「鏡のなかのルイズ」(2009/03/01 (日) 23:09:17) の最新版変更点
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その男は訝しがることもせず使い魔の契約を受け入れた。
どこの田舎者だとルイズが尋ねると、男は辺境の村で農夫をしていたと応えた。
眼に見えて落胆するルイズに何も言うこともせず、その日から男の使い魔としての生活が始まった。
男は有能であった、炊事に洗濯、その他の雑用など男は何も言わず淡々とこなしたし、寝床が床であろうと食事が使い魔のエサであろうと文句一つ言うことすらなかった。
そんな男に馬鹿にされているとルイズが癇癪を起こしたことがあったが、しかしいくら鞭で叩いてもいつもと変わらない陰鬱な表情を崩さない男にルイズの感情は長続きしなかった。
次第にルイズは男のことを気味が悪いと思うようになった。
ギーシュと決闘でそれは頂点に達した。
ワルキューレ達に滅多打ちにされる男、体中から血を流し、常人なら昏倒するほどの傷を受けながら男はいつもの陰鬱な表情をまったく揺らさなかったのだ。
そしてむせ返る血の匂いにギーシュが嫌になり始めたころ。
「気は済んだか?」
ただ一言そういい置いて、折れた足を引きずりながらヴェストリの広場を男は後にした。
誰も一言も口を利けなかった、それは男の雰囲気に呑まれたと言うだけではない。
服が破れ、流れ出た血で赤黒く染まった男の背中には、夥しい数の傷跡が刻まれていた。
その傷の数と、醜く引き攣れた火傷の跡が残る背中が空想のなかでしか戦を知らない若き獅子の子供達を思いとどまらせたのだった。
だがその背中を見ていたのは平和を謳歌する魔法学院の生徒たちだけではなく……
ルイズと男の仲が進展したのは“土くれ”が学院を襲った時である。
これまでルイズは主人でありながら使い魔として男をどう扱っていいか分からなかった。
だが身を挺してフーケの攻撃から庇ってくれたと言うのになんの感謝の言葉も言わないのでは貴族として誇りが許さない。
それからはルイズの別の形で苦悩に満ちた日々が始まった。
どうやって主人と使い魔の形を崩さずにお礼をすればいいのか? そう言うことばかり考える毎日だった。
男の方にもそんなルイズの気持ちは伝わったらしい、いつもの陰鬱な顔を僅かに緩めながら男は今日も雑用と畑仕事に精を出す。
だがもっとルイズは気に掛かるべきだったのだ、どうやって男が破壊の杖――M72ロケットランチャーの直撃を真正面から受けながら僅か全治2ヶ月程度の怪我で済んだのかと言うことを。
そしてついにその時は来た。
「はっはー、燃えろ、燃えろぉぉぉぉ!」
燃え盛る炎、真っ赤に真っ赤に人と家屋と空気を焼き焦がす炎。
その光景を見たとき、男の血は凍りついた。
「――相棒? おい、どうした、相棒!?」
男の異常にデルフリンガーが叫ぶが、しかし今の男にはその言葉は届かない。
「貴様……」
男の声に、先ほどまで炎を撒き散らしながら高笑いを上げていた白髪の男はゆらりと振り向いた。
「ほう、これは見誤っていたようだ。匂いからしててっきり燃えカスかと思っていれば……」
そうして鉄で出来た棍棒のような杖を振り上げる。
「燃え残りの種火の中にこんな極上品が残っていたとはな!」
そしてメンヌヴィルは白く輝くほどの炎を放った、だが今の男にとってそれはなんら障害とは成りえない。
系統魔法を無効化する魔剣デルフリンガーがある上、男にはハルケギニアにはないある技術がある故だ。
男はゆっくりとデルフを構えその切っ先をメンヌヴィルに合わせる、ここ数年ただの一度も抱いたことのない殺意を込める。
不意に視界の端に鏡が映った、おそらく今の自分はおぞましい怪物の顔をしていることだろうと考えて……
「だめぇぇぇえええええええええええ!」
“頸”を込めた一刀で叩き切ろうとした炎の前に、男の主が飛び出して来たのは次の瞬間のことだった。
まさに刹那の出来事だった。
男を焼き尽くすはずだった炎は一人の少女が身を持って壁となったことで進路を変え、男の隣を通り過ぎていく。
その視界の端には鏡があった、生徒の素行を監視するためその場所で起こったほんの少し前の出来事を記録し映し出す魔法の鏡。
焼け焦げ、爛れたその鏡には男を庇おうとする主の必死の姿と――そして戦魔が映っていた。
「きぃぃさぁぁぁまぁぁぁああああ!!!!!」
男の全ての感情が塗りつぶされる。
主が消えたことでゆっくりと薄れていく左手のルーンがまばゆいばかりの漆黒の輝きを放つ。
それは憎悪。
人一人が紡ぎだしたとは信じられないほどの極大にして純粋な憎悪の輝きだった。
その輝きにその場にいる者全てが心臓の鼓動を打つのさえ忘れ、ただ恐怖した。
炎の蛇もメイジ殺しもそして歓喜に震える白き炎さえ。
自分が死んだと錯覚した。
もっとも血と焔に餓えた盲目の傭兵だけは、二度とその心臓を動かすことはなかったが。
全てが終わった後、男は炎によってルイズの姿が焼きついた鏡を持って姿を消した。
男の名はヴァレル、ヴァレル=アワード。
かつてその陰惨を極める戦い方から戦魔と謳われた一人の傭兵である。
以上、作品は榊一郎氏の「ストラグル・フィールド~鏡のなかの戦魔~」より「戦魔ヴァレル=アワ-ド」を召喚でした。
キャラ的にはコルベール先生とメンヌヴィルを足して2で割った感じの人です。
その男は訝しがることもせず使い魔の契約を受け入れた。
どこの田舎者だとルイズが尋ねると、男は辺境の村で農夫をしていたと応えた。
眼に見えて落胆するルイズに何も言うこともせず、その日から男の使い魔としての生活が始まった。
男は有能であった、炊事に洗濯、その他の雑用など男は何も言わず淡々とこなしたし、寝床が床であろうと食事が使い魔のエサであろうと文句一つ言うことすらなかった。
そんな男に馬鹿にされているとルイズが癇癪を起こしたことがあったが、しかしいくら鞭で叩いてもいつもと変わらない陰鬱な表情を崩さない男にルイズの感情は長続きしなかった。
次第にルイズは男のことを気味が悪いと思うようになった。
ギーシュと決闘でそれは頂点に達した。
ワルキューレ達に滅多打ちにされる男、体中から血を流し、常人なら昏倒するほどの傷を受けながら男はいつもの陰鬱な表情をまったく揺らさなかったのだ。
そしてむせ返る血の匂いにギーシュが嫌になり始めたころ。
「気は済んだか?」
ただ一言そういい置いて、折れた足を引きずりながらヴェストリの広場を男は後にした。
誰も一言も口を利けなかった、それは男の雰囲気に呑まれたと言うだけではない。
服が破れ、流れ出た血で赤黒く染まった男の背中には、夥しい数の傷跡が刻まれていた。
その傷の数と、醜く引き攣れた火傷の跡が残る背中が空想のなかでしか戦を知らない若き獅子の子供達を思いとどまらせたのだった。
だがその背中を見ていたのは平和を謳歌する魔法学院の生徒たちだけではなく……
ルイズと男の仲が進展したのは“土くれ”が学院を襲った時である。
これまでルイズは主人でありながら使い魔として男をどう扱っていいか分からなかった。
だが身を挺してフーケの攻撃から庇ってくれたと言うのになんの感謝の言葉も言わないのでは貴族として誇りが許さない。
それからはルイズの別の形で苦悩に満ちた日々が始まった。
どうやって主人と使い魔の形を崩さずにお礼をすればいいのか? そう言うことばかり考える毎日だった。
男の方にもそんなルイズの気持ちは伝わったらしい、いつもの陰鬱な顔を僅かに緩めながら男は今日も雑用と畑仕事に精を出す。
だがもっとルイズは気に掛かるべきだったのだ、どうやって男が破壊の杖――M72ロケットランチャーの直撃を真正面から受けながら僅か全治2ヶ月程度の怪我で済んだのかと言うことを。
そしてついにその時は来た。
「はっはー、燃えろ、燃えろぉぉぉぉ!」
燃え盛る炎、真っ赤に真っ赤に人と家屋と空気を焼き焦がす炎。
その光景を見たとき、男の血は凍りついた。
「――相棒? おい、どうした、相棒!?」
男の異常にデルフリンガーが叫ぶが、しかし今の男にはその言葉は届かない。
「貴様……」
男の声に、先ほどまで炎を撒き散らしながら高笑いを上げていた白髪の男はゆらりと振り向いた。
「ほう、これは見誤っていたようだ。匂いからしててっきり燃えカスかと思っていれば……」
そうして鉄で出来た棍棒のような杖を振り上げる。
「燃え残りの種火の中にこんな極上品が残っていたとはな!」
そしてメンヌヴィルは白く輝くほどの炎を放った、だが今の男にとってそれはなんら障害とは成りえない。
系統魔法を無効化する魔剣デルフリンガーがある上、男にはハルケギニアにはないある技術がある故だ。
男はゆっくりとデルフを構えその切っ先をメンヌヴィルに合わせる、ここ数年ただの一度も抱いたことのない殺意を込める。
不意に視界の端に鏡が映った、おそらく今の自分はおぞましい怪物の顔をしていることだろうと考えて……
「だめぇぇぇえええええええええええ!」
“頸”を込めた一刀で叩き切ろうとした炎の前に、男の主が飛び出して来たのは次の瞬間のことだった。
まさに刹那の出来事だった。
男を焼き尽くすはずだった炎は一人の少女が身を持って壁となったことで進路を変え、男の隣を通り過ぎていく。
その視界の端には鏡があった、生徒の素行を監視するためその場所で起こったほんの少し前の出来事を記録し映し出す魔法の鏡。
焼け焦げ、爛れたその鏡には男を庇おうとする主の必死の姿と――そして戦魔が映っていた。
「きぃぃさぁぁぁまぁぁぁああああ!!!!!」
男の全ての感情が塗りつぶされる。
主が消えたことでゆっくりと薄れていく左手のルーンがまばゆいばかりの漆黒の輝きを放つ。
それは憎悪。
人一人が紡ぎだしたとは信じられないほどの極大にして純粋な憎悪の輝きだった。
その輝きにその場にいる者全てが心臓の鼓動を打つのさえ忘れ、ただ恐怖した。
炎の蛇もメイジ殺しもそして歓喜に震える白き炎さえ。
自分が死んだと錯覚した。
もっとも血と焔に餓えた盲目の傭兵だけは、二度とその心臓を動かすことはなかったが。
全てが終わった後、男は炎によってルイズの姿が焼きついた鏡を持って姿を消した。
男の名はヴァレル、ヴァレル=アワード。
かつてその陰惨を極める戦い方から戦魔と謳われた一人の傭兵である。
以上、作品は榊一郎氏の「ストラグル・フィールド~鏡のなかの戦魔~」より「戦魔ヴァレル=アワ-ド」を召喚でした。
キャラ的にはコルベール先生とメンヌヴィルを足して2で割った感じの人です。
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