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「聖樹、ハルケギニアへ-02」(2010/11/18 (木) 22:11:20) の最新版変更点
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#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
聖樹、ハルケギニアへ―2
「…む」
ソファーで横になっていたエクスデスは、カーテン越しに伝わってくる明るさに目を覚ました。
むっくりと上半身を起こして左右を見渡す。
「異界に召喚されたのだったな…」
立ち上がって窓に近づくと、カーテンを開け光を全身に受ける。
窓を開ければ朝のさわやかな空気が全身を包み込んだ。実に清々しい。
両手両腕を回しながら腰をひねったりして全身を動かしていく、そうしていると体のみならず頭も
覚醒してくるからだ。
「ファ~…」
…意識せず気の抜けた声が出た。
何だ今のは、体験したことのない感覚に疑問を抱きつつも自分の身体に異常はないので捨て置くことにした。
気を取り直して窓の下を覗いてみると使用人だろうか、先日に見たメイジとやらとは異なる服装の人間が
何人かぱたぱたと急ぎ足で行来するのが見える。
まだメイジ、いわゆる貴族は起きていないのかと窓から身を乗り出して左右を確認すると、
いくつかは窓が開いていて幾人か人影も見える。
たまたま一人と目が合った。
窓に腰かけていたのだろう。こちらを見たまま後ろに倒れ窓から落ちそうになり、
おぶおぶと手をばたつかせながらなんとか部屋に引っ込むとそのまま窓が閉まった。
どうやら全体的に起床時間のようだ。
ならばと下がると、自分を呼び出した少女が眠るベッドに近づいて覗き込む。
そこでは少女ことルイズが安らかな寝息を立てていた。
「主よ、目覚めの時だ。起きるがよい」
しかし返事はなく起きる気配も微塵もない。
「朝だ。そろそろ起きねばならんのではないのか?」
「…んぅ」
起きるどころかエクスデスとは反対側にごろりと寝がえりをうってしまった。
このまま放置しても良いのだが、それだとなんで起こさなかったの!などと言われかねない。
昨日の様子から見るに十分考えられることだ。
仕方が無いのでルイズの肩をそっと掴んで仰向けにさせる。
そしてルイズの顔に自分の顔を近づけると。少し大きめの声で呼んだ。
「ルイズ。起きるがよい」
「はえ?……きゃあああああっ!!」
どばき
「ぶふぁっ」
起きたと思った途端、自分の顔面に拳が叩き込まれた。
ダメージにはならないが顔面に予想しない攻撃が入ると流石に怯む。
「だ、だだ、誰よあんた!どこから入ったの!?」
大丈夫か主よ。
「目が覚めたか、そろそろ起床の時だと思ったのでな。
そして私だ、エクスデスだ」
飛んでくる枕を片手で受け止め二個目ももう片方で受け止めながら答える。
「え……あ、そそうだったわね。昨日召喚したんだっけ」
本当に大丈夫か主よ。
ルイズは混乱する頭を落ち着かせるため大きく深呼吸すると、目の前にいる使い魔に命じた。
「服」
しかしエクスデスは動かずその場に立ってルイズを見下ろしている。
…もしかすると怒らせただろうか。
ただでさえ大きな体なのに目元は真っ暗で表情も読み取れない、無言でいると強烈な威圧感も感じる。
これなら悪態をついてくれたほうがまだましだ。
「…服をどうすればいいのだ?断片的に言われても分からん」
ああ、考えていて沈黙していたのね。
つまらない命令を下したことに憤慨して、昨日のような植物の化け物のような姿にでもなるのかと
うっすら脂汗を浮かべていたルイズは胸をなでおろした。
「いろいろと初めてだから仕方ないわね、やり方を教えるから次からは覚えて動いてくれると助かるわ」
「うむ、私もそのほうがやりやすい」
「それじゃあ、まずはクローゼットの…」
十数分後、身なりを整えたルイズはカゴの中にぱっぱぱっぱと洗濯物を入れていくエクスデスの背中を見ていた。
簡単にお手本を見せると次には見事に仕上げていく様子からすると覚えはかなり良いようだ。
これなら戦闘以外も覚えさせていけばかなりの万能使い魔になるのではないかと感心してうんうんと頷いていた、が。
「さて、洗濯に赴くとするか」
そう言ってカゴをもつ手とは反対の手に剣と杖が合体したようなエクスデス自前の得物を持って行こうとしている。
「ちょっとちょっとちょっと!そんなの持って行くつもり!?」
「む?これは必要ではないのか?」
「洗濯と戦闘は違うの!」
なかなか譲らなかったエクスデスだが、ルイズがそれは止めなさい!と口うるさいのでやむなく従うことにした。
「それと。あんたは東の謎が多い領域、ロバ・アル・カリイエから来た旅芸人で
この格好は芸の一環だってことになってるから、誰かに出身とか身なりについて聞かれたらこう答えておきなさい」
昨日のうちにコルベールもその情報をそれとなく流したとのことだ、誰か教員に話す時にわざと目のつくところで会話し、通りすがりの生徒に聞かせる。
そこからどんどん話が広がっていくのを目論んでのことだ。
ルイズとエクスデスが部屋から出ると隣の部屋のドアが空き、中から見事なスタイルの褐色の女性が出てきた。
それを見たルイズが顔をしかめている。
「話は聞いていたけど、旅の芸人を召喚するなんてさすがはゼロのルイズね」
いざエクスデス=旅芸人ということで話されると本当のことを話したくて口元がむずむずしてくる。
「あなたもこんな子に呼ばれて旅を中断させられるなんて災難ね」
「気にはしておらん。急ぎでもないのでな」
しげしげと物珍しそうにエクスデスを見る褐色の女性ことキュルケ。
「私の名前はキュルケ。あなたのお名前は?」
「エクスデスという」
「よろしくミスタ・エクスデス。今度東の国の芸を見せてもらえるかしら」
「機会があれば披露しよう」
芸……。木になれます!……ますますむずむずしてくるルイズだった。
そのあとキュルケの使い魔のサラマンダー、フレイムの自慢話をさんざん聞かされてルイズはげんなりとしていたが、
エクスデスは満更でもなくよく話を聞いていた。
「そういえばあんたのいた世界ってああいう生き物いた?」
「いわゆるドラゴンのような物ならば、色は異なるがミニドラゴンやイステリトスが大きさとしては先程の
フレイムに近い。もっとも城にいてよく目にしたのははるかに巨大な体の物ばかりで、あれほど小さいというのはむしろ珍しい」
キュルケと別れて歩いていたルイズはエクスデスから各ドラゴンの説明を聞いて、好事家が聞いたら喜びのあまり気絶しそうだなと考えていた。
それを支配していたというのだから自分はとんでもない存在を召喚してしまったのではないかとも考えたが、まだエクスデスの実力を見ていない以上はまだ完全には信じ切れなかった。木になるのは見たが。
ルイズと別れていざ洗濯と行こうとしたとき、エクスデスは重大な箏に気がついた。
「洗濯の場はどこなのだ…」
場所を聞きそびれたエクスデスはカゴを持って周囲をうろうろと歩き回るがどこがどこなのかさっぱり分からない。
やはりルイズに改めて聞くかと元来た道を戻ろうとしたとき、一人の使用人と思われる少女が同じカゴを持って歩いているのが見えた。
分からないことがあればメイドあたりに聞けばいいとルイズも言っていた。
ならばこの機を逃すまいとエクスデスはカゴをわきに抱えると飛びあがり、宙を蹴って約100メイル程を一気にメイドに距離をつめ近辺に着地した。
「すまぬが洗濯の方法を教えてもらいたい」
「あ、は!はい!」
メイドは尻もちをついていた。無理もないだろう、ふと目をやると青い大きな何かがこっちに向かって突っ込んできたのだから。
「ここが…」
どんな儀式の場かと祭壇のような物を想像していたエクスデスは口から水を出す獅子の象と対峙した。
隣にメイドが桶を出して長い布を水につけて洗い始める、エクスデスはその様子を見ながらカゴの中の洗い物を出すと同じように洗い始めた。
同じように洗っていざメイドがふと目をやると、エクスデスが渾身の力を込めてネグリジェを絞らんとしているところだった。
凄まじいねじりが加えられていてこのままでは間違いなく引きちぎれる。
「あぁ!待って下さい!」
「なぜ止める!」
「肌着、特に女性物はそんなに乱暴にしては駄目です!」
エクスデスによじ登りながら手に持っているネグリジェをなんとか救出して、安堵すると
下から声が聞こえた。
「…事情を聞きたいので、降りてもらいたのだが…」
「え、あ!きゃあっ!すいません!」
自分の丁度胸の部分がエクスデスの顔面に当たっている。
いつの間にか当たっていてメイドは恥ずかしそうだったが、エクスデスは視界が塞がれていたのでとりあえず離れてほしかっただけである。
「私の名はエクスデス。東よりの旅の芸人だ」
「改めて、私はシエスタといいます。ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですね。よろしくお願いしますね」
「成程、一重に洗濯と言っても万の方法が有るということか」
「そこまであるかどうかは分かりませんが…」
簡単な自己紹介の後悪戦苦闘しながらもなんとか洗濯は終わった。勢い余りエクスデスが頭から桶の水を被ったりもしたが。
「こちらはお預かりして後でお届けします。今度は各衣服の洗い方と乾かし方を教えますから一緒にやりましょう」
「頼もう」
「あと…さっきの空中移動は…魔法なんでしょうか」
「…東の国の一般的な芸の一つだ」
無理があると思いつつもなんとかごまかした。
シエスタに衣服を預けたエクスデスは、とりあえずこの後の事を聞こうとルイズが向かったというアルヴィーズの食堂へと向かうことにした。
食堂では祈りの唱和が終わりいざ食事というときだったが、ルイズは周りが騒がしいのに
食事に手をつける寸前で気づいた。
学生達がひそひそざわざわと自分を見てその後入口の方を見てと繰り返してまたひそひそざわざわとしている。嫌な予感がして入口の方を見ると見覚えのある巨体がこっちを見ていた。
特に何をするでもなく立っているだけなのだが、インパクトは強烈だ。
生徒たちだけでなく教師陣までもエクスデスを見てひそひそと話をしている。
そのまま放置するわけにもいかないので手招きをしてこっちに呼ぶ、エクスデスが悠然と歩んでくるとざわめきが止まりその姿を皆黙って見ていた。
(何で黙って立ってるのよ!入ってくればいいのに)
(他の者どもの使い魔が見当たらんのでな。ここは使い魔立ち入り禁止かもしれんと思ったのだ)
(ほんとは外だけど、あんたはわたしが許すわ)
身をかがめてルイズと小声で話すエクスデスはとても目立っていた。
「ところであんたはお腹減らないの?」
洗濯の経緯を報告し終えたエクスデスにルイズはふと疑問を尋ねてみた。
昨日は自分は部屋に届けられたパンを食べたが、エクスデスは特に必要はないと言っていた。
あの時はお腹が一杯だったから食べなかったのかもしれないけど、一日たって朝から何も食べてないのであれば空いているんじゃないかという考えからだ。
「いや、私は特に食事を必要とは……」
きゅるるるるるるるる~……
エクスデスが答えようとしたその時、食堂にかわいらしい音が響き渡った。
会話が戻っていた食堂が再び静まり返る。
「今の…あんたのお腹の音…?」
「これは一体どういうこと」
……きゅるるるるるる~!
……
………
………
…………ぶっ
「「「「「「「「「「「あっははははははははははははははは!!!!!!!!」」」」」」」」」」
食堂が大爆笑に包まれた。
あの凶悪な外見の存在から信じられないほどの可愛らしい音。
生徒は笑いすぎて椅子から転げ落ちたり、突っ伏して机をばんばんと叩いている者等がいて、教師ほうでも口元を隠しながらや、くっくっとお腹を押さえながら懸命に笑いを抑えている者もいる。
エクスデスが何事かと思えばルイズまでも机にうつ伏せになってぶるぶると震えている。
必死だった。
「ルイズよ、これは一体何事だ。何故皆笑っているのだ」
肩を叩きながら聞いてくるエクスデスにルイズはひくつく顔を懸命に抑えながら顔を向けた。が、エクスデスの顔を見た途端あの音が再び再生される。
きゅるるるる~…
もう無理
ルイズは腹筋が痛くなるほど笑ってしまった。
皆がなんとか笑いをこらえて落ち着くと今度はまた問題が発生した。
さっきの空腹の音で使い魔に食事を与えていないと冷やかされたルイズが、エクスデスに
パンとスープを与えたのだが、そのエクスデスの食べ方が気になった。
その場に座り込んでパンをむしり一口サイズにしているのだが。兜?を外す気配がない。
あの状態でどう食べるのかと、皆が注視しているのだ。
さあいざ口にと運んでいたエクスデスの手が不意に止まった、横で様子をわざわざ席から離れて見にきたマリコルヌに気づいたのだ。
「ルイズよ。どうやら私がいると落ち着かんようだ。やはり外に出る」
「え…。そ、そう」
のしのしと食道を出ていくエクスデスを見送ると。ルイズはマリコルヌを睨みつけた。
ルイズだけでは無く大半の生徒がエクスデスの食事の様子を気になったので、大人しく見てればいいのに余計な動きをしやがってと言わんばかりであった。
外に出たエクスデスは適当な木の根元に腰かけるとスープとパンを口にした。
そして満たされていく腹部の感じをなんと表現すればいいのかと悩んでいた。
(朝の時といい、この身体になにか異常が起きているのだろうか)
流れる雲を見つめながらしばし思案にふけっていた。
授業が行われる教室へと向かい、ルイズは席についてエクスデスは壁際に立つ。
ルイズは先程の食堂の件や旅芸人を召喚した件を適当にあしらいつつ答えていた。
一方エクスデスは様々な使い魔を見たりその主を見ていた。
キュルケと目が合ったときは手を振ってきたので軽く会釈をした。
が、それ以上にここにいるであろう、昨日からの視線の主の気配を探っていた。
シエスタと洗濯をしている時や、庭で食事をしているときにも感じた気配。
いっそのこと叩き潰してくれようかとも思ったが、ルイズとコルベールの手前それは控えた。しかし見られているというのも不快なのでなんとかここで見つけ出そうとしたのだが。
そこで周囲のざわめきに気がついた。
授業が始まって、魔法の事にも耳を傾けていて、何か虚無という単語が引っ掛かったが。
そのあとの実演で主ことルイズが石ころを何か別の金属に変えるというが…
短くルーンを唱え杖を振り下ろそうとしたとき、エクスデスは強烈な何かを感じた。
「!」
監視する者の正体探りをやめ一気にルイズの元へと跳んだ。
ルイズが閃光を見てさっと身を守る動作をし、惨状を恐る恐る確認しようとすると。
目の前にはばらばらになった机のみがあった。
その真横ではエクスデスが突き出していた手を下げるのが見える。
シュヴルーズは腰を抜かしていて目をぱちぱちさせていた。生徒達もこれはまた爆発だ失敗だと被害を被るのを覚悟したのだが、予想以下の損害にあれあれとざわついていたが、
「ま、まあ失敗だったな。やっぱりゼロのルイズというだけはあるか」
という誰かの言葉にうんうんと頷いていた。
(様々な魔法を使おうとして爆発を引き起こし失敗するからゼロ……だと?)
エクスデスは納得いかなかった。爆発を中央のみで抑え込もうと防御陣を展開したのだが、それにヒビが入ったのを見たからだ。
(ゼロとはつまりは無…あれが無の力なのか……?
ならばルイズは無の力を使えるのか?いや、あれは何物かに御せるような力では…)
顔についた埃をハンカチで主をじっと見ていた。
了
#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
#navi(聖樹、ハルケギニアへ)
聖樹、ハルケギニアへ―2
「…む」
ソファーで横になっていたエクスデスは、カーテン越しに伝わってくる明るさに目を覚ました。
むっくりと上半身を起こして左右を見渡す。
「異界に召喚されたのだったな…」
立ち上がって窓に近づくと、カーテンを開け光を全身に受ける。
窓を開ければ朝のさわやかな空気が全身を包み込んだ。実に清々しい。
両手両腕を回しながら腰をひねったりして全身を動かしていく、そうしていると体のみならず頭も
覚醒してくるからだ。
「ファ~…」
…意識せず気の抜けた声が出た。
何だ今のは、体験したことのない感覚に疑問を抱きつつも自分の身体に異常はないので捨て置くことにした。
気を取り直して窓の下を覗いてみると使用人だろうか、先日に見たメイジとやらとは異なる服装の人間が
何人かぱたぱたと急ぎ足で行来するのが見える。
まだメイジ、いわゆる貴族は起きていないのかと窓から身を乗り出して左右を確認すると、
いくつかは窓が開いていて幾人か人影も見える。
たまたま一人と目が合った。
窓に腰かけていたのだろう。こちらを見たまま後ろに倒れ窓から落ちそうになり、
おぶおぶと手をばたつかせながらなんとか部屋に引っ込むとそのまま窓が閉まった。
どうやら全体的に起床時間のようだ。
ならばと下がると、自分を呼び出した少女が眠るベッドに近づいて覗き込む。
そこでは少女ことルイズが安らかな寝息を立てていた。
「主よ、目覚めの時だ。起きるがよい」
しかし返事はなく起きる気配も微塵もない。
「朝だ。そろそろ起きねばならんのではないのか?」
「…んぅ」
起きるどころかエクスデスとは反対側にごろりと寝がえりをうってしまった。
このまま放置しても良いのだが、それだとなんで起こさなかったの!などと言われかねない。
昨日の様子から見るに十分考えられることだ。
仕方が無いのでルイズの肩をそっと掴んで仰向けにさせる。
そしてルイズの顔に自分の顔を近づけると。少し大きめの声で呼んだ。
「ルイズ。起きるがよい」
「はえ?……きゃあああああっ!!」
どばき
「ぶふぁっ」
起きたと思った途端、自分の顔面に拳が叩き込まれた。
ダメージにはならないが顔面に予想しない攻撃が入ると流石に怯む。
「だ、だだ、誰よあんた!どこから入ったの!?」
大丈夫か主よ。
「目が覚めたか、そろそろ起床の時だと思ったのでな。
そして私だ、エクスデスだ」
飛んでくる枕を片手で受け止め二個目ももう片方で受け止めながら答える。
「え……あ、そそうだったわね。昨日召喚したんだっけ」
本当に大丈夫か主よ。
ルイズは混乱する頭を落ち着かせるため大きく深呼吸すると、目の前にいる使い魔に命じた。
「服」
しかしエクスデスは動かずその場に立ってルイズを見下ろしている。
…もしかすると怒らせただろうか。
ただでさえ大きな体なのに目元は真っ暗で表情も読み取れない、無言でいると強烈な威圧感も感じる。
これなら悪態をついてくれたほうがまだましだ。
「…服をどうすればいいのだ?断片的に言われても分からん」
ああ、考えていて沈黙していたのね。
つまらない命令を下したことに憤慨して、昨日のような植物の化け物のような姿にでもなるのかと
うっすら脂汗を浮かべていたルイズは胸をなでおろした。
「いろいろと初めてだから仕方ないわね、やり方を教えるから次からは覚えて動いてくれると助かるわ」
「うむ、私もそのほうがやりやすい」
「それじゃあ、まずはクローゼットの…」
十数分後、身なりを整えたルイズはカゴの中にぱっぱぱっぱと洗濯物を入れていくエクスデスの背中を見ていた。
簡単にお手本を見せると次には見事に仕上げていく様子からすると覚えはかなり良いようだ。
これなら戦闘以外も覚えさせていけばかなりの万能使い魔になるのではないかと感心してうんうんと頷いていた、が。
「さて、洗濯に赴くとするか」
そう言ってカゴをもつ手とは反対の手に剣と杖が合体したようなエクスデス自前の得物を持って行こうとしている。
「ちょっとちょっとちょっと!そんなの持って行くつもり!?」
「む?これは必要ではないのか?」
「洗濯と戦闘は違うの!」
なかなか譲らなかったエクスデスだが、ルイズがそれは止めなさい!と口うるさいのでやむなく従うことにした。
「それと。あんたは東の謎が多い領域、ロバ・アル・カリイエから来た旅芸人で
この格好は芸の一環だってことになってるから、誰かに出身とか身なりについて聞かれたらこう答えておきなさい」
昨日のうちにコルベールもその情報をそれとなく流したとのことだ、誰か教員に話す時にわざと目のつくところで会話し、通りすがりの生徒に聞かせる。
そこからどんどん話が広がっていくのを目論んでのことだ。
ルイズとエクスデスが部屋から出ると隣の部屋のドアが空き、中から見事なスタイルの褐色の女性が出てきた。
それを見たルイズが顔をしかめている。
「話は聞いていたけど、旅の芸人を召喚するなんてさすがはゼロのルイズね」
いざエクスデス=旅芸人ということで話されると本当のことを話したくて口元がむずむずしてくる。
「あなたもこんな子に呼ばれて旅を中断させられるなんて災難ね」
「気にはしておらん。急ぎでもないのでな」
しげしげと物珍しそうにエクスデスを見る褐色の女性ことキュルケ。
「私の名前はキュルケ。あなたのお名前は?」
「エクスデスという」
「よろしくミスタ・エクスデス。今度東の国の芸を見せてもらえるかしら」
「機会があれば披露しよう」
芸……。木になれます!……ますますむずむずしてくるルイズだった。
そのあとキュルケの使い魔のサラマンダー、フレイムの自慢話をさんざん聞かされてルイズはげんなりとしていたが、
エクスデスは満更でもなくよく話を聞いていた。
「そういえばあんたのいた世界ってああいう生き物いた?」
「いわゆるドラゴンのような物ならば、色は異なるがミニドラゴンやイステリトスが大きさとしては先程の
フレイムに近い。もっとも城にいてよく目にしたのははるかに巨大な体の物ばかりで、あれほど小さいというのはむしろ珍しい」
キュルケと別れて歩いていたルイズはエクスデスから各ドラゴンの説明を聞いて、好事家が聞いたら喜びのあまり気絶しそうだなと考えていた。
それを支配していたというのだから自分はとんでもない存在を召喚してしまったのではないかとも考えたが、まだエクスデスの実力を見ていない以上はまだ完全には信じ切れなかった。木になるのは見たが。
ルイズと別れていざ洗濯と行こうとしたとき、エクスデスは重大な箏に気がついた。
「洗濯の場はどこなのだ…」
場所を聞きそびれたエクスデスはカゴを持って周囲をうろうろと歩き回るがどこがどこなのかさっぱり分からない。
やはりルイズに改めて聞くかと元来た道を戻ろうとしたとき、一人の使用人と思われる少女が同じカゴを持って歩いているのが見えた。
分からないことがあればメイドあたりに聞けばいいとルイズも言っていた。
ならばこの機を逃すまいとエクスデスはカゴをわきに抱えると飛びあがり、宙を蹴って約100メイル程を一気にメイドに距離をつめ近辺に着地した。
「すまぬが洗濯の方法を教えてもらいたい」
「あ、は!はい!」
メイドは尻もちをついていた。無理もないだろう、ふと目をやると青い大きな何かがこっちに向かって突っ込んできたのだから。
「ここが…」
どんな儀式の場かと祭壇のような物を想像していたエクスデスは口から水を出す獅子の象と対峙した。
隣にメイドが桶を出して長い布を水につけて洗い始める、エクスデスはその様子を見ながらカゴの中の洗い物を出すと同じように洗い始めた。
同じように洗っていざメイドがふと目をやると、エクスデスが渾身の力を込めてネグリジェを絞らんとしているところだった。
凄まじいねじりが加えられていてこのままでは間違いなく引きちぎれる。
「あぁ!待って下さい!」
「なぜ止める!」
「肌着、特に女性物はそんなに乱暴にしては駄目です!」
エクスデスによじ登りながら手に持っているネグリジェをなんとか救出して、安堵すると
下から声が聞こえた。
「…事情を聞きたいので、降りてもらいたのだが…」
「え、あ!きゃあっ!すいません!」
自分の丁度胸の部分がエクスデスの顔面に当たっている。
いつの間にか当たっていてメイドは恥ずかしそうだったが、エクスデスは視界が塞がれていたのでとりあえず離れてほしかっただけである。
「私の名はエクスデス。東よりの旅の芸人だ」
「改めて、私はシエスタといいます。ミス・ヴァリエールの使い魔の方ですね。よろしくお願いしますね」
「成程、一重に洗濯と言っても万の方法が有るということか」
「そこまであるかどうかは分かりませんが…」
簡単な自己紹介の後悪戦苦闘しながらもなんとか洗濯は終わった。勢い余りエクスデスが頭から桶の水を被ったりもしたが。
「こちらはお預かりして後でお届けします。今度は各衣服の洗い方と乾かし方を教えますから一緒にやりましょう」
「頼もう」
「あと…さっきの空中移動は…魔法なんでしょうか」
「…東の国の一般的な芸の一つだ」
無理があると思いつつもなんとかごまかした。
シエスタに衣服を預けたエクスデスは、とりあえずこの後の事を聞こうとルイズが向かったというアルヴィーズの食堂へと向かうことにした。
食堂では祈りの唱和が終わりいざ食事というときだったが、ルイズは周りが騒がしいのに
食事に手をつける寸前で気づいた。
学生達がひそひそざわざわと自分を見てその後入口の方を見てと繰り返してまたひそひそざわざわとしている。嫌な予感がして入口の方を見ると見覚えのある巨体がこっちを見ていた。
特に何をするでもなく立っているだけなのだが、インパクトは強烈だ。
生徒たちだけでなく教師陣までもエクスデスを見てひそひそと話をしている。
そのまま放置するわけにもいかないので手招きをしてこっちに呼ぶ、エクスデスが悠然と歩んでくるとざわめきが止まりその姿を皆黙って見ていた。
(何で黙って立ってるのよ!入ってくればいいのに)
(他の者どもの使い魔が見当たらんのでな。ここは使い魔立ち入り禁止かもしれんと思ったのだ)
(ほんとは外だけど、あんたはわたしが許すわ)
身をかがめてルイズと小声で話すエクスデスはとても目立っていた。
「ところであんたはお腹減らないの?」
洗濯の経緯を報告し終えたエクスデスにルイズはふと疑問を尋ねてみた。
昨日は自分は部屋に届けられたパンを食べたが、エクスデスは特に必要はないと言っていた。
あの時はお腹が一杯だったから食べなかったのかもしれないけど、一日たって朝から何も食べてないのであれば空いているんじゃないかという考えからだ。
「いや、私は特に食事を必要とは……」
きゅるるるるるるるる~……
エクスデスが答えようとしたその時、食堂にかわいらしい音が響き渡った。
会話が戻っていた食堂が再び静まり返る。
「今の…あんたのお腹の音…?」
「これは一体どういうこと」
……きゅるるるるるる~!
……
………
………
…………ぶっ
「「「「「「「「「「「あっははははははははははははははは!!!!!!!!」」」」」」」」」」
食堂が大爆笑に包まれた。
あの凶悪な外見の存在から信じられないほどの可愛らしい音。
生徒は笑いすぎて椅子から転げ落ちたり、突っ伏して机をばんばんと叩いている者等がいて、教師ほうでも口元を隠しながらや、くっくっとお腹を押さえながら懸命に笑いを抑えている者もいる。
エクスデスが何事かと思えばルイズまでも机にうつ伏せになってぶるぶると震えている。
必死だった。
「ルイズよ、これは一体何事だ。何故皆笑っているのだ」
肩を叩きながら聞いてくるエクスデスにルイズはひくつく顔を懸命に抑えながら顔を向けた。が、エクスデスの顔を見た途端あの音が再び再生される。
きゅるるるる~…
もう無理
ルイズは腹筋が痛くなるほど笑ってしまった。
皆がなんとか笑いをこらえて落ち着くと今度はまた問題が発生した。
さっきの空腹の音で使い魔に食事を与えていないと冷やかされたルイズが、エクスデスに
パンとスープを与えたのだが、そのエクスデスの食べ方が気になった。
その場に座り込んでパンをむしり一口サイズにしているのだが。兜?を外す気配がない。
あの状態でどう食べるのかと、皆が注視しているのだ。
さあいざ口にと運んでいたエクスデスの手が不意に止まった、横で様子をわざわざ席から離れて見にきたマリコルヌに気づいたのだ。
「ルイズよ。どうやら私がいると落ち着かんようだ。やはり外に出る」
「え…。そ、そう」
のしのしと食道を出ていくエクスデスを見送ると。ルイズはマリコルヌを睨みつけた。
ルイズだけでは無く大半の生徒がエクスデスの食事の様子を気になったので、大人しく見てればいいのに余計な動きをしやがってと言わんばかりであった。
外に出たエクスデスは適当な木の根元に腰かけるとスープとパンを口にした。
そして満たされていく腹部の感じをなんと表現すればいいのかと悩んでいた。
(朝の時といい、この身体になにか異常が起きているのだろうか)
流れる雲を見つめながらしばし思案にふけっていた。
授業が行われる教室へと向かい、ルイズは席についてエクスデスは壁際に立つ。
ルイズは先程の食堂の件や旅芸人を召喚した件を適当にあしらいつつ答えていた。
一方エクスデスは様々な使い魔を見たりその主を見ていた。
キュルケと目が合ったときは手を振ってきたので軽く会釈をした。
が、それ以上にここにいるであろう、昨日からの視線の主の気配を探っていた。
シエスタと洗濯をしている時や、庭で食事をしているときにも感じた気配。
いっそのこと叩き潰してくれようかとも思ったが、ルイズとコルベールの手前それは控えた。しかし見られているというのも不快なのでなんとかここで見つけ出そうとしたのだが。
そこで周囲のざわめきに気がついた。
授業が始まって、魔法の事にも耳を傾けていて、何か虚無という単語が引っ掛かったが。
そのあとの実演で主ことルイズが石ころを何か別の金属に変えるというが…
短くルーンを唱え杖を振り下ろそうとしたとき、エクスデスは強烈な何かを感じた。
「!」
監視する者の正体探りをやめ一気にルイズの元へと跳んだ。
ルイズが閃光を見てさっと身を守る動作をし、惨状を恐る恐る確認しようとすると。
目の前にはばらばらになった机のみがあった。
その真横ではエクスデスが突き出していた手を下げるのが見える。
シュヴルーズは腰を抜かしていて目をぱちぱちさせていた。生徒達もこれはまた爆発だ失敗だと被害を被るのを覚悟したのだが、予想以下の損害にあれあれとざわついていたが、
「ま、まあ失敗だったな。やっぱりゼロのルイズというだけはあるか」
という誰かの言葉にうんうんと頷いていた。
(様々な魔法を使おうとして爆発を引き起こし失敗するからゼロ……だと?)
エクスデスは納得いかなかった。爆発を中央のみで抑え込もうと防御陣を展開したのだが、それにヒビが入ったのを見たからだ。
(ゼロとはつまりは無…あれが無の力なのか……?
ならばルイズは無の力を使えるのか?いや、あれは何物かに御せるような力では…)
顔についた埃をハンカチで主をじっと見ていた。
了
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