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#navi(ゼロのロリカード)
ティファニアの家の中では、およそ見る者が見れば戦慄するほどの状況になっていた。
本来は村の子供たちと共に食事をとる、大きめのテーブル。そのそれぞれの椅子に座る面々。
ルイズとアーカード、ティファニアとアンデルセン、シュレディンガーと大尉。そして大剣が一本、デルフリンガー。
アーカードとアンデルセンと大尉。
この三者が顔をつきあわせて同じテーブルに座ることなど、通常考えられない。
しかし少女二人と、自分達が身を置くこの世界、そして何も知らない今の状況がそれを実現させていた。
簡単な自己紹介を終えたところで、ようやくルイズは少しモジモジとしながら俯くくらいには落ち着いた。
尚、第二竜騎士中隊の面々は全員が死んだそうだ。アーカードが全員確認済みだと言った。
中には半死半生の状態の者もいたらしいが、その場で回復させる手段はなく、トドメを刺してやったとのこと。
心苦しくはあるが、仕方ない。彼らは任務遂行の為に、名誉の為に死んだのだ。
アーカードとアンデルセンは、射抜くような視線でシュレディンガーに見つめている。
「そんな睨まないでよ。ちゃあんと説明するからさ」
そう言うとシュレディンガーは、見た目相応の少年らしい笑みを浮かべて話し始めた。
まずは現状の確認から始まった。
ルイズにアーカードは召喚され、契約。
ティファニアにアンデルセンは召喚され、契約はせず。
ロマリアの教皇ヴィットーリオに大尉は召喚され、契約。
「ロマリア教皇ですって!?なんでそんなお方の使い魔が・・・・・・」
ルイズが口を挟む。そもそも人間を召喚するなんてのが異例。
いや、厳密にはアーカードは吸血鬼だけれど、本来はハルケギニアの幻獣が召喚される。
聞けばアーカードにアンデルセン神父、大尉とか言う男にシュレディンガーまでも同じ世界の出身。
ハルケギニア外から召喚するなんて、自分だけかと思っていたのだが・・・・・・。
「そんなの、簡単なことだよ。ヴィットーリオもティファニア嬢も、君と同じ――――――」
「"虚無の担い手"、そういうこったろ」
デルフリンガーが、シュレディンガーの言葉に被せる形で言った。
「教皇聖下とこの子が・・・・・・虚無?」
「うん。"虚無の使い魔"だからこそ、大尉達が召喚されたんじゃないかな。
ティファニア嬢も使えるでしょ?どの系統にも属さない不思議な魔法をさ」
「う・・・・・・うん」
シュレディンガーに聞かれ、ティファニアは頷く。
「貴様は、なんなんだ?」
アーカードがシュレディンガーに向かって問う。
シュレディンガーは誰にも召喚されたわけではないのに、ここにいる。
「僕は、アーカード・・・・・・君に取り込まれた筈だったんだけど、いつの間にかこの世界にいた。
多分、君が召喚された時の拍子で出ちゃったんじゃないかな?別に誰かに召喚されたってわけじゃないよ」
アーカード、アンデルセン、大尉。各人の共通項は、それぞれが元の世界で死んだという事。
正確にはアーカードはシュレディンガーの命ごとその性質を飲み込み、虚数と化して消えたのだが。
死ぬにせよ消えるにせよ、元の世界から消滅したということが、召喚される条件の一つなのかもしれない。
「虚数の塊のままでは、こっちに召喚されても当然また消えてしまう。
そこで異物となる僕が、吐き出されたんじゃないかな?
そして僕は自分を観測出来るようになった。だから僕はここにいる」
(こっちの世界に来た時に、前後の記憶が何故だか曖昧だったのは・・・・・・その所為か)
アーカードが召喚されて、かねてからの疑問が氷解する。
"シュレディンガーが抜けた時のショックで記憶の一部が飛んでいた"、ということだ。
そこまで考えが至ると同時に、欠損していた部分の記憶が蘇り、頭の中を一気に濁流のように駆け巡った。
インテグラのこと、セラスのこと、ヘルシングのこと。ウォルターのこと、少佐のこと、ミレニアムのこと。
死都と化したロンドンで、夜明けの空を見て、自分が死んだこと。その全てを思い出す。
「なんで大尉やアンデルセンの肉体があるのかはわかんない。再構築でもされたのかな?
アーカードもおかしいよね。僕が抜けたなら、普通消えたままのハズだけど・・・・・・」
シュレディンガーは首を傾げる。
(ふぅ~む・・・・・・)
アーカードは補完された記憶を含め、情報を整理する。
再構築された、それは間違いないだろう。
シュレディンガーの言う通り、自分達は死んで肉体すらなくなったのだ。
だと言うのに、今は3人とも肉体がある。
そして――――――オリジナルの棺桶は元の世界に置きっ放しなのに、こちらにある理由。
棺そのものはただの「物」でしかないが、自分と一心同体とも言える「モノ」である。
つまり棺桶の本質部分は、アーカードの一部。だからこそアーカードと一緒に召喚され、構築された。
本来自分の中に収納して持ち運べるものでない棺を、この世界に来た時に何の気なしに出せた理由がそれなのだ。
さらに内包する命もアーカードが従える、アーカードの領民。これも自身の本質と言える。
召喚される者の本質の情報から、肉体から服に武器、ライフストックまでご丁寧に再構築してくれたということだ。
無理やりこじつけた理屈でしかないが、なにせ原子レベルまで干渉するとされる『虚無』のコントラクト・サーヴァント。
それくらい出来ても、別段不思議はない。
(向こうで破壊されたジャッカルは、再構築されないわけか・・・・・・)
諸々を思い出したところで、気になるのは――――――愛しいあるじと、恋しい下僕のこと。
アーカードは意識を集中させる。念話はできないが、・・・・・・わかる。血を吸ったから、わかる。
セラスは、生きている。大尉が死んでここにいるということは、セラスが勝ったということだろう。
そしてインテグラも、少佐に勝ったに違いない。
――――――もしかしたら、今も二人して私の帰りを待っているのだろうか・・・・・・。
アーカードは郷愁に駆られるも、今はどうしようもない。
色々と調べたものの帰る方法は今のところ見つからないし、今はルイズが主人だ。
(ウォルターは、どうしているのだろうな。・・・・・・いや、裏切り者のことなどどうでもいいか)
「それにしても・・・・・・アーカードは今、二人の主人に仕えてる事になるだねェ」
シュレディンガーは座ってる椅子を傾け、二本足で器用にバランスを取る。
傍目では本当にただの無邪気な子供そのものであるが、いちいち神経を逆撫でするような、おちょくるような口調。
その言葉一つ一つの根底には、相手を小馬鹿にするような態度が見え隠れする。
シュレディンガーの言葉にルイズの顔が険しくなった。
二人の主人。一人は勿論自分、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。
そしてもう一人とは――――――。
眼を鋭くアーカードはシュレディンガーを見据える。
シュレディンガーはアーカードが問うよりも先に、それを察して質問に答える。
「少佐は死んだよ、ヘルシングの勝ちさ」
薄々わかってはいたが、そう言葉に出されアーカードはふっと笑う。
「あ~でも、僕らは僕らで目的は完遂したからある意味両方勝ちかな?イスカリオテの一人負けだね」
棘を含ませて言い回すが、アンデルセンは睨むどころか見向きすらしない。
拍子抜けしたシュレディンガーは、そのまま続ける。
「あの惨状は、バイオテロ事件として処理されてるみたい。犠牲者数は今のとこ不明」
「おまえは・・・・・・戻れるのか?」
自分と共に消えた筈なのに、向こうの世界の事情を知っていることはつまりそういうこと。
"戻れるのか"とは、ハルケギニアから地球へと戻れるのか。
当然その意味をシュレディンガーはすぐさま理解し、「できるよ」と答えた。
意志を持つ、自己観測する「シュレディンガーの猫」。
存在自体があやふやな、確率の世界を跳ね回る一匹のチェシャ猫。
シュレディンガーは自分を認識する限り、"どこにでもいてどこにもいない"。
その性質ならば、世界にすら囚われず移動が出来るということに他ならないのだ。
「でも戻るのは大変だったし、何よりもみ~んな死んじゃったからね。あっちはすんごくつまんない。
こっちの世界の方がずっと楽しいよ、大尉もいるしね。まっ、折角の第二の人生なんだし。みんな好きにすればいいんじゃない?」
「確か、虚無の担い手は四人いる筈だ。後一人は誰だ?被召喚者は?」
自分にアンデルセンに大尉。向こうで死んだ者であと召喚されるとすれば一体誰になるのか。
「知らないよ、大尉を見つけられたのはたまたまだし。アーカードはいるだろうなとは思ってたけど、どこにいるのかまではわからなかった」
「虚無の担い手が同じ時代に、全員が発現するのは珍しいからな」
と、デルフリンガー。
つまり、最後の一人は単純に目覚めてない可能性も有るということだ。
始祖の指輪と秘宝がなければ、ただの落ちこぼれなメイジとして人生を終えることも多々だろう。
「目覚めてるにせよ、目覚めてないにせよ、どこかにはいるだろうがね」
そう、今この場で"虚無の担い手"二人、"虚無の使い魔"が三人も集まったのはとてつもない確率。
全くの偶然なのか。それとも、ゼロは互いに引かれあうのか・・・・・・。
「ところで、ヴィットーリオは聖地奪回の為に、虚無の担い手を四人、その使い魔を四人。
そして四の指輪と四の秘宝を一所に集め、『始祖の虚無』を復活させようとしてるんだ。
ルイズ嬢、ティファニア嬢。そしてアーカードとアンデルセン。協力する気はないかな?」
いきなりの事に、ルイズとティファニアは困惑する。
つまるところ教皇聖下が協力して欲しいと言ってることと同義。
聖地奪回。ルイズにとって、自分の一存だけで決められることではない。
この身は姫様に捧げ、トリステインの為に尽くすことが今の自分の在り方である。
ティファニアにとって、聖地奪回とは自分の中に流れている半分の血。
即ちエルフと敵対することになる。母の故郷の人々と戦うなんて、到底出来ることじゃない。
何よりも争いごとそのものが嫌である。
アーカードとアンデルセンにとっては、そもそもメリットはおろか興味すらない。
「・・・・・・ま、しょうがないか」
シュレディンガーは四人の否定の意思を汲み取ると、そう口にした。
これがアーカードやアンデルセンでなかったのなら、力尽くで従わせる方法もあった。
人質をとったり、乱暴なやり方で以て協力を仰ぐという選択肢もあった。
だが、目の前の二人はそんなものが通じる相手ではない。
だが、他にも交渉の材料はある。
「でもアーカードとアンデルセンの両人にとって、悪い話じゃないと思うんだけどなァ~。
なにせ聖地にはゲートがある、元の世界に帰れるよ?どう?戻りたいと思わない?」
シュレディンガーのその言葉に、ルイズとティファニアの心が揺れた。
二人とも自分の使い魔が、別世界から来たことを知っている。
出来ることなら帰してあげたい、でも帰って欲しくない。そんな二つの想いが二人の胸中で、それぞれ揺れ動く。
「これから奪回する、つまり今は奪回されてないのに、何故ゲートがあると知っている?」
アーカードは尤もな疑問を口にした。
「ロマリアの密偵がいる。何百年も前から聖地の近くで定期的に見つけてるのさ、"ガンダールヴの槍"をね」
「"ガンダールヴの槍"?」
「僕らの世界の"武器"がいくつも見つかってる。だから向こうと繋がっている、単純な理屈だよ」
「"ガンダールヴの槍"ってのはな相棒、要するにその時代の"最強の武器"のこった。
大昔は槍が最も強力な武器だったってだけで、別に形にとらわれない。
相棒の世界からその都度、最強の武器が送られてくることもある、そういうこった」
デルフリンガーがそう付けたし、シュレディンガーは「YES!」と肯定する。
「なるほどな・・・・・・しかし、『聖地の近く』と言ったな?ゲートをその目で確認したのか?」
「・・・・・・ん?」
「場所は一定なのか?固定されてるなら、地点を割り出せるだろう?」
「むっ・・・・・・」
シュレディンガーは言葉に詰まる。そこまで詳細なことは聞いていない。
「それと『定期的』とも言ったな。ゲートは常に開いてるものなのか?武器が送られてくる時だけ、開かれたりする可能性は?」
「ぬっ・・・・・・」
「そもそも帰れる保証はあるのか?一方通行でないと言える根拠は?」
「ぐっ・・・・・・」
「第一、奪回する必要性もない。ゲートとやらを探して、見つけて、帰って、それで終わりだ。
密偵とやらがいるくらいだ、この私やアンデルセンにとっては造作のないこと」
エルフが実際にどれほど強力な者かはわからないが、これでも世界有数の使い手であろうメイジと戦ってきた。
書物などで調べた情報から類推しても、絶対的な脅威足り得るとは思えない。
知能も有しているし、交渉することだって不可能ではない。
「そもそもだ、私は帰るつもりはない」
「むぅ・・・・・・」
シュレディンガーは諦める。
アーカードの言ってることは尤もだ。わざわざ協力して、ちんたら奪回する必要性はないのだ。
アプローチを変える必要性がある。アーカードはルイズに仕えてる、ならば主人から命令を出させれば――――――。
「シュレディンガー。アーカードもこう言ってるし、残念だけれど私も協力する気はないわ」
シュレディンガーの機先を制すように、ルイズが言った。ティファニアも、気付いたようにそれも続く。
「私も・・・・・・その・・・無理です。・・・・・・ごめんなさい」
シュレディンガーは嘆息をつく。はっきりと口にされて、現段階じゃどうしようもない。
と言っても、「面白そうだから」という理由で動くシュレディンガーにとって、さして気にするような事柄でもない。
「・・・・・・そこなワンちゃんは帰りたいのか?」
アーカードは大尉に向かって聞く。大尉は口を開かず、フルフルと首だけを横に振って否定した。
「大尉は帰らないよ。少佐はいないし、それに今はヴィットーリオが主人だからね」
「ロマリアの教皇に、新たな首輪をつけられたわけか」
「余計な話はいい」
これまで黙って聞いていたアンデルセンが、強い口調で口を開き言った。
「話が終わったなら行け、さっさと出て行け。俺が貴様らへの殺意をおさえられているうちにだ」
「はいはい、まぁもう大方話し終えたしね。余所者はさっさと出て行くよ」
シュレディンガーは軽い口調で言って、大尉は黙って立ち上がる。
シュレディンガーは「それじゃぁね~」と言って出て行き、大尉も続いた。
「フンッ、行くぞルイズ」
アーカードは軽く笑みを浮かべて、ルイズを促す。
「アーカード、ちょっと待って」
ルイズは外へ出て行こうとするアーカードを呼び止める。
ティファニアへと向き直ると、ルイズは穏やかな笑みを浮かべた。
「ねぇティファニア。あなたはハーフエルフだけど、その・・・・・・一応同じ"虚無の担い手"なわけだし。
使い魔同士はアレでも、これから仲良くしましょう。その胸はどうかと思うけど。何か困ったことがあったらいつでも言って。
私に出来る限りの協力はするわ。あなたにエルフの血が流れてても構わない。その胸はどうかと思うけど」
「あう・・・・・・その、ルイズさん。ありがとうございます」
「ルイズでいいわ」
「あっ、それじゃあ私もテファで」
うんと頷いたルイズは、にこやかに笑って右手を出す。慌ててティファニアも手を出し、握手を交わした。
ティファニアも笑い、二人で笑い合ったところでルイズの顔が素に戻る。
「ところで・・・・・・、その胸は本物なわけ?」
怪訝な目でソレを見つめる。到底人間が到達し得るモノではない。神の御業としか言いようがない
「ほ・・・・・・本物、です」
ティファニアは顔を真っ赤にして答えた。
「そ・・・・・・そう、本物なんだ」
ルイズは唇をヒクヒクと動かし、大きく溜息を吐いた。
「それじゃあね、テファ」
「うん、ルイズ。・・・・・・またね」
別れの挨拶を済ませたルイズは踵を返し、扉の前で待っていたアーカードを追い抜いて出て行く。
「いずれ・・・・・・決着をつける」
アーカードが出て行こうとする直前、アンデルセンがそう口にする。
背を向けたまま、アーカードは言った。
「あぁ・・・・・・いずれ、な」
扉が閉まる。残されたのは静寂。
先に口を開いたのは、不安そうな顔のティファニア。
「その・・・・・・アンデルセン神父・・・」
「大丈夫ですよ」
アンデルセンのその一言に、全てが集約されている気がした。
ティファニアはとりあえずその言葉に安心し、胸を撫で下ろす。
「それでは、子供たちを呼んでご飯にしましょうか」
「うんっ!」
ティファニアが子供たちを呼びに行った後、アンデルセンはゆっくりと目を瞑り考える。
前の、元の世界で学んだ。
奴と闘争い、奴に敗北し、そしてわかった。
化物では・・・・・・化物は倒せない。
化物を倒すのは――――――いつだって、人間なのだ。
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