと。
アーカードの眷族、吸血鬼セラス・ヴィクトリアのこと。そして王立国境騎士団『HELLSING』のこと。
アンデルセン神父との関係に、イスカリオテ。
シュレディンガーや大尉のことや、ミレニアムという組織のこと。
さらに裏切った執事のこと等々、様々なことを聞いた。
その全てを聞いた上で、聞いた。
「元の世界に帰りたくはないか?」と。
実際に帰る帰らないは別として、アーカードの本音が聞きたかった。
アーカードが過去の話をしている時、特にインテグラとセラスと言う人の話をしていた時。
どことなく嬉しそうに喋っていたアーカードの表情を、ルイズは見逃さなかった。
当然アーカードが帰ってしまえば、寂しい。
でも帰りたいと願っているなら、帰してあげたい。素直にそう思う。
アーカードを召喚してこれまで、思い出したくないことも多々あるが、相応に揉まれた。
自分は・・・・・・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、心身共に強くなった。
アーカードに依存しなくても、アーカードに頼らなくても、きっと頑張れると思う。
なによりも、こちらが勝手にアーカードを召喚したのにも拘らず。
見返りも求めず、自分の使い魔になってくれたアーカード。
いつだって自分の力になってくれたアーカード。何度も助けてくれたアーカード。
そんなアーカードの為に、何かしてあげたい。アーカードの望むことを叶えてあげたい。
それがルイズの、偽らざる気持ちだった。だからこそ、聞いた。
◆
「確かに帰りたくないと言えば、嘘になる。あれでインテグラは寂しがりやだからな。
もしかしたら、セラス共々私の帰りを今でも待ち続けているかもしれない」
「そっか。それなら協力するわ。私も一緒に帰る方法を探してあげる」
ルイズは穏やかな笑顔を浮かべながら、そう言った。
アーカードの為に尽くしてあげたい。そんな気持ちが、素直に表情に出ていた。
アーカードはそんなルイズの言葉と、真っ直ぐ己を見つめる鳶色の瞳に、少しばかり驚いた顔を見せる。
その後に、ルイズのように笑みを浮かべて言った。
ルイズの想いが、目と目を通じて伝わる。
「いや、それには及ばん。インテグラは大事だ、だがルイズ。お前も大事だ。故にどちらかを贔屓することはない」
「でも、会いたいでしょ?」
ルイズは眉を八の字にして、アーカードを見つめる。
主人に慮られて心配されるなんて、とアーカードは笑った。
「フッ、主がそこまで言うのであれば、そうだな・・・・・・後30年か40年くらいここにいて、それから帰るとしようか。
なに、インテグラならそれくらい待っていてくれるだろう。こっちで30年、向こうで30年。半々に分けるとしようか。
ルイズもインテグラも私の愛しいあるじ、だからな。気長に帰る方法は探せばよい。
尤もそうなると、ルイズの死を看取ってやれんが・・・・・・の」
冗談めかして言うアーカードに、ルイズはつられて、二人合わせるように笑う。
「構わないわよ。私だけしわくちゃのおばあちゃんになっちゃって。
でもアーカードは姿が変わらず傍にいられたんじゃあ、なんか嫉妬しちゃいそうだし」
「年老いても変わらないものがある。いや、年老いてこそ美しくなるものがある。
それが在り続けるのであれば、老いて外見が変わったとしても・・・・・・美しいままさ」
ルイズは肩を竦めてアーカードと微笑み合う。
もう言葉はいらない。心だけで通じる。そんな絆を、ルイズは感じた。
◆
そう。あの時、ようやくアーカードとの間に真の絆を確認出来た。
本当の意味での主従を感じ入ることができた。
互いが互いを信頼するパートナーになれた。
そう、思える。
アーカードは銃の点検を終えると、左前腕に十字を描くように銃身を置き、サイトを覗き込む。
まずはジャッカル。・・・・・・何も言うまい。夢の事も、今手元にある事実も、何もかも。
次いでカスール、トンプソンと見た後、「よし」と頷き銃をしまう――――――その時だった。
銃声が聞こえた。
当然アーカードが撃ったものではなく、もっと遠くから聞こえたきたもの。
それも一発や二発ではない。何発もの音が聞こえた。
「今の音は・・・・・・?」
「発砲音だな、十中八九。何か起こったのかもな」
ルイズは弾かれたように立ち上がる。
アーカードもそれに応じるかのように、ゆっくりと立ち上がった。
不測の事態が起こったのかもしれない。
降臨祭最終日であるが、油断は出来ない。
ふとアーカードを見ると、ギラついた牙が口から覗いている。
紅い瞳もつり上がり、闘争の愉悦を感じる・・・・・・これ以上ない笑みが、そこに浮かんでいた。
◇
トリステイン・ゲルマニア連合軍は、敗走の最中にあった。
突如として軍の内部に反乱が起き、混乱の中でロサイスまで退却する事となったのである。
三万にも及ぶ離反者は、アルビオン軍と合流して七万の大軍勢となって進撃してきている。
士気も兵力も大きく下がった連合軍に、膨れ上がったアルビオン軍を相手にする力はない。
指揮系統も大いに乱れ、崩れ、軍としての機能は既に果たせない。
兵士たちは皆、蜘蛛の子を散らすようにして、アルビオン大陸から逃れようとしていた。
敗走する連合軍が集結しつつあるロサイスでは、半日の交渉の末にようやく撤退の許可が本国から降りた。
やっとのことで兵達が乗船し始めるも、まだまだ時間は掛かる。
退却が完了する前に、アルビオン軍がロサイスへと到着し、攻撃を開始するのは明白。
全軍が無事に撤退し終える為には約一日、敵軍の足止めが必要であった。
そんな事が可能な手段は――――――、一つしかない。
「・・・・・・殿を、任されたわ」
司令部から戻ってきたルイズは、その命令を自身で再確認するかのように・・・・・・そう言った。
両目を瞑り、浮かない色をその表情に見せている。
「アルビオンの退き口・・・・・・か」
アーカードは煙草を吹かしながら呟く。情報が錯綜していて実態が掴めない。
サウスゴータでは退却の命令もあり、結局戦わずじまいでロサイスまで戻ってきた。
だが、"命令"が出た。
かつての友軍を含めたアルビオン軍と、"戦っていい"ということだ。
◇
白みつつある、夜明け前の空。
丘の上に、ルイズとアーカードは立っていた。
「テファ達の村が・・・・・・少し近いわね」
「まぁ、大丈夫だろう」
地平を見れば、七万のアルビオン軍。
「・・・・・・随分な強行軍みたいね」
七万の大群は、緩い地響きを自分達に届ける。
いざ目の前にすると、遠目でも圧倒される光景だ。
「本当に『エクスプロージョン』も『イリュージョン』もいらないの?」
「問題ない」
そう言うとアーカードは片手で棺桶を持ち上げ歩いて行き、ルイズもそれに続いた。
アーカードから聞かされた『拘束制御術式』、『零号開放』の詳細。
ワルド戦で見せたのとはまるで違う。たった一人の軍団たるその能力。
孤軍奮闘たる今の状況におあつらえ向きな、恐るべき吸血鬼の性質。
アーカード達とアルビオン軍の相対距離がどんどん狭まっていく。
適当なところでアーカードは棺桶を置き、ルイズを止める。
棺桶よりさらに前に出て、アーカードは長い黒髪を風に靡かせ然るべき時を待つ。
ロ ン ド
ルイズは目を瞑り自問する。今から見ることになるだろう、死の輪舞曲。
七万の人間を殺す"覚悟"。自分がたった今から下す命令一つで、敵軍は殲滅される。
姫さまの頼みでアルビオンに来た時。
空賊扮する、故ウェールズ皇太子達に襲われた時。
アーカードは言った。殺すのは、わたしの殺意。
今、彼らを、アルビオン軍を、目の前の七万人を殺すのは、・・・・・・私の殺意。
それが――――――最後の、いちじくの葉。
短いのか長いのか・・・・・・わからない時間。ルイズは自問し続けた。
そして、紅い瞳を見開いて狂喜の笑みを浮かべたアーカードが口を開く。
「そろそろ、頃合か。・・・・・・さあ!ルイズ!!」
「・・・・・・覚悟、完了」
ゆっくりとルイズは目を開く。
既に敵軍は、はっきりと確認出来るほどのところまで迫っていた。
マイ マスター オーダー
「あるじよ!!我があるじよ!!我が主人ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ!!命令を!!」
アーカードが叫び、ルイズは大きく息を吸い込んだ。そして高らかに――――――。
スレイブ
「我が下僕、吸血鬼アーカードよ!!命令する!!」
ルイズはアーカードの先に見える、アルビオン軍を鋭く見据えた。
そして勢いよく右手を水平に、真っ直ぐ横に伸ばす。
「総滅せよ、彼らを生かしてこれ以上進ませるな」
「白衣の軍には白銀の銃を以って、朱に染めよ」
「黒衣の軍には黒鉄の銃を以って、朱に染めよ」
「一木一草、尽く我らの敵を赤色に染め上げよ」
「見敵必殺!」
「見敵必殺!!」
アーカードは、深く、静かに、口を開いた。
マイマスター
「了解。認識した。我が主」
――――拘束制御術式零号 開放――――
#navi(ゼロのロリカード)
#navi(ゼロのロリカード)
トリステイン・ゲルマニア連合軍は、驚くべきスピードでシティオブサウスゴータを制圧した。
勢いも士気も十分な上に、ルイズの虚無魔法『イリュージョン』の効果も相まって、被害も軽微。
しかしこのまま進撃を続けるかと思いきや、約二週間の足止めを食うこととなる。
理由の一つ目が、アルビオン軍がシティオブサウスゴータの備蓄食料を奪ったこと。
当然サウスゴータの人々を無視するわけにはいかず、軍の兵糧を分けることになる。
よって、早急な補給を必要とした。
理由の二つ目が、アルビオン軍側から降臨祭の期間と前一週間に限る休戦の申し出である。
補給の為の時間と慣例からこれを受け、降臨祭が終わるまでの約二週間を休戦することになったのである。
亜人相手に大暴れしたアーカードであったが、未だに血が滾っているようで、戦争が再開されるのを今か今かと待っている。
テファの使い魔、アンデルセン神父と会ってから、少しだけ纏う空気が変わった。
戦闘戦斗を望む悪鬼の様相を呈しているように見える。
と言っても、今は椅子に座って寝息を立てていた。
「何か」を感じて寝ているのか、・・・・・・闘いのにおいか何かを。
ルイズはそーっと顔を覗き込む。こうして見ると、見た目相応で可愛いものだ。
本当は男でも、今は自分よりも年下の少女がスヤスヤとお昼寝をしているような印象。
すると、ふっとアーカードの口の端が上がり、白い牙が見えた。
「あ、笑った」
寝顔は可愛いかなとも思ったが、前言撤回。やっぱりちょっと邪悪さが出ている。
(まるで明日何して遊ぼうか考えて、眠る子供・・・みたい・・・・・・)
二週間後が待ちきれず、今から寝てチャージしておくような、そんな感じ。
笑ったということは、夢でも見ているのだろうか。
(どんな夢を見てるんだろう・・・・・・)
ふふっと笑って外へ出て行くルイズを尻目に、アーカードはうなされ始めた。
◇
「ロリカード、起きなさい。ロリカードや」
誰かに呼ばれた気がして、アーカードは目を開ける。
「お久し振りウィリス」
言葉では形容し難い光景が目の前に広がっていた。
「また会いましたね、ジャッカルの精ですウィリス」
アーカードは咄嗟に銃を撃とうとしたが、生憎と手元にない。
「無駄ウィリス。今お前は私を持ってないウィリス」
「・・・・・・」
アーカードは無言で歩き出す。どつく為に。
「あっちょっと待って、それは反則ウィリス」
そのことにいち早く気付き、アーカードに静止を求めるが当然聞くはずもない。
アーカードの右ストレートが躊躇無く顔面に炸裂し、ジャッカルの精は吹き飛ぶ。
「あぁ・・・・・・ハァ・・ハァ・・・ょぅι゙ょの鉄拳ハァハァ・・・もっとご褒美!
・・・・・・じゃなかった、やめるウィリス。ロリカード」
悶えるジャッカルの精を、半眼で見つめながらアーカードは止まる。
「ロリ・・・・・・カード?」
「ロリっ娘+アーカードでロリカードウィリス」
アーカードは腕を組む。前にも見た夢の続き・・・・・・か?
「おっと、無駄話はやめて本題に入るウィリス。お前は近い内、私と会うことになるウィリス」
「・・・・・・生憎と、弾がない。貴様を使う日は二度と来んだろう」
「大丈夫ウィリス。それもいずれわかるウィリス、もうすぐおまえは私に会いにくるのだウィリス」
アーカードは嘆息をつく。まともに相手をしてもしょうがない。
「今日はそれを伝えにきただけウィリス。必ず迎えに来るのだウィリス」
「・・・・・・」
「あの眼鏡神父を相手にする為にも、私が絶対に確定的に間違いなく必要不可欠ウィリス」
「・・・・・・」
「ハァ・・ハァ・・・ょぅι゙ょの冷たい視線ハァハァ・・・・・・放置プレイも乙でウィリス・・・・・・」
「あ゛~・・・・・・」
アーカードは溜息を吐く。
今の少女姿だと割かしフリーダムで、何にでも対応出来ると思っていた。
・・・・・・が、例外もあるということを認識させられた。
「ふぅ・・・・・・。それじゃ、失礼するでウィリス」
ジャッカルの精は親指を立て、ウインクしつつ爽やかな笑顔を浮かべた。
「I'll be back!!!」
――――――そしてアーカードは目を覚ました。
「うわ!?びっくりした。いきなり目を開けないでよ」
アーカードは目を見開いたまま、呆けている。
「何か悪い夢でも見たの?アーカード」
ルイズの問いに、暫く間を置いてから答える。
「いや、なんでもない」
ルイズは首を傾げながら、自分を見ている。
アーカードは「フン」と一息、立ち上がる。
「・・・・・・全く、一体なんだというのだ」
◇
「あ゛~さむ・・・・・・、まだ着かないの?」
「・・・・・・もう着いたよ」
シティオブサウスゴータから約30リーグほどの地点。
白に染まる山の中を、二人の人物が歩いていた。
二人ともフードを目深に被り、顔に吹きかかる冷たい風を凌いでいる。
その内の一人は『土くれ』のフーケもとい、マチルダ・オブ・サウスゴータ。
かつてこの一帯の領地を支配していた貴族であり、王室に逆らった所為で没落した。
「ここが?」
「あぁ、この水源がシティオブサウスゴータのおよそ1/3を占めている筈さ」
「オッケィ、ごくろうさま」
もう一人のその男はフードを脱いで、しゃがんで目の前の清水を覗き込む。
「へぇ。いけすかない野郎かと思ってたら、案外可愛い顔してるじゃないか」
やや中性的で整った顔立ち。
全体的には少年のような雰囲気だが、大人のような精悍さも同時に併せ持っていた。
シェフィールドと名乗る、その青年の額には古代のルーンが刻み込まれている。
そしてその佇まいは、時に自分よりも年上なのでは?と、感じさせるものがあった。
「生憎だけど、僕は趣味じゃない」
シェフィールドの歯に衣着せぬ物言いに、フーケは青筋を立てるものの、ガキ相手に熱くなってはいけないと平静を装う。
「わたしだってアンタはタイプじゃないさ」
シェフィールドは右手を水源に向かって突き出す。その指に嵌まっているのは指輪。
「それは確か、クロムウェルの・・・・・・」
「アンドバリの指輪。先住の水の力が凝縮されて出来た結晶さ」
そう言うとシェフィールドの額のルーンが輝き、指輪の先についた結晶から一滴、二滴と、水の力が広がる。
「この強力な"水"の力は、身体の組成はおろか心すら容易に操る。
この水を飲んだ者はさしずめマリオネット。生きた傀儡として動くのさ」
フーケは「ふ~ん」と興味を示さない風で言う。
事を終えてシェフィールドは立ち上がり、フードを被る。
「これで戦局は引っくり返る」
「・・・・・・あちらさんには虚無があるけど?」
タルブでの戦でトリステインに勝利をもたらした奇跡の光。
ロサイス上陸の際にも、サウスゴータ攻略の時も、幻影で以って多大な功績をあげている。
虚無があったからこそ、トリステイン・ゲルマニア連合軍は、侵攻作戦を成功させることが出来たと言っても過言ではない。
「虚無か、確かに懸念すべき事項だ。けれど最早そんなものじゃ止められない流れになるさ」
「はぁ・・・・・・」と、フーケはいまいち納得のいっていない声を出す。
(エクスプロージョンは燃費が悪い、ってジョゼフが言ってたし・・・・・・)
万に及ぶ兵を止めるエクスプロージョンはまず放てないと言っていい。
タルブで撃っているならば、尚の事である。
そして・・・・・・幻影じゃマリオネットは止まらない。
「まったく、新しい主人は人使いが荒い」
シェフィールドは、帰り路をゆくフーケには聞こえない声で呟く。
「・・・・・・まっアーサーに比べればまだマシ、かな」
「何か言った?」
「い~や、なんにも」
フーケはやや怪訝な顔をしていたが、すぐに顔を前に戻す。
青年は空を仰ぎながら、白く吐き出される息を見つめた。
◇
降臨祭が明けるまであと一日。アーカードは棺桶の上で、銃を分解して点検していた。
ドラムマガジンの付いた、トンプソンM1短機関銃。
白銀に輝く銃身の、.454カスール改造銃。
そして光すら飲み込むように深く黒光りする、『破壊の杖』もとい、『対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル』。
何故ジャッカルがここにあるのかと言うと、当然持ってきたからに他ならない。
何故取ってきたのかと言うと、――――――少し前へと遡る。
"ガンダールヴの槍"として送られてきた物の中に、弾丸があった。
カスール改造銃に使う為の13mm炸裂徹鋼弾。ジャッカルに使う為の専用弾。
そのそれぞれの弾倉を、「ロマリアに戻って取ってきた」とシュレディンガーが持ってきたのだ。
シュレディンガーはアーカードにマガジンを渡すと、すぐに去っていき、その真意はわからない。
ジャッカルはアンデルセンを殺し切るという、カスール改造銃に輪をかけて凶悪な代物。
件のアンデルセン神父がこちらにいるということもあり、「折角だし」ということでありがたく頂くことにした。
その時、アーカードがなにやら苦い顔をしていたような気もしたが・・・・・・。
二週間もの間、とてもすごく暇であるので、棺桶もついでに持ってきて寝よう。
と、いうこともあり、一度アーカードは学院にまで戻って、またやってきた。というわけである。
元々の持ち主であるという事と、アーカードのこれまでの功績相まって、引き渡しはあっさりと終わったそうな。
そして今現在、戦争がもうすぐ再開されるので、点検をしているということに相成る。
この二週間の休戦期間。自分はとりあえず鍛錬だけは欠かさず、またアーカードは惰眠を貪っていた。
しかしそれでも、自ずと話す機会は多かった。
記憶が戻ったと言うアーカードから、前の世界のことを聞いた。
アーカードの、もう一人の主人。インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングのこと。
アーカードの眷族、吸血鬼セラス・ヴィクトリアのこと。そして王立国境騎士団『HELLSING』のこと。
アンデルセン神父との関係に、イスカリオテ。
シュレディンガーや大尉のことや、ミレニアムという組織のこと。
さらに裏切った執事のこと等々、様々なことを聞いた。
その全てを聞いた上で、聞いた。
「元の世界に帰りたくはないか?」と。
実際に帰る帰らないは別として、アーカードの本音が聞きたかった。
アーカードが過去の話をしている時、特にインテグラとセラスと言う人の話をしていた時。
どことなく嬉しそうに喋っていたアーカードの表情を、ルイズは見逃さなかった。
当然アーカードが帰ってしまえば、寂しい。
でも帰りたいと願っているなら、帰してあげたい。素直にそう思う。
アーカードを召喚してこれまで、思い出したくないことも多々あるが、相応に揉まれた。
自分は・・・・・・ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、心身共に強くなった。
アーカードに依存しなくても、アーカードに頼らなくても、きっと頑張れると思う。
なによりも、こちらが勝手にアーカードを召喚したのにも拘らず。
見返りも求めず、自分の使い魔になってくれたアーカード。
いつだって自分の力になってくれたアーカード。何度も助けてくれたアーカード。
そんなアーカードの為に、何かしてあげたい。アーカードの望むことを叶えてあげたい。
それがルイズの、偽らざる気持ちだった。だからこそ、聞いた。
◆
「確かに帰りたくないと言えば、嘘になる。あれでインテグラは寂しがりやだからな。
もしかしたら、セラス共々私の帰りを今でも待ち続けているかもしれない」
「そっか。それなら協力するわ。私も一緒に帰る方法を探してあげる」
ルイズは穏やかな笑顔を浮かべながら、そう言った。
アーカードの為に尽くしてあげたい。そんな気持ちが、素直に表情に出ていた。
アーカードはそんなルイズの言葉と、真っ直ぐ己を見つめる鳶色の瞳に、少しばかり驚いた顔を見せる。
その後に、ルイズのように笑みを浮かべて言った。
ルイズの想いが、目と目を通じて伝わる。
「いや、それには及ばん。インテグラは大事だ、だがルイズ。お前も大事だ。故にどちらかを贔屓することはない」
「でも、会いたいでしょ?」
ルイズは眉を八の字にして、アーカードを見つめる。
主人に慮られて心配されるなんて、とアーカードは笑った。
「フッ、主がそこまで言うのであれば、そうだな・・・・・・後30年か40年くらいここにいて、それから帰るとしようか。
なに、インテグラならそれくらい待っていてくれるだろう。こっちで30年、向こうで30年。半々に分けるとしようか。
ルイズもインテグラも私の愛しいあるじ、だからな。気長に帰る方法は探せばよい。
尤もそうなると、ルイズの死を看取ってやれんが・・・・・・の」
冗談めかして言うアーカードに、ルイズはつられて、二人合わせるように笑う。
「構わないわよ。私だけしわくちゃのおばあちゃんになっちゃって。
でもアーカードは姿が変わらず傍にいられたんじゃあ、なんか嫉妬しちゃいそうだし」
「年老いても変わらないものがある。いや、年老いてこそ美しくなるものがある。
それが在り続けるのであれば、老いて外見が変わったとしても・・・・・・美しいままさ」
ルイズは肩を竦めてアーカードと微笑み合う。
もう言葉はいらない。心だけで通じる。そんな絆を、ルイズは感じた。
◆
そう。あの時、ようやくアーカードとの間に真の絆を確認出来た。
本当の意味での主従を感じ入ることができた。
互いが互いを信頼するパートナーになれた。
そう、思える。
アーカードは銃の点検を終えると、左前腕に十字を描くように銃身を置き、サイトを覗き込む。
まずはジャッカル。・・・・・・何も言うまい。夢の事も、今手元にある事実も、何もかも。
次いでカスール、トンプソンと見た後、「よし」と頷き銃をしまう――――――その時だった。
銃声が聞こえた。
当然アーカードが撃ったものではなく、もっと遠くから聞こえたきたもの。
それも一発や二発ではない。何発もの音が聞こえた。
「今の音は・・・・・・?」
「発砲音だな、十中八九。何か起こったのかもな」
ルイズは弾かれたように立ち上がる。
アーカードもそれに応じるかのように、ゆっくりと立ち上がった。
不測の事態が起こったのかもしれない。
降臨祭最終日であるが、油断は出来ない。
ふとアーカードを見ると、ギラついた牙が口から覗いている。
紅い瞳もつり上がり、闘争の愉悦を感じる・・・・・・これ以上ない笑みが、そこに浮かんでいた。
◇
トリステイン・ゲルマニア連合軍は、敗走の最中にあった。
突如として軍の内部に反乱が起き、混乱の中でロサイスまで退却する事となったのである。
三万にも及ぶ離反者は、アルビオン軍と合流して七万の大軍勢となって進撃してきている。
士気も兵力も大きく下がった連合軍に、膨れ上がったアルビオン軍を相手にする力はない。
指揮系統も大いに乱れ、崩れ、軍としての機能は既に果たせない。
兵士たちは皆、蜘蛛の子を散らすようにして、アルビオン大陸から逃れようとしていた。
敗走する連合軍が集結しつつあるロサイスでは、半日の交渉の末にようやく撤退の許可が本国から降りた。
やっとのことで兵達が乗船し始めるも、まだまだ時間は掛かる。
退却が完了する前に、アルビオン軍がロサイスへと到着し、攻撃を開始するのは明白。
全軍が無事に撤退し終える為には約一日、敵軍の足止めが必要であった。
そんな事が可能な手段は――――――、一つしかない。
「・・・・・・殿を、任されたわ」
司令部から戻ってきたルイズは、その命令を自身で再確認するかのように・・・・・・そう言った。
両目を瞑り、浮かない色をその表情に見せている。
「アルビオンの退き口・・・・・・か」
アーカードは煙草を吹かしながら呟く。情報が錯綜していて実態が掴めない。
サウスゴータでは退却の命令もあり、結局戦わずじまいでロサイスまで戻ってきた。
だが、"命令"が出た。
かつての友軍を含めたアルビオン軍と、"戦っていい"ということだ。
◇
白みつつある、夜明け前の空。
丘の上に、ルイズとアーカードは立っていた。
「テファ達の村が・・・・・・少し近いわね」
「まぁ、大丈夫だろう」
地平を見れば、七万のアルビオン軍。
「・・・・・・随分な強行軍みたいね」
七万の大群は、緩い地響きを自分達に届ける。
いざ目の前にすると、遠目でも圧倒される光景だ。
「本当に『エクスプロージョン』も『イリュージョン』もいらないの?」
「問題ない」
そう言うとアーカードは片手で棺桶を持ち上げ歩いて行き、ルイズもそれに続いた。
アーカードから聞かされた『拘束制御術式』、『零号開放』の詳細。
ワルド戦で見せたのとはまるで違う。たった一人の軍団たるその能力。
孤軍奮闘たる今の状況におあつらえ向きな、恐るべき吸血鬼の性質。
アーカード達とアルビオン軍の相対距離がどんどん狭まっていく。
適当なところでアーカードは棺桶を置き、ルイズを止める。
棺桶よりさらに前に出て、アーカードは長い黒髪を風に靡かせ然るべき時を待つ。
ロ ン ド
ルイズは目を瞑り自問する。今から見ることになるだろう、死の輪舞曲。
七万の人間を殺す"覚悟"。自分がたった今から下す命令一つで、敵軍は殲滅される。
姫さまの頼みでアルビオンに来た時。
空賊扮する、故ウェールズ皇太子達に襲われた時。
アーカードは言った。殺すのは、わたしの殺意。
今、彼らを、アルビオン軍を、目の前の七万人を殺すのは、・・・・・・私の殺意。
それが――――――最後の、いちじくの葉。
短いのか長いのか・・・・・・わからない時間。ルイズは自問し続けた。
そして、紅い瞳を見開いて狂喜の笑みを浮かべたアーカードが口を開く。
「そろそろ、頃合か。・・・・・・さあ!ルイズ!!」
「・・・・・・覚悟、完了」
ゆっくりとルイズは目を開く。
既に敵軍は、はっきりと確認出来るほどのところまで迫っていた。
マイ マスター オーダー
「あるじよ!!我があるじよ!!我が主人ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ!!命令を!!」
アーカードが叫び、ルイズは大きく息を吸い込んだ。そして高らかに――――――。
スレイブ
「我が下僕、吸血鬼アーカードよ!!命令する!!」
ルイズはアーカードの先に見える、アルビオン軍を鋭く見据えた。
そして勢いよく右手を水平に、真っ直ぐ横に伸ばす。
「総滅せよ、彼らを生かしてこれ以上進ませるな」
「白衣の軍には白銀の銃を以って、朱に染めよ」
「黒衣の軍には黒鉄の銃を以って、朱に染めよ」
「一木一草、尽く我らの敵を赤色に染め上げよ」
「見敵必殺!」
「見敵必殺!!」
アーカードは、深く、静かに、口を開いた。
マイマスター
「了解。認識した。我が主」
――――拘束制御術式零号 開放――――
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