「ラスボスだった使い魔-27b」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「ラスボスだった使い魔-27b」(2009/02/03 (火) 23:45:30) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
#navi(ラスボスだった使い魔)
その日の夜。
「惚れ薬ぃ!?」
「ちょ、ちょっと、大声を出さないでください、ミス・ヴァリエール! 禁制の品なんですから……!!」
ユーゼスの研究室の中で、コメカミと表情とその他の部分をヒクつかせながら、エレオノールはことの顛末を聞いていた。
まずこの金髪巻き毛の馬鹿が、こともあろうに禁制の『惚れ薬』を作り。
それを隣にいる金髪のボンボンに飲ませようとして。
間違って自分の妹と、学院長の秘書がそれを飲み。
今はそれぞれユーゼスとシュウに対して、その効果を十分に発揮している真っ最中。
見れば、椅子に座っているユーゼスの膝の上にはルイズが腰掛けて、ユーゼスの両腕を自分の身体に絡ませている。
更に、同じく椅子に座っているシュウの横には学院長秘書のミス・ロングビルが……いるにはいるのだが、床の上に寝そべって『シュウぅ~……』などと寝言を呟きながら眠っていた。
「このような相手の場合は、眠らせるのが一番です」
……どうやら『このような相手』に対して、慣れているようだ。
『それをルイズにもやってくれ』、とエレオノールは頼んだのだが、『私の問題を私が対処するのはともかく、あなた方の問題を私が対処する理由はありませんね』と返されてしまった。
なおも食い下がろうとすると、ユーゼスに『諦めろ』と止められた。どうやらこの男には何を言っても無駄らしい。
まあ、それはともかく、今後のことである。
「……………」
エレオノールはしばし瞑目して考えた後で、一つの結論を出した。
「まずはこの馬鹿な子供の所業を、余す所なく王宮に報告しましょう。
……罰金で済めば良いわねぇ? 何せ公爵家であるヴァリエール家の三女、しかも女王陛下とも個人的に親交のある人物ををこんなにしてしまったんだから。下手をすれば禁固、縛り首、お家断絶……なんてことにならなければ良いけど」
「そ、そんな……!」
顔面蒼白になるモンモランシー。
冷ややかな瞳をそんな少女に向けながら、エレオノールは冷徹に言い放った。
「それが嫌なら、早く解除薬を作りなさい。今日を含めて2日だけ待ってあげるわ」
「で、でも、それを作るための材料である秘薬は、とっても高くて……」
「借金でもすればいいじゃない」
「う、うう……」
モンモランシーは涙目になりながら、ガックリと肩を落とす。
ギーシュは気落ちするモンモランシーを慰めようとしたが、そのモンモランシーに『お金貸して、500エキューほど』と言われたので思わず2、3歩ほど後ずさってしまう。
「……で、解除薬については待つしかないとして……」
エレオノールの性格ならば『今すぐ作りなさい。は? 無理? じゃあ潔く王宮からの罰を受けるのね』とでも言いそうなものだが、そこは彼女も魔法の研究者である。
強力なポーションが一朝一夕で作れるものではないことくらい、知り尽くしているのだ。
なので、当面の問題は。
「ね、ユーゼス。もっとぎゅーってして?」
「……やった後で『苦しい』とか言われても困るのだが」
「ううん、いいの。ちょっとくらい苦しくても、ガマンするから……して?」
現在進行形で惚れ薬の影響を受けまくっている、この愚妹である。
エレオノールは元々つり上がり気味の目を更につり上がらせて、ルイズにピシッと言い放った。
「ちょっとルイズ! いつまでもユーゼスにベタベタしてるんじゃないわよっ!!」
言われたルイズはチラッとエレオノールを見ると、面倒そうにボソッと呟く。
「……やだ」
「な、何ですって……!?」
ワナワナと震えるエレオノールだったが、そんな姉の様子などどこ吹く風、とばかりにルイズはユーゼスにしがみつく。
「ユーゼスはわたしの使い魔で、わたしのモノなんですから、姉さまは引っ込んでてください」
「こ、この……! いいから離れなさいっ!!」
「いやぁ!!」
頭に血が上ったエレオノールはルイズを強引にユーゼスから引き剥がそうとするが、そうするとルイズはますます強くユーゼスにしがみ付く。
「助けてユーゼス、エレオノール姉さまが苛めるの!」
「いや、別に苛めてはいないと思うのだが……」
ユーゼスも、どうやら今の状態のルイズを扱いかねているようである。
「ともあれ、この状態が長く続くのは好ましくはないな。ミス・モンモランシの手腕に期待するしかないだろう」
「……ああもう、次から次へと問題が出て来るんだから……!」
「既に起こってしまったことに対して、文句を言っても始まるまい」
「文句の一つや二つも言いたくなるわよっ!!」
実を言うと、ユーゼスやシュウの手にかかればこの程度の事象など一瞬あれば解決は出来る。
しかし、『そんな下らないことに自分の力を使いたくない』、『人格に何らかの影響が残る可能性がゼロではない』、『“解決手段”の説明が面倒』、『これはこれで興味深い』、『イザとなったらいつでも元に戻せる』などの理由から、それをしていなかった。
(とは言え……可能な限り、早く戻さなくてはならないな……)
ユーゼスとしては『研究がやりにくい』というのもあるが、それよりも大きな問題があった。
……普通の人間に比べてかなり薄くはあるが、一応ユーゼスにも性欲はある。
ルイズのような少女に対して欲情する……というのは考えにくいのだが、しかしこうも身体を密着させられてはいつ自制が利かなくなるか分かったものではない。
1週間程度ならそれなりに耐えられる自信はある。しかしこれが1ヶ月や1年となると、取り返しのつかない事態になっても不思議ではないのだ。
(クロスゲート・パラダイム・システムを使って……いや、性欲だけを抑制するとバランスが悪くなるな。食欲と睡眠欲、排泄欲や生存欲求も抑える必要があるか?)
そこまですると、もはや『人間』以前に『動物』としてどうかというレベルである。
「何にせよ2日で終わるのならば、その間は耐えるしかあるまい」
「『耐える』、ねえ……」
ジロッとユーゼスを見るエレオノール。『ナニを耐えるって言うのよ』とその目が語っていたが、あえてユーゼスは無視する。
と、そんなユーゼスにルイズが声をかける。
「ユーゼス、エレオノール姉さまだけじゃなくって、わたしも見て? ううん、他の女の人なんてどうでも良いから、わたしだけを見て?」
「……………」
「っ…………!!」
ユーゼスはそろそろ辟易し始め、エレオノールはそろそろ我慢の限界に近付きつつあった。
「……ミス・ヴァリエールとの話が終わったら考えよう」
取りあえず、なるべくソフトに問題を先送りしようとするユーゼス。
しかし。
「今すぐじゃなきゃヤダぁ!」
ルイズは駄々っ子のように声を上げ、即時実行を要求してきた。
仕方がないので、一応肯定しておくことにする。
「…………分かった」
「ホント? ちゃんとわたしを見てくれる? エレオノール姉さまなんて放って、わたしだけを見てくれる?」
ミシリ、とエレオノールの立っている位置から、床板が軋んだ音がした。
……何故か分からないが、エレオノールに対して後ろめたさを感じる。それとエレオノールの方を見るのが怖い。
だがここでルイズを拒絶するとまたギャーギャーとうるさくなるので、ひとまず肯定せざるを得ないのだ。
「『相手をする』という意味であれば、そうするが」
何とも当たり障りのない表現である。
しかし、言われたルイズはその言葉を最大限好意的に解釈した。
「じゃあ、キスして」
「何?」
ベキ、と床板が割れる音が響く。
「……あらやだ。ちょっと力を入れただけで割れちゃうなんて、もろい床板ね」
金髪眼鏡の女性に対しては色々と言いたいことはあるのだが、迂闊な発言が出来る雰囲気ではなかった。
「……………」
「ん~~……」
目を閉じて唇を突き出してくるルイズ。
(むう……)
別にユーゼスとしては唇を付けるくらいはどうだって構わないのだが……ここは一応、肉親の許可を取っておいた方が良いだろう。
「ミス・ヴァリエール、構わないか?」
少なくとも表面上は平静な口調でそんなことを問いかけてくるユーゼスに、エレオノールも『努めて平静な口調で』答える。
「…………………………す れ ば ? 」
「ぬ……、分かった」
今まで感じたことのないタイプの恐怖がユーゼスの身体を駆け巡るが、いつまでもエレオノールに構っているわけにもいかない。
それでも何となく気まずさのような物を感じたので、ユーゼスは手早く無表情かつ事務的に、軽くルイズの頬に唇を付けるのだった。
「これで良いのか?」
ユーゼスとしては『これで主人もひとまずは大人しくなるだろう』と目論んでいたのだが……。
「む~……、ほっぺじゃイヤぁ~!」
あまり効果はない、どころか逆効果だったらしい。
「……ならば、どうしろと?」
ルイズは小首をかしげて、ユーゼスに可愛く懇願する。
「ちゃんと、お口にして?」
「……………」
ユーゼスは『可愛い』という概念がよく分かっていないので、その仕草に大した効果はなかったのだが、それでも『唇にしなければいけないのだろうな』という程度の判断は出来た。
「使い魔の契約とか、プラーナの補給とかじゃなくって……ちゃんとしたキス、して?」
なおも懇願を緩めないルイズ。
念のため、再びエレオノールに対して確認を取ろうと視線を向けたら、
「……………………………………………………あ゛?」
物凄い目で睨まれた。怖かった。
……このままではどうにもならないので、ユーゼスはやむを得ずルイズの唇に自分の唇を触れさせる。
「ん。……ん!?」
「んん~~~……!」
と、唇と唇が触れた瞬間、ガシッとユーゼスの頭がルイズの両手に掴まれた。
「むぐぅ!?」
「んむんむぅぅぅううう~~~……!!」
更にルイズは唇と舌の力を駆使して、ユーゼスの口内へと侵入を試みる。
「……む、ん、ぐ……!」
いきなり不意を突かれる形になってしまったユーゼスは、その『口撃』への対処が出来ない。
「ん、ふぅ、んん……、んぅ、あむっ……」
「くっ……ん、ぐ、む……っ」
うわあ、と赤面するギーシュとモンモランシー。シュウは苦笑しており、そしてエレオノールはギーシュたちとは違った意味で赤面している。
そしてルイズがユーゼスの口内から『ちゅぅぅうううううううう~~~っ』と色々と吸い始めた時点で、エレオノールが全力でルイズの頭を引っぱたき、二人のディープキスは終わったのであった。
それに満足したのか、『にへらー』と笑うルイズを見ながら、エレオノールはワナワナと震えている。
「ああ、もう!! ヴァ、ヴァリエール家末代までの恥だわ……!!」
妹に対して、未だかつてないほどに怒りが湧き上がってくる。
……なお、これはあくまで『ユーゼスに堂々とベタベタイチャイチャする、もはや貴族としての恥も外聞もかなぐり捨てているルイズに対しての怒り』であって。
決して『大して抵抗もせず、されるがままになっているユーゼスに対しての怒り』だとか、『あんなにベッタリ出来るルイズが少し、ほんの少しだけ羨ましい』などというイライラでは、断じてない。
…………ないったら、ないのである。
「とにかく、ミス・モンモランシ! 1秒でも早く解除薬を作りなさい!! いいわね!!?」
「はっ、はいぃぃぃいい!!」
「ああっ、モンモランシー!」
エレオノールに怒鳴られてモンモランシーは半泣きで応じながらも自分の部屋に走っていき、ギーシュはその後を追っていった。
「では、私は部屋に戻るとします。何かありましたら、呼んでください」
それを見届けたシュウもまた、『これ以上ここに留まっていても意味がない』と判断して退室しようとする。
「……良いのか? ミス・ロングビルも御主人様と同じ状態なのだろう?」
「構いません。……サフィーネやモニカに比べれば、むしろ扱いやすい方と言えるでしょう」
「そうか」
この男の女性関係はどうなっているのだろう、とも思ったが、そこに探りを入れてもあまり意味がないので黙っておく。
「では、また明日に」
そうしてシュウは、眠ったままのミス・ロングビルを抱えてユーゼスの研究室から出て行く。
チカは恐怖していた。
「ああ、シュウ、シュウ~!」
戻って来た主人がマチルダを抱えていて、彼女が眠りから覚醒するや否や、半裸で自分の主人に迫り出したから……ではない。
「下品ですよ、ミス・マチルダ」
それに対して、相変わらず極めてクールに対処している自分の主人に……でもない。
「やん、そんな『ミス』なんて他人行儀な呼び方はしないで、『マチルダ』って呼び捨てにしておくれよぉ……」
「では今後はマチルダと。
……マチルダ。あなたも一応は私と同じ年齢なのですから、いくら惚れ薬で我を見失っているとは言え、もう少し慎みや品性という物を持つべきです」
『今のシュウとマチルダのやりとりを、ティファニアに報告しなくてはならない』という事実に対する恐怖である。
取りあえず、いくつかの報告のパターンをざっと脳内でシミュレーションしてみる。
・ケース1、前回のように『ありのまま起こったことのみ』を報告した場合
「ほう……へえ……ふぅん……マチルダ姉さんが……そうなんだぁ……。
……それでチカちゃんは、どうしてそれをただ黙って見てた『だけ』だったの? ウェストウッド村の風紀を守るために、シュウさんの健全な人生のために、命をかけてマチルダ姉さんを阻止するべきだったんじゃないかしら?
…………仕方ないなあ。今後はこんなことがないように、しっかりチカちゃんの身体に教え込んでおかないと…………」
(い、言えねぇえええええええ~~!!)
チカの脳裏に、先日行われた『ちょっと強めの確認』の記憶がフラッシュバックする。
詳しい描写は避けるが、アレ以来、チカはロウソクに対して軽いトラウマを抱くようになってしまったのだ。
やはり、もっと別の方法で報告するべきだろう。
・ケース2、嘘を並べ立てた場合
「チカちゃん、今の話は嘘でしょう? え、全部本当ですって? ……それも嘘ね。だってチカちゃん、嘘をつくときはやたらと口が回るんだもの。視線も泳いでるし。
―――それで? 本当のところはどうなの?
……まあ、マチルダ姉さんが? シュウさんに?
…………どうしてチカちゃんは、そんな大事なことを嘘をついてまで隠そうとしたのかしら?
困ったなあ。それじゃチカちゃんがこれから嘘なんてつかないように、ちゃんと躾けておかなきゃ…………」
(駄目だぁあああああああ~~!!)
ああ見えてティファニアは、なかなか人間に対しての観察眼が鋭いのである。
ハーフエルフという身の上である以上、周囲を警戒しながら生きていかなくてはならなかったため、ある意味では仕方がないとも言えるのだが……。
ならば、もう開き直って正直に話すしかないのだろうか。
・ケース3、『惚れ薬を飲んでしまった』という事実を交えて話した場合
「えっ、姉さんが惚れ薬を!? そ、それで、姉さんは……そう、ちゃんと元に戻ったのね。よかった……。
……でも、半裸で? シュウさんに? 迫った? あのマチルダ姉さんが? ……そう言えば『惚れ薬』って、一説によると自分の秘めてる愛情をあらわにする効果があるって話よね……。
…………それじゃチカちゃん、今後も『監視』をよろしくね♪」
(う、うーむ、これが最も無難と言えば、無難かなぁ……)
実際にはこのシミュレーション通りに会話が進む保障などは何も無いのであるが、やはり『詳細な背景を交えて話す』のが一番だろう。余計な誤解も生みにくいだろうし。
(まあ、しっかし……)
「……なら、慎みとか品性を持ったら、優しくしてくれるのかい?」
「少なくとも『一人の女性』として扱うことは、お約束しましょう」
(……御主人様は、こういう風に『後で振り返ってみればどうとも取れる表現』ばっかりしてるから、色々と問題を起こすんだろうなぁ……)
ざっと思い返してみても、そういうやり取りに心当たりが多すぎる。
「何を復活させる気か知らねえが、生けにえが必要なんだったら、まずてめえがそれになれってんだ!!」
「フフフ……それは言い得て妙ですね。その言葉、覚えておきましょう……」
とか。
「シュウ! ようやく本性を現しやがったな!」
「本性……? いったいあなたは私の何を知っているというのです?」
「何……!?」
「本当の私は、あなたが知っている私ではないかも知れませんよ」
とか。
「ゼロは俺に貴様の死を見せてくれている……」
「フッ……、未来というものは自らの手で変えるために存在しているのですよ」
とか、ダカールでロンド・ベル隊と戦った時だけでもこれだけあるのだ。
……もっとも、あの時はバリバリにヴォルクルスの支配下にあった頃なのだから、意図的にそういう傾向の発言をしていた節があるのだが……。
「じゃあシュウ様ぁ、私と一緒に寝てくださいぃ。何でしたらそのまま朝までぇ……」
「……言葉遣いだけを丁寧にすれば良いという物ではないのですが……。それと、最低でもそのはだけた服は直すようにしてください」
「うふふ、やだ、シュウ様ったら脱がせるのがお好みなんですねぇ? 分かりましたぁ~」
「…………怒りますよ、マチルダ?」
「あうっ……、その射抜くような眼光もステキですぅ……」
(ま、今のマチルダ様とか、サフィーネ様やモニカ様みたいな相手には、そういうのも通じないか)
やっぱりこういう回りくどいミステリアスなキャラには、ストレートな単純キャラや天然キャラの方が攻略には向いてるのかもなぁ……などと思うチカであった。
「……じゃあ、私たちもルイズを寝かせましょうか」
「そうだな」
エレオノールとユーゼスも、ユーゼスの背中に張り付かせたままで隣のルイズの部屋に移動してルイズを寝かせようとしたのだが、やはりそこでも悶着が起きた。
まず魔法学院の制服を脱がせて寝具のネグリジェに着替える時点で、
「ユーゼスぅ、着替えさせてぇ~♪」
と、猫なで声でルイズが言ってきたのである。
ユーゼスはその要請を特に躊躇も疑問もなく行おうとしたら、いきなりエレオノールに頬をつねられた。
「いきなり何をしようとしてるの、あなたは!」
「……ここ最近はしていなかったが、召喚されてからしばらくの間は御主人様の着替えは私が行っていたぞ」
「…………金輪際、絶対に、二度とやらないでちょうだい」
かくして、ルイズの着替えはエレオノールが強引に行うことで何とかなった。
そして次に就寝時。
「一緒に寝て♪」
少し眠そうな瞳で、ルイズはユーゼスに『お願い』する。
「……それは断る、と前々から言っていたはずだが」
「イヤぁ! ユーゼスが一緒に寝てくれなきゃ、わたし、絶対寝ないんだからぁ~!」
さすがにゲンナリし始めるユーゼスだったが、やはりここでもエレオノールがルイズを叱りつけた。
「ああもう、ルイズ! 仮にも結婚もしていないレディが、男と一緒のベッドで寝て良いわけがないでしょうっ!!」
「……わたし、ユーゼスと結婚するからいいんだもん」
「なっ……!!」
いきなり妹の口から爆弾発言が飛び出したので、絶句するエレオノール。
だが『これは惚れ薬のせい、惚れ薬のせい、ルイズはそれほど悪くないわ』と自分にムリヤリ言い聞かせて冷静さを保とうとする。
「何にせよ、ユーゼスと一緒に寝るなんて駄目よ、駄目! 絶対!!」
「ふんだ。いいもん、姉さまが何と言おうと、わたしはユーゼスと一緒に寝るんだもん」
ルイズはグイッとユーゼスの右腕を引き、エレオノールは負けじとグイッとユーゼスの左腕を引いた。
「……人の腕を、両側から引き合わないで欲しいのだが……」
ユーゼスが漏らした呟きは、ヴァリエール姉妹には届かない。
そのままグイグイとユーゼスの腕を引っ張り合うこと、しばし。
ラチが明かないと判断したエレオノールは、パッとユーゼスの腕を離す。
「うふふ、エレオノール姉さまがユーゼスの腕を離したわ。そしてわたしは掴んだまま。……じゃあユーゼスはもう、わたしだけのモノってことで良いんですよね?」
「……勝手にそんなことを決めないでちょうだい」
そう言うと、エレオノールは目を閉じて黙考し、逡巡し始めた。
「……うぅ、でも……この場合は、仕方なく……」
やがて意を決したのか、カッと目を見開き、顔を真っ赤にして言葉を震わせながら宣言する。
「わ、わわ、わわわわわ私も一緒に寝るわ!!」
「ええっ!?」
「何?」
これにはルイズだけでなく、ユーゼスも驚いた。
「一応、『何故』と聞いておこう」
当然の質問を放つユーゼス。それにエレオノールはぎこちない口調で答える。
「ど、どうせ、ルイズをムリヤリ寝かせて、あなたを隣の研究室で寝かせても、夜中に忍び込む可能性が高いだろうし、だ、だったら……始めから私が、あ、間に入って、監視しておけば、安心でしょう!」
「むう……」
まあ確かに、今のルイズと二人きりになるのは身の危険を感じる。
ここはエレオノールに防波堤になってもらうのがベターな方法だろう。
「むぅ~、邪魔しないでください、姉さま!」
「……私はあなたのためにやってるのよ、このちびルイズ!」
ぎゅううぅ~、とルイズの頬をつねり上げるエレオノール。
その後もルイズは盛大に不満をアピールしていたが、モンモランシーが作った睡眠導入用ポーションを大量に使用して強引に眠らせることで対処した。
なお、このポーションはあくまで『睡眠導入用』であり、バッチリ覚醒している人間に対して使っても『少し眠くなる』程度の効果しか望めない。
だが、今のルイズのように『既にある程度眠くなっている』人間に対して一定以上の量を使用すれば、ほとんど即効性の睡眠薬と変わらない効果が見込めるのである。
「では、眠るか」
「そ、そうね。……着替えてくるから、少し待っていてくれるかしら」
「分かった。その間に御主人様はベッドに寝かせておこう」
「……変なことしてたら、殺すわよ?」
「するつもりなど無いよ」
ユーゼスの言葉に納得したのか、エレオノールは素早く自分の部屋に戻っていく。
そしてルイズを部屋のベッドに横たえさせて、待つこと30分。
(……この部屋からミス・ヴァリエールが間借りしている部屋までは、往復しても10分もかからないはずなのだが……。いくら何でも遅すぎるな……)
彼女は一体、20分以上も何をしているのだろうか。
やることが無いのでルイズが何かしでかさないよう、予備のシーツでグルグル巻きにしてもまだエレオノールが来ず、いい加減にユーゼスが待ちくたびれた頃……。
薄いピンク色のネグリジェを着込み、枕を持参したエレオノールはやって来た。
「ま、ま、待たせたわね……」
「ああ、待たされたな」
エレオノールはギクシャクとぎこちない動作でルイズの隣に横になり、更にぎこちない口調でユーゼスを自分の隣に促す。
「さっさささ、さあ、とととっとっととっとっ……とっとと、横になりなさいっ」
「……緊張しすぎではないか?」
「んなっ、そんなっ、ききき緊張なんて、してるワケ、ないでしょうっ!!」
「……まあ、睡眠さえ取れれば私は別に構わないが……」
ガチガチのエレオノールを横目に、ユーゼスは割とスムーズにルイズのベッドに入る。
「そ、それじゃ……お、おお、お休みなさい」
「慌ただしい一日だったからな。……睡眠は十分に取れ、ミス・ヴァリエール」
かくして、この夜はルイズ:エレオノール:ユーゼスという並びで眠りについた。
……なお、あらためて『ユーゼスと同じベッドで一緒に寝ている』という現在のシチュエーションを意識しまくったエレオノールは、緊張やら興奮やらで、睡眠導入剤を使ってもほとんど効果がなく、この夜を眠れずに過ごすことになる。
ちなみに、密かにユーゼスも少しだけ寝つきが悪かったりしたのだが……。
……それが久し振りにベッドで睡眠を取ったからなのか、隣にエレオノールがいたからなのかは、定かではない。
#navi(ラスボスだった使い魔)
#navi(ラスボスだった使い魔)
チカは恐怖していた。
「ああ、シュウ、シュウ~!」
戻って来た主人がマチルダを抱えていて、彼女が眠りから覚醒するや否や、半裸で自分の主人に迫り出したから……ではない。
「下品ですよ、ミス・マチルダ」
それに対して、相変わらず極めてクールに対処している自分の主人に……でもない。
「やん、そんな『ミス』なんて他人行儀な呼び方はしないで、『マチルダ』って呼び捨てにしておくれよぉ……」
「では今後はマチルダと。
……マチルダ。あなたも一応は私と同じ年齢なのですから、いくら惚れ薬で我を見失っているとは言え、もう少し慎みや品性という物を持つべきです」
『今のシュウとマチルダのやりとりを、ティファニアに報告しなくてはならない』という事実に対する恐怖である。
取りあえず、いくつかの報告のパターンをざっと脳内でシミュレーションしてみる。
・ケース1、前回のように『ありのまま起こったことのみ』を報告した場合
「ほう……へえ……ふぅん……マチルダ姉さんが……そうなんだぁ……。
……それでチカちゃんは、どうしてそれをただ黙って見てた『だけ』だったの? ウェストウッド村の風紀を守るために、シュウさんの健全な人生のために、命をかけてマチルダ姉さんを阻止するべきだったんじゃないかしら?
…………仕方ないなあ。今後はこんなことがないように、しっかりチカちゃんの身体に教え込んでおかないと…………」
(い、言えねぇえええええええ~~!!)
チカの脳裏に、先日行われた『ちょっと強めの確認』の記憶がフラッシュバックする。
詳しい描写は避けるが、アレ以来、チカはロウソクに対して軽いトラウマを抱くようになってしまったのだ。
やはり、もっと別の方法で報告するべきだろう。
・ケース2、嘘を並べ立てた場合
「チカちゃん、今の話は嘘でしょう? え、全部本当ですって? ……それも嘘ね。だってチカちゃん、嘘をつくときはやたらと口が回るんだもの。視線も泳いでるし。
―――それで? 本当のところはどうなの?
……まあ、マチルダ姉さんが? シュウさんに?
…………どうしてチカちゃんは、そんな大事なことを嘘をついてまで隠そうとしたのかしら?
困ったなあ。それじゃチカちゃんがこれから嘘なんてつかないように、ちゃんと躾けておかなきゃ…………」
(駄目だぁあああああああ~~!!)
ああ見えてティファニアは、なかなか人間に対しての観察眼が鋭いのである。
ハーフエルフという身の上である以上、周囲を警戒しながら生きていかなくてはならなかったため、ある意味では仕方がないとも言えるのだが……。
ならば、もう開き直って正直に話すしかないのだろうか。
・ケース3、『惚れ薬を飲んでしまった』という事実を交えて話した場合
「えっ、姉さんが惚れ薬を!? そ、それで、姉さんは……そう、ちゃんと元に戻ったのね。よかった……。
……でも、半裸で? シュウさんに? 迫った? あのマチルダ姉さんが? ……そう言えば『惚れ薬』って、一説によると自分の秘めてる愛情をあらわにする効果があるって話よね……。
…………それじゃチカちゃん、今後も『監視』をよろしくね♪」
(う、うーむ、これが最も無難と言えば、無難かなぁ……)
実際にはこのシミュレーション通りに会話が進む保障などは何も無いのであるが、やはり『詳細な背景を交えて話す』のが一番だろう。余計な誤解も生みにくいだろうし。
(まあ、しっかし……)
「……なら、慎みとか品性を持ったら、優しくしてくれるのかい?」
「少なくとも『一人の女性』として扱うことは、お約束しましょう」
(……御主人様は、こういう風に『後で振り返ってみればどうとも取れる表現』ばっかりしてるから、色々と問題を起こすんだろうなぁ……)
ざっと思い返してみても、そういうやり取りに心当たりが多すぎる。
「何を復活させる気か知らねえが、生けにえが必要なんだったら、まずてめえがそれになれってんだ!!」
「フフフ……それは言い得て妙ですね。その言葉、覚えておきましょう……」
とか。
「シュウ! ようやく本性を現しやがったな!」
「本性……? いったいあなたは私の何を知っているというのです?」
「何……!?」
「本当の私は、あなたが知っている私ではないかも知れませんよ」
とか。
「ゼロは俺に貴様の死を見せてくれている……」
「フッ……、未来というものは自らの手で変えるために存在しているのですよ」
とか、ダカールでロンド・ベル隊と戦った時だけでもこれだけあるのだ。
……もっとも、あの時はバリバリにヴォルクルスの支配下にあった頃なのだから、意図的にそういう傾向の発言をしていた節があるのだが……。
「じゃあシュウ様ぁ、私と一緒に寝てくださいぃ。何でしたらそのまま朝までぇ……」
「……言葉遣いだけを丁寧にすれば良いという物ではないのですが……。それと、最低でもそのはだけた服は直すようにしてください」
「うふふ、やだ、シュウ様ったら脱がせるのがお好みなんですねぇ? 分かりましたぁ~」
「…………怒りますよ、マチルダ?」
「あうっ……、その射抜くような眼光もステキですぅ……」
(ま、今のマチルダ様とか、サフィーネ様やモニカ様みたいな相手には、そういうのも通じないか)
やっぱりこういう回りくどいミステリアスなキャラには、ストレートな単純キャラや天然キャラの方が攻略には向いてるのかもなぁ……などと思うチカであった。
「……じゃあ、私たちもルイズを寝かせましょうか」
「そうだな」
エレオノールとユーゼスも、ユーゼスの背中に張り付かせたままで隣のルイズの部屋に移動してルイズを寝かせようとしたのだが、やはりそこでも悶着が起きた。
まず魔法学院の制服を脱がせて寝具のネグリジェに着替える時点で、
「ユーゼスぅ、着替えさせてぇ~♪」
と、猫なで声でルイズが言ってきたのである。
ユーゼスはその要請を特に躊躇も疑問もなく行おうとしたら、いきなりエレオノールに頬をつねられた。
「いきなり何をしようとしてるの、あなたは!」
「……ここ最近はしていなかったが、召喚されてからしばらくの間は御主人様の着替えは私が行っていたぞ」
「…………金輪際、絶対に、二度とやらないでちょうだい」
かくして、ルイズの着替えはエレオノールが強引に行うことで何とかなった。
そして次に就寝時。
「一緒に寝て♪」
少し眠そうな瞳で、ルイズはユーゼスに『お願い』する。
「……それは断る、と前々から言っていたはずだが」
「イヤぁ! ユーゼスが一緒に寝てくれなきゃ、わたし、絶対寝ないんだからぁ~!」
さすがにゲンナリし始めるユーゼスだったが、やはりここでもエレオノールがルイズを叱りつけた。
「ああもう、ルイズ! 仮にも結婚もしていないレディが、男と一緒のベッドで寝て良いわけがないでしょうっ!!」
「……わたし、ユーゼスと結婚するからいいんだもん」
「なっ……!!」
いきなり妹の口から爆弾発言が飛び出したので、絶句するエレオノール。
だが『これは惚れ薬のせい、惚れ薬のせい、ルイズはそれほど悪くないわ』と自分にムリヤリ言い聞かせて冷静さを保とうとする。
「何にせよ、ユーゼスと一緒に寝るなんて駄目よ、駄目! 絶対!!」
「ふんだ。いいもん、姉さまが何と言おうと、わたしはユーゼスと一緒に寝るんだもん」
ルイズはグイッとユーゼスの右腕を引き、エレオノールは負けじとグイッとユーゼスの左腕を引いた。
「……人の腕を、両側から引き合わないで欲しいのだが……」
ユーゼスが漏らした呟きは、ヴァリエール姉妹には届かない。
そのままグイグイとユーゼスの腕を引っ張り合うこと、しばし。
ラチが明かないと判断したエレオノールは、パッとユーゼスの腕を離す。
「うふふ、エレオノール姉さまがユーゼスの腕を離したわ。そしてわたしは掴んだまま。……じゃあユーゼスはもう、わたしだけのモノってことで良いんですよね?」
「……勝手にそんなことを決めないでちょうだい」
そう言うと、エレオノールは目を閉じて黙考し、逡巡し始めた。
「……うぅ、でも……この場合は、仕方なく……」
やがて意を決したのか、カッと目を見開き、顔を真っ赤にして言葉を震わせながら宣言する。
「わ、わわ、わわわわわ私も一緒に寝るわ!!」
「ええっ!?」
「何?」
これにはルイズだけでなく、ユーゼスも驚いた。
「一応、『何故』と聞いておこう」
当然の質問を放つユーゼス。それにエレオノールはぎこちない口調で答える。
「ど、どうせ、ルイズをムリヤリ寝かせて、あなたを隣の研究室で寝かせても、夜中に忍び込む可能性が高いだろうし、だ、だったら……始めから私が、あ、間に入って、監視しておけば、安心でしょう!」
「むう……」
まあ確かに、今のルイズと二人きりになるのは身の危険を感じる。
ここはエレオノールに防波堤になってもらうのがベターな方法だろう。
「むぅ~、邪魔しないでください、姉さま!」
「……私はあなたのためにやってるのよ、このちびルイズ!」
ぎゅううぅ~、とルイズの頬をつねり上げるエレオノール。
その後もルイズは盛大に不満をアピールしていたが、モンモランシーが作った睡眠導入用ポーションを大量に使用して強引に眠らせることで対処した。
なお、このポーションはあくまで『睡眠導入用』であり、バッチリ覚醒している人間に対して使っても『少し眠くなる』程度の効果しか望めない。
だが、今のルイズのように『既にある程度眠くなっている』人間に対して一定以上の量を使用すれば、ほとんど即効性の睡眠薬と変わらない効果が見込めるのである。
「では、眠るか」
「そ、そうね。……着替えてくるから、少し待っていてくれるかしら」
「分かった。その間に御主人様はベッドに寝かせておこう」
「……変なことしてたら、殺すわよ?」
「するつもりなど無いよ」
ユーゼスの言葉に納得したのか、エレオノールは素早く自分の部屋に戻っていく。
そしてルイズを部屋のベッドに横たえさせて、待つこと30分。
(……この部屋からミス・ヴァリエールが間借りしている部屋までは、往復しても10分もかからないはずなのだが……。いくら何でも遅すぎるな……)
彼女は一体、20分以上も何をしているのだろうか。
やることが無いのでルイズが何かしでかさないよう、予備のシーツでグルグル巻きにしてもまだエレオノールが来ず、いい加減にユーゼスが待ちくたびれた頃……。
薄いピンク色のネグリジェを着込み、枕を持参したエレオノールはやって来た。
「ま、ま、待たせたわね……」
「ああ、待たされたな」
エレオノールはギクシャクとぎこちない動作でルイズの隣に横になり、更にぎこちない口調でユーゼスを自分の隣に促す。
「さっさささ、さあ、とととっとっととっとっ……とっとと、横になりなさいっ」
「……緊張しすぎではないか?」
「んなっ、そんなっ、ききき緊張なんて、してるワケ、ないでしょうっ!!」
「……まあ、睡眠さえ取れれば私は別に構わないが……」
ガチガチのエレオノールを横目に、ユーゼスは割とスムーズにルイズのベッドに入る。
「そ、それじゃ……お、おお、お休みなさい」
「慌ただしい一日だったからな。……睡眠は十分に取れ、ミス・ヴァリエール」
かくして、この夜はルイズ:エレオノール:ユーゼスという並びで眠りについた。
……なお、あらためて『ユーゼスと同じベッドで一緒に寝ている』という現在のシチュエーションを意識しまくったエレオノールは、緊張やら興奮やらで、睡眠導入剤を使ってもほとんど効果がなく、この夜を眠れずに過ごすことになる。
ちなみに、密かにユーゼスも少しだけ寝つきが悪かったりしたのだが……。
……それが久し振りにベッドで睡眠を取ったからなのか、隣にエレオノールがいたからなのかは、定かではない。
#navi(ラスボスだった使い魔)
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: