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#navi(ゼロと魔獣のような悪魔)
ゼロと魔獣のような悪魔―2
使い魔生活の始まりー1
うっすらと夜が明け、カーテンの隙間から光が差し込んでくる。
「……」
眩しさを感じ顔をしかめてビーニャは寝返りをうつ。
光に背を向けてまた寝ようかとも考えたが、床の硬さが寝るに至るまでに意識を安らかにさせてくれない。
薄眼を開けてしばらくぼけっとしていたが、こうしていても仕方がないのでやむなく起きようと上半身を起こす。
ぴき…ごきぐき……
「あいったたた…」
硬い床の上に寝ていた所為だろう。
身体の各所が変に固まっていて少し動かすだけで痛みが走る。
それでもそのままにはしておけないので我慢しながらゆっくりと体をほぐしていく。
手足をほぐし、首をまわして寝違いを正す。
そして背伸びを
ビキッ
「!!!!!あいっつ!!」
しようと両手を上にあげて伸びをしようとした瞬間、するどい痛みがビーニャを突き抜けた。
「~~~~~~!!」
背中を擦りながらしばらく蹲り、ふと目を横にやれば天蓋付きのベッドがある。
立ち上がって見ればベッドでは自分がこうなっている元凶、桃色チビことルイズがすやすやと眠っていた。
(こっちは堅い床で寝て体中痛いってのに!)
まだ背中をさする。目尻にはうっすらと痛みによる涙も浮かんでいる。
なのにこいつは柔らかで大きなベッドで夢心地。
それを見ているうちに意識もはっきりして昨日のいざこざも思い出してきた。
「…ムカツク」
テーブルの上に置いてあるランプをつかんでベッドに近づく。
ルイズはやはり起きる気配は無い。
「すぅ……う…ん…」
部屋にうっすらと差し込む光が眩しいのか、寝返りをうって背中を見せる。
「……」
全くの無防備だ。
これで頭めがけて何回か殴りつければ簡単にコイツは死ぬだろう。
そうすればこの左手の変な文字消えてアタシは自由、こんなとこさっさとおさらばできる。
すっ、とランプを顔に振りおろせる位置に上げる。
「……?」
だが、どうにもそれから動く気がしない。
なんだかこのまま振り下ろして、その後に起こることが、ルイズがどうなるかを考えていまいそれが全く楽しめそうにないのだ。
いや、むしろ非常に不快になりそうなのだ。
(?……あれ……)
普段の自分なら躊躇せずにやれた筈。
これは一体どうしたことだろう。
しかもいつの間にか振り上げたランプを下ろしている自分がいる。
「……」
「んー……」
そんな目の前でルイズがこちらに寝返りをして顔がこっちを向く。
(…アホくさ。
別に今じゃなくてもいいわね。
殺そうと思えばこんだけ隙だらけならいつでも殺せそうだし)
ルイズの顔を見ているうちに昨日の契約を思い出した。
(……おぇっ)
何が悲しくてこんな奴とキスしなくてはならなかったのか、魔力が満ちてたら有無を言わさず消しとばしていた。
(でもあれは仕方なかったのよ。
あそこで騒ぎ立てるより大人しくしているように見せかけて、後から手のひら返してやれば。うん)
自分で納得するとビーニャはランプをテーブルに戻した。
「あーあ」
ぼりぼりと頭をかきながらイスにどっかりと腰かける。
そうしてどうしたもんかなと考えた矢先、ふと自分の恰好が気になった。
白い飾り気のない地味なパンティ、上はこれまた素っ気ないキャミソール。
(そういやアタシ昨日からこのまんまよね…)
下着姿で学園のあちこちを走り回っていたのだ。
レイム様にはとても見せられないけど、人間のガキなんかに見られても恥ずかしくもなんともないし。
「とは言っても、服なんて無いわよねぇ…」
気付いた時にはこの下着姿だった。
自分の来てきた服はどこへやら、多分服の各所に仕込んである道具や武器のナイフもろとも保管されているだろう。
もし手元に戻ってきても果たして着ることはできるかどうかも不安だ。
ズタボロで血でもついているような服はご免だし。
どうしたもんかと部屋を見渡すとイスに引っ掛けてある女子用の制服が目に入った。
(あ、これコイツが脱ぎっぱなしにしてたやつ)
手にとってしげしげと眺める。
(そういえば背丈も同じぐらいだし…着れるかな?)
ごそごそとブラウスを着てボタンを留める。
悪くない。
胸が少しだけきついぐらいだ。
スカートも穿いてみるとこれも大丈夫、ウエストがきついだけ。
くるっと回ってみる。
今までこんな服は着たことがなかったのでなんだか新鮮な気分だ。
今日はこれでいこうとイスに腰掛けると扉の向こうからノックが聞こえた。
「おはようございます。お洋服をお持ちしました」
話し方から察するにおそらく小間使いの使用人だろう。
昨日走り回ってるときにそれらしいのを結構見たし。
しかしたかが服ごときでいちいち使用人参上とは良い御身分だ。さすが金に物を言わせる馬鹿な貴族のおガキ様が通う学園と言ったところか。
あ、そうだ。
受け取って良い感じの服だったらアタシが貰おう。
イスから立ち上がりドアに手をかける。
「はいはい。今開けるわよ」
ガチャリと錠を解除してドアを開けた。
「きゃあ!」
「あ?」
ドアを開ければ目の前には黒髪の女。
恰好からしてメイドというやつだろう。
だが、それがなぜか尻もちをついてこちらを見上げているのだ。
「?服もって来たんじゃないの?」
腰を抜かしているメイドに手を伸ばして掴まれという仕草をする。
「え、あ、すみません!
…ちょっとびっくりしてしまいまして」
「は?びっくりってなによ」
「扉を開けた時に制服が目に入ったので、てっきりミス・ヴァリエールかと思ったのですが…」
「顔見たらアタシでしたーってわけね。
何も転ぶほど驚くことは無いんじゃない?
…アンタの名前は?」
つかまれと手を伸ばし、シエスタが手を取って立ち上がる。
「すみません。私の名前はシエスタと申します」
「んーシエスタね…っと」
ビーニャがシエスタを起こした時、何やら抱えている物に目をやる。
「そういや何か持って来たって?服らしいけど」
「あ、そうでした。
こちらのお洋服の修繕と洗濯が終わったのでお届けに来たんです」
そう言ってシエスタが畳まれていた服を拡げて見せる。
「あっ!その服!」
てっきりルイズの物かと思いきや目の前に現れたソレはビーニャの物だった。
ぐわしと服を掴んでまじまじと見つめる。
シエスタがびくっと驚いたようだがそれどころではない。
半ば諦めかけていた服だったので喜びも格別だ。
「ん~!良かった~!」
シエスタから奪い取るようにして受け取った服を抱きしめて頬ずりするビーニャ。
驚いていたシエスタもそのビーニャの表情を見て笑顔になる。
「思い入れのあるお洋服なんですか?」
その言葉ににぱっと笑顔を向ける。
「その通りよ!
これは一番最初にレイム様に貰った物なんだから!」
かなりご機嫌だ。
そんなビーニャにシエスタがふとした疑問を質問してみる。
「そのレイムさんとはどのような方なんでしょうか?」
様、と呼んでいることからここに来る前のビーニャの目上の人だと想像したのだが、
「決まってるじゃない!」
シエスタに向けて大きな声で返事する。
「アタシのご主人様!
悪魔たちを支配する存在!
とっても強くて頭も良くて素敵な大魔王様よ!」
「…え?」
流石にこの答えにはシエスタも言葉を失いかけた。
よりにもよって「悪魔」と来たものだ。
どう反応すれば良いのか正直困ってしまう。
悪魔なんておとぎ話の中でしか聞かない存在なのに、それが彼女の元ご主人様だったと言われても。
(…!そうだ!
きっと「悪魔みたい」な人なんだ!)
と、それはそれで問題大有りなのだがシエスタはそう自分に納得させることにした。
「ところでこの服直してくれたのってアンタ?」
「あ、どこかまずいところでもあったでしょうか?」
気に入っていた服ならば個人のこだわりの部分などもあったかもしれない、
「全然問題無し!正直言って助かったわ。
アタシ細かい裁縫とか駄目なのよー。
やっても見たんだけどうまくいかなくてさー」
(何となく分かる気が…)
心の中で思っても言わない。
「感謝するわ。
あ、そうだ!アンタのこと気に入ったから何か願い事があるなら叶えられるもの
だったら叶えてあげる!」
「いえ!そんなお礼だなんて」
両手を前にいいえ結構ですのポーズを取る。
自分にとってはお礼をされるようなことをしたつもりはないのだ。
それに何となく嫌な予感がするのだ。
「遠慮しないでいいわよー。
殺したいヤツとかいない?代わりにぶっ殺してア ゲ ル♪」
(ひぇぇ…!)
当たりである。
「ほ、本当に大丈夫ですから!
別にお礼なんてされるようなことはしていないので!
お気持ちだけで十分ですから!」
「えー」
ビーニャは不満げだが、この申し出にはいと答えて本当の流血沙汰にでもなったりしそうでシエスタは気が気でない。
なんとかビーニャを説得してこの場を収めようとする。
「そういうことなら仕方ないわね」
「分かっていただけましたか…」
「じゃあ今からムカツクやつを探しに行けばいいわね」
ずるっとシエスタはその場にすっ転ぶ。
駄目駄目である。
「で、ですからーっ!……ひぃ!」
「?」
シエスタが何か言おうとしたようだがその続きがない。
かわりにぶるぶる震えながら口をぱくぱくさせている。
「何 を し て い る の か し ら ?」
「うヴ!?」
まるで地獄から響くような重低音が聞こえビーニャはびくりと震え、変な声をあげて立ったまま動けなくなる。
そのまま人形のような硬い動きでゆっくりと振り返ると、
鬼、いや、鬼神がいた。
真っ赤な怒りのオーラを立ち昇らせるネグリジェを着た鬼などリィンバウムでもお目には
かかれないだろう。
人間には無い筈の角まで見える。
寝癖で髪の毛が角のように見えるのかもしれないが。
「昨日の夜に洗濯をするように言っておいたけど終わってるの?
そしてそれは私の制服なんだけど、アンタが着てどうするのかしら」
だらだらと顔を流れる汗。
「ア…アッハッハ…ハッ…」
ひきつった笑顔を浮かべるしかない。
ふと背後でバタンと扉を閉める音が聞こえたので振り返ればシエスタがいない。
どうにも出来ないと判断して離脱したようだ、うん正しい。
「ビーニャ」
見ればルイズがにっこりとほほ笑んでいる。
さっきの鬼の面影はない。
しかし、
「何か言うことは?」
いつの間にか手に持っていた杖から火花のような物が見える。
見ただけ誰もがまずいと思う状況だ。
もはや逃げ場なし。
ビーニャはふっと笑うと精一杯の笑顔でルイズに言った。
「アンタの言うことなんて聞くわけないでしょ、バーカ」
ルイズの部屋から爆音が学園に響き渡った。
了
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#navi(ゼロと魔獣のような悪魔)
#navi(ゼロと魔獣のような悪魔)
ゼロと魔獣のような悪魔-2
見知らぬ世界で大騒ぎ
「……?」
いつまで気を失っていたのだろう。
目を閉じていても光の眩しさを感じる。今は朝か昼か。
霊界サプレスの住人は魔力が満ちる夜に行動する。
光を忌み嫌う悪魔となればそれは尚更だ。
日中は眠れるはずなのに目が覚める、それはつまり寝過ぎたということか。
……
目をうっすらと開ける、ぼやけた視界に入ってきたのは白い布。
ああ、これはシーツかと目を再び閉じようとする。
このまま布団に包まって目をつぶっていればまた睡魔が来てくれる…
「んぅ…………ッはぁあっ!?」
シーツを跳ね飛ばして飛び起き辺りを見回す。
清潔感が溢れる部屋、戸棚には薬?とおぼしき瓶が並び向かいにはもう一つベッド
がある。
窓からは光が差し込み、少し開けられた窓からは爽やかな風が吹き込んでくる。
「どこよココ!?」
自分はギエン砦で調律者達と戦って負けて…
気がついたら金の派閥の連中に囲まれてて、目の前の女を殺そうと切りかかった
ら気を失って…気がついたらベッドの上…。
「つまりここは金の派閥の医務室…?」
なんで自分は(恐らく)運び込まれて寝ていたのか。
はっとして自分の体を確認する。
下着姿の所々には包帯が巻かれて、丁寧に手当てされたのが分かる。
何故悪魔の自分が治療されていたのか、考えると頭が痛くなってきそうだ。
幸い誰もいないようだし、逃げられるならば逃げてしまおう。
そう考えたビーニャは足を出し地面に着け、
「~~~~~~~~~~~~~!!い!!!たっっ!!あぁ!!」
言葉にならない声を上げてうずくまってしまった。
体に力が入らない。
床の上で生まれたての鳥のヒナ状態のビーニャは痺れるような痛みに目じりにうっすらと
涙を浮かべながら自分の服を探す。
しかし周りにそれらしきものは無い。
サモナイト石や短剣といった危険物が入った服だ、取り上げられて当然だろう。
お気に入りの髪留めも無いし。
そうこうしているうちにだんだんと感覚もしっかりしてきて立ち上がれるようになり、
ベッドに腰かけているとしびれは消えてしまった。
少し傷は痛むが。
拳を握ったり開いたりして動くことを確認したビーニャは、止む無く下着姿で脱出することにした。
ドアノブに手をかけると鍵もかかっていなく開くことができる。
いくらなんでも悪魔相手にこれは無いだろう。
罠なのかと勘繰りながらゆっくりと戸をあけ外に視線を向けるが外には警備の者らしき
影も形もない。
ますますおかしいと思いつつも、こうしていてもらちが明かないので行動することにした。
裸足で抜き足さし足と廊下を進んでいく。
最初は窓からとも考えたが覗いた高さが結構な物なので止めた。
「にしても、どこがどこだかさっぱり分かんない」
独り言を言いながら歩いているのだが誰とも出くわすわけでもないのでお構いなし。
しかも召喚師の本陣、内部構造なども知るわけがない。
あてどなく歩きながら曲がり角を曲がろうとしたその時、
「きゃっ!」
「いたっ!」
不注意にも人と出くわしてしまった。
お互いぶつかった時に尻もちをついてしまい、なおかつ鼻もぶつけたようだ。
ビーニャが花を抑え涙目になりながら前を向くと目の前の桃色の髪の人間も鼻を押さえて
いる。
(…桃色の髪…………この女っ!!!!)
意識を失う前に見た召喚師と思しき桃色の髪の女。
それとこんなところで出会ってしまったのだ。
「ど、どこ見て歩いてるのよ!傷が残ったらどうす…る…気…」
目が合った。即座に後ろに飛び退く。
こんなところで見つかってる場合じゃない。
「目が覚めたのね!一時はどうなること思ったけど、…無断で出歩けるくらい元気そう じゃない」
桃色の女こと、ルイズが立ち上がりビーニャに話しかける。
「でも、勝手に出歩くのは関心しないわよ?使い魔があちこち行くのなら主人の許可がいるんだから」
(使い魔?アタシが?誰の?)
ビーニャが訝しげに見ているのを気づいていないのか、ルイズは主人として使い魔に対する主従の関係な態度で話続ける。
「それにあんたは今私とぶつかった訳だけど、普段ならこんなことは許しがたいことなのよ?平民ならどんな制裁を受けるかもしれないのを、あんたは私の使い魔ということで特別に許してあげるんだから」
時折鼻をさすりながらもルイズは言葉を続ける。
最初は黙って聞いていたが、上から目線の口調にだんだんと腹が立ってくる。
「分かった?それじゃ医務室に戻っ…あぐっ!?」
その瞬間ルイズは後方に吹き飛ばされた。
何事かと目線を上げると包帯だらけの少女がこっちに手をかざし睨みつけている姿が映った。
口元が微かに笑っている。
(な、何!?こいつがやったの!?)
「何言ってんだか知らないけどさぁ…アンタのその態度すっごくムカツクんだよねぇ」
転んだままついたまま動けないルイズを突き刺すような目線で睨む。
「一人でアタシの相手しようなんていい度胸じゃん。
じゃあ特別に…」
(な…何する気!?)
「思いっっっっきり壊してあげる!!ダークブリンガーッ!!」
腕を振り下ろしたビーニャを見てとっさに腕で身をかばう。
正面から来るであろうその攻撃から身を守るために――――――
だが、その防御は無駄に終わった。
ゴワ―――――ン
それは真上、頭に降り注いだのだから。
「いっった!!何なのよもう!」
頭の衝撃の正体を見ようと横を見れば、鈍い銀色の大きな桶、
通称金ダライがごわわんと音をたてて転がっていた。
ルイズが金ダライを見ている一方、その金ダライを召喚したビーニャは目が点になっていた。
「……は?」
自分は闇の気を纏った剣を呼び出してコイツ…桃娘にぶつけたはず。
それで辺りに血しぶきが飛び散って終わっていたはず。
それが生きてるし、しかも隣のアレは何?剣を呼んだはずなんだけど。
なんで、
バカ―――――――ン
考え事をしているビーニャの顔面にその金ダライが命中した。
後ろに倒れこみ顔を押さえて何事かと顔を上げれば、桃娘がこちらを睨んでいる。
なぜか背後に炎のような物も見えるような気がして正直おっかない。
「…ケガしてるだろうからって…きっと混乱してるだろうからって…
最初に切りかかってきた時の事許してあげようと思ったけど…」
覚えてたんだ。
「…きっと医務室でまだ眠ったままなのかなと思って…見に来てあげたら…」
そんなこと頼んでないんだけど。
「いないから探して…傷が開いたりしないように言おうとしてあげたら…
因縁つけてきた挙句…人の頭に変な物ぶつけてきて…」
それはアタシも予想外、本当は殺す気だったんだけど。
いつの間にか桃娘が手に持っている杖がバチバチと音を立てている。
これは
「覚悟しなさいっっっっ!!!」
まずい
そう思ったときには閃光が見えていた。
あ、桃娘の今の顔、キュラーが従えてた悪鬼が憑いた人間そっくり。
「彼女の様子はどうでしょうかね…」
階段をゆっくり上がりながら、昨日のサモン・サーヴァントの儀式監督者のコルベールは医務室に向かっていた。
ミス・ヴァリエールことルイズが呼び出した少女。
コルベールはビーニャの事が気になっていた。
血でところどころ染まった服、手慣れた手つきで短剣を抜き放ち切りかかる動作、まるで戦場から来たかのようだった。
そして何よりも気になったのは目、赤い輝きの中に見える深い闇、あの目がコルベールの心に波を立てていた。
(とにかく彼女の回復を待って、それから先のことを考え―――――――!?)
矢先、コルベールは爆発音で階段を踏み外しそうになった。
「何事ですかっ!?」
体勢を持ち直して最後の段を上り曲がり角の向こうに顔を出すと、
「ちょっとそこどいてぇぇぇぇぇぇ!!!」
件の少女が下着&包帯姿で真横を駆け抜けた。
「あ!待ちなさ「待ちなさい!よけるんじゃないわよっ!!!」」
振り返っていたコルベールの真横をルイズが鬼の如き形相で走り抜けていった。
そのまま階段を駆け下りて行った二人をぽかんと見ていたコルベールだったが、はっと
己を取り戻して爆音が聞こえた法を見れば見事なまでにぼろぼろになった石造りの廊下が見える。
壁には大砲の直撃を受けたかのような大穴が空き外の光景が覗いている。
「待ちなさぁぁあああああい!!」
大方の事情を察したコルベールは二人の後を追いかけて階段を駆け降りた。
所々で響く爆音で生徒達が騒ぎ始める。
「何!?戦争!」
「それとも盗賊か何かの襲撃か?」
「ゼロのルイズが一人戦争ごっこをやってるって!」
「ついに切れたか…」
「いや、呼びだした使い魔を襲ってるそうだ!」
「しかも傷だらけで下着だけの女の子らしいって」
「それを笑いながら追いかけまわしてるそうね」
「そんな性癖が……」
周りはあくまで傍観者なのだが、追いかけられる一人と追いかける一人、さらにそれを追
いかける一人は必死だった。
「あぁもう!何なのよアイツ!」
裸足であちこちかけ回りながらビーニャは何とか隠れ場所を探そうと必死だった。
そこで途中で見つけた食堂とおぼしき場所に侵入すると、厨房でコックを突き飛ばして包丁を奪い、それを掴みながら走り回り今は開けた広場に来ていた。
はぁはぁと息を切らして手近に隠れられそうな場所を探すがそれらしき場所は無い、見回しているうちに後ろから複数の声が聞こえてきた。
「やばっ!」
いよいよもって焦ってきたビーニャの目に壁に持たれるように座っている少女が目に入る。
本を読んでいるのかと思いきやこちらに目を向けている。
(どこにでもいるわよね。一人が好きなヤツ)
本来なら逃げるべきだが一人でいるということがビーニャにとっては有難かった。
コイツを人質にさせてもらおう。
「ちょっとそこのアンタ」
笑みを浮かべながら包丁を持って近づくビーニャを少女、タバサは無表情で見つめている。
(…余裕ってわけ?それとも頭いかれてんの?)
距離を詰めても動じないタバサにビーニャは腹が立ってきた。
さっきの桃娘にやられた分もこいつに当たらせてもらおうと掴みかかろうとした瞬間、
ビーニャの前に青い鱗のドラゴンが舞い降りた。
「っ!メイトルパのワイバーン!?っぐあう!!」
突如現れた飛竜に目を奪われたと同時にビーニャは横から見えない何かに吹き飛ばされる衝撃を受け地面に叩きつけられた。
(……)
青い髪の少女とワイバーン、それと大勢の人間が走ってくるのが見える。
しくじったなぁと思いながら、ビーニャは意識を失った。
(…)
意識を失い、また目覚めるのはこれで何度目だろう。
うっすらと目を開けて入ってきたのは白いシーツ、どかしてみれば見覚えのある天井。
(さっきは広場で倒れたはずだけど…)
「…夢か」
「夢じゃないわよ」
目を閉じようとすると頬に激痛が走った。
「い!いひゃいいひゃい!」
指の感覚、誰かが頬を引っ張っている。
「いひゃひゃひゃひゃ!ふしゃけんしゃないひゃよ!!」
相手を手を振りほどく。
驚いて目を向ければ昼間の桃娘ではないか、じっとこちらを睨んでいる。
「アンタはっ!」
掴みかかろうと腕を出すとジャラリと両手に錠と鎖がついているのに気がついた。
「な、なんなのよコレは!」
「暴れまわる獣には鎖が必要でしょ?」
鎖に驚いているビーニャを見てニッコリとほほ笑むルイズ。
「さっさとはずさないと――――」
怒鳴りかけた矢先部屋の中に誰かが入ってきた。
「どうやら目が覚めたようですね」
やってきたのは頭部のさびしい中年の男、追いかけられてる時にすれ違った気がする。
入ってきた男はベッド横に立って頭を下げて挨拶をする。
「初めまして。私の名前はコルベール。ここで教師をしている者です。
錠や鎖など手荒な処置かもしれませんが、どうかご容赦を。
貴女のお名前を伺ってもよいでしょうか?」
「……」
ビーニャは答えようとしない。
俯いたまま黙っている。
「何とか言いなさいよ!」
業を煮やしたルイズが口を開くとビーニャはきっと二人を睨みつけた。
「いい加減なお芝居はもう沢山なのよ!
さっさと殺したらいいじゃない!それとも見せもの?研究のサンプル?
したけりゃ好きにすれば!
ご機嫌伺いなんか不要よ!金の派閥の召喚師ども!」
言うだけ言うとビーニャは俯いて黙ってしまった。
いきなりの剣幕に二人は驚いたが、すぐに平静を取り戻したコルベールがそれに答える。
「落ち着いてください。ここはトリステイン魔法学園であり貴女の言う金の派閥という組織ではありません。
そして私達はメイジで召喚師という者でもありません」
あくまで穏やかに回答するコルベール。
殺意をもって切りかかってくるような会田の場合は刺激しないことが重要だ、
その答えにビーニャは顔を上げる。
「…トリステイン?メイジ?…なにそれ?」
「あんたどこの田舎の出身なのよ。知らないの?」
「聞いたことないわよそんなところ!ここはファナンじゃないの!?」
「だから違うって言ってるじゃない。ファナン、なんてこっちが聞いたことないわよ」
ますます意味が分からない。
「…質問。中央エルバレスタ地方、王都ゼラム、…リィンバウムって
知ってる?」
二人とも首を横に振った。
(ここは完全に別の大陸か何かだ…)
ふと、窓に目をやれば外は既に薄暗くなって空に二つの月が現れ始めている。
(訂正……異世界…)
これならば自分のことを知らない、地名も知らない、召喚術も知らないというのもうなずける。
念のためここの場所や近隣のあらかたの地名を聞いたが、うん、さっぱりだわ。
頭痛がしてきた。
しかも場所のやり取りが終わったら今度は、契約の話が出てきたがそれがますます頭を痛くさせる。
「つまり、アタシは魔法を使う、いわゆるメイジのアンタに呼ばれて。さらに使い魔になれってのね」
「そうよ。ありがたく思いなさい。貴族に直に仕えられるなんてないんだから」
「キャハハハハハハっ!死んでも嫌!!」
「……どっっこまでも失礼な平民ね!まだやられたりないのかしら!」
杖を取り出したルイズをコルベールが落ち着かせるのにまたしばらく掛かった。
このまま拒否しようとしたが昼間の騒ぎの責任を問うことになると言われ、もし
使い魔になればそのことは不問とすると持ちかけてきた。
このハゲかけ親父、いい性格してる。
やむなく了解した。
が、
「何が悲しくてアンタなんかとキ、キスしなくちゃなんないのよ!」
「こっちだってサモン・サーヴァントがやり直せるならあんたなんか願い下げよ!」
「もう勘弁して下さい…」
再びケンカが始まりそうな二人のそばでコルベールは胃を痛めていた。
その後なんとか契約を完了しルイズの部屋へとやってきたビーニャは、暗い部屋で
自分の左手の文字をじっと見つめていた。
「まさかアタシが使役の立場にさせられるなんてね」
詳しい話はまた後日ということでそのまま解散してこいつの部屋に来てみれば、
「あんたは床!」
と言われてやむなく床に転がっている。
異世界ならば魔力の質もリィンバウムのそれとは異なる、召喚の失敗もおそらく原因はそれだ、ならこちらに慣れるまでは精々従ってやろう。
力が戻れば従う理由は無いし、こっちからおさらば。
それでレイム様のところに戻る方法を見つけてさっさと帰ろう。
そんなことを考えているビーニャの顔に白いパンティがぺそっと落ちてきた。
「明日からバリバリ働いてもらうから覚悟しなさい。とりあえずそれは明日洗濯しておい
て」
言うだけ言ってルイズはまた寝てしまった。
(……やっぱりコイツは真っ先に殺そう。ついでにアタシをふっ飛ばしたあの青頭も)
顔のパンティを払うと昼間の疲れからか強烈な眠気とともに、ビーニャはすぐ目を閉じた。
了
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