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#navi(約束は次元を超えて)
#setpagename(第5話)
嬉しかった。
今までずっと失敗だと思ってきたわたしの爆発を、推論とは言えフィアースが説明して、認めてくれた。
その話をタバサもあのキュルケも否定しないで聞いて、キュルケなんか今も考え込んでる。
それに、あの爆発をわたしの魔法だと思えばいい。あの爆発にはその力がある。そしてその力は誰かを守ることができる力だ、とも言った。
正直、そんなこと今まで一度も考えたことがなかった。それはまぁ、今までずっと失敗だと思ってたんだから仕方ないとは思うけど。
だけど、できることがあるなら。
わたしの魔法で、できることがあるのなら。
わたしは、立ち止まってなんかいられない。
何をどうすればいいのかなんて分からないけど、それでも。
「……駆け出さなきゃ、始まらない」
小さくつぶやく。
わたしの声にキュルケが顔を上げて、わたしを見た。
「あら、スッキリした顔してるじゃない」
「えぇ。わたしの魔法でできることがあるなら、うつむいてなんていられないわ」
わたしの返事が予想外だったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするキュルケ。
「でも、じゃあどうするの?」
「わからないわよ、そんなの。でも、『未知のものに前例はない。なら、道を作ればいい』。
わたしだって何をどうすればいいのかなんて、さっぱり分からないわ。でも、できることから始めれば、道なんてそのうち見えてくるわよ。そうでしょ?」
その言葉に、キュルケはフッと笑った。
「じゃ、せいぜい頑張りなさい」
キュルケはそう残してタバサたちの稽古の方を見に行った。
さて、キュルケに大見得を切ってみたのはいいけど、実際のところどうしようかしら。
とは言っても、もちろん四大魔法しか勉強してないというかそれ以外の魔法を使えるメイジなんていないから、他にどうやればいいのかなんて思いつくはずもないんだけど。
さてここで問題です。
問.何もわからない状態で今ある力を活かせるようにするには、どうすればいいでしょう。
答.持てる力をコントロールできるようになればいい。
冴えてるじゃない、わたし。
今までの爆発は、ただわけも分からず爆発を起こしていただけ。
どうすればどのくらいの爆発を起こせるのか。効果の出せる範囲はどれくらいなのか。それを把握しなきゃね。
それじゃあ、先ずは距離から調べて見ましょうか。
◇◆◇
稽古を始めてまだ数日だが、タバサの動きは確実によくなってきている。
恐らく、もともとそれなりに動ける体だったのと合わせて、目的をもって稽古をしていることが成長の要因だろう。
俺が振るう木の棒を、手にした杖で弾き、捌く。
今やっているのはウェポンブロックの基本概念、武器の衝撃を食らわないようにする訓練だ。
タバサは小柄だから、力で受け止めたり押し返したりするよりはこちらの方が扱いやすいだろう。
これができるようになるだけで、選択肢は格段に増える。近距離にもぐりこむことができれば、相手に打撃を与えやすいからだ。
もちろん相手にとっても近距離は打撃を与えやすい間合いである。特にメイジでないものはそうだろう。そういった手合いにもぐりこまれた際のリスクをつぶす訓練にもなる、というわけだ。
カン、カンと木を打ち付けあう音が響く。
その時。
ドォォォーン!
不意に、ルイズの魔法による爆発の音が響いた。
俺とタバサの手が止まる。
ルイズを振り返ってみると、吹っ切れたような、そして何か目的を見つけたような顔をしている。
ドォォォォーン!
今度は、先ほどよりもう少しこちら側で爆発が起こった。
俺たちが自分の方を見ていることに気づいたか、稽古の音が聞こえなくなったから気づいたのか、ルイズがこちらに目を向けた。
そして一つ頷くと、また杖を振り下ろす。
ドォォォォーン!
今度は、俺たちの後ろで爆発が起こった。
なるほど、これは距離を測っているのか。先ずは自分の能力の把握に努めることにしたらしい。
今持っている自分の力を確認しておくことは重要な事項であることに、ルイズはきちんと気づいているようだ。
「……続き」
タバサはあまり表情が変わらないので何を思っているのかはよく分からないが、続きを促してくる。
「あぁ」
返事をして、また木の棒を振るう。
その時。
「あっ!」
ルイズのあわてたような声が響き、その直後に。
ドォォォオオーン!
学院の本塔の壁に爆発が起こった。
「やっちゃった……」
どうやら目測を誤ったらしい。何かに気を取られでもしたか?
「どうかしたか?」
「何かが動いた気がしたのよ。それに気を取られちゃって……」
その時。
何かに気づいたのか、キュルケが突然振り返った。
「な、なにこれ!」
キュルケの声に、全員の視線がそちらを見る。
そこには、巨大な土のゴーレムがいた。しかも、ズシン、ズシンと音を立ててこちらに歩み寄ってくる。
「みんな、散るぞッ」
一声発してから、俺もそのゴーレムの進行方向から逃げる。タバサもキュルケも大丈夫のようだ。ルイズはもともと少し離れた位置だったため、大丈夫だったようだ。
というよりは、もともと賊はこちらのことなど眼中にないように見えるほど、学院へと一直線だった。
しかし。
「一体誰が」
ルイズと合流し、疑問を口にする。
「……もしかして、昼間に武器屋が言ってた盗賊じゃない?土くれって言うくらいだから土のメイジでしょうし」
王都を荒らすメイジの盗賊の話か。
「しかし、学院に何の用だ?」
「わたしが知るわけないじゃない。でも、あの場所は多分宝物庫の辺り……ってことはそこが狙いなんでしょうけど」
話をしている間にもその巨大なゴーレムは本塔に近づき、そしてその腕を振り上げて、先ほどルイズの魔法で爆発した辺りの壁にたたきつけた。
轟音と共に壁が割れる。すると、どこからか現れた人影が腕を伝ってその中へ入っていくのが見えた。
「学院の壁は固定化の魔法も強力なのがかかってるはずだから、あんなに簡単に壊れるはずないのに」
不思議そうに言うキュルケの言葉には、誰も答える言葉を持っていなかった。
そうこうしていると。
「あッ、出てきた!」
再び穴から、何かを持って黒いローブを纏った影が現れ、ゴーレムの肩に乗った。同時にゴーレムが動きだし、学院の外へと歩き出す。
「ちょッ、逃げるわよ! 追いかけなきゃ!」
ルイズがあわてて後を追おうとする。
だが。
「落ち着くんだルイズ! 今追いかけてもできることは少ない!」
「だって、賊を目撃したのにみすみす捕り逃すなんて!」
悔しそうな声で反論してくる。
気持ちは分からないでもないが、相手の実力が未知数な上に夜の闇に紛れられたら、守りきれる自身がない。
「逃げられた」
「もう行っちゃったわよ」
タバサとキュルケが、冷静に事態を見ていた。
見ると、ゴーレムはその姿を土の山へと変えていた。賊が魔法を解いたのだろうか。
ルイズは悔しそうな表情を崩さず、ゴーレムが消えた方向をにらみつけていた。
ひとまずはみんな無事だったようで、よかったが……
次の日。
学院は朝から蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
宝物庫が破られ、秘宝である『破壊の杖』と『破壊のメダル』が盗まれたらしい。
「あの壁は、やはり丁度宝物庫のところだったようだな」
「そうみたいね」
宝物庫には学院中の教師が集まり、壁に空いた大穴を見てあんぐりと口をあけていた。
そして壁には、犯行声明が刻まれている。
『破壊の杖ならびに破壊のメダル、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
あの武器屋で聞いた賊で間違いなかったようだ。
「あんなゴーレムを作れるとは、相当な腕だろうな」
「でしょうね。トライアングルか、もしかしたらスクウェアクラスかも……」
ルイズの反応からしても、相当な腕のようだな。昨日追わなかったのは正解だったか。
そのうち集まった教師たちが、やれ衛兵が悪いだの、やれ平民は当てにならないだの、サボっていた当直が悪いのと責任の擦り付け合いを始めた。
「情けないわね」
「見苦しい」
キュルケとタバサの感想とその騒ぎ立てる教師たちの様子に、ルイズがうつむいて唇をかみ締めている。
「騒ぐでないわ、見苦しい。結局、ここにいる全員が油断しておったということじゃ。責任なら誰かではなく、ここにいる全員で負わねばなるまいよ」
オスマン老の言葉に、騒いでいた教師たちが沈黙する。
「さて、犯行の現場を見ていたのは誰じゃ?」
すると、コルベールが前にでてルイズたちを指差して言った。
「この三人です」
ルイズ、キュルケ、タバサで三人か。普通は使い魔は人数に入れないのを、他の教師に気を使ったのだろう。
「ふむ……君たちか。詳しく説明してくれたまえ」
ルイズが進み出て、昨日の状況を話しだした。
「大きな土のゴーレムが突然現れて、壁を殴りつけて壊したんです。そして肩に乗っていた黒いローブのメイジが穴から入り込んで何かを持ち出し、ゴーレムと共に壁を越えて歩き去りました」
「それで?」
「そのあとゴーレムは崩れちゃって、土しかありませんでした。肩に乗っていた黒いメイジは、影も形も」
ルイズの説明に、オスマン老はひげを撫でる。
「ふむ、後を追おうにも手がかりは無しか……」
そして、ふと何かに気づいたように顔を上げて教師たちを見回してから、コルベールに問いかけた。
「時に、ミス・ロングビルはどうしたのかね?」
「それがその、朝から姿が見えませんで……」
と、丁度その時。ロングビルが宝物庫へと現れた。
「申し訳ありません、朝から急いで調査をしていましたもので」
「調査?」
「えぇ。朝から大騒ぎじゃありませんか。この通りフーケのサインを見つけたので、これが国中を騒がせている大怪盗の仕業と知って、すぐに調査をいたしました」
仕事が早いな。
「して、結果は?」
「はい。フーケの居所が掴めました」
その言葉に、周囲が一気にざわつく。コルベールも素っ頓狂な声を上げている。
その中で、オスマン老が冷静に訊いた。
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近所の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていく黒ずくめのローブの男を見たそうです。恐らくそこが、フーケの隠れ家ではないかと」
ロングビルの言葉に、ルイズが反応する。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」
「そこは近いのかね?」
ルイズの声を受けて、心持ち鋭い目つきでオスマン老が問う。
「はい。徒歩で半日、馬で四時間といったところでしょうか」
そのロングビルの言葉に、違和感を感じた。朝から調査をして、そんな時間のかかる場所に行って戻ってこれるだろうか?
素早く移動できる魔法でもあれば話は別なのだろうが、そこは俺には判断できない。あとでルイズたちに訊いてみるとするか。
「すぐに王室へ報告を……」
「ばかもの! 報告なんぞしてるうちにフーケは逃げてしまうわ! その上、身に降りかかる火の粉すら払えぬようでなにが貴族じゃ! 学院の問題は、我らで解決する!」
驚いた。オスマン老はこういう迫力も出せる人物だったのか。いつもの様子からは想像もできなかったが、最初の直感は間違っていなかったようだ。
ふとロングビルの方を窺うと、なぜか微笑を浮かべている。その表情に、先ほどの疑念がさらに強くなっていくのを感じた。
オスマン老が、咳払いと共に有志を募った。
「それでは、捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
しかし、顔を見合わせるだけで誰も杖を掲げない。
「おや、どうした。世間を騒がす盗賊を捕まえて、名を上げようという骨のあるものはおらんのか?」
オスマン老は発破をかけるが、それでも何も変わらなかった。
しかし、しばらくうつむいていたルイズがすっと杖を掲げた。それに続いて、キュルケとタバサも杖を掲げる。
「あなたたちは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
「誰も掲げないじゃないですか」
シュヴルーズだったか? 教師の驚いた声にも冷静に反論するルイズに、彼女は何も言えなくなる。
「ふむ。それでは頼むとしようか。彼女たちは賊を目撃しておるし、その上、ミス・タバサはシュバリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」
オスマン老の言葉に、またもざわめきが広がる。
「本当なの? タバサ」
驚くキュルケに、頷きを返すタバサ。
ふむ、騎士の称号を持っていたのか。動ける体をしているわけだ。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身も優秀な火のメイジであろう」
その言葉に、機嫌よく髪をかき上げるキュルケ。
「ミス・ヴァリエールも優秀な家系で将来有望なメイジであるし、その使い魔は先の決闘騒ぎでも実力を知るものも多かろう。この四人に勝てるという者がいるのなら、前に一歩出たまえ」
誰も動かない。その様子を見て、オスマン老がこちらに向き直る。
「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
その言葉に真剣な表情になった三人は、直立すると「杖にかけて!」と唱和した。そして、スカートの裾をつまみ、恭しく礼をする。
「では、馬車を用意しよう。それで現地へ向かい、魔法は目的地に着くまで温存するのがよかろう。ミス・ロングビル!」
「はい、オールド・オスマン」
「彼女たちを手伝ってやってくれ」
オスマン老の言葉に、ロングビルも頭を下げる。
「もとよりそのつもりですわ」
◇◆◇
善は急げということで、すぐに出発することになった。
わたしが大急ぎで準備を終えて馬車に向かうと、タバサとキュルケはもう来ていた。けどミス・ロングビルはまだ来ていないみたいね。
「お待たせ。あ、そうだフィアース。クラスチェンジしておかなくていいの?」
「ふむ」
フィアースはしばらく考え込んでからARMを取り出した。そして。
「アクセス」
そう言うと、例のクラスチェンジの光がフィアースを包み込んだ。
「これでいいだろう」
まぁ外見が変わらないから、わたしたちには何がなんだか分からないんだけどね。
「決闘の時の」
「あぁ、あの時の光ってそれだったのね」
そっか、二人は話を聞いただけで、実際にクラスチェンジするところは見てなかったんだっけ。
「あぁ」
そうこうしている間に、ミス・ロングビルも現れた。
「お待たせしました。それでは出発しましょうか」
いざ往かん。待ってなさいフーケ!
馬車に揺られること2時間。雑談を続けようにも流石に話題が途切れちゃった。
妙な沈黙が降りる。
……あれ、フィアースが御者台を気にしてる。どうしたのかしら。
「ミス・ロングビルがどうかしたの?」
わたしが訊くと、フィアースはわたし達に集まるようにジェスチャーをしてきた。
「何よ?」
「ロングビルは怪しいと思っている」
は!? いきなり何を言うのよこいつは!
「ミス・ロングビルはオールド・オスマンの秘書よ? 怪しく思うなんて変よ」
「今朝の話だ。ロングビルは朝起きて騒ぎを聞きつけ、馬で四時間かかる農民に聞き込みをしたと言った。だが、そうすると往復で八時間かかる。八時間前はまだ夜中だ」
あ、そう言われれば。
「長距離を素早く移動する魔法でもあれば可能かもしれないが、それは俺にはわからない。意見を聞きたい」
そんな魔法、聞いたことないわよ?
「タバサ、そんな魔法知ってる?」
「知らない」
「シルフィードみたいな使い魔でもいれば別なんでしょうけど」
ということは……
「ミス・ロングビルは、嘘を吐いている?」
「その可能性は高いと思っている。なぜかは分からないが」
フィアースの言葉に、三人して黙り込む。
「フーケと繋がってる?」
まさか、と笑い飛ばしたいタバサの言葉も、この状況だと勘繰りたくなちゃうわね。
「決め付けるのは早計だが、気に留めておいた方がいいだろう」
なるほどね。
「わかったわ」
「話が途切れてからヒソヒソ話ばかりしてるとちょっとアレだから、あたしが適当に話をしておくわ」
キュルケがそう言うと、御者台のミス・ロングビルに話しかけた。
何か、雲行きが怪しくなってきたわね……変なことにならなきゃ良いんだけど。
そうこうしているうちに、馬車は鬱蒼とした深い森に入っていく。
「昼間だってのに、薄気味悪いわね」
キュルケの言葉ももっともだ。わたしだって、普段ならこんなところに来たくないもの。
「ここから先は徒歩で向かいましょう。道も細いようですので」
見ると、ミス・ロングビルの言葉通りに、馬車で通るには少し細い道になっている。
「こんな薄気味悪いところを徒歩で通るなんて……これっきりにしたいわね」
思わず出たそんな感想にタバサが少し青い顔で頷くのが、いつもの彼女とのギャップのせいで妙に印象的だった。
そのまましばらく歩くと、急に開けたところに出た。
学院の中庭くらいの広さに、廃屋が一軒建っている。
「わたくしの聞いた情報ですと、アレが隠れ家らしいということです」
ボロボロで、誰もいそうに無いけど……でも隠れ家ってそんなものかしら?
と、タバサが座るようにジェスチャーしている。
「作戦会議」
そういうと、タバサが地面に絵を書き出した。
誰かが偵察に行って、フーケがいなければそのまま中を捜索。もしフーケがいたらおびき出して、出てきたところを全員で攻撃、ね。
「魔法は大丈夫なのか?」
「土のメイジなら、小屋の中では強力な魔法は使えない」
「家から出てすぐなら、大きなゴーレムを呼び出す時間を与えなければいい、ってところね」
タバサとキュルケの返答に、フィアースはふむと一つ返してから頷いた。
「で、誰が偵察に行くの?」
わたしの問いに、フィアースが答える。
「俺が行こう」
すると、タバサが反論した。
「素早い方がいい」
「あぁ。だから、こうするんだ……クイック」
光が集まり、円形に回転する。
「これで、素早く動ける」
このバカ! 事情を知ってるキュルケとタバサはいいとしても、ここにはミス・ロングビルがいるのに!
わたしの危惧も知らないままに、フィアースは物陰を利用してするすると小屋に近づいていった。
「……素速いわね」
キュルケも呆れている。
小屋にたどり着いて、しばらく様子を見ていたフィアースがわたしたちを呼んだ。フーケがどこかで見てるかもしれないから、静かに、でも素早く小屋に近づく。
「誰もいないようだ」
「罠も無いみたい」
タバサが杖を振ってから、ドアを開けた。
「それではわたくしは、周囲の偵察に行ってきますね」
「じゃ、あたしは見張りをしておくわ」
ミス・ロングビルとキュルケがそれぞれ言って、外に残った。
タバサ、わたし、フィアースの順で中に入る。
そして中を調べていると、チェストが置いてあった。
「破壊の杖」
「間違いないわね。わたしも見たことあるし」
中には以前宝物庫で見たことのある破壊の杖が入っていた。変な形よね、持ち手がこんなに細くて、先に羽みたいなトゲみたいな飾りのついたワンドなんて。
タバサが無造作に手にとって、わたしたちに見せる。
「……ッ!? なぜ、それがここにある!?」
「どうしたのフィアース。破壊の杖がどうかしたの?」
いつになく動揺しているフィアースに、思わず訊ねる。
「それは、破壊の杖ではない」
「どういうことよ?それは確かに、破壊の杖って名前で学院の宝物庫にあったものよ?」
わたしの反論に、フィアースが思わぬ事実を告げた。
「それの本当の名は、魔王の剣、アレイアドレキス……ッ!」
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