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#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
38.出発までの休憩
ルイズ達が朝食を食べ終わる。彼女は再び魔法の練習をしに出て行った。
キュルケは暇なのと、自身の勘が正しいのかどうかを確かめるためにそれを見に行く事にした。
青い髪の二人はというと――
「眠いから寝ますわ。今日は帰らないでしょ?お姉様」
コクリとタバサが頷いた事を確認して、シルフィードは2階のベッドに行った。
食っちゃ寝は体に悪いだろうが、そんな事を気にする程老いてはいない。
タバサはというとハシバミ草のお代わりを頼んだ。
タルブ独特の味付けが気に入ったようで、15杯目であった。
「にしても――凄いわねぇ」
爆発音と共に豪快な土煙が吹き上がる。
さっきからの練習は、明らかに爆発が多いが成功も何度かしていた。
とんでもない氷柱が出来たり、見たことのない大火球が出来る度に、
ルイズの目があり得ないほどに輝いていく。魔法を使う喜びをかみしめているのだ。
キュルケが優しい眼差しでそれを見ていると、ごうと風が唸った。
教本でしか見たことの無い巨大な竜巻がルイズの前に現れる。
本来そう簡単に扱えない、真空の層が混じった竜巻だ。
「カッタートルネード!?よくやるわねぇ」
体が覚えていたわ。とルイズは謎の言葉を残している。
キュルケはその後も、おーとかあーとかやる気のない歓声を、
ルイズが失敗したり成功する度に上げる。体が高揚していくのを感じながら。
「ねぇ、ツェルプストー」
「なにかしら?ルイズ」
「その声援、凄く腹が立つというか、つまり邪魔というか」
「あらそう?良いじゃない暇だし。ところで爆発の穴ぼこ、そのままにしておいて良いの?」
後でゴーレムでも作って、それに埋めさせるわよ。とルイズは爆発させながら言った。
土埃が派手に宙を舞いルイズを汚すが、服に付いた汚れを払おうともせず、
彼女は眩しい笑顔で練習を続ける。
キュルケはこんなに楽しそうなルイズを見たことがない。
先ほど文句を言った時も、満面の笑みで楽しそうな口調だった。
魔法が使えなかったから、使えるようになって余程嬉しいのでしょうね。
キュルケは、やはりやる気のない声援を送りながらルイズの魔法の練習を眺めた。
ギルドハウスの二階、窓からその風景をマチルダとジェームズは眺めている。
「私も――昔はあんな風に練習をしたねぇ」
ジェームズはため息をつくマチルダに何も言わず、
ただ彼女を見ている。窓から元王へと視線を変え、
彼女はゆっくりと口を開いた。
「モード様は皆にはチヤホヤされていたけど、実際のとこありゃ図体だけでかくなった悪ガキの類だね。
あんたが王様やって正解だったと思ってる…ああ、思っちゃいるけど――」
杖がジェームズの首筋に当たる。マチルダの顔は、何の表情も宿してはいない。
「まだ、許しちゃいないからね。でも、テファがああ言ったからどうにか我慢するよ。
もしあの子にまで何かしたら、地獄行った方がマシな事をしてやるから」
ジェームズは、何も言わずコクリと頷いた。またため息を吐いて、彼女は杖を離す。
「悪いね。今も引きずってんのさ」
「親を殺されて、引きずらん方がおかしいだろう」
「ああ、そうかもね。忘れたいんだがねぇ…」
身の振り方は今のままで良い。ある程度踏ん切りは着いた。
しかし、何とも言えぬもやが心に残る。
そしてそれはこの場で王を殺しても、絶対に晴れぬ物だという事も理解している。
どうすれば良いのか、マチルダには全く分からなかった。
「あの馬鹿は夜の色とか言ってたけどねぇ」
あの場はそれで収まったが、何年も溜まった怨恨はそう簡単に消せる物ではない。
夜の女王の気分転換方法は、人間にはそんなに通用しない様だ。
「あの黒いローブの不思議な女性かね?あの後現れた者達も急に消えたが、先住の魔法の使い手とか?」
あー…今のは無しで。うむ。分かった。
噂をすれば影。特に影を司っているらしいあいつ。
また来られると厄介だからと、彼女は早々に話を打ち切った。
「ねぇ、ルイズ」
キュルケは、爆発によって埃まみれのルイズをおかしそうに見ている。
私が魔法を使えるようになった時は、どんな気持ちだっただろうか。
少なくても、こんな風になるまでした覚えは無いけれど。そう自分の昔を思い出しながら。
「何よ」
気持ちの良い風が吹く。季節は夏に変わる少し前。青空の下――先ほど少し雨雲があったけれど、
今は綺麗な青い空の下で、ルイズはとても清々しい気持ちで魔法の練習をする。
こんな事、今まで彼女は経験したことが無かった。
「楽しそうね」
これ以上無いくらい、満面の笑みを湛えてルイズは言った。
「ええ、とっても!」
「そ。けど油断は禁物よ。私にだって、意地はあるんだから」
え、とルイズは赤い髪の艶やかな女性を見る。
笑みを浮かべるその顔は、紛れもなく祝福の思いに溢れているが、
それと同時に、何か別の感情も含んでいる様に思えた。
「敵対は終わったんじゃなかったの?」
ふふん。とキュルケは笑った。獲物を見つけた狩人の目で。
彼女は胸元から杖を取り出し、ルイズに向けた。
「フォン・ツェルプストーとラ・ヴァリエールの関係の中ではね。
光栄に思いなさい。このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・
フォン・アルハンツ・ツェルプストーが、直々に敵として認めたのだから」
あの日、体がゾクリと震えた感覚がキュルケに蘇り、自身に流れる炎の本能がささやく。
『虚無』がこの子の力なのだとすれば、それを倒す事がお前の炎を燃え上がらせる理由だと。
本当の獲物を見つけた狩人は体中に喜びが溢れる。敬虔な宗教人が、
神に祈りを捧げている時のように至福に包まれ、それ以外に目が行かなくなる。
青い髪の友人はまた別の話である。
キュルケの体から、炎のもやが漂うのが見える。
彼女の精神が高ぶり、まるで炎が舞っているかの様に辺りを赤いオーラが包む。
ルイズは、何故か自身の気分が高揚していく事に気が付いた。
どうしてか分からなかったが、少しして母の言葉を思い出した。
「戦場で敵に相まみえた時、本当に『敵』と認められる存在に出会った時、
貴族は心から喜びに満ちあふれてしまうものなのですよ。
そして、それを倒す喜びは何物にも代えられぬのです。
ルイズ、いつかあなたにも敵ができましょう。
そう言うわけで、今日は逃げないで私の『お話』を聞きなさい」
お母さま。ここは戦場ではないけれど、私にも敵が出来たみたいです。
ルイズはキュルケに杖を向け、高らかに声を上げた。
「ならば、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとして、
貴殿を敵と認めるわ。ヴァリエールの家柄とは関係なくね」
色無き虚無がルイズを包む。不思議な事だが一切の感情の揺れが無く、
彼女はただ真っ直ぐに、宿敵となったキュルケを見ることが出来た。
キュルケはいつもとは違う風に笑った。
「そうこなくっちゃね。今はまだやり合ったりしないけれど。
国周りが色々ややこしくなっているし、
あなたもまだ自分の力に振り回されているしね。
実力が発揮出来るようになってから、思いっきり打ち負かしてあげる」
「そんな余裕、持ってていいの?」
ルイズも母が戦場でそうしていた様に笑った。だが、それも長くは続かなかった。
「だって、あんたお子様だし」
子供じゃないってば!ほら、そういう反応するから。
仲良き好敵手達は、未だ赤き髪の乙女の方が一枚上手のようだ。
彼女達がこの後どのような道を歩むのか、
それは神々すら分からない。予言書無きこの世界で吹き荒れる、
動乱の嵐の行く末と共に楽しんで見ている事だろう。
昼食を食べるにはまだ少し早い時間に、
アンリエッタとウェールズは一階に下りてきた。
歩きにくそうなアンリエッタを、ウェールズが支えて歩いている。
一階でたむろしていた盗賊達が二人を見て、ニヤニヤしだした。
「おはようございますオレン王子」
ウェールズは顔を赤くするが、素敵な名前ですわ。
とアンリエッタに言われて、悪い気がしなくなった。
あの湖で両思いになったのは違いないが、
しかし振り回されるのはウェールズだ。
仕方がない。分が悪い、悪すぎるのだ。
「昨晩はお楽しみでしたねオレン王子」
ウェールズはまた顔を赤くするが、笑っているアンリエッタを見ているとどうでもよくなった。
「お前ら、ちょっかいをかけるのもそこらにしとけ。
さて、アンリエッタ姫殿下。依頼は果たしましたので、
残りの代金を頂きたく」
恭しく頭を下げて、グレイ・フォックスは言った。
まだ落ち込んでいるけれど、出来る男は仕事に私情を挟まないものだ。
そんな訳でグレイ・フォックスは「出来ない男」なのだが、
部下の手前、涙を見せるわけにはいかなかった。
「ええ、もちろんですわ。王宮に戻ったらすぐに手配いたしましょう。
ところで、昨日言った事ですけれど」
「もちろん。こちらにお任せ下さい」
アンリエッタはウェールズから離れ、フォックスが彼の肩を叩いた。
大変だなお前もと言いたげな顔で。もっとも、頭巾に隠れて誰もその表情は分からないが。
「え?」
ウェールズを無視してフォックスは話を続ける。
「それとこれを。手下が重要な機密を得たようで…まだ確証は得られていませんが」
ぽん、と首をかしげるウェールズの肩を誰かが叩く。他でもない、
彼がこの世で最も愛するアンリエッタ姫だ。
「今あなたを王宮に連れ帰ったら、スキャンダルでは済まないでしょう?
私がゲルマニアに嫁いでから、あなた様を秘密裏にヴィンドボナに連れて行く手筈になっています。
しばらく離ればなれになりますけど、わたくしはあなたの事を忘れませんから。
手紙は、王宮でゆっくり読ませていただきますわ」
ウェールズが何かを言う前に、フォックスが口を開いた。
「まぁ、そう言うわけですウェールズ皇太子殿下。
今腕の良い船乗りが少ないので、しばらくは空賊でもしてもらえますかね?
ご心配なく。ちゃんと「らしく」なるようお教えしますから。
あ、姫殿下。出来れば早急に見られた方がよろしいかと。
真実かどうかは怪しい節もありますし、証拠も確たるものがございませんがね」
「え?」
やはりウェールズは無視して、アンリエッタは頷いた。
「あ、ウェールズの名を使うとまずいので、オレンとでも名乗っといて下さい」
「え?」
「素敵ですわオレンさま。じゃ、わたくしは帰りますからお達者で。
もう死ぬだなんて言わないで下さいね」
美しい姫が口づけをする。ウェールズはそれだけで、全て許せる気持ちになった。
「あ、ああ。分かった。それじゃ、元気でねアンリエッタ」
「あなたも。どうかヴィンドボナで再会できますように」
王宮から盗み、学院脱出時に使ったグリフォンに乗るアンリエッタをウェールズは見送る。
フォックスの命令によって、とても大人しくなった空を舞う獣は一声吠えると、
天高く舞いアンリエッタだけを乗せて王都へと去った。
タバサは、そこら辺に置いてあった三文小説を読みながらその様を眺めている。
小説の名は『トリスタニアの休日』。最近話題の劇を書籍化した物だ。
後に空賊王子の異名を持つオレン、またはウェールズ・テューダーの半生を綴った本が出版される。
『空賊王子』と題されたその本の著者は、ガリア文学の流れを汲む謎の売れっ子作家、サバタ・ラザベイだ。
彼女の著書が持つ、リアリティのある記録されていない情報をどうやって手に入れているのか等が、
著者の不思議さに拍車をかけているのだが――それはまた別のお話。
アンリエッタが去ったのと同時刻、水の秘薬を作ってから後、
ティファニアはギルドハウスの地下でずっと薬を作っている。
マーティンは薬品精製に関しては見習い程度の腕前なので、
何も言わずに彼女のやり方を見ている事にした。
タムリエルで使われている、錬金術の器具とはまた違う道具で、
ほうと思いながら、それらの使い方等を眺めていた。
「いやはや、影の君の所作はどんな時でも様になりますなぁ」
「まったくだなチュレンヌよ」
何処かに潜んでいた変なおっさん二人と共に。テファはニコリと微笑んだ。
本来ならロウソクの炎だけが頼りの薄暗い室内だが、
そこにいる四人がそれぞれ魔法で明かりを灯している。
「そんなことないですよ」
「謙遜は美徳と申しますが、されすぎるのもどうかと思われますぞティファニア様!」
困った笑顔で二人をあしらい、薬品製作の方にテファは頭を切り換えた。
邪魔するのは悪いよねー、とダメ貴族達はマーティンの方を向く。
「聞きましたぞ。彼のグリフォン隊長ワルドに一歩も引けを取らなかったとか」
「え、いや」
「いやはや、灰色狐からお噂はかねがね。タムリエルの皇帝陛下であらせられたのでしょう?」
「え、ええ。確かにそういうのでしょうが――」
公務とかした事が無いので、果たしてそう名乗るべきかどうか。と、
マーティンはあまり言えない胸の内を語った。ご謙遜を!と二人は同時に言った。
「民を守る為に己が命を犠牲としたとか…。まっこと上に立つ者の鑑ですな」
「そうでしょうか?」
チュレンヌの言葉にテファは疑問符を投げかけた。
え、とチュレンヌは彼女を見る。美しい顔が陰りを含んだ表情を見せる。
自身の家族と近しい人々がどの様に死んでいったか、彼女はそれを忘れていない。
その惨劇を見たからこそ彼女は死を嫌う。特に死の美化は好まない。
言わなきゃよかった。悲しげな影の君を見たチュレンヌは心の底から後悔した。
「マーティンさんが悪いとは思いません。それ以外方法が無かったと思います。
でも、命を落とす事を美徳とする考え方は、やっぱりどうかと思うんです」
人間もエルフも生きてこそ、です。とテファは静かに言って、
再び薬品製作の方へ戻る。あうう。とチュレンヌは下を向いた。
「確かに――私がいなくなって、帝国が混乱しているのは間違い無いだろうしね。
オカートには苦労を掛けてしまったな…」
その程度では済みません。と動乱まっただ中の帝国を舵取りするオカート総書記官は、
今日もあくせく働いている事だろう。マーティンが死んだ事で一番割を食ったのはこのエルフかもしれない。
「しかし、貴方様が己の国を救ったのは事実でしょう?」
ティファニアに聞こえないくらいの声でモットが問うた。
マーティンは自慢げに話そうともせず、ぽりぽりと頭を掻く。
「まぁ、それはそうですが」
「ならば、英雄たり得る存在でしょう」
「でしょうな」
「もしよろしければ、英雄譚の一つでも」
そう言った物って、何かあっただろうか。
ううむ、とマーティンが考えながら、
比較的そういう話になりそうな物をいくつか喋っていると、
ティファニアがぐっと伸びをした。
「出来ました!これなら問題無く病気を治せると思います。
これをルイズさんに渡して下さい。さて、次はタバサさんのお薬を作らないと…」
薬を受け取ったマーティンは一人地上へと戻り、爆音の鳴る場所へと歩を進めるのだった。
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