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#navi(ゴーストステップ・ゼロ)
【ところで相棒、荒事が起きそうな時になんでこのオレサマを連れて行かねぇんだ!】
「すまん忘れてた。」
【そりゃねえよ。オレサマ剣だぜ?相棒だろう?存在意義無くなっちまうよ。】
ヒューはデルフの愚痴を聞きつつ、会場から失敬してきたワインと肴を手にバルコニーで1人飲んでいた。
パーティに出るようにルイズからは命令されていたが、どうにも苦手だった為、途中で抜けてきたのだ。
どちらにしろ、ああいった空気は慣れていないし。無用心に酔う気にもなれない。
パーティ会場では学生達が笑い楽しみ踊っている。中にはタバサの様にひたすら食い気に走っている者もいるが、これは少数だろう。
そんな中、パーティ会場から1人の女性がヒューの所にやって来る。
ゴーストステップ・ゼロ シーン11 “舞踏会の夜”
シーンカード:カブト(庇護/父性。男性ゲストの協力。精神的な恩恵を被る。)
女性はマチルダだ、彼女は髪と同じ翡翠色のドレスに身を包んでおり。その姿は、彼女が貴族時代には社交界の華であった事を確信させるに足るものだった。
「あら、1人寂しくお酒ですか?ミスタ・スペンサー。」
「誰かと思えば、ミス・ロングビル。いやお美しい、さぞ引く手数多でしょう。」
「ええ、少し疲れてしまったので涼みに来た所です。ミスタ・スペンサーは踊らないのですか?」
「ははっ、もうそんな年ではありませんよ。それに貴族の若い方々と踊るなど、とてもとても。」
「謙遜ばかり、見ましたよ?貴族の令嬢方から申し込まれていたではありませんか。」
「残念ながらダンスはずぶの素人なのでね、ご令嬢方の足を踏んづけるのが落ちと逃げの一手ですよ。」
ヒューとロングビルは、バルコニーの手すりに背中を預けてパーティ会場を見ながら会話を続ける。
「まあ、冗談はこれ位にして。驚いたよ、あの爺さん給金のアップを申し出てきやがった。」
「良かったじゃないか。」
「腹の底で何考えてんだか…。」
「金で片がつく事ならそれで済ませときたいんじゃないか?使うべき時にケチって、後々火傷するのも馬鹿らしいしな。」
「なるほど、で。アンタとしては何を企んでるのさ、ただの同情心で見逃したって訳でもないだろう?」
「勘が良いね。」
「良くなきゃあとっくに縛り首さ。で、何をさせたいんだい。」
マチルダはおどけるように、首へ手を当て舌を出して見せた後、不意に真面目な顔を見せ、ヒューに聞く。
「戦争が近い。」
「?いきなり何を。」
「最近、マルトーの親父から聞いた話なんだが。微妙にアルビオン関連の品物の値段が上がっているらしい。」
「それがどうかしたのかい?そんなの商人共が値段を上げているっていう話じゃないか。」
「かもしれないな、けどまぁここに傭兵の動きが挟まれば一気にキナ臭くなってくる。」
「傭兵の動きって、アンタこの学院から殆ど出てないじゃないか。何でそんな事。」
【オレサマだよ、姐さん。】
「!」
突如聞こえてきた声に周囲を見回すマチルダ。その視界に、鍔近くの金具をカタカタ鳴らす一本の剣が入った。
「インテリジェンスソード?」
【おう、オレサマの名はデルフリンガー。伝説の使い魔の相棒たる伝説の剣ってヤツだ、気軽にデルフって呼んでくれ。】
「あ、ああ。で、アンタ何を知ってるのさ。」
【オレサマこの間まで武器屋にいたんだけどな、ちょいと前に盗賊くずれの傭兵どもが武器やら火薬やら買いに来たんだ。
で、武器屋の親父が聞くわけよ。一体何事だってね。
傭兵共はご機嫌な感じでこう返したのさ。そろそろ戦争が起きそうだから安い内に色々買っとくんだ~てな。
ああいった連中はこういう事に関しては恐ろしく鼻が利くからな。まず間違いなく戦争になるぜ。】
「で、アルビオンって訳かい。」
「ああ、そこでだ。何か掴んだら教えて欲しいんだ。
何しろこっちじゃあ情報収集の勝手が違うからな、君みたいな立場の人間に協力してもらえると助かる。」
「ああ、分かったよ。アタシの方でもそういった情報は最優先で確保しときたいしね。」
「済まないな、弱味につけこむ様で気が引けるんだが。」
「何、言ってるんだい。言ったろう?こっちにも利があるんだ。持ちつ持たれつさ。」
「ああ、そう言ってくれると助かる。…っとそういえば忘れてた、これを持っててくれ。」
ヒューはコートのポケットから出した道具をマチルダに渡す。
「これは?」
「俺の故郷の<K-TAI>っていう道具。俺の<ポケットロン>やルイズお嬢さんの<ウォッチャー>と連絡がとれる道具だよ。一応、ここから王都までなら問題無く連絡はとれるから持っていてくれ。
それからこの道具は水や衝撃に弱いからな、少し位なら問題はないけど気をつけてくれ。使い方は、この横にある螺子を回して連絡を取りたい相手の記号を出した後に螺子を押し込む。
ルイズお嬢さんは五角形、俺は天秤だ。とりあえず天秤に合わせて使ってみてくれ。」
「あ、ああ。
天秤に合わせて…強く押し込むのかい?」
「軽くで問題ない。」
「じ、じゃあ行くよ。」
マチルダがジョグダイアルを軽く押し込むと、ヒューの<ポケットロン>に着信が入る。
「これで繋がった状態になる。で相手が会話できる状態ならそのまま話が出来るし、無理ならこの後に出るメッセージに従って伝言を伝えてくれればいい。
用事が終わったらその螺子を素早く2回押すか、螺子で四角の記号に合わせて…そう。それで止めれる。
反対にこっちから連絡が入る場合、相手の記号が出て震えるようになっているから、その時は。」
「螺子を押すんだね?」
「そういう事、簡単だろう?あとそいつは一定時間光に当てていないと止まってしまうから暇を見て光を当ててくれ。
大体1日1時間も当てておけば問題はない。」
「へぇ、なかなか便利な道具じゃないか。」
「本当は<ウォッチャー>か<ポケットロン>を渡したかったんだけどな…。」
「どう違うんだい?」
「色々と違う。
とりあえず、他人には見せないように気を付けて使ってくれ。」
「分かってるさ。
おっと、お嬢様が睨んでいるじゃないか、アタシはこれで退散させてもらうよ。」
「飲みすぎるなよ?」
「誰に言ってるんだい。」
そう言い捨てるとマチルダはパーティ会場の中へと溶け込んで行った。
入れ替わるように、ルイズがヒューの所へ来る。
今日の、というか純白のパーティドレスに身を包んだルイズは、正に大貴族ヴァリエール家の娘だと思わせるような出で立ちだった。
「お楽しみだったみたいね。」
「お嬢さんもな、なかなか立派だったよ。しかし、いいのかい?結構お誘いがあったみたいだけど。」
「ふん、いいのよ。連中いつもは人の事馬鹿にしているくせに、こんな時だけは擦り寄って来るんだから。
ところでマチルダに何渡してたの?」
「連絡用の道具だよ、音と静止画像しか繋がらないけどね。」
「へぇ、どういう風の吹き回しかしら。情にほだされたってわけ?」
「否定はしない、けどまぁ比重としては情報を集めたいっていうのが大きいかな。」
「情報?」
「そう、情報。色々と妙な噂を聞いてるんでね、判断材料が欲しいのさ。」
「ふうん、情報ってそんなに大切な物?」
そのルイズの疑問にヒューは、ふと、真面目な顔になって返す。
「ああ、あるに越した事は無い。
いいかい?ルイズお嬢さん、情報ってヤツはある意味手足や知識と同じだ。あればそれだけ選べる選択肢が増える、反対に何も知らなかったら事態に流される事しか出来なくなる。
マチルダの件もそうだ、ろくに事情を把握せずに官憲に突き出していたらどうなる?遠からず孤児院にいる子供達は困った事になっただろうし、もしかしたら孤児院の子供達は死んでしまうかもしれない。
俺たちは幸運な事に、彼女の正体を前もって知る事ができたから選択ができた。けど、何も知らず、予想を立てる事も無く、あの廃屋に行っていたら?
彼女か俺達どちらかが死んでいたかもしれない。下手をすると、彼女が俺達を殺す事でトリステインとゲルマニア・ガリア連合の戦争になったかもしれない。」
「せ、戦争?そんな馬鹿な事あるわけないでしょう?」
ヒューの突飛な言葉にルイズは笑いながら応える。しかし、続くヒューの言葉に戦慄を覚えていった。
「いやいや、良く考えるんだ、ルイズお嬢さん。
<破壊の杖>の奪還に赴いた貴族は君とキュルケ、そしてタバサだけだ、大人は学院秘書のミス・ロングビルと使い魔の俺だけ、学院の教師は誰一人付いて来なかった。
さて、奪還に行ったのがトリステインの貴族の子弟だけなら何も問題は無かった。まぁ、学院長や教師連中の責任問題にはなるだろうけどね。
だけど、キュルケとタバサは違う。」
「あ…」
「分かったろう?彼女達の死はすなわちトリステインと他国の外交問題に発展する可能性があるんだ。
ガリアに関しては今の所、良く判らないんだが。
恐らくゲルマニアはそういった機会は逃さないだろうな。キュルケの実家、ツェルプストー家はルイズお嬢さんの家と領地を接しているんだ。そこそこ…いや、かなり力がある貴族とみて間違いないだろう。そこの令嬢が他国で死んだとなると…戦争は無いとしても、紛争は起こるだろう。」
ルイズは今回の事件がもたらす最悪の結果に恐怖した。
確かにそうだ、あの2人は他国からの留学生。こういった事に関わらせるべきではない人物である事は、少し考えれば分かる事だったのに、“土くれ”のフーケ捕縛という甘美な響きに惑わされて想像すらしていなかった。
「本当に最悪の状況っていうヤツだけどな。
ルイズお嬢さん、俺たちは人間だ、獣と違って優れた肉体は持っていない。だけどな、考え・想像するという力を持っている。だったらそれを使うべきだろう?
そして、想像し考える為には情報がいる。なるべく真相に近く、そして多くの情報がね。それさえあれば対策も選択肢もより多く用意できる、だろう?」
ヒューはそこまで言うと肩をすくめてルイズに笑いかける。
「そうね、本当にあの時はどうかしてたんでしょうね、今更ながら恥ずかしいし、情けないわ。」
「というわけで、彼女に何か掴んだら教えて貰えるように依頼したのさ。」
「ん、分かったわ。悪かったわねヒュー、妙な事で絡んじゃって。
…そういえば、ヒューっていつから彼女が怪しいって思ってたの?」
「いつから?…そうだな、不審を抱いたのはフーケの潜伏先を報告した時かな。
もっとも、あの時は農民に化けたフーケに騙されている可能性もあったから、首を捻る程度だった。」
「どうして?」
「報告をしたのは何時だった?」
「えーと、確か午前9時位かしら?」
「まあ、そんな所だろう。
じゃあ、そこから逆算してみようか。近在の村まで片道30分位として往復1時間、聞き込みが上手い事いったとして30分、報告した時間を引くと?」
「午前7時30分。」
「で、樵小屋までの距離ってどれ位だった?」
「ええと。確か学院から徒歩で半日、馬で4時間…馬?」
ルイズの言葉に頷きながら、ヒューは指を4本立てる。
「そう、馬で4時間。普通の農民は馬は持っていないだろう?持つなら牛だ。
仮にその農民が馬で見て来たとしたら、その農民は午前4時位にそこにいたという事だ。一体そいつは夜の森で何をしていたんだろうな?見ていたとしても、どれだけ遠出してるんだって話さ。」
「そうね…、決定的だったのは、やっぱり宝物庫?」
「だな、宝物庫で話した事は大体、外の足跡で分かっていたから、後は足跡の照合と犯行時の動きで確定したっていうのが正確な所だ。」
「動き?」
「暗闇の中、壁の穴から保管場所まで寄り道せずに行ってたんだ。なら犯人は宝物庫の中を熟知している人物…だろう?」
「?ああ!確かにそうよね。月明かりがあるとはいえ、ほとんど見えないもの。
そんな中で目標までまっすぐっていうのは、内部を知っている人の仕業っていう事だものね。」
ヒューの説明に納得して頷くルイズ。
「こういった事も想像力を働かせなければ難しいけどな。」
「むう…、ねえヒュー?想像力を鍛えるってどうしたらいいの?」
「…そうだな。例えば人間観察、あそこにいる人達を見てどういった人生を過ごしてきたか、どんな家庭だったか、どんな性格か、そういった事を想像するのさ。
軽い所を行ってみようか、ギーシュを見てどう思う?」
「え?うーんそうね。
お父上のグラモン元帥を尊敬していて…」
【舞踏会でダンスを踊らないお姫様なんざはじめて見たぜ…、つうかオレサマ出番あるのかなぁ…。】
デルフの愚痴と共に舞踏会の夜は更けていった。
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