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「zeropon!-08」(2009/05/10 (日) 18:34:08) の最新版変更点
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#navi(zeropon!)
第八話
フーケ追撃
「だめだめじゃな、おぬしら」
オールド・オスマンの穏やかな叱責に教師陣は縮こまってしまった。
今現在、この学院長室には学院長オールド・オスマンと教師たち。
そしてルイズとメデン、キュルケとタバサがいた。
「・・・ちょっとツェルプストー、あんたほんとになんでいるの?」
「あら、ヴァリエール。そんな小さなことを気にしちゃいけないわ」
「そうそう」
「・・・あなたもよ、タバサ」
欠片も関わってないはずのキュルケとタバサは、どこからかルイズが呼ばれたことを聞きつけたのか部屋に入るときにちゃっかり一緒に入ってきていた。
しかもキュルケはまったくお構いなしに、テーブルの上の茶菓子をむさぼっている。
「まったく・・・生徒が戦って教師がぬくぬくとしておるなぞ言語道断じゃ」
オスマンの糾弾は続く。あの日の夜、結局騒ぎを聞きつけた当直の教師がやってきたのは全てが終わった後。
フーケなど影も形も無く、ルイズたちが帰ってきてやっと事情がわかったぐらいである。
「しかし・・・こまったのう。奪われた『生命の芽』・・・いやそれよりもこのまま逃がしたとあっては、魔法学院の名折れというもんじゃ、というわけでミスタ・ギトー」
「は、はい!オールド・オスマン!なんでしょうか?!」
隅っこのほうで縮んでいた当直だった教師ギトーがびくりとその姿勢を正す。
「ここは汚名返上ということでとってこんか?」
「へえ?!!」
いきなりのことに、両手を伸ばしながらぴょんっと浮くほど驚くギトー。
「し、しかし、いまだにどこに逃げたかすら・・・」
「それならばご安心を」
そういって入ってきたのはオスマンの秘書、ミス・ロングビルである。
「おお、ミス・ロングビル。いままでどこに?」
「はい、フーケの後を追っておりました」
「なんと!してフーケはどこに?」
「ここから四時間ほどの農村の近くの小屋に入る男を確認いたしました」
その報告にざわめく教師達、ルイズたちもその報告を真剣に聞いている。
どんどんと青ざめていくのはギトーの顔色。
「ふむ!これで賊の居場所は分かった。後は捕らえるのみだが敵はメイジばかりを狙うほどの凄腕。生半可なものならば生きては帰れん。そこで、常々『風は最強』といわれるミスタ・ギトーがやはり適任じゃろうて。なあミスタ・・・?ん?ミスタ・ギトーは?」
ふと気づけば、ギトーがいない。いた場所には塵一つ存在しない。
まるで最初からそこに存在しなかったのように。
「偏在・・・だと?!」
「スクウェアクラスの技術をこんなところで!?」
わあわあ叫ぶ教師陣。呆れたオスマンは、
「仕方あるまい・・・誰か他に行ってくれんか?」
その問いに教師達はオスマンから一様に目を背け黙りこくった。
しかし、そんな中一本の杖が上がる。それは教師ではなく、
ルイズ達・・・でもなくその横からあげられていた。
「その任、私達にお任せを」
杖の主はメデンだった。
がらごろがらごろ
街道を幌馬車がすすむ。手綱を握るのはロングビルだ。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、ルイズにやっぱりついてきたキュルケにタバサ(は、ほとんどしゃべらないが)、ロングビル、メデンと女四人に一匹もいればわりと騒がしい車内であった。
内容的にはギトーの事だが、本人が聞けば三回は自殺するだろう。
ふとキュルケがロングビルに聞く。
「そういえばミス・ロングビルもメイジなんですか?」
「ええ、でもライン程度のものですが」
ロングビルが背を向けたまま答える。
「それじゃあミス・ロングビルも貴族なんですか?」
ルイズの問いにロングビルは少し戸惑った感じで黙ってしまった。
そして彼女が口を開こうとした時、
「人の過去をあんまり探るもんじゃねえ」
低く重い声が響いた。その声は幌馬車の奥の暗闇から・・・いや、黒い塊から発せられていた。
それはパタポンだった。しかしその体躯は普通のパタポンと違いとても大きい。
通常の三倍はあろうかというほど大きなパタポンはその身を黒いマントと、黒い肩当で包み、幌馬車の奥で目を瞑り蹲っていた。デカポンと言われる種族である彼はメデンが護衛にと、連れてきたのであった。
「違うか?嬢ちゃん」
「ちょっと!嬢ちゃんって!使い魔の癖に生意気よ!」
「ガ・ツー!ルイズ様に向かってそのような!」
憤然と抗議するルイズ、メデンをガ・ツーと呼ばれたパタポンはちらりと、その鋭い視線で一瞥すると
「生憎、ご主人様ってやつを持った覚えもねえ」
といって、再び目を閉じた。
「なんですってえ!」
「ちょっとルイズ落ち着いて、あぶないわよ」
憤然と立ち上がったルイズをキュルケがたしなめる。
「でもキュルケ!こいつが!こいつが!」
「あら?使い魔を使いこなすのもメイジの実力じゃない?」
「ううー。もういい!絶対に認めさせてやるんだから!」
勢い良く座ったルイズはそっぽをむいてしまう。
「すいません。ルイズ様。ガ・ツーはもともと傭兵なので・・・」
ぷりぷりと怒るルイズをなだめるメデン、そんなルイズを愛おしそうになでるキュルケ。本を読むタバサ。
相変わらず影に蹲るガ・ツー。そして薄い笑みを浮かべるロングビル。
「さあもうすぐですよ」
馬車は目的の小屋に近づきつつあった。
「アレがそうね」
目的の小屋とその周辺が見渡せる位置の茂みにルイズたちは隠れていた。
「ちょっと!もうちょっと縮みなさいよ!」
隠れている、のだがガ・ツーの巨体は茂みに入りきれずほとんどはみ出ている。
「悪いな、作りがでかいもんでね。で、どうするんだ?」
「これだけ近づいても何もリアクションがないってことは・・・」
「多分、罠。でなければもういない」
キュルケの考えをタバサが補足する。既に事件から九時間。
九時間もおとなしくしている盗賊のほうがおかしいのである。
「順当に考えれば偵察ね」
キュルケの提案にうなずき、ルイズが名乗り出ようとしたとき、
「まあ、うだうだしてもしかたねえ。俺が行く」
ルイズの提案を聞く間もなくガ・ツーは立ち上がりずんずんと小屋への歩を進める。
「ちょっと!まちなさい!私も行くわよ!」
「あああ、ルイズ様!軽率な行動はあぶのう御座います!」
ガ・ツーの後を慌てて追うルイズと、そんなルイズを慌てて追うメデン。
「あらら、ばらばらになっちゃたわね・・・?タバサ、ミス・ロングビルは?」
「森を探して来ると言っていた」
タバサの無機質な答え。
「ふうん?へんなの」
「どうする?」
「んーそうねえ。まあとりあえず待機ね」
キュルケがとりあえず待つという判断を下したと同じ頃。
その背後の森から巨大な何かの影がキュルケを襲いつつあった。
「ふん、やっぱりもぬけの殻か」
ガ・ツーは小屋の前まで来ると、堂々と小屋の扉を蹴破り中に入っていった。
中に充満するかび臭いにおい。埃が床にうっすらと積もっており、
ここが長年使われてないことを示す。
ガ・ツーはそのまま奥の部屋を探し出し、ルイズとメデンも手前の部屋を探し出す。
「これは・・・」
メデンが床の上の何かしらに気づいた。
「どうかしたの?」
「いえ・・・なんでもありません」
ルイズの頭に疑問符が浮かんだ瞬間、
「おい!メデン!こっちにきてみろ!」
ガ・ツーの声が奥から響いた。ルイズとメデンが行くと
一抱えはある箱の前にガ・ツーがいた。
「これを見ろ」
そういって箱の前からどくガ・ツー。ルイズとメデンが中を覗くと、
「な!これは!」
箱を除いたメデンが驚愕に目を見開く。
「まさか、こいつが『生命の芽』だとはな・・・」
「これを・・・知ってるの?貴方達」
同様に驚くガ・ツーにルイズが聞く。
「ああ・・・こいつは覇王の・・・」
ガ・ツーが答えようとしたとき、
ずずん・・・
響くは昨夜と同じ遠雷のような地響き。
「おいでなすったか」
弾かれたように小屋の外に飛び出ていくルイズ達。
外に出ればそこには見上げんばかりの巨大な影。
フーケのゴーレムだ。そして足元にはキュルケとタバサがいる。
二人は突如現れたゴーレムに十分な距離をとれずにいた。
二人に振り下ろされるは巨人の足。かろうじて避けたもののほとんど爆発に近いその一撃をもろに食らい、その余波で吹き飛ぶ二人。
タバサはすぐに体勢を立て直すが、より近かったキュルケはごろごろと土くれと一緒に転がる。三メイルほど転がりようやく止まるが、体を強く打ち呼吸もままならない。そんなキュルケを狙い再び振り上げられたゴーレムの足がキュルケを葬らんと迫る。
「ああぁ!!ファイアアアアボオオオルッ!」
ルイズの絶叫と共に放たれたそれは、いつもの失敗魔法も本来のファイアボールすらも遥かに凌駕した威力で巨大なゴーレムの足を、膝下から吹き飛ばした。
バランスを崩したゴーレムは後ろに轟音と共に倒れていく。
「大丈夫?!」
倒れたキュルケの元にルイズが駆け寄り抱き起こす。タバサもすぐにやってきた。
「あら、ライバルを・・・助けるなんて随分、ぐうっ、熱血ね」
「本当よ!私もやきが回ったかしら!」
足を痛めたらしく、タバサと一緒にルイズが肩を貸して立たせる。
「離れるわよ!」
っと三人が歩き出す、がそれを覆い隠す黒い影。ゴーレムが起き上がろうとしている。
「なんで?!足を吹き飛ばしたのに!」
見ればルイズが吹き飛ばした足は大地そのものとくっついており、起き上がるときには周辺の土を吸収し完全に修復されていた。
「ちょっと・・・ルイズ、タバサ」
「何よ!」
必死にその小さな体でキュルケを運ぶ二人。
「私を置いて、いきな、さい!この、ままじゃ!『馬鹿!』」
キュルケの提案を前を向いたまま一言でうち消すルイズ。
「馬鹿」
そして同じように前を向いたまま言うタバサ。
「あんた見捨てて逃げるほど!貴族辞めてないわよ!感謝しなさい、この私が敵に背を向けてんだから!」
「ルイズ・・・」
しかし、そんなルイズ達を無情にも叩き潰そうと振り上げられる拳。
「ルイズ!タバサ!逃げて!」
「五月蝿い!!」
「だいじょうぶ」
だが急ぎすぎて三人は足をとられて諸共に倒れる。
そして、三人を襲う巨人の一撃、しかしその間に押し入る黒い風。
それはその暴力の前に片腕だけ、を差し出す。
ずん!
そのあまりの質量に黒い影の足元が砕ける。しかしそれは、受け止めた。
ルイズ達への一切の危害を及ぼさず。数トーンはあろうかという質量を受け止めた。
「ったく・・・あぶなっかしいお嬢様だな」
影の名はガ・ツー。そして遅れてやってきたメデンがルイズに声をかける。
「お怪我は御座いませんか?ルイズ様」
「ガ・ツー・・・メデン・・・」
しりもちをついた体勢で二人を仰ぎ見るルイズ。
「ガ・ツー、まだダメですか?」
「ああ?」
「ルイズ様はまだ御嬢ちゃんですか?」
メデンの問いにゴーレムの拳をぎしぎしと音がなるほどの力で受けとめながら答える。
「は!御嬢ちゃんも御嬢ちゃんだよ、危なっかしいマネしやがって。
考えねえで行動してるうちは御嬢ちゃんさ」
そして三人を一瞥して前を向くと言った。
「ほら、あぶねえからとっとと下がりな、ご主人様」
と、空いた片手をひらひらさせながら言った。それを聞いたルイズ。
ぽかん、と一瞬ほうけた顔をした後、またいつもの勝気な瞳をして、キュルケを再びタバサと一緒に抱える。そして
「負けるんじゃないわよ!ガ・ツー!」
といって、キュルケ達と小屋のほうに移動していった。
「さてガ・ツー・・・巫女の名において命ずる。」
メデンの言葉と共に、ガ・ツーがマントから覗くモノの柄を掴む。
「薙ぎ払え」
そしてガ・ツーが取り出した其れは、
ー大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎたー
ーそれはまさに『鉄塊』だったー
#navi(zeropon!)
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第八話
フーケ追撃
「だめだめじゃな、おぬしら」
オールド・オスマンの穏やかな叱責に教師陣は縮こまってしまった。
今現在、この学院長室には学院長オールド・オスマンと教師たち。
そしてルイズとメデン、キュルケとタバサがいた。
「…ちょっとツェルプストー、あんたほんとになんでいるの?」
「あら、ヴァリエール。そんな小さなことを気にしちゃいけないわ」
「そうそう」
「…あなたもよ、タバサ」
欠片も関わってないはずのキュルケとタバサは、どこからかルイズが呼ばれたことを聞きつけたのか部屋に入るときにちゃっかり一緒に入ってきていた。
しかもキュルケはまったくお構いなしに、テーブルの上の茶菓子をむさぼっている。
「まったく…生徒が戦って教師がぬくぬくとしておるなぞ言語道断じゃ」
オスマンの糾弾は続く。あの日の夜、結局騒ぎを聞きつけた当直の教師がやってきたのは全てが終わった後。
フーケなど影も形も無く、ルイズたちが帰ってきてやっと事情がわかったぐらいである。
「しかし…こまったのう。奪われた『生命の芽』…いやそれよりもこのまま逃がしたとあっては、魔法学院の名折れというもんじゃ、というわけでミスタ・ギトー」
「は、はい!オールド・オスマン!なんでしょうか?!」
隅っこのほうで縮んでいた当直だった教師ギトーがびくりとその姿勢を正す。
「ここは汚名返上ということでとってこんか?」
「へえ?!!」
いきなりのことに、両手を伸ばしながらぴょんっと浮くほど驚くギトー。
「し、しかし、いまだにどこに逃げたかすら…」
「それならばご安心を」
そういって入ってきたのはオスマンの秘書、ミス・ロングビルである。
「おお、ミス・ロングビル。いままでどこに?」
「はい、フーケの後を追っておりました」
「なんと!してフーケはどこに?」
「ここから四時間ほどの農村の近くの小屋に入る男を確認いたしました」
その報告にざわめく教師達、ルイズたちもその報告を真剣に聞いている。
どんどんと青ざめていくのはギトーの顔色。
「ふむ!これで賊の居場所は分かった。後は捕らえるのみだが敵はメイジばかりを狙うほどの凄腕。生半可なものならば生きては帰れん。そこで、常々『風は最強』といわれるミスタ・ギトーがやはり適任じゃろうて。なあミスタ…?ん?ミスタ・ギトーは?」
ふと気づけば、ギトーがいない。いた場所には塵一つ存在しない。
まるで最初からそこに存在しなかったのように。
「偏在…だと?!」
「スクウェアクラスの技術をこんなところで!?」
わあわあ叫ぶ教師陣。呆れたオスマンは、
「仕方あるまい…誰か他に行ってくれんか?」
その問いに教師達はオスマンから一様に目を背け黙りこくった。
しかし、そんな中一本の杖が上がる。それは教師ではなく、
ルイズ達…でもなくその横からあげられていた。
「その任、私達にお任せを」
杖の主はメデンだった。
がらごろがらごろ
街道を幌馬車がすすむ。手綱を握るのはロングビルだ。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、ルイズにやっぱりついてきたキュルケにタバサ(は、ほとんどしゃべらないが)、ロングビル、メデンと女四人に一匹もいればわりと騒がしい車内であった。
内容的にはギトーの事だが、本人が聞けば三回は自殺するだろう。
ふとキュルケがロングビルに聞く。
「そういえばミス・ロングビルもメイジなんですか?」
「ええ、でもライン程度のものですが」
ロングビルが背を向けたまま答える。
「それじゃあミス・ロングビルも貴族なんですか?」
ルイズの問いにロングビルは少し戸惑った感じで黙ってしまった。
そして彼女が口を開こうとした時、
「人の過去をあんまり探るもんじゃねえ」
低く重い声が響いた。その声は幌馬車の奥の暗闇から…いや、黒い塊から発せられていた。
それはパタポンだった。しかしその体躯は普通のパタポンと違いとても大きい。
通常の三倍はあろうかというほど大きなパタポンはその身を黒いマントと、黒い肩当で包み、幌馬車の奥で目を瞑り蹲っていた。デカポンと言われる種族である彼はメデンが護衛にと、連れてきたのであった。
「違うか?嬢ちゃん」
「ちょっと!嬢ちゃんって!使い魔の癖に生意気よ!」
「ガ・ツー!ルイズ様に向かってそのような!」
憤然と抗議するルイズ、メデンをガ・ツーと呼ばれたパタポンはちらりと、その鋭い視線で一瞥すると
「生憎、ご主人様ってやつを持った覚えもねえ」
といって、再び目を閉じた。
「なんですってえ!」
「ちょっとルイズ落ち着いて、あぶないわよ」
憤然と立ち上がったルイズをキュルケがたしなめる。
「でもキュルケ!こいつが!こいつが!」
「あら?使い魔を使いこなすのもメイジの実力じゃない?」
「ううー。もういい!絶対に認めさせてやるんだから!」
勢い良く座ったルイズはそっぽをむいてしまう。
「すいません。ルイズ様。ガ・ツーはもともと傭兵なので…」
ぷりぷりと怒るルイズをなだめるメデン、そんなルイズを愛おしそうになでるキュルケ。本を読むタバサ。
相変わらず影に蹲るガ・ツー。そして薄い笑みを浮かべるロングビル。
「さあもうすぐですよ」
馬車は目的の小屋に近づきつつあった。
「アレがそうね」
目的の小屋とその周辺が見渡せる位置の茂みにルイズたちは隠れていた。
「ちょっと!もうちょっと縮みなさいよ!」
隠れている、のだがガ・ツーの巨体は茂みに入りきれずほとんどはみ出ている。
「悪いな、作りがでかいもんでね。で、どうするんだ?」
「これだけ近づいても何もリアクションがないってことは…」
「多分、罠。でなければもういない」
キュルケの考えをタバサが補足する。既に事件から九時間。
九時間もおとなしくしている盗賊のほうがおかしいのである。
「順当に考えれば偵察ね」
キュルケの提案にうなずき、ルイズが名乗り出ようとしたとき、
「まあ、うだうだしてもしかたねえ。俺が行く」
ルイズの提案を聞く間もなくガ・ツーは立ち上がりずんずんと小屋への歩を進める。
「ちょっと!まちなさい!私も行くわよ!」
「あああ、ルイズ様!軽率な行動はあぶのう御座います!」
ガ・ツーの後を慌てて追うルイズと、そんなルイズを慌てて追うメデン。
「あらら、ばらばらになっちゃたわね…?タバサ、ミス・ロングビルは?」
「森を探して来ると言っていた」
タバサの無機質な答え。
「ふうん?へんなの」
「どうする?」
「んーそうねえ。まあとりあえず待機ね」
キュルケがとりあえず待つという判断を下したと同じ頃。
その背後の森から巨大な何かの影がキュルケを襲いつつあった。
「ふん、やっぱりもぬけの殻か」
ガ・ツーは小屋の前まで来ると、堂々と小屋の扉を蹴破り中に入っていった。
中に充満するかび臭いにおい。埃が床にうっすらと積もっており、
ここが長年使われてないことを示す。
ガ・ツーはそのまま奥の部屋を探し出し、ルイズとメデンも手前の部屋を探し出す。
「これは…」
メデンが床の上の何かしらに気づいた。
「どうかしたの?」
「いえ…なんでもありません」
ルイズの頭に疑問符が浮かんだ瞬間、
「おい!メデン!こっちにきてみろ!」
ガ・ツーの声が奥から響いた。ルイズとメデンが行くと
一抱えはある箱の前にガ・ツーがいた。
「これを見ろ」
そういって箱の前からどくガ・ツー。ルイズとメデンが中を覗くと、
「な!これは!」
箱を除いたメデンが驚愕に目を見開く。
「まさか、こいつが『生命の芽』だとはな…」
「これを…知ってるの?貴方達」
同様に驚くガ・ツーにルイズが聞く。
「ああ…こいつは覇王の…」
ガ・ツーが答えようとしたとき、
ずずん…
響くは昨夜と同じ遠雷のような地響き。
「おいでなすったか」
弾かれたように小屋の外に飛び出ていくルイズ達。
外に出ればそこには見上げんばかりの巨大な影。
フーケのゴーレムだ。そして足元にはキュルケとタバサがいる。
二人は突如現れたゴーレムに十分な距離をとれずにいた。
二人に振り下ろされるは巨人の足。かろうじて避けたもののほとんど爆発に近いその一撃をもろに食らい、その余波で吹き飛ぶ二人。
タバサはすぐに体勢を立て直すが、より近かったキュルケはごろごろと土くれと一緒に転がる。三メイルほど転がりようやく止まるが、体を強く打ち呼吸もままならない。そんなキュルケを狙い再び振り上げられたゴーレムの足がキュルケを葬らんと迫る。
「ああぁ!!ファイアアアアボオオオルッ!」
ルイズの絶叫と共に放たれたそれは、いつもの失敗魔法も本来のファイアボールすらも遥かに凌駕した威力で巨大なゴーレムの足を、膝下から吹き飛ばした。
バランスを崩したゴーレムは後ろに轟音と共に倒れていく。
「大丈夫?!」
倒れたキュルケの元にルイズが駆け寄り抱き起こす。タバサもすぐにやってきた。
「あら、ライバルを…助けるなんて随分、ぐうっ、熱血ね」
「本当よ!私もやきが回ったかしら!」
足を痛めたらしく、タバサと一緒にルイズが肩を貸して立たせる。
「離れるわよ!」
っと三人が歩き出す、がそれを覆い隠す黒い影。ゴーレムが起き上がろうとしている。
「なんで?!足を吹き飛ばしたのに!」
見ればルイズが吹き飛ばした足は大地そのものとくっついており、起き上がるときには周辺の土を吸収し完全に修復されていた。
「ちょっと…ルイズ、タバサ」
「何よ!」
必死にその小さな体でキュルケを運ぶ二人。
「私を置いて、いきな、さい!この、ままじゃ!『馬鹿!』」
キュルケの提案を前を向いたまま一言でうち消すルイズ。
「馬鹿」
そして同じように前を向いたまま言うタバサ。
「あんた見捨てて逃げるほど!貴族辞めてないわよ!感謝しなさい、この私が敵に背を向けてんだから!」
「ルイズ…」
しかし、そんなルイズ達を無情にも叩き潰そうと振り上げられる拳。
「ルイズ!タバサ!逃げて!」
「五月蝿い!!」
「だいじょうぶ」
だが急ぎすぎて三人は足をとられて諸共に倒れる。
そして、三人を襲う巨人の一撃、しかしその間に押し入る黒い風。
それはその暴力の前に片腕だけ、を差し出す。
ずん!
そのあまりの質量に黒い影の足元が砕ける。しかしそれは、受け止めた。
ルイズ達への一切の危害を及ぼさず。数トーンはあろうかという質量を受け止めた。
「ったく…あぶなっかしいお嬢様だな」
影の名はガ・ツー。そして遅れてやってきたメデンがルイズに声をかける。
「お怪我は御座いませんか?ルイズ様」
「ガ・ツー…メデン…」
しりもちをついた体勢で二人を仰ぎ見るルイズ。
「ガ・ツー、まだダメですか?」
「ああ?」
「ルイズ様はまだ御嬢ちゃんですか?」
メデンの問いにゴーレムの拳をぎしぎしと音がなるほどの力で受けとめながら答える。
「は!御嬢ちゃんも御嬢ちゃんだよ、危なっかしいマネしやがって。
考えねえで行動してるうちは御嬢ちゃんさ」
そして三人を一瞥して前を向くと言った。
「ほら、あぶねえからとっとと下がりな、ご主人様」
と、空いた片手をひらひらさせながら言った。それを聞いたルイズ。
ぽかん、と一瞬ほうけた顔をした後、またいつもの勝気な瞳をして、キュルケを再びタバサと一緒に抱える。そして
「負けるんじゃないわよ!ガ・ツー!」
といって、キュルケ達と小屋のほうに移動していった。
「さてガ・ツー…巫女の名において命ずる。」
メデンの言葉と共に、ガ・ツーがマントから覗くモノの柄を掴む。
「薙ぎ払え」
そしてガ・ツーが取り出した其れは、
ー大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎたー
ーそれはまさに『鉄塊』だったー
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