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「聖樹、ハルケギニアへ-01」(2010/11/18 (木) 22:11:11) の最新版変更点
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#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
聖樹、ハルキゲニアへ―1
「わたしは ネオエクスデス すべての記憶 すべての存在 すべての次元を消し そして わたしも消えよう 永遠に!!」
そこにもはやエクスデスの意志など無かった。
追い求め、とうとう手に入れた無の力。
世界を制するその力を手にいれ、もはや誰にも届かない強さを得て、全てを従えるはずだった。
それが
我の名を語る何かが
世界を
全てを消し去ろうとしている
・・・・・やめろ!
何をしている!
勝手な事をするな!
そんなことは我は望んでなどいない!
深い深い闇の中で意識を失いかけていたエクスデスは自身を奮い起こし、何としてでも
止めねばならぬと、感覚も感じられない中で必死に手を伸ばし、闇の中をもがく様に進んでいく。
そんな彼の眼に飛び剣を構え飛び込んでくる人が見えた。
バッツ!!
幾度となく戦ってきた宿敵の顔を見間違えるエクスデスではなかった。
ボロボロに傷つき血を流そうとも怯むことなく向かってくる。
倒れれば立ち上がり、更に強さを増して困難に挑み、勝利していった青年。
光の戦士、それだけでは説明できぬ強さと輝きを持った存在。
それが今我に、いやネオエクスデスに向かってくる。
(我をも飲み込まんとするこの闇に怯みもせんとは・・・)
バッツの体が輝きに包まれ、一筋の光となって向かってくる。
その姿を見てエクスデスは安堵していた。
以前の我ならばなんとしてでも消し去らんとしたであろう光を見て、己の内から湧き上がる不思議な感情に。
「ファファファファ!来いバッツ!
このネオエクスデスを見事止めてみせるがいい!
そうすればお前たちの世界はお前たちの手に帰る!
それが勝者への褒美だ!
そして我は消えよう!
それが敗者の定めだ!」
不思議と叫んでいた。
自分は消えようともバッツ達が残るならば世界は大丈夫だろう。
力で全てを押さえつけ従わせようとした自分とは異なる方法で、世界を導いてくれるだろう。
根拠はないがそう確信できた。
光がネオエクスデスに衝突する。
飲み込まれそうになった光は大きく強く輝きネオエクスデスを飲み込む。
その光は中にいるエクスデスにも到達した。
途端、自分を取り囲んでいた闇がけし飛び、代わりにまばゆい光に包まれる。
「見事だ・・・・この輝きを・・・我ももっと早く見ることができたなら・・・」
人の可能性、その力に自分は敗れたのだ。
「さらばだ・・・ もし、我でも・・・生まれ変わることができるのならば・・・。
お前たちのように・・・仲間とやらや・・・大切なものとやらを・・・
見つけることが・・・・出来たら・・・」
薄れる意識の中で、エクスデスは光の中へと消えていった。
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・?
ゆっくりと己が引き上げられていく感覚、エクスデスは自分の意識が消えていないことに気づいた。
それどころか体も存在していることにも気がつく、指を動かすことができたのだ。
(我はあの光の中で消えたのでは・・・?)
視界を開けてみるとそこには夕焼け空が広がっていた。
(あの無の空間ではないだと!?ならばここは一体どこだ!)
がばっと上半身を起こし辺りを見る。
「きゃあっ!」
「ぬ?」
同時に聞こえてきた声の方に目を向けると、ピンク色の髪をした少女が尻もちをついていた。
(・・・人間か)
微弱だが魔力も感じられる。魔導士か?
なぜこんな少女が自分の前にいるのだ。
我を知らぬものはいる筈がない。
このような技量の者で我が討てると思っているのか。
そうだとしたら・・・
さらに周囲を見渡せば少女と同じような服を着た者たちが取り囲むようにこちらを見ている。
ぼそぼそと何か喋ったりもしているようだがはっきりは分からない。
それに寄り添うように様々な動物、そして魔物とおぼしき姿も見受けられる。
(やはり数で来るしかあるまい・・・)
最も、いくら人数で来ようとも実力が伴わなければ意味が無い。
蹴散らすことに決めたエクスデスがゆっくりと立ち上がると、周囲にいた生徒達はびくりとして一歩下がる。
(どうやら蹴散らす必要もなさそうだ・・・)
ならばこれで追い払おうとエクスデスは自身の負の力を纏った殺気を放とうとした―――――――――――が。
「ちょ、ちょっと!何人のことを無視してるのよ!こっちを向きなさい!」
なにやら腰元で騒がしいものに視線を向けると、先ほどのピンク色の髪の少女が腰布をつかんで怒鳴っていた。
一方教師コルベールは顔面蒼白になっていた。
ルイズことミス・ヴァリエールが何十回という失敗の果てに出てきたのは見たこともない装飾が施された鎧のような物。
かと思いきやそれはやおら起き上がり生徒たちを見渡しながら立ち上がる。
そうしたら今度は周囲の視線が気になったのか、あれから発せられる深く強烈な負の情を感じて杖を出そうとしたら、
ミス・ヴァリエールがそれの腰布を引っ張って怒鳴りつけている。
得体の知れぬ、しかも何処かの騎士か、はたまたメイジ、貴族かもしれない相手を怒鳴りつけている。
もし異国の重鎮などで下手をすれば外交問題、悪くて戦争と考えるだけでもまずい。
が、それ以上にあれから微弱だが漂ってくる闇の気配がコルベールの不安を高まらせていた。
万が一の時はこの身を犠牲にしてでも生徒たちを、ミス・ヴァリエールを守らなければならない!
固く決心したコルベールが場を収めるために声を掛けようとした矢先、
「何黙っているのよ!なんとか言いなさいよ!」
ぱしん
ルイズがエクスデスの腰元を引っぱたいた。
コルベールは目の前に絶望という言葉が走っていくのが見えた。
「・・・何用だ人間の娘よ」
「ちゃ、ちゃんと喋れるのね。いいわ、会話が出来るのは合格よ」
深く響くような声に押されながらも、ここで引いては主にはなれないとルイズはしっかりとエクスデスの目・・・の辺りを見つめて会話を試みる。
相手の雰囲気にのまれては駄目だ。
「あなたはわたしが呼び出したの。」
「何の為にだ」
「使い魔にする為によ!」
「・・・人間の娘よ。我を知らぬのか?」
「知らないわよ!メイジだか騎士だか分からない変な恰好して!
・・・・・もしかして貴族なの!?」
「貴族といった者ではない」
「じゃあ平民ね。その服装は大道芸人かなにか?」
「それでもない、我はエクスデス。それ以上それ以下でもない」
「エクスデス、それが名前ね。じゃあエクスデス、そこに跪きなさい」
「何故だ」
「わたしの使い魔にしてあげる。契約をするのよ」
「断る」
「使い魔にしてあげるっていうのに何で逆らうのよ!」
「弱きものに従う必要がどこにある?」
「な・・・なんですってぇ!どんな根拠があって私が弱いっていうのよ!」
「言って分からぬなら教えてくれようか?」
「平民の分際で!分かったわ、契約の前に躾てあげる!」
「面白い!来るがいい!」
「やめなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
互いに杖を取り出して戦闘態勢をとる、ミス・ヴァリエールのほうはともかくとして、エクスデスのほうは・・・・信じ難いほどの魔力量を感じる。
冗談抜きでまずい。
一発触発状態になっていたルイズとエクスデスの真ん中に割って入る様にコルベールが乱入してきた。
ぜぇぜぇと息を切らして今にも倒れそうだ。
「・・・ミス・ヴァリエール!はぁっ、どんな事情があろうともっ、ぜぃ
勝手な私闘は認められません!」
ルイズも反論したがコルベールはとにかく戦いは認められないと一歩も譲らなかった。
ふとルイズが気付けば周りの生徒達はいなくなっている。
コルベールが万が一に備え先に学園に帰していたのだ。
「エクスデス・・・殿でしたね。いろいろとお騒がせしてすみません。」
「別に構わん。ところでここは何処なのだ」
エクスデスの問いにコルベールは丁寧に説明する。
だがトリステインはおろか各国の名前は知らぬ物ばかり、逆にエクスデスが自分がいた地の説明をするがコルベールもルイズもさっぱりな様子。
ならばと自分の素姓を明かしてみたが、ルイズには
「だからあんたの名前なんてどんな本でも見たことも聞いたこともないわよ!」
と一蹴。
コルベールもしばらく考え込んでいたが
「申し訳ありませんが、私の知る限りでは・・・・」
といった有様。
「・・・ところでさっき普通に話してたけど、あんたって・・・・木なの?」
「うむ。ムーアの大森林の一本の木、それが我だ。信じられぬか?」
「信じられるわけないでしょう!」
「私も・・・にわかには」
どうやらいまいち信じてもらえんようだ。
「では証拠を見せよう。人間には目で見せたほうが早いからな」
ならばとエクスデスは自身の中の闇をゆっくりと開放していく、みるみるうちに
エクスデスの体から枝が湧き上がり下半身を覆いながら伸びあがり、5メートル程の大きさになって動きを止める。
「これでどうだろうか?」
二人はエクスデスを見たまま固まっていた。
「ミスタ・コルベール!召換のやり直しを!大道芸人どころじゃなくて、こいつは―――
これは魔物です!」
「人間の感覚からすれば確かに我は魔物だが、先ほどから良く大声が続けて出せるな娘よ」
元の人型の体躯に戻ったエクスデスの前でルイズがコルベールを揺さぶっていた。
「確かに彼のような存在を呼び出したというのは前代未聞だが・・・使い魔
の召喚の儀式にやり直しは認められない。それに・・・」
(底知れぬ魔力を持ってひとつの世界を破壊寸前までに追い込んだような存在を野放しにするということは出来ない)
口には出さなかったが、コルベールはもしこのままエクスデスが放置されたらどのような行動をとるか分からないというのが正直な気持ちだった。
ルイズとしてはまさかこんな魔物を呼び出してしまったなどと家族は当然のこと、誰に言えようかと半ばパニックになっていた。
そんな二人の心を見透かしたのかエクスデスは
「どうやらこの世界に我を知る者はいないようだ」
静かに独り言のように言うと二人がこちらを見る。
「それに我は一度は敗れ去り、消えていたかも知れん。それがなぜこの地に呼ばれたのかは知らぬが、とても騒乱を起こす気分にはならん」
「では、ここで力を振りかざすといったことはしない・・・と?」
「うむ」
「本当ですね・・・?」
「うむ」
「・・・・・ということです、ミス・ヴァリエール」
コルベールからの言葉には出ない催促のようなものをルイズは感じた。
「そうは言っても・・・。
それってつまり、わたしの使い魔になってくれるの?」
「うむ」
「でもさっき自分より弱いものには従わないって・・・」
「気が変わった、とでも言っておこう。
それに人間に仕えるとうことでなにか見つかる物もあるかもしれんのでな」
しばらく考えこんでいたがルイズだが、深呼吸をしてエクスデスに向き直る。
「エクスデス、そこに跪いて」
本来の自分ならば命令口調などされた途端に相手を消し飛ばしていただろうに。
なぜか悪い気はせず、素直に跪きルイズと目線を合わせる。
「それじゃ契約するわよ・・・。
えっと・・・口はこの辺りでいいのよね」
目と思わしき穴の下の部分の口であろうところに見当をつけて、ルイズはエクスデスに口づけする。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ・・・」
これが主従の契約の方法かと考えていたエクスデスだが、ルイズが言葉を紡ぎ終わると同時に左手に熱さを感じた。
見れば手の甲に見慣れぬ文字が刻まれている。
「これでミス・ヴァリエールとあなたの契約が完了しました。このコルベール、確かに見届けさせていただきました」
内心どうなるかとひやひやしていたコルベールだが、エクスデスが思いのほか大人しいことに安堵していた。
その言葉を聞き手のルーンを見たエクスデスはルイズに向き直り
「今日この時をもってルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
汝を我が主とする。
我が名はエクスデス。全身全霊を持って汝の力になると誓おう」
頭を垂れて宣言した。
いろいろと方づいた頃にはすでに辺りも暗くなり、三人は学園へと戻った。
道中この世界のこと、自分の世界のことを語り合いながら歩いて行き、エクスデスはつくづく自分がここに何故飛ばされたを考えていた。
(急いたところで答えは出まい、ゆっくりと考えるとするか・・・)
学園にてコルベールと別れルイズの部屋へと向かう、途中自分を見つめる視線をいくつか感じたが放っておくことにした。
見ているだけなら構わないが仕掛けてくるならば応じるという殺気をかすかににじませながら。
「狭いな」
「そういうこと言わないの!ここに来る前がどんなに偉かったかは知らないけど、
あんたは今は使い魔なんだから、特別扱いはしないわよ」
「うむ、そうであったな。ところで使い魔はいいが具体的には何をすればいいのだ?」
「あ・・・まだ説明してなかったわね。ええっと・・・」
答えかけたルイズはエクスデスの身に付けているマントや腰布が目に入った、さっきはいろいろ忙しく気にならなかったのだが良く見るとところどころ汚れている。
模様かと思ったら黒っぽいシミみたいなのもあるようだ。
「その黒いのはシミ?」
「これは血だ。付着した物が乾いただけであろう」
さらりと言う。
その返事に意識が遠のきかけるが、ぐっとこらえて耐える。
「・・・それ洗濯したことある?」
「洗濯とはなんだ?」
洗濯を知らないとは予想外。
嫌な予感がしたルイズは掃除、炊事等一般常識的な物を挙げて聞いた。
「我には必要なかった」
戦闘以外の経験値、ほぼゼロ。
ルイズはベッドに倒れ伏した。
「今まではそれで良かったかもしれないけど、これからは覚えてもらうわよ」
そう言い渡してルイズは着替えて寝てしまった。
「・・・なかなか難儀な主に仕えることになったようだ」
ルイズのずれた毛布を直し、窓から見える二つの月を見ながらつぶやく。
(暗黒魔導師とも呼ばれ畏怖を一身に集めてきた我が・・・こんな小娘に従うか)
前の自分ならば周りの人間もろとも無に帰そうとしただろうに。
いっそここでこの娘を消すかとも考えたが、安らかに寝息をたてるルイズを見ているとそんな気も無くなってしまう。
自ら誓いもたてたのだ、それを今更撤回するのも情けない。
このルーンが関係しているのか?
しげしげとコルベールがスケッチまでしていた手の紋様を見る。
しかし特殊な力も感じないので気にするのは止めた。
(・・・・我も眠るとするか)
マントやアクセサリー、武装をはずし腰布だけになりソファーに横たわり、ルイズから渡された毛布をかけて視界を閉じる。
(明日は人間が行う奥儀を覚えなければならぬからな・・・。
洗濯・・・人間が日常的に行うという行為。
その積み重ねがあのバッツ達の強さの一つなのだろう。
他の・・・掃除や炊事とやらも無を超える重大な力なのだ。
それを目の当たりに出来るというのだから・・・こんな幸運はあるまい。
明日が楽しみだ、ファファファ・・・)
いろいろ勘違いしていた。
#navi(聖樹、ハルキゲニアへ)
#navi(聖樹、ハルケギニアへ)
聖樹、ハルキゲニアへ―1
「わたしは ネオエクスデス すべての記憶 すべての存在 すべての次元を消し そして わたしも消えよう 永遠に!!」
そこにもはやエクスデスの意志など無かった。
追い求め、とうとう手に入れた無の力。
世界を制するその力を手にいれ、もはや誰にも届かない強さを得て、全てを従えるはずだった。
それが
我の名を語る何かが
世界を
全てを消し去ろうとしている
・・・・・やめろ!
何をしている!
勝手な事をするな!
そんなことは我は望んでなどいない!
深い深い闇の中で意識を失いかけていたエクスデスは自身を奮い起こし、何としてでも
止めねばならぬと、感覚も感じられない中で必死に手を伸ばし、闇の中をもがく様に進んでいく。
そんな彼の眼に飛び剣を構え飛び込んでくる人が見えた。
バッツ!!
幾度となく戦ってきた宿敵の顔を見間違えるエクスデスではなかった。
ボロボロに傷つき血を流そうとも怯むことなく向かってくる。
倒れれば立ち上がり、更に強さを増して困難に挑み、勝利していった青年。
光の戦士、それだけでは説明できぬ強さと輝きを持った存在。
それが今我に、いやネオエクスデスに向かってくる。
(我をも飲み込まんとするこの闇に怯みもせんとは・・・)
バッツの体が輝きに包まれ、一筋の光となって向かってくる。
その姿を見てエクスデスは安堵していた。
以前の我ならばなんとしてでも消し去らんとしたであろう光を見て、己の内から湧き上がる不思議な感情に。
「ファファファファ!来いバッツ!
このネオエクスデスを見事止めてみせるがいい!
そうすればお前たちの世界はお前たちの手に帰る!
それが勝者への褒美だ!
そして我は消えよう!
それが敗者の定めだ!」
不思議と叫んでいた。
自分は消えようともバッツ達が残るならば世界は大丈夫だろう。
力で全てを押さえつけ従わせようとした自分とは異なる方法で、世界を導いてくれるだろう。
根拠はないがそう確信できた。
光がネオエクスデスに衝突する。
飲み込まれそうになった光は大きく強く輝きネオエクスデスを飲み込む。
その光は中にいるエクスデスにも到達した。
途端、自分を取り囲んでいた闇がけし飛び、代わりにまばゆい光に包まれる。
「見事だ・・・・この輝きを・・・我ももっと早く見ることができたなら・・・」
人の可能性、その力に自分は敗れたのだ。
「さらばだ・・・ もし、我でも・・・生まれ変わることができるのならば・・・。
お前たちのように・・・仲間とやらや・・・大切なものとやらを・・・
見つけることが・・・・出来たら・・・」
薄れる意識の中で、エクスデスは光の中へと消えていった。
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・?
ゆっくりと己が引き上げられていく感覚、エクスデスは自分の意識が消えていないことに気づいた。
それどころか体も存在していることにも気がつく、指を動かすことができたのだ。
(我はあの光の中で消えたのでは・・・?)
視界を開けてみるとそこには夕焼け空が広がっていた。
(あの無の空間ではないだと!?ならばここは一体どこだ!)
がばっと上半身を起こし辺りを見る。
「きゃあっ!」
「ぬ?」
同時に聞こえてきた声の方に目を向けると、ピンク色の髪をした少女が尻もちをついていた。
(・・・人間か)
微弱だが魔力も感じられる。魔導士か?
なぜこんな少女が自分の前にいるのだ。
我を知らぬものはいる筈がない。
このような技量の者で我が討てると思っているのか。
そうだとしたら・・・
さらに周囲を見渡せば少女と同じような服を着た者たちが取り囲むようにこちらを見ている。
ぼそぼそと何か喋ったりもしているようだがはっきりは分からない。
それに寄り添うように様々な動物、そして魔物とおぼしき姿も見受けられる。
(やはり数で来るしかあるまい・・・)
最も、いくら人数で来ようとも実力が伴わなければ意味が無い。
蹴散らすことに決めたエクスデスがゆっくりと立ち上がると、周囲にいた生徒達はびくりとして一歩下がる。
(どうやら蹴散らす必要もなさそうだ・・・)
ならばこれで追い払おうとエクスデスは自身の負の力を纏った殺気を放とうとした―――――――――――が。
「ちょ、ちょっと!何人のことを無視してるのよ!こっちを向きなさい!」
なにやら腰元で騒がしいものに視線を向けると、先ほどのピンク色の髪の少女が腰布をつかんで怒鳴っていた。
一方教師コルベールは顔面蒼白になっていた。
ルイズことミス・ヴァリエールが何十回という失敗の果てに出てきたのは見たこともない装飾が施された鎧のような物。
かと思いきやそれはやおら起き上がり生徒たちを見渡しながら立ち上がる。
そうしたら今度は周囲の視線が気になったのか、あれから発せられる深く強烈な負の情を感じて杖を出そうとしたら、
ミス・ヴァリエールがそれの腰布を引っ張って怒鳴りつけている。
得体の知れぬ、しかも何処かの騎士か、はたまたメイジ、貴族かもしれない相手を怒鳴りつけている。
もし異国の重鎮などで下手をすれば外交問題、悪くて戦争と考えるだけでもまずい。
が、それ以上にあれから微弱だが漂ってくる闇の気配がコルベールの不安を高まらせていた。
万が一の時はこの身を犠牲にしてでも生徒たちを、ミス・ヴァリエールを守らなければならない!
固く決心したコルベールが場を収めるために声を掛けようとした矢先、
「何黙っているのよ!なんとか言いなさいよ!」
ぱしん
ルイズがエクスデスの腰元を引っぱたいた。
コルベールは目の前に絶望という言葉が走っていくのが見えた。
「・・・何用だ人間の娘よ」
「ちゃ、ちゃんと喋れるのね。いいわ、会話が出来るのは合格よ」
深く響くような声に押されながらも、ここで引いては主にはなれないとルイズはしっかりとエクスデスの目・・・の辺りを見つめて会話を試みる。
相手の雰囲気にのまれては駄目だ。
「あなたはわたしが呼び出したの。」
「何の為にだ」
「使い魔にする為によ!」
「・・・人間の娘よ。我を知らぬのか?」
「知らないわよ!メイジだか騎士だか分からない変な恰好して!
・・・・・もしかして貴族なの!?」
「貴族といった者ではない」
「じゃあ平民ね。その服装は大道芸人かなにか?」
「それでもない、我はエクスデス。それ以上それ以下でもない」
「エクスデス、それが名前ね。じゃあエクスデス、そこに跪きなさい」
「何故だ」
「わたしの使い魔にしてあげる。契約をするのよ」
「断る」
「使い魔にしてあげるっていうのに何で逆らうのよ!」
「弱きものに従う必要がどこにある?」
「な・・・なんですってぇ!どんな根拠があって私が弱いっていうのよ!」
「言って分からぬなら教えてくれようか?」
「平民の分際で!分かったわ、契約の前に躾てあげる!」
「面白い!来るがいい!」
「やめなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」
互いに杖を取り出して戦闘態勢をとる、ミス・ヴァリエールのほうはともかくとして、エクスデスのほうは・・・・信じ難いほどの魔力量を感じる。
冗談抜きでまずい。
一発触発状態になっていたルイズとエクスデスの真ん中に割って入る様にコルベールが乱入してきた。
ぜぇぜぇと息を切らして今にも倒れそうだ。
「・・・ミス・ヴァリエール!はぁっ、どんな事情があろうともっ、ぜぃ
勝手な私闘は認められません!」
ルイズも反論したがコルベールはとにかく戦いは認められないと一歩も譲らなかった。
ふとルイズが気付けば周りの生徒達はいなくなっている。
コルベールが万が一に備え先に学園に帰していたのだ。
「エクスデス・・・殿でしたね。いろいろとお騒がせしてすみません。」
「別に構わん。ところでここは何処なのだ」
エクスデスの問いにコルベールは丁寧に説明する。
だがトリステインはおろか各国の名前は知らぬ物ばかり、逆にエクスデスが自分がいた地の説明をするがコルベールもルイズもさっぱりな様子。
ならばと自分の素姓を明かしてみたが、ルイズには
「だからあんたの名前なんてどんな本でも見たことも聞いたこともないわよ!」
と一蹴。
コルベールもしばらく考え込んでいたが
「申し訳ありませんが、私の知る限りでは・・・・」
といった有様。
「・・・ところでさっき普通に話してたけど、あんたって・・・・木なの?」
「うむ。ムーアの大森林の一本の木、それが我だ。信じられぬか?」
「信じられるわけないでしょう!」
「私も・・・にわかには」
どうやらいまいち信じてもらえんようだ。
「では証拠を見せよう。人間には目で見せたほうが早いからな」
ならばとエクスデスは自身の中の闇をゆっくりと開放していく、みるみるうちに
エクスデスの体から枝が湧き上がり下半身を覆いながら伸びあがり、5メートル程の大きさになって動きを止める。
「これでどうだろうか?」
二人はエクスデスを見たまま固まっていた。
「ミスタ・コルベール!召換のやり直しを!大道芸人どころじゃなくて、こいつは―――
これは魔物です!」
「人間の感覚からすれば確かに我は魔物だが、先ほどから良く大声が続けて出せるな娘よ」
元の人型の体躯に戻ったエクスデスの前でルイズがコルベールを揺さぶっていた。
「確かに彼のような存在を呼び出したというのは前代未聞だが・・・使い魔
の召喚の儀式にやり直しは認められない。それに・・・」
(底知れぬ魔力を持ってひとつの世界を破壊寸前までに追い込んだような存在を野放しにするということは出来ない)
口には出さなかったが、コルベールはもしこのままエクスデスが放置されたらどのような行動をとるか分からないというのが正直な気持ちだった。
ルイズとしてはまさかこんな魔物を呼び出してしまったなどと家族は当然のこと、誰に言えようかと半ばパニックになっていた。
そんな二人の心を見透かしたのかエクスデスは
「どうやらこの世界に我を知る者はいないようだ」
静かに独り言のように言うと二人がこちらを見る。
「それに我は一度は敗れ去り、消えていたかも知れん。それがなぜこの地に呼ばれたのかは知らぬが、とても騒乱を起こす気分にはならん」
「では、ここで力を振りかざすといったことはしない・・・と?」
「うむ」
「本当ですね・・・?」
「うむ」
「・・・・・ということです、ミス・ヴァリエール」
コルベールからの言葉には出ない催促のようなものをルイズは感じた。
「そうは言っても・・・。
それってつまり、わたしの使い魔になってくれるの?」
「うむ」
「でもさっき自分より弱いものには従わないって・・・」
「気が変わった、とでも言っておこう。
それに人間に仕えるとうことでなにか見つかる物もあるかもしれんのでな」
しばらく考えこんでいたがルイズだが、深呼吸をしてエクスデスに向き直る。
「エクスデス、そこに跪いて」
本来の自分ならば命令口調などされた途端に相手を消し飛ばしていただろうに。
なぜか悪い気はせず、素直に跪きルイズと目線を合わせる。
「それじゃ契約するわよ・・・。
えっと・・・口はこの辺りでいいのよね」
目と思わしき穴の下の部分の口であろうところに見当をつけて、ルイズはエクスデスに口づけする。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ・・・」
これが主従の契約の方法かと考えていたエクスデスだが、ルイズが言葉を紡ぎ終わると同時に左手に熱さを感じた。
見れば手の甲に見慣れぬ文字が刻まれている。
「これでミス・ヴァリエールとあなたの契約が完了しました。このコルベール、確かに見届けさせていただきました」
内心どうなるかとひやひやしていたコルベールだが、エクスデスが思いのほか大人しいことに安堵していた。
その言葉を聞き手のルーンを見たエクスデスはルイズに向き直り
「今日この時をもってルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
汝を我が主とする。
我が名はエクスデス。全身全霊を持って汝の力になると誓おう」
頭を垂れて宣言した。
いろいろと方づいた頃にはすでに辺りも暗くなり、三人は学園へと戻った。
道中この世界のこと、自分の世界のことを語り合いながら歩いて行き、エクスデスはつくづく自分がここに何故飛ばされたを考えていた。
(急いたところで答えは出まい、ゆっくりと考えるとするか・・・)
学園にてコルベールと別れルイズの部屋へと向かう、途中自分を見つめる視線をいくつか感じたが放っておくことにした。
見ているだけなら構わないが仕掛けてくるならば応じるという殺気をかすかににじませながら。
「狭いな」
「そういうこと言わないの!ここに来る前がどんなに偉かったかは知らないけど、
あんたは今は使い魔なんだから、特別扱いはしないわよ」
「うむ、そうであったな。ところで使い魔はいいが具体的には何をすればいいのだ?」
「あ・・・まだ説明してなかったわね。ええっと・・・」
答えかけたルイズはエクスデスの身に付けているマントや腰布が目に入った、さっきはいろいろ忙しく気にならなかったのだが良く見るとところどころ汚れている。
模様かと思ったら黒っぽいシミみたいなのもあるようだ。
「その黒いのはシミ?」
「これは血だ。付着した物が乾いただけであろう」
さらりと言う。
その返事に意識が遠のきかけるが、ぐっとこらえて耐える。
「・・・それ洗濯したことある?」
「洗濯とはなんだ?」
洗濯を知らないとは予想外。
嫌な予感がしたルイズは掃除、炊事等一般常識的な物を挙げて聞いた。
「我には必要なかった」
戦闘以外の経験値、ほぼゼロ。
ルイズはベッドに倒れ伏した。
「今まではそれで良かったかもしれないけど、これからは覚えてもらうわよ」
そう言い渡してルイズは着替えて寝てしまった。
「・・・なかなか難儀な主に仕えることになったようだ」
ルイズのずれた毛布を直し、窓から見える二つの月を見ながらつぶやく。
(暗黒魔導師とも呼ばれ畏怖を一身に集めてきた我が・・・こんな小娘に従うか)
前の自分ならば周りの人間もろとも無に帰そうとしただろうに。
いっそここでこの娘を消すかとも考えたが、安らかに寝息をたてるルイズを見ているとそんな気も無くなってしまう。
自ら誓いもたてたのだ、それを今更撤回するのも情けない。
このルーンが関係しているのか?
しげしげとコルベールがスケッチまでしていた手の紋様を見る。
しかし特殊な力も感じないので気にするのは止めた。
(・・・・我も眠るとするか)
マントやアクセサリー、武装をはずし腰布だけになりソファーに横たわり、ルイズから渡された毛布をかけて視界を閉じる。
(明日は人間が行う奥儀を覚えなければならぬからな・・・。
洗濯・・・人間が日常的に行うという行為。
その積み重ねがあのバッツ達の強さの一つなのだろう。
他の・・・掃除や炊事とやらも無を超える重大な力なのだ。
それを目の当たりに出来るというのだから・・・こんな幸運はあるまい。
明日が楽しみだ、ファファファ・・・)
いろいろ勘違いしていた。
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