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第十三話 破壊力の方程式
フーケ討伐隊の一行は馬車でフーケの隠れ家へと向かっていた。
そして馬車の中は、強大なゴーレムを作り出せるフーケとこれからやりあいに行くというのに、
それを感じさせないかのように雑談で盛り上がっていた。
緊張を紛らわすためということもあったが、それ以前に沈黙が怖かったからだった。
狭い馬車の中で響いてくる、コーホー、コーホーという呼吸音。
馬車の走る振動だけではその音を掻き消すには足りなかったのだ。
それゆえ、ロングビルがなぜ今は貴族ではないのかと聞いたり、それをたしなめたり、
なぜクマの格好をしていたかを質問したり答えたりと喋っていた。
キュルケにとっては意外なことにタバサすらも積極的に参加していた。
まあ、幽霊といったホラーなものが苦手な彼女にとっては幽霊などではなく
目の前の人物が発するものとは言え会話もなくコーホーと響くホラーな状況はひときわ耐えられなかったからであるが。
そんなこんなで無口なウォーズマンや御者のロングビルですらが質問をされた時には喋り、会話に参加していた。
ただ一人、「実況」の二つ名をもつ生徒のみが沈黙を守っていた。
そして移動を続けること数時間、一行は森の中の小屋の前、少し離れて影になったところに立っていた。
「ここがフーケの隠れ家なの?」
「ええ、昨晩遅くにこちらへ入っていくフード姿の人影を見たという情報があります」
それを確認して一同は考え込む。
「じゃあ、一気に突っ込んで倒しちゃいましょう」
「馬鹿ねえ、ルイズ。相手はあのフーケなのよ。
一気に突っ込んであの大きいゴーレムなんて出されてごらんなさい、
私の炎やこの子の氷が盗賊風情に後れを取るとは思わないけど、
わざわざ真正面からぶつかっていくのも優雅じゃないんじゃなくて?」
「何言ってんのよ、正々堂々と正面から行くのが貴族ってものでしょ!
それを盗賊ごときを相手に真っ向から行かないなんて、さすがはツェルプストーの家系ね」
「一回取り逃がしてるルイズに言われたくないわね、
って言うか一人相手にこの人数で攻めて正々堂々もないでしょうに」
「う、うるさいわね!」
と、ルイズとキュルケがいつものように口論を始めた中、タバサが口を開いた。
「そもそもフーケが今あの中にいるのか分からない、……あまり人がいる感じがしない」
これまでも家の任務でたびたび戦いに身を置いた経験からさまざまな状況、
この場合についてはそこにフーケがいないこと、についてもタバサは考えていた。
そして実際、小屋には人の気配が感じられなかった。
そしてウォーズマンも続いた。
「ああ、俺もあそこからは人の気配は感じない。もっともそういうことは得意じゃないんで断言はできないが」
これまでウォーズマンは主にリング上で一対一、もしくはタッグマッチで二体二、で向かい合って戦うことが多かった。
それゆえ、相手を探るということに関してもせいぜいリングやその周辺に限ったことであり、
離れた小屋の中を気配で探るということに関してはこれまで多くの任務をこなしてきたタバサのほうが勝っていた。
そのタバサでも、この静かな状況でははっきりとまではいないということはできなかった。
「結局いるかいないかわかんないのね」
「はっきりとはな。
気配を感じないのも場合によってはすでにこちらに気づいて気配を殺して待ち構えているからかもしれない」
「じゃあどうするのよ?」
それに対しタバサが意見を出す。
それはだれか一人が小屋の様子をうかがい、残ったものは周りに待機して援護するというものだった。
問題はだれが小屋に向かうかだが、
「それは俺が引き受けよう」
と、ウォーズマンが名乗りを上げた。
「あんたが強いのは知ってるけど、大丈夫?」
「ああ、心配するな、ルイズ。それに俺はおまえたちと違って魔法や飛び道具は持っていない。
どっちみち援護役にはなれないからな」
「気をつけてね……、あ、あんたは私の使い魔なんだからこんなところでやられちゃだめよ!」
「ああ、分かった」
ルイズの素直でない気遣いを受けてウォーズマンは小屋へと歩いて行った。
「じゃあ、わたしはあたりを見てきます」
「私は空から見ている」
そしてロングビルはあたりへ偵察に行き、タバサはシルフィードに乗って上空に待機した。
周りを見に行ったロングビル以外の皆が見守る中小屋のドアが開けられるが、
「……どうやら、誰もいないようだ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、隠れられるようなスペースもないし本当にどこかへ出かけているか、それとも周りで待ち伏せているか、だ」
「こ、怖いこと言わないでよ」
「常に最悪は想定しておけ、ルイズ。でなければ足元をすくわれることになりかねない。
現実にはさらに想像もしないようなことが起こることもあるんだ。
せめて自分の思いつく範囲だけでも覚悟は決めておけ。
おれも一度痛い目にあったことがあるからな」
そういうウォーズマンの脳裏には苦い記憶が浮かんでいた。
まさか、うめーうめーと蛍石を食い出すとは思わなかったよ、あのメシウママンモス。
まあ、そんなことはさておき、フーケはいないようなので上空にタバサを監視に残して家探しをしてみた。
「それにしても汚い小屋ね、ええと、なんだろ?これかしら」
そして探していると、ルイズは一つの箱があるのを見つけた。
古く汚れた小屋の中、その箱だけがきれいでしっかりとした見た目をしていた。
そして中身を確かめようとしたその時、
ゴゴゴゴゴゴゴ!
と轟音が響いてきた。
皆がそれを聞き外に飛び出すと、そこには巨大なゴーレムが現れていた。
ルイズとキュルケが一瞬気を呑まれている中ウォーズマンはとっさにフーケの姿を探す。
しかし森の木々にでもまぎれているのかフーケの人影をとらえることはできず、
それは上空にいるタバサにとっても同様だった。
そんな中、戦いの始まりを告げるように「実況」の二つ名をもつ生徒の声が響いた。
「さあ、とうとうフーケのゴーレムが現れました!
迎え撃つのはわがトリステイン魔法学園の生徒たち!
いったいどのような戦いを見せてくれるのかーー!?
なお、実況はこの私が、解説はこの前私が購入したインテリジェンスソードのデルフリンガーさんでお送りします。
彼は6000年もの時をすごしてきているそうなので、その解説には期待してください」
「え、いや、俺は剣だぜ、せっかく買ったんだから武器として使ってくれよ」
「おおーっ、ゴーレムに魔法が撃ち込まれていくーーっ!」
デルフリンガーの言葉を無視して発せられた実況の言葉通りに、ルイズたちは一斉に魔法を打ち込み始めた。
しかしそれらの攻撃を意に介さずにゴーレムは地上にいるルイズたちへと拳を叩き込んだ。
「巨体ゆえの剛腕がうなるー!これは万事休すかーー!
い、いや、これはっっ!」
「スクリュードライバーー!」
とっさにウォーズマンが前へ出て回転しながら突っ込み、ゴーレムの腕を粉砕した。
「へー、結構やるじゃねえか、あのウォーズマンってのも。今のも見た目だけじゃなく理にかなってやがるぜ」
「と、いいますと?すごい技だとはわかるんですが具体的にはどういう理屈なんでしょうかデルフさん?」
「いいか、小僧っ子。前進する力と回転する力ってやつを組み合わせるとすげえ貫通力が生まれんだ。
今みたいな勢いで回転しながら突っ込んで、しかもあんな爪までつけてりゃあそりゃあ土の塊でできたゴーレムの腕くらい砕けらあ」
「なるほど、そうだったんですか、これはフーケの敗北は必至か!?
い、いや、これは!」
不利と叫ぶ実況を無視してゴーレムは砕けた腕の部分を地面に押しつけた。
そしてそのまま腕を再生してしまったのだ。
「なんと、地面の土を失った腕にしてしまった!これは勝負が分からなくなってきた!」
それを見たウォーズマンは上空のタバサに視線をやった。
それを受けたタバサはすかさず地上に降り立った。
「ルイズたちを頼む」
「わかった。私たちは上から、あなたは下から」
そうしてルイズとキュルケを乗せてシルフィードは再び舞い上がった。
腕を再生し、姿勢を立て直したゴーレムがそこを狙って拳を振るうが、
再度のスクリュードライバーで足を破壊され、パンチは空を切ることになった。
「おおっ、今度は足を狙いました。これなら破壊だけでなく体勢を崩すこともできてより効果的ですね」
「いや、そうでもないぜ、よく見て見な」
その言葉通り、ゴーレムは砕かれた脚で膝をつくとあっさりと足を再生して立ち上がった。
その様子を、さっき嫌がっていた割にはしっかりとデルフが解説する。
「ほれ、やつは地面につきゃあすぐに自分を直せんだ。いまみたいにしたって脚だか膝だかをつきゃあすぐに元通りよ。
足とかを狙ったところで姿勢を崩してぶっ倒れるってのは難しいぜ」
その言葉通りさらにウォーズマンのスクリュードライバーが加えられ、
体の一部を破壊されても多少姿勢を崩す程度ですぐに再生し、地上のウォーズマンへ攻撃していく。
また、上空からの魔法攻撃も最初の時のように表面を少し削る程度でほとんど効果がない。
なお、このような激しい戦いの中でも実況の声は「実況」の使う魔法による風に乗って皆の耳に響いていた。
戦闘が始まって少したち、状況はこう着状態に陥っていた。
ゴーレムには上空からの魔法はあまり効果がなく、ウォーズマンのスクリュードライバーのダメージもすぐに回復される。
しかしゴーレムの攻撃も、シルフィードは上空の届ない高さにおり、
地上のウォーズマンに対してもその動きを捉えきれずにいた。
だが、
「だめ、このままでは私たちが負ける」
と魔法を放つ合間にタバサが言った。それに対してキュルケが異を唱える。
「えっ、なんでよ!?悔しいけどこっちの魔法は効いてないけど向こうだって攻撃が当たってないじゃない」
「今はそうだけど、このまま続けばウォーズマンの体力がいずれ尽きると思う」
「ウォーズマンが?確かに戦いが始まってからスクリュードライバーって技を連発してるけど、
それならゴーレムを再生させ続けているフーケだって先に精神力が切れてもおかしくないじゃない。
そもそもウォーズマンが前に戦ったのってギーシュの時だけでしょ?
あんなんでウォーズマンの限界なんてわかる分けないじゃない、どうしてそんなことが言えるの!?」
と、今度はルイズも問い詰める。
「戦い方の問題」
「戦い方?」
「そう、例えば今の様に魔法を打ち込むというのはメイジである私たちにとって当然の戦い方、何もおかしくない。
フーケにしても同じ、学園の件から考えても巨大なゴーレムを用いるというのはフーケの得意な手段と思われる。
でもウォーズマンは違う」
「どうして?前の決闘でも今やってるスクリュードライバーでギーシュを倒してたじゃない」
「でも、それだけじゃなかった。クマちゃんの時に彼は様々なプロレス技を使っていた。
そう、彼の戦い方はプロレス殺法」
「そ、そういえば……」
「だけどそれは基本的には対人の技、あのゴーレムには通じない。
プロレスの投げ技も組み技もあの巨体相手では使うことができない」
「た、確かに……、じゃあ、それってつまり」
「そう、ウォーズマンはつなぎの技もなくいきなり大技だけを出し続けるという不自然な戦い方をしていることになる。
これでは必要以上に消耗する」
そう断言するタバサにルイズはショックを受ける。そんな彼女に追い打ちをかけるようにさらに実況の声が響いてきた。
「ああーーっっと、これはどうしたことか!?ウォーズマンがスクリュードライバーを打つ間隔が鈍ってきたーー!
一部とはいえゴーレムを砕くほどの攻撃、やはり連発するのは無理があるのかー!?」
そんな、どうしよう。このままではウォーズマンがやられてしまう。何か手はないの?
その時ルイズはふと、懐に抱えた箱のことを思い出した。
小屋の中で見つけた、破壊の爪が入っていると思しき箱だ。
そうだ、これを回収したのだからもう戦わないでもいいんじゃないだろうか?
……しかし、貴族が背中を見せるわけにもいかない、でもこのままじゃウォーズマンが、
いや、そうだ、この破壊の爪をウォーズマンが使えば何とかできるんじゃ?
杖とかロッドとか言う名前じゃなくて爪、という名前だったから
メイジの自分にとって武器として使うという発想は出てこなかったがウォーズマンなら話は別だ。
今だってベアークローという爪、本人は自分の一部と言っていたが、を使って戦っているじゃない。
そう思いルイズは箱を開けると確かにその中には爪が収められていた。
しかし、それはルイズにとって意外であり、また見覚えのあるものだった。
「え…こ、これは……、いいわ、お願い、ウォーズマンに近づいて!」
「何言ってんのよ、ルイズ、この状況じゃ悔しいけど近づいて援護しようにも邪魔になるだけよ!」
「でも、この爪をウォーズマンに渡さなきゃ!」
「わかった」
それを聞くとタバサはシルフィードを翻した。
そしてゴーレムがウォーズマンへの拳を空振りさせた一瞬に合わせウォーズマンに近づいた。
その時に合わせルイズは破壊の爪をウォーズマンに投げつけた。
「ウォーズマン、これを受けとってーー!」
それを見たウォーズマンはすかさずキャッチし右手にその「破壊の爪」、いや、
左手に装着したものと同じ爪、ベアークローを装着した。
そしてルイズに向かって叫んだ。
「ルイズよ、ベアークローは投げるものではなく腕につけるものだーー!」
「イ、 イエッサ!」
ってなんで私は叱られているのかしら、思わずイエッサなんて言っちゃったし。
でも迫力あったしなんだかウォーズマンの背後にモップかぶった男のオーラまで見えたし。
そんなルイズの思いとはたぶん関係ないがウォーズマンは続けた。
「だが、ありがたい、ルイズ」
「ベ、別にどうってことないわよ」
そんな言葉にルイズはあっさりとうれしくなった揚句、照れ隠しの言葉を返していた。
「おおーっ、なんと!破壊の爪とはウォーズマンのベアークローと同一だったーー!!」
「でもよ、爪が一本から二本になったくらいで何か変わるのかよ?」
「そ、それはどうなんでしょうか?さあ、これでいったいどのような展開になるのかー!?」
それを受けるかのようにウォーズマンは言った。
「俺の超人強度は100万パワー、このままではやつに決定打は与えられない。
しかし、二本のベアークローで100万パワー+100万パワーで200万パワー!!
いつもの2倍のジャンプがくわわって200×2の400万パワーっ!!
そしていつもの3倍の回転をくわえれば400×3の、
ゴーレムマン(超人強度580万パワー)、おまえをうわまわる1200万パワーだーっ!!」
なに、100万って数大きすぎじゃない、単位どうなってんの?
って言うかゴーレムマンって誰?
そんなルイズの疑問をよそに、飛びあがり両手の爪を突き出して回転し突っ込んでいくウォーズマンの体が光に包まれていった。
「ウォーズマンが1200万パワーの光の矢となったーー!!」
実況の声を受けそのままゴーレムへまっすぐに突っ込んでいった。
ズガガガガアァァァンンッ!!!!
そして、ゴーレムを木端微塵のミジンコちゃんに粉砕してしまったのだった。
もはや、ゴーレムが再生することはなかった。
「こ、これはすごい!!なんとあのゴーレムをただの一撃で完膚なきまでに破壊してしまったーー!!
これはとんでもない技だーー!」
「そうか、そういえば聞いたことがあるぜ」
「今の技について何か知っているんですか、デルフさん?」
「いいか、世の中には「二刀流×高さ×回転=破壊力」っつー方程式ってのがあってよ、今のはそいつを利用したわけよ。
しかし、おでれーた、ここまで完璧な形で破壊の方程式が見れるとは長く生きてみるもんだぜ」
「なるほど、それならば今の威力も納得というわけですね」
そんなわけあるか!
ルイズは今の流れに納得できずにいた。
何が、というかすべての理屈がおかしい。無理があるというかもう無茶苦茶だ。
でも口にしたらなんだか負けな気がして結局ルイズは内にため込んだままだった。
未だ、ルイズには「ゆでだから」は受け入れられずにいたのだった。
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