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#navi(KNIGHT-ZERO)
動けば雷電の如く発すれば風雨の如し
衆目駭然、敢て正視する者なし
これ我が東行高杉君に非ずや
伊藤博文
一人の男が居た
オリヴァー・クロムウェル
テューダー王家、レコンキスタ、委任統治国連合、次々と持主が替わるアルビオンの首都ロンディニウム
城下に散在する教会の中では上位に属する、聖堂教会で司祭をやっていた、聖職者に似合わぬ眼光の男
教会に付属した孤児院出身のこの男は、司教の娘と結婚することで教会の資金管理を牛耳るようになり
それまで教会の資金源だった密造酒作りや、強圧的な祈伏と人夫の斡旋で得る寄付の収益を倍増させた
始祖ブリミルの教えを説く教会の中もまた金が正義で、それはある意味、商人の世界より冷徹な物だった
教会が行政の代行機関として、救貧所や感化院、施療施設の役割を担うのは中世地球のそれと変わらない
ゆえに役人による取締りの範囲外にあり、教会は施政者と暗黒街が共用する便利屋としても機能していた
後に教会内の派閥争いで、他派の人間から教会の施設を使った禁制魔法薬作りでの糾弾を受けたことで
オリヴァー・クロムウェルは失脚し、ロンディニウム塔で神の禊を受けさせるという名目で幽閉された
その後、超国家貴族集団レコンキスタのリクルーター(徴募官)がクロムウェルの礼拝室を訪れた時
彼は自分が、その聖地奪還などと寝言を抜かす誘いに応じた理由について、自分でもよくわからなかった
彼が不正な方法で蓄財し隠匿した金塊や、高純度な品は銀よりも価値があったといわれる硝石や風石を
枢機卿や貴族に撒き、少々の工作を施せば、再び教会の実権を握ることはいくらでも可能だったが
彼は教会の司祭の仕事、修道士に信者の家や農地を騙し取らせたり、尼僧を使った売春組織を作ったり
教会に放り込まれる孤児に性欲昂進薬や堕胎薬を売らせたりする仕事に、いい加減飽き飽きしていた
彼は少年のような純粋さで面白い物を探し求めていた、自らの全能を求められる闘争を欲していた
//
クロムウェルはレコンキスタの中でもまた、その資金調達能力と対立勢力の積極的な除去で頭角を顕し
レコンキスタがアルビオン国内を進軍し、首都奪取の計画が進む頃には参謀として参加していたが
後にレコンキスタが行ったロンディニウムの無血開城に反対したことで、組織の中央から排斥された
王家との直接戦闘を避けてばかりのレコンキスタ上層部は、彼にとってまことに面白くないものだった
かつて自分をその策略ごと葬った教会のように、愚者が強くなることを恐れるのはどこも同じだと思った
彼の提起した理論さえ実行されれば、平民と少数のドットメイジを中心としたレコンキスタの私兵でも
多角メイジの集まる王室正規軍や他国の貴族義勇軍、戦争経験豊富な平民傭兵とも充分以上に渡り合えた
彼が教会の孤児として、街でスリやポン引きをやらされていた時に何度となく見たメイジと平民の喧嘩
しばしば殺し合いになるそれを見て得た経験則に加え、今までの地位を利用して積極的に集めた記録
一人のドットメイジには2人の武装平民
一人のラインメイジには4人の平民銃槍兵小隊
一人のトライアングル・メイジには8人の平民中隊と平民下士官
一人のスクゥエア・メイジは16人の平民混成部隊とメイジ士官
それだけの数を投入すれば勝てる
水ドットメイジの攻撃は平民傭兵5人に匹敵し、風スクゥエアメイジの魔法は一個大隊と渡り合えるという
それまでの常識が、各々の魔法に特化した状況でのみ有効な戦力計算式であることは一部で知られていた
ゴーレムは平民にも操作可能な城門破壊木槌による攻撃に弱く、火の魔法は物理的な水攻撃で減力できる
風の遍在は、無風の室内では発動が限定され、それぞれの魔法はその系統特有の弱点を有していた
彼は中国の五行思想に近い各系統魔法の相互拮抗を応用し、そこからメイジ殺しの理論を編み出した
//
アルビオン王家が擁する王国軍や、その姻戚関係にある諸国から集う貴族義勇兵の構成と戦術を見る限り
侍が槍を振り、平民は足軽や鉄砲方、荷駄として、帯刀した侍の手柄を助ける中世、近世の日本のように
当時の戦場における前線での戦闘は専らメイジ頼りで、傭兵が中心の武装平民はその補助に過ぎなかった
平民が貴族を制する方法を思案、研究するのは、メイジの役割を定めた始祖への冒涜と言われていたが
戦術的な必要上、研究と小規模な運用を始めて間もない諸国に先駆け、体系的な理論を完成させたのは
始祖ブリミルに、そこそこの集客力以外の価値をさほと認めていなかった元司教、クロムウェルだった
指揮と戦術を受持つメイジさえ居れば、平民兵は現地での徴募、強募と速成教育でいくらでも調達できる
教会でそうしたように貧民街で金を撒けば、街の食い詰め者が集まり、人の集いは更に大きな集合を呼ぶ
それでも足りなければ孤児院から丸ごと攫ってくればいい、少年は兵士に、少女は兵站や慰安に使える
新生アルビオン王国の自壊を、それ以前に更迭され、中央から外れた位置で眺めていたクロムウェルは
レコンキスタの総帥、たまたまその時に頂点に祭り上げられたテューダー王家の落胤と自称する貴族に
王都攻め実行者の粛清を囁いた、彼は甘言に乗り幹部を処刑した後、クロムウェルによって毒殺された
クロムウェルは事前の根回しと偽造していた後継者指名書を手に、レコンキスタの頂点に納まった
受け継いだのがテューダー王家を倒し、始祖の時代から続く国家を統べていたレコンキスタではなく
ハルケギニア三国による圧力で自壊させられ、離散と資産没収で満身創痍の地下組織であることが
クロムウェルにとって喜ばしいことだった、組織と女は肥え太っているより、弱った傷物に限る
これで少しは人生が面白くなると思った
//
クロムウェルは早速、スコットランド高地、巨大竜の伝説で名高い湖のほとりで自身の理論を実践し始めた
メイジに戦術や戦略を教える学校を設立し、食い詰めた平民を徴募して飯を食わせ、武器を密造し始める
平民の下の身分、賎民達も受け入れて等しく兵卒の階級を与え、訓練で技能を示した者は下士官に任じた
それらの整備に必要な多額の資金を献金してくれたのは、意外なことに占領国の一つであるガリアだった
飛竜で密かにネス湖から越境した花壇騎士が運んでくる金塊を見ても、クロムウェルは深く考えなかった
天才宰相と名高いモリエール夫人と、その背後に見え隠れする無能王ジョゼフの策謀には興味は無い
あの青ヒゲの王様が企むケチ臭い国盗りの捨て駒になる事は、彼にとっては些細なものに過ぎなかった
彼の意識にあったのは、このつまらない世界の流れに直接触れられる、長くともあと数年の鮮烈な時間
それから後、この地が変わり、人が変わり、己が年寄りになった時のことなんて考えたくもなかった
花は散る物、枯れて種を残すなどというおぞましい真似を晒す位なら、さっさと地獄の鬼に会いにいく
ただ、その過程でこの空中国家と眼下に広がる大陸を、自らの手で激しくブン回せれば、それでよかった
それが、生きるということだった
クロムウェルは、自身の理論を体現させたレコンキスタの平民兵と貴族士官を
奇兵隊、と呼んだ
//
アルビオンの西、トリスティン王国による統治を受けながら、内戦前とさして変わらず平和なアイルランド
ルイズとKITTは、アンリエッタ女王直属の特務情報士官として、首都ベルファストに居た
本国の議会や王室の人間は、ヴァリエール家令嬢の物見遊山に間諜としての仕事をさほど期待しておらず
ルイズは、その期待無き期待に応え、軍属少尉の薄給を補うバイトに励んでは、賭け事で散財していた
時に駐留軍の将官やアイルランド政府の閣僚も訪れる、魅惑の妖精亭で働くようになった副産物として
ルイズは酒場での会話や密談、駐留軍本部の傍聴よりもよほど実のある情報を収集できるようになった
傭兵、軍人、行商人、あらゆる流れ者が集う酒場での会話の中で、ルイズは気になることを耳に挟んだ
ある篤志家の司教がスコットランドの片田舎で、平民や下級メイジを集め、農場を開いているらしい
視察に立ち寄った役人の話によると、農民達は畑仕事をしながらもボール遊びや素人芝居に興じていた
ボール遊びが軍隊に必須の連携を学ぶためのもので、芝居は平民兵の戦闘力を倍増させる識字率向上教育
舞踊はメイジによる魔法攻撃を無力化する接近戦の鍛錬だという事には、当事者以外の誰も気づかなかった
クロムウェルによって作られた農場、その本来の姿である奇兵隊の訓練施設としての機能が整った途端
彼は間髪入れず行動を開始した、今まで待つ事の多かった人生は、その在る空中国家ごと激しく回り出す
スコットランド北部湖畔にある共同農場、旧ソ連のコルホーズに酷似したそれが文字通り動き出した
農場で生活していた平民や貴族達が、家畜や農産物、そして武器を持ったまま徒歩で移動し始めた
まるでその農場が一個の巨大な生き物になり、長い冬眠から覚めて餌を求めるべく動き出したかのように
アルビオンを統治していた三国に既に存在を知られていた大規模農場、既に一つの国に近い体裁の集団
植民地での戦略を受け持つ各国の参謀達の間では、彼らが武装蜂起する可能性については検討されていた
本拠であるスコットランド東部には首都ロンディニウム、越境し北進すればガリア領イングランドがある
//
その集団は三国の予想に反し、スコットランド、イングランドの都市を無視するように西へと動き始めた
西には戦略上の意義に乏しい農村があるだけ、すぐにアルビオン本島の果てにある海峡に行方を阻まれる
地上における大陸の海峡と異なる、空中大陸の海峡、その岬の先にあるのは、雲海と数千mの奈落の底
そして、数箇所のか細い陸続き部分を越えた先は、アルビオンのお荷物と言われる田舎島アイルランド
動き続けるクロムウェルの奇兵隊、隊士達と旅を共にする家畜は穀物を運搬する移動食料倉庫となり
生きた牛馬は中途の村で、他の資源を入手する高額貨幣になり、当然、家畜それ自体も残らず食料となる
夜間にはサハラの遊牧民に似た円形天幕にカマドを設けて野営し、夜明けと共に再び移動を開始する
人数は移動する毎に増えていった、彼らは潤沢な資金で途中の村に平和的に接触し、穀物や水を買った後
村の畑や水源を破壊することで、村人の中で働き手になりうる者を根こそぎ、半ば強制的に寡兵した
兵士として使えぬ子供や老人は、寡兵した兵士には教会が保護したと偽りながら、不毛の村に置き去った
それはアルビオンを三つに分けた統治国家のどこにも属さない、移動する国といってもよいものになった
スコットランドで起きた大移動についての情報は、遅れながらもルイズの居るベルファストに入ってきた
奇兵隊の行動を立案遂行したクロムウェルのブレーンの中にも、地球からの召喚者が居たのかもしれない
首班であるクロムウェルが、その膨大な人民移動を「長征」と称してるのを聞き、スカロンはヘドを吐いた
//
クロムウェルの率いる移動農場、武器を巧妙に隠した彼らの、武装蜂起無き進軍は各国に危惧を与えたが
呉越同舟の三国による委任統治という、重大な決定に不向きな政治体裁が、その対処の遅れを産んだ
自国に害が及ばないと知ったゲルマニアやガリアの統治軍総督府は、彼らの討伐には消極的な態度を示す
以後の安定した収益のため、初期投資に金がかかる植民地運営、三国の台所事情は揃って渋かった
元より武力衝突による国家疲弊を避けるための分割統治、空中大陸アルビオンの植民地としての収益性は
決して良好なものではなかった、歴史的に戦争と占領に慣れたガリアやゲルマニアの政治的な上層部は
植民地駐留を続けながらも、政情不安が増大した折にはさっさと計画倒産的な撤退をする事を決めていた
この世界の王族や施政者はある意味、コンコルドやユーロファイター、スマートカー、あるいは世界大戦
欧州共同事業という貧弱な果実に夢をみて銭失いをした、地球の人達よりは賢明だったのかもしれない
移動農場の脅威に晒されることとなったトリスティン王国はといえば、国家間戦争の経験には乏しい国
貴族達は「外交努力」でゲルマニアやガリアの軍を、何とか替わりに動かすことにばかり熱心になった
今までそれを可能にしていたのは資金援助や借款、今回ばかりはトリスティンにもその余力は無かった
迷走は空白を産み、クロムウェルがゲームの初盤で最も必要としていた移動と準備の時間を稼ぎ出した
彼の理論の一つである、アルビオンのパブで行われていた遊戯からヒントを得た、「ドミノの原理」
最終的にハルケギニア北部三国を仮想敵とするならば、緒戦で最強の敵に当たるよりもまず現状で最弱の
トリスティンを手中に収め、それによる影響で他国を動揺させれば、小国が大国を制する事も可能になる
一時的な不可侵協定で安心させた後に、協定破りの電撃的な侵攻で要所を次々と奪るという方法もある
奇兵隊によるイングランド奪取という八百長試合を行うため、ガリアから密かに派遣された執政官からは
それを交渉のタネに戦わず有利な条件で講和するという策が提示されていたが、それでは興が無さ過ぎる
彼の壮大な遊戯は始まった
その最初のターンである、トリスティン統治下アイルランド奪取に必要なアイテムは順調に揃いつつあった
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