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「ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-36」(2009/02/04 (水) 01:47:15) の最新版変更点
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#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
36.彩られた部屋(Colored room)
キュルケがグラスとおかわり用のワインを持って帰ってくると、
眠くなったルイズが部屋に来ていた。
壮観ねぇ。とでも言いたそうにルイズは青髪達を見る。
彼女達はまだ食べ続けていて、そろそろ袋の中身が無くなりそうだった。
あの大きい方が風韻竜だったとはね。
絶対言わないように口止めされたけれど、
言ったところで誰か信じたりするのかしら?
ありえないとルイズは確信を持って言えた。
「ああ、あんたもここな訳ね」
ルイズが振り向くと気怠げなキュルケがトレーを持っていた。
「ベッドが4つあるからそうなるでしょうね」
タルブワインと3つのグラスを持ったキュルケは、
一つをルイズに渡し、二つを貪る一人と一匹の近くに置く。
ルイズに注いでから、青いの二つにそそぐ。
「なんか、手慣れてるわね」
グラスに注がれたワインを見ながらルイズが聞いた。
「そりゃまぁ。お酌ぐらいよくしますから」
事も無げにキュルケは言った。
ああ、そう言えばそうねとルイズはワインを飲む。
飲み干すとふああ、と彼女の口からあくびがこぼれた。
「ほら、子供なのに夜更かしするから」
「何よ。子供なんかじゃないんだから」
キュルケはルイズに向かって笑った。
「そんな事を言っている間は子供なの。早く寝なさいな」
最近同じ事を言われた様な気がするが眠いのは事実だ。
子供じゃないもんとキュルケに言い返してから、
ルイズは眠ることにした。
タバサが去った部屋で、ルイズは自身の姉の事についてエルフに話していた。
彼女は公爵家のカトレアについて多少知っていた。
ヴァリエールの次女は病弱だという話は良く聞く。
それはトリステインの貴族なら誰もが知っている事であり、
それ故長女はアカデミーで病気の研究をしていて、
いつか妹を治そうとしているのだ。という美談となっている。
彼女は週に一回の下級貴族達とのお話で、そういった噂話をある程度小耳に挟んでいたりしている。
お礼代わりに。と快く了承した彼女に心から礼をして、
ルイズはキュルケ達のいる部屋へ行ったのだ。明日はどの魔法なら使えるか確かめないと。
と意気込んでもいる。少しくらい学校に戻るのが遅れてもいいじゃない。
薬をすぐにちいねえさまに届けたいし。
そういう訳で彼女はまだ学校に戻る気は無い。
ルイズの寝息が聞こえ始めるくらいに、
青い髪の乙女達は食事を終えた。
「一杯食べたのね。大いなる意志に感謝感謝」
笑顔で手を合わせて祈るシルフィードと、ワインを飲むタバサ。
色々と変わってるわねぇ。と思いながらキュルケは言った。
「ねぇ、その大いなる意志って何?」
キュルケが何となく聞いた問いに、シルフィードはそんな事も知らないの?
と言いたげな顔で答えた。
「とっても大きな猫なのね。月をお砂糖代わりに食べるくらい大きな猫なの」
「随分と変わってるわね。それがあなた達の神様なんでしょ?」
「きゅい!でもちょっと違うというか…司祭様の言葉は難しいのね」
崇めている神様がいるのだから、司祭とかもいるわよねそりゃ。
と、元々連中を神だと信じていないし、
心から信仰するのが本気で嫌な連中が作った神について、キュルケはそんな事を思った。
ベースは猫人のカジート達の昔話だ。最初から熱心に信仰する気0である。
尚、大いなる意志という言葉はここのエルフからもらってきた。
何があってもアカトシュの神格を作りたくなかったので丁度良かったと、
ある道具製作者にして今も生きている司祭は語っている。
「ふーん。で、その猫の名前は?まさか大いなる意志っていうのが名前じゃないでしょ?」
「恐れ多くて誰も知らないのね。でも、大いなる意志にはたくさんの家族がいるの。
影におはす方もその一人」
崇め奉ろうにも、名前が無ければ信仰の力は激減する。
流石にもう一度消し飛ばされたくはないので、
崇めているとポーズだけ取っているのだ。
信仰の感覚は、平賀才人がいる国の一般大衆くらいの熱心さである。
シルフィードはそこら辺の事情を全く知らない。
というのも、彼女は色々と変わった子だからだ。
普通は7つで機械人形の一つや二つ造れる様になるというのに、
生まれて200年以上経った今でも、まともに何も造れない。
不器用だからなのね。と大きな骨付き肉を食べながら親に弁解した。
その後、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。
では魔法の才能はどうか?残念ながら平均以下である。
サハラのエルフ達と引き分けろとは言わんが…なぁ。と、
親にため息混じりで言われ、珍しく凹んだ経験もあった。
散歩がてらに空を飛んだら忘れてしまう程度の凹みだった。
本来種族の一員として備わっているはずのテレパシー能力も使えない彼女は、
様々な意味で鬼子だった。しかしいじめられる事は無かった。
変わっている事は良いことだと考える種族であったのと、
空を飛ぶのがとても上手であったし、
彼女の気性がとても好まれていたからだ。
そもそも、韻竜になった彼の種族の気性は基本的に頑固で、
目的の為なら神すら敵とする連中である。
そんな気難しい者が多い中天真爛漫な彼女の気性は、
そこらの男達を釘付けにした。主に服を着ないというところで。
人の姿になる度に女友達に注意や警告を受けるが、
その度にキュルケに言った事を言いながら渋々服を着るのである。
楽天的であまり小難しい事を考えず、
クヨクヨしないで周りに明るく振る舞うところも、
彼女を良い友とする韻竜が多い理由だ。
そんな彼女の仕事は大型機械や荷物等を運ぶ運搬業だった。
ずっと龍のままで出来て、自分の利点を生かせるからその職業に就いた。
それなりに評判も良かったらしい。
何故龍達が人の姿になるかというと、
その方が操作する機械や機械人形等を楽に作れるからだ。
龍の姿に合わせた機械は、人の姿に合わせたそれより遙かにコストがかかる。
その為彼らの中でも元々「深き者」だった者達は、人の姿で暮らしている事が多い。
後から生まれた者達は、仕事の時だけ人の姿になって作業をするのだ。
そんな彼らは現在ロバ・ウル・カリイエにある深い森の中で暮らしている。
技術提供の名目で、人間と共に暮らしている風変わりなのもいる。
そして彼らも人間も、サハラの狂信気味なエルフ達を煙たがっている。
モロウウインドからこちらに飛ばされた者達にとっては忌まわしき者達を思い出させ、
元々住んでいた人間にとってはハルケギニアとの貿易の際、
エルフがとても大きな障害になっているからだ。
かといって戦争に発展するほどの問題でも無いので、
この二種族はエルフを奇妙な隣人として扱いつつ、
「あいつら変だ」と思いながら暮らしている。
「そんな物かしらね。怖いのかしら?」
「よくわかんない。でも、怒ったらとっても怖いって聞いたのね」
そりゃ神様ならそうよね。とキュルケは微笑む。
どんな色の猫かしら。そんな事を思いながら。
そんな時、タバサが目をごしごししながらベッドに入ると、
その隣にシルフィードが入った。
「添い寝してあげるのね。お姉様だっていつも一人は寂しいでしょ?」
タバサの頭を優しく撫でるシルフィードと、
メガネを近くに置いて眠るタバサ。
良い関係だわこの主従は。
そう思いながら、ふと自分の使い魔を思い出す。
フレイムは今何してるのかしら。
留守番しっかりしてるといいけどと呟きつつ、適当なベッドに入るキュルケだった。
最近、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは変な夢をよく見る。
自身が召喚した男が原因と言えるが、では、ここは一体なんなのか。
ルイズは自問自答したが、答えは返ってこなかった。
「なんか、目がチカチカするわね」
極彩色という言葉が、ここまで似合う色も珍しいだろう。
何らかの建物の中にいることは分かっているが、
どうも何というか、凄いのだ。
「色合いがどうこうって問題じゃないわよね。これって」
色合いという物を完全に無視した部屋の内装は、見ているだけで目が疲れる。
明るく彩られた部屋にいるルイズはとりあえず扉を探す。
それらしき物があったので開けた。
「…何よここ」
廊下は尚更に極色に彩られていた。見ているだけでさらに目が疲れてくる。
趣味の悪いゲルマニアの成金だって、こんな装飾や内装は施さないでしょうね。
ルイズは心でそう毒づいた。
自分はさっき眠りについたはずだ。
ルイズはタルブでワインを飲んでベッドに入った事を覚えている。
なら、何故こんなところにいるのだろうと自身の頬をつねる。
何故か痛かった。夢の中なら痛くないのが相場だというのに。
「…えーと」
なんでこんな変な色の場所にいるのかしら。。
様々な色がごちゃごちゃと混ざり合った世界で、
ルイズがそんな事を考えていると、後から肩を叩かれた。
振り向くと、優に2メイルはありそうな巨体の亜人がいた。
見たことの無い鎧で全身を固めていて、
腰に人なら両手で持つような斧を提げている。
鎧は金色で、見事な装飾が施されていた。
「人間かい?」
兜を被っているのでどんな顔かは分からないが、
驚かせないように優しげな声でルイズに聞いた。
声色からして男のようだ。
どう答えるべきだろうか。ルイズは少し考えてから、
嘘をついても仕方ないと思って首を縦に振った。
「珍しいな。メリディア様の領域はムンダスから離れているから、
滅多に人の魂が来ないんだ。おいで。元の場所に返そう」
手まねきする亜人を見る。おそらくデイドラねと彼女は思った。
「待って。私はそこの者じゃないわ」
「とすると――暁の美石の人かな?尚更変だな。
いくらここと近いと言っても、アカトシュが制約で特にこことの境界を、
明確に分けているはずなのに…。まぁ例外もあるか。
おいで、桃色髪のお嬢さん。元の世界に続く所まで案内しよう」
ルイズは何故そんな風にハルケギニアが呼ばれるのかと思ったが、それより気になる事があった。
「ただの桃色?私の髪は『桃色がかったブロンド』よ」
「そうかい?失礼。なら名前を聞いてもよろしいかな。
僕の事はそうだな…オーロランとでも呼んでくれ」
名前が発音出来るか不安なので、彼は自身が属する種族の名を言った。
「私はルイズよ。で、ここって何?」
メリディア様の領域だ。とオーロランが話す。そして彼女についても。
「定命の存在全ての活力をつかさどるお方だよ。
とても優しいお方だ。まぁ――少々人間嫌いではあるけれどね」
最近はマシになった。と歩きながら彼は話す。
「失礼とは思うけど、案外マトモなのね。デイドラって」
危険な存在だ。とマーティンから教えられていたし、
へんてこな自称王子達の話を聞く内に、
どうにもこいつらはアレな存在というイメージをルイズは持っていた。
「マトモなのもいれば、マトモじゃないのもいるさ。
人間だってそうだろう?エルフだってそうであるようにね」
なるほど、とルイズは頷く。多少見ただけで、
それら全てを決定づけるのは浅はかな事なわけね。
そこまで思ってふと、疑問が浮かんだ。
「ねぇ、あなた普通に喋ってるけど」
「うん?」
「何か、ノクターナルとかヴァーミルナとかはもっとこう…」
『ああ、これかい?王子達は好んでこの喋り方をする事が多いからね』
それそれ。とまるで頭の中に直接響いてくるような、
変わった声の出し方を聞いてからルイズは頷いた。
「営業用だよ。神様っていうのは特別じゃないといけないからね」
こうするとウケが良いんだ。とオーロランは言った。
「そういうものかしら…」
「分かりやすいってことさ。つまり衝撃を与えやすいんだ。
不死ってのも楽じゃないんだよ?死ねないから恨みとかそういうの、なかなか解決できないし。
仲介役をアズラ様やクラヴィカス卿なんかに頼むけれど、
あの方々は基本引っかき回してその後放置するのが好きだから…
とと、そんな事はどうでもいい。ところで、ちょっと問題があるんだけど」
兜を被っている為その表情は分からないが、苦労しているのだろう。
少しげんなりしているオーロランの話す「問題」をルイズは聞くことにした。
「何?」
「メリディア様はその髪の色が嫌いでね。
見つかると、君の命がよろしくない事になるかもしれない。
出来れば何も起こらずに帰ってもらいたいんだ。
あまりやっかい事は好きじゃないし、
あの世界でやっかい事を起こすとただじゃ済まないからね。
そういうわけで、髪の色を変えさせてもらってもいいかい?
もちろん、後でちゃんと元に戻すから」
そういえば、自分の髪色と似た色をこの毒の色合いの建物の中では見ていない。
好みかしら。とルイズは思いつつ、オーロランが完全な金髪にするまでそこに止まった。
「よし、と。じゃ、こっちだよ」
人なら両手で持つような戦斧を腰に下げ、オーロランは進む。
エレオノール女史の様な髪色になったルイズはその後をただ付いていく。
辺りの色合いで目がチカチカして、追いかけにくい事この上ない。
とりあえず、内装の趣味が最悪な事だけは間違いないわね。
ルイズがメリディアの評価を頭の中で下した時、どこからかハープの音がした。
「メリディア様が庭でハープを弾いてらっしゃるんだ。昔から音楽を愛されていてね」
普通の趣味だわ。なのに何でこんな変な建物に住んでいるのかしら。
ルイズはオーロランの後に着いていく。
しかしメリディアの歌声が聞こえた時、彼女は止まった。
美しくもどこか悲しみを含んだ声だ。
それは一度も聞いたことの無い声色だったが、
その歌はさっき聞いた歌だった。
「どうかしたのかい?」
神の左手ガンダールブ――
「こ、この歌…」
「ああ、なんでも故郷の歌だとおっしゃられていたよ。
暁の美石じゃこの歌が流行っているのかい?
あの方はシシス様によってそこから連れてこられたとか」
神の右手がヴィンダールブ――
「いいえ。ねぇ、デイドラって全部パドメイだかシシスだかと、
アヌイ=エルだかアヌだかが混じった時に創られたんじゃないの?」
神の頭脳がミョズニトニルン――
「必ずしもじゃないなぁ。下っ端デイドラは、その後王子達に創られた種族もいるし。
それにメリディア様はその辺りには関わっていないというか、オルビスの時に生まれたそうじゃないから」
そして最後にかの邪神……。記すことすらはばかれる……
「じゃあ、いつ頃から?」
「ムンダスの連中が第1紀と言ってる時代より少し前からだね。
もっとも僕達の少しと、君たちの少しは随分違うと思うけど」
全てを創りしロルカーン。世界の始まり虚無そのもの。
あらゆる邪悪の源で、我らと僕に倒される。
「!…どういうこと。ロルカーンは人の神って聞いたけど」
「へ?メリディア様は元エルフだよ。だから、
半分デイドラじゃないウマリルというお子様がいるんだ。
ウマリル様は、配下と一緒にシロディールで布教活動中でね。
タロスが持ちかけた儲け話だから、
あんまり気乗りはしていらっしゃらなかったなぁ。ご無事だといいんだけれど」
歌声が続くが、ルイズは確かめなければならなかった。
オーロランの制止の声を無視して、声の方へと走る。
色づいた部屋を駆け、奇妙な金色の扉を開くと庭らしき所へ出た。
歌声を放つ女性は、あの時見たエルフとはまるで違っていた。
どこか影が差す彼女がニコリと微笑むと、鳥のさえずりが聞こえる。
ルイズは、タルブで自分が寝ているベッドに戻っていた。
髪の色を元に戻されて。
#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
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36.彩られた部屋(Colored room)
キュルケがグラスとおかわり用のワインを持って帰ってくると、
眠くなったルイズが部屋に来ていた。
壮観ねぇ。とでも言いたそうにルイズは青髪達を見る。
彼女達はまだ食べ続けていて、そろそろ袋の中身が無くなりそうだった。
あの大きい方が風韻竜だったとはね。
絶対言わないように口止めされたけれど、
言ったところで誰か信じたりするのかしら?
ありえないとルイズは確信を持って言えた。
「ああ、あんたもここな訳ね」
ルイズが振り向くと気怠げなキュルケがトレーを持っていた。
「ベッドが4つあるからそうなるでしょうね」
タルブワインと3つのグラスを持ったキュルケは、
一つをルイズに渡し、二つを貪る一人と一匹の近くに置く。
ルイズに注いでから、青いの二つにそそぐ。
「なんか、手慣れてるわね」
グラスに注がれたワインを見ながらルイズが聞いた。
「そりゃまぁ。お酌ぐらいよくしますから」
事も無げにキュルケは言った。
ああ、そう言えばそうねとルイズはワインを飲む。
飲み干すとふああ、と彼女の口からあくびがこぼれた。
「ほら、子供なのに夜更かしするから」
「何よ。子供なんかじゃないんだから」
キュルケはルイズに向かって笑った。
「そんな事を言っている間は子供なの。早く寝なさいな」
最近同じ事を言われた様な気がするが眠いのは事実だ。
子供じゃないもんとキュルケに言い返してから、
ルイズは眠ることにした。
タバサが去った部屋で、ルイズは自身の姉の事についてエルフに話していた。
彼女は公爵家のカトレアについて多少知っていた。
ヴァリエールの次女は病弱だという話は良く聞く。
それはトリステインの貴族なら誰もが知っている事であり、
それ故長女はアカデミーで病気の研究をしていて、
いつか妹を治そうとしているのだ。という美談となっている。
彼女は週に一回の下級貴族達とのお話で、そういった噂話をある程度小耳に挟んでいたりしている。
お礼代わりに。と快く了承した彼女に心から礼をして、
ルイズはキュルケ達のいる部屋へ行ったのだ。明日はどの魔法なら使えるか確かめないと。
と意気込んでもいる。少しくらい学校に戻るのが遅れてもいいじゃない。
薬をすぐにちいねえさまに届けたいし。
そういう訳で彼女はまだ学校に戻る気は無い。
ルイズの寝息が聞こえ始めるくらいに、
青い髪の乙女達は食事を終えた。
「一杯食べたのね。大いなる意志に感謝感謝」
笑顔で手を合わせて祈るシルフィードと、ワインを飲むタバサ。
色々と変わってるわねぇ。と思いながらキュルケは言った。
「ねぇ、その大いなる意志って何?」
キュルケが何となく聞いた問いに、シルフィードはそんな事も知らないの?
と言いたげな顔で答えた。
「とっても大きな猫なのね。月をお砂糖代わりに食べるくらい大きな猫なの」
「随分と変わってるわね。それがあなた達の神様なんでしょ?」
「きゅい!でもちょっと違うというか…司祭様の言葉は難しいのね」
崇めている神様がいるのだから、司祭とかもいるわよねそりゃ。
と、元々連中を神だと信じていないし、
心から信仰するのが本気で嫌な連中が作った神について、キュルケはそんな事を思った。
ベースは猫人のカジート達の昔話だ。最初から熱心に信仰する気0である。
尚、大いなる意志という言葉はここのエルフからもらってきた。
何があってもアカトシュの神格を作りたくなかったので丁度良かったと、
ある道具製作者にして今も生きている司祭は語っている。
「ふーん。で、その猫の名前は?まさか大いなる意志っていうのが名前じゃないでしょ?」
「恐れ多くて誰も知らないのね。でも、大いなる意志にはたくさんの家族がいるの。
影におはす方もその一人」
崇め奉ろうにも、名前が無ければ信仰の力は激減する。
流石にもう一度消し飛ばされたくはないので、
崇めているとポーズだけ取っているのだ。
信仰の感覚は、平賀才人がいる国の一般大衆くらいの熱心さである。
シルフィードはそこら辺の事情を全く知らない。
というのも、彼女は色々と変わった子だからだ。
普通は7つで機械人形の一つや二つ造れる様になるというのに、
生まれて200年以上経った今でも、まともに何も造れない。
不器用だからなのね。と大きな骨付き肉を食べながら親に弁解した。
その後、こっぴどく叱られたのは言うまでもない。
では魔法の才能はどうか?残念ながら平均以下である。
サハラのエルフ達と引き分けろとは言わんが…なぁ。と、
親にため息混じりで言われ、珍しく凹んだ経験もあった。
散歩がてらに空を飛んだら忘れてしまう程度の凹みだった。
本来種族の一員として備わっているはずのテレパシー能力も使えない彼女は、
様々な意味で鬼子だった。しかしいじめられる事は無かった。
変わっている事は良いことだと考える種族であったのと、
空を飛ぶのがとても上手であったし、
彼女の気性がとても好まれていたからだ。
そもそも、韻竜になった彼の種族の気性は基本的に頑固で、
目的の為なら神すら敵とする連中である。
そんな気難しい者が多い中天真爛漫な彼女の気性は、
そこらの男達を釘付けにした。主に服を着ないというところで。
人の姿になる度に女友達に注意や警告を受けるが、
その度にキュルケに言った事を言いながら渋々服を着るのである。
楽天的であまり小難しい事を考えず、
クヨクヨしないで周りに明るく振る舞うところも、
彼女を良い友とする韻竜が多い理由だ。
そんな彼女の仕事は大型機械や荷物等を運ぶ運搬業だった。
ずっと龍のままで出来て、自分の利点を生かせるからその職業に就いた。
それなりに評判も良かったらしい。
何故龍達が人の姿になるかというと、
その方が操作する機械や機械人形等を楽に作れるからだ。
龍の姿に合わせた機械は、人の姿に合わせたそれより遙かにコストがかかる。
その為彼らの中でも元々「深き者」だった者達は、人の姿で暮らしている事が多い。
後から生まれた者達は、仕事の時だけ人の姿になって作業をするのだ。
そんな彼らは現在ロバ・ウル・カリイエにある深い森の中で暮らしている。
技術提供の名目で、人間と共に暮らしている風変わりなのもいる。
そして彼らも人間も、サハラの狂信気味なエルフ達を煙たがっている。
モロウウインドからこちらに飛ばされた者達にとっては忌まわしき者達を思い出させ、
元々住んでいた人間にとってはハルケギニアとの貿易の際、
エルフがとても大きな障害になっているからだ。
かといって戦争に発展するほどの問題でも無いので、
この二種族はエルフを奇妙な隣人として扱いつつ、
「あいつら変だ」と思いながら暮らしている。
「そんな物かしらね。怖いのかしら?」
「よくわかんない。でも、怒ったらとっても怖いって聞いたのね」
そりゃ神様ならそうよね。とキュルケは微笑む。
どんな色の猫かしら。そんな事を思いながら。
そんな時、タバサが目をごしごししながらベッドに入ると、
その隣にシルフィードが入った。
「添い寝してあげるのね。お姉様だっていつも一人は寂しいでしょ?」
タバサの頭を優しく撫でるシルフィードと、
メガネを近くに置いて眠るタバサ。
良い関係だわこの主従は。
そう思いながら、ふと自分の使い魔を思い出す。
フレイムは今何してるのかしら。
留守番しっかりしてるといいけどと呟きつつ、適当なベッドに入るキュルケだった。
最近、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは変な夢をよく見る。
自身が召喚した男が原因と言えるが、では、ここは一体なんなのか。
ルイズは自問自答したが、答えは返ってこなかった。
「なんか、目がチカチカするわね」
極彩色という言葉が、ここまで似合う色も珍しいだろう。
何らかの建物の中にいることは分かっているが、
どうも何というか、凄いのだ。
「色合いがどうこうって問題じゃないわよね。これって」
色合いという物を完全に無視した部屋の内装は、見ているだけで目が疲れる。
明るく彩られた部屋にいるルイズはとりあえず扉を探す。
それらしき物があったので開けた。
「…何よここ」
廊下は尚更に極色に彩られていた。見ているだけでさらに目が疲れてくる。
趣味の悪いゲルマニアの成金だって、こんな装飾や内装は施さないでしょうね。
ルイズは心でそう毒づいた。
自分はさっき眠りについたはずだ。
ルイズはタルブでワインを飲んでベッドに入った事を覚えている。
なら、何故こんなところにいるのだろうと自身の頬をつねる。
何故か痛かった。夢の中なら痛くないのが相場だというのに。
「…えーと」
なんでこんな変な色の場所にいるのかしら。。
様々な色がごちゃごちゃと混ざり合った世界で、
ルイズがそんな事を考えていると、後から肩を叩かれた。
振り向くと、優に2メイルはありそうな巨体の亜人がいた。
見たことの無い鎧で全身を固めていて、
腰に人なら両手で持つような斧を提げている。
鎧は金色で、見事な装飾が施されていた。
「人間かい?」
兜を被っているのでどんな顔かは分からないが、
驚かせないように優しげな声でルイズに聞いた。
声色からして男のようだ。
どう答えるべきだろうか。ルイズは少し考えてから、
嘘をついても仕方ないと思って首を縦に振った。
「珍しいな。メリディア様の領域はムンダスから離れているから、
滅多に人の魂が来ないんだ。おいで。元の場所に返そう」
手まねきする亜人を見る。おそらくデイドラねと彼女は思った。
「待って。私はそこの者じゃないわ」
「とすると――暁の美石の人かな?尚更変だな。
いくらここと近いと言っても、アカトシュが制約で特にこことの境界を、
明確に分けているはずなのに…。まぁ例外もあるか。
おいで、桃色髪のお嬢さん。元の世界に続く所まで案内しよう」
ルイズは何故そんな風にハルケギニアが呼ばれるのかと思ったが、それより気になる事があった。
「ただの桃色?私の髪は『桃色がかったブロンド』よ」
「そうかい?失礼。なら名前を聞いてもよろしいかな。
僕の事はそうだな…オーロランとでも呼んでくれ」
名前が発音出来るか不安なので、彼は自身が属する種族の名を言った。
「私はルイズよ。で、ここって何?」
メリディア様の領域だ。とオーロランが話す。そして彼女についても。
「定命の存在全ての活力をつかさどるお方だよ。
とても優しいお方だ。まぁ――少々人間嫌いではあるけれどね」
最近はマシになった。と歩きながら彼は話す。
「失礼とは思うけど、案外マトモなのね。デイドラって」
危険な存在だ。とマーティンから教えられていたし、
へんてこな自称王子達の話を聞く内に、
どうにもこいつらはアレな存在というイメージをルイズは持っていた。
「マトモなのもいれば、マトモじゃないのもいるさ。
人間だってそうだろう?エルフだってそうであるようにね」
なるほど、とルイズは頷く。多少見ただけで、
それら全てを決定づけるのは浅はかな事なわけね。
そこまで思ってふと、疑問が浮かんだ。
「ねぇ、あなた普通に喋ってるけど」
「うん?」
「何か、ノクターナルとかヴァーミルナとかはもっとこう…」
『ああ、これかい?王子達は好んでこの喋り方をする事が多いからね』
それそれ。とまるで頭の中に直接響いてくるような、
変わった声の出し方を聞いてからルイズは頷いた。
「営業用だよ。神様っていうのは特別じゃないといけないからね」
こうするとウケが良いんだ。とオーロランは言った。
「そういうものかしら…」
「分かりやすいってことさ。つまり衝撃を与えやすいんだ。
不死ってのも楽じゃないんだよ?死ねないから恨みとかそういうの、なかなか解決できないし。
仲介役をアズラ様やクラヴィカス卿なんかに頼むけれど、
あの方々は基本引っかき回してその後放置するのが好きだから…
とと、そんな事はどうでもいい。ところで、ちょっと問題があるんだけど」
兜を被っている為その表情は分からないが、苦労しているのだろう。
少しげんなりしているオーロランの話す「問題」をルイズは聞くことにした。
「何?」
「メリディア様はその髪の色が嫌いでね。
見つかると、君の命がよろしくない事になるかもしれない。
出来れば何も起こらずに帰ってもらいたいんだ。
あまりやっかい事は好きじゃないし、
あの世界でやっかい事を起こすとただじゃ済まないからね。
そういうわけで、髪の色を変えさせてもらってもいいかい?
もちろん、後でちゃんと元に戻すから」
そういえば、自分の髪色と似た色をこの毒の色合いの建物の中では見ていない。
好みかしら。とルイズは思いつつ、オーロランが完全な金髪にするまでそこに止まった。
「よし、と。じゃ、こっちだよ」
人なら両手で持つような戦斧を腰に下げ、オーロランは進む。
エレオノール女史の様な髪色になったルイズはその後をただ付いていく。
辺りの色合いで目がチカチカして、追いかけにくい事この上ない。
とりあえず、内装の趣味が最悪な事だけは間違いないわね。
ルイズがメリディアの評価を頭の中で下した時、どこからかハープの音がした。
「メリディア様が庭でハープを弾いてらっしゃるんだ。昔から音楽を愛されていてね」
普通の趣味だわ。なのに何でこんな変な建物に住んでいるのかしら。
ルイズはオーロランの後に着いていく。
しかしメリディアの歌声が聞こえた時、彼女は止まった。
美しくもどこか悲しみを含んだ声だ。
それは一度も聞いたことの無い声色だったが、
その歌はさっき聞いた歌だった。
「どうかしたのかい?」
神の左手ガンダールブ――
「こ、この歌…」
「ああ、なんでも故郷の歌だとおっしゃられていたよ。
暁の美石じゃこの歌が流行っているのかい?
あの方はシシス様によってそこから連れてこられたとか」
神の右手がヴィンダールブ――
「いいえ。ねぇ、デイドラって全部パドメイだかシシスだかと、
アヌイ=エルだかアヌだかが混じった時に創られたんじゃないの?」
神の頭脳がミョズニトニルン――
「必ずしもじゃないなぁ。下っ端デイドラは、その後王子達に創られた種族もいるし。
それにメリディア様はその辺りには関わっていないというか、オルビスの時に生まれたそうじゃないから」
そして最後にかの邪神……。記すことすらはばかれる……
「じゃあ、いつ頃から?」
「ムンダスの連中が第1紀と言ってる時代より少し前からだね。
もっとも僕達の少しと、君たちの少しは随分違うと思うけど」
全てを創りしロルカーン。世界の始まり虚無そのもの。
あらゆる邪悪の源で、我らと僕に倒される。
「!…どういうこと。ロルカーンは人の神って聞いたけど」
「へ?メリディア様は元エルフだよ。だから、
半分デイドラじゃないウマリルというお子様がいるんだ。
ウマリル様は、配下と一緒にシロディールで布教活動中でね。
タロスが持ちかけた儲け話だから、
あんまり気乗りはしていらっしゃらなかったなぁ。ご無事だといいんだけれど」
歌声が続くが、ルイズは確かめなければならなかった。
オーロランの制止の声を無視して、声の方へと走る。
色づいた部屋を駆け、奇妙な金色の扉を開くと庭らしき所へ出た。
歌声を放つ女性は、あの時見たエルフとはまるで違っていた。
どこか影が差す彼女がニコリと微笑むと、鳥のさえずりが聞こえる。
ルイズは、タルブで自分が寝ているベッドに戻っていた。
髪の色を元に戻されて。
#navi(ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア)
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