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「ゼロと損種実験体-15」(2009/03/29 (日) 00:06:34) の最新版変更点
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#navi(ゼロと損種実験体)
その夜キュルケが親友の部屋を訪れたことに、さしたる理由はない。たんに暇だったとか、その程度の理由である。
そこで彼女は、ベッドに座った親友が両の目を閉じ、両手を合わせ何かをブツブツ言っている姿を発見する。
「何やってるのよ。タバサ?」
質問に、親友はビクッと肩を震わせてこちらに顔を向けてくる。どうやらキュルケが入ってきたことに気づいていなかったらしい。
「で? 何やってたの?」
バツの悪い顔の親友に、もう一度同じ質問をすると、どう誤魔化そうかと考えたらしい悩んだ顔の後、渋々と答えてくる。
「始祖ブリミルに、祈ってた。ルイズの使い魔が二度と帰ってきませんようにって」
「始祖ブリミルにって……」
あなた、始祖ブリミルへの信仰心なんてほとんどないじゃない。そんなことを思いつつも、この親友はこんなに追い詰められていたのかとも思う。
ただ、こうも思う。
「なんで、そんなに嫌うわけ?」
自分はともかく、親友がアプトムを嫌う理由が思い当たらない。
「嫌うって言うか……怖いって言うか……」
後ろの言葉は、消え入りそうに小さかったがキュルケは、それをはっきりと聞き取った。そして、考える。確かに、あの男は平民と考えるには驚異的な力を持っているが、貴族が恐れるほどの相手とも思えない。というか、相手がどれだけ強かったからといって、タバサが恐れるというのもなにか違う気がする。
感じる違和感がなんなのかと、つらつらと考えを言葉につむぐ。
「なんか、オバケを怖がる子供みたいって言うか……」
そう言った瞬間、ビクンッとタバサの体が弾けベッドから転がり落ちる。
「まさか、あなた……」
「違う! ルイズの使い魔がオバケだなんて思ってないっ! オバケなんかいない! いたら怖いから!」
うろたえ、そんなことを言う親友をキュルケは優しく抱きしめると、心の中で呟く。
ルイズ。あんたは早く帰ってきなさい。でも、使い魔の方はアルビオンに捨ててきなさい。
しかし、その想いは翌日には裏切られるのであった。
トリステインの王宮はブルドンネ街の突き当たりにあるので、そこに行く必要のあるルイズとアプトムは学院から馬に乗って三時間を費やした。
王女アンリエッタから受けた任務でアルビオンに行って来たルイズは、本当なら真っ直ぐに王宮に向かいたかったのだが、そうもいかない事情があった。
それは何かと問われたら、帰ってくるのに使った手段である。浮遊大陸アルビオンから歩いて帰ってくるわけにもいかない。
カブトムシに似た亜人の姿になったアプトムは、信じられない速度で空を飛びルイズをトリステインまで運んでくれたのだが、そのままの姿で王宮に行くわけにはいかなかった。
ルイズが最初に見たカメレオンに似た姿のように生々しいものではないので、見た目に嫌悪感を抱くことはないのだが、これまでに誰も見たことがないであろう異形であるし、見るものに警戒心を与えるに充分な巨体である。警備の魔法衛士隊が見れば、問答無用で撃ち墜とそうとするだろうし、逆にこっちが撃ち墜としてしまうのもまずい。
では、街の近くで降りて人間の姿に戻ってもらい、そこから歩いていけばいいのではないかとも思ったのだが、その場合、着替えを持っていないアプトムには裸でついて来てもらわなくてはならない。急いでいるとはいえ、全裸の男を連れて街を歩きたくはない。というか、それはそれで王宮に通してもらえないだろう。
そんなわけで、最初二人は学院に向かった。もちろん、直接飛んでいったりはしない。まず近くの森に降り立ち、そこからルイズが一人で学院に走って寮に行き、自分も土で汚れた服を着替えてから、アプトムの着替えを持ってきて、もう一度学院に戻り馬を借りた。
この時、アプトムがアルビオンに向かった時に乗っていった馬はどうしたのかと尋ねられたりしたが、急いでいるから後でと誤魔化した。
キュルケたちなりギーシュなりが乗って帰ってきてくれないかなと思ったりするルイズだったが、キュルケはタバサの使い魔の風竜に乗って帰ってきているし、ギーシュは生きて帰ってこれるかも疑問な状況だったりする。
そんなこんなで王宮にたどり着いたルイズとアプトムであるが、そこの門を潜るのがまた一苦労であった。
なにしろ、今の王宮には、隣国アルビオンを制圧した『レコン・キスタ』がトリステインに侵攻してくるという噂が流れており、そのせいで衛士隊の空気は緊張に張り詰めたものになっていたのだ。
実家のヴァリエール公爵家の名を出して取次ぎを願ったルイズであったが、用件を言えなければ取り次げないと言われてしまう。
それは、当然のことなのだが、彼女が受けたのは密命である。言うわけにはいかず、ルイズも、衛士も困ってしまった。
これは、気軽に顔を合わせることのできない者に密命を与えた王女と、密命を受けたのに真正面から門を潜って会おうとするルイズの、どちらに呆れるべきなのだろうか。とアプトムが腕を組んで空を見上げていると宮殿の入り口から紫のマントとローブを羽織った少女が出てきた。アンリエッタである。
ルイズの名を呼び駆け寄った王女は、その美しい顔に笑みを浮かべ抱きついた。
戦時下にあるアルビオンに、ルイズのような世間知らずの小娘を送り出して無事に帰ってくる保証はない。ルイズに負けず劣らずに世間知らずで想像力に欠けたアンリエッタは、アルビオンにやったルイズが生きて帰ってこないかもしれないなどとは、欠片ほども考えていなかったが、もしかしたら大怪我をして帰ってくるかもしれないと心配し胸を痛めていた。
だから、特に怪我をした様子のないルイズの姿に、大いに喜んだし、その喜びを表現するために、着ている服はともかく髪やらなにやらが土まみれの親友に抱きつくことを厭いはしなかった。
そんな王女に、ルイズの目から涙がこぼれる。アルビオンから帰ってきて、まだシエスタにもキュルケにも顔を合わせていない彼女は、ここにきて初めてトリステインに帰ってきた実感を得て緊張の糸が途切れてしまったのだ。
そうしてウェールズから回収した手紙の入った胸ポケットを見せてくるルイズに、アンリエッタは彼女の手を硬く握り感謝の言葉を口にし、しかし、ここにルイズとアプトムしかいないことに落胆する。
「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね」
黙って頷いてくることで伝わってくるルイズの答えは、予想の範囲内のことで。しかし、アンリエッタの心は傷つき、ウェールズは自分を愛していなかったのではないかと疑念を抱く。
だって、そうではないか。手紙の上でとはいえ、愛する自分が生きて亡命してくれと頼んだのだ。ウェールズが全てを捨てて来てくれるのなら、自分はいかなる手段を持ってしても彼を守る覚悟があった。なんなら、王女という身分を捨てて二人でどこか遠くに逃げてもいい。なのに、彼はその想いに応えてはくれなかった。
その想いが、自らの国に対する裏切りであるという自覚はあった。それでも捨てられない恋であるとアンリエッタは考えていたのだ。
だけど、それはただの独り相撲。彼女が想う程には彼は自分を愛してくれてはいなかった。ただ、それだけの話。
だから今はルイズが無事に帰ってきた事だけでも喜ぼうと、おともだちに眼を向けて、そこにいるはずの者の姿がないことに気づく。それは、もちろんギーシュなどではなく……、
「……して、ワルド子爵は? 姿が見えませんが……。別行動をとっているのかしら? それとも……まさか……敵の手にかかって? そんな、あの子爵に限って、そんなはず……」
浮かび上がってくるのは、信じられない想像と恐怖。
自分が、どれだけ危険な任務にルイズを赴かせたのかの自覚のないアンリエッタは、この国はもちろん、強国であるアルビオンを捜しても匹敵する者がほとんどいないと言われるワルドが帰ってこれないかもしれないなどとは、考えもしなかった。
だから、恐怖した。もしかしたら、ルイズも帰ってこれなかった可能性に思い当たって。そして、自分の無思慮な命令が大事な『おともだち』の大切な人を奪ってしまったのだと考えて。
だけど、世界は彼女が思う以上に残酷にできていて。王女は、ルイズの使い魔の男からワルドが裏切り者であった事実を聞かされる。
さすがに、他の者には聞かせられない話だったので、アンリエッタはルイズとアプトムを自室に招き、そこで唯一つを除いて全てを聞かされる。
つまりは、アプトムの獣化を含む能力に関すること以外の全てである。
話を聞いたアンリエッタは、その瞳から涙を溢れさせ、いやいやをするように何度も首を振る。
自分が送った者がレコン・キスタの回し者で、ウェールズの命を奪い、危うくルイズまで殺されそうになったなどという事実は、世界の醜いものを見せられることなく生きてきた善良な少女には重すぎる十字架であったのだ。
そんな彼女をルイズは慰め、親友からの許しを得たと理解した彼女は、ルイズの優しさに感謝し、それからウェールズを想う。
もしかしたらワルドなどを送らなければ、ウェールズは途中で心変わりして亡命してきてくれたのかもしれない。そんなありえないことすら考えてしまう。
もちろん、そんなものがただの幻想だということは理解している。男性というものは、愛する女より名誉だの何だのを優先する生き物だ。それを、他ならぬウェールズとワルド子爵が教えてくれた。だけど、そのくらいの夢を見ることは許されるはずだ。
そんな彼女にルイズは何も言えず、特に関心のないアプトムは何も言わない。
そうして話が終わり、退出しようとしたルイズは旅立ちの前に託された水のルビーを返そうとして、しかしアンリエッタは受け取らなかった。
それは罪の意識ゆえである。ルイズに危険な任務を与えたばかりか、ワルドのような裏切り者を同行させることで、更なる余計な危険まで背負わせてしまったのである。その程度で、労に報いたとは言えないが、そのくらいの物を与えておかなくては、気がすまなかったのだ。
そうして、ルイズとアプトムが退出した後、アンリエッタは一人になった部屋で両手を顔に当てて泣いた。
愛するものが命を落とした悲しみに、それが自分の責であるという罪の意識に、ルイズに悲しい思いをさせてしまった自分の愚かしさに。
王軍と反乱軍の戦争により廃墟と化したニューカッスル城を歩く二つの人影があった。
一人は、トリステインの魔法衛士隊の制服を来たヒゲダンディ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
一人は、フードを被り顔の上半分を隠した、女の細腕に不似合いな長剣を持った者。『土くれ』の異名を持つメイジの盗賊フーケ。
昨夜、待ち合わせていた酒場で合流した二人は探し物があって、この戦場跡へとやってきていた。
周りでは、レコン・キスタの兵士が、その辺りに転がる屍から金目の物を剥ぎ取っていて、それを見て何故だか不快な気分が湧き上がってきたフーケは、気をまぎらすために隣を歩くワルドに話しかける。
「しかしまあ、あいつと敵対して、よく生きて帰れたわね」
呆れたように言うフーケの言葉は紛れもない本心からの物で、ワルドは、それに苦笑を漏らす。あいつとは、元婚約者であるルイズの使い魔の事で、実際に面と向かって敵対していれば自分は生きていなかっただろうと彼は理解している。
フーケの忠告のおかげで死なずに済んでいるのだという自覚はあるが、どうせならもっと詳細な説明がほしかったところである。
もっとも、それは筋違いの不満だ。なにしろ、ワルドの偏在を撃退した時に使った、手から撃ち出す光線や切り飛ばされた腕の再生の能力の事をフーケは知らなかったのである。もしフーケの知る『あいつ』の能力の説明を受けていて、それで対応できるなどと思い込んでしまえば、かえって酷いことになっただろう。
「真正面からの勝負で勝てる相手ではなかった。だが、それだけだ。ウェールズの命も奪えた。脱出の機会も、もうなくなっていた。いかに強くてもただの一人の力でレコン・キスタ五万の兵から主を守りながら戦って勝てる道理もないし、今頃は……」
「死んでると思うかい? それは楽観が過ぎると思うけどね」
考えたくない事を言われて口を噤む。
彼とて、『あいつ』が死んだと信じきれてはいない。なにしろ、あんなバケモノと交戦した者がいれば噂にならないはずがないのに、それらしい報告を受けていないのだから。
とはいえ、生きているとは考えたくない。自分を凌駕する戦闘能力を持った敵が、五万の軍勢を相手に生き残る能力まで持っていては、彼とて戦慄を覚えずにはいられない。
そんな事を話しながら歩いていた二人は、瓦礫が山になっているところに辿りつく。そこは、二日前まで礼拝堂であった場所であり、ウェールズの遺体が転がっているはずの場所である。
ワルドの元婚約者と、その使い魔が死んでいたとすれば、その屍はこの瓦礫の下にあるのだろうと呪文を詠唱し杖を振ることで発生した小さな竜巻が瓦礫を吹き飛ばす。
だが……、
「あらら。誰の死体もないじゃないか」
フーケの呆れ声に、ワルドは顔色を変えて見回すが、確かにそこに転がっているはずの遺体がどこにもない。
元婚約者も、その使い魔も、自分がその手で害したはずのウェールズの屍すら。
「どうやってか、うまく逃げ出したって事だろうね。ほらっ、あんなところに、大きな穴が開いてる」
そう言ってフーケが指差した先には、直径にして一メイルほどの大きさの穴がある。
「この穴を掘って、逃げ出したってところじゃないの?」
にしても、なんでもありだね、あいつは。と思いながらの、「それでウェールズさまの死体までないってのは、どういうことだろうね。まさか仕損じたんじゃないか?」と言うフーケの質問に、ワルドはそんな筈はないと答える。
自分の一撃は確実にウェールズの胸を貫いていたのだ。あれで生きていられる人間がいるわけがない。
いや、なんかもう、あの使い魔なら心臓に穴が開いても生きていそうな気がするが、あれは例外にしよう。バケモノだし。
「て事は、ラ・ヴァリエールの娘と『あいつ』が持ってったってわけだ」
まあ、どうでもいいけどね。と本当にどうでもよさそうに肩をすくめる。
アルビオン王家に恨みを持つフーケではあるが、自分の手で殺してやりたかったとか、遺体を辱めてやりたいという考えはない。
そんなわけで他にすることもないので、なにやら敗北感に満ちた顔をしているワルドをニヤニヤと眺めていると、遠くから声がかけられた。
「子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね? アンリエッタが、ウェールズにしたためたという、その、なんだ、ラヴレターは……。ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は見つかったかね?」
声と共に現れたのは丸い帽子の裾から金髪を覗かせ、緑色のローブとマントを纏った三十半ばの男。レコン・キスタ総司令官オリヴァー・クロムウェル。
現れたクロムウェルに対して、ワルドは首を振り頭を垂れる。
自分は任務に失敗したのだ。相手が悪かったといえばそれまでだが、そんな言い訳が許されるものではない事は理解している。
だが、クロムウェルは怒らなかった。同盟阻止などより、確実にウェールズをしとめるほうが重要なのだからと言って。
しかし、しとめたのはいいが遺体を持っていかれたのは残念だ。とクロムウェルは二人を促して礼拝堂を出る。
そうして歩いていった先にあるのは一つの屍。かつてはジェームズ一世と呼ばれていたもの言わぬ肉の塊。
「我々は聖地をあの忌まわしきエルフどもから取り返す! それが始祖ブリミルより余に与えられた使命なのだ! その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ」
そう言って抜いた杖を振り、呪文の詠唱とともにジェームズ一世に振り下ろした時、彼の王の肉体の損傷は修復され、その眼を開いた。
立ち上がり、クロムウェルに対して膝を折ったジェームス一世を見下ろし、これこそが、始祖ブリミルが使い今は失われた虚無の系統の魔法なのだと、彼は言った。
その夜。酒場にて、ワインを口に含みフーケは思う。昼間見たあれは本当に虚無系統の魔法なのだろうかと。
たしかに、死者を還すなどという魔法が他にあるとは思えない。だが、違和感を感じる。何故なら、彼女は他に虚無系統としか思えない魔法を知っているから。
そして、虚無の魔法を使うというのなら、始祖の使い魔を連れているべきなのではないかとも思うから。
そんな彼女の隣の椅子に、薬箱くらいの大きさの荷物を持ち、フードで顔を隠した一人の男が腰を下ろした。
また、馬鹿な男が寄ってきたなと杖を抜く彼女に、男は『土くれ』のフーケだなと問いかけてきた。
なんだか聞き覚えがある声だなと、そちらを見ると男はフードを外し、その顔を見たフーケは口に入れていたワインを盛大に噴いた。
「あああ、あんた、なんでここにいるんだよ。ヴァリエールの娘と一緒に逃げてったんじゃなかったのかい?」
周りの視線など知らぬと言わんばかりの大声で叫ぶ彼女を気にすることなく、男はフードを被りなおして、「ああ、無事にトリステインに帰ったはずだぞ」などと意味不明なことを言ってくる。
もう、なんでもいいや。こいつの事は深く考えても疲れるだけだ。
いろいろと馬鹿馬鹿しくなったフーケは、何も言わず無造作に足元に転がしてあった長剣を男に渡す。
その際、剣が少しだけ鞘からこぼれ、錆びの浮いた刀身が見えたと同時に声が響いた。
「おっ、相棒じゃねえか? そうか俺を迎えに来てくれたんだな。いいとこあるじゃねえか……って、どういうことだオイっ!」
それは、インテリジェンスソードのデルフリンガー。ラ・ロシェールで忘れられ置いていかれていたそれをフーケが回収していたのだ。こんなでも新金貨百枚の価値はあるわけだし。
何に驚いたのか大声を上げるデルフリンガーにフーケは耳を押さえながら迷惑そうな顔を向けるが、本人はまったく気にするそぶりもなく言葉を続ける。
「どういうことだよ相棒。使い手じゃなくなってるじゃねーか」
何のことやら? とフーケは思うが、男のほうは思い当たることがあったらしく、左手を出してみせる。そこには……、
「ルーンがねえ! どういうこった?」
いちいち叫ぶ魔剣がうっとおしくなったのか、男は剣を鞘に納め言葉を封じるとルーンがある方はルイズと一緒にいるとだけ答えた。
はっきり言って、いまいち理解できなかったフーケだが、偏在のようなものだと言われて、こいつの事は深く考えるだけ損だと悟ったばかりだろうと自分に言い聞かせて無理やり納得することにした。
それで、自分に何の用だい? 別に剣を返してもらいにきたわけじゃないんだろ? と問いかけるフーケに男はもちろんだと答え。自分をレコン・キスタに入れてくれと頼んできた。
男。アプトムには目的がある。その目的のためにルイズの傍にいたわけだが、最近それだけではいけないのではないかと考えた。
だから、彼は半ば偶然に作ることになった分体に情報を集めさせる事を考え、その分体はクロムウェルという虚無系統の魔法を使う者の噂を聞き、それを調べるために内部に入り込むことを考えたのだった。
#navi(ゼロと損種実験体)
#navi(ゼロと損種実験体)
その夜キュルケが親友の部屋を訪れたことに、さしたる理由はない。たんに暇だったとか、その程度の理由である。
そこで彼女は、ベッドに座った親友が両の目を閉じ、両手を合わせ何かをブツブツ言っている姿を発見する。
「何やってるのよ。タバサ?」
質問に、親友はビクッと肩を震わせてこちらに顔を向けてくる。どうやらキュルケが入ってきたことに気づいていなかったらしい。
「で? 何やってたの?」
バツの悪い顔の親友に、もう一度同じ質問をすると、どう誤魔化そうかと考えたらしい悩んだ顔の後、渋々と答えてくる。
「始祖ブリミルに、祈ってた。ルイズの使い魔が二度と帰ってきませんようにって」
「始祖ブリミルにって……」
あなた、始祖ブリミルへの信仰心なんてほとんどないじゃない。そんなことを思いつつも、この親友はこんなに追い詰められていたのかとも思う。
ただ、こうも思う。
「なんで、そんなに嫌うわけ?」
自分はともかく、親友がアプトムを嫌う理由が思い当たらない。
「嫌うって言うか……怖いって言うか……」
後ろの言葉は、消え入りそうに小さかったがキュルケは、それをはっきりと聞き取った。そして、考える。確かに、あの男は平民と考えるには驚異的な力を持っているが、貴族が恐れるほどの相手とも思えない。というか、相手がどれだけ強かったからといって、タバサが恐れるというのもなにか違う気がする。
感じる違和感がなんなのかと、つらつらと考えを言葉につむぐ。
「なんか、オバケを怖がる子供みたいって言うか……」
そう言った瞬間、ビクンッとタバサの体が弾けベッドから転がり落ちる。
「まさか、あなた……」
「違う! ルイズの使い魔がオバケだなんて思ってないっ! オバケなんかいない! いたら怖いから!」
うろたえ、そんなことを言う親友をキュルケは優しく抱きしめると、心の中で呟く。
ルイズ。あんたは早く帰ってきなさい。でも、使い魔の方はアルビオンに捨ててきなさい。
しかし、その想いは翌日には裏切られるのであった。
トリステインの王宮はブルドンネ街の突き当たりにあるので、そこに行く必要のあるルイズとアプトムは学院から馬に乗って三時間を費やした。
王女アンリエッタから受けた任務でアルビオンに行って来たルイズは、本当なら真っ直ぐに王宮に向かいたかったのだが、そうもいかない事情があった。
それは何かと問われたら、帰ってくるのに使った手段である。浮遊大陸アルビオンから歩いて帰ってくるわけにもいかない。
カブトムシに似た亜人の姿になったアプトムは、信じられない速度で空を飛びルイズをトリステインまで運んでくれたのだが、そのままの姿で王宮に行くわけにはいかなかった。
ルイズが最初に見たカメレオンに似た姿のように生々しいものではないので、見た目に嫌悪感を抱くことはないのだが、これまでに誰も見たことがないであろう異形であるし、見るものに警戒心を与えるに充分な巨体である。警備の魔法衛士隊が見れば、問答無用で撃ち墜とそうとするだろうし、逆にこっちが撃ち墜としてしまうのもまずい。
では、街の近くで降りて人間の姿に戻ってもらい、そこから歩いていけばいいのではないかとも思ったのだが、その場合、着替えを持っていないアプトムには裸でついて来てもらわなくてはならない。急いでいるとはいえ、全裸の男を連れて街を歩きたくはない。というか、それはそれで王宮に通してもらえないだろう。
そんなわけで、最初二人は学院に向かった。もちろん、直接飛んでいったりはしない。まず近くの森に降り立ち、そこからルイズが一人で学院に走って寮に行き、自分も土で汚れた服を着替えてから、アプトムの着替えを持ってきて、もう一度学院に戻り馬を借りた。
この時、アプトムがアルビオンに向かった時に乗っていった馬はどうしたのかと尋ねられたりしたが、急いでいるから後でと誤魔化した。
キュルケたちなりギーシュなりが乗って帰ってきてくれないかなと思ったりするルイズだったが、キュルケはタバサの使い魔の風竜に乗って帰ってきているし、ギーシュは生きて帰ってこれるかも疑問な状況だったりする。
そんなこんなで王宮にたどり着いたルイズとアプトムであるが、そこの門を潜るのがまた一苦労であった。
なにしろ、今の王宮には、隣国アルビオンを制圧した『レコン・キスタ』がトリステインに侵攻してくるという噂が流れており、そのせいで衛士隊の空気は緊張に張り詰めたものになっていたのだ。
実家のヴァリエール公爵家の名を出して取次ぎを願ったルイズであったが、用件を言えなければ取り次げないと言われてしまう。
それは、当然のことなのだが、彼女が受けたのは密命である。言うわけにはいかず、ルイズも、衛士も困ってしまった。
これは、気軽に顔を合わせることのできない者に密命を与えた王女と、密命を受けたのに真正面から門を潜って会おうとするルイズの、どちらに呆れるべきなのだろうか。とアプトムが腕を組んで空を見上げていると宮殿の入り口から紫のマントとローブを羽織った少女が出てきた。アンリエッタである。
ルイズの名を呼び駆け寄った王女は、その美しい顔に笑みを浮かべ抱きついた。
戦時下にあるアルビオンに、ルイズのような世間知らずの小娘を送り出して無事に帰ってくる保証はない。ルイズに負けず劣らずに世間知らずで想像力に欠けたアンリエッタは、アルビオンにやったルイズが生きて帰ってこないかもしれないなどとは、欠片ほども考えていなかったが、もしかしたら大怪我をして帰ってくるかもしれないと心配し胸を痛めていた。
だから、特に怪我をした様子のないルイズの姿に、大いに喜んだし、その喜びを表現するために、着ている服はともかく髪やらなにやらが土まみれの親友に抱きつくことを厭いはしなかった。
そんな王女に、ルイズの目から涙がこぼれる。アルビオンから帰ってきて、まだシエスタにもキュルケにも顔を合わせていない彼女は、ここにきて初めてトリステインに帰ってきた実感を得て緊張の糸が途切れてしまったのだ。
そうしてウェールズから回収した手紙の入った胸ポケットを見せてくるルイズに、アンリエッタは彼女の手を硬く握り感謝の言葉を口にし、しかし、ここにルイズとアプトムしかいないことに落胆する。
「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね」
黙って頷いてくることで伝わってくるルイズの答えは、予想の範囲内のことで。しかし、アンリエッタの心は傷つき、ウェールズは自分を愛していなかったのではないかと疑念を抱く。
だって、そうではないか。手紙の上でとはいえ、愛する自分が生きて亡命してくれと頼んだのだ。ウェールズが全てを捨てて来てくれるのなら、自分はいかなる手段を持ってしても彼を守る覚悟があった。なんなら、王女という身分を捨てて二人でどこか遠くに逃げてもいい。なのに、彼はその想いに応えてはくれなかった。
その想いが、自らの国に対する裏切りであるという自覚はあった。それでも捨てられない恋であるとアンリエッタは考えていたのだ。
だけど、それはただの独り相撲。彼女が想う程には彼は自分を愛してくれてはいなかった。ただ、それだけの話。
だから今はルイズが無事に帰ってきた事だけでも喜ぼうと、おともだちに眼を向けて、そこにいるはずの者の姿がないことに気づく。それは、もちろんギーシュなどではなく……、
「……して、ワルド子爵は? 姿が見えませんが……。別行動をとっているのかしら? それとも……まさか! 敵の手にかかって?! そんな、あの子爵に限って、そんなはず……」
浮かび上がってくるのは、信じられない想像と恐怖。
自分が、どれだけ危険な任務にルイズを赴かせたのかの自覚のないアンリエッタは、この国はもちろん、強国であるアルビオンを捜しても匹敵する者がほとんどいないと言われるワルドが帰ってこれないかもしれないなどとは、考えもしなかった。
だから、恐怖した。もしかしたら、ルイズも帰ってこれなかった可能性に思い当たって。そして、自分の無思慮な命令が大事な『おともだち』の大切な人を奪ってしまったのだと考えて。
だけど、世界は彼女が思う以上に残酷にできていて。王女は、ルイズの使い魔の男からワルドが裏切り者であった事実を聞かされる。
さすがに、他の者には聞かせられない話だったので、アンリエッタはルイズとアプトムを自室に招き、そこで唯一つを除いて全てを聞かされる。
つまりは、アプトムの獣化を含む能力に関すること以外の全てである。
話を聞いたアンリエッタは、その瞳から涙を溢れさせ、いやいやをするように何度も首を振る。
自分が送った者がレコン・キスタの回し者で、ウェールズの命を奪い、危うくルイズまで殺されそうになったなどという事実は、世界の醜いものを見せられることなく生きてきた善良な少女には重すぎる十字架であったのだ。
そんな彼女をルイズは慰め、親友からの許しを得たと理解した彼女は、ルイズの優しさに感謝し、それからウェールズを想う。
もしかしたらワルドなどを送らなければ、ウェールズは途中で心変わりして亡命してきてくれたのかもしれない。そんなありえないことすら考えてしまう。
もちろん、そんなものがただの幻想だということは理解している。男性というものは、愛する女より名誉だの何だのを優先する生き物だ。それを、他ならぬウェールズとワルド子爵が教えてくれた。だけど、そのくらいの夢を見ることは許されるはずだ。
そんな彼女にルイズは何も言えず、特に関心のないアプトムは何も言わない。
そうして話が終わり、退出しようとしたルイズは旅立ちの前に託された水のルビーを返そうとして、しかしアンリエッタは受け取らなかった。
それは罪の意識ゆえである。ルイズに危険な任務を与えたばかりか、ワルドのような裏切り者を同行させることで、更なる余計な危険まで背負わせてしまったのである。その程度で、労に報いたとは言えないが、そのくらいの物を与えておかなくては、気がすまなかったのだ。
そうして、ルイズとアプトムが退出した後、アンリエッタは一人になった部屋で両手を顔に当てて泣いた。
愛するものが命を落とした悲しみに、それが自分の責であるという罪の意識に、ルイズに悲しい思いをさせてしまった自分の愚かしさに。
王軍と反乱軍の戦争により廃墟と化したニューカッスル城を歩く二つの人影があった。
一人は、トリステインの魔法衛士隊の制服を来たヒゲダンディ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
一人は、フードを被り顔の上半分を隠した、女の細腕に不似合いな長剣を持った者。『土くれ』の異名を持つメイジの盗賊フーケ。
昨夜、待ち合わせていた酒場で合流した二人は探し物があって、この戦場跡へとやってきていた。
周りでは、レコン・キスタの兵士が、その辺りに転がる屍から金目の物を剥ぎ取っていて、それを見て何故だか不快な気分が湧き上がってきたフーケは、気をまぎらすために隣を歩くワルドに話しかける。
「しかしまあ、あいつと敵対して、よく生きて帰れたわね」
呆れたように言うフーケの言葉は紛れもない本心からの物で、ワルドは、それに苦笑を漏らす。あいつとは、元婚約者であるルイズの使い魔の事で、実際に面と向かって敵対していれば自分は生きていなかっただろうと彼は理解している。
フーケの忠告のおかげで死なずに済んでいるのだという自覚はあるが、どうせならもっと詳細な説明がほしかったところである。
もっとも、それは筋違いの不満だ。なにしろ、ワルドの偏在を撃退した時に使った、手から撃ち出す光線や切り飛ばされた腕の再生の能力の事をフーケは知らなかったのである。もしフーケの知る『あいつ』の能力の説明を受けていて、それで対応できるなどと思い込んでしまえば、かえって酷いことになっただろう。
「真正面からの勝負で勝てる相手ではなかった。だが、それだけだ。ウェールズの命も奪えた。脱出の機会も、もうなくなっていた。いかに強くてもただの一人の力でレコン・キスタ五万の兵から主を守りながら戦って勝てる道理もないし、今頃は……」
「死んでると思うかい? それは楽観が過ぎると思うけどね」
考えたくない事を言われて口を噤む。
彼とて、『あいつ』が死んだと信じきれてはいない。なにしろ、あんなバケモノと交戦した者がいれば噂にならないはずがないのに、それらしい報告を受けていないのだから。
とはいえ、生きているとは考えたくない。自分を凌駕する戦闘能力を持った敵が、五万の軍勢を相手に生き残る能力まで持っていては、彼とて戦慄を覚えずにはいられない。
そんな事を話しながら歩いていた二人は、瓦礫が山になっているところに辿りつく。そこは、二日前まで礼拝堂であった場所であり、ウェールズの遺体が転がっているはずの場所である。
ワルドの元婚約者と、その使い魔が死んでいたとすれば、その屍はこの瓦礫の下にあるのだろうと呪文を詠唱し杖を振ることで発生した小さな竜巻が瓦礫を吹き飛ばす。
だが……、
「あらら。誰の死体もないじゃないか」
フーケの呆れ声に、ワルドは顔色を変えて見回すが、確かにそこに転がっているはずの遺体がどこにもない。
元婚約者も、その使い魔も、自分がその手で害したはずのウェールズの屍すら。
「どうやってか、うまく逃げ出したって事だろうね。ほらっ、あんなところに、大きな穴が開いてる」
そう言ってフーケが指差した先には、直径にして一メイルほどの大きさの穴がある。
「この穴を掘って、逃げ出したってところじゃないの?」
にしても、なんでもありだね、あいつは。と思いながらの、「それでウェールズさまの死体までないってのは、どういうことだろうね。まさか仕損じたんじゃないか?」と言うフーケの質問に、ワルドはそんな筈はないと答える。
自分の一撃は確実にウェールズの胸を貫いていたのだ。あれで生きていられる人間がいるわけがない。
いや、なんかもう、あの使い魔なら心臓に穴が開いても生きていそうな気がするが、あれは例外にしよう。バケモノだし。
「て事は、ラ・ヴァリエールの娘と『あいつ』が持ってったってわけだ」
まあ、どうでもいいけどね。と本当にどうでもよさそうに肩をすくめる。
アルビオン王家に恨みを持つフーケではあるが、自分の手で殺してやりたかったとか、遺体を辱めてやりたいという考えはない。
そんなわけで他にすることもないので、なにやら敗北感に満ちた顔をしているワルドをニヤニヤと眺めていると、遠くから声がかけられた。
「子爵! ワルド君! 件の手紙は見つかったかね? アンリエッタが、ウェールズにしたためたという、その、なんだ、ラヴレターは……。ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は見つかったかね?」
声と共に現れたのは丸い帽子の裾から金髪を覗かせ、緑色のローブとマントを纏った三十半ばの男。レコン・キスタ総司令官オリヴァー・クロムウェル。
現れたクロムウェルに対して、ワルドは首を振り頭を垂れる。
自分は任務に失敗したのだ。相手が悪かったといえばそれまでだが、そんな言い訳が許されるものではない事は理解している。
だが、クロムウェルは怒らなかった。同盟阻止などより、確実にウェールズをしとめるほうが重要なのだからと言って。
しかし、しとめたのはいいが遺体を持っていかれたのは残念だ。とクロムウェルは二人を促して礼拝堂を出る。
そうして歩いていった先にあるのは一つの屍。かつてはジェームズ一世と呼ばれていたもの言わぬ肉の塊。
「我々は聖地をあの忌まわしきエルフどもから取り返す! それが始祖ブリミルより余に与えられた使命なのだ! その偉大なる使命のために、始祖ブリミルは余に力を授けたのだ」
そう言って抜いた杖を振り、呪文の詠唱とともにジェームズ一世に振り下ろした時、彼の王の肉体の損傷は修復され、その眼を開いた。
立ち上がり、クロムウェルに対して膝を折ったジェームス一世を見下ろし、これこそが、始祖ブリミルが使い今は失われた虚無の系統の魔法なのだと、彼は言った。
その夜。酒場にて、ワインを口に含みフーケは思う。昼間見たあれは本当に虚無系統の魔法なのだろうかと。
たしかに、死者を還すなどという魔法が他にあるとは思えない。だが、違和感を感じる。何故なら、彼女は他に虚無系統としか思えない魔法を知っているから。
そして、虚無の魔法を使うというのなら、始祖の使い魔を連れているべきなのではないかとも思うから。
そんな彼女の隣の椅子に、薬箱くらいの大きさの荷物を持ち、フードで顔を隠した一人の男が腰を下ろした。
また、馬鹿な男が寄ってきたなと杖を抜く彼女に、男は『土くれ』のフーケだなと問いかけてきた。
なんだか聞き覚えがある声だなと、そちらを見ると男はフードを外し、その顔を見たフーケは口に入れていたワインを盛大に噴いた。
「あああ、あんた、なんでここにいるんだよ。ヴァリエールの娘と一緒に逃げてったんじゃなかったのかい?」
周りの視線など知らぬと言わんばかりの大声で叫ぶ彼女を気にすることなく、男はフードを被りなおして、「ああ、無事にトリステインに帰ったはずだぞ」などと意味不明なことを言ってくる。
もう、なんでもいいや。こいつの事は深く考えても疲れるだけだ。
いろいろと馬鹿馬鹿しくなったフーケは、何も言わず無造作に足元に転がしてあった長剣を男に渡す。
その際、剣が少しだけ鞘からこぼれ、錆びの浮いた刀身が見えたと同時に声が響いた。
「おっ、相棒じゃねえか? そうか俺を迎えに来てくれたんだな。いいとこあるじゃねえか……って、どういうことだオイっ!」
それは、インテリジェンスソードのデルフリンガー。ラ・ロシェールで忘れられ置いていかれていたそれをフーケが回収していたのだ。こんなでも新金貨百枚の価値はあるわけだし。
何に驚いたのか大声を上げるデルフリンガーにフーケは耳を押さえながら迷惑そうな顔を向けるが、本人はまったく気にするそぶりもなく言葉を続ける。
「どういうことだよ相棒。使い手じゃなくなってるじゃねーか」
何のことやら? とフーケは思うが、男のほうは思い当たることがあったらしく、左手を出してみせる。そこには……、
「ルーンがねえ! どういうこった?」
いちいち叫ぶ魔剣がうっとおしくなったのか、男は剣を鞘に納め言葉を封じるとルーンがある方はルイズと一緒にいるとだけ答えた。
はっきり言って、いまいち理解できなかったフーケだが、偏在のようなものだと言われて、こいつの事は深く考えるだけ損だと悟ったばかりだろうと自分に言い聞かせて無理やり納得することにした。
それで、自分に何の用だい? 別に剣を返してもらいにきたわけじゃないんだろ? と問いかけるフーケに男はもちろんだと答え。自分をレコン・キスタに入れてくれと頼んできた。
男。アプトムには目的がある。その目的のためにルイズの傍にいたわけだが、最近それだけではいけないのではないかと考えた。
だから、彼は半ば偶然に作ることになった分体に情報を集めさせる事を考え、その分体はクロムウェルという虚無系統の魔法を使う者の噂を聞き、それを調べるために内部に入り込むことを考えたのだった。
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