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「ルイズとヤンの人情紙吹雪-04」(2009/04/25 (土) 20:22:38) の最新版変更点
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#navi(ルイズとヤンの人情紙吹雪)
ヤンは信じられなかった。
成金趣味丸出しの嫌味な建物だが、この学院にはブルジョワどもが群れを成しているだろうことは容易に想像できた。
だって貴族が通う学校だしな。
食堂だって凄く広かった。
アルヴィーズの食堂ってゆーんだって。ふーん。
テーブルの上に用意されている食事だってすごいぞ。
朝からよくもこれだけ食えるな、と思うほどの量だ。
なのに。
なのに自分の目の前にあるものは。
……。
食事?
いや、まさかね~。だってあなたこれは…。
はははははははははは、こやつめ。まさかとは思うが聞いてみるか。
「何コレ?」
「何って、あなたの食事に決まってるじゃない。」
シレッと言うルイズ。
「………………床に……置いてあるぜ?」
「使い魔が座る椅子なんてあると思うの?」
即答するルイズ。
「………。」
「………。」
沈黙する二人。
「…………フッッッザケンナァァーーーーッ!! テメェー舐めてんのか!? こんなんで腹ふくれるバカいるかっての! 椅子ぐらい用意しとけよバカアホマヌケ!」
「ふざけるな、ですって!? バカでアホでマヌケで、ついでにスケベな使い魔に椅子なんて勿体なさ過ぎるわ! あんた私にな、なななななにしたか忘れたとは言わせないわよッ!!」
二人は額を擦り合わせていがみ合う。
「俺がナニしたァーーーー!? 使い魔になってやってオメェの言うとおり洗濯だってしてやったろォが!」
「あ、あんた二度もあんなことしておいてッ………!! 乙女の唇を、あんな奪い方しておいて反省しなさいよッ!!!」
食堂中の視線が二人に注がれている。
コレだけ騒げば当然といえば当然だ。
そして『唇を奪う』や『二度も』と言った単語に皆の関心は、俄然高まってしまった。
「あーーーん? 奪ったなんて人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ お前が『優しくし・て・ネ(ハート』って言うから、二度目は優しくしてやったんだろォが オメェだって気持ちよさそーにしてたじゃん?」
「「「「「!!!」」」」」
観衆がざわめく。
ヒソヒソ え、ルイズ大人の階段を ヒソヒソ 不潔よ… ヒソヒソ 優しくってちょ、オマw ヒソヒソ 朝っぱらからナニを ヒソヒソ。
「な、な、なななな何言ってるのよ! 気持ちいいわけないでしょあんなの!! 気持ち悪いだけよ!!」
ルイズは否定する部分を間違えた。
お陰で周りの群集の在らぬ妄想は加速する。
ヒソヒソ や、やっぱりルイズは…! ヒソヒソ 貴族の婦女子がなんたること…! ヒソヒソ あの男うらやましいぞ! ヒソヒソ。
「あ…」
ルイズは今になってようやく食堂中の視線が集まっていたこと、そして己の迂闊さに気がついた。
リトマス試験紙のように見る見るうちに真っ赤に変色する。
「あ、あう、あ、あぅぅ~~~ッ! ヤ、ヤンッ! もうあんたはご飯禁止よーーーッ!! 出て行きなさい!!」
ルイズはヤンを怒鳴り散らす。
顔はすでに茹蛸だ。
「な、なにーーーー! お、おいちょっと待て! 俺、昨日から何も食べt「さっさと出て行きなさいッ!!」
ヤンの言葉に容赦なく被せて遮る。
有無を言わせぬ一方的な通告。
がーーん。
な、なんだとこの女(アマ)ァーーーーー………。
うぬぬぬぬぬぬぬぬ!
あーーーーーーもー面倒クセェヤローーーだなーー!
だいたい、なんでこの俺様がこんな乳クセーガキにへーコラしたがってんだ?
そーだそーだ、俺っぽくねー。
……もう犯って殺ってちまうかァ?
でもなーーなんかなーーヤりづれーんだよなァ。
なんだか従った方がいいような気がしてくるんだよなぁ…。
……使い魔になったからか?このルーンとやらが関係してんのかねー。
くそーーーウゼーーーーー。
「……………チッ。」
とりあえず退散するか。
ルイズを軽く睨みつけ、渋々といった感じでヤンは食堂を後にする。
去っていくヤンの後ろ姿を眺めているルイズは少し心が痛んだ。
売り言葉、買い言葉でまたケンカになってしまった。
ヤンの性格にも難があるが、自分の性格のせいでもあることをルイズは理解していた。
(な、なによ……すぐ謝ったら許してやったのに……。 うぅ~ な、なにもかもアイツのせいなんだから! だいたいデリカシーが無さ過ぎるのよ、人前であんなこと言うなんて!)
自分で追い出しておいてなんだが、ルイズの良心はチクチク自分を責めてきていた。
そしてヤンを追い出したところで、周りからの視線を消せたわけではない。
食事を素早く終わらせるべく、羞恥に耐えながらルイズは食べ物を手早く口に放り込むのだった。
ヤンは彷徨っていた。
色々あって忘れてたが、そういえば昨日から何も食べてない。
一度、空腹を思い出すとどうにも耐えれそうもなかった。
あっちにいた頃は良かった。
ミレニアムに従っていれば『殺し』も『食事』もやりたい放題。
今はあっちの世界が懐かしく思えた。
「くそーー メイジがどんだけのモンか知らねーが、いっちょ暴れてみるかぁ? 腹へって死にそうだぜ……」
ヤンがバッドエンドフラグを立てつつあるとき、一人の少女に声を掛けられた。
「あれ? ヤンさん、こんな所で何をやっているんですか? 今は朝食の時間のはずですけど… もう食べ終わっちゃったんですか? 早いですねー♪」
「お シエスタちゃーん グッドタイミングーー! 助けてクレー。」
言うやいなやシエスタに抱きつくヤン。
「ちょ、ちょっとヤンさん! いいいいきなり何をするんですか!?」
ゴキャァッ
「ふべっ!」
反射的にシエスタの鉄拳がヤンの右下顎にジャストヒットし吹っ飛んでいく。
「あ! ご、ごめんなさい つい! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、ヤンを抱える。
シエスタは抱きつかれたことなど忘れて、彼を心配した。
「ぐふぅ な、なかなかイイモノ持ってんじゃねーの…」
「申し訳ありません! あ、あの私こんなことをするつもりは……! ですから、あの、その…ミス・ヴァリエールには……何でもしますから! どうかお許し下さい!」
シエスタは涙を浮かべながら、懺悔の言葉を吐いている。
どうやらヤンの主人ルイズを、つまり貴族の権力を恐れているようだ。
「あーokok ルイズなんぞにチクったりする俺に見えるかァ? まぁお詫びという訳じゃネーけどさ……。」
「は、はい! どうぞおっしゃって下さい!」
シエスタは覚悟の瞳でヤンを見つめる。
ごくり。
「飯をクレ」
「え?」
「飯をクレーー」
「そ、そんなことで……よろしいのですか?」
もっとすごいこと(主に性的な意味で)を要求されると思っていたシエスタは呆気にとられた。
ヤンも普段ならそっちを選んだであろうが、よくわからぬ異世界でしかも空腹とくれば勝手が違ってくる。
「俺のヒドイご主人様に今度は飯抜きくらってよォ 貴族ってのは理不尽だぜーーー。 つーわけで飯をくれ」
「はい勿論です! では行きましょう! …あっ!」
シエスタは、まだヤンを抱えていたことに気がつき顔を赤くして飛びのいた。
ごん
当然、抱えられていたヤンは後頭部をぶつける。
その後、再びごめんなさいラッシュに打って出たシエスタ辟易しながら、二人は食堂に向かって歩き出したのだった。
「そうなんですか…ヤンさん、大変なんですね…… それにしてもやっぱり貴族様方はヒドイです! ヤンさんにそんな仕打ちをするなんて!」
ヤンの話し(一方的かつ正確性に欠ける情報)を聞いたシエスタは憤慨していた。
頬を膨らませプリプリしている。
「そーだろそーだろ ルイズはヒデーヤローだ。 やっぱ女はさぁーーシエスタみてーじゃないとな」
ヤンはシエスタを褒めちぎる。
事実、シエスタは欠点らしい欠点が見当たらぬ少女だった。
これまでろくな女に恵まれてこなかったヤンからすれば、ざっと見た感じココの女達のレベルは正に奇跡に近い。
「や、やだヤンさんたら♪ そんなこと言ったらミス・ヴァリエールにどやされますよぉ! あ、着きました」
ピタッ
シエスタは足を止め指を刺す。
地下の廊下を歩いたその先は厨房だった。
中では男達がせわしく動き回っている。
「マルトーさんマルトーさん!」
マルトーと呼ばれた男が振り向きシエスタを見る。
恰幅のいい厳つい男だ。
「おう! シエスタか ………おんやぁ…? 隣の男はひょっとして…お前の『コレ』か?」
シエスタの隣に視線をやると小指を突きたてながらニヤッと笑うのだった。
「な、なに言ってるんですかマルトーさん! ちちち違いますよ! この方はヤン・バレンタインさんと仰ってミス・ヴァリエールの使い魔をなさっている方です!」
シエスタは顔をゆでだこにしながら必死に弁明を試みる。
マルトーはおおっとシエスタの言葉に反応する。
「あんたが召喚された平民か! 噂は聞いてるぜ、大変みたいだな! だはははははは!」
たった一夜でここまで自分の噂が広まっていることにヤンは多少驚きながらも、軽く会釈する。
「マルトーさん、ヤンさんに料理を出してもらっても良いでしょうか 主人に朝食を抜かれてしまったみたいで……」
先ほどまで上機嫌そうに見えたマルトーは、見る見るうちにその顔を怒りに歪ませる。
「チッ! まったく貴族って奴は……! 何があったかは知らんがどうせくだらん理由でそんなことになったんだろう? 賄いでよけりゃあどんだけでも食ってくれ 平民は助け合わなきゃな」
どうやらかなり貴族というモノが嫌いらしい。
貴族という単語にすら嫌悪感を抱いているようだ。
マルトーはヤンに厨房に入るよう促す。
ヤンは言われるがままにマルトーについて行く。
本当なら普通の食い物では吸血鬼である自分の腹は完全には満たされないが、無いよりはマシだった。
ふと横を見ると、こちらを見ていたシエスタと目が合う。
「ありがとなシエスタ 愛シテルーーー!」
笑顔で手をヒラヒラ振って厨房に入っていった。
…………。
………………。
シエスタは動かない。
完全に固まっていた。
笑顔と言葉にやられていた。
ヤンの言葉が頭の中をリフレインする。
(あいしてる? アイシテル? AISITERU? 哀史輝? 愛してる? 亜威死手瑠? IC・TEL? ん? 愛してる? ………………愛してる!!?)
「あ、あう…あぅ…あ、あああああううううううぅうぅぅぅぅぅ……う、うわわわわぁーーーーー!!」
顔だけでなく全身を真っ赤に染め、叫びながら走り去った。
途中で3回転んだ。
「ごっそーさん、うまかったぜマルトー また頼むわぁ」
「おう! ヤンこそいい食いっぷりだったぜ また来な。 たっぷり食わせてやるぜ!」
マルトーは親指をビシッと立てヤンを見送る。
なぜだか気に入られてしまったらしい。
貴族が嫌いなため、貴族に嫌われた奴を気に入るという一種の倒錯した心理と言うヤツだろうか。
とりあえず腹が満たされたヤンは、次に何をしようか考えた。
今頃はルイズも食事を終えているだろう。
(とりあえずルイズのとこ戻るか。 またうるさくされたらたまんねーしな)
ルイズが食後、どこに行くのかは知らなかったが「匂い」を辿ることぐらい自分の身体能力ならわけなかった。
だが少し違和感を感じていた。
不快なものではなかったが、気にはなった。
(なーんかこっちに来てから、調子がいいな。 体が軽いっつーかなんつーか それに鼻もよく利く)
あちらの世界にいた時より鋭敏になった嗅覚でルイズの位置はすぐに特定できた。
そこの角を曲がれば…。
どんっ。
「キャッ!」
曲がった瞬間、なにかにぶつかった。
ヤンの目の前には桃色髪の小柄な少女が、鼻を押さえて尻餅をついていた。
「い、痛いじゃない! 気をつけなさ………ってヤ、ヤンッ!?」
目の前の少女は匂いの源…すなわちルイズだった。
「ど、どこ行ってたのよ……主人を置いてどっか行っちゃうなんて、使い魔失格なんだからね!」
鼻をさすりながらヤンを見上げる。
本人は主人としての威厳を保っているつもりだろうが、いかんせんまったく無い。
「……オマエなァ…四六時中オメーに付き纏えってのか? 用足す時も風呂入るときもゼーーンブ一緒がイイのかぁ? そんなに俺と一緒がいいのかよーー」
ルイズは慌てて立ち上がり言い返す。
「何言ってるのよ! そ、そういう意味で言ってるんじゃないわよ!! 主人である私の許可なしに使い魔が勝手にどっか行っちゃダメって言ってんの!!」
片手は腰に、片手はヤンを力強く指差す。いつものポーズだ。
しかし腰に当てられた手にはパンが握られていた。
この貴族の誇りの塊の少女がパンを歩き食いするなぞ、とても考えられない。
短い付き合いだが、ヤンにはそれが理解できた。
「なにそのパン。 どしたの? オメェが喰うの?」
その瞬間、ルイズはあッという表情をして慌ててパンを隠す。
「こ、これは…その……な、なんでもないのよ……えと…その……そ、そう! 犬にね! あげようと思ったの! その…捨て犬を見かけたから、お腹減ってるかなって思って!」
明らかに慌てている。
見え見えすぎる。嘘の下手なヤツだ。
ヤンはニヤッと笑い、ちょっとカラカってやろーかな。
そんな気持ちがムクムクともたげてくる。
パンを持つ理由などどーでもいいが、慌てっぷりを堪能するか。
「へー まさか貴族のお嬢様も歩き食いなんかするとはなぁ! 俺のご主人様はそんな品無しだったとはなぁ 僕チンショックぅ~」
ヤンは大袈裟に身振り手振りを加えて嘆く。
その姿を見たルイズは向きになって食いついてくる。
「なに言ってるのよ! 私がそんな卑しいまねするわけ無いでしょ!」
「え~~ホントですかぁ~ご主人様ーーー?」
ヤンの動きはまるで三文オペラだ。
猿芝居とはこのことだろう。
「本当よ! このパンはアンタの分で……あッ!」
あからさまにしまった!という表情で硬直する。
「ん? 俺の分?」
ルイズは急に勢いを無くし、ヤンを強く睨んでいた瞳も自信なさげに下を向いてしまった。
ヤンも予想外の返答にからかうのを忘れる。
「うぅ~~~…………そ、その……アンタがさっき朝食たべないで行っちゃうから……お、お腹空いてるかなって思って…」
その言葉にヤンは心底感心したような声を出す。
「ほほぉーーーーーーへぇ~~~~~ 俺の分をねぇ~……」
ジロジロとルイズを見つめるヤンに、ルイズは顔を赤くしてがなり立てる。
「か、感謝しなさいよ! あんな無礼を働いた使い魔のために、わざわざパンを恵んであげるんだからね!!」
そう言いながらパンをヤンにビシッと差し出す。
「朝食……抜きだったんじゃねーの?」
怪訝そうな顔で尋ねる。
「だ、だから…今回は……ゆ、許してあげるわ。 で、でも調子に乗るんじゃないわよ! 次は無いわ! 次は絶対ホントにご飯ぬきにするんだから!」
ヤンは感心した。
まさかこんなに早く機嫌を直すとは思っていなかった。
当初の印象だと、かなり尾を引くタイプだと思ったが。
それにしても…悪いと思ってるならもう少しスマートな表現方法があるだろうに。
「……ふーん まぁそういうことならな…。 もらっとくぜこのパン。」
ヤンはそう言ってルイズからパンを受け取り、瞬く間に完食する。
その様子を見たルイズは、安堵したのか少しばかり優しい笑顔を浮かべる。
(……こんな風にも笑えんのかよ。 もーちっと肩の力抜いて、いつもこんな風にしてりゃあいいのによ。)
ヤンはもとの世界で、肩に渾身の力を込め続けていた女を思い出す。
あんなにオッカナイ女は初めて見た。
(肩肘張ってたらヘルシングの糞ビッチちゃんみたいに老け顔になっちまわーー)
せっかく生き延びたのだから、あのヘルシングを自分の前に跪かせたい。
ひーひー喘がせて命乞いさせて、ミンチにしてズタ袋にぶち込んでやる。
もっとも異世界にいる今となっては叶わぬ願いだが。
「そーいやお前、こんなとこでのんびりしててイイのか? 授業始まるんじゃねーの? よくわかんねーけど」
「あ! そ、そうよ これから行くところだったの! あんたのせいで無駄な時間とっちゃったじゃない! 遅刻したらどうしてくれるのよ!」
「俺カンケーないし」
「何言ってるのよ、アンタも一緒に行くのよ! ほら急ぎなさい!」
ルイズはヤンの手をとり一目散に駆け出す。
「えーーーーー授業なんて受けたくねーーーーヤダーーーいやだーーーーー俺、勉強超嫌いーーーーーーーッ!」
ルイズに引きずられながらブーたれる。
「別に誰もアンタに授業受けさせるつもりは無いわよ! でも召喚の後の授業は顔見せだからいないとダメなの!」
やだやだやだやだーーーーーーーーー。
ヤンの慟哭は空しく廊下にこだまして消えた。
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